2010.07.24

▽『小説家という職業』

森博嗣『小説家という職業』(集英社新書)


ミステリィ作家の森博嗣による小説家論ではあるが、本書は、文章作法や作家としての心構えについての書ではなく、職業として、ビジネスとしてとらえるなら、小説家はどうあるべきか? というテーマで貫かれている。

興味深いのは、図書館や古書店を経由して本に接する機会が増えたこと、あるいはインターネットの書評でネタばれされてしまうことが増えている状況にどう対処したか、という部分。

《僕は、図書館や古書店の問題には、「何度も読みたくなるような作品」で対抗するしかない、と考えた。》(p.77)

著者は、作品の随所に、簡単には読み解けないものを混ぜておいたり、別の作品で、それに関するヒントを提示したりすることにより、読者に「再読したい」、つまり、「手元に置いておきたい」と思わせる戦略をとった。

《また、ネタばれについても、簡単にそれができないような機構を織り込むことで対処ができる。一言で説明できないネタにすればよい。あるいは、人によって解釈が異なるようなネタにする。》(pp.77-78)

さらに、わざと問題になるような部分を入れておいたり、あえて誤解を誘うような表現を入れる、という手法をとることもあったという。そうした箇所は、否定的であれ、肯定的であれ、インターネットで話題になり、それが宣伝効果を生むという。

《この程度のことを考えないようでは、ビジネスではない、プロの作家ではない、と僕は考えている。》(p.78)

こうした著者の主張には、もちろん賛否はあるかもしれないが、傾聴に値する点はあると思う。

[目次]
1章 小説家になった経緯と戦略
2章 小説家になったあとの心構え
3章 出版界の問題と将来
4章 創作というビジネスの展望
5章 小説執筆のディテール


|

書評2010年」カテゴリの記事