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2010年5月

2010.05.09

▽二大政党制批判論

吉田徹『二大政党制批判論 もうひとつのデモクラシーへ』(光文社新書)


二大政党制の国と言えばアメリカとイギリスが双璧ですが、そのイギリスが直近の総選挙でハング・パーラメント(宙づり状態の議会)となり、小選挙区制の選挙制度の見直しもありうるのではないか、ともささやかれています。

本書は、米英にあこがれて二大政党制の確立をめざしてきた日本政治への警告の書といえます。そもそも、日本人には、イギリスの政治システムへのあこがれがあった、と本書では指摘されています。

そして、もう一つ「多党制の神話」なるものも存在します。これは、多党制では少数与党か連立政権であり、それゆえに短命であるため、好ましくないという神話です。しかし、これは短命だったワイマール期ドイツやフランス第四共和制の強烈なイメージから生じた神話に過ぎず、多くの場合、多党制政府でも短命かつ不安定ではないという研究結果もあるそうです。

さらに、イギリス型の二大政党制をめざしてきた日本ですが、いまだ完全な二大政党制には至っていないとも指摘されています。

《実現しつつあるのは、自民党と民主党を両極として、その周りに小政党が衛星のようにつらなるような「二極化(bipolarization)」の進展である。》(p.194)

イデオロギーや安全保障、あるいは大きな政府と小さな政府といった明確な対立の軸がないままに、二つの極へと分裂していく日本政治は、票を獲得するための争点をあえて作り出そうとしたり、票につながるような政策ばかりをとりやすくなるような状態へと堕落しています。そして著者は、日本の政治は、民意をすくい上げるという点において、制度疲労をおこしている、と指摘します。

著者は、この問題を克服するためのもうひとつのデモクラシーとして、「闘技デモクラシー」という概念を提起しています。ただ、この概念が抽象的すぎて、今ひとつわかりにくく、実現できうるものなのかは、残念ながら不明です。

[目次]
第1章 政党はどのような存在なのか
第2章 政治改革論と「政治工学」の始まり
第3章 二大政党制の誤謬
第4章 歴史の中の政党政治―なぜ社会に根付かないのか
第5章 もうひとつのデモクラシーへ

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2010.05.06

▽村上春樹の小説とせどりのシンクロニシティ

吉本康永『大金持ちも驚いた105円という大金』(三五館)

また、せどりの本を見つけて読んでしまいました(笑)。

▽『インターネットで古本屋さんやろうよ!』の行方
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/01/post-36d0.html
▽『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/03/post-0cb8.html

本書『大金持ちも驚いた105円という大金』の著者は、定年間近の予備校教師の方ですが、昨今の不況により給料のカットを言い渡されました。このままでは月々の住宅ローンの支払いに窮することから、アマゾン・マーケットプレイスで蔵書を売り払ってローンの穴埋めをするうちに、せどり稼業へと足を踏み入れることになりました。

後に税理士さんから「天職」と言われるほどに著者のせどりビジネスは順調に拡大していき、開始後わずか一年で、月商百万円(粗利益はその半分くらい)に達します。ものすごいサクセス・ストーリーを読んでいるようで他人事ながらもわくわくしてしまいます。

そんな著者が仕事の合間に村上春樹の小説を読み始めて、はまり、ほとんどの作品を読んだ後に、次のような感想をもらします。

《牽強付会を承知であえて言えば、私の精神の失調状態と村上春樹の小説の登場人物たちの精神の失調状態がシンクロしていたようにも思えます。
 話が飛びすぎるかもしれませんが、そういう意味において私は若い人たちがせどりで生計をたてていくことには否定的です。せどりは孤独で辛気臭い作業ですし、一日、だれとも話さず生きていくことも可能です。また、ネットを介してお客様とのコミュニケーションもやろうと思えば可能でしょうが、大切な生身の人間との関係性を構築できなくなってしまう恐れがあります。》(p.86)

[目次]
    ローン地獄
    アマゾンへの出品
    せどり生活のスタート
    訪れる失敗
    アコーディオン買い
    せどりの日々
    著名人本の価値
    車の買い替え
    パソコンと本の分類
    アマゾン一人勝ち
    せどりのジャンル
    税理士登場
    古物商許可証取得
    さまざまなお客様
    売り上げ記録は更新中だが…
    せどりの技術
    ある日のせどり旅
    ローン地獄からの脱出
    本の運命

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2010.05.04

▽アニメ作家としての手塚治虫

津堅信之『アニメ作家としての手塚治虫 その軌跡と本質』(NTT出版)


手塚治虫が日本のTVアニメの制作環境を劣悪なものにした、という批判がある。その根拠として、手塚の設立した虫プロダクションが、日本初の国産TVアニメ『鉄腕アトム』を、一本五十五万円という破格の低料金で引き受けた、というエピソードが繰り返し語られてきた。しかし、本書の著者は、この通説を、関係者へのインタビューなどの綿密な調査によって覆す。

