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2008年12月

2008.12.30

▽言語学者が見た外国人力士の生活

宮崎里司『外国人力士はなぜ日本語がうまいのか』(明治書院)


タイトルから伺えるように、日本語のうまい外国人力士に、どのような環境で日本語を学んだのかについてインタビューしたもの。学術的な研究の一環として行われたものですが、本書は一般の人でもわかるように読みやすく記述されています。

《彼らの日本語習得が、なぜそれほど早いのか。効果的な学習方法の秘密を探るため、調査を続けていくうち、彼らが、理想的な言語習得の環境に置かれ ていたことが分かった。二十四時間体制で、つきっきり面倒を見てくれる、おかみさん、親方、兄弟子、床山の面々。外に出れば、人情味あふれる近所の人たち や、タニマチとのつきあい。そうしたネットワークの中で、日本語漬けになりながら、知らないうちにどんどん上達していく。……まさに、語学学習のお手本と もいえるようなものだった。》(p.216)

まあ、結論は予想された通りのもので、日本人の外国語学習者で、そんな環境を得られる人はあまりいないかも、とは思います。けれども、本書は、力士の暮らしぶりも伺える、なかなか面白い読み物となっています。

[目次]
第1章 モンゴル力士、大学の教壇に立つ―旭天鵬の日本語力
第2章 辞書などなくても―教室の外に上達の王道がある
第3章 「おかみさん」は最良の日本語教師―ことばを育む「母親」たち
第4章 外国人力士の「日本語応援団」―兄弟子、床山、教習所
第5章 下町人情と外国人力士―地域との交わりは最高のけいこ場
第6章 教室以外の学習チャンスを生かそう―最新の言語学習理論にかなった学び方
第7章 外国語学習に悩むあなたへ―目からウロコのヒント集
第8章 外国人力士と相撲界

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▽よくあるガラパゴス批判とは一線を画す

宮崎智彦『ガラパゴス化する日本の製造業』(東洋経済新報社)

日本の製造業は、国内市場重視・垂直統合型で、これを「ガラパゴス化」と呼ばれることがあります。このガラパゴス志向に対比される例としてあげられるのが、グローバル市場でシェアの高い韓国のサムスンです。しかし、著者は、グローバル志向のサムスンですら垂直統合型の古い産業構造であり、すでにピークは過ぎている。むしろ、これからはグローバル志向・水平分業の台湾型が主流になるだろうという主張をしています。この点で、日本=国内志向vs韓国=グローバル志向のよくあるガラパゴス批判とは一線を画しているといえます。

ただ、本書の刊行は2008年9月で、リーマン・ショック以降の急速な世界市場の収縮は織り込まれておらず、日本にしろ、韓国にしろ、台湾にしろ、外需頼みの国や地域は、今後数年は、にっちもさっちもいかなくなるだろうとは思います、その時、事業の再構築が容易なのは、やはり水平分業の台湾企業ということになるのでしょうか?

[目次]
第1章 ガラパゴス化する日本
     ――なぜ世界のスタンダードから取り残されたのか
1・1 エレクトロニクス業界で起こっている大きな変化
1・2 日本が特殊なハイエンド市場になる危機
1・3 BRICs市場の伸びで日本は世界の30分の1の市場へ
1・4 日本とは根本的に異なるビジネスモデルの出現
1・5 何かがおかしい――日本はガラパゴス諸島か?
1・6 現実を直視する時期が来た日本

第2章 日本に迫りくるアジア企業
     ――韓国・台湾・中国大陸企業とのマクロ比較
2・1 日本、韓国、台湾、中国のエレクトロニクス企業の特性比較
2・2 売上高、営業利益、営業利益率、時価総額の上位企業

第3章 台湾系企業によるコスト破壊
     ――世界を席捲する水平分業モデル
3・1 台湾系エレクトロニクス企業の特徴
3・2 台湾がハイテク関連でキャッチアップできた理由
3・3 二つの異なるタイプに分類できる台湾のエレクトロニクス企業
3・4 EMS・ODM企業の脅威とホンハイ(鴻海精密工業)
3・5 半導体ファウンドリ――TSMCの脅威
3・6 液晶パネル専業企業の2000年以降の飛躍的成長とAUO
3・7 繁栄を極める台湾の将来と中国大陸企業躍進のリスク

