書評2010年

2010.12.26

▽ハダカデバネズミ

吉田重人、岡ノ谷一夫『ハダカデバネズミ―女王・兵隊・ふとん係』(岩波科学ライブラリー 生きもの)

ハダカデバネズミ(以下、デバ)とは、その名前の通り、体表に毛の生えてないハダカで、出っ歯のネズミである。もともとは、東アフリカのケニアに生息するネズミで、女王がいて、平均80匹、最大300匹の群れをなして暮らす「真社会性」動物である。

真社会性とは、二世代以上が群れを作って暮らし、子作りにかかわる個体が決まっていて、子作りしないで手伝うだけの個体をたくさん含む社会集団のことをいう。ハチ、アリ、シロアリ、アブラムシ、エビなどの無脊椎動物では多く知られているが、脊椎動物では、デバと、近縁種のダマラランドデバネズミの二種類しかいないという希有な存在である。

著者たちは、このデバを、イリノイ州立大学からわけてもらい千葉大学の研究所で飼育する。本書は、そのデバのユニークな生態の観察記である。

デバの群には、繁殖に関わる一匹の女王、数匹の王様、兵隊デバ、働きデバにわかれている。働きデバの一部は、生まれてきた赤ちゃんを体温であたためる肉ぶとんになるものもいるという。ハチやアリと同じように役割分担ができているのだ。

しかし、著者たち達の観察によると、どうもデバは、ハチやアリなどとは異なる面があるようだ。それは、デバそれぞれが、群として行動しながらも、同時に自己主張もする個体であることがわかってきたためで、この点からすると、デバは真性社会の動物とは呼べないのかもしれない、という。

《では、彼らは何か? 生殖行動が限定された個体(女王と王様)に占有されているという点では、真性社会である。しかし、生殖を除いた日々の暮らしを見ていると、デバの社会はひとつの小企業のようにも思えてくる。》(p.107)

デバの群における、社会階級と労働の分担についての研究は、最近注目されている神経経済学のモデルにもなりうる、という。

デバという不思議な動物の不思議な魅力を味わえる一冊。

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▽『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』が教えてくれたこと

辻野晃一郎『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』(新潮社)

著者は、ソニーでパソコンのVAIO、コクーン、スゴ録、ウォークマンなどを手がけ、その後、グーグルの日本法人社長を務めた辻野晃一郎。この2社での体験、留学記、ソニー退社後の起業の話などが、まとめられている。特に暴露本的な話題は無いが、それでも、ソニーという会社の負の部分が、少なからず明らかにされており、興味深い。

まず、ソニー入社後の著者は、厚木の情報処理研究所で、後に著者の命運に大きな影響を与える久夛良木健と出会っている。

イリノイ大学留学後の1997年に、著者は、VAIOのデスクトップパソコンの担当を命じられる。当時のソニーは、1995年に社長が大賀典雄から出井伸之へ代わっており、銀パソブームを起こしたノートブック「VAIO505」やカメラ付きVAIO「C1」が好評を博していた。

辻野がラインナップを見直したデスクトップVAIOの最初のモデルが、1998年6月に発売されたマイクロ・タワー型Sシリーズで、これが予想以上のヒットとなった。

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マイクロタワー型パーソナルコンピューター “VAIO”『PCV-S600TV7』(左)『PCV-S500V5』(右)

さらに、液晶ディスプレイを採用したVAIO Lシリーズ(写真右下)もロングセラーとなった。

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これらのヒットにより、デスクトップPCの事業は二年目に単年度黒字に転じ、10%の利益率を上げたという。そして、2001年に、辻野は、テレビのグループへ移動となり、コクーンとスゴ録を立ち上げることになる。

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<コクーン>チャンネルサーバー『CSV-E77』

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『スゴ録』DVDレコーダー 「RDR-HX8」

2003年のクリスマス商戦に向けて発売された「スゴ録」だが、社内から、思わぬ伏兵の攻撃にさらされることになる。当時、副社長としてソニーに君臨していた久夛良木の出身母体であったプレイステーションのグループがDVDレコーダー「PSX」をぶつけて来たのだ。

《年末商戦はスゴ録の圧勝であった。しかし、私が期待したような展開にはならなかった。ホーム・ストレージ・カンパニーはPSX側のカンパニーに統合されることになり、それをもって私は年明けの二〇〇四年一月一日付でお役御免となったのである。》(p.151)

しばらく無任所となっていた辻野だが、紆余曲折を経てウォークマンの開発を担当することになる。2005年秋には、ウォークマンAシリーズの発売と、専用ソフト「コネクト・プレイヤー」の発表にこぎつけた。

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ウォークマンAシリーズ

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コネクトプレーヤー

しかし、このウォークマンとコネクトプレーヤーの評判は芳しくなく、2006年春に、辻野のいたカンパニーは解体されてしまう。これを機に、辻野は、ソニーを退社する。

まず、コネクトプレーヤーの評判が悪かった点は、アプリケーション・ソフトの使い勝手が悪かったこと。これは、ソニーの致命的な欠点だったことがわかります。また、ウォークマンAシリーズもHDDバージョンの製品(写真左)は「石けん箱みたい」と馬鹿にされたと記憶しています。

しかし、フラッシュ・メモリー型のウォークマン(写真右)は、洗練されたデザインが評価されていたと思います。というか、私は、未だにこれを愛用しています(笑)。正直なところ、「あの路線を続ければ良かったのに」と今でも思っています。

また、当時、個人ブログを使ったプロモーションがやらせではないか? と騒がれた点については、本書には何も記述はありませんでした。否定しないどころか、何も触れていない、というのは、「まあ、やっていたんだろうな」と思わざるをえませんね。

[参考]
▽iPodは何を変えたのか? を振り返る
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/02/ipod-7562.html
ソニーエリクソンの挑戦
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/cat21506071/index.html

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2010.12.25

▽『加害者家族』

鈴木伸元『加害者家族』(幻冬舎新書)

本書の第一章には、夫が殺人事件の犯人となった女性が登場する。事件発覚後は、家をマスコミに取り囲まれ、近所や職場にも記者が取材に訪れる。インターネットの掲示板にも住所を晒されるようになり、子供の安全を考えて二度も転校することになる――。

著者はNHKのディレクターで、2010年4月に放映された『クローズアップ現代』「犯罪"加害者"家族たちの告白」の取材がもとになっている。

ただし、第二章以降に登場する、一般にも名の知られた加害者と、家族たちのその後については、「加害者家族が出版した手記や先輩のジャーナリストたちが取材したルポルタージュを参考にし、多くを引用させてもらった。」(p.201)とあるように、そのほとんどが、他人の著作からの情報のまとめに終始しているのは、残念だ。

[本書で取り上げられている事件]
連続幼女誘拐殺人事件
神戸連続児童殺傷事件
和歌山毒物カレー事件
長崎男児誘拐殺人事件
秋田児童連続殺人事件
英国人女性殺害事件
地下鉄サリン事件
山梨幼児誘拐殺人事件
名古屋女子大生誘拐殺人事件
死亡ひき逃げ事件
5000万円恐喝事件
子猫虐待事件
ほか

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2010.12.20

▽当ブログで売れた本――2010年下半期

2010年も、残すところ、あと十日ほど。ちょっと早いのですが、2010年8月からいままでに売れた本十傑を紹介します。

まあ、ランキングをつけるほどは売れていないので、あくまでも十傑ということで・・・・・・。

▽『600万人の女性に支持されるクックパッドというビジネス』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/05/post-65fd.html

▽『シビックプライド―都市のコミュニケーションをデザインする』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/12/post-d65f.html

▽『日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/01/post-0081.html

▽『日本「半導体」敗戦』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/12/post-b1e8.html

▽『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-feeb.html

▽『デフレの正体』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/10/post-ae95.html

この6冊は、当ブログでもコンスタントに売れています。特に、『600万人の女性に支持されるクックパッドというビジネス』は、この秋から、ふたたび売れるようになっています。

次は英語関連です。下記の3冊は、英語学習の基本書としてプッシュしてます。

▽高木義人『TOEFL対策必修単語集』
英語力強化法Vol.1 英単語は分解して覚えろ!
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2010/08/vol1-d17a.html

▽PhrasalVerb Organizer
英語力強化法Vol.11 英会話で難しいのは簡単な単語
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2010/08/vol11-5eb1.html

▽Dictionaryof Selected Collocations
英語力強化法Vol.12 コロケーション――英単語の自然なつながり
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2010/08/vol12-ec7b.html

今年のノンフィクションは、JAL崩壊の過程を描いた森功『腐った翼』が、エントリーへのアクセスも含めて断トツでした。

▽『腐った翼』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/07/post-c2e7.html

当ブログで取り上げる本のコンセプトは、基本的には「クロス・カルチュラルなノンフィクション」です。もちろん例外もありますが、ノンフィクションで異文化がクロスするような内容のもの、あるいは、時代の転換点を分析するようなもの、が中心です。

献本もお待ちしていますので(笑)、ここをご覧になられている出版社の方がいらっしゃったら、右カラム上の「メール送信」のところをクリックしてご連絡いただければ幸いです。

では、これからもいっそうの内容充実をめざして精進しますので、今後ともご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

[参考]
▽当ブログで売れた本――2009年
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/12/2009-dd61.html
▽当ブログで売れた本――2010年上半期
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/08/2010-0d88.html

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2010.12.18

▽『潜入ルポ アマゾン・ドットコム』

横田増生『潜入ルポ アマゾン・ドットコム』(朝日文庫)

本書は、アマゾンジャパンの物流倉庫への潜入取材を敢行して話題となった『アマゾン・ドット・コムの光と影』(2005年刊行)をベースに、最近の事情をふまえた第二部「その後のアマゾンドットコム」を追加したものである。

[参考]▽アマゾンに対するアンビバレントな気持ち
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/04/post-3aa2.html

第二部の第一章「ブックオフとの関係とアマゾンの変化」に続いて、第二章「マーケットプレイス潜入」では、せどらーとして知られる吉本康永さんも登場する。

[参考]▽村上春樹の小説とせどりのシンクロニシティ
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/05/post-def4.html

吉本さんの本書に対する感想は、ご本人のブログ「たそがれ親父のせどりノート」
で読むことができます。

[参考]たそがれ親父のせどりノート
http://d.hatena.ne.jp/tasogareoyazi/20101209/1291893062

第三章では、「電子書籍端末「キンドル」は出版を変えるか」として、2人の識者のインタビューが掲載されていますが、中でも気になるのが、植村八潮・東京電機大学出版局局長の次のようなコメント。

《電子書籍に関してはアマゾンの言うことを鵜呑みにすることは難しい。電子書籍に関するアマゾンの発表は、事実を伝えるというより、プロパガンダの側面が強いからだ。》(p.388)

巻末の解説では、一時は、オンライン古本屋を経営しながらも撤退してしまったライターの北尾トロさんが、アマゾンへの思いを吐露している。

[参考]▽『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/03/post-0cb8.html

本書を、ノンフィクションとして読んだ場合、アマゾンジャパンや関係する企業のガードが堅く、なかなか確実な証言がえられていない点は残念と言えば残念だが、それでも昨今のアマゾン礼賛の論調に対して、もう一度「光と影」を浮かび上がらせた点は評価して良いだろう。

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2010.12.17

▽墜ちたヤメ検たち

森功『ヤメ検―司法エリートが利欲に転ぶとき』(新潮文庫)

本書は、2008年9月に発行された同タイトルの単行本を内容そのままに文庫化したもの。もともとは、いまは無き『月刊現代』に、2007年10月号から2008年5月号にかけて連載されていたものをベースに再構成されている。

ヤメ検とは、検事を辞めた後に、弁護士へと転身した元検事のことをいう。ヤメ検の多くは、刑事事件の被告人の弁護をつとめることが多く、自分のかつての同僚や後輩の検事と、「事件を認めるかわりに減刑を求める」ことが多く、最近の検察の暴走による冤罪事件の温床にもなっている、と指摘されている。

ヤメ検の中には、テレビのコメンテーターとして活躍したり、企業の顧問になったりする者もいるが、本書で描かれているのは、いろいろな意味で「墜ちた」ヤメ検たちである。

まず第一章と第七章には、朝鮮総聯本部ビル詐欺事件で起訴された緒方重威が取り上げられている。緒方自身は『公安検察』という本で、「無実」を主張しているが、そもそも緒方が、この事件に巻き込まれた端緒は、元地上げ屋と懇意になったことにあるのは言うまでもない。

第二章では「防衛事務次官汚職事件」が取り上げられているが、ヤメ検はどこに絡んでくるのか? 実は、山田洋行の顧問弁護士であるヤメ検が、山田洋行から独立してできたライバル企業を追い落とすために、事件そのものをデッチ上げたのではないか、という疑惑が指摘されている。

この事件でも、防衛フィクサーとして起訴された秋山直紀は『防衛疑獄』において冤罪である、と主張している。

第三章では、和歌山県官製談合事件が、第四章では、福島県知事汚職事件が取り上げられている。どちらもヤメ検が被告の弁護をつとめているが、福島の事件では元県知事の佐藤榮佐久は『知事抹殺 つくられた福島県汚職事件』で無罪を訴えている。

第五章は女性スキャンダルで、辞職に追い込まれた元東京高検検事長がインタビューに応じている。スキャンダルの顛末は、報じた側の西岡研介『スキャンダルを追え!『噂の真相』トップ屋稼業』でも読めるが、さらに、本書では、その奥にある「誰がスキャンダル報道を煽ったか?」という疑惑にも触れていて興味深い。

現在、元検事長は、怪しげな「危機管理コンサルタント」とのつきあいがあるというが、著者は、このコンサルタントに「利用されていることに気づいていないことそのものが問題ではないだろうか。というより、この危機管理コンサルタントに助けられている面もあるのではないか。そこに、公安調査庁元長官の緒方などにも共通するエリート検事の限界があるように思えてならない。」(p.224)と指摘している。

第六章では、第三章に続いて関西のヤメ検事情が触れられるとともに、『吉本興業内紛事件』が、語られる。事件の片一方の当事者である中田カウスの主張は、西岡研介の『襲撃 中田カウスの1000日戦争』で読むことができる。

第八章は、墜ちたヤメ検の代表格でもある田中森一が登場する。田中については、プロローグ、第三章、第六章でも触れられているが、田中の生い立ちや捜査・弁護の手法は、ベストセラーにもなった『反転』で知ることができる。

驚くべきことに、本書のエピローグでは、田中の追い落としのために、別のヤメ検が策謀を巡らしたのではないか? という疑惑も指摘されている。

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2010.12.16

▽『Gigazine 未来への暴言』

山崎恵人『Gigazine 未来への暴言』(朝日新聞出版)

Gigazineというニュースサイト( http://gigazine.net/ )があります。独立系ブログメディアのニュースサイトとしては国内で最大規模とのこと。

Gigazineが、どれくらい凄いのかをグラフで示してみました(グラフの左目盛りの単位は万です)。

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Gigazine自体は個人サイトとして2000年4月から運営されていましたが、法人化された2006年4月からは、グラフにあるように、急速にPV(ページビュー)とUU(ユニークユーザー)が伸びていきます。現在は、月間6000万~7000万PV、2000万UUとなっています。

なんというか気がついたらあっという間に存在感を増していた、ということができます。最近では、社員のリストラと新規採用をサイト上で告知して物議を醸したこともあります。

本書『Gigazine 未来への暴言』は、Ggazine開設十周年を記念して上梓されたとのことです。読者としては、「アクセス数を稼ぐ秘訣は?」みたいなところを期待して読む人も多いのではないかと思うのですが、本書には、そういったことはほとんど書かれていません。むしろ、どこかで見たようなネット言説の焼き直しのような話ばかりで、Gigazine独自の視点や、運営の体験から出てきたことは、あまり書かれていません。

また、タイトルには「暴言」とあるのですが、暴言というほど刺激的なものはなく、凡庸なものばかり。もしかしたら、Gigazineの高いPVやUUというのは、この凡庸さによって生み出されたものなのかもしれませんね。

[関連記事]
GIGAZINE10周年記念書籍「未来への暴言」が完成、12月7日発売決定
http://gigazine.net/news/20101129_gigazine_book/
GIGAZINE10周年記念書籍「未来への暴言」、本日より発売開始
http://gigazine.net/news/20101207_gigazine_10th_anniversary_book/

[目次]
◆layer01:「Knowledge Is Our Power」知識は我らの力なり
◆layer02:専門バカvsオタクの構図「専門バカになるな、オタクになれ」
◆layer03:「理性・知性・感性」のバランス
◆layer04:インターネットは「悪魔の道具」か「天使の羽根」か
◆layer05:YouTubeのみが真の「破壊的ビジネスモデル」
◆layer06:「個人の力の最大化」=「インターネット」
◆layer07:「フリー」のその先、無料戦略の次
◆layer08:ファンがパトロンになる「パトロンモデル」成立への道
◆layer09:しかるべき場所にしかるべき人を、職業選択の最適化
◆layer10:入試の時にパソコン持ち込み可・インターネット可であれば大学の教授はどういう問題を作るのか?
◆layer11:「文明社会でのサバイバル」を教えるのが学校
◆layer12:好きなことをしてメシを食う時代の到来
◆layer13:10人中9人に嫌われてもいいから残りの1人に興味を持ってもらう
◆layer14:著作権という概念の崩壊、ファイル共有ソフトは最終局面に
◆layer15:量から質が生まれる、大量にならなければ高品質にはならない
◆layer16:超少額決済システムを握ったところが最終的な勝利者に
◆layer17:インターネットの規則を考えるというのは世界の規則、世界のルールを考えるのと同じ
◆layer18:みんなのルールを決めるのは「政治家」ではなく「サイレントガーディアン」に
◆layer19:旧世代と新世代のかつて無いレベルの「激突」
◆layer20:インターネット上に出現する国家のカタチ、領域・人民・権力
◆layer21:結論:「無料であるものに対価を払う」という時代