まず、虫プロが引き受けた一本五十五万円という価格は、確かに当時のアニメ制作に必要と考えられていた二百五十万円からみれば、格安だったといえよう。しかし、当時の他のTV番組の制作費と比べれば、決して安いものではなく、むしろ同等か若干高いくらいであった。

また実際には、代理店が裏では百万円を上乗せした百五十五万円を払っていた。そして、値上げ交渉も継続して行われていた。虫プロの営業担当者だった須藤将三は、次のように証言している。

《もちろん、経理上は最初から百五十五万円で処理していました。その後も値上げ交渉をしていって、『アトム』は放映された四年間で、最終的には一本三百万円を超えるまでになったと思います。》(p.129)

こうした調査を踏まえて著者は次のように結論づけている。

《それでも、今日までアニメーターの給与水準が著しく低く抑えられてしまっているのは、『アトム』以降に新規参入してきたプロダクションの経営努力の有無や度合いにも、その要因を求めるべきではないのか。また、当初は版権収入を要求しなかった放送局や出版社が、次第にそれらの権利を要求しはじめ、アニメ制作会社の収入が相対的に低くなってきたことも遠因として挙げるべきであり、これは虫プロには直接的な責任はない。》(p.133)

[目次]
第1章 アニメへの開眼 -手塚治虫の出発点
1-1 ディズニー映画への傾倒
----誕生と幼少期
----少年期に見ていたアニメーション
----アニメーションの「自主制作」
1-2 『桃太郎 海の神兵』の衝撃
1-3 アニメーションの道へ
----アニメーションスタジオ訪問
----ディズニー再び
----日本アニメーション作家協会での印象
----アニメを作るために漫画家になった!?

第2章 虫プロ設立まで
2-1 東映動画での顛末
2-2 虫プロ設立の経緯
2-3 第一作『ある街角の物語』

第3章 『鉄腕アトム』の背景
3-1 立案から放映前後
----手塚治虫ライン
----虫プロ・萬年社ライン
----東映動画ライン
3-2 制作費に関する異聞
----諸説存在する制作費の数字
----虫プロの経営努力

第4章 実験アニメーションの成果
4-1 手塚の実験アニメーションの系譜
4-2 『JUMPING』の飛躍
4-3 アニメラマ成立の背景
----第一作『千夜一夜物語』
----最初で最後の前衛的長編アニメーション『哀しみのベラドンナ』
----アニメラマの評価
4-4 手塚治虫の「実験」

第5章 手塚アニメの語られ方
5-1 『鉄腕アトム』は是か非か
5-2 批評家はなぜ手塚を避けたのか

第6章 大衆か実験か
6-1 『アトム』がもたらしたもの
----animeの発明
----漫画を原作にするということ
----人材の育成
6-2 大衆か実験か
6-3 手塚治虫の作家性

第7章 手塚アニメとは何だったのか
7-1 手塚アニメの動機
----アニメーション制作の動機は何だったのか
----テレビアニメ『鉄腕アトム』とは何だったのか
----虫プロダックションとは何だったのか
7-2 関係者による「手塚アニメとは何だったのか」
7-3 手塚アニメと「日本のアニメ」

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2010.05.02

▽あやしい健康情報とニセ科学

松永和紀『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)


《二〇〇六年には、遺伝子組み換え大豆が危険だと主張するロシア人研究者が市民団体などの招きで来日し、全国を講演して回りました。海外ではまともなメディアからは相手にされていないのに、日本ではテレビ局や全国紙が危険説をそのまま報じて後に事実上の訂正をする騒ぎとなり、生物学者らに衝撃を与えました。「これほどずさんな主張を、日本のメディアは見破れないのか」というショックでした。》(p.193)

村上春樹は『ダンス・ダンス・ダンス』において、コピーライターの仕事を「文化的雪かき」と表現した。それは、誰もやりたくないが、誰かがやらなければならない仕事を意味していた。そして、この「文化的雪かき」にも似た仕事を、せっせせっせと続けているのが、科学ジャーナリストの松永和紀だろう。さしずめ「科学的雪かき」と言えるのかもしれない。

本書は、その副題にあるように、メディアを通じてばらまかれるあやしい健康情報やニセ科学を批判的に検証していく。著者は、テレビの情報番組で取り上げられるような白インゲン豆ダイエットや納豆ダイエットから、専門家と称する人たちが主張する添加物や遺伝子食品の危険性など多岐にわたる情報の科学的根拠の無さ、を一つ一つ立証していく。そして、そうしたデタラメな報道がマスメディア内部で、どのように作り上げられていくかを説明していく。

最近では、マスメディアに対抗するために、学者や行政がインターネットを使って、冷静な反論を行うケースも増えているという。本書は、ニセ科学に対する警告の書であるとともに、秀逸なメディア論としても読むことができる。

