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2010年8月

2010.08.23

▽『傷だらけの店長』と『リストラなう! 』

伊達雅彦『傷だらけの店長』(PARCO出版)

とある書店の店長の日々の苦悩、近隣への大手書店の出店、そしてそのことにより、とある書店は閉店へと追い込まれ、店長が退職するまで、が綴られています。出版不況と簡単に言ってしまいますが、書店の追い詰められた現場の状況には、もう言葉もありません。

大手出版社の希望退職の時の社内事情を描いた『リストラなう! 』(綿貫 智人、新潮社)が、まだまだぬるま湯と言うこともわかります。

[参考]たぬきちの「リストラなう」日記
http://d.hatena.ne.jp/tanu_ki/

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▽プロジェクトXの功罪

今井彰『ガラスの巨塔』(幻冬舎)

本書は、元NHK『プロジェクトX』プロデューサーによる、実録風小説で、「全日本テレビ」は「NHK」、「チャレンジX」が「プロジェクトX」、主人公の西悟が著者というのは誰にでもわかります。

『プロジェクトX』をめぐる騒動や、著者がNHKを辞めるきっかけとなった万引き事件の「真相」などが、当事者の視点から語られています。

私は、『プロジェクトX』は、ほとんど見たことがなかったのですが、それでも、どういう番組かは、知っていて、その範囲であえて言えば、「過剰な演出や一方的な断定の目立つ、ちょっと危険なノンフィクション」と言ったところでしょうか。

そして、日本経済が行き詰まる中で、過去の、主に企業で活躍した名も無き人々を神格化する、ノスタルジーの強い番組という印象も持っていました。もちろん、この「神格化」が、「過剰な演出」や「一方的な断定」をもたらす要因の一つであったことは言うまでもありません。

「捏造」と批判された回についても、本書では、「取材した相手にだまされた」ことになっていますが、「ノンフィクションであれば、少しくらいは周辺取材や裏付け取材をしろよ」と思ってしまいます。

もちろん番組としては、視聴者のニーズに応えた部分もあるのでしょうが、『プロジェクトX』のヒット後には、テレビだけでなく、さまざまなメディアで『プロジェクトX』風の過剰な演出のノンフィクションが増えてしまって、その点は「罪」だと言えるのではないかと思います。

[参考]
▽鉄の沈黙はだれのために
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/08/post-b923.html

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2010.08.19

▽小沢一郎の視点

『90年代の証言 小沢一郎 政権奪取論』(朝日新聞社)

朝日新聞社の『論座』で連載されていた「90年代の証言」シリーズ。菅直人の巻が、菅首相誕生とともに売れたので、次期首相の呼び声も高い小沢一郎の巻も紹介しておきます。

本書では、細川首班による非自民連立政権の成立と崩壊、新進党の結成と解党、自由党結成、自自公連立の成立と崩壊、民主党への合流など、小沢一郎の視点から見た、政治の事情が語られています。

《新進党は結党時、海部さんが党首だったが、1年後に僕がなった。そのころから党内がゴタゴタし始めたんです。95年12月の党首選挙に敗れた羽田さんとその取り巻きが反主流派だと言って「興志会」を作った。それがマスコミのいいメシの種にされちゃった。》(p.154)

もし小沢一郎がふたたび党首になったら、民主党は、またゴタゴタするのでしょうか?

[参考]
▽小沢一郎・野中広務・菅直人・森喜郎の証言録
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-5424.html
▽小沢一郎の行動原理がわかる本
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2008/09/index.html
▽小泉純一郎が本当にぶっ壊したものとは?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2008/10/index.html
▽世襲問題を考えるための基本テキスト
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/04/index.html
▽民主党の人間関係をおさらいする
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/09/index.html
▽なぜ自民党は大敗したのか?――曲解された世論を読み解く
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/01/post-d9ca.html
▽二大政党制批判論
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/05/post-28ff.html

