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2010年1月

2010.01.18

▽『インターネットで古本屋さんやろうよ!』の行方

芳賀健治『インターネットで古本屋さんやろうよ!』(大和書房)

著者は、2001年7月15日より、インターネットの古本屋「古本うさぎ書林」を経営している。本書が出版されたのは2003年で、インターネットで古本屋を運営していくことの苦労や楽しみを綴っている。

著者は、ブックオフなどの古本リサイクル書店で、100円で売られている本を買い集め、それをインターネットで高値で売る「せどり」という手法を紹介している。著者は、主に映画の本を中心に仕入れており、しかも、どういう本が高く売れるのかについてまで、懇切丁寧に解説している。映画好きの私としても、なかなか楽しく読むことができた。

この趣味と実益をかねたインターネットの古本屋はどうなったか? 著者のブログ「古本うさぎ書林の日日平安」の2008年6月1日のエントリーには、次のようなショッキングなことが書かれていた。

ネットでの古本販売休止のお知らせ
http://usagi-hibi.jugem.jp/?eid=201
《ネット販売の利点は十分承知の上ですが、従来から古書業界にある古本市や即売会の方が自分にあっていて楽しいというのが大きな理由です。24時間営業にならざるをえないネット販売の忙しさよりも生活のメリハリを選んだと言えるかもしれません。》

結局の所、インターネットのビジネスとは、見ず知らずの顧客のために24時間追いまくられるような結果になってしまう、それならば、馴染みの同業者や顧客と顔をあわせることのできる古本市や即売会の方が楽しい、ということなのだろう。

もう一つ、気になったことは、本書において、「安く仕入れて高値で売れた」ものとして紹介された本の多くが、現在のアマゾン・マーケット・プレイスでは、1円で売られていたという事実。「せどり」というビジネスは、本書で描かれていたような牧歌的な時代はとっくに終わり、すでに相当な過当競争に陥っているようだ。

[目次]
第1章――百円で買った本が三千円で売れた!
百円で買った本が三千円で売れた! 
はじめに何が必要か 
古本うさぎ書林スタート 
せどりってなんだ!? 
一冊からはじめよう 
どんな本を売ろうか 
値段をつけよう 
リサイクル書店は問屋だ 
アガサ・クリスティーって誰? 
チェックが甘いリサイクル書店 
閉店した古本屋の話 
本棚はどうする
大きな本は家賃を食う 
インターネットの古本屋は儲かるか 
古本うさぎ書林の仕入れと売上 

第2章――こんな本が売れている~古本うさぎ書林のベストセラー
こんな本が売れている~古本うさぎ書林のベストセラー 
こんな文庫が高く売れた 
まだまだ売れる角川映画の文庫本

第3章――掘り出し物はあるか
知らないジャンルには手を出すな 
新刊書店へ行こう 
オープニング特集は「黒澤明とその周辺」 
八十年代ノスタルジー 
十七年ぶりの古本屋 
シナリオにこだわる理由 
テレビドラマの本 
サイン本はおいしい 
落語家はサイン好き? 
笑芸の本は根強い人気がある 
未知との遭遇 
ちくま文庫はなんとかならないか 
手塚治虫の三十九冊 
はさまっているもの 
現代教養文庫の行く末 
ビデオはじめました 
コツコツと全巻そろえる楽しみ

第4章――せどりに行こう!
せどりに行こう! 
お気に入りせどりマップ 
1 駒沢大学~三軒茶屋~池尻コース 
2 山手線半周コース 
3 中央線コース 
ある日のせどり日記 
古本まつりへ行こう 
気がついたら都心はリサイクル書店だらけ

第5章――古本屋開業のノウハウ  
古物商の許可を取る 
ホームページをつくらないでお店を持つ 
ホームページをつくる 
知っておきたい本の名称 
キーワード検索に強くなる 
郵便局に口座を作る 
梱包材を仕入れる 
代金回収のこと 
注文から発送まで 
これが必需品 
本をピカピカにする 
インターネットの古本屋のためのブックガイド 

あとがき

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2010.01.06

▽エコノミストのつぶやき――『日本はなぜ貧しい人が多いのか』

原田泰『日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学』(日本経済新聞出版社)