[目次]
はじめに
第1章 健康情報番組のウソ
 幼児まで被害に遭った白インゲン豆ダイエット
 TBSのいい加減さに医療関係者は怒った
 白インゲン豆にダイエット効果なし
 納豆ダイエットのウソ
 最初に結論ありき
 みのもんた症候群
 寒天ブームも健康被害生む
 レタスの快眠作用も捏造か
 捏造事件を契機に起きた奇妙なバッシング
 メディアは責任をとってくれない
第2章 黒か白かは単純すぎる
 量の大小を考える
 中国産野菜報道もトリックだった
 単位を理解する
 日本ではDDT報道もゆがむ
 WHOが利用を推進
 リスクとベネフィットを考える
 PCB処理も難航
 北九州市が立地検討
 科学者が扇動
第3章 フードファディズムの世界へようこそ
 効能成分を食べるつもりがかえって有害に
 紅茶は○でもミルクティは×
 β-カロテンで発がん率上昇も
 フードファディズムが氾濫
第4章 警鐘報道をしたがる人びと
 世間を恐怖に陥れた環境ホルモン騒動
 人への環境ホルモン作用は確認されず
 低用量効果も否定された
 悪いニュースはいいニュース
 冷静さを欠く化学物質過敏症報道
 二重盲検法
 患者数も誇張か?
 遺伝的な個人差が関係?
 かわいそうな患者
第5章 添加物バッシングの罪
 三菱自動車の車は燃えやすい?
 添加物バッシングが燃えさかった二〇〇六年
 間違いだらけの本
 誤解が広がっていく
 バッシングのせいで消費者は困った事態に
 バッシングが生んだ最大の悪影響
第6章 自然志向の罠
 オーガニック食品は安全じゃない?
 作物は体内で天然農薬を作っている
 有機のおいしさは新しいから?
 天然農薬かファイトケミカルか
第7章 「昔はよかった」の過ち
 現代の味噌はアメリカ文化の産物
 野菜不足で短命だった日本人
 懐古主義では解決しない
 アレルギー増加は清潔化が原因?
第8章 ニセ科学に騙されるな
 マイナスイオンが大流行
 メディアが騙された理由は……
 マイナスイオンブームが再燃?
 「水からの伝言」は教育、政治の場面に
 国会質問、自治体広報紙にも登場
 子どもは信じていない
第9章 ウソつき科学者を見破れ
 遺伝子組み換え大豆が問題に
 ずさんな実験結果
 日本で騒動が再燃
 騙しのテクニックの見本市
 科学の衣をまとった売名行為
 ナンチャッテ学者の倫理観
第10章 政治経済に翻弄される科学
 バイオ燃料ブーム
 トウモロコシが燃料用エタノールに
 地産地消の商品
 燃料vs食料
 抜本的な農業政策が必要
 ブレークスルー技術が必要
 トランス脂肪酸問題も国家間のせめぎ合い
 規制強化が有利になるマレーシアやインドネシア
第11章 科学報道を見破る十カ条
 フリーの科学ライターの懐具合は……
 科学者の倫理
 科学者がブログで情報発信
 日本語の壁
 NGOによる科学を使った企業テロ
 優れたリスクコミュニケーション
 科学報道を見破る十カ条
おわりに

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2010.05.01

▽堕ちた翼の真実

大鹿靖明『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』(朝日新聞出版)


本書は、『ヒルズ黙示録』などの著者である、アエラ編集部所属の大鹿靖明が、JAL倒産に至る過程を叙述したものである。

ただ、その内容は、民主党政権成立後から、前原・国土交通大臣によるタスクフォースの設立・解散、企業再生支援機構による支援決定までの政治の舞台裏が中心であって、倒産企業のドキュメントとしてみると、その分析はやや物足りない。

しかし、JAL倒産の要因の一つとして、しばしば指摘されてきた「政治家に赤字路線を押し付けられた」とする意見には次のように反駁している。

《JALの国内不採算路線は、政治家や航空官僚の介入によって開設されたものではなく、むしろ旧JASとの経営統合によってもたらされている。……それとて、低需要地方(年間30万人未満)の路線シェアは、ANAの66・7%に対し、JALは33・3%しかない。乗客の少ない路線はANAのほうが多く抱えているのに、ANAはつぶれず、JALは倒産した。JAL倒産の遠因に、国内の赤字路線と因果関係を結びつける議論には無理がある。》(pp.156-158)

また、JAL内で出世の階段を登っていく生え抜きのエリート社員たちと、地味な仕事を押し付けられている派遣社員や中途入社の社員たちとの対比は、現在の日本社会の様相を表しているとも言える。著者は、最後の一文「JALの次は、メディアである。」(p.308)に、どんな想いを込めたのであろうか?

[目次]
第1章 政権交代
第2章 タスクフォース
第3章 タスクフォース2失速
第4章 寄生産業
第5章 負の遺産
第6章 ダッチロール
第7章 二次破綻リスク

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