2010.08.02

▽レスリー・チャンの生涯が語るもの

松岡環『レスリー・チャンの香港』(平凡社)

私が、レスリー・チャン(張國榮)に初めて出会ったのは、いつだろうか? 

おそらく1980年代の後半に、『男たちの挽歌』(原題:英雄本色)を見た時だろうと思う。その次にスクリーンで見たのは『欲望の翼』(原題:阿飛正傳)だった。さらに、『さらば、わが愛 覇王別姫』(原題:覇王別姫)をビデオで見て、香港を代表する俳優であることを実感した。その後も、レスリーの出演する映画をいくつか観ているが、この三本が代表作と言ってよいだろう。

もともとは歌手として始まったレスリーの芸能人生は、映画俳優として絶頂期を迎えたものの、1997年の香港の中国への返還にともなう香港映画界の停滞、2000年代の韓流ブームやタイ映画の勃興、さらにSARSの流行など、香港の時代背景が色濃く反映されている。

『レスリー・チャンの香港』の著者である松岡環も、
《そんなレスリーの生涯を辿ってみれば、この半世紀近くの香港が見えてくるのではないか。中でもレスリーの生涯とサブカルチャーの動きを呼応させてみることによって、香港の大衆文化とそれを育てた庶民の暮らしが浮かび上がってくるのではないか。》(p.8)
と、本書執筆の意図を語っている。

本書は、レスリー・チャンという香港が生んだ時代の寵児の人生を描くことによって、アジアの大衆文化の光と影を浮かび上がらせることに成功した良書といえよう。


|

書評2010年」カテゴリの記事