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2009年4月

2009.04.30

▽世襲問題を考えるための基本テキスト

神一行『閨閥 特権階級の盛衰の系譜[改訂新版]』(角川文庫)

本書は、政治家や企業経営者などエスタブリッシュメントの姻戚関係、つまり「閨閥」に焦点をあてたもので、このジャンルの入門書としては、よく出来ている。もともとは1989年に毎日新聞社から発行されたもので(1993年には講談社文庫より発行)、それを元に加筆・訂正し、改訂新版として2002年に角川文庫より発行されている。

この改訂新版で、内容的に追加されたのは、小泉純一郎の系譜、そして、天皇家に嫁いだ小和田家、川嶋家の系譜である。

2001年に内閣総理大臣となった小泉純一郎は、政治家としてみれば三代目の世襲政治家ではあるが、閨閥という観点からみれば、その家系において他の有力者との姻戚関係は、ほとんど無いといっていい。小泉以後に首相となった、安倍、福田、麻生の華々しい家系と比べると、その違いは際だっている。

また、たたき上げの政治家の代表格である田中角栄の家系図も本書には掲載されているが、思わず笑ってしまうほどに、有力家系との姻戚関係はみられない。これは、現在の民主党党首、小沢一郎も同様で、第9章に描かれているように自民党時代は、竹下登、金丸信の家族と姻戚関係があったが、自民党離脱後の小沢一郎には、こうした閨閥の影響力は、ほとんど失われてしまったことがわかる。

[目次]
プロローグ――日本は特権閨閥によって支配されている

第1部 政界編
第1章 吉田家―保守本流の始祖
第2章 鳩山家―四代にわたる政界の超エリート家系
第3章 岸・佐藤家―兄弟首相を生んだ長州人脈の最高峰
第4章 池田家―災いを福となし這い上がった苦労人
第5章 田中家―政界を震撼させる父娘の恩讐
第6章 福田家、三木家―学歴エリートと傍系派閥の栄光と悲哀
第7章 鈴木家、大平家―閏閥に連なり名門入りした庶民派
第8章 中曽根家―名血との結合で頂点を極めた寝業師
第9章 竹下・金丸家―政界を牛耳った固い血の結束
第10章 宮沢家―高級官僚・政治家を輩出する華麗なる一族
第11章 安倍家―良血を誇る政界のサラブレット
第12章 小泉家―三代目にして首相を輩出した政治家系

第2部 財界編
第1章 豊田家―〝世界のトヨタ″になるまでの愛憎のドラマ
第2章 松下家―〝経営の神様″が一族のために燃やした執念
第3章 上原家―庶民夫婦が築き上げた日本有数の大富豪一家
第4章 鹿島家―建設業界に君臨した名門閏閥の実力
第5章 弘世家―ニッセイ王国を育て上げた創設家
第6章 堤家―急成長を成し遂げた西武グループの総帥
第7章 安西家―皇室にまで繋がる日本最大の閏閥
第8章 三井家、岩崎家、住友家―旧財閥のその後
第9章 正田家―民間初の皇太子妃を生んだ「新華族」
第10章 小和田家、川嶋家―対照的な学者一家と官僚一家

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2009.04.28

▽梅田望夫が見た初代永世竜王決定戦

梅田望夫『シリコンバレーから将棋を観る』(中央公論社)

「指さない将棋ファン」を自認する著者が、2008年10月から開催された将棋の竜王戦を軸に、羽生善治やそのライバル達の証言などを著者なりの視点でまとめたもの。

私も「指さない将棋ファン」でして、この竜王戦は主にネット中継で観戦していました。この竜王戦は、単なるタイトル戦ではなく、渡辺明竜王、羽生善治挑戦者の勝った方が、初代永世竜王の資格を得るという、将棋界の歴史においても重要な棋戦でした。

そしてパリで行われた第一戦。渡辺竜王は得意の居飛車穴熊という堅い陣形を組み、余裕綽々で軽くジャブを放ったところ、羽生挑戦者からがつんがつんとアッパーカットを食らってあっという間に、負かされてしましました。陣形を組み合った時点では、素人目には、渡辺竜王の方が堅く見えたのですが、羽生挑戦者が、その堅陣を次々と引っぺがしていく様は圧巻というほかありませんでした。本書は、そのパリでの第一戦が中心となっています。

