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2009年5月

2009.05.23

▽村上春樹が欧米で高く評価される理由

浅川港『NYブックピープル物語―ベストセラーたちと私の4000日』(エヌティティ出版)


本書は、1989年から2000年に、ニューヨークの講談社アメリカで英文出版に従事した著者が、アメリカにおける編集作業やマーケティング活動などの体験を綴ったものである。アメリカの講談社と聞くと、村上春樹の英訳版を出したところ、と思うかもしれないが、そちらは講談社インターナショナルで、著者の勤務した講談社アメリカとは、別の組織のようだ。



それでも、独自の出版活動により、100歳を超える黒人姉妹の伝記『Having Our Say』をミリオン・セラーにしたり、プラハの春の指導者ドプチェクの回想録を出版するなど、大きな実績をあげている。

そんな著者が、村上春樹がなぜ欧米で評価されるのかについて述べた部分は興味を引く。

《しかし日本で絶大な人気を誇る司馬氏や井上靖氏の作品は、残念ながら欧米では必ずしも高く評価されない。理由は、フィクションかノンフィクションかはっきりしないという点にある。……その対極にあるのが、三島由紀夫氏や村上春樹氏の作品。この二人を同列に論じたら、ご当人たちから相当苦情が来そうだが、じつは共通点がある。「想像力で書く作家」という点。それと、海外で非常に評価が高い点。小説は想像力で書くもので、史料を引用するなどは、フェアでない。そういう思い込みが根強い海外、特に欧米での三島、村上春樹両氏の評価は高いのだ。》(p.210)

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▽世襲を生み出す要因とは?

上杉隆『世襲議員のからくり』(文春新書)


本書は、ジャーナリストの上杉隆が、『週刊文春』誌上で連載していた政治家の世襲問題に関するレポートを再構成して、新書としてまとめたものである。世襲議員が有利とされるのは、政治資金団体の非課税相続、後援会組織の世襲、苗字などの継続性、という鞄、地盤、看板の三つのバンを引き継げるから、である。

これらの三バンについては、世襲批判の根幹として、かねてより指摘されてきた点である。それ以外の要因として、著者は、マスコミとの関係を指摘している。たとえば、鳩山家で、幼少時の由起夫や邦夫のお馬さん役をしていた人物は、現在は某新聞社の権力者であり、また、マスコミにも多数の政治家の子女が入社している、ということである。

[目次]
第1章 二世の投げ出しはなぜ続く
第2章 民主党の二世たち
第3章 からくりその1 - 政治資金管理団体の非課税相続
第4章 からくりその2 - 後援会組織の世襲
第5章 からくりその3 - どんな無理もする「看板の世襲」
第6章 世襲大国日本
第7章 国民の意思が世襲を断ち切る

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2009.05.16

▽日本最大のレシピサイト「クックパッド」の作り方

上阪徹『六〇〇万人の女性に支持される「クックパッド」というビジネス』(角川SSC新書)


本書は、料理のレシピ・サイト「クックパッド」の誕生から、運営を軌道に乗せるまでの苦労を綴ったものである。クックパッドは、ユーザーが料理のレシピ投稿できるCGM(Cosumer Generated Media)サイトとして、1997年に設立された。現在は600万人ものユニーク・ユーザーを集める人気サイトに成長した。

クックパッドは、ユーザーに楽しんでもらうことを基本に置いてきた。開設以来、レシピの投稿のしやすさや検索のしやすさなどを追求してきた。また、ユーザーは無料でレシピを見たり投稿することができるが、人気レシピのランキングは有料会員にならないと見ることができない。

広告についても、ユーザーにメリットのある広告を選んで載せるほか、食品メーカーとタイアップして、レシピ・コンテストを開催するなど、料理の楽しさを追求することを、常に追求しているのが成功の秘訣といえる。

無料会員と有料会員との差別化、使いやすさ・参加しやすさのの追求、ユーザーにとっても役に立つ・楽しめる広告を選択的に入れる、といった点は、他のCGMサイトにも参考になることだろう。

