« 2009年9月 | トップページ | 2009年11月 »

2009年10月

2009.10.27

▽日本国の正体とは?

長谷川幸洋『日本国の正体』(講談社)


東京新聞論説委員の長谷川幸洋は、日本国を支配している本当の権力者は官僚であり、マスコミ、とりわけ新聞記者が、その忠実な「代理人、あるいはポチ」に堕している、と自己批判する。本書の内容自体は、かねてより、さまざまな識者が指摘してきたことと同じであって、目新しさは無いが、新聞記者自らが懺悔したことに意味があるのかもしれない。

ちょっと驚いたのは、2009年の2月から3月にかけて相次いで起きた事件について、次のように、はっきりと述べている点。

《中川財務相の朦朧会見、小沢秘書逮捕、それに高橋洋一の窃盗事件。……これらの事件は一見すると、相互に関係がないように見える。それを認めたうえで、傍観者の立場で事件を見ると、私には一連の事件が「一本の糸」でつながっているようにも見える。なぜなら、事件が起きて喜んだ「勢力」が同じであるからだ。それは「霞が関」である》(p.21)

長谷川は、安倍政権下において、高橋洋一を支援するかたちで官僚改革に関わってきた。その官僚との攻防は、『官僚との死闘七〇〇日』(講談社)に詳しい。


長谷川幸洋『日本国の正体』(講談社)
[目次]
第1章 官僚とメディアの本当の関係
・新聞は何を報じているか
・不可解な事件
・霞が関の補完勢力になった新聞
・転向の理由
・政権を内側からみるということ

第2章 権力の実体
・政治家と官僚
・「増税」をめぐるバトル
・財務官僚の変わり身
・福田首相の本心
・事務次官等会議

第3章 政策の裏に企みあり
・「政策通」の現実
・カネは国が使うべきか、国民が使うべきか
・定額給付金は「ばらまき」か
・「官僚焼け太り予算」を点検する
・政策立案の手法
・「専務理事政策」とはなにか

第4章 記者の構造問題
・記者はなぜ官僚のポチになるのか
・真実を報じる必要はない?
・「特ダネ」の落とし穴
・記者は道具にすぎない
・官僚にとっての記者クラブ

第5章 メディア操作を打破するために
・霞が関幻想
・先入観としての「三権分立」
・「政府紙幣発行問題」の顛末
・記者が陥る「囚人のジレンマ」
・報道の力を取り戻すために

|

2009.10.22

▽オバマ・ショックとは何か?

越智道雄・町山智浩『オバマ・ショック』(集英社新書)


オバマ・ブームに便乗した本かと思い、長い間、積ん読になっていたのですが、読んでみたら面白かったので、要点を箇条書きにしておきます。アメリカ史におけるオバマの位置づけが、わかると思います。

・ブッシュの8年間でアメリカは、絶頂からどん底まで落ちた
・1980年のレーガンから28年間続いた共和党支配が終焉した
・「イラク=テロの黒幕」説はアメリカの主要メディアで否定されたが米国民の7割は支持していた。2007年でも4割が支持している
・アメリカ人が新聞を読む比率は3割以下、ニュースサイトを読むのは11%
・ブッシュはソーシャル・セキュリティ(社会保障制度)は連邦政府の仕事だということを知らなかった
・ブッシュは父親からバカにされていた
・父親ができなかったフセイン討伐をするが、逆に、父親から叱られてしまう
・「歴史になるころには私たちはもう死んでるよ」と発言したブッシュには歴史意識が欠如していた
・ブッシュはソーシャル・セキュリティ(社会保障制度)を解体しオーナーシップ・ソサエティへの移行を進めようとしたが結果として住宅バブルを招いた
・モノを作ってるうちは労働倫理が国民精神のバックボーンとなるが、富が蓄積されるとモノを作らなくなり国が衰退する
・イラク戦争と、イギリス衰退のきっかけとなったボーア戦争は似ている
・政治や経済が衰えても文化は残る。ギリシャやローマやイギリスの文化は残ったが、アメリカのポップ・カルチャーは生き残れるかわからない
・いまハリウッドには全然お金が入ってこない。ハリウッドの産業規模はゲーム業界を下回る
・共和党支持基盤の白人ですら「もうバカやっちゃいられない」とレーガンやブッシュ路線の共和党に決別し、オバマに投票した
・オバマはマジック・ニグロ=過去のない黒人、つまり先祖に奴隷経験がなかった黒人
・オバマは人種、階級、宗教、コミュニティ、家族関係など、あらゆる面でどこにも帰属してこなかった「絶対的アウトサイダー」
・ミシェル夫人と結婚して「人種的アイデンティティのある家庭」を手に入れることができた