その後、羽生挑戦者が三連勝したものの、四戦目の終盤に、渡辺竜王が逆転し、結局、初代永世竜王の資格は、渡辺竜王のものとなります。いろいろな意味で、将棋界の歴史に残る対決だったといえます。

残念なことに本書には、七戦すべての棋譜が掲載されいませんので、竜王戦全体の様子がわからないので、『第21期 竜王決定七番勝負』(読売新聞社)を脇に置いて、読み進めた方がわかりやすいかもしれませんね。

梅田望夫『シリコンバレーから将棋を見る』(中央公論社)
[目次]
はじめに――「指さない将棋ファン」宣言
第一章 羽生善治と「変わりゆく現代将棋」
 変わりゆく現代将棋
 予定調和を廃す緊張感
 将棋の世界に革命を起こす
 盤上の自由
 イノベーションを封じる村社会的言説
 将棋の未来の創造
 オールラウンドプレイヤー思想
 知のオープン化と勝つことの両立
 高速道路とその先の大渋滞
 将棋界は社会現象を先取りした実験場
 ビジョナリー・羽生善治
 二〇〇八年、ベストを尽くす

第二章 佐藤康光の孤高の脳――棋聖戦観戦記

第三章 将棋を観る楽しみ
 ネットの優位を活かす人体実験
 修業ですから!
 「将棋を指す」と「将棋を観る」
 将棋を語る豊潤な言葉を
 一局の将棋のとてつもなく深い世界
 ネットと将棋普及の接点/出でよ! 平成の金子金五郎
 金子の啓蒙精神
 「現代将棋にも金子先生が必要です」

第四章 棋士の魅力――深浦康市の社会性
 「喧嘩したら勝つと思うよ」
 サンフランシスコの棋士たち
 深浦康市の郷里・佐世保への思い
 安易な結論付けを拒む「気」を発する対局者
 現代将棋を牽引する同志
 二つのテーブル
 人生の大きな大きな勝負

第五章 パリで生まれた芸術――竜王戦観戦記

第六章 機会の窓を活かした渡辺明
 終局後、パリのカフェで
 「立て直せる時間があるかもしれない」
 羽生王座への祝辞、十七年という長さ
 「勝負の鬼」が選んだ急戦矢倉
 若き竜王に大きく開いた「機会の窓」
 初代永世竜王への祝辞、将棋グローバル化元年
 少しでも進歩しようとすること

第七章 対談――羽生善治×梅田望夫
 リアルタイム観戦記と「観る楽しみ」のゆくえ
 揺れ動き続ける局面と、均衡の美
 羅針盤のきかない現代将棋の世界
 対局者同士が考えていること
 雲を掴むように、答えのない問題を考え続ける
 人は、人にこそ、魅せられる
 けものみちの時代、「野性」で価値を探していく
 「相手の悪手に嫌な顔をする」真意は?
 盤上で、すべてを共有できるという特性
 進化のプロセスを解析する研究者たち
 コンピュータとともに未来の将棋を考える
 指す者と、観る者の、これから

あとがき――「もっとすごいもの」を

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2009.04.25

▽アメーバニュース編集者が語るネットのバカたち

中川淳一郎『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)

面白い本です。梅田望夫の『ウェブ進化論』に代表されるようなウェブの希望的な面を強調する論調に対し、アメーバニュースの編集責任者でもある著者は、自身の体験からウェブの持つ実態、つまり駄目な部分をつまびらかにしていきます。

《梅田氏は、ネットのこちら側(ハード上で情報処理を行う主体:IBM、マイクロソフトに象徴される古い勢力)と「あちら側」(ネット上で情報処理 を行う主体:グーグル、アマゾンに象徴される新しい勢力で、コンピューター・サイエンス分野のトップクラスの人々がその才能を活かす場所)という概念を説 き、「あちら側」の優れた点について言及した。
 それに対し、私はネットの使い方・発信情報について、「頭の良い人」 「普通の人」「バカ」に分けて考えたい。梅田氏の話は「頭の良い人」 にまつわる話であり、私は本書で 「普通の人」 「バカ」 にまつわる話をする。》(pp.18-19)

