2008.12.28

▽ゴーンが語る箸の使い方

カルロス・ゴーン『ルネッサンス』(中川治子訳、ダイヤモンド社)


カリスマ経営者として知られるカルロス・ゴーンの人生や経営に対する考え方を表した本で、日産のリストラと経営立て直しにめどをつけた2001年 10月に発行されている。本書では、ゴーンの生い立ちからパリでの学生時代の思い出、そしてブラジル・ミシュラン、北米ミシュラン、フランス・ルノー、日 産と、実際に経営者として何をしたかについて、ゴーン自身の言葉で語られている。

「コスト・カッター」との異名をとったゴーンですが、ブラジル・ミシュラン、北米ミシュラン、フランス・ルノー、日産とみてくると実は、フランスで は工場の閉鎖をしていないことに気がつきました。ルノー時代も一つ工場を閉鎖していますが、それはベルギーにある工場であって、フランス国内では工場を閉 鎖していないという事実。

もう一つ興味深かったことは、1999年に日産リバイバル・プラン策定している際に、リストラの計画が新聞などの報道機関にリークされることが多 く、これを押さえ込むために社内に厳しい箝口令を引いたこと。これ以降は、リークは無くなったそうです。リークする側は、情報を事前に漏らして、その話を 潰そうとしていたわけですから、いかに当時の日産で、ゴーンのリストラが畏れられていたかがわかります。

最後に、箸のくだり。日産社内のカフェテリアでゴーンは食事をしていたのですが、

《日本にいるのだから日本食は箸で食べようと決め、私は箸と格闘していた。箸を使った私の食べ方はお世辞にも上手とは言えなかった。私は箸の下のほうを持ち、何とかしてご飯やおかずを挟もうとしていた。》(p.251)

 たまたま、その場に居合わせた辻義文顧問が、箸の使い方を教えてくれたそうです。

《そのときは、顧問ともあろう人がわざわざ正しい箸の持ち方を指導するなどというのも、どこか奇妙な感じがした。》(p.252)

《このあと、私のオフィスに彼の秘書が包みを届けにきた。開けてみると、箸の正しい使い方を説明する図が入っていた。最初、私は信じられない思いで 図を見つめていた。私たちはまさに厄介事のまっただなかで、会社再建の足がかりを得ようと苦悩していたからである。副社長たちはひっきりなしに難航を伝え るニュースを携えてオフィスの扉を叩き、リストラ・コストがかさむにつれて日産はさらなる負債の深みにはまり、改革は必ずしも思い通り迅速には進まず、黒 字への見通しは暗かった。にもかかわらず、机の上には箸の正しい持ち方を示す図入りの説明書が載っていたのだ。
 しかし、考えてみれば、本人は気 づいていなかったと思うが、彼は人生の教訓を与えてくれたのかもしれない。すなわち、日々どのような問題に直面し奮闘していようと、日常生活のディテール をおろそかにしてはならないという教訓だ。私を取り巻く日本人社会の中で人々に良い印象を与え、日本ではできる限り日本人と変わりなく振る舞いたいと願っ ていることをさりげなく示したいと思うなら、箸を正しく持つことは大切なことだったのだ。》(p.252)

 一見、いい話のようにまとめていますが、箸の使い方を教えてくれた辻義文顧問に対しては、辛辣な感情があるようにも感じられます。この人は、日産 の社長時代に、日産の抱えていた問題の核心に気づきながらも何もしなかった経営者であることが、159ページでも触れられています。


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