« 2010年6月 | トップページ | 2010年8月 »

2010年7月

2010.07.24

▽『小説家という職業』

森博嗣『小説家という職業』(集英社新書)


ミステリィ作家の森博嗣による小説家論ではあるが、本書は、文章作法や作家としての心構えについての書ではなく、職業として、ビジネスとしてとらえるなら、小説家はどうあるべきか? というテーマで貫かれている。

興味深いのは、図書館や古書店を経由して本に接する機会が増えたこと、あるいはインターネットの書評でネタばれされてしまうことが増えている状況にどう対処したか、という部分。

《僕は、図書館や古書店の問題には、「何度も読みたくなるような作品」で対抗するしかない、と考えた。》(p.77)

著者は、作品の随所に、簡単には読み解けないものを混ぜておいたり、別の作品で、それに関するヒントを提示したりすることにより、読者に「再読したい」、つまり、「手元に置いておきたい」と思わせる戦略をとった。

《また、ネタばれについても、簡単にそれができないような機構を織り込むことで対処ができる。一言で説明できないネタにすればよい。あるいは、人によって解釈が異なるようなネタにする。》(pp.77-78)

さらに、わざと問題になるような部分を入れておいたり、あえて誤解を誘うような表現を入れる、という手法をとることもあったという。そうした箇所は、否定的であれ、肯定的であれ、インターネットで話題になり、それが宣伝効果を生むという。

《この程度のことを考えないようでは、ビジネスではない、プロの作家ではない、と僕は考えている。》(p.78)

こうした著者の主張には、もちろん賛否はあるかもしれないが、傾聴に値する点はあると思う。

[目次]
1章 小説家になった経緯と戦略
2章 小説家になったあとの心構え
3章 出版界の問題と将来
4章 創作というビジネスの展望
5章 小説執筆のディテール

|

2010.07.18

▽競争の作法とは?

齋藤誠『競争の作法――いかに働き、投資するか』(ちくま新書)

本書は、経済学者である齋藤誠が、経済学的な統計を駆使して、1990年代、2000年代の社会状況を検証する。

第一章と第二章
《①2002年から2007年までの「戦後最長の景気回復」で、日本経済はうわべだけが豊かになったが、その豊かさが幸福に結びついたわけではなかった。
 ②2008年秋のリーマン・ショックで失われた豊かさは、幸福に結びついていなかったので、正味のところで失ったものはほんのわずかであった。》(p.16)

第三章
《「日本経済で不平等が深刻となったのは、競争原理が貫かれて生産の効率性が飛躍的に向上したからではない」》(p.145)

第四章
《1990年代の日本経済で「何が失われたのか」、「何を新たに創らなければならないのか」》(p.181)

お薦め。以下の本もあわせて読まれたい。

▽エコノミストのつぶやき――『日本はなぜ貧しい人が多いのか』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/01/post-0081.html
▽新しい経済学の入門書にふさわしい
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/06/post-c8a0.html

|

2010.07.01

▽『腐った翼』

森功『腐った翼』(幻冬舎)

ジャーナリストの森功による、なぜJALは倒産したのかを追ったドキュメント。類書としては、AERAの大鹿靖明による『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』(朝日新聞出版)があるが、それよりもずっと詳しく、JALの経営の実態に迫っている。

▽堕ちた翼の真実
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/05/post-936b.html

JALの経営破綻の原因については、大鹿と同様に
《赤字だったJASの国内ローカル路線を引き受けたことが原因だ、と指摘する声をときおり聞く。実際は、JASとの統合が破綻理由ではない。》(p.284)
と指摘する。
《むしろ経営不振の原因はJALの国際線だ。本来、JALが飛ばしてきた国際線の赤字が、大きく経営の足を引っ張ってきた。》(p.284)

そもそもJALの倒産の遠因は、どこにあったかといえば、1985年8月12日、JALの常務会で正式に民営化を決めた日、そして、御巣鷹山に123便が墜落した日にまで遡れるという。

1986年には、1ドル=184円で十年間もの長期の為替予約を行うという民間企業ではありえないような杜撰な経営判断をした結果、巨額の隠れ負債を追うことになり、また、御巣鷹山の事故後の経営立て直しのために小説『沈まぬ太陽』のモデルの一人となった伊藤淳二を招いたことが、小説とは反対に、労使関係を複雑にしてしまうことになる。

その後も、JALの経営は迷走が続き、『腐った翼』という、いささか大仰なタイトルや、帯の「潰れて、当然。潰して、当然。」という煽り文句が誇張でもなんでもないことが良くわかる。

[目次]
プロローグ
第一章 米航空支配からの脱却
第二章 伊藤淳二の罪
第三章 封印された簿外債務
第四章 JALと自民党
第五章 クーデター
第六章 不発に終わった決起
第七草 最後の転機
第八章 庶民派社長の限界
第九章 倒産
第十章 翼は腐っていた
エピローグ

|

« 2010年6月 | トップページ | 2010年8月 »