本書で語られる内容については、上記のような文章やタイトルからも伺えると思いますが、著者の言いたいことは、「ネットにあまり期待するな」ということに尽きると言えます。ネットの世界の現実が理解できる、とても面白い本ですので、お奨めしますよ。

[目次]
第1章 ネットのヘビーユーザーは、やっぱり「暇人」
 品行方正で怒りっぽいネット住民
 ネット界のセレブ「オナホ王子」
第2章 現場で学んだ「ネットユーザーとのつきあい方」
 もしもナンシー関がブログをやっていたら…
 「堂本剛にお詫びしてください」
第3章 ネットで流行るのは結局「テレビネタ」
 テレビの時代は本当に終わったのか?
 ブログでもテレビネタは大人気
第4章 企業はネットに期待しすぎるな
 企業がネットでうまくやるための5箇条
 ブロガーイベントに参加する人はロイヤルカスタマーか?
第5章 ネットはあなたの人生をなにも変えない

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2009.04.23

▽アマゾンに対するアンビバレントな気持ち

横田増生『アマゾン・ドット・コムの光と影』情報センター出版局)


本書は、流通関係の業界紙で記者をしていた著者が、日本のアマゾンに書籍のピッキングを行うアルバイトとして潜入し、その体験を中心にまとめたものである。2005年4月の出版ということもあって、アマゾンの決算や経営方針に関する考察はデータがやや古くなっているが、潜入ルポの部分は、とても興味深く読むことができる。

特に、アマゾンの利用者の世帯年収は500万円を超えているのに対して、アマゾンで働くアルバイトの年収は200万円そこそこ、という現実を前に、著者はアマゾンに対して次のようなアンビバレントな心情を吐露している。

《私の心のなかには、職場としてこの上ないほどの嫌悪感を抱きながらも、一方利用者としてはその便利さゆえにアマゾンに惹きつけられていくという相反する気持ちが奇妙に同居していく。
 そしていつもその気持ちに、居心地の悪さを感じていた。》

[目次]
プロローグ 密かに急成長するアマゾンジャパン
第1章 アマゾン・ドット・コム上陸前夜
第2章 アマゾン心臓部・物流センターの実態
第3章 空虚な職場に集う人々
第4章 アマゾンの秘密主義を恐れる出版業界
第5章 日本で躍進した本当の理由
第6章 その強さの裏側にある底辺
第7章 アマゾンの目指す「完成形」
エピローグ アマゾン化する社会の行方

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2009.04.19

▽羽生名人が語る「天才の頭脳」

『先を読む頭脳』(新潮社)

『先を読む頭脳』(新潮社)は2006年に出版された本で、羽生名人が自分の将棋に対する考えを語った章の間に、認知科学やコンピュータの専門家が解説した章が挿入されています。

以前、羽生名人の語りおろしと言われながらも、ゴーストライターが勝手に、いろいろと書き加えた本がありましたが、それよりは正確なものになっていると思います。羽生名人の言葉で、印象に残っている部分は以下の三点です。

《私は、パソコンの画面でマウスをクリックして動かすのと、実際の盤上で駒を動かすのとでは、蓄積される記憶の質が違うように感じています。その理 由は、一つにはパソコンの画面で動かすとどうしても早く手を進めていってしまうので、結果的に長く覚えていられないという点にあると思います。
 一方、盤に駒を並べて一手一手ゆっくりと動かしていくと、その過程を通して頭の中で手を整理しながら記憶していけるのです。》(pp.50-51)

《時間に関して言うと、私は終盤ギリギリの段階で「残り二分」になっていることがよくあります。「残り一分」 ではなく、二分にしておくのです。
 それは私なりの危機管理法で、相手に予想外の手を指されたときに、その一分があるかないかで全然違ってきます。》(p.93)

《一方で、最近は将棋から離れて、できるだけ将棋のことは考えない日も作るようにしています。四六時中将棋のことを考えてオンとオフの区別がなくなると、結果的にプラスに働かないことが経験上わかってきました。》(p.146)

また羽生名人が、さまざまな有名棋士の棋風について語っている部分があるのですが、すでに引退している吉田利勝八段という、あまり有名ではない棋士の名もあげている点は、ちょっと興味深いですね。

