1995.04.10

▽『岸辺のアルバム』



山田太一『岸辺のアルバム』(東京新聞出版局)



 妻の不倫、子供の家出など、「家庭の崩壊」をテーマとした山田太一の代表作。77年にはテレビドラマとなり、日本のドラマ史において、決定的な転換点をもたらした。74年に東京都狛江市で起きた、多摩川水害を題材にしており、洪水によって家が流されるシーンでは、実際のニュース映像が使われている。

 高度経済成長を経て家を持つことが、重要な人生の目的となった。そのサラリーマンにとって、家を失うことは、自分の人生を失うことに等しく、また、家を失うことが家庭の崩壊と重ね合わせて描かれている。

 しかし、洪水によって家が流される寸前に、家庭の記録であるアルバムを、家族が力を合わせて取りにいく。このことをきっかけに、家は失われたものの、家庭を取り戻すことができた、というのがドラマの結末である。

 現実の多摩川水害では、家が流された後には、「二重ローン」といった苦難が待ち受けていた。この問題は、阪神大震災の被災者が、これから直面するであろう問題とよく似ている。

 住民が国を相手取って起こした「多摩川水害訴訟」は、一審勝訴、二審敗訴、最高裁による差し戻し、差し戻し控訴審の勝訴という曲折を経て、92年12月に、国の賠償責任が確定するまでに、実に一八年の歳月が流れている。この間原告の中には、亡くなった人もいる。

 阪神大震災の被災者には、アルバムどころか、家族さえ失った人もいる。“救い”のドラマは、一体どのように描かれることになるのだろうか。



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