2010.08.05

▽鈴木亘『年金は本当にもらえるか?』、『社会保障の不都合な真実』

▽鈴木亘『年金は本当にもらえるか?』(ちくま新書)


本書は、年金問題を初心者にもわかりやすいようにQ&A形式で解説したもの。現行の年金制度を擁護したい厚生労働省サイドから流される詭弁を、経済学者らしく詳細なデータを引きながら、冷静な反論を行っている。

本書を読めば、現行の年金制度の維持が不可能なことは明らかなのだが、それでも、こうした批判を覆そうとする意見はなぜ沸いてくるのだろうか? と疑問を抱いていたら次のような記述に出くわした。

《しかし、厚生労働省が恐れているのは、税財源にした途端、年金特別会計のかなりの割合が、厚生労働省から財務省の管轄に移ってしまうことであると思われます。年金特別会計の巨額の予算こそが、天下り等、厚生労働省の権益・利権の源泉なのですから、それを手放すことになる税方式化論を、厚生労働省は絶対に認めるわけにはいきません。》(p.118)

なるほど。

[目次]
初級編―まずは基本から
中級編―よくある誤解を正します
上級編―年金は変えられます

▽鈴木亘『社会保障の不都合な真実』(日本経済新聞出版社)


本書は年金にとどまらず、社会保障制度全般を経済学的に考察している。民主党の掲げる「社会保障費拡大が成長戦略」という主張は、経済学的に正しくない「まじない経済学」と切って捨てている。

また、与野党から支持されている「中福祉・中負担」についても次のように批判している。

《ここで今、「中福祉・中負担」が実践され、たとえば、現在の高齢者が享受する社会保障費が二倍になったとすると将来の現役層が支払う負担は、単純計算で、現在の六倍(三倍×二倍)にも達してしまう。つまり、「中福祉・中負担」を今の高齢者たちが享受すると、「お釣りは三倍返し」というわけであり、後の世代は、「中福祉・超高負担」か「低福祉・高負担」のどちらかの惨状に直面してしまう。》(pp.28-29)

著者の立場を簡単にまとめると、小泉構造改革路線は、改革が急速すぎた、説明不足だった、退出させるべき既得権益層に時間的猶予や補償を与えようとしなかったために必死の抵抗にあった、などの欠点があったものの、やはり正しかったし、今後も踏襲すべきである、ということになる。

[目次]
はじめに
 「不都合な真実」から目をそらさない
 「思考停止」からの脱却
 本書の構成

1章 社会保障の「不都合な真実」
1 世界最速の人口減少と高齢化
2 社会保障"大盤振る舞い”のからくり
3 「構造改革」の功罪
4 「中福祉・中負担」という幻想

2章 子ども手当は子どものためか/子育て
1 子ども手当は本当に必要か
2 待機児童はなぜ減らないのか
3 保育業界の既得権
4 子ども手当はバウチャーに
5 病児保育はなぜ普及しないのか

3章 社会保障は貧困を減らせるか/貧困
1 生活保護世帯はなぜ増えたのか
2 生活保護のダム理論
3 生活保護制度改革と給付付き税額控除
4 無料定額宿泊所と貧困ビジネス
5 病院による貧困ビジネス

4章 年金は本当に大丈夫なのか/年金
1 年金制度が生み出す世代間不公平
2 「年金官僚」の詭弁年金論
3 先送りされる年金財政の建て直し
5 民主党改革で年金不安は解消されるか

5章 「介護難民」はなくせるか/介護
1 無届施設に流入する介護難民
2 無届老人施設を生かすには
3 介護労働力はなぜ不足するのか
4 必要な「混合介護」の導入

6章 医師を誰が支えるか/医療
1 医師不足問題はなぜ起きるのか
2 医師不足の構造見直し
3 迷走する後期高齢者医療制度
4 医療保険の積立方式導入による抜本改革
5 医療貯蓄口座を用いた積立方式の戦略

7章 財政破綻は避けられるか/社会保障財政
1 「借金漬け」の日本の社会保障
2 「まじない経済学」のからくり
3 介護・保育分野の規制緩和策の効果
4 日本に「ギリシャ危機」が来る日

おわりに


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