[目次]
1 「先を読む頭脳」を育む
2 効果のあがる勉強法
3 先を読むための思考法
4 勝利を導く発想
5 ゲームとしての将棋とコンピュータ

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2009.04.18

▽ペヨトル工房が出版をやめたわけ

今野裕一『ペヨトル興亡史―ボクが出版をやめたわけ』(冬弓舎)

本書は、あるところで見かけたので手にとって、奥付を見ると2001年とあって、少し驚きました。ペヨトル工房といえば、超マニアックな本を意地で 出しているような出版社というイメージが強かったので、逆に、出版不況にも強いし、場合によってはネットへの移行もうまくやれるのではないかと思っていた のですが、それが9年前に解散していたとは……。

今後出版業だけでなく、すべてのメディア産業は、複製ではなく実物を見せる方向へと移行するのでしょうか? でも、それって興業の世界に足を突っ込むことになるわけで、いろいろと苦労もあるのではないかと思います。

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2009.04.17

▽フリーペーパーの発展の日本と海外の違い

稲垣 太郎『フリーペーパーの衝撃』(光文社新書)


本書はフリーペーパーの現状をレポートしたもので、日本だけでなく海外の情報も豊富である。日本でフリーペーパーといえば「R25」を始めとする無 料週刊誌スタイルのフリーペーパーが多いのに対し、海外ではスウェーデン発祥「メトロ」に代表される日刊無料紙スタイルのフリーペーパーが定着している。

日本でも、2002年に日刊無料紙として「HEADLINE TODAY」が創刊されたが、わずか4カ月で週刊へと後退してしまった。この要因としては、日本の通信社からの記事配信を受けられずロイターやブルームバーグなどの外電が記事の中心になってしまったこと、大手広告代理店の協力がえられなかったこと、キオスクで販売されている有料紙への配慮から地下鉄構内 にラックを置かせてもらえなかったこと、印刷や用紙の調達にも協力がえられなかったこと、ストレート・ニュース中心の紙面が支持されなかったこと、などが上げられる。同紙は週刊誌化し、記事も柔らかいニュースを中心にしてからは軌道に乗りつつあるようだが、日本では、既存の新聞ビジネスに切り込んでいくには、かなり大変なことであることが伺える。

[目次]

はじめに
第1章 異業種出身の成功者たち
  1 フリーペーパーとは?
  2 創業者3人の軌跡
第2章 フリーマガジン大国・日本
  1 無料誌ブームの主役リクルート
  2 趣味性・嗜好性の分野へ拡大
第3章 問われる広告効果
  1 ターゲット媒体として注目
  2 信頼性を獲得する道は?
  3 まとまらない業界組織
  4 潜在ニーズを掘り起こせ
第4章 海外に浸透する日刊無料紙
  1 スウェーデンから全世界に広がる『メトロ』
  2 ライバル無料紙も続々
  3 無料紙が伸びる土壌
  4 紙面の質をめぐる競争で二紙が限界?
  5 広告だけで新聞ジャーナリズムは成り立つか?
第5章 日本に『メトロ』が誕生する日
  1 『ヘッドライン・トゥデイ』の挑戦と挫折
  2 首都圏に誕生する可能性
第6章 誰でも出せる「紙のブログ」
  1 高校生たちが挑戦したフリーペーパー発行
  2 大学キャンパスは大きな市場
第7章 有料と無料の違いって何だ? 吉良俊彦氏との対談
  おわりに

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▽フリーペーパーR25の創刊編集長が語るR25世代

藤井大輔『「R25」のつくりかた』 (日経プレミアシリーズ)


著者は、フリーペーパー『R25』の創刊に携わり、その苦労話を通して、読者であるR25世代が何を求めているか、について語っている。

「新聞を読まない」と言われるR25世代だが、アンケートやインタビューをすると、ほとんどが「読んでいる」と答えることに著者は気づく。そして、 いろいろな工夫をこらしたインタビューにより、R25世代は、日経新聞を読みたいと思いながらも時間がない、難しいといった理由から読めないでいるという 実態にたどりつく。また、R25世代は、インターネットによってもたらされる情報過多に疲れていることにも気づく。ここから、R25の「ニュースをコンパ クトにわかりやすく解説する」というコンセプトが誕生する。