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2010.08.16

▽『ロングセラー商品の舞台裏』

『ロングセラー商品の舞台裏―ヒットを続けるのには理由がある』(成美堂出版)

これはもう企画の勝利と言えるでしょう。38のロングセラー商品のそれぞれについて、「企画」、「開発」、「営業・宣伝」について、詳しく述べられています。

マーケティングの教科書というよりも、トリビア的な内容ですが、ロングセラー商品の歴史を振り返る読み物として楽しめます。

[目次]
第1章 食品
   1. 三ツ矢サイダー
   2. ヤクルト
   3. ワンカップ大関
   4. ホッピー
   5. リポビタンD
   6. ミルクキャラメル
   7. かっぱえびせん
   8. グリーンガム
   9. キャラメルコーン
  10. 榮太樓飴
  11. カップヌードル
  12. マルシンハンバーグ
  13. お茶づけ海苔
  14. 江戸むらさき
  15. のりたま
  16. キューピーマヨネーズ
  17. ポッカレモン
  18. ブルドックソース

第2章 家庭用品
   1. NEWクレラップ
   2. キクロンA
   3. 仁丹
   4. 龍角散
   5. 正露丸
   6. ホッチキス
   7. マジックインキ
   8. アーム筆入
   9. スケッチブック
  10. カッターナイフ
  11. Zライト
  12. バスクリン
  13. 金鳥かとり線香
  14. ごきぶりホイホイ
  15. アイスノン

第3章 趣味用品
   1. スカイライン
   2. スーパーカブ
   3. リカちゃん
   4. 野球盤
   5. ビッグジョン

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2010.08.15

▽人生のトリセツふたたび

岡田斗司夫『人生テスト―人を動かす4つの力』(ダイヤモンド社)

人間をタイプ分けするような本は、あまり好きじゃないのですが、岡田斗司夫『人生テスト』だけは、例外。面白いのでお薦めします。

この本は、もともと『SPA!』誌上で「人生のトリセツ」というタイトルで連載されていたものです。バックナンバーは下記のサイトの下の方の「週刊SPA!掲載分から」から読むことができます。

OTAKINg ex
http://otaking-ex.jp/wp/?page_id=5008

「人生のトリセツ」は、人間のタイプを、それぞれの欲求に応じて、軍人、王様、職人、学者、の4つに分類するというもの。各タイプの欲求とは、

・軍人=負けず嫌いで、常に勝ち負けや順位にこだわる
・王様=誰よりも注目されたい。ほめられたい。認められたい。かまわれたい。
・職人=自分の考えている通りに、ものごとをやり遂げることにこだわる
・学者=自分の考えている通りに、ものごとをやり遂げることにこだわる

この分類をベースにして、それぞれのタイプの人にとっての欲求が満たされる、つまり、人生においてどうなることが幸せなのか、について解説していきます。

本書を読むと、自分のタイプを誤解していると、いつまでたっても幸せになれないことがわかります。まさに本書は、人生のトリセツ(取り扱い説明書)ということができます。

上記のサイトによると、どうやら本書のバージョン・アップ版が朝日新聞出版から出る予定のようですので、いずれまた、取り上げたいと思います。

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2010.08.13

▽クライマーズ・ハイ

横山秀夫『クライマーズ・ハイ』(文春文庫)

1985年8月に起きた日航ジャンボ機墜落を地方紙の記者として取材した著者による、地方紙記者の葛藤を描いた長編小説である。

《――記録でも記憶でもないものを書くために、18年の歳月が必要だった。
 横山秀夫》

と著者自身が言うように、自身の体験を小説へと昇華させるには、これだけの時間が必要だったということが伺える。

また、昨今、小説の映像化作品は多いものの、原作の世界観をきちんと再現しながら、映像作品としての魅力を存分に発揮したのは、NHK版『クライマーズ・ハイ』しかないと思う。