本書は、ここ数年にわたって、主にジャーナリズムの世界で騒がれてきた数々の経済・社会に関わるトピックを、エコノミストの立場から、入念なデータの分析を基に検証していく。意外な事実に気づかされる読者も多いと思う。

表題になっている「日本はなぜ貧しい人が多いのか」については、

《日本にはジニ係数に比べて相対的貧困率が高いという問題がある。相対的貧困率とは、所得が低い人から高い人を並べてちょうど真ん中にある人の所得(中位所得)の半分以下の所得しかない人の比率である。》(p.99)

と指摘する。著者は、日本の相対的貧困率が高い理由として、「個人への所得再配分が少ない」(p.101)ことをあげる。日本は、児童手当、失業給付、生活保護などの社会保障給付が他の先進国に比べて少ないため、最終的な可処分所得で不平等が大きくなり、相対的貧困率も高くなるという。

もちろん本書の読みどころは、統計データの分析によって、さまざまなトピックを検証していく点だが、それに加えて面白いのは、著者がそれぞれのコラムでぼそっとつぶやくように指摘するところだろう。

《アメリカではお坊ちゃま同士の競争があるが、日本の地方ではそれがない。二世政治家の実家を見ると、豪邸の場合にはその周りに家来のような家が並んでいる。それが、日本の政治家のレベルを引き下げているのではないだろうか。》 (第1章 1.日本の地方にはなぜ豪邸街がないのか)

《ストライカー産業をどう育てたら良いかは、実は分からない。分からないことに予算を使うべきではない。むしろ、ストライカー産業のコストである投入産業(運輸、通信、電力、金融、工業団地、工場用水などを提供する産業)の効率を高め、そのコストを引き下げてはどうだろうか。》 (第1章 2.日本にはストライカーがいないのか)

《ヨーロッパの福祉国家は、まだ理性を失っていない。少なくとも、イギリスとオランダは分かっている。働いている人々から税金と年金保険料を取り立てれば、老後が安心になるわけではないことを分かっている。》 (第3章 11.増税分はどこに使うべきか)

《なぜ日本経済は大停滞に陥ってしまったのだろうか。……労働生産性の低下ではなくて、労働投入が減少したことが停滞の理由である……デフレで実質賃金が高止まってしまったことが労働投入減少の大きな理由である》 (第5章 4.「大停滞」の犯人は見つかったのか)

《北海道の場合、拓銀破綻前には全国よりひどい不況で、破綻後に全国並みの不況に「回復した」という事実から判断すると、破綻によって貸しはがしがなくなって、むしろ良かったということになる。》 (第6章 6.金融機関の破綻は負の乗数効果を持つのか)

[目次]
はじめに

第1章 日本は大丈夫なのか
1.日本の地方にはなぜ豪邸街がないのか
2.日本にはストライカーがいないのか
3.人口減少でサッカーも弱くなるのか
4.日本は投資しすぎなのか
5.日本の労働生産性は低下したのか
6.少年犯罪は増加しているのか
7.給食費を払わないほど日本人のモラルは低下しているのか
8.なぜ「新しい世代」ほど貯蓄率が高いのか
9.若年失業は構造問題なのか
10.日本の教育論議は、なぜ「信念の吐露」にすり替わるのか
11.なぜ教育が必要なのかを語らないのか
12.学力格差をどう克服するか

第2章 格差の何が問題なのか
1.世界はいつ不平等になったのか
2.格差問題の本質は何か
3.グローバリゼーションは格差をもたらすのか
4.「均等法格差」は生まれたのか
5.地域間の1人当たりの所得格差は拡大したのか
6.地域間の所得格差は拡大したのか
7.外車販売台数で地域格差を見ることができるか
8.日本の生活保護制度はどこが変なのか
9.日本はなぜ貧しい人が多いのか

第3章 人口減少は恐いのか
1.人口が減少したら1人当たりの豊かさは維持できないのか
2.成長のために人口増と就業者増のどちらが重要か
3.就業率の低下をくい止めたのは誰か
4.子供の方程式で何が分かるか
5.若年層の所得低下が出生率を低下させたのか
6.第1次大戦前、人口が増加する国ほど豊かになったのはなぜか
7.低成長、人口減少時代の年金はどうあるべきか
8.高齢者はいつ豊かになったのか
9.「高齢化で医療費増」は本当か
10.高齢者ほど負担する意志があるのはなぜか
11.増税分はどこに使うべきか