さらに、面白い情報よりも役に立つ情報、一ヶ月前に話題になったニュースを取り上げても面白く読める、まじめなニュース(政治経済)・興味を引く ニュース(ITやスポーツ)・雑学の比率は2:6:2くらい、表紙は女の子でない方がいい、同世代ではなく年上の成功者の苦労話を読みたい、などとR25 世代の関心を絞り込んでいく……と、このあたりまでは痛快なサクセス・ストーリー風に読めるのですが、広告を取ったり、スポンサーのタイアップ記事などに 話題がおよぶと、ちと、普通の雑誌の苦労話みたいになってしまって新鮮味はないかも。

[目次]
第1章 少人数の組織で「業界常識」に立ち向かう
第2章 M1層はホンネを語ってくれない
第3章 M1層に合わせた記事づくり&配布作戦
第4章 世の中のちょっとだけ先を行く発想術
第5章 M1世代とM1商材を結びつける
第6章 さらにビジネスを広げるために

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▽クーポン・マガジンの誕生秘話

平尾勇司『Hot Pepper ミラクル・ストーリー』(東洋経済新報社)

"クーポン・マガジン"という新しいジャンルのフリー・ペーパーであるHot Pepprを事業として成功させたリクルート社員の体験記。

Hot Pepperの前身は、「サンロクマル」という情報誌だったが、地域ごとにばらばらに運営されていたため赤字が続いていた。著者は、唯一成功していた北海道・札幌の「サンロクマル」を分析して、札幌の「サンロクマル」の成功の要因を指摘する。<1>飲食店、特に居酒屋の広告が多い。<2>営業商圏が狭い。<3>クーポン掲載必須。<4>働く女性の動線にそっている、などで、これらの方針が全国のHot Pepprへ受け継がれた。

また、飲食店の割引クーポンをつけることに関しては、次のように説明している。

《クーポンは値下げではない。売れない→定価を下げる→利益が下がる→減価・経費を下げる→人件費をを下げる→所得が下がる→物が買えない→物が売れないというデフレスパイラルの最大の間違いは「定価を下げた」ところにある。》(pp.42-43)

《クーポンは「定価はそのまま」で、時間を限って、ユーザー対象を限って、商品を限って、個数を限って行う賢い価格政策だ。いつもはこんな価格のサービスを今回は特別に……お得感を増幅させる。効果抜群の価格コントロールである。》(p.43)

さらに、製作体制は、ウェブ入稿システムで日本のどこからでも原稿を入れられる仕組みを作り、日本全国に印刷工場を配置することでローコストを実現している。

以上のようなことが始めの50ページくらいに書かれていて、あとは、プロジェクトX風の営業マン心得とか、組織運営のノウハウなんかが紹介されています。

いま雑誌不況とか言われて雑誌の休刊が続いていますが、紙かウェブかという対立はさておき、紙媒体に限って言えば、既存の出版社の持ってる中央集権的な生産体制は時代にあわなくなりつつあり、ローカルに根ざした地域分散的な広告営業や生産体制が活路なるのでしょう。

[目次]
第1章 『ホットペッパー』の本当のすごさ
第2章 『ホットペッパー』とはいったい何なのか?
第3章 失敗が教えてくれた11の警告
第4章 事業立ち上げの仕組みづくり
第5章 急成長のキッカケとそのしかけ
第6章 顧客接点づくりの仕組み化
第7章 セオリーに反する営業の仕組みづくり
第8章 マネジメント・リーダーの育成

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2009.04.16

▽司法記者が見た特捜部の崩壊

石塚健司『「特捜」崩壊 墜ちた最強捜査機関』(講談社)

最近なにかと話題の「特捜」、つまり東京地検特捜部の捜査が「崩壊」しているのではないか? という問題提起をしている。著者は、産経新聞の記者で、司法記者クラブのキャップや、社会部次長などを歴任している。

著者は、「特捜崩壊」の事例として、著者が関わった二つの事件を挙げている。一つ目は、1998年の大蔵キャリア官僚の過剰接待事件。二つ目は、2008年の防衛省汚職事件の″防衛利権のフィクサー″として、団体役員が脱税で逮捕された事件。この事件では、著者は、逮捕された容疑者の友人として、事件そのものにリアル・タイムで接していた。