体験の安直な小説化、小説の安直な映像化を許さなかったのは、日航ジャンボ機墜落という題材の重さにあったのは言うまでもないだろう。

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▽隠れた名著『すぐれた意思決定』

印南一路『すぐれた意思決定―判断と選択の心理学』(中央公論社)

当ブログでは、あまり、この手のハウツーものは取り上げないのですが、今回は、隠れた名著『すぐれた意思決定』を紹介したい、と思います。本書の刊行は1997年(文庫版は2002年)と、ちょっと古いのですが、今でも十分読むに耐える内容です。

本書のテーマは、タイトルにあるように「すぐれた意思決定」であり、著者は第三部において、すぐれた意思決定論として「診断論的意思決定論」を提唱します。

しかし、本書では、その主題に入る前に、すぐれた意思決定の対極にある駄目な意思決定法である「直感的意思決定」が、なぜ生ずるのかを第二部で詳細に論じています。

著者によれば、「直感的意思決定」をもたらすものは、情報データによる罠、数値データにおける罠、記憶情報における罠、推論における罠、直観的な決定ルールの罠の五つの罠であり、いかに、この罠から逃れるかが、すぐれた意思決定へと至る上での重要なポイントとなるそうです。

また、第三部の「組織の意思決定」では、「集団的意思決定の病理現象」として、メンバーが努力程度を下げてしまう「社会的手抜き」、多数の意見に従う「同調圧力」、少数の意見が影響力を持つ「少数派影響力」、集団による討論が極論を生み出す「集団極化現象」、誰も望んでいないことを決めてしまう「過剰忖度」、凝集性の高いエリート集団が反論理的・非人間的な意思決定を下す「病理的集団思考」を挙げています。

最近起きた、虐待児放置事件や非実在高齢者の問題は「社会的手抜き」に相当すると言えるでしょう。著者は、以上のような反省を踏まえて、すぐれた意思決定をするには、どうすべきかを提案しています。

[目次]
第1部 我々と意思決定
 意思決定とは何か
 世界の性質と情報を考える
 我々の認知能力を考える
第2部 直観的意思決定のおとしあな
 情報データによる罠
 数値データにおける罠
 記憶情報における罠
 推論における罠
 直観的な決定ルールの罠
第3部 高質な意思決定の実現と組織の意思決定
 効果的に学ぶために
 創造力と想像力
 組織の意思決定

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2010.08.12

▽佐藤優のお薦め『大統領のカウントダウン』

『大統領のカウントダウン』


ロシアで作られたチェチェン戦争舞台としたアクション映画。元外交官で作家の佐藤優が、田原総一朗と対談する『第三次世界大戦新・帝国主義でこうなる!』(アスコム)でお薦めしている。


《ポクロフスキーという名のベレゾフスキーらしき金融資本家、リトビネンコなんかに該当するチェチェン系とつながった元情報機関員、連邦保安庁のヒーローなんかが出てきて、ロシアの政治の構造はこうなっているとよくわかる。2時間ぐらいで観ますと、ロシア側から見たチェチェン問題、財閥問題、マフィア問題などがだいたいわかります。ロシアに興味がある人にはお勧めのDVDですよ。》(p.134)

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▽『人生で大切なことは全部フジテレビで学んだ』

吉田正樹『人生で大切なことは全部フジテレビで学んだ ~『笑う犬』プロデューサーの履歴書』(キネマ旬報社)

著者は、フジテレビでバラエティ番組のAD、ディレクター、プロデューサーとして活躍してきた。

携わった主な番組は、ADとして、たけし、さんま、伸介をスターにした『オレたちひょうきん族』、タモリの『笑っていいとも』など1980年代を代表するバラエティ番組。ディレクターとしては、ダウンタウンとウッチャンナンチャンを排出した『夢で逢えたら』や、ウッチャンナンチャンをブレイクさせた『誰かがやらねば』、『やるならやらねば』を担当した。そして、プロデューサーとして、ウッチャンナンチャンの内村光良を再ブレイクさせた『笑う犬』シリーズと、フジテレビのバラエティ番組の屋台骨の一つを作り上げてきたと言っても過言ではないだろう。

