2011.07.14

マードック帝国の落日

メディア研究に携わっている者にとっては、ルパート・マードックというのは、いささか悩ましい存在であった。なるほどビジネスという側面にスポットを当てれば、世界に君臨するメディア王として評価せざるをえないだろう。しかしまた、健全なジャーナリズムという視点に立てば、いろいろと物議を醸してきた存在であることは否定できない。

そして、先頃、ニュース・オブ・ザ・ワールドを廃刊に追い込んだ盗聴事件は、ビジネスを優先させすぎた結果と言わざるを得ない。これは、マードック帝国崩壊の序章となりうる事件だと思う。

サラ・エリソンによる『ウォール・ストリート・ジャーナル陥落の内幕』』(土方奈美訳、プレジデント社)は、2007年にマードックによって買収されたウォール・ストリート・ジャーナル紙に所属していた記者が、買収によってどのように紙面がかえられていったかを記録している。

ながらくウォール・ストリート・ジャーナル紙は、その親会社ダウ・ジョーンズの創業者一族であるバンクロフト家の支配から独立することで、紙面のクオリティを維持してきた。

しかし、部数拡大を最優先とするマードックは、紙面にも介入するようになり、ウォール・ストリート・ジャーナルらしい長い分析記事は減り、簡潔さが求められるニュース記事と派手なカラー写真で紙面は埋めつくされていった――。

《マードックが買収して以来、ジャーナルはピュリツァー賞を一つも獲得していないことになる。それ以前の一〇年は、わずか二年を除いて毎年少なくとも一部門では受賞してきた。》(p.385)

マードックの人となりについては、ジェフリー・アーチャーの「ファクト八十パーセント、フィクション二十パーセント」の小説『メディア買収の野望』(永井淳訳、新潮文庫)が詳しい。


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