2009.01.18

▽元外交官による人間観察の集大成

佐藤優『交渉術』(文藝春秋)


まず断っておいた方が良いと思われることは、本書のタイトルは『交渉術』とはいうものの、実際のところ本書で「交渉術」を学べるかというと、あまり役には立たないと思います。そういう意味では実用性は低いと言えます。

さらに内容についても、同じ著者のベストセラーとなった『国家の罠』や『自壊する帝国』において既出のエピソードが多いうえに、これらの著作と比べ ると、外務省をゆさぶった鈴木宗男疑惑の「国策捜査」、あるいは日露交渉の舞台裏などのスリリングな内幕ものとしての魅力も乏しいと言わざるをえません。

しかし、それでも面白く読むことができます。その理由は何かと考えると、本書がクロス・カルチュラルな人間観察のエッセイ集であることが指摘できる と思います。おそらく、『国家の罠』や『自壊する帝国』を書いた頃から時間を経たことによって、著者が関わった人たちのことを、より客観的に描けるように なった結果ではないかと思われます。そういう意味では、実用書を装った「交渉術」というタイトルは、実用書ブームをあてこんでいるようで残念と言えば残念 なタイトルです。

さて、著者が描く人間模様は、エリツィンやプーチンなどのロシアの政治家、橋本龍太郎、小渕恵三、森喜郎、鈴木宗男などの日本の政治家、さらに日本 の外務官僚の奇人変人ぶりなど、多岐にわたります。本書の構成は、通読すると一つの大きなテーマが見えてくるというわけではありませんので、あくまでも エッセイ集として、一つ一つのエピソードを楽しむべきものだと思います。

[目次]
神をも論破する説得の技法
本当に怖いセックスの罠
私が体験したハニートラップ
酒は人間の本性を暴く
賢いワイロの渡し方
外務省・松尾事件の真相
私が誘われた国際経済犯罪
上司と部下の危険な関係
「恥を棄てる」サバイバルの極意
「加藤の乱」で知るトップの孤独
リーダーの本気を見極める
小渕VSプーチンの真剣勝負
意地悪も人心掌握術
総理の女性スキャンダル
エリツィンの五段階解決論
米原万里さんの仕掛け
交渉の失敗から学ぶには


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