本書の叙述の中心は、ディレクターになって以降、ダウンタウンやウッチャンナンチャンを起用してからのフジテレビのバラエティ番組の舞台裏だが、この1990年代は、フジテレビが1980年代の黄金期に誇ってきた「視聴率三冠王」の座を、1994年に日本テレビに奪われるなど、ある意味、冬の時代にあったとも言える。

著者は、明示的には語っていないものの、1990年代の低迷の芽は、1908年代の「オレたちひょうきん族」にあったとみて間違いないだろう。

《制作者の視点から見ると、『ひょうきん族』は極めて特異な番組と言わざるを得ません。八年半も続いたのに、直接的には誰一人として後継者を育てなかったからです。僕をはじめ『ひょうきん族』出身だと公言するテレビマンは結構いるのに、あの番組でADからディレクターに昇格した人は、実は一人もいないのです。》(p.57))

[目次]
序章 「逸脱」への旅立ち
第1章 日々是鬱屈也。
第2章 神の配剤-『夢で逢えたら』
第3章 立たされたバッターボックス
第4章 志、半ばにて
第5章 幼年期の終わり
第6章 裸一貫からの再出発-『笑う犬』の挑戦
第7章 卵を孵す者
第8章 僕がフジテレビを辞めた理由

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2010.08.11

▽裏金はだれのために

原田宏二『警察内部告発者・ホイッスルブロワー』(講談社)

本書は、北海道警察の釧路方面部長まで務めた著者が、北海道警察の裏金を告発した経緯を綴ったもの。

著者自身が在職時に体験した裏金作りの実態や、引退後に裏金を告発するきっかけとなった「稲葉事件」とその真相、そして、告発後に道警からかけられた圧力や、著者の告発を支援する動きなどが、詳細に綴られている。

「稲葉事件」とは、著者の元部下の刑事が、覚醒剤や銃の密輸捜査の協力者に便宜を図っていくうちに、覚醒剤を使用するようになって逮捕された事件だが、刑事がはまり込んだ泥沼の背景には、裏金の問題が横たわっていたようだ。

裏金といえば、ある種の必要悪だとする立場もあるだろうが、本書の次のようなくだりには驚かされた。

《警察の捜査費というのは、いったん、すべて裏金化され、その大半が幹部のヤミの交際費などに消えるシステムになっている。最前線の現場で働く刑事たちに、捜査費なるものはほとんど回ってこないのだ。》(pp.55-56)

[目次]
第1章 告発
第2章 稲葉事件の暗部-北海道警察が隠蔽したもの
第3章 稲葉の「告発」
第4章 裏金追及
第5章 裏金追及を阻む者たち
第6章 私の裏金実録
第7章 権力構造としての警察組織-キャリア天国、デカ地獄
第8章 いまだ「鉄のピラミッド」落城せず
寄稿
 市民オンブズマンから見た警察の不正経理問題について
 「紳士たれ!」-警察裏金事件と沈黙するメディア

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2010.08.07

▽『普天間の謎』、『「普天間」交渉秘録』

森本敏『普天間の謎―基地返還問題迷走15年の総て』(海竜社)

普天間問題をこじらせたことが、鳩山政権崩壊の直接の引き金だったことは間違いないだろう。しかも、首相を辞任する前にアメリカと工法を決定すると約束してしまった期限の8月末が、目前に迫っており、下手をすると菅政権を立ち往生させる可能性すらはらんでいる。

『普天間の謎―基地返還問題迷走15年の総て』は、安全保障問題を専門とする森本敏が、サブ・タイトルにあるように、普天間問題の「迷走15年」を時系列に叙述した労作だ。

また、普天間問題だけでなく、その背景となるアメリカ軍の再編問題や、日米安全保障体制の基礎も理解することができる。

1995年に起きた「沖縄米兵少女暴行事件」が、普天間基地返還交渉のきっかけとなったが、その背景には冷戦終了後のアメリカの基地戦略の路線変更があったのは言うまでもない。