なかなか面白いのでお薦めです。

[目次]
第1章 オバマがチェンジ(変革)するもの—レーガン連合の二八年
第2章 失われた八年—ブッシュとは何だったのか
第3章 アメリカン・ドリームという博打—サブプライムと投機国家
第4章 覇権国家の黄昏—衰える軍事、経済、文化のヘゲモニー
第5章 異端児か、救世主か—オバマが選ばれた理由
終章 彼の「強運」は世界の味方なのか—オバマの未来、アメリカの未来

|

2009.10.19

▽養老孟司と内田樹

『考える人』 (新潮社)2009年秋号・特集「活字から、ウェブへの……。」

昨日紹介した『考える人』 の中から、気になったコメントをいくつか。

まず養老孟司は、まず、ウェブで書かれる文章は、反論を予測しながら書くことになるため、

《官僚の作文に近くなっていきます。しかし、用意周到な文章なんて、読んでいてこれほどおもしろくないものはない》(p.44)

と指摘しています。また、ウェブの中にある文章とは、

《古典だろうが昨日の出来事だろうがすべては過去なんです。パソコンを使って向き合っているのは過去でしかない。……パソコンを使うようになるにしたがって、人類全体が過去に埋没しはじめたんじゃないか。だから生きている気がしない人が増えているのは当然ですね》(p.45)

と警鐘をならしています。一方、ウェブ上のテクストは著作権を放棄している内田樹は、

《あらゆる読者はその長い読書人生を『無料読者』という立場から始めます。……この膨大な無料購読者たちのうちの一部がやがて活字中毒者となり、……『有料購読者』になります》(p.65)

と、まずは無料の読者を増やすことが重要であると説いています。

『考える人』特集「活字から、ウェブへの……。」
http://www.shinchosha.co.jp/kangaeruhito/mokuji.html

|

2009.10.18

▽ほぼ日刊イトイ新聞ができるまで

糸井重里『ほぼ日刊イトイ新聞の本』 (講談社文庫)

新潮社が発行している季刊誌に『考える人』というのがあります。定価はなんと1400円。

最新号である2009年秋号の特集は、「活字から、ウェブへの……。」という、ここ十年くらいの間に、いろんな雑誌や書籍が取り上げてきたテーマを、まだ、やってるのか!? と、ちょっと驚いてしまうようなものでした。ただ、その「活字から、ウェブへ」の代表的な存在としてインタビューされていたのが、「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げた糸井重里でした。

そのインタビューの一部はウェブでも読むことができますが、私が、なるほどと思ったのは、次の一節。

糸井重里ロングインタビュー「ここにいることがうれしい」
http://www.shinchosha.co.jp/kangaeruhito/high/high132.html
《お客さんがたくさん来るか、来ないかという問題では、手招きして呼び寄せる方法ばかりが語られているような気がしますね。手招きする筋肉ばかり発達させても、長続きしないんですよ。たぶんいつかくたびれてくる。》

企業のサイトにしろ、個人のブログにしろ、最近は、アクセス数を伸ばすことを優先しすぎて、結果として、同じネタがぐるぐると繰り返し登場するようになっている気がしています。戦略的には正しいことなのかもしれませんが、中の人が長く続けられることなのか、という点で疑問を感じていました。ですので、この「手招きする筋肉ばかり発達させても、長続きしない」という指摘は、とてもうなずけるものがあります。

そして、糸井重里が、どんな考えで、ほぼ日刊イトイ新聞を開設したのか知りたくなり、『ほぼ日刊イトイ新聞の本』を読んでみました。以下は、その概略です。

1990年代の半ばから、長引く不況やマスメディアの構造転換によって、広告のクリエイティブな世界にもダンピングの波が押し寄せてきて、仕事にあぶれたクリエイターや、意に沿わない仕事をさせられて、すり減っているクリエイターが増えてきた。糸井自身も将来の展望が見えなくなった中で、クリエイティブが主体となったメディアを作りたい、という気持ちが生じてきたという。

コンテンツも、無料で知り合いに書きたいことを書いてもらう、というスタンスで、「クリエイターのまかないめし」を提供してもらうことを重視していた。「ただでもやりたいことをやりたい」というクリエイターは多く、コンテンツが足りないということは無かったそうだ。また、スポンサーをとることは、自由度が無くなるという理由で拒否し、誹謗・中傷が書き込まれやすいので、掲示板も設置しないで、読者からの声はメールだけに限った、という。

本書が最初に書かれたのが2001年で、2004年に文庫化されるにあたり、第8章が追加されたが、この時点でも、「ほぼ日」単体では赤字のままで、書籍や手帳などの物販と、糸井自身の仕事の利益で、黒字を達成している状態という。

「考える人」のインタビューのタイトルにある「ここにいることがうれしい」とは、捨て身で始めた「ほぼ日」が存在し続け、こうしてインタビューを受けることができることに対する喜びを表していることがわかりますね。