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2010.12.14

▽神様・手塚治虫の伴走者たち

佐藤敏章『神様の伴走者 手塚番13+2』(小学館)

漫画の神様・手塚治虫の原稿取りをした編集者13人と、手塚プロダクション社長、そして、手塚のアシスタントをつとめたことのある藤子不二雄Ⓐの証言をまとめたもの。

手塚治虫の原稿の仕上がりが遅かったのは有名な話なのですが、実際に手塚番として体験した数々の伝説が語られていて興味深く読むことができます。

以下は、目次にある各章のタイトルに、手塚番それぞれの担当雑誌と漫画名を加えたものです。

・神様を殴った男 志波秀宇(小学館・ビッグコミック)『地球を呑む』『きりひと賛歌』
・神様の孤影を見た男 黒川拓二(少年画報社・少年キング)『ノーマン』『鬼丸大将』
・神様と雲隠れした男 新井善久(講談社・少女クラブ)『火の鳥』
・神様独占を志した男 豊田亀市(小学館・少年サンデー)『スリル博士』『0マン』『キャプテンKen』『白いパイロット』
・神様の夢を叶えた男 宮原照夫(講談社・少年マガジン)『W3』『三つ目がとおる』『手塚治虫漫画全集』
・神様を信じた男   鈴木五郎(小学館・中学生の友)『流星王子』『おお!われら三人』
・神様の歌を聴いた男 池田幹生(文藝春秋・週刊文春)『アドルフに告ぐ』
・神様の弟子を育てた男 丸山昭(講談社・少女クラブ)『リボンの騎士』『火の鳥』
・神様に託された男 石井文男(虫プロ商事・COM)『火の鳥』
・神様をみやげにした男 阿久津信道(秋田書店・冒険王、漫画王)『冒険狂時代』『ぼくのそんごくう』
・神様に諭された男 鈴木俊彦(小学館・ビッグコミック)『地球を呑む
・神様を看取った男 竹尾 修(潮出版社・希望の友、少年ワールド、コミックトム)『ブッダ』『ルードウィヒ・B』
・神様の伝説に挑んだ男 松岡博治(朝日ソノラマ・サンコミックス、マンガ少年)『鉄腕アトム』『火の鳥』
・神様の遺志を継いだ男 松谷孝征(実業の日本社→手塚プロダクション)
・神様の助手を務めた男 藤子不二雄Ⓐ(安孫子素雄)

必ずしも、すべての手塚番を網羅しているわけでもなく、また、古い話も多く複数の担当者の間で証言が矛盾する「藪の中」もあるのですが、手塚治虫だけでなく、担当編集者も豪快な人物が多かったということがよくわかります。また、あとがきには、著者により、次のように総括されています。

《それでも、”ストーリー漫画=手塚治虫”の時代に始まり、手塚治虫の原稿なら何でもいいから手に入れようと狂奔する編集者像から、手塚治虫の作劇法に基本的な疑問を呈する編集者の登場まで、ひとつの時代の変遷はとらえられたかなと思っています。それは、良かれ悪しかれ、漫画をヒットさせる方法論が、編集者サイドに蓄積されていった過程でもあります。》(あとがきより)

手塚治虫については、下記の本も参考になります。

▽アニメ作家としての手塚治虫
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/05/post-fbfb.html

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2010.12.12

▽『トンデモない生き物たち』

白石拓『トンデモない生き物たち―南極の魚はなぜ凍らないのか!?』(宝島社)

雑学本ですみません……。

本屋で見かけて、何気なく手に取って開いたら、最初の項目が「砂の上を猛スピードで走るウニ」。頭の中に「走るウニ」のイメージが浮かんできて、吹いてしまいました(笑)。

さらに目次を見ると、面白そうなテーマが並んでいるので、つい買ってしまいました。

[目次]
Part1 スーパーアニマルの“そこまでやるか”
砂の上を猛スピードで走るウニ
永久に生き延びる昆虫……そんなバカな?
渓流を泳いでイワナを捕らえるネズミ
アリがもっている身分証明書は?
獲物を呼び寄せるナゲナワグモの秘密テクニック
「キャー!」悲鳴を上げて助けを呼ぶイモムシ
たった一匹で巣を乗っ取る「すご腕」女王アリ
壮絶! 毒矢・毒もりを放つ殺人貝
タンスを踊るアブラムシはどんなダンスを踊るの?
イモムシに寄生するハチの「ウイルス兵器」
カモノハシがエサを見つけるのに使う探知機
テロリストもびっくり! シロアリが自爆テロを決行
アブラムシが自殺する、どうして?
木の中で農業をするキクイムシ
クモの糸で編む未来のスーパー「防弾チョッキ」
毎年100人をあの世に送る殺人アリ
■コラム――遺伝子の宝庫・細菌類■氷の核になる氷核活性細菌

Part2 水の中は異次元世界
イタコもびっくり! 恐山にいる酢の中でも泳げる魚
かなりの変魚、南極にすむ魚「ノトセニア」
巨大オタマジャクシのステーキはいかが?
サメは六感をもつサイボーグ・ハンター
夜も昼のように明るい、カブトガ二の暗視能力
ホタルイカの墨はやっばり光るか?
頭突きで工サをとる魚、本当にとれるの?
ナマズが地震を予知する本当の理由
食べてもまずいウミウシの真の実力
チョウチンアンコウの提灯の中味は?
電気を発信して位置を知る魚の「レーダー」
鳥のカッコウより托卵がうまいアフリカのナマズ
深海にすむ「地獄の吸血イカ」の正体は?
口も胃も腸もないハオリムシは何を食べてるの?
鉄の歯をもつ貝と、鉄のよろいを着る貝
シビレエイのしびれる電気毛布作戦
地球最大生物はナゾの巨大クラゲだった!
■コラム――遺伝子の宝庫・細菌類■ダイオキシンを食べるスーパー細菌

Part3 弱肉強食にさからう!
敵が現れると変身するミジンコ
ガードマンを雇うアカシア
ニューギニアにいた伝説の毒鳥ピトフーイ
円陣を組んで戦うジャコウワシ
奴隷になったアリは、なぜ従順か?
ミツバチとオオスズメバチのフェロモン戦争
兵隊アブラムシはこんなに強かった!
寄生されると自殺したくなる虫にご用心
コウモリから逃れるカエルの合唱団
アリの巣に忍び込むイモムシの華麗な手口
生きるためにアリになったコオロギ
寄生バチに寄生するハチに寄生する
フクロウに内緒、ヤマネのラブソング
ねらった獲物はどこまでも追いかけるハチ
■コラム――遺伝子の宝庫・細菌類■石油をつくるHD1

Part4 人間もかなわないウルトラC
寒いと発熱する暖房植物ザゼンソウ
静電気をおびたクモの巣を張る超能力クモがいた!
ウミホタルは日本陸軍の秘密兵器だった!?
ペンギンの計算されつくした水中生活
セイタカアワダチソウの化学戦争
超音波の二刀流と夜間視力をもつコウモリ
捕食者を光らせるカラーボール作戦
ヒマラヤ山脈を越えて渡るツルの呼吸システム
植物の光ファイバー神経回路
コウモリに対抗して超音波を放つガ
ペリカンをマネした表面飛行翼船
500系新幹線を成功させたフクロウの羽根
結婚式の披露宴で活躍するクラゲ?
アメリカ海軍に協力するイルカの特殊作業
植物だって病気になれば熟も出る
ヘリコプターのモデルになった鳥
ダーウィンのペットがまだ生きていた!
天井を逆さにはうヤモリのナノテクノロジー
■コラム――遺伝子の宝庫・細菌類■燃える氷をつくる細菌

Part5 食欲よりまさるものはない
植物一の瞬発力をもつハエトリグサの記憶力
仲間も食べるツチボタルのプラネタリウム
やっぱりミミズはおチンチンをはらす!
毒で身を守るイモムシは安心して眠れるか
モグラの睡眠薬でミミズが1000匹眠る
肉食ボタルは光でホタルをワナにかける
マングースよりヘビに強いハリネズミの実力
ヘビがねらう洞窟コウモリのあったかい体温
汚いウンチにたかるハエが病気にならない理由
クモを襲うクモの最強テクニック
ベッコウバチの麻酔技術はブラックジャックなみ
空中戦で渡り鳥をつかまえるヤマコウモリ
昆虫を餓死させるイボタのいじわるな戦略
アリの家畜にされたダニは幸せか
タヌキ寝入りがタヌキよりうまいキタオポッサム
■コラム――遺伝子の宝庫・細菌類■磁石にくっつく磁性細菌

Part6 “愛”こそ生き物たちが進む道
百年に一度恋をして死ぬプヤ・ライモンディ
息子と娘を産み分けるヨシキリの考え方
親子の愛を感じるスンクスのキャラバン
女王アリは色気で国民を支配する?
人の恋路につけこむハチ
動物を性転換させる恐るべきウォルバキア
妻の出産を手伝う助産士サンショウウオ
恋するネズミは涙も流すし歌も歌う
寄り集まってハチに化ける砂漠の寄生昆虫
ライバルの精子をかきとって食べるマツムシ

参考文献

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2010.12.11

▽アメリカの未公開映画を読む

町山智浩x松嶋尚美『松嶋x松山 未公開映画を見る本』(集英社)

本書は、東京ローカルのテレビ局TOKYO MXにおいて、映画評論家の町山智浩とタレントの松嶋尚美がキャスターをつとめる『未公開映画を観るTV』を、まとめたものである。

松嶋×町山 未公開映画を観るTV
http://www.matsumachi.com/

最近のアメリカでは、ドキュメンタリー映画がたくさん作られているそうです。その理由として、デジタル・ビデオの登場により低コストで映画が作れるようになったこと、マイケル・ムーア監督の映画の一連のヒットにより、「ドキュメンタリーでも儲けられることがわかったこと」、そして、ブッシュ政権時代にアメリカ社会の矛盾が大きくクローズアップされるようになったこと、などがあげられます。

本書で紹介されている25のドキュメンタリー映画(1つだけフィクションがふくまれますが)についての対談を読めば、映画を見なくても、アメリカ社会が直面している問題が、どういうものなのかを理解することができます。

これらの映画は、その多くは、日本では未公開ですが、同番組2公式サイトで見ることができます(予告以外は有料です)。

「松嶋×町山 未公開映画祭」公式サイト
http://www.mikoukai.net/

また、メディア論として見た場合に興味を引いたのが、『ノット・レイテッド~アメリカ映倫のウソを暴け!~』(原題:THIS FILM IS NOT YET RATED)という、アメリカの映倫であるアメリカ映画協会の実態を暴いたドキュメンタリー。

このアメリカ映画協会は、映画における暴力やセックス表現を規制する団体なのですが、ここの審査を通らない映画は、事実上、アメリカの劇場では公開されなくなってしまうそうです。それほどの影響力を持ちながらも、協会の審査員や審査の実態は明らかになっていなかったことから、この映画の監督は私立探偵を雇って審査員の尾行を行い、10人の審査員の実名を暴露します。審査員のほとんどは劇場関係者ですが、うち2名はキリスト教の神父と牧師がいて、キリスト教的なバイアスが強くかかっていることがわかりました。

この映画自体は、同協会の審査を通さずに公開されたため、つまり、ほとんどの劇場では上映されなかったために、客の入りは悪かったようですが、映画公開後には、アメリカ映画協会の審査の方法が改善されたため、一定の役割をはたしたとも言えます。さらに、見ようと思えばネットでも見られる時代になっています。

私は、先日のエントリーで

ネットサービスで訴えられないためには――ウィキリークス創設者逮捕に思ふ
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2010/12/post-b5f7.html
《ジャーナリズムとして見れば、ネットニュースは、腰が引けまくっているわけで、ウィキリークスと、ネットニュースの間を埋める存在として、いろいろな意味で良く訓練されたジャーナリズムが生き残る可能性はあるとも言えます。》

と書きましたが、こうしたデジタル・カメラを駆使したドキュメンタリーが、ウィキリークスと腰の引けたネット・ニュースの間を埋める存在になるのかもしれませんね。

[参考]
▽映画やドラマで見る最近のアメリカ
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/01/post-b25b.html
▽オバマ・ショックとは何か?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/10/post-a9ac.html

[目次]
町山智浩x松嶋尚美『松嶋x松山 未公開映画を見る本』(集英社)

はじめに
jesus camp
『ジーザス・キャンプ~アメリカを動かすキリスト教原理主義』
Dear Zachary
『ザカリーに捧ぐ』
WHERE IN THE WORLD IS OSAMA BIN LADEN?
『ビン・ラディンを探せ!~スパーロックがテロ最前線に突撃!』
DELIVER US FROM EVIL
『フロム・イーブル~バチカンを震撼させた悪魔の神父』
BIGGER,STRONGER,FASTER
『ステロイド合衆国~スポーツ大国の副作用』
FLOW:For Love of Water
『フロウ~水が大企業に独占される!』
Kimjongilia
『金正日花/キムジョンギリア』
KASSIM THE DREAM
『カシム・ザ・ドリーム~チャンピオンになった少年兵』
未公開トーク VOL.1
CRUDE
『クルード~アマゾンの原油流出パニック』
RELIGULOUS
『レリジュラス~世界宗教おちょくりツアー』
Not Quite Hollywood
『マッド・ムービーズ~オーストラリア映画大暴走~』
GOOD HAIR
『グッド・ヘアー~アフロはどこに消えた?~』
CRAZY LOVE
『クレイジー・ラブ~ストーカーに愛された女の復讐~』
Devil's Playground
『アーミッシュ~禁欲教徒が快楽を試す時~』
THE YES MEN
『イエスメン~大資本と戦うお笑いテロリスト~』
THE YES MEN:FIX THE WORLD
『イエスメン2~今度は戦争だ!~』
未公開トーク VOL.2
WAL-MART
『ウォルマート~世界最大のスーパー、その闇~』
Maxed Out
『マックスト・アウト~カード地獄USA~』
What Would Jesus Buy?
『イエスのショッピング~買い物やめろ教会の伝道~』
SUPER HIGH ME
『スーパー・ハイ・ミー~30日間吸いまくり人体実験~』
OUTFOXED
『アウトフォックス~イラク戦争を導いたプロパガンダTV~』
The Education of Shelby Knox
『シェルビーの性教育~避妊を学校で教えて!~』
THIS FILM IS NOT YET RATED
『ノット・レイテッド~アメリカ映倫のウソを暴け!~』
CSA
『CSA~南北戦争で南軍が勝ってたら?~』
OUTRAGE
『クローゼット~ゲイ叩き政治家のゲイを暴け!~』
未公開トーク VOL.3

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2010.12.10

▽『イギリス近代史講義』

川北稔『イギリス近代史講義』(講談社現代新書)

本書は、ウォーラーステインの世界システム論と、イギリスの近代史の両方について、ある程度の知識がないと、話があっちにいったり、こっちにいったりして、ちょっとわかりにくいかもしれません。

本書の言いたいことは、巻末にある3つの表で理解できると思います。

表1イギリスの一人あたりGNP成長率
 1873~1913年 年間2%
 1924~1937年    2%強
 1951~1973年 はぼ3%

この表1には、次のような解説が加えられていいます。

《イギリスだけを見れば、「イギリス病」の時代も、成長率がとくに落ちたわけでもない。つまり、「絶対的衰退」はない。》(p.253)

また、254ページの表2と3では、イギリスのGNP成長率を、ヨーロッパ主要12ヵ国平均や、アメリカ、日本などと比較していますが、《この二つの表を見ると、イギリスの立ち後れ、つまり、「イギリス病」は、明確である。つまり、「イギリスの衰退」は、「相対的」なもので、比較の問題である。》(p.254)ということがわかります。

川北氏は、日本について、

《日本は、イギリスが近世いらい数百年にわたって経験したことを、さまざまな条件はむろんちがうのですが、ごく短い期間に追体験してきたようなところもある》(p.264)

として、イギリスの勃興とイギリスの衰退という二つの現象を同時に見ていく必要がある、と本書を結んでいます。

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2010.12.08

▽歌舞伎スキャンダル

赤坂治績『江戸の歌舞伎スキャンダル』(朝日新書)

今回のエントリーのタイトルは、ちょっと釣り気味ですが(笑)、本書は、『江戸の歌舞伎スキャンダル』というタイトルどおり、江戸時代の歌舞伎にまつわるスキャンダルを紹介したものです。

本書によると、歌舞伎役者は、江戸幕府によってしばしば弾圧されたそうです。しかし、それは江戸時代の身分制社会において虐げられてきたというわけではなくて、歌舞伎役者は、庶民からの人気が高く、お金も儲かったために、お上から見て目障りだから弾圧されることがあったそうです。

歌舞伎界において、市川団十郎と市川海老蔵は、本流をなす名跡のため、本書で紹介されるエピソードの多くに何代目かの団十郎と海老蔵が登場します。

興味深いのは江戸末期に老中・水野忠邦が行った「天保の改革」でも歌舞伎が弾圧されたこと。五代市川海老蔵(七代市川団十郎)は、贅沢な生活を理由に、江戸から追放された。