著者のいう「特捜崩壊」とは、つまり特捜の事件の見立てに誤りがあり、その原因は、検察の人事のあり方にある、としている。

なお、1998年の大蔵キャリア官僚の過剰接待事件の過剰接待が無理筋であったことは、朝日新聞記者の村山治の『特捜検察 VS. 金融権力』や『市場検察』でも触れられている。



2008年の防衛省汚職事件の方は、容疑者自ら反論の書を上梓している。

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▽2001年の時点ですでに指摘されていた特捜検察の闇

魚住昭『特捜検察の闇』(文藝春秋)

ダミー会社認定のあやふやさ、検察側の証人が実は横領していた、被告の発言のこじつけ的解釈、ずさんな国策捜査による冤罪の可能性……。

これ、最近の事件ではなくて、ジャーナリスト魚住昭が2001年に上梓した『特捜検察の闇』において、人権派弁護士・安田好弘の債権回収妨害事件の裁判のくだりで、明らかにしたことです。この裁判、一審では被告無罪、二審では罰金刑がくだり、現在は最高裁の判決待ちという状態ですが、昨今の特捜批判の世論の中では、検察にとって厳しい判決がでる可能性も否定できません。

著者のあとがきが印象的です。

《正直言って、私はつい最近まで自分がこんな本を書くことになろうとは夢にも思っていなかった。四年前の拙著『特捜検察』(岩波新書)を読まれた方ならおわかりになるだろうが、私はリクルート事件などで政官界の腐敗構造をえぐり出した東京地検特捜部を高く評価していたし、そこで働く検事や事務官たちが好きだった。
 その気持ちは今もまったく変わらない。だが、時が流れ、人も移り変わって検察はかつての検察ではなくなった。》


魚住昭『特捜検察の闇』(文藝春秋)
[目次]
第1章 許永中の盟友
第2章 大阪特捜に田中森一あり
第3章 闇世界の守護神
第4章 石橋産業事件
第5章 夢の終わり―カブトデコム事件
第6章 中坊公平の「正義」
第7章 安田弁護士の逮捕
第8章 法廷の逆転劇
第9章 国策捜査
終章 変容する司法

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2009.04.07

▽11人のアルファ・ブロガーが語るブログ術

『アルファブロガー 11人の人気ブロガーが語る成功するウェブログの秘訣とインターネットのこれから』(翔泳社)


ちょっと古い本なのですが……。2005年10月20日発行ということで、本書は、ブログが一般人にも広まりつつある中で出版されたものです。「ア ルファブロガー」という言葉は、いまいち定着しなかったみたいですが、アクセス数の多い人気ブロガー十一人に、それぞれのブログ運営に対する心構えのよう なものをインタビュー形式で聞いているものです。

ただ、本書に登場するブロガーは、一部を除いて、いまでも有名ブロガーとして既存メディアで取り上げられるような方ばかりで、話している内容も、3 年以上のギャップを感じさせ無いようなことばかりです。結局、一般の人にブログが広まっても、あまり事態はかわらなかったのかもしれませんね。

[目次]
1 「人気ブログ」の運営スタイル
 ネタフル コグレマサト氏
 百式 田口元氏
 極東ブログ finalvent氏
2 「プロフェッショナル」のブログ活用術
 Ad Innovator 織田浩一氏
 R30 マーケティング社会時評 R30氏
 isologue 磯崎哲也氏
 On Off and Beyond 渡辺千賀氏
3 テクノロジストとインターネットの未来
 NDO Weblog 伊藤直也氏
 Passion For The Future 橋本大也氏
 切込隊長BLOG 山本一郎氏
 英語で読むITトレンド 梅田望夫氏

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2009.04.06

▽誰でもメディアの時代?