しかし、アメリカと交渉する側の日本も、橋本、小泉、鳩山と時の政権の思惑によってスタンスがかわるために、混迷を深めてきたことがわかる。

守屋武昌『「普天間」交渉秘録』(新潮社)

本書は、軍事専門商社から便宜供与を受けたことから収賄の罪に問われ、2007年に逮捕された元防衛事務次官(一審、二審で有罪判決。現在、最高裁に上告中)が、小泉時代の普天間交渉の舞台裏を綴っているもので、興味深い証言も多い。

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『「普天間」交渉秘録』p.350より

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2010.08.06

▽鉄の沈黙はだれのために

永田浩三『NHK、鉄の沈黙はだれのために―番組改変事件10年目の告白』(柏書房)

大仰なタイトルがつけられた本書を読んでみると、「いったいだれのために書かれたのか?」という素朴な感想を抱く。

筆者にとって、実証したいことがあるのならば、ノンフィクションのスタイルで、起きたことを証拠や証言をあげながら時系列に書いていけばよいところを、自身の思い出話を混ぜながら時間が行きつ戻りつしてしまうために、非常に読みにくいものになっている。また、亡くなられた方の死因はプライバシーに属するものであるから明確には書けないことは理解できるにしても、他の方の自殺については触れているのだから、そのあたりは明確にしておかないと、読者にあらぬ誤解を与えてしまうのではないかと思った。

それでも、我慢して読みすすめてみると、どうやら本書の主題は2001年に起きた「NHK番組改編事件」の当事者による告白ということらしい。その番組は、日本の戦時下における慰安婦問題を裁く民間法廷の判決と、そこに至る過程を描くドキュメンタリー、というもの。

しかしそれは、ドキュメンタリーの企画として見れば、そもそも企画自体が、真実や真相にたどり着けそうにないことは容易に想像できるだろう。本書も、伝えたい事実にたどり着くまでに、かなりの紙幅を費やしているが、それが効果的とは思えなかった。

とはいえ、この番組の製作過程で政治家の圧力があったこと、それを報じた朝日新聞の記事が誤報であったというNHKの主張は虚偽であること、朝日新聞から流出した取材テープは朝日側が正しいことを裏付けていること、といった点が筆者の主張として提示される。これは、概ね正しいのだろうとは思うし、当時、一般の読者や視聴者は、そうしたことは感じ取っていたと思う。

特に新しい事実が提示されいる訳ではなく、改めて、本書が書かれた意図が、今ひとつ理解できないのが残念と言えば残念だ。

[目次]
事件の現場にいた人々
わたしたちはいまも過ちを続けている
伊東律子さんの死、永遠の沈黙のはじまり
楽観主義と議論不足が火種を生んだ
番組はこうして改ざんされた
やがて虚しき裁判の日々
だれが真実を語り、だれが嘘をついているか
慰安婦問題と天皇の戦争責任について
番組制作の現場を離れるとき
これからの放送、これからの言論のために

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2010.08.05

▽鈴木亘『年金は本当にもらえるか?』、『社会保障の不都合な真実』

▽鈴木亘『年金は本当にもらえるか?』(ちくま新書)


本書は、年金問題を初心者にもわかりやすいようにQ&A形式で解説したもの。現行の年金制度を擁護したい厚生労働省サイドから流される詭弁を、経済学者らしく詳細なデータを引きながら、冷静な反論を行っている。

本書を読めば、現行の年金制度の維持が不可能なことは明らかなのだが、それでも、こうした批判を覆そうとする意見はなぜ沸いてくるのだろうか? と疑問を抱いていたら次のような記述に出くわした。

《しかし、厚生労働省が恐れているのは、税財源にした途端、年金特別会計のかなりの割合が、厚生労働省から財務省の管轄に移ってしまうことであると思われます。年金特別会計の巨額の予算こそが、天下り等、厚生労働省の権益・利権の源泉なのですから、それを手放すことになる税方式化論を、厚生労働省は絶対に認めるわけにはいきません。》(p.118)