《政治が行き詰まったとき、権力者は必ず「風紀」を問題にする。第二次大戦中も、「軟弱な」芸能を取り締まった。現代も「徳育(道徳教育)」が問題になっている。……水野は政治も経済も文化も江戸時代初期に戻して「美しい国」を作ろうとした。しかし、皮肉なことに一番の味方であるはずの大名や旗本に足を掬われて失脚した。》(p.252)

また、七代市川団十郎の実子である八代団十郎は、幕末期の混乱を乗り切れずに自殺をしてしまう。遺書はなかったため、自殺の理由ははっきりせず、多くの偽遺書や、自殺の理由を綴った草双紙(絵入り小説)が書かれたという。

歌舞伎役者は、時代の節目にいろんな意味で脚光を浴びる存在なのかもしれませんね。

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2010.12.06

▽もしもホリエモンがフジテレビを買収していたら

中川淳一郎『ウェブで儲ける人と損する人の法則』(ベスト新書)

本書は、ネットニュースの編集者である中川淳一郎の『ウェブはバカと暇人のもの』や『ウェブを炎上させるイタい人たち』などの、「ネット敗北宣言」を唱える一連の著作に連なるものです。

▽アメーバニュース編集者が語るネットのバカたち
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/04/post-13ba.html

▽『ウェブを炎上させるイタい人たち』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/03/post-9cd0.html

しかし本書の内容が、前作と異なるのは、企業や放送局や出版社に対してネットの活用の仕方を提言している点です。この態度の変更は、もしかしたら、著者がネット・ビジネスのコンサルタントのような仕事を始めていることと関係があるかもしれません(笑)。

ところで私は2007年10月に下記のようなエントリーを書いています。

結局ホリエモンは正しかったのだなぁ・・・・・・
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2007/10/post-485c.html
《ブロードバンドが普及した結果、テレビの前のお茶の間の感覚がネットの世界に持ち込まれました。検索ワードランキングの上位を見ても、ニュースサイトのアクセスランキングの上位を見ても、テレビでやっているネタや話題がずらっと並んでいます。》

著者も、「もしもホリエモンがフジテレビを買収していたら」という項目では、次のような妄想を述べています。

《もしライブドアが無事提携を果たしていたら、恐らくフジテレビのウェブサイトは今よりさらに充実したものになっていたことだろう。しかも、低コストで「ネット文脈」に合った形でだ。》(p.176)

著者の言うネット文脈に合ったコンテンツとは、下記のようなものです(pp.76-77より)。

①話題にしたい部分があるもの、突っ込みどころがあるもの
②身近であるもの、B級感があるもの
③非常に意見が鋭いもの
④テレビで一度紹介されているもの、テレビで人気があるもの、ヤフー・トピックスが選ぶもの
⑤モラルを問うもの
⑥芸能人関係のもの
⑦エロ
⑧美人
⑨時事性があるもの
⑩他人の不幸
⑪自分の人生と関係した政策・法改正など

著者が、「バカと暇人」と嘲笑する人達は、おそらく本書を読むことはないでしょうが、ネットで儲けるとは、いかに彼らからのアクセスを集めるか、にかかっているのです。

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2010.12.05

▽『悪名の棺 笹川良一伝』

工藤美代子『悪名の棺 笹川良一伝』(幻冬舎)

読み終わった感想は、「あれ、笹川良一って、こんないい人だったっけ……?」というものでした。知られざる一面や、面白いエピソードも多かったのですが、残念ながら、あまり説得されませんでした……。

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2010.11.24

▽『宣戦布告』

麻生幾『加筆完全版 宣戦布告 上』(講談社文庫)

麻生幾『加筆完全版 宣戦布告 下』(講談社文庫)

本書は、1996年に北朝鮮のスパイが、韓国内に進入した「江陵浸透事件」をモデルに、同じような事件が日本で起きたらどうなるかを描いたポリティカル・フィクションです。

平時ならば、本書で描かれているような日本政府のグダグダぶりを笑っていられますが、昨今の朝鮮半島情勢を鑑みるに、背筋が寒くなる思いです。

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2010.11.22

▽石平はなぜ「中国」を捨てたのか

石平『なぜ「中国」を捨てたのか』(WAC BUNKO)

石平は、「いしだいら」ではなく、「せき・へい」と読む。著者は、中国四川省成都生まれの中国人だったが、2007年に帰化し日本人となった。1988年に来日し、それ以来、ずっと日本で暮らしている石平は、次第に中国にわき起こる反日感情に対して疑問を抱くようになった。

《八〇年代の私たちは、日本に対してむしろ好感と親しみをもっていた。それなのに、その十年後の九〇年代後半になると、若者たちと多数の中国人民は、一転して激しい反日感情の虜となっていたのである。
 それは一体なぜなのか。》(p.72)

中国人の間に澎湃とわき上がる、文化大革命にも似た熱狂的な反日感情の背景には、1989年の天安門事件によって信頼が地に墜ちた中国共産党が、国外に敵を作ることで、求心力を高めようとする狙いがあった。そして、そのターゲットとして日本が選ばれた、と著者は分析し、その「反日」と闘うことを決意した。著者が中国を捨てた理由は、ここにあった。

中国における反日デモの様子は、マスメディアなどを通じて知ることができるが、本書では、生の中国人の語る「反日」の言葉が綴られており、衝撃を受ける。中国共産党による、ある種の洗脳の結果だろうとは思うものの、隣の大国とのつきあい方を、もっともっと工夫しなければならないと考えさせられる一冊である。

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2010.11.20

▽昭和45年11月25日

中川右介『昭和45年11月25日―三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃』(幻冬舎新書)


昭和45年11月25日と聞いてピンと来る人もいるでしょうが、私のようにまったくピンと来ない人もいるかもしれません(笑)。

そう、昭和45年11月25日とは、三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊駐屯地に盾の会のメンバーとともに侵入し、自衛隊員にクーデターを呼びかけた後、自決した日……だそうです。

若い頃の私は、この日については、村上春樹の小説『羊をめぐる冒険』を通して、テレビに映る三島由紀夫の声がよく聞こえなかったことくらいしか知りませんでした(もちろん、その後、いろいろと三島由紀夫に関する本は読んでいますが)。

本書は、その昭和45年11月25日について書かれた文章を再構成して、あの事件が、どのように受け止められたか、を再現したものです。事件そのものは、すでに多くの記録が残されているのですが、本書では、マスコミ、文壇、演劇・映画界、政界の人々が、あの事件をどう受けとめたのか中心に、百数十の視点から時系列に再構築していて、良質なドキュメンタリーとして読むことができます。上述した村上春樹の小説も出てくるなど、なかなか芸が細かいですね。

余談ですが、まだ携帯電話もインターネットも無い時代なので、「明日何時に電話するのでいてください」と三島に頼まれたり、不在の三島に連絡がとれなくて困った編集者がいたり、ラジオで知ったニュースを確認したくてテレビを探したり、といった当時では当たり前のことなんですが、いまではいちいち説明しないと若い人には理解できないことが書かれていて時代の変化も感じてしまいます。

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2010.11.19

▽落合博満伝説

▼落合福嗣『フクシ伝説 うちのとーちゃんは三冠王だぞ!』(集英社)

惜しくもプロ野球日本シリーズで優勝を逃した中日ドラゴンズの監督である落合博満ほど、マスコミで伝えられるイメージと実態がかけ離れた人物もいないだろう。

断片的な情報は漏れ伝わっていたが、息子である落合福嗣の著書『フクシ伝説』では、衝撃の事実が語られている。東洋大学の野球部に入部した落合は、突然なにもかも嫌になって、寮から失踪。二週間ほど、東京都内をホームレスとしてさまよっていたという。

《夜は知らないおじさんの家に泊まったこともあるし、ある組織の人に世話になったこともあったな。このあたりはさすがに話せんよ(笑)。で、さっき言ったように公園に寝泊まりした日もあったんだ。……そういうおせっかいをやいてくれる一方で、オレに何があったか深くは聞いてこないんだ。逃避行中、オレは何人にも世話になったが、誰ひとりとして、"踏み込んできた"人はいなかった。》(p.92)

深い、深すぎる(笑)。この後、秋田に帰って日雇いをしていた落合は、ふたたび東芝府中で期間工として働きながら、社会人野球で頭角をあらわし、野球人生の再スタートをきった。

▼テリー伊藤『なぜ日本人は落合博満が嫌いか?』(角川oneテーマ21)

テリー伊藤の『なぜ日本人は落合博満が嫌いか?』では、この再スタートがどれだけ大変なことなのかが強調されている。

《「でも、勝負の世界なんだから、実力がある者は、いずれちゃんとそうやって頭角を現すものだよ」
 そんなことを思っている人は、おそらくプロアマ含めて野球界には1人もいない。実力があってもつぶれる選手はいくらでもいるし、実力があってもつぶされる選手はいくらでもいる。
 こうして落合博満という野球人の序章を見ると、その後の落合があるほうが不思議なくらいなのだ。》(pp.142-143)

とはいえ、落合は、現役時代に三冠王を三度とるなど選手として活躍しただけでなく、中日の監督就任後は、リーグ優勝三回、日本シリーズ出場四回、日本一一回と監督としても有能なことを示した。

▼今中慎二『中日ドラゴンズ論』(ベスト新書)

著者の今中慎二は、中日の投手として選手時代の落合をよく知っており、また、解説者として落合の監督の手腕を見てきた。星野仙一をはじめとする歴代監督と、落合を比較しながら、中日ドラゴンズの強さについて考察している。もし中日が日本一になっていたら、本書は、もっと売れていたことでしょうに。

[参考]
▽落合が語るコーチング術
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/01/post-c1b2.html

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2010.10.31

▽『9・11の標的をつくった男』

飯塚真紀子『9・11の標的をつくった男  天才と差別―建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社)

9・11のテロによって倒壊させられたニューヨークのWTC(世界貿易センター)ビル。このビルの設計を手がけた日系人のミノル・ヤマサキ評伝で、とても興味深く読みました。

ミノル・ヤマサキがWTCの設計者の候補の一人に選ばれた理由については、複数の識者が、無名の日系人建築家というアウトサイダーであり、そのことが、貿易ビルという複数の人種が働くビルにふさわしかったから、と指摘しています。

しかし、そもそも、WTCの設計を日系人が行ったことすら、本書を読むまで、知りませんでしたが、ミノル・ヤマサキは当時のタイム誌の表紙にもなったそうです。

本書のタイトルをつけるとすれば、やはり『9・11の標的をつくった男』にせざるをえないんだろうなとは思いますが、それにしても日本人は、海外で活躍する日系人に関して冷淡な気もしますが、それはどうしてなんでしょうね。

[目次]
プロローグ
アメリカに渡った兄弟
シアトルのスラム暮らし
アラスカの“キャナリー・ボーイ”
建築家ヤマサキの誕生
空のグランド・セントラル駅
「静寂と歓喜」に目覚めた日本との出合い
光と影のマクレガー
摩天楼への道
離婚、そして再婚
世界貿易センタービルという混沌
葛藤する巨塔
栄光と引きかえに壊れた家庭
サウジ・コネクション;生涯をかけた仕事
死してなお
エピローグ

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2010.10.30

▽『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』

アンドリュー・ロス・ソーキン 『リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上) 追いつめられた金融エリートたち』(早川書房、加賀山卓朗訳)

アンドリュー・ロス・ソーキン 『リーマン・ショック・コンフィデンシャル(下) 倒れゆくウォール街の巨人』(早川書房、加賀山卓朗訳)

米ニューヨーク・タイムズ紙の金融や企業合併専門のトップ記者である著者が、2009年9月15日のリーマン・ショックに至る舞台裏を、当時の多くの金融関係者にインタビューを行って描き出したものである。

本書の冒頭では、JPモルガンCEOが、リーマン・ブラザーズ、メリルリンチ、AIG、モルガン・スタンレー、ゴールドマンサックスの倒産に備えろ、と部下に伝えるところから始まる。

この5つの金融機関の内、リーマン・ブラザーズの倒産の直接の引き金は、イギリス政府からもたらされたという。イギリスのバークレイズがリーマンの優良資産を引き継ぐという話が進んでいたが、イギリスの金融当局は「株主の承認が必要」とこれを拒んだことが、リーマン・ショックを引き起こした。

メリルリンチは、リーマン・ショックと同じ日に、バンク・オブ・アメリカに買収されることが発表された。AIGも、経営危機が表面化し、公的資金によって救済された。

モルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスは、FRBの支援が受けやすい銀行持ち株会社へと移行することで、危機を乗り切った。

倒産した金融機関の経営者の証言もあり、破滅へと至る様子があまさず綴られている。一級品の歴史的記録が、これほど早く読めるのも驚きというほかない。

[目次]

『リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上)』
プロローグ   大きすぎてつぶせない   
第1章  リーマン株急落   
第2章  ポールソン財務長官の怒り
第3章  NY連銀総裁ガイトナーの不安
第4章  バーナンキFRB議長の苦闘
第5章  リーマン収益報告への疑念
第6章  襲いかかる空売り
第7章  揺れるメリルリンチ
第8章  瀕死の巨人AIG
第9章  ゴールドマン・サックスの未来
第10章 ファニーメイとフレディマック株急落
第11章 リーマンCEOの焦り
第12章 倒れゆく巨大金融機関   
第13章 誰がリーマンを救うのか?

『リーマン・ショック・コンフィデンシャル(下)』
第13章  誰がリーマンを救うのか?(承前)
第14章  全CEO招集
第15章  リーマンの最後
第16章  AIG倒れる
第17章  モルガン・スタンレー絶体絶命
第18章  三菱UFJからの電話
第19章  揺らぐゴールドマン・サックス
第20章  ワシントンDCへの最終招集
エピローグ  リーマン・ショックのあとに  

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2010.10.29

▽『菊とポケモン』

アン・アリスン『菊とポケモン―グローバル化する日本の文化力』(講談社、実川元子訳)

『菊とポケモン』(原題: MILLENIAL MONSTERS: Japanese Toys and The Global Imagination 2006 )の著者であるアン・アリスン( Anne Allison )は、東京でホステスとしても働いたことのあるアメリカの文化人類学者。

本書では、日本のポピュラー・カルチャーが、主にアメリカでどのように受容されていったかを詳述している。考察の中心は、ポケモンであるが、そのほかにもパワーレンジャー、セーラムーン、たまごっちなども、アメリカでどのように受容されていったかについて述べられている。

日本におけるポケモンの大ヒットを受けて、任天堂はアメリカへの進出を考えたが、アメリカ側の業者は、ポケモンの展開にはあまり乗り気ではなかったという。

《ポケモンには強いヒーロー的なキャラクターがいないし、マンガのテンポはスローだし、アニメ、映画と読み物のストーリーラインは複雑で、しかもゲームをもとにしたプロパティである。》(p.316)

こうしたデメリットを克服すべく、さまざまな改変が加えられたものの、それは、本来のポケモン持つテイストを壊さないように入念なものであったようだ。それがアメリカや他の国々でのポケモンのヒットにつながったことが伺える。

本書は、学術書としての水準には達しているものの、「ポケモン全米ヒットの秘密を解明!」というようなマーケティングの書を期待している向きには、読み通すのは骨が折れるかもしれない。

[目次]
第1章 魔法をかけられた商品
第2章 灰燼から立ち上がるサイボーグ-復興の時代
第3章 新世紀の日本-親密さのなかの疎外感 新世紀の親密さ
第4章 パワーレンジャー-国境を超えたスーパーヒーロー
第5章 セーラームーン-少女たちの華麗なアクションファンタジー
第6章 たまごっち-精霊となる人工装具
第7章 ポケットモンスター-ポケモンをゲットすることと資本主義とコミュニケーションをとること
第8章 「全部ゲットしちゃおう!」-米国(と世界)のポケモニゼーション

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2010.10.25

▽古代出雲の謎を解く

梅原猛『葬られた王朝―古代出雲の謎を解く』(新潮社)

古代日本史は、あまり詳しく無いのですが、ある週刊誌の書評欄で紹介されていたので本書を手に取りました。

まず、『古事記』や『日本書紀』で語られるいわゆる記紀神話は、高天原神話、出雲神話、日向神話の三つの神話からなっています。このうち高天原神話は、天で起きたことが語られたものであるためフィクションであることは間違いないのですが、出雲神話と日向神話もまた作り話である、と長いこと信じられてきました。

しかし、1988年に世界的に著名な人類学者レヴィ=ストロースが、「日向神話は歴史的事実を反映しているのではないか」と語ったことをきっかけに、著者は、2000年に『天皇家のふるさと日向を歩く』(新潮社)を書き、日向神話は事実を反映しているというレヴィ=ストロースの説を支持しました。

一方、出雲神話について著者は、40年ほど前に書いた『神々の流竄』においては、フィクションであるという立場をとっていました。その根拠は、出雲神話を裏付けるような大規模な遺跡がない、という事実にありました。

しかし、1980年代半ばから、出雲においても大規模な遺跡が発見されるようになり、出雲神話も歴史的事実を反映してるのではないかと著者は考えるようになりました。そして、自著『神々の流竄』を否定するために、本書『葬られた王朝―古代出雲の謎を解く』を書く決意をしたそうです。

とまあ、ここまで十分お腹いっぱいなんですが、古代史の知識がないと最後まで読むのはなかなか骨が折れるのですが、それなりの知的興奮をもたらしてくれます。まあ、古代人であっても、まったく根も葉もない嘘を、もっともらしくでっち上げるのは難しいということなんでしょうね。

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2010.10.24

▽電子書籍の時代は本当に来るのか?