小林弘人『新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に』(バジリコ)


著者は『ワイアード日本版』、『サイゾー』の元編集長である小林弘人で、ギズモード日本版などのニュース・サイトも運営している。本書は、「日経ビ ジネスオンライン」で連載していた「誰でもメディア宣言」をまとめたもの。「誰でもメディア」というキーワードを軸に、ウェブやブログを使った新しいメ ディア・ビジネスの構築を、既存の出版社の編集者だけでなく、個人にも呼びかけている。

本書のメッセージは、個人でも、すぐに新しいメディア・ビジネスを立ち上げられるという触れ込みで、主にアメリカの事例を中心に、数多く紹介されています。それぞれのビジネスの立ち上げ方、発展についての情報は興味深く読むことができます。

しかし、いつも、この手の本を読んで思うのは、さすがに個人のレベルだと、訴訟やトラブルに巻き込まれた場合のデメリットが大きすぎて、それに、どう対処すればいいのかが明確ではない点ですよね。

小林弘人『新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に』(バジリコ)
[目次]
あなたの知っている「出版」は21世紀の「出版」を指さない
「注目」資本主義は企業広報を変えた
ストーリーの提供で価値を創出する
デジタル化で消えてゆくのは雑誌・書籍・新聞のどれ?
雑誌の本質とは何か?
無人メディアの台頭と新しい編集の役割
既存メディアの進化を奪う
名もなき個人がメディアの成功者になるには?(その1)—マジックミドルがカギを握る
名もなき個人がメディアの成功者になるには?(その2)—人はコンセプトにお金を投じる
メディアが変わり、情報の届け方も変わった
〔ほか〕

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2009.04.05

▽現代のクリエイターは過去のコンテンツと競争しなければならない

岡本一郎『グーグルに勝つ広告モデル』(光文社新書)


コンテンツや情報がデジタル化された時代に、マス・メディアや広告産業は、どのように対応しなければならないかについて述べている。この手の本にあ りがちな、断定調の未来予測はあまり無く、現在の状況から言えることが明示されている一方で、これから先どうなるかわからないことについては「わからな い」とはっきり言っている点は好感が持てる。

特に、最初の章に重要な分析が出ていたので簡単に紹介すると、

《テレビも含めたメディア/コンテンツ産業が、他の産業と大きく異なる点の一つとして、「過去のストックが競合になる」 という点が挙げられま す。……ストックは、時間の経過にともない、いずれ無限大まで増加します。一方、需要はその瞬間に存在する市場に限定されるため、受給のバランスは時間が たつにしたがって、ストックが無限に大きい方向に振れ続けていく、というのがコンテンツ産業の持っている宿命的な流れです。》(pp.16-17)

これまで、増大する過去のコンテンツ資産が、新しいコンテンツの競合としてそれほど恐ろしいものでは無かった理由として、著者は、過去のコンテンツ 資産の量が、あまりにも膨大であるために、探索コストが高く、競合として怖くなかったことをあげます。ところが、インターネットの普及によって、モノと情 報が分離して扱えるようになり、そのことによって膨大な量のラインナップを探索するコストが、「劇的に下がった」と著者は指摘します。

では、グーグルのような、何も新しいコンテンツを作っていない企業の時価総額が10兆円を超えている、という事実をどう考えるべきか? と問いかけます。

《端的にいえば、社会全体が、膨大になりすぎたコンテンツや情報を整理することに対して、高い付加価値を見出している、ということなのです。
 これをミクロ経済学的にいえば、一人ひとりの個人がこれまで情報の整理にかけていたコストを、グーグルが削減しているということになります。》(p.20)

そして、社会学者のリチャード・フロリダによる、クリエイティブ・クラスという知識労働階級にとって、もっとも貴重なものは時間となるだろう、という予言を引いて次のようにまとめています。

《この考え方になぞらえれば、グーグルはクリエイティブ・クラスの人々に「時間を売っている」ということになるのです。そして、その時間が貴重であればあるほど、集積としてグーグルの時価総額は高まるわけです。》(pp.20-21)

[目次]
マスメディアの本質は「注目=アテンション」の卸売業
アテンションのゼロサムゲームから脱却できるか?
マスメディアの競合としてのインターネットメディア分析
4マスメディアvs.インターネット
テレビvs.インターネット
オンデマンドポイントキャスト事業の提言
ターゲットメディアとしてのラジオの確立
情報のコモディティ商戦から新聞は抜け出せるか
ネットとの差別化に特化する雑誌
合従連衡によってプレイヤーの数を減らす
なぜ、それでもマスメディアは必要なのか
コンテンツ論
マーケッターに求められるパラダイムシフト

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