第4章 世界に開かれることは厄介なのか
1.中国のGDPは、本当はいくらなのか
2.なぜ中国は急速な成長ができるのか
3.中国は脅威なのか、お得意様なのか
4.中国の雇用はなぜ伸びないのか
5.円は安すぎるのか
6.経常黒字をため込むことは必ず損なのか
7.経常収支の黒字はどれだけ円高をもたらすのか
8.人口減少に輸入拡大で対応できるか
9.「国際競争力」はどれだけ生活レベルを高めるのか

第5章 経済の現状をどう見れば良いのか
1.世界金融危機の影響はなぜ日本で大きいのか
2.なぜ資本市場と銀行の両方が破壊されたのか
3.企業の利益は、なぜ2007年まで復活していたのか
4.「大停滞」の犯人は見つかったのか
5.1970年代に成長率はなぜ低下したのか
6.アメリカはニューエコノミーになっていたのか
7.19世紀の世界経済はなぜデフレになったのか
8.昭和恐慌の教訓は何か
9.アメリカの大恐慌を終わらせるのに世界大戦が必要だったか

第6章 政府と中央銀行は何をしたら良いのか
1.日銀総裁のパフォーマンスはその出身によるのか
2.日本銀行は何を目標としているのか
3.なぜ低金利が続いているのか
4.日本の物価はなぜ上がらないのか
5.資本注入は経済を救えるか
6.金融機関の破綻は負の乗数効果を持つのか
7.最後の日本人にとって国債とは何か
8.どの都知事が財政家だったのか
9.大阪府はなぜ財政再建できたのか
10.日本は本当に省エネ大国なのか
11.官民賃金格差は地域に何をもたらしたのか
12.離婚と地方の自立はどこが似ているのか

おわりに

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2010.01.04

▽日本産業社会の「神話」を反証していく

小池和男『日本産業社会の「神話」――経済自虐史観をただす』(日本経済新聞出版社)


「経済自虐史観をただす」というサブタイトルは、やや大仰で、内容を正確には表していないように感じられるが、本書の主眼は、日本経済に対する通念を、信頼性の高いデータに基づいて反証していくことにある。

本書で取り上げられている通念とは、日本は集団主義である、日本人は会社が好き、年功賃金は日本的な制度である、日本人は長時間労働である、日本は企業別組合である、日本の経済発展は政府のおかげである、というもの。

それぞれの反証については、各章で読んでもらうとして、私が興味深かったのは、明治から昭和にかけて世界的に発展した日本の紡績業のくだりで、日本経済が発展できたのは政府のおかげという通念に反論している。

《日本経済のテイクオフを断然リードした紡績業をみれば、明らかに事態は異なる。なるほど国営工場や大藩の工場からスタートし、お雇い外国人に頼ったことも事実である。だが、そうした工場はすべて失敗し消えさった。成功した企業はいまの東洋紡であり、生粋の民間企業、日本人が技術者トップであった。当時最新鋭の機械を用い、そのうえ他国にみられない職場の工夫を講じて英米に追いつき追い越していったのであった》(p.2)

このほかにも、日本人とイギリス人の働き方について、筆者の海外での生活体験を踏まえた考察もあり(内容はやや古いのが難点だが)、とても面白く読むことができる。

[目次]
第1章 激しい個人間競争
第2章 日本の働く人は会社が好きか―意識調査の国際比較
第3章 「年功賃金」は日本の社会文化の産物か―戦前日本の軍のサラリー
第4章 日本は長く働くことで競争力を保ってきたか
第5章 日本は企業別組合か
第6章 政府のお陰か―綿紡績業の展開
終章 己を知る難しさ―「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」

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2010.01.01

▽カルロス・ゴーンと鈴木修の直感のすごさ

日本経済新聞社編『大収縮 検証・グローバル危機』(日本経済新聞社)


本書は、2009年4月から9月にかけて日本経済新聞に連載された「大収縮~検証・グローバル危機」をまとめたもの。紙面に掲載された記事に加えて、割愛されたインタビューも収録されている。特に目新しい情報や裏話と言えるものは無いのですが、興味深かったのは、日産自動車社長のカルロス・ゴーンと、スズキ会長の鈴木修のインタビュー。