歌田明弘『電子書籍の時代は本当に来るのか』(ちくま新書)

著者自身が、「ここ十数年で『電子書籍の時代がくる』と何度も言われ、そのたびにこうしたテーマで原稿を書いた」と自重気味に述べているように、2010年も何度目かの電子書籍元年に当たるらしい。本書は、電子書籍をめぐる最近の国内外の動向を網羅的に提示しているが、情報自体はどこかで目にしたことのあるものが多い。

また、さまざまなジャンルのものがすべて「電子書籍」としてくくられているために、細かい情報は多いものの、全体的な見取り図が描けていない。佐々木俊尚の『2011年 新聞・テレビ消滅』(文春新書)のように、メディア産業を「コンテンツ」、「コンテナ」、「コンベヤ」の三つの層にわけるなどの考え方のフレームワークが提示されるべきだと思う。

少なくとも、ニュース、役に立つ情報、楽しむためのコンテンツの三つくらいにわけて考えるべきだし、それぞれの分野ではじょじょに電子化は進んできているのは間違いない。

[参考]
▽2011年に新聞・テレビ消滅の根拠は……
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/07/index.html
▽『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/03/ipad-vs-c1ab.html

[目次]
まえがき
第一章 電子書籍端末の問題はどこにあるのか?
1 最初の「電子書籍の時代が来る」
 ●本はやっぱり消える?
 ●一九九八年のカラーの電子書籍端末
 ●コロンブスの卵
 ●「電子書籍の夢」
 ●実験への疑問
 ●電子書籍実証実験の帰結と新たな始まり
2「紙の本がなくなる」――二度目の「騒ぎ」
 ●PDA電子書籍
 ●増え始めた電子書籍
 ●「iPhoneの前身」の実証実験
3 「リブリエ」の失敗――何度目かの「電子書籍元年」
 ●中国市場の影
 ●「教育特需」のおこぼれの電子書籍市場?
 ●読書端末をただで配る?
 ●ソニーの読書端末
 ●反射型表示のゆくえ
 ●あきらめない端末メーカー2社
4 ケータイ小説とブログの意味
 ●集団的著作と個人メディア
 ●ケータイ電子書籍の可能性と限界
 ●ケータイ小説ブームを支えたネット・メディアの性質
 ●完成度の高いものはかならずしも必要ではない
5 キンドルはなぜ成功したのか
 ●アマゾンの「逆ざや商法」
 ●十分に準備したアマゾン
 ●キンドルを買ったのは誰か?
 ●キンドル2の発売
 ●小売価格をつけるのは誰か?
 ●「安売り」への懸念
 ●印刷版も電子版もつくればコストは増える
 ●アマゾンとアップルのソフト戦争
 ●キンドルの問題点
6 iPadは「本」の破壊をもたらす?
 ●iPadはネットのコンテンツを使う装置
 ●アップルの「検閲」
 ●iPadと雑誌
 ●iPadとハリウッド型コンテンツ
 ●読書端末としてのiPadの問題点
7 激化する読書端末戦争と日本語表示できるキンドル3の登場
 ●読書端末の価格引き下げ競争が始まった
 ●大手書店からさらに一一九ドルの端末が‥‥
 ●日本語表示可能なキンドル3が出たものの‥‥
8 電子書籍をめぐる状況は変わったか?
 ●電子書籍市場が成長するには読書端末が必要
 ●日本でも端末がいろいろ出れば‥‥
第2章 グーグルは電子書籍を変えるか?
1 あらゆる書籍のデジタル化に乗り出したグーグル
 ●騒動の始まり――図書館の本をまるごと電子化し始めたグーグル
 ●本の全文検索の登場――先行するアマゾン
 ●あと追いするグーグル
 ●追いついたグーグル
 ●グーグル・ブック検索の意味
 ●グーグルの「使命」
 ●「グーグル・プリント」の限界とグーグルが見つけた解決方法
 ●図書館プロジェクト
 ●新しい検索を立ち上げるさいの四条件
2 グーグルの「誤算」――ブック検索裁判
 ●グーグルという特殊で不思議な会社
 ●記者会見に現われた無邪気なグーグルの二人の創立者
 ●フェア・ユース
 ●苦衷の米出版社協会長
 ●グーグルの言い分
3 グーグルによって生まれる新たな電子データ市場
 ●和解案の詳細
 ●グレイな解決がグーグルにとってベスト
 ●グーグルがブック検索訴訟で得たもの
 ●オプト・アウトの出版物への適用
 ●孤児本とオプト・アウト
 ●和解案の問題点
 ●グーグルの経営がうまくいかなくなったら、どうなる?
4 日本語版グーグル・ブック検索の誕生
 ●書店との連携の可能性を示唆したグーグル
 ●いち早く提携した慶応大学
5 猛反発されたグーグル
 ●突然出されたグーグルの「公告」
 ●米国での和解に拘束される理由
 ●グーグルと和解管理者の大失敗
 ●日本の著作権者の選択肢
 ●和解案に対する作家団体の反発
 ●ハーバード図書館長の懸念
 ●グーグルがヨーロッパにもたらした不安
 ●「人気ランキング」の弊害
 ●デジタル化プロジェクトを左右する国民性
6「グーグル撃退」のツケは誰が負うのか?
 ●グーグル訴訟・修正和解案の問題点
 ●ツケを払うのは結局、社会全体
 ●「黒船」を撃退して
7 膨大な既刊本の電子化を誰がやる?
 ●長尾真氏の電子図書館構想
 ●長尾構想の問題点
 ●韓国の電子図書館
 ●図書館の「商業化」?
 ●進展し始めた長尾構想
8 グーグル「再上陸」
 ●グーグル・エディション誕生
 ●グーグル・エディションの特徴――コスト負担なしの電子化
 ●多様なオンライン書店、多様な導線
 ●街の書店との連携を模索しているグーグル
 ●グーグル・エディションの小売価格を決めるのは誰か?
 ●グーグル・エディション日本語版の問題点
 ●修正和解案にもあった「リセール」の項目
 ●「電子書籍貯蔵庫」の方向に一歩踏み出したグーグル
 ●競争が激しくなってきた電子書籍取次
 ●グーグルがアマゾンや楽天のライバルになる
 ●グーグル・エディションはウェブを変える
第3章 「ネットは無料」の潮目が変わろうとしている?
1「ニュース記事は無料」の時代は終わるのか?
 ●新聞の読書端末配信がウェブを変える
 ●ネットに完全移行した新聞社の収入は100分の1?
2 サイトに高額課金すると新聞読者は戻ってくる?
 ●ニュースが私を見つけてくれる時代の始まり
 ●2年ごとに毎日読む人が10%ずつ減っている30歳代
 ●印刷版からウェブへのニュース講読の移行はどのようなものになる?
 ●「歳をとれば新聞を読む」というのはウソ
 ●「オンライン版は割高」という常識はずれの価格設定
 ●「ネットは無料」の魔法が解けた?
 ●長期的にはやはりジリ貧になる
 ●有料と無料の混在(フリーミアム)がニュース・サイトの生きる道?
 ●ニュース・サイトの課金ネットワーク――「ジャーナリズム・オンライン」の試
3 メディア王マードックの野望――読者が減っても収入は増える?
 ●9割が支払い拒否にもかかわらず課金を始める新聞
 ●95%のアクセスを失っても収入は増える
4 ウェブで融合するニュース記事と書籍
 ●予想を超える購読者がいても不思議ではない日経の電子版
 ●課金プラットフォームを握るのは誰か?
 ●日経のやらないことをやった朝日
 ●本の山のなかから探しているものに出会う新たな方法
 ●セルフ・パブリッシングに必要なのは課金プラットフォーム
 ●ノンフィクションや調査報道を救うウェブ新書
 ●携帯端末向きのあら手の電子書籍
5 電子書籍がウェブの構造変化を引き起こす?
 ●「ウェブのコンテンツは無料」になぜなったのか
 ●「オープン=無料ではない」と主張するグーグル
 ●市場破壊の低価格商品
 ●「新聞崩壊」を心配するグーグル
 ●読書端末の登場でウェブが変わる?
あとがき――再販制崩壊を導く電子書籍

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2010.10.23

▽買わされる「名付け」 10の法則

則定隆男『買わされる「名付け」 10の法則』(日経プレミアシリーズ)

『買わされる「名付け」 10の法則』というタイトルに釣られて買ってしまいました。その意味では、この本の名付けはうまくいってると言えます(笑)。

うまいネーミングを十のカテゴリーにわけて説明していて、とても楽しく読むことができます。ただ、よくよく考えるといくらネーミングが良くても、商品やサービスが良くなければ廃れてしまうので、続編として、いい名付けだが失敗したもの、あるいは、名付けは悪いが成功したもの、などについても紹介してもらいたいところですね(笑)。

[目次]
プロローグ コトバを売る
第一章 際立たせる、覚えさせる
第二章 違いを出す、違いを説明する
第三章 イメージを利用し、イメージを変える
第四章 ネガティブからポジティブへ
第五章 気づかせ、意識を変える
第六章 目に見えるように描く、場面を描く
第七章 時代を捉え、リードし、先取りする
第八章 憧れを抱かせ、自信を持たせる
第九章 ターゲットを絞る、用途を絞る
第十章 ルールに従い、責任を回避する
エピローグ グローバル化に向けて

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2010.10.22

▽本当に使えるウェブサイトのすごい仕組み

佐々木俊尚『本当に使えるウェブサイトのすごい仕組み』(日本経済新聞出版社)

『日経PC21』に連載されたウェブサービスについてのコラムをまとめたもので、実用性を重視したサイト録となっていて役に立つ。

中でも面白かったのが、『ポイ探』(ポイント探検倶楽部)というサービス。これは、クレジットカードや電子マネーなどを使った時に得られるポイントを、効率よく貯めたり、他のポイントに交換する方法を教えてくれるサイト。ポイントをわらしべ長者のように膨らませていくことができないかと夢想してしまいました(笑)。

ポイ探
http://www.poitan.net/

ポイント探検倶楽部・佐藤温『かんたん ポイント&カード生活』(人生設計応援mook)

佐々木俊尚『本当に使えるウェブサイトのすごい仕組み』(日本経済新聞出版社)
[目次]
【衣食住を豊かに】
プーペガール/アトリエ/アットコスメ/食べログ/サンプル百貨店/Alike/おとりよせネット/シュフー/クックパッド/スマイティ/リビングスタイル
【エンタテインメントを楽しむ】
ツタヤディスカス/フィルモ/本が好き/ニコニコ動画/Spider/キンドル/まぐまぐマーケット
【外に出かけよう】
一休/ポイ探/フォートラベル/iコンシェル
【誰かとつながりたい】
発言小町/エディタ/みんなの政治/ウェブポ/エキサイト婚活
【生活のお悩み相談】
Qlife/OKウェイブ/オールアバウトプロファイル/マニュアルネット

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2010.10.17

▽『冤罪法廷』

魚住昭『冤罪法廷 特捜検察の落日』(講談社)

ジャーナリストの魚住昭が、厚生労働省の村木厚子元局長の冤罪となった郵便不正事件、いわゆる『凛の会事件』を追ったもので、9月10日に、局長への無罪判決が出る前に発売されている。

魚住昭は、すでに『特捜検察の闇』において、特捜検察の堕落ぶりを指摘している。

▽2001年の時点ですでに指摘されていた特捜検察の闇
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/04/2001-1cf4.html

そもそも郵便不正事件は、民主党の政治家へとつながるはずという見立てで進められたのが頓挫し、途中で、厚労省のキャリア官僚逮捕へと、舵を切ったが、それも失敗したことが明らかになっている。

魚住は、終章において、村木元局長の弁護をつとめた弘中惇一郎弁護士に、自身が「特捜の正義」を信じていた頃の特捜部について尋ねている。

《 この問いに弘中は、少し考え込んだ末にこう答えた。
「あえて言うとするなら、以前は悪質・巧妙だった捜査が、悪質・ズサンなものになったということでしょうね」
 弘中の答えは胸にすとんと落ちた。》(p.281)

また、本書の発売前後にも、政治と検察の絡む事件が次々と起きている。

9月7日 鈴木宗男の上告を最高裁が棄却
9月10日 村木厚子元局長に無罪判決
9月14日 民主党代表選挙、検察審査会が小沢一郎「起訴相当」を密かに決議
9月21日 朝日新聞が大阪地検のFD改竄をスクープ、前田検事逮捕
9月24日 那覇地方検察庁が尖閣島問題で中国人船長を独自判断で釈放
10月1日 前田検事の上司二人が「犯人隠避」容疑で逮捕
10月4日 検察審査会が小沢一郎「起訴相当」を発表

司法があまりにも政治に介入しすぎている状況は、どうしたら改善できるのだろうか。

[参考]
▽ホリエモンが語る塀の中の暮らし
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/03/post-c16c.html
▽司法記者が見た特捜部の崩壊
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/04/post-f59a.html
▽2001年の時点ですでに指摘されていた特捜検察の闇
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/04/2001-1cf4.html
▽リクルート報道の再検証
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-e240.html
▽リクルート事件――いまなお残る疑問
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-0d34.html

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2010.10.04

▽日本経済の正体(3)――『財政危機と社会保障』

鈴木亘『財政危機と社会保障』(講談社現代新書)

各所で話題の日本経済に関する本を紹介していますが、その第三弾は、『財政危機と社会保障』。同じ著者の本については、すでに当ブログでも、紹介しています。

▽鈴木亘『年金は本当にもらえるか?』、『社会保障の不都合な真実』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/08/post-3bf7.html

内容的には、上記の二冊と重なっていますが、本書では、「増税で強い社会保障」という主張に対する経済学的な批判を展開しています。また、国の借金はいくらか、という問いに対しては、前回紹介した『2020年、日本が破綻する日』とほぼ同じ主張をしています。このあたりが経済学者のコンセンサスと言えるでしょう。

▽日本経済の正体(2)――『2020年、日本が破綻する日』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/10/2020-0fff.html

さて、本書で興味深かったのは、第四章の『年金改革は、第二の普天間基地問題になるか』。ここでは、日本の年金制度の歴史を振り返っていますが、日本の年金制度は、厚生年金にしろ、国民年金にしろ、もともとは積立方式で運営されていたのが、いつの間にか賦課方式に切り替えられてしまった、という驚くべき事実が紹介されています。

《田中角栄が首相であった一九七〇年代前半に始まった大盤振る舞いは大規模で、当時の高齢者達の年金額を、彼等が支払ってきた保険料をはるかにしのぐ水準に設定しました。また、当時の勤労者の保険料も、彼等が老後に受け取る年金額から考えると、はるかに低い水準に据え置かれ続けられました。》(p.138-139)

このため当初積み立てられていた積立金は取り崩され、また、厚生労働省や社会保険庁、それらの天下り先などが、さまざまなかたちで無駄遣いをして失われてしまいました。

《厚生労働省自身の最新の計算によれば、本来、厚生年金で八三〇兆円、国民年金で一二〇兆円存在しなければならない積立金は、二〇〇九年時点で厚生年金が一四〇兆円、国民年金で一〇兆円程度存在するにすぎません。》(p.139)

合計で八〇〇兆円の積立金が失われたことになります。

[目次]
第一章 「日本の借金」はどのくらい危機的なのか?
第二章 「強い社会保障」は実現可能か?
第三章 世界最速で進む少子高齢化、人口減少のインパクト
第四章 年金改革は、第二の普天間基地問題になるか
第五章 医療保険財政の危機と医師不足問題
第六章 介護保険財政の危機と待機老人問題
第七章 待機児童問題が解決しない本当の理由
第八章 「強い社会保障」ではなく「身の丈に合った社会保障」へ

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2010.10.03

▽日本経済の正体(2)――『2020年、日本が破綻する日』

小黒一正『2020年、日本が破綻する日』(日経プレミアシリーズ)

各所で話題の日本経済に関する本を紹介していますが、その第二弾は、『2020年、日本が破綻する日』。著者の主張は、このままいくと、2020年までに、家計貯蓄に支えられてきた国債発行ができなくなるため、国債の暴落と金利の上昇が同時に起こる、というもの。

こういう主張に対しては「狼少年」という批判も多いのですが、でも、遅かれ早かれ「狼」は確実にやってくる、と思います。

日本政府のバランスシートは2007年度末の時点で、資産は695兆円、負債は978兆円と、283兆円の債務超過となっています。

《これが民間企業であれば、通常、債務超過となった段階で倒産してしまうケースも多い。しかし、債務超過でも国が破綻しないのは、政府は国民から強制的に税を徴収できる権限、つまり「課税権」をもつからである。》(p.55)

この283兆円が、2007年時点の純債務(ネット)であり、対GDP比は約60%で、総債務(グロス)の対GDP比は約190%に比べれば、ずっと額が小さいと言われてきました。

しかし、このバランスシートの資産の中には、道路や川などの社会資本が含まれており現実には売却できない、また将来の年金の支払いのための積立金なども含まれていてすべて取り崩すことはできないそうです。さらに、社会保障の「暗黙の債務」1150兆円を加えると、1430兆円もの債務超過となる可能性もあるそうです。

本書においても、著者は、さまざまな処方箋を提示していますが、これも実行に移すには、相当な痛みを伴うものであることが予想できます。そして、やはりこちらも、「もう手遅れなんじゃないの?」という絶望感に襲われてしまいます。

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2010.10.02

▽日本経済の正体(1)――『デフレの正体』

藻谷浩介『デフレの正体――経済は「人口の波」で動く』(角川oneテーマ21)