なるほど。

[目次]
初級編―まずは基本から
中級編―よくある誤解を正します
上級編―年金は変えられます

▽鈴木亘『社会保障の不都合な真実』(日本経済新聞出版社)


本書は年金にとどまらず、社会保障制度全般を経済学的に考察している。民主党の掲げる「社会保障費拡大が成長戦略」という主張は、経済学的に正しくない「まじない経済学」と切って捨てている。

また、与野党から支持されている「中福祉・中負担」についても次のように批判している。

《ここで今、「中福祉・中負担」が実践され、たとえば、現在の高齢者が享受する社会保障費が二倍になったとすると将来の現役層が支払う負担は、単純計算で、現在の六倍(三倍×二倍)にも達してしまう。つまり、「中福祉・中負担」を今の高齢者たちが享受すると、「お釣りは三倍返し」というわけであり、後の世代は、「中福祉・超高負担」か「低福祉・高負担」のどちらかの惨状に直面してしまう。》(pp.28-29)

著者の立場を簡単にまとめると、小泉構造改革路線は、改革が急速すぎた、説明不足だった、退出させるべき既得権益層に時間的猶予や補償を与えようとしなかったために必死の抵抗にあった、などの欠点があったものの、やはり正しかったし、今後も踏襲すべきである、ということになる。

[目次]
はじめに
 「不都合な真実」から目をそらさない
 「思考停止」からの脱却
 本書の構成

1章 社会保障の「不都合な真実」
1 世界最速の人口減少と高齢化
2 社会保障"大盤振る舞い”のからくり
3 「構造改革」の功罪
4 「中福祉・中負担」という幻想

2章 子ども手当は子どものためか/子育て
1 子ども手当は本当に必要か
2 待機児童はなぜ減らないのか
3 保育業界の既得権
4 子ども手当はバウチャーに
5 病児保育はなぜ普及しないのか

3章 社会保障は貧困を減らせるか/貧困
1 生活保護世帯はなぜ増えたのか
2 生活保護のダム理論
3 生活保護制度改革と給付付き税額控除
4 無料定額宿泊所と貧困ビジネス
5 病院による貧困ビジネス

4章 年金は本当に大丈夫なのか/年金
1 年金制度が生み出す世代間不公平
2 「年金官僚」の詭弁年金論
3 先送りされる年金財政の建て直し
5 民主党改革で年金不安は解消されるか

5章 「介護難民」はなくせるか/介護
1 無届施設に流入する介護難民
2 無届老人施設を生かすには
3 介護労働力はなぜ不足するのか
4 必要な「混合介護」の導入

6章 医師を誰が支えるか/医療
1 医師不足問題はなぜ起きるのか
2 医師不足の構造見直し
3 迷走する後期高齢者医療制度
4 医療保険の積立方式導入による抜本改革
5 医療貯蓄口座を用いた積立方式の戦略

7章 財政破綻は避けられるか/社会保障財政
1 「借金漬け」の日本の社会保障
2 「まじない経済学」のからくり
3 介護・保育分野の規制緩和策の効果
4 日本に「ギリシャ危機」が来る日

おわりに

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▽あなたもジョブズになれる?

カーマイン・ガロ『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』(解説:外村仁、翻訳:井口耕二、日経BP社)


プレゼンテーションの達人と呼ばれるアップルCEOのスティーブ・ジョブズ。彼のプレゼンテーション・テクニックを盗んでしまおう、というのが本書の趣旨。

ジョブズが過去に行った有名なプレゼンテーションを分析して18の法則を導き出しています。まあ、よくあるジョブズのヨイショ本の一つなんですけれども、情報量が多いので、参考にできる部分も多いと思います。

面白かったのは、2007年と2008年に行われたジョブズと、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツのスピーチを比較した「シーン10」。