カルロス・ゴーン社長のインタビュー(pp.50-54)によると、「初めにおかしいと思ったのは2008年初めだった」。米国の住宅着工件数の減速や新車販売の鈍化に気づいて、2008年2月に米国で早期退職を実施。2008年6月には欧州で消費者信頼感指数が落ち始めたため、新規採用を凍結し、在庫も減らしたという。その3ヶ月後にリーマンショックは起きた。

一方、鈴木修会長のインタビュー(pp.86-88)によると、「リーマンショックの1年前の2007年秋、『何かおかしい』と感じて、在庫減らしを全社に命じた」。2008年4月からは、輸出用のクルマの船積みに会長決裁が必要とし、在庫の圧縮を図った。その結果、在庫は2008年9月までに3000億円と、1年間で1000億円圧縮できた。

この2人の直感は、やはりすごいと言わざるをえませんね。この二社と対照的なのは、トヨタで、リーマンショックの直前の段階でも北米で新工場の建設をすすめていました。

しかし、経済学者のスティグリッツ教授は、2005年春の時点で、「米国人の借金は貿易赤字でみて1営業日あたり30億ドル(3000億円)。こんな経済が長続きするとは思えない」(p.78)と語っています。まあ、この後も、リーマン・ショックまでの3年半もの間、アメリカの過剰消費バブルは続いてしまったわけですが……。

[目次]
1章 リーマン破綻「9・15」の衝撃
2章 当局の闘い
3章 GEの苦闘
4章 危機はいつから
5章 リーマン破綻から1年

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▽なぜ自民党は大敗したのか?――曲解された世論を読み解く

菅原琢『世論の曲解―なぜ自民党は大敗したのか』(光文社新書)


自民党の小泉政権の跡を継いだ安倍、福田、麻生政権に吹いた逆風を、「小泉構造改革路線」への批判によるものと、マスメディアの多くは説明してきました。しかし、私は、むしろ「安倍首相が構造改革を推し進めなかったことに原因があるのではないか?」と感じていたのですが、それを、本書が実証してくれました。

《郵政選挙をひとつのピークとした小泉政権は、それまで自民党を支持してこなかったような人々、都市部の若年・中年層を取り込むことで、一定の支持を獲得し、これを基盤に政権を維持することに成功した。しかし、これを引き継いだ安倍政権は、郵政造反組の復党に代表されるような「反動的」な姿勢を見せ、イデオロギー路線を追求したために、小泉時代に獲得した改革を支持するこれらの層に見放されることとなった》(pp.115-116)

しかし、2007年参院選で敗北した自民党は、小泉路線からの修正を図ろうとして、返って自滅の道を歩んでしまい、2009年衆院選での大敗・下野へと至ります。

本書では、このほか、麻生人気はメディアによってつくられたものである、2009年衆院選の民主党の圧勝は、自民党の退潮だけでなく、国民党・社民党などとの選挙協力や共産党が候補者を無理して立てなかったことなどによるものである、と指摘しています。マスメディアによって流布される曲解された世論を、重厚なデータの分析を通じて読み解いていきます。

[目次]
はじめに
第1章 寝た子を起こした?―2005年総選挙・郵政解散の意味
 コラム1 新しい投票者と新しい選択肢―30代首長流行の背景にある現職苦戦の選挙構造
第2章 逆小泉効果神話―曲解される2007年参院選の「民意」
第3章 逆コースを辿る自民党―安倍政権はなぜ見限られたのか
第4章 「麻生人気」の謎―2007年総裁選・迷走の構図
 コラム2 年代別選挙区制は若者を救うか?
第5章 作られた人気―「次の首相」調査の意味
 コラム3 内閣改造は内閣支持率を浮揚させるのか?―質問文「改造」効果説
第6章 世論とネット「世論」―曲解が生まれる過程
 コラム4 若者は左傾化しているのか?―憲法意識調査に見る回答の曖昧さと柔軟さ
第7章 「振り子」は戻らない―2009年総選挙・自民党惨敗の表層と底流
終章 自民党大敗の教訓―世論の曲解を繰り返さないために
巻末資料
あとがき

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