各所で話題の日本経済に関する本を続けて三冊読みましたので、順に紹介していきたいと思います。まずは、『デフレの正体』。著者の主張は、1990年代から続くデフレの原因は、15歳から65歳までの生産年齢人口の減少にある、というもの。

《この「生産者年齢人口減少に伴う就業者数の減少」こそ、「平成不況」とそれに続いた「実感なき景気回復」の正体です。戦後一貫して日本を祝福してくれていた「人口ボーナス」が九五年頃に尽き(新規学卒者>定年退職者という状況が終わり)、以降は「人口オーナス」の時代が始まった(新規学卒者<定年退職者の時代になった)ということです。》(p.134-135)

「就業者数の減少」は、そのまま消費者人口の減少につながります。その結果、1996年から2002年にかけて、国内新車販売台数、小売販売額、雑誌書籍販売部数、国内貨物総輸送量、自家用車による旅客輸送量、蛋白質や脂肪の摂取量、国内種類販売量、一人あたり水道消費量が減少に転じたという。「これは正に退職後の高齢者世帯の消費行動そのものではありませんか。」(p.136)

1990年代半ばから、すでに生産者年齢人口の減少は始まっているのですが、これから5年間は、さらに団塊の世代の高齢化と、少子化によって拍車がかかります。そして、対策としては一般的には、出生率の引き上げや移民の導入が叫ばれていますが、著者は、これらの対策は「絶対数があわない」と切って捨てています。

もちろん著者は、生産者年齢人口が減少する日本において、経済を立て直すには、どうすればいいのかについてさまざまな処方箋を提示してくれています。しかし、正直なところ「もう手遅れなんじゃないか?」という読後感、うっすらとした破滅感のようなものを抱いてしまうのも事実です……。

[目次]
第1講 思い込みの殻にヒビを入れよう
 景気判断を健康診断と比べてみると
 ある町の駅前に表れた日本のいま

第2講 国際経済競争の勝者・日本
 世界同時不況なのに減らない日本人の金融資産
 バブル崩壊後に倍増した日本の輸出
 世界同時不況下でも続く貿易黒字
 世界中から莫大な金利配当を稼ぐ日本
 中国が栄えれば栄えるほど儲かる日本 
 中国に先んじて発展した韓国・台湾こそ日本の大得意先
 フランス、イタリア、スイスに勝てるか

第3講 国際競争とは無関係に進む内需の不振
 「戦後最長の好景気」の下で減り始めた国内新車販売台数
 小売販売額はもちろん、国内輸送量や一人当たり水道使用量まで減少する日本
 なぜ「対前年同期比」ばかりで絶対数を見ないのか

第4講 首都圏のジリ貧に気付かない「地域間格差」論の無意味
 苦しむ地方の例……個人所得低下・売上低落の青森県
 「小売販売額」と「個人所得」で見える「失われた一〇年」のウソ
 「地方の衰退」=「首都圏の成長」とはなっていない日本の現実
 「東京都心部は元気」という大ウソ
 名古屋でも不振を極めるモノ消費
 地域間格差に逆行する関西の凋落と沖縄の成長
 地域間格差ではなく日本中が内需不振

第5講 地方も大都市も等しく襲う「現役世代の減少」と「高齢者の激増」
 苦しむ地方圏を襲う「二千年に一度」の現役世代減少
 人口が流入する首都圏でも進む「現役世代の減少」
 所得はあっても消費しない高齢者が首都圏で激増
 日本最大の現役減少地帯・大阪と高齢者増加地帯・首都圏
 「地域間格差」ではなく「日本人の加齢」
 団塊世代の加齢がもたらす高齢者のさらなる激増

第6講 「人口の波」が語る日本の過去半世紀、今後半世紀
 戦後のベビーブームが一五年後に生んだ「生産年齢人口の波」
 高度成長期に始まる出生者数の減少
 住宅バブルを生んだ団塊世代の持ち家取得
 「就職氷河期」も「生産年齢人口の波」の産物
 「生産年齢人口の波」が決める就業者数の増減
 「好景気下での内需縮小」が延々と続く

第7講 「人口減少は生産性上昇で補える」という思い込みが対処を遅らせる
 「生産性」と「付加価値額」の定義を知っていますか?
 生産年齢人口減少→付加価値額の減少を、原理的に補いきれない生産性向上
 「生産性向上」努力がGDPのさらなる縮小を招く
 間単には進まない供給側の調整
 高齢者から高齢者への相続で死蔵され続ける貯蓄
 内需がなければ国内投資は腐る
 三面等価式の呪縛
 「国民総時間」の制約を破ることは可能なのか?

第8講 声高に叫ばれるピントのずれた処方箋たち
 「経済成長こそ解決策」という主張が「対策したフリ」を招く
 「内需拡大」を「経済成長」と言い間違えて要求するアメリカのピンボケ
 マクロ政策では実現不可能な「インフレ誘導」と「デフレ退治」
 「日本の生き残りはモノづくりの技術革新にかかっている」という美しき誤解
 「出生率上昇」では生産年齢人口減少は止まらない
 「外国人労働者受け入れ」は事態を解決しない
 アジア全体で始まる生産年齢人口減少に備えよう

第9講 ではどうすればいいのか① 高齢者富裕層から若者への所得移転を
 若い世代の所得を頭数の減少に応じて上げる「所得一・四倍増政策」
 団塊世代の退職で浮く人件費を若者の給料に回そう
 若者の所得増加推進は「エコ」への配慮と同じ
 「言い訳」付与と「値上げのためのコストダウン」で高齢者市場を開拓
 生前贈与促進で高齢富裕者層から若い世代への所得移転を実現

第10講 ではどうすればいいのか② 女性の就労と経営参加を当たり前に
 現役世代の専業主婦の四割が働くだけで団塊世代の退職は補える
 若い女性の就労率が高いほど出生率も高い

第11講 ではどうすればいいのか③ 労働者ではなく外国人観光客・短期定住客の受入を
 高付加価値率で経済に貢献する観光収入
 公的支出の費用対効果が極めて高い外国人観光客を誘致
 
補講 高齢者の激増に対処するための「船中八策」
 高齢化社会にける安全・安心の確保は第一に生活保護の充実で
 年金から「生年別共済」への切り替えを
 戦後の住宅供給と同じ考え方で進める医療福祉分野の供給増加

おわりに――「多様な個性のコンパクトシティたちと美しい田園が織りなす日本」へ

あとがき

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2010.09.16

▽『ガサコ伝説』

長田美穂『ガサコ伝説―「百恵の時代」の仕掛人』(新潮社)

本書の主人公ガサ子とは、現在のマガジンハウス(旧社名は平凡出版)が発行していた芸能誌月刊誌『平凡』の伝説の編集者、折笠光子のあだ名である。ガサ子の由来は、折笠のカサにがさつのガサが混ぜあわさったものだという。

このガサ子は、あこがれの『平凡』のグラビア担当のアルバイトに応募し、社員編集者になった後は、山口百恵、森昌子、野口五郎、南沙織など多くの芸能人の信頼を得て、『平凡』の黄金期をつくり、ついには編集長にまでのぼりつめる。

しかし『平凡』は、1987年12月号をもって休刊する。《この当時、社内では「Hanako」の創刊準備が進められていた。「『平凡』を止めたのは、新雑誌に資金を集中投下するためだ」と噂された。》(p.210)

ガサ子は、『平凡』休刊後は、書籍の営業員として書店周りをはじめるが、1997年に肝臓癌のため急逝する。享年57歳。

著者が本書を書いた狙いは、プロローグにあるように、

《昭和を生きた一人の女性の、職業人としての軌跡が一つ。
 メディアとしての「平凡」の盛衰と存亡の経緯が、もう一つ。》(p.16)

の二つである。ただ、昭和が遠くなり、雑誌自体が力を失いつつあるいまでは、本書で描かれた二つの軌跡は、いずれも遠くの光景を見ているように感じられてしまう。本書は、もう少し早く書かれるべきだったのだろう。

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2010.09.03

▽ベストセラー小説の書き方

ディーン・R・クーンツ『ベストセラー小説の書き方』(朝日文庫)


本書は古本屋で見つけて長い間、積ん読になっていたものです。

『ベストセラー小説の書き方』という、そのものずばりのタイトルの本書は、1960年代にSF作家としてデビューし、その後、ホラーやサスペンスへとジャンルを拡大していったディーン・R・クーンツです(あまり読んだことはないのですが……)。

アメリカで原書が出版されたのが1981年で、翻訳版が1983年(朝日文庫版は1996年刊行)と、ほぼ三十年前に書かれていて、アメリカの出版業界の実情などについては情報が古い(もちろん電子書籍なんて、これっぽっちも出てきません)のですが、この手の作家入門的な書としては、ストーリーの組み立て方や登場人物の設定の仕方、背景描写の重要性など、わりとオーソドックスな内容です。

面白い、というか、身も蓋も無かったのが文体についての次のような指摘。

《作家が本当に売らなければならない唯一のものが文体だ。すべての物語は語りつくされている。新しいプロットなどはない(ディケンズは一〇〇年前にこのことを確信していた)。われわれは古い物語の要素を新しく配列しなおしているだけなのだ。小説に新鮮味を盛りつづけている唯一のものは、ユニークな視点とユニークな語り口、つまり個性的な文体を持った新しい作家たちなのである。》(p.268)

小説に限らず、音楽や映画などを含めた、最近のコンテンツ全般がつまらなく感じるのは、前例主義に陥りすぎて、個性的な文体を持った作品が生まれにくくなっていることに原因があるのかもしれませんね。

[目次]
第一章 本書はなぜ書かれたか
第二章 偉大な名作を書く
第三章 移りかわる出版市場
第四章 ストーリー・ラインを組み立てる
第五章 アクション、アクション、アクション
第六章 ヒーローとヒロイン
第七章 信憑性のある登場人物をつくりだす
第八章 登場人物にいかにもありえそうな動機を与える
第九章 背景描写(バックグラウンド)
第十章 文体について
第十一章 SFとミステリー
第十二章 避けるべき落し穴
第十三章 書いたものをどう売るか
第十四章 読んで読んで読みまくれ

訳者あとがき

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2010.09.01

▽『小沢革命政権で日本を救え』

副島隆彦x佐藤優『小沢革命政権で日本を救え』(日本文芸社)

小沢一郎首相が誕生しそうな勢いの中、副島隆彦と佐藤優の小沢一郎に関する対談をまとめた『小沢革命政権で日本を救え』を読んでみました。まあ、こんな見方もあるかな、という感じで……。

両者の共通認識は、「日本国家を誰が支配すべきか」をめぐって、小沢一郎と霞が関の間で、「深刻な、生死を賭した権力闘争が展開されている」(p.5)というものである。しかし、佐藤優は、両者の違いについて、

《副島氏が、共謀理論に基づき、官僚・政治家・財界人・アメリカの特定の有力者の自覚的な連携によってこの権力闘争が展開されていると考えるのに対して、私はそれぞれの利害関係者の集合無意識を重視する》(p.5)

副島隆彦が共謀理論、佐藤優が「集合無意識」理論ということですが、私も、いま起きている争いの源泉は、「集合無意識」理論に近いのではないかと感じています。

[目次]
はじめに 小沢一郎が「平成の悪党」になる日
第1章 国家の主人は誰か 日本の国体と官僚支配の真相
  ●小沢一郎を抹殺したがる勢力 検察と国家官僚の反撃
第2章 アメリカと対峙する民主党政権の読み方
  ●民主党政権は、なぜ日米関係を見直そうとしたのか
第3章 民主党政権は何を起こしたのか
  ●マスコミが明かさない小沢一郎、鳩山由紀夫、亀井静香の実力
第4章 民主党政権は日本を救えるか
  ●民主党政権のマニフェストに潜む盲点を検証する
第5章 迫り来るアメリカ経済の崩壊とオバマ政権の命運
  ●「海の時代」が終わり、「ユーロ・アジアの時代」に転換する
第6章 これから民主党政権はどうあるべきか
  ●民主党政権がネオ・コーポラティズム(統制経済体制)に陥らない最後の方法
おわりに 国民民主革命を妨げる官僚とアメリカに抗して

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2010.08.23

▽『傷だらけの店長』と『リストラなう! 』

伊達雅彦『傷だらけの店長』(PARCO出版)

とある書店の店長の日々の苦悩、近隣への大手書店の出店、そしてそのことにより、とある書店は閉店へと追い込まれ、店長が退職するまで、が綴られています。出版不況と簡単に言ってしまいますが、書店の追い詰められた現場の状況には、もう言葉もありません。

大手出版社の希望退職の時の社内事情を描いた『リストラなう! 』(綿貫 智人、新潮社)が、まだまだぬるま湯と言うこともわかります。

[参考]たぬきちの「リストラなう」日記
http://d.hatena.ne.jp/tanu_ki/

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▽プロジェクトXの功罪

今井彰『ガラスの巨塔』(幻冬舎)

本書は、元NHK『プロジェクトX』プロデューサーによる、実録風小説で、「全日本テレビ」は「NHK」、「チャレンジX」が「プロジェクトX」、主人公の西悟が著者というのは誰にでもわかります。

『プロジェクトX』をめぐる騒動や、著者がNHKを辞めるきっかけとなった万引き事件の「真相」などが、当事者の視点から語られています。

私は、『プロジェクトX』は、ほとんど見たことがなかったのですが、それでも、どういう番組かは、知っていて、その範囲であえて言えば、「過剰な演出や一方的な断定の目立つ、ちょっと危険なノンフィクション」と言ったところでしょうか。

そして、日本経済が行き詰まる中で、過去の、主に企業で活躍した名も無き人々を神格化する、ノスタルジーの強い番組という印象も持っていました。もちろん、この「神格化」が、「過剰な演出」や「一方的な断定」をもたらす要因の一つであったことは言うまでもありません。

「捏造」と批判された回についても、本書では、「取材した相手にだまされた」ことになっていますが、「ノンフィクションであれば、少しくらいは周辺取材や裏付け取材をしろよ」と思ってしまいます。

もちろん番組としては、視聴者のニーズに応えた部分もあるのでしょうが、『プロジェクトX』のヒット後には、テレビだけでなく、さまざまなメディアで『プロジェクトX』風の過剰な演出のノンフィクションが増えてしまって、その点は「罪」だと言えるのではないかと思います。

[参考]
▽鉄の沈黙はだれのために
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/08/post-b923.html

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2010.08.19

▽小沢一郎の視点

『90年代の証言 小沢一郎 政権奪取論』(朝日新聞社)

朝日新聞社の『論座』で連載されていた「90年代の証言」シリーズ。菅直人の巻が、菅首相誕生とともに売れたので、次期首相の呼び声も高い小沢一郎の巻も紹介しておきます。

本書では、細川首班による非自民連立政権の成立と崩壊、新進党の結成と解党、自由党結成、自自公連立の成立と崩壊、民主党への合流など、小沢一郎の視点から見た、政治の事情が語られています。

《新進党は結党時、海部さんが党首だったが、1年後に僕がなった。そのころから党内がゴタゴタし始めたんです。95年12月の党首選挙に敗れた羽田さんとその取り巻きが反主流派だと言って「興志会」を作った。それがマスコミのいいメシの種にされちゃった。》(p.154)

もし小沢一郎がふたたび党首になったら、民主党は、またゴタゴタするのでしょうか?