[目次]
はじめに

序章 女性なら知っている。料理サイト「クックパッド」
 数百万人の女性が、週に一度は訪れている
 どうして五〇万件ものレシピが、投稿されているのか
 たくさん使いたい材料で検索する人も多い
 二〇万人が広告主の登場を待っている「レシピコンテスト」
 料理が楽しくなることをやる。それ以外はやらない

第一章 就職を選ばなかった男が、辿りついた目標
 学生では、すべてがイベントになってしまう悔しさ
 お金の保証を会社に預けてしまう、という恐怖
 今の世の中の延長線上に、スカッとした笑顔が出てくるか
 アメリカから日本に戻って知った、日本の食の豊かさ
 ユーザーが″増えない努力″をしていた創業期

第二章 クックパッドは、なぜ「女心」をつかんだのか
 情報の送り手側はユーザーに甘え、倣慢になっている
 まずはユーザーを正しく理解する、ことから始める
 ただ入力するだけではダメ。楽しく入力できないと
 説明が必要なサービスは、レベルが低い
 「肉じゃが」だけで、約二〇〇〇種類もある意味
 小さなほころびを絶対に放置しない。だから、安心できる
 十三文字を超えると可読性が下がり、二四文字を超えるとさらに下がる

第三章 細やかなサービスを実現するのは、テクノロジー
 テクノロジーは道具。重要なのは、それで何をするか
 ユーザーの期待を上回る動線を用意できた理由
 ユーザーの印刷率は、ほしい情報が手に入ったかのバロメーター
 PDCAを圧倒的にしやすくするのが「Ruby」だった
 日本の製品には説明が多い。これではグローバルで戦えない

第四章 広告を見た人から「ありがとう」といわれるサイト
 マスメディア的なネット広告で果たしていいのか
 成功や失敗は、自分の意志でコントロール出来る
 ユーザー一〇〇万人。でも広告は安易に入れなかった
 必要なのは、どんな広告が成立し得るか、事例をたくさん作ること 
 広告主にもユーザーにも魅力。レシピコンテスト
 定番ブランド商品の需要底上げ。典型的な成功例「焼肉のたれ」
 意外な商品が大ヒットした「ロングテール商品の再評価」
 なかなか売れなかった商品に、ユーザーから「ありがとう」の声
 メーカー側が思ってもみなかった商品の使い方が生まれた
 日々の食卓決定をしているユーザーに「新商品の垂直立ち上げ」
 飲料メーカーがクックパッドを使ってプロモーション
 広告主自らが自信のレシピを提案する「スポンサードキッチン」
 二週間でプラス二〇万世帯の食卓に、お酢を使った料理が並んだ
 料理が楽しくなるのなら、どんな広告主でも活用できる
 モノを買うには、理由が必要な時代。動機付けができているか
 お金を払ってくれる顧客だけを見ていると、事業を見誤る
 検索データベース「たべみる」から見える、本当のユーザーの気持ち
 エリアごとの週次データに出てくる「旬」ではなく「欲求」

第五章 六〇〇万人を呼び込む「経営」と「マネジメント」
 オフィス環境に徹底的にこだわるのは、それこそ経営力だから
 一緒に仕事をする外注も、プロかどうかを厳しく選定する
 新オフィスへの引っ越しパーティに、佐野が待ったをかけた
 残業するよりしないはうがトクをする「ノー残業手当」
 インターネットは、まだ社会で一パーセント程度しか生かされていない

おわりに

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2009.05.15

▽名古屋の三大苦労人

最近、名古屋の苦労人たちの本を読みました。

それは、40歳を超えてなお現役を続ける中日ドラゴンズの200勝投手・山本昌、放送禁止歌「金太の大冒険」で全国的にも知られている・つぼイノリオ、名古屋でアクセサリー・ショップを経営していたものの一時期は十億円を超える借金を抱えて自殺まで考えたというタレントの宮地佑紀生。

各人ともに、断片的な話は聞いたことがあるのですが、それが実際はどういうことだったのかがわかって、なかなか興味深く読めました。

▼山本昌『133キロ怪速球』(ベースボールマガジン社新書)


▼つぼイノリオ『つボイ正伝 「金太の大冒険」の大冒険』(扶桑社)