[目次]
第1章 ぼくが『ほぼ日』をはじめた理由
第2章 とにもかくにもはじまった
第3章 「いま仕事が流行っている」
第4章 『ほぼ日』をはじめて気づいたこと
第5章 もう一度よく考えてみた
第6章 『ほぼ日』に風が吹く
第7章 『ほぼ日』幼年期の終わり
第8章 その後の『ほぼ日』

|

2009.10.17

▽うつ病じゃないけど、うつな人のための本

日垣隆『折れそうな心の鍛え方』(幻冬舎新書)

日垣隆の著作は、少年法や事件のルポ以外は、あまり評価しておらず、自己啓発本の類は読んだことはなかったのですが、本書のプロローグに綴られた、自身の体験により、本書を、ある種のノンフィクションとして読みました。

[参考]プロローグと第一章
http://www.gfighter.com/images/shop/orespunatachiyomi.pdf

まあ簡単に言えば、人間誰しもうつな状態になることはある、医者や薬に頼らずに、自分の力でやり過ごそう、というのが本書の主張である。そのためのハウツーが、著者の経験を交えつつ書かれている。

たとえば、人間の脳内にはセロトニンという物質があり、これが欠乏すると、鬱状態になるという。そして、セロトニンを活性化させるのによい方法とは、「よく歩くこと、よく物を噛んで食べること、腹式呼吸をすること」(p.82)という。

第五章では、泣ける映画を観て、涙を流すことで、うつからの回復を促すことを薦めており、そのための「泣ける映画ベスト30選」があげられている。

[目次]
プロローグ――「医療関係者のみなさん、しばらく黙っていてください」

第一章 「勝手に自己診断」編
1「喪失の落ち込み」をウツ病にするのはもうやめよう
2「バカボンのパパ」は変人だから愛される
3 会社に行けずディズニーランドは楽しくても、自分を責めない
4「好きだったことがイヤになった」は落ち込みのバロメーター
5 しんどくても、日常生活が破綻していないなら大丈夫
6「イヤ」の理由を分析すると、解決策が見えてくる
7 自分がどの手のトラブルに弱いのか知っておこう
8 共感力が高い人はウツがうつりやすいので要注意
9「ほかの人は平気でも自分には耐えられない」ことはあって当然

第二章 とりあえず「ガス抜き」編
10「ストレス耐性」のコップを溢れさせない
11「時間の経過」だけに任せず、小さなガス抜きを繰り返す
12 話を聞いてくれる人の力を借りて、毒を吐き出す
13 原因を人のせいにする愚痴は、ストレスを育てるだけ
14 じっくり相手を選ぶより、「誰でもいいから即相談」
15「何だか不安」は「何が不安か」が分かっていないから
16「自分のつらさは特別」という思い込みをぶち壊す
17 たくさん笑う。思いきり泣く。我慢しないで言葉にする。
18 人は自分で超えられる悩みや落ち込みしか抱えない

第三章 「まずは応急処置」編
19「忘れる」「取り戻す」「埋め合わせる」で喪失を乗り越える
20 一発逆転を狙わず、やれることは全部やる総力戦で
21 「三カ月で立ち直る」と期限を切ろう
22 人に「がんばれ」と言わせず、自分ではがんばる
23 「始めるためのハードルを下げる」工夫に力を注ごう
24 ジャージで一日ゴロゴロしていいのは、元気な人だけ
25 ぼんやり見ているテレビはエネルギーを奪うのでご用心
26 二八年間サバイバル生活をした横井庄一さんの本を読む
27 よく歩きよく噛みよく呼吸して、自前のセロトニンをつくる
28 パラセイリングとジェットスキーでスカッとする
29 占いのためだけに台湾旅行をしてみる
30 パートナー以外の異性を交えた三人旅をする
31 「給料以外に稼ぐこと」がストレスを減らす鍵になる
32 打ち明け話をするなら中年サラリーマンより女子高校生に
33 七割の人にほめられ、三割に批判されるのがちょうどいい
34 犬を飼って「自分が必要な存在である実感」を取り戻す

第四章 「日々、鍛えてみよう」編
35 ちょっと難しい課題を引き受けて「自分の器」を大きくする
36 才能ある人とは、自分なりの「鍛える努力」を続けられる人
37 諦めずに抵抗すれば、老眼だってずっと先延ばしにできる
38 努力しない長生きタイプは努力する短命タイプに勝てない
39 自分への期待値が高すぎる人は挫けやすい
40 「やればできるけど苦手なこと」は無理してやらない
41 「人に任せられること」は自分で思っているより多い
42 失業もウツも「最悪の事態」を経験できる貴重な機会
43 映画に誘える異性、自分と発想が異なる同性の友人をもつ
44 退屈にも多忙にも翻弄されない自分のペースを持って生きる
45 「いずれ関係が破綻しそうな人」は早めに見限っておく
46 迷ったら縦軸・横軸の四分割で考えるとうまくいく
47 「どうすればいいですか?」は失敗をカバーする魔法の言葉
48 嫉妬は「自分への他者評価」を上げるバネになる
49 一パーセントの可能性にかける潔さをもつ
50 落ち込んだら、まず出口をイメージするのが回復の第一歩

