1995.01.10

▽『人間交差点』



『人間交差点』(原作:矢島正雄、作画:弘兼憲史、小学館文庫)



 最近、書店などで、漫画の文庫版が目に付くようになってきた。手塚治の全集あたりが、先鞭を付けたのだろうが、出版社にとっても、持てる資産の有効活用という面があるのだろう。バブルの頃には、漫画の豪華版の出版が話題となったこともあった。時代の移り変わりが感じられて興味深い。

 さて、その漫画文庫に、知る人ぞ知る名作が加わった。『人間交差点』が、それだ。80年から89年にかけて、青年向けのコミック誌に連載された、一回読み切り形式の人間ドラマである。ストーリーは脚本家の矢島正雄が担当し、漫画を『課長 島耕作』であてる前の弘兼憲史が担当している。

 オムニバス形式の、それぞれの話に登場する人物たちは、いずれも人間の「業」に翻弄されながら生きている。

 コメディアンのラサール石井が巻末で述べている。「人間の暗部を描きながらもその奥に微かに光る温かい心を巧みに描いており、読み終わった後には必ず爽やかな感動がある」と。

 「暗い、重い、クサイ」の三拍子そろったような漫画だが、何とも言えない魅力がある。ハッピーエンドにならず、悲劇的な結末を迎えることの多い初期の話の方が、作者の「罪深き人間達」への優しい眼差しを感じることができるだろう。

 ここらあたり、殺されて海に捨てられた人間の過去を、これでもかと暴きたてる昨今のマスコミ関係者に、是非とも学んで欲しい点である。



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