▼宮地佑紀生『宮地佑紀生の天国と地獄―名古屋で30年間しゃべり続けた男が初めて明かす』(クリタ舎)

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2009.05.09

▽医療事故をめぐるネット言説

鳥集徹『ネットで暴走する医師たち』(WAVE出版)

以前、『ウェブはバカと暇人のもの』という本を紹介しましが、
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/04/post-13ba.html

本書は、バカでも暇人でもない「お医者さん」とネットの関わり、特に「医療事故」をめぐるネット言説を中心に据えて、現状をレポートしたものです。

[目次]
はじめに――「ネット医師」と呼ばれる人々

第1章 カルテを流出させたのはだれか―奈良県立大淀病院事件
 侮辱罪で捜査された医師 
 しゃべり続ける<鬼瓦> 
 当事者が語る事実 
 医師擁護に傾くスレッド 
 マスコミに対する不信感 
 内部情報の流出 
 ネット医師たちの批判の根拠 
 2ちゃんねるで晒し者になった記者 
 だれがカルテを流出させたのか 
 謝罪にきた「真犯人」

第2章 追い詰められる遺族―杏林大学割り箸事件
 『医療の限界』と割り箸事件 
 コピペされる事実無根の情報 
 裁判で議論された親の責任 
 小松秀樹氏とのやり取り 
 「被害者」と名乗ってはいけないのか

第3章 真実を求める遺族は「モンスター」か―福島県立大野病院事件
 「2ちゃんで叩きまくる」 
 m3から始まった抗議運動 
 事故は「不可避」だったか 
 飛び交った噂 
 バッシングされた医師 
 生かされなかった助言 
 反省点はなかったか 
 渡辺さんが出した要望書

第4章 「テロリスト」と呼ばれた被害者
 医師を侮辱する発言 
 「医療崩壊」プロバガンダ 
 ウィキペディアをいじくり回す 
 医師ブログへの波及 
 見る目を歪ませる色眼鏡

第5章 ネット医師たちはなぜ暴走するのか
 全国医師連盟とネット医師 
 「自称被害者」というレッテル 
 ブログに隠された素顔 
 なぜ、誹謗中傷するのか 
 コミュニケーション不全症候群 
 「医療の信頼」の崩壊 
 ネット公論の危険性 
 我々は敵ではなく友人なのだ

あとがき

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2009.05.08

▽ホンダF1失敗の研究

川喜田研『さらば、ホンダF1 ~最強軍団はなぜ自壊したのか?~』(集英社)

《2008年12月5日、強い南風が吹き荒れる青山一丁目の交差点。「F1撤退」の記者会見を終え、ホンダ本社ビルを出た僕のアタマには、いくつかの異なる感情が複雑な形をしながら漂っていた。あまりにも呆気なく、そしてあまりにも情けない「第3期ホンダF1活動」の幕切れに、ドンヨリと曇った暗い空が、なんともお似合いな日だった。
 ホンダを出てから30分ほど地下街の喫茶店で集英社の東田君と簡単な打ち合わせを済ませ、再び地上に出てみると、外は土砂降りの雨。
 「ホラ、本田宗一郎が泣いてますよ……」》(p.3)
http://books.shueisha.co.jp/tameshiyomi/978-4-08-780521-5.html

ホンダがF1に三度目の挑戦を開始したのは2000年のこと。しかし、この第三期は、栄光の第二期と比べれば惨敗といっていい状態のまま、2008年末に撤退が宣言された。直接の引き金は、リーマン・ショックに端を発する世界的な金融危機と、自動車産業を直撃した不況であるのは言うまでもないことだが、たとえそれが無かったとしても、ホンダの第三期は、やはり駄目だったのだろうと本書を読んで思わされた。やや扇情的なタイトルのため、いわゆる「水に落ちた犬を叩け」的な、こきおろし本のような印象を受けるが、著者は、ホンダ第三期を取材するためにフリーランスになったジャーナリストで、表の報道ではわからなかったホンダ惨敗の裏事情を解き明かしていく。

