2010.12.17

▽墜ちたヤメ検たち

森功『ヤメ検―司法エリートが利欲に転ぶとき』(新潮文庫)

本書は、2008年9月に発行された同タイトルの単行本を内容そのままに文庫化したもの。もともとは、いまは無き『月刊現代』に、2007年10月号から2008年5月号にかけて連載されていたものをベースに再構成されている。

ヤメ検とは、検事を辞めた後に、弁護士へと転身した元検事のことをいう。ヤメ検の多くは、刑事事件の被告人の弁護をつとめることが多く、自分のかつての同僚や後輩の検事と、「事件を認めるかわりに減刑を求める」ことが多く、最近の検察の暴走による冤罪事件の温床にもなっている、と指摘されている。

ヤメ検の中には、テレビのコメンテーターとして活躍したり、企業の顧問になったりする者もいるが、本書で描かれているのは、いろいろな意味で「墜ちた」ヤメ検たちである。

まず第一章と第七章には、朝鮮総聯本部ビル詐欺事件で起訴された緒方重威が取り上げられている。緒方自身は『公安検察』という本で、「無実」を主張しているが、そもそも緒方が、この事件に巻き込まれた端緒は、元地上げ屋と懇意になったことにあるのは言うまでもない。

第二章では「防衛事務次官汚職事件」が取り上げられているが、ヤメ検はどこに絡んでくるのか? 実は、山田洋行の顧問弁護士であるヤメ検が、山田洋行から独立してできたライバル企業を追い落とすために、事件そのものをデッチ上げたのではないか、という疑惑が指摘されている。

この事件でも、防衛フィクサーとして起訴された秋山直紀は『防衛疑獄』において冤罪である、と主張している。

第三章では、和歌山県官製談合事件が、第四章では、福島県知事汚職事件が取り上げられている。どちらもヤメ検が被告の弁護をつとめているが、福島の事件では元県知事の佐藤榮佐久は『知事抹殺 つくられた福島県汚職事件』で無罪を訴えている。

第五章は女性スキャンダルで、辞職に追い込まれた元東京高検検事長がインタビューに応じている。スキャンダルの顛末は、報じた側の西岡研介『スキャンダルを追え!『噂の真相』トップ屋稼業』でも読めるが、さらに、本書では、その奥にある「誰がスキャンダル報道を煽ったか?」という疑惑にも触れていて興味深い。

現在、元検事長は、怪しげな「危機管理コンサルタント」とのつきあいがあるというが、著者は、このコンサルタントに「利用されていることに気づいていないことそのものが問題ではないだろうか。というより、この危機管理コンサルタントに助けられている面もあるのではないか。そこに、公安調査庁元長官の緒方などにも共通するエリート検事の限界があるように思えてならない。」(p.224)と指摘している。

第六章では、第三章に続いて関西のヤメ検事情が触れられるとともに、『吉本興業内紛事件』が、語られる。事件の片一方の当事者である中田カウスの主張は、西岡研介の『襲撃 中田カウスの1000日戦争』で読むことができる。

第八章は、墜ちたヤメ検の代表格でもある田中森一が登場する。田中については、プロローグ、第三章、第六章でも触れられているが、田中の生い立ちや捜査・弁護の手法は、ベストセラーにもなった『反転』で知ることができる。

驚くべきことに、本書のエピローグでは、田中の追い落としのために、別のヤメ検が策謀を巡らしたのではないか? という疑惑も指摘されている。


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