1996.02.22

▽『新宿鮫 炎蛹』――過剰なフィクションに支えられた理想の人物像



大沢在昌『新宿鮫? 炎蛹』(カッパ・ノベルス)



 早いもので『新宿鮫』シリーズも第四弾。

 本書の人気は、主人公である新宿署の刑事・鮫島のキャラクターに負うところが大きい。正義感に燃えるタフな刑事、という設定はハードボイルドの定番でもある。

 こうしたキャラクター設定は、脇役にも踏襲されている。連続放火犯を追う消防署員、防疫検査をすり抜けて日本に持ち込まれた「炎蛹」を追い掛ける防疫検査官。彼らはみな、職業意識に燃える公務員である。

 しかし、こうした理想的な人物像をストレートに描いても、単なるエエカッコシイの物語で終わってしまう危険性はある。作者は、物語に過剰なフィクションを設定することで、この点を回避することに成功している。

 本書のサブタイトルにつけられている「炎蛹」も作者の創作によるものだ。南米から持ち込まれた、この蛾の蛹が羽化して繁殖を繰り返せば、日本の水田は壊滅的な打撃を受けることになる。カタストロフを前にすれば、どんな臭いセリフも肯定せざるをえない……。

 などと考えていたら、「炎蛹」の設定に似たニュースが飛び込んできた。日本にいないはずのセアカダケグモ。すでに何度も繁殖を繰り返しており、毒グモの大量発生となりかねない。

 ならば、いっそのこと鮫島刑事も飛び出して、悪い奴らをみんな逮捕してくれればさぞかし胸がすっとするだろうに。



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