[参考]
▽小沢一郎・野中広務・菅直人・森喜郎の証言録
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-5424.html
▽小沢一郎の行動原理がわかる本
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2008/09/index.html
▽小泉純一郎が本当にぶっ壊したものとは?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2008/10/index.html
▽世襲問題を考えるための基本テキスト
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/04/index.html
▽民主党の人間関係をおさらいする
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/09/index.html
▽なぜ自民党は大敗したのか?――曲解された世論を読み解く
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/01/post-d9ca.html
▽二大政党制批判論
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/05/post-28ff.html

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2010.08.16

▽『ロングセラー商品の舞台裏』

『ロングセラー商品の舞台裏―ヒットを続けるのには理由がある』(成美堂出版)

これはもう企画の勝利と言えるでしょう。38のロングセラー商品のそれぞれについて、「企画」、「開発」、「営業・宣伝」について、詳しく述べられています。

マーケティングの教科書というよりも、トリビア的な内容ですが、ロングセラー商品の歴史を振り返る読み物として楽しめます。

[目次]
第1章 食品
   1. 三ツ矢サイダー
   2. ヤクルト
   3. ワンカップ大関
   4. ホッピー
   5. リポビタンD
   6. ミルクキャラメル
   7. かっぱえびせん
   8. グリーンガム
   9. キャラメルコーン
  10. 榮太樓飴
  11. カップヌードル
  12. マルシンハンバーグ
  13. お茶づけ海苔
  14. 江戸むらさき
  15. のりたま
  16. キューピーマヨネーズ
  17. ポッカレモン
  18. ブルドックソース

第2章 家庭用品
   1. NEWクレラップ
   2. キクロンA
   3. 仁丹
   4. 龍角散
   5. 正露丸
   6. ホッチキス
   7. マジックインキ
   8. アーム筆入
   9. スケッチブック
  10. カッターナイフ
  11. Zライト
  12. バスクリン
  13. 金鳥かとり線香
  14. ごきぶりホイホイ
  15. アイスノン

第3章 趣味用品
   1. スカイライン
   2. スーパーカブ
   3. リカちゃん
   4. 野球盤
   5. ビッグジョン

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2010.08.15

▽人生のトリセツふたたび

岡田斗司夫『人生テスト―人を動かす4つの力』(ダイヤモンド社)

人間をタイプ分けするような本は、あまり好きじゃないのですが、岡田斗司夫『人生テスト』だけは、例外。面白いのでお薦めします。

この本は、もともと『SPA!』誌上で「人生のトリセツ」というタイトルで連載されていたものです。バックナンバーは下記のサイトの下の方の「週刊SPA!掲載分から」から読むことができます。

OTAKINg ex
http://otaking-ex.jp/wp/?page_id=5008

「人生のトリセツ」は、人間のタイプを、それぞれの欲求に応じて、軍人、王様、職人、学者、の4つに分類するというもの。各タイプの欲求とは、

・軍人=負けず嫌いで、常に勝ち負けや順位にこだわる
・王様=誰よりも注目されたい。ほめられたい。認められたい。かまわれたい。
・職人=自分の考えている通りに、ものごとをやり遂げることにこだわる
・学者=自分の考えている通りに、ものごとをやり遂げることにこだわる

この分類をベースにして、それぞれのタイプの人にとっての欲求が満たされる、つまり、人生においてどうなることが幸せなのか、について解説していきます。

本書を読むと、自分のタイプを誤解していると、いつまでたっても幸せになれないことがわかります。まさに本書は、人生のトリセツ(取り扱い説明書)ということができます。

上記のサイトによると、どうやら本書のバージョン・アップ版が朝日新聞出版から出る予定のようですので、いずれまた、取り上げたいと思います。

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2010.08.13

▽クライマーズ・ハイ

横山秀夫『クライマーズ・ハイ』(文春文庫)

1985年8月に起きた日航ジャンボ機墜落を地方紙の記者として取材した著者による、地方紙記者の葛藤を描いた長編小説である。

《――記録でも記憶でもないものを書くために、18年の歳月が必要だった。
 横山秀夫》

と著者自身が言うように、自身の体験を小説へと昇華させるには、これだけの時間が必要だったということが伺える。

また、昨今、小説の映像化作品は多いものの、原作の世界観をきちんと再現しながら、映像作品としての魅力を存分に発揮したのは、NHK版『クライマーズ・ハイ』しかないと思う。

体験の安直な小説化、小説の安直な映像化を許さなかったのは、日航ジャンボ機墜落という題材の重さにあったのは言うまでもないだろう。

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▽隠れた名著『すぐれた意思決定』

印南一路『すぐれた意思決定―判断と選択の心理学』(中央公論社)

当ブログでは、あまり、この手のハウツーものは取り上げないのですが、今回は、隠れた名著『すぐれた意思決定』を紹介したい、と思います。本書の刊行は1997年(文庫版は2002年)と、ちょっと古いのですが、今でも十分読むに耐える内容です。

本書のテーマは、タイトルにあるように「すぐれた意思決定」であり、著者は第三部において、すぐれた意思決定論として「診断論的意思決定論」を提唱します。

しかし、本書では、その主題に入る前に、すぐれた意思決定の対極にある駄目な意思決定法である「直感的意思決定」が、なぜ生ずるのかを第二部で詳細に論じています。

著者によれば、「直感的意思決定」をもたらすものは、情報データによる罠、数値データにおける罠、記憶情報における罠、推論における罠、直観的な決定ルールの罠の五つの罠であり、いかに、この罠から逃れるかが、すぐれた意思決定へと至る上での重要なポイントとなるそうです。

また、第三部の「組織の意思決定」では、「集団的意思決定の病理現象」として、メンバーが努力程度を下げてしまう「社会的手抜き」、多数の意見に従う「同調圧力」、少数の意見が影響力を持つ「少数派影響力」、集団による討論が極論を生み出す「集団極化現象」、誰も望んでいないことを決めてしまう「過剰忖度」、凝集性の高いエリート集団が反論理的・非人間的な意思決定を下す「病理的集団思考」を挙げています。

最近起きた、虐待児放置事件や非実在高齢者の問題は「社会的手抜き」に相当すると言えるでしょう。著者は、以上のような反省を踏まえて、すぐれた意思決定をするには、どうすべきかを提案しています。

[目次]
第1部 我々と意思決定
 意思決定とは何か
 世界の性質と情報を考える
 我々の認知能力を考える
第2部 直観的意思決定のおとしあな
 情報データによる罠
 数値データにおける罠
 記憶情報における罠
 推論における罠
 直観的な決定ルールの罠
第3部 高質な意思決定の実現と組織の意思決定
 効果的に学ぶために
 創造力と想像力
 組織の意思決定

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2010.08.12

▽佐藤優のお薦め『大統領のカウントダウン』

『大統領のカウントダウン』


ロシアで作られたチェチェン戦争舞台としたアクション映画。元外交官で作家の佐藤優が、田原総一朗と対談する『第三次世界大戦新・帝国主義でこうなる!』(アスコム)でお薦めしている。


《ポクロフスキーという名のベレゾフスキーらしき金融資本家、リトビネンコなんかに該当するチェチェン系とつながった元情報機関員、連邦保安庁のヒーローなんかが出てきて、ロシアの政治の構造はこうなっているとよくわかる。2時間ぐらいで観ますと、ロシア側から見たチェチェン問題、財閥問題、マフィア問題などがだいたいわかります。ロシアに興味がある人にはお勧めのDVDですよ。》(p.134)

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▽『人生で大切なことは全部フジテレビで学んだ』

吉田正樹『人生で大切なことは全部フジテレビで学んだ ~『笑う犬』プロデューサーの履歴書』(キネマ旬報社)

著者は、フジテレビでバラエティ番組のAD、ディレクター、プロデューサーとして活躍してきた。

携わった主な番組は、ADとして、たけし、さんま、伸介をスターにした『オレたちひょうきん族』、タモリの『笑っていいとも』など1980年代を代表するバラエティ番組。ディレクターとしては、ダウンタウンとウッチャンナンチャンを排出した『夢で逢えたら』や、ウッチャンナンチャンをブレイクさせた『誰かがやらねば』、『やるならやらねば』を担当した。そして、プロデューサーとして、ウッチャンナンチャンの内村光良を再ブレイクさせた『笑う犬』シリーズと、フジテレビのバラエティ番組の屋台骨の一つを作り上げてきたと言っても過言ではないだろう。

本書の叙述の中心は、ディレクターになって以降、ダウンタウンやウッチャンナンチャンを起用してからのフジテレビのバラエティ番組の舞台裏だが、この1990年代は、フジテレビが1980年代の黄金期に誇ってきた「視聴率三冠王」の座を、1994年に日本テレビに奪われるなど、ある意味、冬の時代にあったとも言える。

著者は、明示的には語っていないものの、1990年代の低迷の芽は、1908年代の「オレたちひょうきん族」にあったとみて間違いないだろう。

《制作者の視点から見ると、『ひょうきん族』は極めて特異な番組と言わざるを得ません。八年半も続いたのに、直接的には誰一人として後継者を育てなかったからです。僕をはじめ『ひょうきん族』出身だと公言するテレビマンは結構いるのに、あの番組でADからディレクターに昇格した人は、実は一人もいないのです。》(p.57))

[目次]
序章 「逸脱」への旅立ち
第1章 日々是鬱屈也。
第2章 神の配剤-『夢で逢えたら』
第3章 立たされたバッターボックス
第4章 志、半ばにて
第5章 幼年期の終わり
第6章 裸一貫からの再出発-『笑う犬』の挑戦
第7章 卵を孵す者
第8章 僕がフジテレビを辞めた理由

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2010.08.11

▽裏金はだれのために

原田宏二『警察内部告発者・ホイッスルブロワー』(講談社)

本書は、北海道警察の釧路方面部長まで務めた著者が、北海道警察の裏金を告発した経緯を綴ったもの。

著者自身が在職時に体験した裏金作りの実態や、引退後に裏金を告発するきっかけとなった「稲葉事件」とその真相、そして、告発後に道警からかけられた圧力や、著者の告発を支援する動きなどが、詳細に綴られている。

「稲葉事件」とは、著者の元部下の刑事が、覚醒剤や銃の密輸捜査の協力者に便宜を図っていくうちに、覚醒剤を使用するようになって逮捕された事件だが、刑事がはまり込んだ泥沼の背景には、裏金の問題が横たわっていたようだ。

裏金といえば、ある種の必要悪だとする立場もあるだろうが、本書の次のようなくだりには驚かされた。

《警察の捜査費というのは、いったん、すべて裏金化され、その大半が幹部のヤミの交際費などに消えるシステムになっている。最前線の現場で働く刑事たちに、捜査費なるものはほとんど回ってこないのだ。》(pp.55-56)

[目次]
第1章 告発
第2章 稲葉事件の暗部-北海道警察が隠蔽したもの
第3章 稲葉の「告発」
第4章 裏金追及
第5章 裏金追及を阻む者たち
第6章 私の裏金実録
第7章 権力構造としての警察組織-キャリア天国、デカ地獄
第8章 いまだ「鉄のピラミッド」落城せず
寄稿
 市民オンブズマンから見た警察の不正経理問題について
 「紳士たれ!」-警察裏金事件と沈黙するメディア

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2010.08.07

▽『普天間の謎』、『「普天間」交渉秘録』

森本敏『普天間の謎―基地返還問題迷走15年の総て』(海竜社)

普天間問題をこじらせたことが、鳩山政権崩壊の直接の引き金だったことは間違いないだろう。しかも、首相を辞任する前にアメリカと工法を決定すると約束してしまった期限の8月末が、目前に迫っており、下手をすると菅政権を立ち往生させる可能性すらはらんでいる。

『普天間の謎―基地返還問題迷走15年の総て』は、安全保障問題を専門とする森本敏が、サブ・タイトルにあるように、普天間問題の「迷走15年」を時系列に叙述した労作だ。

また、普天間問題だけでなく、その背景となるアメリカ軍の再編問題や、日米安全保障体制の基礎も理解することができる。

1995年に起きた「沖縄米兵少女暴行事件」が、普天間基地返還交渉のきっかけとなったが、その背景には冷戦終了後のアメリカの基地戦略の路線変更があったのは言うまでもない。

しかし、アメリカと交渉する側の日本も、橋本、小泉、鳩山と時の政権の思惑によってスタンスがかわるために、混迷を深めてきたことがわかる。

守屋武昌『「普天間」交渉秘録』(新潮社)

本書は、軍事専門商社から便宜供与を受けたことから収賄の罪に問われ、2007年に逮捕された元防衛事務次官(一審、二審で有罪判決。現在、最高裁に上告中)が、小泉時代の普天間交渉の舞台裏を綴っているもので、興味深い証言も多い。

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『「普天間」交渉秘録』p.350より

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2010.08.06

▽鉄の沈黙はだれのために

永田浩三『NHK、鉄の沈黙はだれのために―番組改変事件10年目の告白』(柏書房)

大仰なタイトルがつけられた本書を読んでみると、「いったいだれのために書かれたのか?」という素朴な感想を抱く。

筆者にとって、実証したいことがあるのならば、ノンフィクションのスタイルで、起きたことを証拠や証言をあげながら時系列に書いていけばよいところを、自身の思い出話を混ぜながら時間が行きつ戻りつしてしまうために、非常に読みにくいものになっている。また、亡くなられた方の死因はプライバシーに属するものであるから明確には書けないことは理解できるにしても、他の方の自殺については触れているのだから、そのあたりは明確にしておかないと、読者にあらぬ誤解を与えてしまうのではないかと思った。

それでも、我慢して読みすすめてみると、どうやら本書の主題は2001年に起きた「NHK番組改編事件」の当事者による告白ということらしい。その番組は、日本の戦時下における慰安婦問題を裁く民間法廷の判決と、そこに至る過程を描くドキュメンタリー、というもの。

しかしそれは、ドキュメンタリーの企画として見れば、そもそも企画自体が、真実や真相にたどり着けそうにないことは容易に想像できるだろう。本書も、伝えたい事実にたどり着くまでに、かなりの紙幅を費やしているが、それが効果的とは思えなかった。

とはいえ、この番組の製作過程で政治家の圧力があったこと、それを報じた朝日新聞の記事が誤報であったというNHKの主張は虚偽であること、朝日新聞から流出した取材テープは朝日側が正しいことを裏付けていること、といった点が筆者の主張として提示される。これは、概ね正しいのだろうとは思うし、当時、一般の読者や視聴者は、そうしたことは感じ取っていたと思う。

特に新しい事実が提示されいる訳ではなく、改めて、本書が書かれた意図が、今ひとつ理解できないのが残念と言えば残念だ。

[目次]
事件の現場にいた人々
わたしたちはいまも過ちを続けている
伊東律子さんの死、永遠の沈黙のはじまり
楽観主義と議論不足が火種を生んだ
番組はこうして改ざんされた
やがて虚しき裁判の日々
だれが真実を語り、だれが嘘をついているか
慰安婦問題と天皇の戦争責任について
番組制作の現場を離れるとき
これからの放送、これからの言論のために

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2010.08.05

▽鈴木亘『年金は本当にもらえるか?』、『社会保障の不都合な真実』

▽鈴木亘『年金は本当にもらえるか?』(ちくま新書)


本書は、年金問題を初心者にもわかりやすいようにQ&A形式で解説したもの。現行の年金制度を擁護したい厚生労働省サイドから流される詭弁を、経済学者らしく詳細なデータを引きながら、冷静な反論を行っている。

本書を読めば、現行の年金制度の維持が不可能なことは明らかなのだが、それでも、こうした批判を覆そうとする意見はなぜ沸いてくるのだろうか? と疑問を抱いていたら次のような記述に出くわした。

《しかし、厚生労働省が恐れているのは、税財源にした途端、年金特別会計のかなりの割合が、厚生労働省から財務省の管轄に移ってしまうことであると思われます。年金特別会計の巨額の予算こそが、天下り等、厚生労働省の権益・利権の源泉なのですから、それを手放すことになる税方式化論を、厚生労働省は絶対に認めるわけにはいきません。》(p.118)

なるほど。

[目次]
初級編―まずは基本から
中級編―よくある誤解を正します
上級編―年金は変えられます

▽鈴木亘『社会保障の不都合な真実』(日本経済新聞出版社)


本書は年金にとどまらず、社会保障制度全般を経済学的に考察している。民主党の掲げる「社会保障費拡大が成長戦略」という主張は、経済学的に正しくない「まじない経済学」と切って捨てている。

また、与野党から支持されている「中福祉・中負担」についても次のように批判している。

《ここで今、「中福祉・中負担」が実践され、たとえば、現在の高齢者が享受する社会保障費が二倍になったとすると将来の現役層が支払う負担は、単純計算で、現在の六倍(三倍×二倍)にも達してしまう。つまり、「中福祉・中負担」を今の高齢者たちが享受すると、「お釣りは三倍返し」というわけであり、後の世代は、「中福祉・超高負担」か「低福祉・高負担」のどちらかの惨状に直面してしまう。》(pp.28-29)

著者の立場を簡単にまとめると、小泉構造改革路線は、改革が急速すぎた、説明不足だった、退出させるべき既得権益層に時間的猶予や補償を与えようとしなかったために必死の抵抗にあった、などの欠点があったものの、やはり正しかったし、今後も踏襲すべきである、ということになる。

[目次]
はじめに
 「不都合な真実」から目をそらさない
 「思考停止」からの脱却
 本書の構成

1章 社会保障の「不都合な真実」
1 世界最速の人口減少と高齢化
2 社会保障"大盤振る舞い”のからくり
3 「構造改革」の功罪
4 「中福祉・中負担」という幻想

2章 子ども手当は子どものためか/子育て
1 子ども手当は本当に必要か
2 待機児童はなぜ減らないのか
3 保育業界の既得権
4 子ども手当はバウチャーに
5 病児保育はなぜ普及しないのか

3章 社会保障は貧困を減らせるか/貧困
1 生活保護世帯はなぜ増えたのか
2 生活保護のダム理論
3 生活保護制度改革と給付付き税額控除
4 無料定額宿泊所と貧困ビジネス
5 病院による貧困ビジネス

4章 年金は本当に大丈夫なのか/年金
1 年金制度が生み出す世代間不公平
2 「年金官僚」の詭弁年金論
3 先送りされる年金財政の建て直し
5 民主党改革で年金不安は解消されるか

5章 「介護難民」はなくせるか/介護
1 無届施設に流入する介護難民
2 無届老人施設を生かすには
3 介護労働力はなぜ不足するのか
4 必要な「混合介護」の導入

6章 医師を誰が支えるか/医療
1 医師不足問題はなぜ起きるのか
2 医師不足の構造見直し
3 迷走する後期高齢者医療制度
4 医療保険の積立方式導入による抜本改革
5 医療貯蓄口座を用いた積立方式の戦略

7章 財政破綻は避けられるか/社会保障財政
1 「借金漬け」の日本の社会保障
2 「まじない経済学」のからくり
3 介護・保育分野の規制緩和策の効果
4 日本に「ギリシャ危機」が来る日

おわりに

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▽あなたもジョブズになれる?

