2009.01.07

▽東野圭吾のたぶん最初の決断

東野圭吾『たぶん最後のご挨拶』(文藝春秋)


ミステリー作家の東野圭吾が直木賞受賞を機に、それまでに書いたエッセイなどをまとめたもの。江戸川乱歩賞受賞前は、自動車メーカーでエンジニアとして働いていたのは、よく知られている。

《 「就職して一、二年は無我夢中だった。当然のことながらエンジニアとしても半人前だから、早く一人前にならねばと焦っていた。だがそんな風に過ごしながらも、一つの疑いが脳裏から離れなかった。
 俺の居場所は本当にここなのか、というものだった。
 たしかにエンジニアになることも夢の一つであった。だがそれならば、子供の頃から何度も繰り返したあの「真似事」は何だったのだ。それらに対して何ひとつチャレンジしないまま、一生を終えてもいいのか。後悔はしないのか。
 慣れない会社生活から逃避したくてそんなふうに思うだけなのだ、と自分にいい聞かせていたが、「もしほかの夢を追っていたらどうなっていただろう」という空想は、日に日に私の心を掴んで離さなくなっていた。
 二十四歳の秋、ついに一つの決心を固めた。》(p.261)


|

書評2009年」カテゴリの記事