2010.12.26

▽ハダカデバネズミ

吉田重人、岡ノ谷一夫『ハダカデバネズミ―女王・兵隊・ふとん係』(岩波科学ライブラリー 生きもの)

ハダカデバネズミ(以下、デバ)とは、その名前の通り、体表に毛の生えてないハダカで、出っ歯のネズミである。もともとは、東アフリカのケニアに生息するネズミで、女王がいて、平均80匹、最大300匹の群れをなして暮らす「真社会性」動物である。

真社会性とは、二世代以上が群れを作って暮らし、子作りにかかわる個体が決まっていて、子作りしないで手伝うだけの個体をたくさん含む社会集団のことをいう。ハチ、アリ、シロアリ、アブラムシ、エビなどの無脊椎動物では多く知られているが、脊椎動物では、デバと、近縁種のダマラランドデバネズミの二種類しかいないという希有な存在である。

著者たちは、このデバを、イリノイ州立大学からわけてもらい千葉大学の研究所で飼育する。本書は、そのデバのユニークな生態の観察記である。

デバの群には、繁殖に関わる一匹の女王、数匹の王様、兵隊デバ、働きデバにわかれている。働きデバの一部は、生まれてきた赤ちゃんを体温であたためる肉ぶとんになるものもいるという。ハチやアリと同じように役割分担ができているのだ。

しかし、著者たち達の観察によると、どうもデバは、ハチやアリなどとは異なる面があるようだ。それは、デバそれぞれが、群として行動しながらも、同時に自己主張もする個体であることがわかってきたためで、この点からすると、デバは真性社会の動物とは呼べないのかもしれない、という。

《では、彼らは何か? 生殖行動が限定された個体(女王と王様)に占有されているという点では、真性社会である。しかし、生殖を除いた日々の暮らしを見ていると、デバの社会はひとつの小企業のようにも思えてくる。》(p.107)

デバの群における、社会階級と労働の分担についての研究は、最近注目されている神経経済学のモデルにもなりうる、という。

デバという不思議な動物の不思議な魅力を味わえる一冊。


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