1996.05.22

▽『ぽくのドイツ文学講義』――ドイツ文学の軽やかな入門書

池内紀『ぽくのドイツ文学講義』(岩波新書)



 池内紀・東京大学文学部教授が、自らの「ドイツ文学講義」を一冊の本にまとめたもの。一〇の講義に分けられた各章は、取り上げる作品の解説から時代背景まで、丁寧に説明しており、ドイツ文学にあまりなじみのない人でも楽しめるようになっている。ドイツ文学講義というよりも、近代ドイツの世情を解説したようなものとなっている。

 第二講は、最近ちくま文庫から森鴎外訳が出版された、ゲーテの『ファウスト』を取り上げている。ファウストは、悪魔メフィストフェレスと、ある賭けをした。ファウストが、「時よ、とどまれ、おまえはかくもすばらしい」と叫んだら、つまり、ある瞬間に「至福」を感じたら、そのときは命をとられても構わない、という賭けだ。

 『ファウスト』 の第一部は、メフィストの力で若返ったファウストが、町娘に恋をする。しかし、「時よとまれ」とは叫ばない。では、第二部はどうか。

 多くの解説書が、第二部テーマを「魂の救済」としているが、著者はこの見方を退ける。著者の解釈はこうだ。第二部は、実は錬金術師ファウストを描いたものだ。そして、広大な沼地を前にファウストは、「時よとまれ」と叫んでしまう。

「愛の人が、広大な土地を前にして野心をたぎらせるエコノミストとして生涯を終えた。つまり、そのようにして、メフィストは賭けにかった」。


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