カーマイン・ガロ『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』(解説:外村仁、翻訳:井口耕二、日経BP社)


プレゼンテーションの達人と呼ばれるアップルCEOのスティーブ・ジョブズ。彼のプレゼンテーション・テクニックを盗んでしまおう、というのが本書の趣旨。

ジョブズが過去に行った有名なプレゼンテーションを分析して18の法則を導き出しています。まあ、よくあるジョブズのヨイショ本の一つなんですけれども、情報量が多いので、参考にできる部分も多いと思います。

面白かったのは、2007年と2008年に行われたジョブズと、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツのスピーチを比較した「シーン10」。

《ゲイツは難解だがジョブズは明快だ。ゲイツは抽象的だがジョブズは具体的だ。ゲイツは複雑だがジョブズは簡潔だ。》(p.209)

本書が冒頭に掲げている
《ジョブズの準備の仕方やプレゼンテーションのやり方を正確に学びさえすれば、誰でも、あのすごい力が使えるようになる。彼のテクニックのごく一部を活用しただけで、一歩抜きんでたプレゼンテーションができる。競争相手や同僚が顔色を失うようなプレゼンテーションができるのだ。》
は、ちと誇大広告な気もしますが、仕事でプレゼンテーションをする必要がある方には、参考にできるテクニックは多いと思います。

[目次]
プロローグ
第一幕 ストーリーを作る
 シーン1. 構想はアナログでまとめる
 シーン2. 一番大事な問いに答える
 シーン3. 救世主的な目的意識を持つ
 シーン4. ツイッターのようなヘッドラインを作る
 シーン5. ロードマップを描く
 シーン6. 敵役を導入する
 シーン7. 正義の味方を登場させる
 幕間その1 10分ルール

第2幕 体験を提供する
 シーン8. 禅の心で伝える
 シーン9. 数字をドレスアップする
 シーン10. 「びっくりするほどキレがいい」言葉を使う
 シーン11. ステージを共有する
 シーン12. 小道具を上手に使う
 シーン13. 「うっそー!」な瞬間を演出する
 幕間その2 第一人者から学んだシラー

第3幕 仕上げと練習を行う
 シーン14. 存在感の出し方を身につける
 シーン15. 簡単そうに見せる
 シーン16. 目的に合った服装をする
 シーン17. 台本を捨てる
 シーン18. 楽しむ

アンコール 最後にもう一つ

謝辞
訳者あとがき
解説
参考文献・動画など

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2010.08.03

▽当ブログで売れた本――2010年上半期

当ブログの書評エントリーも累計で115を超えました。2010年初からいままでに売れた本十傑を紹介します。

まあ、ランキングをつけるほどは売れていないので、あくまでも十傑ということで・・・・・・。

『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/03/ipad-vs-c1ab.html

『iPodは何を変えたのか?』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/02/ipod-7562.html

『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/03/post-0cb8.html

『インターネットで古本屋さんやろうよ!』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/01/post-36d0.html

『菅直人 市民運動から政治闘争へ 90年代の証言』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-5424.html

『世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/01/post-d9ca.html

『競争と公平感―市場経済の本当のメリット』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/06/post-c8a0.html

『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-feeb.html

『日本「半導体」敗戦』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/12/post-b1e8.html

『スパイと公安警察-ある公安警部の30年』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/02/post-3b04.html

菅直人のインタビューは、菅氏が首相になった途端にばたばたっと売れました。あとは、広い意味でのデジタル関連の本が幅広く売れています。

当ブログで取り上げる本のコンセプトは、基本的には「クロス・カルチュラルなノンフィクション」です。もちろん例外もありますが、ノンフィクションで異文化がクロスするような内容のもの、あるいは、時代の転換点を分析するようなもの、が中心です。

献本もお待ちしていますので(笑)、ここをご覧になられている出版社の方がいらっしゃったら、右カラム上の「メール送信」のところをクリックしてご連絡いただければ幸いです。

では、これからもいっそうの内容充実をめざして精進しますので、今後ともご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

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▽『もしも義経にケータイがあったなら』

鈴木輝一郎『もしも義経にケータイがあったなら』(新潮新書)

『もしも義経にケータイがあったなら』というタイトルに惹かれて買ったのですが……。

もしも源義経の時代に携帯電話があったなら、歴史はどのように変わっていたのか、というSF的フィクションの本を期待して手に取ったのですが、中身は、義経の栄枯盛衰を、現代サラリーマンの成功と失敗になぞらえて解説する、歴史に学ぼうというスタイルのビジネス書でした。本書における「ケータイ」とは、ビジネスマン必須のアイテムを意味しているだけでした……。

しかし、著者は、歴史小説をいくつも上梓しており、またサラリーマンの経験もあるので、義経の入門書としてはわかりやすく読めるかもしれません。

[目次]
まえがき
第一章 旧体制平清盛─強大さの構築と維持の秘訣
1 平清盛の分断戦略・独占戦略・そして自己改革
2 なぜ頼朝、義経らは殺されなかったのか─巨大独占企業の自主的自衛策
3 史実以前の義経・苦労人好きの国民性

第二章 同族企業源氏一門の成長・頼朝の戦略・義経の戦術
1 もしも以仁王にファックスがあったなら─源氏蜂起から京都占拠まで●すべては以仁王からはじまった
●もしも木曾義仲にトラックがあったなら
●もしも義仲がマクレガー(X理論・Y理論)を知っていたなら
2 頼朝のマネジメント─敵を知ることと自分を知ること
●雌伏期の頼朝─敵の弱点と己の弱点を知ること
●頼朝のランチェスター戦略とコンプライアンス
●頼朝の人事管理─創業期には開拓者を、安定期には管理者を
3 義経の創業期開拓戦術
●正攻法を学ばねば奇策も生まれない─対 木曾義仲戦
●ギャンブラー将軍義経─創業期にはハイリスク&ハイリターンを

第三章 義経の失脚─同族企業から大企業への転換期を知れ
1 『ホウレンソウ』は組織人の基本─義経最初の失脚
●義経を語る史書たち
●人事音痴義経の発端─一ノ谷合戦後の独断任官
2 勢いあまって詰めまであまい─屋島合戦の強引
●社内営業名人 梶原景時
●ギャンブル大帝義経 対 社内営業名人梶原景時
●永遠の少年源義経─巨大企業の自覚のないままの壇ノ浦
3 壇ノ浦合戦後─社内営業敗北者義経
●「バクチ打ちは他人には面白く身内には迷惑」の原則─梶原景時の讒訴
●確定人事はくつがえらない─あまえんぼう将軍義経
●左遷人事は追い込みすぎるな・会社の力を自力と間違えるな─頼朝・義経のミス

第四章 勝者頼朝の安定戦略・敗者義経の敗北の美学
1 勝利者頼朝の恐怖と孤独
2 敗北者義経の人気─敗者の美学
義経関連地図

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2010.08.02

▽レスリー・チャンの生涯が語るもの

松岡環『レスリー・チャンの香港』(平凡社)

私が、レスリー・チャン(張國榮)に初めて出会ったのは、いつだろうか? 

おそらく1980年代の後半に、『男たちの挽歌』(原題:英雄本色)を見た時だろうと思う。その次にスクリーンで見たのは『欲望の翼』(原題:阿飛正傳)だった。さらに、『さらば、わが愛 覇王別姫』(原題:覇王別姫)をビデオで見て、香港を代表する俳優であることを実感した。その後も、レスリーの出演する映画をいくつか観ているが、この三本が代表作と言ってよいだろう。

もともとは歌手として始まったレスリーの芸能人生は、映画俳優として絶頂期を迎えたものの、1997年の香港の中国への返還にともなう香港映画界の停滞、2000年代の韓流ブームやタイ映画の勃興、さらにSARSの流行など、香港の時代背景が色濃く反映されている。

『レスリー・チャンの香港』の著者である松岡環も、
《そんなレスリーの生涯を辿ってみれば、この半世紀近くの香港が見えてくるのではないか。中でもレスリーの生涯とサブカルチャーの動きを呼応させてみることによって、香港の大衆文化とそれを育てた庶民の暮らしが浮かび上がってくるのではないか。》(p.8)
と、本書執筆の意図を語っている。

本書は、レスリー・チャンという香港が生んだ時代の寵児の人生を描くことによって、アジアの大衆文化の光と影を浮かび上がらせることに成功した良書といえよう。

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2010.07.24

▽『小説家という職業』

森博嗣『小説家という職業』(集英社新書)


ミステリィ作家の森博嗣による小説家論ではあるが、本書は、文章作法や作家としての心構えについての書ではなく、職業として、ビジネスとしてとらえるなら、小説家はどうあるべきか? というテーマで貫かれている。

興味深いのは、図書館や古書店を経由して本に接する機会が増えたこと、あるいはインターネットの書評でネタばれされてしまうことが増えている状況にどう対処したか、という部分。

《僕は、図書館や古書店の問題には、「何度も読みたくなるような作品」で対抗するしかない、と考えた。》(p.77)

著者は、作品の随所に、簡単には読み解けないものを混ぜておいたり、別の作品で、それに関するヒントを提示したりすることにより、読者に「再読したい」、つまり、「手元に置いておきたい」と思わせる戦略をとった。

《また、ネタばれについても、簡単にそれができないような機構を織り込むことで対処ができる。一言で説明できないネタにすればよい。あるいは、人によって解釈が異なるようなネタにする。》(pp.77-78)

さらに、わざと問題になるような部分を入れておいたり、あえて誤解を誘うような表現を入れる、という手法をとることもあったという。そうした箇所は、否定的であれ、肯定的であれ、インターネットで話題になり、それが宣伝効果を生むという。

《この程度のことを考えないようでは、ビジネスではない、プロの作家ではない、と僕は考えている。》(p.78)

こうした著者の主張には、もちろん賛否はあるかもしれないが、傾聴に値する点はあると思う。

[目次]
1章 小説家になった経緯と戦略
2章 小説家になったあとの心構え
3章 出版界の問題と将来
4章 創作というビジネスの展望
5章 小説執筆のディテール

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2010.07.18

▽競争の作法とは?

齋藤誠『競争の作法――いかに働き、投資するか』(ちくま新書)

本書は、経済学者である齋藤誠が、経済学的な統計を駆使して、1990年代、2000年代の社会状況を検証する。

第一章と第二章
《①2002年から2007年までの「戦後最長の景気回復」で、日本経済はうわべだけが豊かになったが、その豊かさが幸福に結びついたわけではなかった。
 ②2008年秋のリーマン・ショックで失われた豊かさは、幸福に結びついていなかったので、正味のところで失ったものはほんのわずかであった。》(p.16)

第三章
《「日本経済で不平等が深刻となったのは、競争原理が貫かれて生産の効率性が飛躍的に向上したからではない」》(p.145)

第四章
《1990年代の日本経済で「何が失われたのか」、「何を新たに創らなければならないのか」》(p.181)

お薦め。以下の本もあわせて読まれたい。

▽エコノミストのつぶやき――『日本はなぜ貧しい人が多いのか』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/01/post-0081.html
▽新しい経済学の入門書にふさわしい
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/06/post-c8a0.html

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2010.07.01

▽『腐った翼』

森功『腐った翼』(幻冬舎)

ジャーナリストの森功による、なぜJALは倒産したのかを追ったドキュメント。類書としては、AERAの大鹿靖明による『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』(朝日新聞出版)があるが、それよりもずっと詳しく、JALの経営の実態に迫っている。

▽堕ちた翼の真実
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/05/post-936b.html

JALの経営破綻の原因については、大鹿と同様に
《赤字だったJASの国内ローカル路線を引き受けたことが原因だ、と指摘する声をときおり聞く。実際は、JASとの統合が破綻理由ではない。》(p.284)
と指摘する。
《むしろ経営不振の原因はJALの国際線だ。本来、JALが飛ばしてきた国際線の赤字が、大きく経営の足を引っ張ってきた。》(p.284)

そもそもJALの倒産の遠因は、どこにあったかといえば、1985年8月12日、JALの常務会で正式に民営化を決めた日、そして、御巣鷹山に123便が墜落した日にまで遡れるという。

1986年には、1ドル=184円で十年間もの長期の為替予約を行うという民間企業ではありえないような杜撰な経営判断をした結果、巨額の隠れ負債を追うことになり、また、御巣鷹山の事故後の経営立て直しのために小説『沈まぬ太陽』のモデルの一人となった伊藤淳二を招いたことが、小説とは反対に、労使関係を複雑にしてしまうことになる。

その後も、JALの経営は迷走が続き、『腐った翼』という、いささか大仰なタイトルや、帯の「潰れて、当然。潰して、当然。」という煽り文句が誇張でもなんでもないことが良くわかる。

[目次]
プロローグ
第一章 米航空支配からの脱却
第二章 伊藤淳二の罪
第三章 封印された簿外債務
第四章 JALと自民党
第五章 クーデター
第六章 不発に終わった決起
第七草 最後の転機
第八章 庶民派社長の限界
第九章 倒産
第十章 翼は腐っていた
エピローグ

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2010.06.30

▽『拝金』

堀江貴文『拝金』(徳間書店)

ホリエモンこと堀江貴文氏の自伝的小説。後書きによると、《フィクションだからできる「ノンフィクション」。どれが本当のことか、宝探しの気分で探してもらえればなと思います》(p.268)とのことですが、なかなか楽しめます。

文章も読ませるし、小説的な引きも上手いので、ゴーストライターがいるか、手練れの編集者がついていたのだろうな、と推測しています。まあ、読んで、損はしないと思いますよ。

より詳しく知りたい人は下記のノンフィクションもどうぞ。

大鹿靖明『ヒルズ黙示録―検証・ライブドア』(朝日文庫)

大鹿靖明『ヒルズ黙示録・最終章』(朝日新書)

▽ホリエモンが語る塀の中の暮らし
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/03/post-c16c.html
▽ホリエモンの右腕だった男の弁明の書
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/03/post-f9f7.html
▽産経新聞の抱える闇とは
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/03/post-1613.html

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2010.06.17

▽新しい経済学の入門書にふさわしい

大竹文雄『競争と公平感 市場経済の本当のメリット』(中公新書)

本書によると、「日本は市場経済への期待も国の役割への期待も小さいという意味でとても変わった国である。」(p.9)という。そして、「日本人が運やコネを重視する価値観をもつようになった」(p.17)のは、2000年代の不況に直面してからだという。さらに、小泉構造改革によって導入されようとした市場主義は不完全なもので、「既存大企業を保護する大企業主義と同一視されてしまったために、反大企業主義が反市場主義になってしまっている」と指摘する。

本書は、経済学の書というよりは、これまで社会学や政治学、心理学などが扱ってきたテーマを、経済学的な統計を重視した手法で切り込んでいくところが面白い。これは、神経経済学(ニューロエコノミクス)や行動経済学などの、経済学の新しい分野の発達を反映したものである。古典的な経済学が、人間を合理的な存在とみなしてきたのだが、神経経済学や行動経済学では、必ずしもそうではないことを前提に研究が進められている。

本書は、そうした研究の成果が数多く集められており、入門書としてもよくできている。もちろん、いくつかの論点については、今後、社会学、政治学、心理学の研究者などからの批判や反論もあるだろうし、もちろん、そうあって欲しい。

[目次]
プロローグ 人生と競争
I 競争嫌いの日本人
 1 市場経済にも国の役割にも期待しない?
 2 勤勉さよりも運やコネ?
 3 男と女、競争好きはどちら?
    コラム1 薬指が長いと証券トレーダーに向いている?
 4 男の非正規
 5 政策の効果を知る方法
 6 市場経済のメリットは何か?

II 公平だと感じるのはどんな時ですか?
 1 「小さく産んで大きく育てる」は間違い?
 2 脳の仕組みと経済格差
 3 20分食べるのを我慢できたらもう一個
 4 夏休みの宿題はもうすませた?
    コラム2 わかっているけど、やめられない
 5 天国や地獄を信じる人が多いと経済は成長する?
 6 格差を気にする国民と気にしない国民
 7 何をもって「貧困」とするか?
 8 「モノよりお金」が不況の原因
 9 有権者が高齢化すると困ること

III 働きやすさを考える
 1 正社員と非正規社員
 2 増えた祝日の功罪
 3 長時間労働の何が問題か?
    コラム3 看護師の賃金と患者の死亡率
 4 最低賃金引き上げは所得格差を縮小するか?
 5 外国人労働者受け入れは日本人労働者の賃金を引き下げるか?
 6 目立つ税金と目立たない税金

エピローグ 経済学って役に立つの?
競争とルール あとがきにかえて

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2010.06.16

▽官邸敗北

長谷川幸洋『官邸敗北』(講談社)


昨今の政界内幕物の第一人者と言えるのが、東京新聞論説委員の長谷川幸洋だろう。本書の発売は5月20日だったが、その直後に鳩山首相が普天間問題をこじらせたことから引責辞任、そして、菅首相の登場という、まさに絶妙のタイミングで上梓された。

本書の叙述の中心をなすのは、財務省を取り込むことで事業仕分けを成功させたはずの鳩山政権が、2009年末頃から急速に財務省との関係を悪化させていった、その背景に何があったのか、である。どうやら、JALの再建を巡って、当時の菅副総理と財務省との間に軋轢があったようだ。

その後、菅が財務大臣に就任した際には、「乗数効果も知らない財務大臣」と批判されたが、この点について著者は、「財務省はその気になれば、いくらでも答弁メモを用意できたはずなのに、あえてサボったとみて間違いない」(p.44)と指摘する。財務官僚のお灸が効いた菅は、その後は、役人の書いたメモを丸読みするようになり、増税を含めた財政再建路線へと急展開していく。

民主党の掲げる「脱・官僚」は、本当に実現させることができるのでしょうか?

[目次]
第1章 官邸連続ミステリ-
第2章 民主党抱き込み工作
第3章 ド-ナツ化する政権
第4章 操縦されるマスメディア
第 5章 財政と天下りを分けるな
終章 新たな政界再編の幕が上がる

[参考]▽日本国の正体とは?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/10/post-c558.html

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2010.06.15

▽警察庁長官狙撃事件の真犯人は?