第4章 韓国サムスン電子は絶頂期を既に過ぎたのか
4・1 高収益を誇る半導体メモリ、液晶パネル、携帯電話
4・2 垂直統合で成功しているサムスン電子
4・3 サムスン電子に対抗する日本企業の構図
4・4 サムスン電子と日本企業との垂直統合モデルの相違点
4・5 サムスン電子の死角

第5章 製造業の世界的潮流
     ――標準化、デジタル化、グローバル化の影響
5・1 標準化をうまく利用した企業が優位に立つ
5・2 デジタル化で技術のコピーが容易に
5・3 経営のグローバル化の影響(能力主義と平等主義)

第6章 水平分業化と専業化の現実
     ――液晶テレビや太陽電池を取りまく環境
6・1 液晶テレビでみた場合の水平分業
6・2 ロジック半導体でみた場合の水平分業
6・3 靴屋が明日から太陽電池メーカーへ

第7章 世界で勝ち抜くためのビジネスモデル
     ――10年後の覇者の条件とは
7・1 世界で勝ち抜ける、競争が優位に展開できる条件
7・2 専業化の必要性と日本の優良電子部品企業の比較考察
7・3 解決しなければならない課題

第8章 日本製造業の雄・自動車産業の死角
     ――迫りくる低価格化・水平分業化の波
8・1 自動車向けに経営資源を集中しはじめた日本のエレクトロニクス業界
8・2 自動車でも低価格化、コモディティー化、標準化、水平分業化は進むのか?
8・3 エレクトロニクス産業と同様、二極化が進み、価格破壊が起こるシナリオ
8・4 自動車産業の水平分業化と電装化、電気自動車

エピローグ 敵を知り、現実を知ることが第一歩

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2008.12.28

▽ゴーンが語る箸の使い方

カルロス・ゴーン『ルネッサンス』(中川治子訳、ダイヤモンド社)


カリスマ経営者として知られるカルロス・ゴーンの人生や経営に対する考え方を表した本で、日産のリストラと経営立て直しにめどをつけた2001年 10月に発行されている。本書では、ゴーンの生い立ちからパリでの学生時代の思い出、そしてブラジル・ミシュラン、北米ミシュラン、フランス・ルノー、日 産と、実際に経営者として何をしたかについて、ゴーン自身の言葉で語られている。

「コスト・カッター」との異名をとったゴーンですが、ブラジル・ミシュラン、北米ミシュラン、フランス・ルノー、日産とみてくると実は、フランスで は工場の閉鎖をしていないことに気がつきました。ルノー時代も一つ工場を閉鎖していますが、それはベルギーにある工場であって、フランス国内では工場を閉 鎖していないという事実。

もう一つ興味深かったことは、1999年に日産リバイバル・プラン策定している際に、リストラの計画が新聞などの報道機関にリークされることが多 く、これを押さえ込むために社内に厳しい箝口令を引いたこと。これ以降は、リークは無くなったそうです。リークする側は、情報を事前に漏らして、その話を 潰そうとしていたわけですから、いかに当時の日産で、ゴーンのリストラが畏れられていたかがわかります。

最後に、箸のくだり。日産社内のカフェテリアでゴーンは食事をしていたのですが、

《日本にいるのだから日本食は箸で食べようと決め、私は箸と格闘していた。箸を使った私の食べ方はお世辞にも上手とは言えなかった。私は箸の下のほうを持ち、何とかしてご飯やおかずを挟もうとしていた。》(p.251)

 たまたま、その場に居合わせた辻義文顧問が、箸の使い方を教えてくれたそうです。

《そのときは、顧問ともあろう人がわざわざ正しい箸の持ち方を指導するなどというのも、どこか奇妙な感じがした。》(p.252)

