2010.05.02

▽あやしい健康情報とニセ科学

松永和紀『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)


《二〇〇六年には、遺伝子組み換え大豆が危険だと主張するロシア人研究者が市民団体などの招きで来日し、全国を講演して回りました。海外ではまともなメディアからは相手にされていないのに、日本ではテレビ局や全国紙が危険説をそのまま報じて後に事実上の訂正をする騒ぎとなり、生物学者らに衝撃を与えました。「これほどずさんな主張を、日本のメディアは見破れないのか」というショックでした。》(p.193)

村上春樹は『ダンス・ダンス・ダンス』において、コピーライターの仕事を「文化的雪かき」と表現した。それは、誰もやりたくないが、誰かがやらなければならない仕事を意味していた。そして、この「文化的雪かき」にも似た仕事を、せっせせっせと続けているのが、科学ジャーナリストの松永和紀だろう。さしずめ「科学的雪かき」と言えるのかもしれない。

本書は、その副題にあるように、メディアを通じてばらまかれるあやしい健康情報やニセ科学を批判的に検証していく。著者は、テレビの情報番組で取り上げられるような白インゲン豆ダイエットや納豆ダイエットから、専門家と称する人たちが主張する添加物や遺伝子食品の危険性など多岐にわたる情報の科学的根拠の無さ、を一つ一つ立証していく。そして、そうしたデタラメな報道がマスメディア内部で、どのように作り上げられていくかを説明していく。

最近では、マスメディアに対抗するために、学者や行政がインターネットを使って、冷静な反論を行うケースも増えているという。本書は、ニセ科学に対する警告の書であるとともに、秀逸なメディア論としても読むことができる。

[目次]
はじめに
第1章 健康情報番組のウソ
 幼児まで被害に遭った白インゲン豆ダイエット
 TBSのいい加減さに医療関係者は怒った
 白インゲン豆にダイエット効果なし
 納豆ダイエットのウソ
 最初に結論ありき
 みのもんた症候群
 寒天ブームも健康被害生む
 レタスの快眠作用も捏造か
 捏造事件を契機に起きた奇妙なバッシング
 メディアは責任をとってくれない
第2章 黒か白かは単純すぎる
 量の大小を考える
 中国産野菜報道もトリックだった
 単位を理解する
 日本ではDDT報道もゆがむ
 WHOが利用を推進
 リスクとベネフィットを考える
 PCB処理も難航
 北九州市が立地検討
 科学者が扇動
第3章 フードファディズムの世界へようこそ
 効能成分を食べるつもりがかえって有害に
 紅茶は○でもミルクティは×
 β-カロテンで発がん率上昇も
 フードファディズムが氾濫
第4章 警鐘報道をしたがる人びと
 世間を恐怖に陥れた環境ホルモン騒動
 人への環境ホルモン作用は確認されず
 低用量効果も否定された
 悪いニュースはいいニュース
 冷静さを欠く化学物質過敏症報道
 二重盲検法
 患者数も誇張か?
 遺伝的な個人差が関係?
 かわいそうな患者
第5章 添加物バッシングの罪
 三菱自動車の車は燃えやすい?
 添加物バッシングが燃えさかった二〇〇六年
 間違いだらけの本
 誤解が広がっていく
 バッシングのせいで消費者は困った事態に
 バッシングが生んだ最大の悪影響
第6章 自然志向の罠
 オーガニック食品は安全じゃない?
 作物は体内で天然農薬を作っている
 有機のおいしさは新しいから?
 天然農薬かファイトケミカルか
第7章 「昔はよかった」の過ち
 現代の味噌はアメリカ文化の産物
 野菜不足で短命だった日本人
 懐古主義では解決しない
 アレルギー増加は清潔化が原因?
第8章 ニセ科学に騙されるな
 マイナスイオンが大流行
 メディアが騙された理由は……
 マイナスイオンブームが再燃?
 「水からの伝言」は教育、政治の場面に
 国会質問、自治体広報紙にも登場
 子どもは信じていない
第9章 ウソつき科学者を見破れ
 遺伝子組み換え大豆が問題に
 ずさんな実験結果
 日本で騒動が再燃
 騙しのテクニックの見本市
 科学の衣をまとった売名行為
 ナンチャッテ学者の倫理観
第10章 政治経済に翻弄される科学
 バイオ燃料ブーム
 トウモロコシが燃料用エタノールに
 地産地消の商品
 燃料vs食料
 抜本的な農業政策が必要
 ブレークスルー技術が必要
 トランス脂肪酸問題も国家間のせめぎ合い
 規制強化が有利になるマレーシアやインドネシア
第11章 科学報道を見破る十カ条
 フリーの科学ライターの懐具合は……
 科学者の倫理
 科学者がブログで情報発信
 日本語の壁
 NGOによる科学を使った企業テロ
 優れたリスクコミュニケーション
 科学報道を見破る十カ条
おわりに


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