2010.01.06

▽エコノミストのつぶやき――『日本はなぜ貧しい人が多いのか』

原田泰『日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学』(日本経済新聞出版社)


本書は、ここ数年にわたって、主にジャーナリズムの世界で騒がれてきた数々の経済・社会に関わるトピックを、エコノミストの立場から、入念なデータの分析を基に検証していく。意外な事実に気づかされる読者も多いと思う。

表題になっている「日本はなぜ貧しい人が多いのか」については、

《日本にはジニ係数に比べて相対的貧困率が高いという問題がある。相対的貧困率とは、所得が低い人から高い人を並べてちょうど真ん中にある人の所得(中位所得)の半分以下の所得しかない人の比率である。》(p.99)

と指摘する。著者は、日本の相対的貧困率が高い理由として、「個人への所得再配分が少ない」(p.101)ことをあげる。日本は、児童手当、失業給付、生活保護などの社会保障給付が他の先進国に比べて少ないため、最終的な可処分所得で不平等が大きくなり、相対的貧困率も高くなるという。

もちろん本書の読みどころは、統計データの分析によって、さまざまなトピックを検証していく点だが、それに加えて面白いのは、著者がそれぞれのコラムでぼそっとつぶやくように指摘するところだろう。

《アメリカではお坊ちゃま同士の競争があるが、日本の地方ではそれがない。二世政治家の実家を見ると、豪邸の場合にはその周りに家来のような家が並んでいる。それが、日本の政治家のレベルを引き下げているのではないだろうか。》 (第1章 1.日本の地方にはなぜ豪邸街がないのか)

《ストライカー産業をどう育てたら良いかは、実は分からない。分からないことに予算を使うべきではない。むしろ、ストライカー産業のコストである投入産業(運輸、通信、電力、金融、工業団地、工場用水などを提供する産業)の効率を高め、そのコストを引き下げてはどうだろうか。》 (第1章 2.日本にはストライカーがいないのか)

《ヨーロッパの福祉国家は、まだ理性を失っていない。少なくとも、イギリスとオランダは分かっている。働いている人々から税金と年金保険料を取り立てれば、老後が安心になるわけではないことを分かっている。》 (第3章 11.増税分はどこに使うべきか)

《なぜ日本経済は大停滞に陥ってしまったのだろうか。……労働生産性の低下ではなくて、労働投入が減少したことが停滞の理由である……デフレで実質賃金が高止まってしまったことが労働投入減少の大きな理由である》 (第5章 4.「大停滞」の犯人は見つかったのか)

《北海道の場合、拓銀破綻前には全国よりひどい不況で、破綻後に全国並みの不況に「回復した」という事実から判断すると、破綻によって貸しはがしがなくなって、むしろ良かったということになる。》 (第6章 6.金融機関の破綻は負の乗数効果を持つのか)

[目次]
はじめに

第1章 日本は大丈夫なのか
1.日本の地方にはなぜ豪邸街がないのか
2.日本にはストライカーがいないのか
3.人口減少でサッカーも弱くなるのか
4.日本は投資しすぎなのか
5.日本の労働生産性は低下したのか
6.少年犯罪は増加しているのか
7.給食費を払わないほど日本人のモラルは低下しているのか
8.なぜ「新しい世代」ほど貯蓄率が高いのか
9.若年失業は構造問題なのか
10.日本の教育論議は、なぜ「信念の吐露」にすり替わるのか
11.なぜ教育が必要なのかを語らないのか
12.学力格差をどう克服するか

第2章 格差の何が問題なのか
1.世界はいつ不平等になったのか
2.格差問題の本質は何か
3.グローバリゼーションは格差をもたらすのか
4.「均等法格差」は生まれたのか
5.地域間の1人当たりの所得格差は拡大したのか
6.地域間の所得格差は拡大したのか
7.外車販売台数で地域格差を見ることができるか
8.日本の生活保護制度はどこが変なのか
9.日本はなぜ貧しい人が多いのか

第3章 人口減少は恐いのか
1.人口が減少したら1人当たりの豊かさは維持できないのか
2.成長のために人口増と就業者増のどちらが重要か
3.就業率の低下をくい止めたのは誰か
4.子供の方程式で何が分かるか
5.若年層の所得低下が出生率を低下させたのか
6.第1次大戦前、人口が増加する国ほど豊かになったのはなぜか
7.低成長、人口減少時代の年金はどうあるべきか
8.高齢者はいつ豊かになったのか
9.「高齢化で医療費増」は本当か
10.高齢者ほど負担する意志があるのはなぜか
11.増税分はどこに使うべきか

第4章 世界に開かれることは厄介なのか
1.中国のGDPは、本当はいくらなのか
2.なぜ中国は急速な成長ができるのか
3.中国は脅威なのか、お得意様なのか
4.中国の雇用はなぜ伸びないのか
5.円は安すぎるのか
6.経常黒字をため込むことは必ず損なのか
7.経常収支の黒字はどれだけ円高をもたらすのか
8.人口減少に輸入拡大で対応できるか
9.「国際競争力」はどれだけ生活レベルを高めるのか

第5章 経済の現状をどう見れば良いのか
1.世界金融危機の影響はなぜ日本で大きいのか
2.なぜ資本市場と銀行の両方が破壊されたのか
3.企業の利益は、なぜ2007年まで復活していたのか
4.「大停滞」の犯人は見つかったのか
5.1970年代に成長率はなぜ低下したのか
6.アメリカはニューエコノミーになっていたのか
7.19世紀の世界経済はなぜデフレになったのか
8.昭和恐慌の教訓は何か
9.アメリカの大恐慌を終わらせるのに世界大戦が必要だったか

第6章 政府と中央銀行は何をしたら良いのか
1.日銀総裁のパフォーマンスはその出身によるのか
2.日本銀行は何を目標としているのか
3.なぜ低金利が続いているのか
4.日本の物価はなぜ上がらないのか
5.資本注入は経済を救えるか
6.金融機関の破綻は負の乗数効果を持つのか
7.最後の日本人にとって国債とは何か
8.どの都知事が財政家だったのか
9.大阪府はなぜ財政再建できたのか
10.日本は本当に省エネ大国なのか
11.官民賃金格差は地域に何をもたらしたのか
12.離婚と地方の自立はどこが似ているのか

おわりに


|

書評2010年」カテゴリの記事