《ゲイツは難解だがジョブズは明快だ。ゲイツは抽象的だがジョブズは具体的だ。ゲイツは複雑だがジョブズは簡潔だ。》(p.209)

本書が冒頭に掲げている
《ジョブズの準備の仕方やプレゼンテーションのやり方を正確に学びさえすれば、誰でも、あのすごい力が使えるようになる。彼のテクニックのごく一部を活用しただけで、一歩抜きんでたプレゼンテーションができる。競争相手や同僚が顔色を失うようなプレゼンテーションができるのだ。》
は、ちと誇大広告な気もしますが、仕事でプレゼンテーションをする必要がある方には、参考にできるテクニックは多いと思います。

[目次]
プロローグ
第一幕 ストーリーを作る
 シーン1. 構想はアナログでまとめる
 シーン2. 一番大事な問いに答える
 シーン3. 救世主的な目的意識を持つ
 シーン4. ツイッターのようなヘッドラインを作る
 シーン5. ロードマップを描く
 シーン6. 敵役を導入する
 シーン7. 正義の味方を登場させる
 幕間その1 10分ルール

第2幕 体験を提供する
 シーン8. 禅の心で伝える
 シーン9. 数字をドレスアップする
 シーン10. 「びっくりするほどキレがいい」言葉を使う
 シーン11. ステージを共有する
 シーン12. 小道具を上手に使う
 シーン13. 「うっそー!」な瞬間を演出する
 幕間その2 第一人者から学んだシラー

第3幕 仕上げと練習を行う
 シーン14. 存在感の出し方を身につける
 シーン15. 簡単そうに見せる
 シーン16. 目的に合った服装をする
 シーン17. 台本を捨てる
 シーン18. 楽しむ

アンコール 最後にもう一つ

謝辞
訳者あとがき
解説
参考文献・動画など

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2010.08.03

▽当ブログで売れた本――2010年上半期

当ブログの書評エントリーも累計で115を超えました。2010年初からいままでに売れた本十傑を紹介します。

まあ、ランキングをつけるほどは売れていないので、あくまでも十傑ということで・・・・・・。

『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/03/ipad-vs-c1ab.html

『iPodは何を変えたのか?』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/02/ipod-7562.html

『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/03/post-0cb8.html

『インターネットで古本屋さんやろうよ!』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/01/post-36d0.html

『菅直人 市民運動から政治闘争へ 90年代の証言』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-5424.html

『世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/01/post-d9ca.html

『競争と公平感―市場経済の本当のメリット』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/06/post-c8a0.html

『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-feeb.html

『日本「半導体」敗戦』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/12/post-b1e8.html

『スパイと公安警察-ある公安警部の30年』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/02/post-3b04.html

菅直人のインタビューは、菅氏が首相になった途端にばたばたっと売れました。あとは、広い意味でのデジタル関連の本が幅広く売れています。

当ブログで取り上げる本のコンセプトは、基本的には「クロス・カルチュラルなノンフィクション」です。もちろん例外もありますが、ノンフィクションで異文化がクロスするような内容のもの、あるいは、時代の転換点を分析するようなもの、が中心です。

献本もお待ちしていますので(笑)、ここをご覧になられている出版社の方がいらっしゃったら、右カラム上の「メール送信」のところをクリックしてご連絡いただければ幸いです。

では、これからもいっそうの内容充実をめざして精進しますので、今後ともご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

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▽『もしも義経にケータイがあったなら』

鈴木輝一郎『もしも義経にケータイがあったなら』(新潮新書)

『もしも義経にケータイがあったなら』というタイトルに惹かれて買ったのですが……。

もしも源義経の時代に携帯電話があったなら、歴史はどのように変わっていたのか、というSF的フィクションの本を期待して手に取ったのですが、中身は、義経の栄枯盛衰を、現代サラリーマンの成功と失敗になぞらえて解説する、歴史に学ぼうというスタイルのビジネス書でした。本書における「ケータイ」とは、ビジネスマン必須のアイテムを意味しているだけでした……。