第五章 大人たちよ、映画を観てもっと泣こう――泣ける映画ベスト30選
なぜ「泣ける映画ベスト30選」か
「シンデレラマン」 /「遠い空の向こうに」(と「フラガール」)
「セント・オブ・ウーマン」 /「男たちの大和 YAMATO」
「サトラレ」と「天国までの百マイル」 /「学校Ⅱ」
「明日の記憶」 /「ライフ・イズ・ビューティフル」
「ショーシャンクの空に」/「レインマン」
「アメリカン・プレジデント」 /「スタンドアップ」
「山の郵便配達」
「僕の彼女を紹介します」「ラブストーリー」「猟奇的な彼女」「コールドマウンテン」「ひまわり」
「ターミナル」 /「JSA」
「ギャラクシー★クエスト」 /「あの子を探して」
「グッバイ、レーニン!」と「やさしい嘘」
「BUENA VISTA SOCIAL CLUB」
「RUDY 涙のウイニングラン」/「ラスト・プレゼント」
「ある愛の詩」より断然「ホリデイ」
「オールド・ルーキー」 /「變臉 この櫂に手をそえて」
「ALWAYS 三丁目の夕日」 /「象の背中」
「ベンジャミン・バトン」「エレジー」「歩いても 歩いても」
「SEX AND THE CITY」 /「グラン・トリノ」

|

2009.10.16

▽エコノミストは一貫性が大事

東谷暁『エコノミストを格付けする』(文春新書)


本書は、タイトルどおり、40人のエコノミストを格付けしたもの。著者は、経済ジャーナリストの東谷暁で、2003年の『エコノミストは信用できるか』(文春新書)の続編である。

話題になりやすいのは、終章のエコノミストの格付けの部分であるが、これは、各エコノミストの主張の学問的な当否よりも、主張の論理性や一貫性を見るための指標とした方が良さそうである。

格付け以外の部分で、私が、「やはり、そうだったか」と感じた点は、以下のような点である。

《労働生産性は、実質GDP(国内総生産)を国民の総労働時間で割った数値をもとに算出されるので、当面、手っ取り早く上昇させようと思えば、解雇とアウトソーシングを推進することで見かけ上は達成できる。……アメリカでは、ITバブルが崩壊して雇用が減少したので、かえって労働生産性は上昇したが、住宅バブルが始まって雇用が増えると、今度は労働生産性が下落していった》(p.80)

《グリーンスパンはデータよりも自分の勘を信じるあまり、労働生産性の算出法を変えてIT革命を演出した。つまり、データを自分の勘に合わせたのである。……発表されたアメリカの労働生産性上昇率のグラフは、九五年から上方に折れ曲がっていた。もちろん、九五年にIT革命が起こったからではない。グリーンスパンたちが、意図的に九五年をIT革命元年にしたからなのである。これはITバブルを抑止するどころか、IT時代の到来を印象づけて加速させてしまった》(pp.102-103)

《日本経済を不況から脱出させるには、インフレターゲット政策しかないと論じたのは、アメリカの人気経済学者ポール・クルーグマンだったことはすでに述べた。……では、今回の金融危機に陥って景気後退を経験しているアメリカは、インフレターゲット政策を採用したのだろうか。いまだにFRBも採用していない。これはFRB議長のベン・バーナンキが、インフレターゲット論の本家本元であることを考えると、実に奇妙なことといわねばならない。代わりにアメリカ政府が行なっているのは、日本のインフレターゲット論者たちが、ごく最近まで「効かない」と主張してきた財政政策なのだ。しかも、その旗を振っているのが、クルーグマンその人なのである。……そもそもクルーグマンという経済学者は、自らの言説に責任感の強いエコノミストというわけではけっしてない》(pp.128-129)

[目次]
エコノミストたちの「大恐慌」
金融崩壊を予測できた人、予測できなかった人
新自由主義の罪と罰
格差社会と「小さな政府」
なぜ日本が世界で一番落ち込んだのか
神様グリーンスパンの正体
インフレターゲット論の着地点
財政出動は時代遅れなのか
中国とインドが未来の支配者か
日本経済を復活させる鍵
エコノミストたちの採点評
エコノミスト格付け表(〇九年版)

|

« 2009年9月 | トップページ | 2009年11月 »