2009.12.12

▽「地球の歩き方」の歩き方

山口さやか、山口誠『「地球の歩き方」の歩き方』(新潮社)


「地球の歩き方」と言えば、誰しも一度は旅行の時にお世話になったことがあると思う。その「地球の歩き方」の創刊30年を記念して、上梓されたのが本書らしい。

もともと「地球の歩き方」は、旅行会社の販促用パンフレットとして制作されたものが市販され、じょじょにカバーする国や地域が増えていき、バックパッカーのバイブルへと成長していった。

初期の頃は、実際に、個人旅行をした学生などに原稿執筆を任せていた。面白かったのは、ライターの一人の次のような述懐。

《僕らは書いても無報酬に近かったのです。原稿料はもらっていしまた。でも、もらうとすぐに「その原稿料で、また旅行へ行っておいで」と送り出されました。旅をして、書いて、原稿料をもらったら、またそれを次の旅行につぎ込む、というサイクルを……作られてしまった。僕らの手元にはお金が残りませんでしたが、それでも好きなことをやってるからいいだろう、と思ってました》(p.141)

いまで言うCGM(Consumer Generated Media)の走りだったのだろうが、その後のマスコミによる「地球の歩き方」バッシングを経て、じょじょに、掲載される記事も信頼性を重視するように変わっていった。

本書は、「地球の歩き方」制作サイドの苦労話を軸に、1980年代の個人旅行ブームの勃興から最近までの、個人旅行や旅行業界、そしてガイドブック業界の移り変わりを振り返ることができる。

ちょっと残念なのは、インターネット時代を迎えて、旅行ガイドブックが、これからどうなっていくのかについての展望が欠けている点だろうか。

[目次]
序章 ボクらの旅を、みんなへ

第一章 「自由旅行」の原石
一 「就職ガイド」の会社――「地球の歩き方」前史の前史
二 「自由旅行」の原風景
三 ロンドンの夜
四 「自由旅行」のゆりかご――旅行説明会とマニュアルの誕生

第二章 「自由」を仕掛ける
一 強敵の出現――リクルート・ヤングツアーの参入
二 競争と差別化――眠れない夜が続く日々
三 説明会とマニュアルの到達点――非売品「地球の歩き方」の制作

第三章 「地球の歩き方」の創刊
一 「地球の歩き方」の市販化――旅行情報を開放したい
二 見たことを見たとおりに書く――初期の編集方針
三 失敗と成功――「地球の歩き方」が初めて書店に並んだ日

第四章 みんなで作るガイドブック
一 出版業と旅行業――それぞれの宝探しに奔走した四人組
二 運命のインド編――「地球の歩き方」の道を決めた第三弾
三 手探りと手作り――若き書き手たちの「歩き方」

第五章 シリーズ化への道
一 道なき道を歩く――中国の「自由旅行」とユーレイルパス
二 歩こう! ハワイ――リゾートでも、歩くガイドブック
三 投稿が開いた東南アジアへの道――新しい世代とアジアの旅

第六章 プラザ合意の波に乗って
一 「友の会」から「編集室」へ――プラザ合意前夜の体制変更
二 拡大と拡散――だんだん読者の顔が見えなくなってきた
三 貧乏旅行だけが「自由旅行」じゃない――「南の島」と「都市」

第七章 トップシェアの孤独
一 「旅行」以上「留学」未満――「自由旅行」とは違う旅の提案
二 未知の領域へ――ビジュアルで提案する旅
三 逆風に吹かれて――バッシングと苦情

第八章 世代交代のとき
一 学生旅行の変貌――DSTと旅行説明会の終着点
二 「地球の歩き方マガジン」の実験――創刊メンバーと第二世代の恊働
三 「四人組」体制の終わり――安松清の社長就任と世代交代

終章 新しい歩き方へ
一 ライバルの出現――引き戻される「貧乏旅行」イメージ
二 大リニューアル、そして新しい「地球の歩き方」へ
附 もう一つの歩き方――表紙の三〇年

あとがき
年表


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