2010.06.17

▽新しい経済学の入門書にふさわしい

大竹文雄『競争と公平感 市場経済の本当のメリット』(中公新書)

本書によると、「日本は市場経済への期待も国の役割への期待も小さいという意味でとても変わった国である。」(p.9)という。そして、「日本人が運やコネを重視する価値観をもつようになった」(p.17)のは、2000年代の不況に直面してからだという。さらに、小泉構造改革によって導入されようとした市場主義は不完全なもので、「既存大企業を保護する大企業主義と同一視されてしまったために、反大企業主義が反市場主義になってしまっている」と指摘する。

本書は、経済学の書というよりは、これまで社会学や政治学、心理学などが扱ってきたテーマを、経済学的な統計を重視した手法で切り込んでいくところが面白い。これは、神経経済学(ニューロエコノミクス)や行動経済学などの、経済学の新しい分野の発達を反映したものである。古典的な経済学が、人間を合理的な存在とみなしてきたのだが、神経経済学や行動経済学では、必ずしもそうではないことを前提に研究が進められている。

本書は、そうした研究の成果が数多く集められており、入門書としてもよくできている。もちろん、いくつかの論点については、今後、社会学、政治学、心理学の研究者などからの批判や反論もあるだろうし、もちろん、そうあって欲しい。

[目次]
プロローグ 人生と競争
I 競争嫌いの日本人
 1 市場経済にも国の役割にも期待しない?
 2 勤勉さよりも運やコネ?
 3 男と女、競争好きはどちら?
    コラム1 薬指が長いと証券トレーダーに向いている?
 4 男の非正規
 5 政策の効果を知る方法
 6 市場経済のメリットは何か?

II 公平だと感じるのはどんな時ですか?
 1 「小さく産んで大きく育てる」は間違い?
 2 脳の仕組みと経済格差
 3 20分食べるのを我慢できたらもう一個
 4 夏休みの宿題はもうすませた?
    コラム2 わかっているけど、やめられない
 5 天国や地獄を信じる人が多いと経済は成長する?
 6 格差を気にする国民と気にしない国民
 7 何をもって「貧困」とするか?
 8 「モノよりお金」が不況の原因
 9 有権者が高齢化すると困ること

III 働きやすさを考える
 1 正社員と非正規社員
 2 増えた祝日の功罪
 3 長時間労働の何が問題か?
    コラム3 看護師の賃金と患者の死亡率
 4 最低賃金引き上げは所得格差を縮小するか?
 5 外国人労働者受け入れは日本人労働者の賃金を引き下げるか?
 6 目立つ税金と目立たない税金

エピローグ 経済学って役に立つの?
競争とルール あとがきにかえて


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