2004年6月20日には、BARホンダのドライバー佐藤琢磨が、アメリカGPで3位となり、日本人ドライバーとしては鈴木亜久里以来の十四年ぶりの表彰台となった。

下記の記事は、その直後の26日にイギリスで開催されたグッドウッド・フェスティバルで記者会見をやったときのもの。いまから思えば、この時が、ホンダにとっても、佐藤琢磨にとっても、日本のF1ファンとっても、ごく短い絶頂の時だったのだろう。

[参考]僕がイギリスに行ったわけ――佐藤琢磨インタビュー
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/news/2004/06/post-a63f.html

そして本書を読むと、本田宗一郎が体現していた日本人のチャレンジ・スピリッツは、いったいどこに行ってしまったのだろうかとも思う。

《ホンダが不幸だったのは、かつて自らが作り上げた「レースはホンダのDNA」というイメージによって、誰もが「ホンダらしく」振る舞わなければならないという、半ば強迫観念にも似た空気が社内に存在していたことだろう。そのため、多くの人が無意識に「レースの好きなホンダ」を演じていた。中には「自分はレース好き」と信じ切っているのだが、実体は全然そうではない人もいた。僕はそれを「バンカラもどき」と呼んでいたが、ホンダが築き上げた過去の栄光による過信を背に「威勢のいい言葉」を発し続けながら、現実には空回りしているように見えるその姿が、傍目には悲しげにすら見えた。》(pp.238-239)

[目次]
第1章 迷走の始まり
 ホンダと僕の最初の一歩
 ジョン・サーティースが語るホンダとの絆 ほか
第2章 分裂と挫折
 「ビコーズ・ウィー・ラブ・レーシング」
 ポラックとヴィルヌーヴの出会い ほか
第3章 天国から地獄へ
 琢磨、初表彰台!
 頂点まであと一歩 ほか
第4章 ホンダF1はなぜ自壊したのか?
 第3期ホンダF1はサラリーマン集団
 そもそもホンダの実力では勝てなかった ほか

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2009.05.07

▽岡田斗司夫が語るネット社会の欠陥

唐沢俊一x岡田斗司夫『オタク論2!』(創出版)

本書は、月刊『創』誌上において連載されていた唐沢俊一と岡田斗司夫の対談をまとめたもの。岡田斗司夫といえば2007年に『いつまでもデブと思うなよ』(新潮新書)において、レコーディング・ダイエットを提唱し、それにちなんだ携帯電話サービス「いいめもダイエット」を巡っては、ネット内でもちょっとした騒動になった。

[参考]アイデアに著作権なし……それでも「いいめもダイエット」サービス停止
http://bizmakoto.jp/bizid/articles/0710/16/news008.html

岡田は、この記事で引用されている抗議文については、《あきらかに僕の文体と違う》と否定し、《「アイデアに著作権がある」なんて本気で思っているわけがない》と主張する。そして、誤解と曲解の連鎖をもとに批判された体験から、「ネット社会の欠陥」を次のように指摘する。

《ネットの中にある情報というのは、映画を観た人とか店に行った人じゃなくて、「『店に行った人の記事』を読んだ人」とか「『店に行った人の記事を読んだ感想の記事』を読んだ人」とかいうふうに、どんどん「解釈」のほうが増えているから、その「解釈」のほうをみんな「正解」だと思う。おまけに、それがもし「不正解」だった場合、「情報元の公式サイトがそれを訂正しないのはケシカラン」という話になっちゃう。つまり客観的に見ると「訂正責任は被害者の側にある」ということにされちゃっている。これは人間性が低いからとか、頭が悪いからではなく「ネット社会が持つ本質的な欠陥」なんですよ。》(p.119)

[目次]
第1部 オタク論  DEATH
コミケで儲ける人たち
男のホームレス化、女の腐女子化
鉄オタブームは来るか
スピリチュアルを信じるか?
オタク論壇の老害化 !?

第2部 オタク論 REBIRTH
リアルでもキャラは重要だ!
ノスタルジーってなんなのさ
本を捨てたら見えてくる世界
ババンババンバンバン♪ネットするなよ!
キャラ話ふたたび
ぼくのプロデュース論、私のプロデュース論
プライベートの充実ってなんなのさ
日本貴族奴隷党に二票!
はぐれもののススメ

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