しかし、著者は、歴史小説をいくつも上梓しており、またサラリーマンの経験もあるので、義経の入門書としてはわかりやすく読めるかもしれません。

[目次]
まえがき
第一章 旧体制平清盛─強大さの構築と維持の秘訣
1 平清盛の分断戦略・独占戦略・そして自己改革
2 なぜ頼朝、義経らは殺されなかったのか─巨大独占企業の自主的自衛策
3 史実以前の義経・苦労人好きの国民性

第二章 同族企業源氏一門の成長・頼朝の戦略・義経の戦術
1 もしも以仁王にファックスがあったなら─源氏蜂起から京都占拠まで●すべては以仁王からはじまった
●もしも木曾義仲にトラックがあったなら
●もしも義仲がマクレガー(X理論・Y理論)を知っていたなら
2 頼朝のマネジメント─敵を知ることと自分を知ること
●雌伏期の頼朝─敵の弱点と己の弱点を知ること
●頼朝のランチェスター戦略とコンプライアンス
●頼朝の人事管理─創業期には開拓者を、安定期には管理者を
3 義経の創業期開拓戦術
●正攻法を学ばねば奇策も生まれない─対 木曾義仲戦
●ギャンブラー将軍義経─創業期にはハイリスク&ハイリターンを

第三章 義経の失脚─同族企業から大企業への転換期を知れ
1 『ホウレンソウ』は組織人の基本─義経最初の失脚
●義経を語る史書たち
●人事音痴義経の発端─一ノ谷合戦後の独断任官
2 勢いあまって詰めまであまい─屋島合戦の強引
●社内営業名人 梶原景時
●ギャンブル大帝義経 対 社内営業名人梶原景時
●永遠の少年源義経─巨大企業の自覚のないままの壇ノ浦
3 壇ノ浦合戦後─社内営業敗北者義経
●「バクチ打ちは他人には面白く身内には迷惑」の原則─梶原景時の讒訴
●確定人事はくつがえらない─あまえんぼう将軍義経
●左遷人事は追い込みすぎるな・会社の力を自力と間違えるな─頼朝・義経のミス

第四章 勝者頼朝の安定戦略・敗者義経の敗北の美学
1 勝利者頼朝の恐怖と孤独
2 敗北者義経の人気─敗者の美学
義経関連地図

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2010.08.02

▽レスリー・チャンの生涯が語るもの

松岡環『レスリー・チャンの香港』(平凡社)

私が、レスリー・チャン(張國榮)に初めて出会ったのは、いつだろうか? 

おそらく1980年代の後半に、『男たちの挽歌』(原題:英雄本色)を見た時だろうと思う。その次にスクリーンで見たのは『欲望の翼』(原題:阿飛正傳)だった。さらに、『さらば、わが愛 覇王別姫』(原題:覇王別姫)をビデオで見て、香港を代表する俳優であることを実感した。その後も、レスリーの出演する映画をいくつか観ているが、この三本が代表作と言ってよいだろう。

もともとは歌手として始まったレスリーの芸能人生は、映画俳優として絶頂期を迎えたものの、1997年の香港の中国への返還にともなう香港映画界の停滞、2000年代の韓流ブームやタイ映画の勃興、さらにSARSの流行など、香港の時代背景が色濃く反映されている。

『レスリー・チャンの香港』の著者である松岡環も、
《そんなレスリーの生涯を辿ってみれば、この半世紀近くの香港が見えてくるのではないか。中でもレスリーの生涯とサブカルチャーの動きを呼応させてみることによって、香港の大衆文化とそれを育てた庶民の暮らしが浮かび上がってくるのではないか。》(p.8)
と、本書執筆の意図を語っている。

本書は、レスリー・チャンという香港が生んだ時代の寵児の人生を描くことによって、アジアの大衆文化の光と影を浮かび上がらせることに成功した良書といえよう。

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