2010.08.06

▽鉄の沈黙はだれのために

永田浩三『NHK、鉄の沈黙はだれのために―番組改変事件10年目の告白』(柏書房)

大仰なタイトルがつけられた本書を読んでみると、「いったいだれのために書かれたのか?」という素朴な感想を抱く。

筆者にとって、実証したいことがあるのならば、ノンフィクションのスタイルで、起きたことを証拠や証言をあげながら時系列に書いていけばよいところを、自身の思い出話を混ぜながら時間が行きつ戻りつしてしまうために、非常に読みにくいものになっている。また、亡くなられた方の死因はプライバシーに属するものであるから明確には書けないことは理解できるにしても、他の方の自殺については触れているのだから、そのあたりは明確にしておかないと、読者にあらぬ誤解を与えてしまうのではないかと思った。

それでも、我慢して読みすすめてみると、どうやら本書の主題は2001年に起きた「NHK番組改編事件」の当事者による告白ということらしい。その番組は、日本の戦時下における慰安婦問題を裁く民間法廷の判決と、そこに至る過程を描くドキュメンタリー、というもの。

しかしそれは、ドキュメンタリーの企画として見れば、そもそも企画自体が、真実や真相にたどり着けそうにないことは容易に想像できるだろう。本書も、伝えたい事実にたどり着くまでに、かなりの紙幅を費やしているが、それが効果的とは思えなかった。

とはいえ、この番組の製作過程で政治家の圧力があったこと、それを報じた朝日新聞の記事が誤報であったというNHKの主張は虚偽であること、朝日新聞から流出した取材テープは朝日側が正しいことを裏付けていること、といった点が筆者の主張として提示される。これは、概ね正しいのだろうとは思うし、当時、一般の読者や視聴者は、そうしたことは感じ取っていたと思う。

特に新しい事実が提示されいる訳ではなく、改めて、本書が書かれた意図が、今ひとつ理解できないのが残念と言えば残念だ。

[目次]
事件の現場にいた人々
わたしたちはいまも過ちを続けている
伊東律子さんの死、永遠の沈黙のはじまり
楽観主義と議論不足が火種を生んだ
番組はこうして改ざんされた
やがて虚しき裁判の日々
だれが真実を語り、だれが嘘をついているか
慰安婦問題と天皇の戦争責任について
番組制作の現場を離れるとき
これからの放送、これからの言論のために


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