《このあと、私のオフィスに彼の秘書が包みを届けにきた。開けてみると、箸の正しい使い方を説明する図が入っていた。最初、私は信じられない思いで 図を見つめていた。私たちはまさに厄介事のまっただなかで、会社再建の足がかりを得ようと苦悩していたからである。副社長たちはひっきりなしに難航を伝え るニュースを携えてオフィスの扉を叩き、リストラ・コストがかさむにつれて日産はさらなる負債の深みにはまり、改革は必ずしも思い通り迅速には進まず、黒 字への見通しは暗かった。にもかかわらず、机の上には箸の正しい持ち方を示す図入りの説明書が載っていたのだ。
 しかし、考えてみれば、本人は気 づいていなかったと思うが、彼は人生の教訓を与えてくれたのかもしれない。すなわち、日々どのような問題に直面し奮闘していようと、日常生活のディテール をおろそかにしてはならないという教訓だ。私を取り巻く日本人社会の中で人々に良い印象を与え、日本ではできる限り日本人と変わりなく振る舞いたいと願っ ていることをさりげなく示したいと思うなら、箸を正しく持つことは大切なことだったのだ。》(p.252)

 一見、いい話のようにまとめていますが、箸の使い方を教えてくれた辻義文顧問に対しては、辛辣な感情があるようにも感じられます。この人は、日産 の社長時代に、日産の抱えていた問題の核心に気づきながらも何もしなかった経営者であることが、159ページでも触れられています。

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2008.12.27

▽電波男が語るケータイ小説

本田透『なぜケータイ小説は売れるのか』(ソフトバンク新書)


『電波男』などで知られる小説家・評論家の本田透が、ケータイ小説を考察します。典型的なケータイ小説の設定やストーリー、ビジネスとしての側面、文壇や論壇での評価などが中心になっており、ケータイ小説とは何かを知るのにはわかりやすく読むことができます。

また、本書で指摘される二つの対比が興味深いですね。

一つは、パソコンとケータイというデバイスの対比。パソコンは突っ込みのメディアであり自意識の世界であるのに対して、ケータイは突っ込み不在のためにパソコンよりも小説というコンテンツが生成・受容されやすいのではないか、という指摘。

もう一つは、ケータイ小説とライトノベルの対比で、ケータイ小説の読者である女子高生たちは恋愛信仰にどっぷりと浸っているのに対して、ライトノベルの読者である男子高生は反対に、自意識が発達しており、恋愛というゴールが存在しないライトノベルの方を好むという。

《恋愛信仰にどっぷり浸かったクラスメイトの少女がケ一夕イを使って『恋空』や『赤い糸』を読んでいる。その横で、自意識に目覚めてしまった少年は 『涼宮ハルヒの憂整(角川スニーカー文庫)などのライトノベルを読みながら、現実には存在しない学園、セックスやレイプや妊娠やドラッグに侵されていない 学園を脳内に幻視する。
 同じ教室にいる生徒が『赤い糸』と『涼宮ハルヒの憂鬱』とに分離している。そして、お互いをおそらくは敵視し、あるいは無視し、関わり合いにならないように自らのパーソナル・エリアを守りながら生き続ける。》(p.234)

[目次]
序章 ケータイ小説七つの大罪
第1章 ケータイ小説のあらまし
第2章 ケータイ小説市場の最前線
第3章 ケータイ小説の内容
第4章 ケータイ小説を巡る言説
第5章 なぜケータイ小説は売れるのか

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2008.12.26

▽元自衛隊員が語る金大中誘拐事件の真相

松本重夫『自衛隊「影の部隊」情報戦』(アスペクト)

著者は自衛隊の調査隊と呼ばれる「影の部隊」=諜報組織の設立に関わった。退官後は民間の調査機関を設立したが、むしろ1973年に起きた金大中拉致事件に関わったのではないかと、その名前が取り沙汰された人物として有名である。同氏をモデルとした人物は、金大中事件を描いた映画『KT』や、その原作本である『拉致』にも登場している。本書では、当事者の側から、そして、元諜報機関員としての立場から、金大中事件の真相を語っている。

阪本順治監督作品『KT』


中薗英助『拉致』(新潮文庫)


松本重夫『自衛隊「影の部隊」情報戦』
[目次]
第1章 敗戦からの決意
第2章 国会議事堂の情報員
第3章 GHQの国会工作
第4章 調査隊の誕生
第5章 調査学校長・藤原岩市との軋轢
第6章 金大中事件
第7章 ソウル・オリンピックとKGB
第8章 朴泰俊を守れ
第9章 情報秘録

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