鹿島圭介『警察庁長官を撃った男』(新潮社)

竹内明『時効捜査 警察庁長官狙撃事件の深層』(講談社)

2010年3月に時効を迎えた国松警察庁長官狙撃事件――。

この事件の真犯人は――。

まず、この事件の捜査を指揮した警視庁公安部は、「犯人はオウム真理教の信者である」として、時効後に、なぜそうした結論を得たかについての見解をまとめたファイルをネットで公開していますが、これは、極めて異例なことだそうです。

一方、鹿島圭介の『警察庁長官を撃った男』(新潮社)では、警察のオウム真理教に対する捜査が手ぬるいと感じた男による犯行だったとしています。刑事部が、この人物を立件するための証拠を集めていったが、捜査を指揮した公安部が、それらには見向きもしなかったことが明らかにされています。

最後に、竹内明の『時効捜査 警察庁長官狙撃事件の深層』は、捜査の迷走ぶりが叙述の中心となっていますが、最後に、オウムでも、鹿島が指摘する人物でもない、別の真犯人がいるのではないか、と示唆されて終わっています。

はたして、真犯人は誰なんでしょうか? 謎は深まるばかりです。

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2010.05.09

▽二大政党制批判論

吉田徹『二大政党制批判論 もうひとつのデモクラシーへ』(光文社新書)


二大政党制の国と言えばアメリカとイギリスが双璧ですが、そのイギリスが直近の総選挙でハング・パーラメント(宙づり状態の議会)となり、小選挙区制の選挙制度の見直しもありうるのではないか、ともささやかれています。

本書は、米英にあこがれて二大政党制の確立をめざしてきた日本政治への警告の書といえます。そもそも、日本人には、イギリスの政治システムへのあこがれがあった、と本書では指摘されています。

そして、もう一つ「多党制の神話」なるものも存在します。これは、多党制では少数与党か連立政権であり、それゆえに短命であるため、好ましくないという神話です。しかし、これは短命だったワイマール期ドイツやフランス第四共和制の強烈なイメージから生じた神話に過ぎず、多くの場合、多党制政府でも短命かつ不安定ではないという研究結果もあるそうです。

さらに、イギリス型の二大政党制をめざしてきた日本ですが、いまだ完全な二大政党制には至っていないとも指摘されています。

《実現しつつあるのは、自民党と民主党を両極として、その周りに小政党が衛星のようにつらなるような「二極化(bipolarization)」の進展である。》(p.194)

イデオロギーや安全保障、あるいは大きな政府と小さな政府といった明確な対立の軸がないままに、二つの極へと分裂していく日本政治は、票を獲得するための争点をあえて作り出そうとしたり、票につながるような政策ばかりをとりやすくなるような状態へと堕落しています。そして著者は、日本の政治は、民意をすくい上げるという点において、制度疲労をおこしている、と指摘します。

著者は、この問題を克服するためのもうひとつのデモクラシーとして、「闘技デモクラシー」という概念を提起しています。ただ、この概念が抽象的すぎて、今ひとつわかりにくく、実現できうるものなのかは、残念ながら不明です。

[目次]
第1章 政党はどのような存在なのか
第2章 政治改革論と「政治工学」の始まり
第3章 二大政党制の誤謬
第4章 歴史の中の政党政治―なぜ社会に根付かないのか
第5章 もうひとつのデモクラシーへ

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2010.05.06

▽村上春樹の小説とせどりのシンクロニシティ

吉本康永『大金持ちも驚いた105円という大金』(三五館)

また、せどりの本を見つけて読んでしまいました(笑)。

▽『インターネットで古本屋さんやろうよ!』の行方
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/01/post-36d0.html
▽『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/03/post-0cb8.html

本書『大金持ちも驚いた105円という大金』の著者は、定年間近の予備校教師の方ですが、昨今の不況により給料のカットを言い渡されました。このままでは月々の住宅ローンの支払いに窮することから、アマゾン・マーケットプレイスで蔵書を売り払ってローンの穴埋めをするうちに、せどり稼業へと足を踏み入れることになりました。

後に税理士さんから「天職」と言われるほどに著者のせどりビジネスは順調に拡大していき、開始後わずか一年で、月商百万円(粗利益はその半分くらい)に達します。ものすごいサクセス・ストーリーを読んでいるようで他人事ながらもわくわくしてしまいます。

そんな著者が仕事の合間に村上春樹の小説を読み始めて、はまり、ほとんどの作品を読んだ後に、次のような感想をもらします。

《牽強付会を承知であえて言えば、私の精神の失調状態と村上春樹の小説の登場人物たちの精神の失調状態がシンクロしていたようにも思えます。
 話が飛びすぎるかもしれませんが、そういう意味において私は若い人たちがせどりで生計をたてていくことには否定的です。せどりは孤独で辛気臭い作業ですし、一日、だれとも話さず生きていくことも可能です。また、ネットを介してお客様とのコミュニケーションもやろうと思えば可能でしょうが、大切な生身の人間との関係性を構築できなくなってしまう恐れがあります。》(p.86)

[目次]
    ローン地獄
    アマゾンへの出品
    せどり生活のスタート
    訪れる失敗
    アコーディオン買い
    せどりの日々
    著名人本の価値
    車の買い替え
    パソコンと本の分類
    アマゾン一人勝ち
    せどりのジャンル
    税理士登場
    古物商許可証取得
    さまざまなお客様
    売り上げ記録は更新中だが…
    せどりの技術
    ある日のせどり旅
    ローン地獄からの脱出
    本の運命

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2010.05.04

▽アニメ作家としての手塚治虫

津堅信之『アニメ作家としての手塚治虫 その軌跡と本質』(NTT出版)


手塚治虫が日本のTVアニメの制作環境を劣悪なものにした、という批判がある。その根拠として、手塚の設立した虫プロダクションが、日本初の国産TVアニメ『鉄腕アトム』を、一本五十五万円という破格の低料金で引き受けた、というエピソードが繰り返し語られてきた。しかし、本書の著者は、この通説を、関係者へのインタビューなどの綿密な調査によって覆す。

まず、虫プロが引き受けた一本五十五万円という価格は、確かに当時のアニメ制作に必要と考えられていた二百五十万円からみれば、格安だったといえよう。しかし、当時の他のTV番組の制作費と比べれば、決して安いものではなく、むしろ同等か若干高いくらいであった。

また実際には、代理店が裏では百万円を上乗せした百五十五万円を払っていた。そして、値上げ交渉も継続して行われていた。虫プロの営業担当者だった須藤将三は、次のように証言している。

《もちろん、経理上は最初から百五十五万円で処理していました。その後も値上げ交渉をしていって、『アトム』は放映された四年間で、最終的には一本三百万円を超えるまでになったと思います。》(p.129)

こうした調査を踏まえて著者は次のように結論づけている。

《それでも、今日までアニメーターの給与水準が著しく低く抑えられてしまっているのは、『アトム』以降に新規参入してきたプロダクションの経営努力の有無や度合いにも、その要因を求めるべきではないのか。また、当初は版権収入を要求しなかった放送局や出版社が、次第にそれらの権利を要求しはじめ、アニメ制作会社の収入が相対的に低くなってきたことも遠因として挙げるべきであり、これは虫プロには直接的な責任はない。》(p.133)

[目次]
第1章 アニメへの開眼 -手塚治虫の出発点
1-1 ディズニー映画への傾倒
----誕生と幼少期
----少年期に見ていたアニメーション
----アニメーションの「自主制作」
1-2 『桃太郎 海の神兵』の衝撃
1-3 アニメーションの道へ
----アニメーションスタジオ訪問
----ディズニー再び
----日本アニメーション作家協会での印象
----アニメを作るために漫画家になった!?

第2章 虫プロ設立まで
2-1 東映動画での顛末
2-2 虫プロ設立の経緯
2-3 第一作『ある街角の物語』

第3章 『鉄腕アトム』の背景
3-1 立案から放映前後
----手塚治虫ライン
----虫プロ・萬年社ライン
----東映動画ライン
3-2 制作費に関する異聞
----諸説存在する制作費の数字
----虫プロの経営努力

第4章 実験アニメーションの成果
4-1 手塚の実験アニメーションの系譜
4-2 『JUMPING』の飛躍
4-3 アニメラマ成立の背景
----第一作『千夜一夜物語』
----最初で最後の前衛的長編アニメーション『哀しみのベラドンナ』
----アニメラマの評価
4-4 手塚治虫の「実験」

第5章 手塚アニメの語られ方
5-1 『鉄腕アトム』は是か非か
5-2 批評家はなぜ手塚を避けたのか

第6章 大衆か実験か
6-1 『アトム』がもたらしたもの
----animeの発明
----漫画を原作にするということ
----人材の育成
6-2 大衆か実験か
6-3 手塚治虫の作家性

第7章 手塚アニメとは何だったのか
7-1 手塚アニメの動機
----アニメーション制作の動機は何だったのか
----テレビアニメ『鉄腕アトム』とは何だったのか
----虫プロダックションとは何だったのか
7-2 関係者による「手塚アニメとは何だったのか」
7-3 手塚アニメと「日本のアニメ」

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2010.05.02

▽あやしい健康情報とニセ科学

松永和紀『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)


《二〇〇六年には、遺伝子組み換え大豆が危険だと主張するロシア人研究者が市民団体などの招きで来日し、全国を講演して回りました。海外ではまともなメディアからは相手にされていないのに、日本ではテレビ局や全国紙が危険説をそのまま報じて後に事実上の訂正をする騒ぎとなり、生物学者らに衝撃を与えました。「これほどずさんな主張を、日本のメディアは見破れないのか」というショックでした。》(p.193)

村上春樹は『ダンス・ダンス・ダンス』において、コピーライターの仕事を「文化的雪かき」と表現した。それは、誰もやりたくないが、誰かがやらなければならない仕事を意味していた。そして、この「文化的雪かき」にも似た仕事を、せっせせっせと続けているのが、科学ジャーナリストの松永和紀だろう。さしずめ「科学的雪かき」と言えるのかもしれない。

本書は、その副題にあるように、メディアを通じてばらまかれるあやしい健康情報やニセ科学を批判的に検証していく。著者は、テレビの情報番組で取り上げられるような白インゲン豆ダイエットや納豆ダイエットから、専門家と称する人たちが主張する添加物や遺伝子食品の危険性など多岐にわたる情報の科学的根拠の無さ、を一つ一つ立証していく。そして、そうしたデタラメな報道がマスメディア内部で、どのように作り上げられていくかを説明していく。

最近では、マスメディアに対抗するために、学者や行政がインターネットを使って、冷静な反論を行うケースも増えているという。本書は、ニセ科学に対する警告の書であるとともに、秀逸なメディア論としても読むことができる。

[目次]
はじめに
第1章 健康情報番組のウソ
 幼児まで被害に遭った白インゲン豆ダイエット
 TBSのいい加減さに医療関係者は怒った
 白インゲン豆にダイエット効果なし
 納豆ダイエットのウソ
 最初に結論ありき
 みのもんた症候群
 寒天ブームも健康被害生む
 レタスの快眠作用も捏造か
 捏造事件を契機に起きた奇妙なバッシング
 メディアは責任をとってくれない
第2章 黒か白かは単純すぎる
 量の大小を考える
 中国産野菜報道もトリックだった
 単位を理解する
 日本ではDDT報道もゆがむ
 WHOが利用を推進
 リスクとベネフィットを考える
 PCB処理も難航
 北九州市が立地検討
 科学者が扇動
第3章 フードファディズムの世界へようこそ
 効能成分を食べるつもりがかえって有害に
 紅茶は○でもミルクティは×
 β-カロテンで発がん率上昇も
 フードファディズムが氾濫
第4章 警鐘報道をしたがる人びと
 世間を恐怖に陥れた環境ホルモン騒動
 人への環境ホルモン作用は確認されず
 低用量効果も否定された
 悪いニュースはいいニュース
 冷静さを欠く化学物質過敏症報道
 二重盲検法
 患者数も誇張か?
 遺伝的な個人差が関係?
 かわいそうな患者
第5章 添加物バッシングの罪
 三菱自動車の車は燃えやすい?
 添加物バッシングが燃えさかった二〇〇六年
 間違いだらけの本
 誤解が広がっていく
 バッシングのせいで消費者は困った事態に
 バッシングが生んだ最大の悪影響
第6章 自然志向の罠
 オーガニック食品は安全じゃない?
 作物は体内で天然農薬を作っている
 有機のおいしさは新しいから?
 天然農薬かファイトケミカルか
第7章 「昔はよかった」の過ち
 現代の味噌はアメリカ文化の産物
 野菜不足で短命だった日本人
 懐古主義では解決しない
 アレルギー増加は清潔化が原因?
第8章 ニセ科学に騙されるな
 マイナスイオンが大流行
 メディアが騙された理由は……
 マイナスイオンブームが再燃?
 「水からの伝言」は教育、政治の場面に
 国会質問、自治体広報紙にも登場
 子どもは信じていない
第9章 ウソつき科学者を見破れ
 遺伝子組み換え大豆が問題に
 ずさんな実験結果
 日本で騒動が再燃
 騙しのテクニックの見本市
 科学の衣をまとった売名行為
 ナンチャッテ学者の倫理観
第10章 政治経済に翻弄される科学
 バイオ燃料ブーム
 トウモロコシが燃料用エタノールに
 地産地消の商品
 燃料vs食料
 抜本的な農業政策が必要
 ブレークスルー技術が必要
 トランス脂肪酸問題も国家間のせめぎ合い
 規制強化が有利になるマレーシアやインドネシア
第11章 科学報道を見破る十カ条
 フリーの科学ライターの懐具合は……
 科学者の倫理
 科学者がブログで情報発信
 日本語の壁
 NGOによる科学を使った企業テロ
 優れたリスクコミュニケーション
 科学報道を見破る十カ条
おわりに

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2010.05.01

▽堕ちた翼の真実

大鹿靖明『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』(朝日新聞出版)


本書は、『ヒルズ黙示録』などの著者である、アエラ編集部所属の大鹿靖明が、JAL倒産に至る過程を叙述したものである。

ただ、その内容は、民主党政権成立後から、前原・国土交通大臣によるタスクフォースの設立・解散、企業再生支援機構による支援決定までの政治の舞台裏が中心であって、倒産企業のドキュメントとしてみると、その分析はやや物足りない。

しかし、JAL倒産の要因の一つとして、しばしば指摘されてきた「政治家に赤字路線を押し付けられた」とする意見には次のように反駁している。

《JALの国内不採算路線は、政治家や航空官僚の介入によって開設されたものではなく、むしろ旧JASとの経営統合によってもたらされている。……それとて、低需要地方(年間30万人未満)の路線シェアは、ANAの66・7%に対し、JALは33・3%しかない。乗客の少ない路線はANAのほうが多く抱えているのに、ANAはつぶれず、JALは倒産した。JAL倒産の遠因に、国内の赤字路線と因果関係を結びつける議論には無理がある。》(pp.156-158)

また、JAL内で出世の階段を登っていく生え抜きのエリート社員たちと、地味な仕事を押し付けられている派遣社員や中途入社の社員たちとの対比は、現在の日本社会の様相を表しているとも言える。著者は、最後の一文「JALの次は、メディアである。」(p.308)に、どんな想いを込めたのであろうか?

[目次]
第1章 政権交代
第2章 タスクフォース
第3章 タスクフォース2失速
第4章 寄生産業
第5章 負の遺産
第6章 ダッチロール
第7章 二次破綻リスク

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2010.04.24

▽東アジアが読む村上春樹

『東アジアが読む村上春樹』(藤井省三編、若草書房)


東京大学文学部中国文学科による国際共同研究で、村上春樹のアジア各国および日本での受容のされ方や、研究についての論文集。村上春樹という一つのポップ・カルチャーがアジアの国々で、どのように受け入れられていったかを、各国の翻訳・出版事情を交えつつ紹介されていて面白い。それぞれの国についていくつか紹介すると

・韓国
韓国では、386世代が春樹ブームの担い手という。386世代とは、1990年代に30代(3)で、1980年代(8)に大学生で学生運動に参加し、1960年代(6)の生まれである。
《幼少期に「反共」の雰囲気の中で育ち、青年期にまた「新しい社会」を夢見た386世代が巨大な社会変化に直面したとき、ある種の価値観の混乱を経験した。……村上春樹が韓国で受け入れられたのは、まさにこの時期、このような状況下においてであった。》(『韓国における村上春樹の受容とそのコンテクスト』p.15)

・台湾
《戦後の台湾は一時期アメリカから援助を受けており、アメリカ文化にも大きく影響されており、その状況はアメリカ占領下の戦後日本に類似している。そのためでもあろうか、台湾は香港、中国と比較して、村上春樹の作品を早期に受容したのである。》(『台湾人の村上春樹―「文化翻訳」としての村上春樹現象』p.39)

また、「1980年代の台湾市民は日本に関する知識を強烈に求めていた。」(同p.42)という。こうした時代背景のもと、1989年に『ノルウェイの森』の海賊版が出版され、「『ノルウェイの森』の学生運動に関する描写は、1990年の民主化運動に参加して苦い体験を味わった台湾読者の共感を得た。」(同p.46)。ここから、台湾の村上春樹ブームは始まったという。

・香港
香港における村上春樹の紹介には博益という出版社が貢献している。博益版の春樹作品は、誤訳やストーリーの省略という弊害も指摘されているが、それでも積極的に春樹作品の出版を続けた。博益は、テレビや週刊誌で書籍の宣伝を行うとともに、都市の拡大により地下鉄の発達した香港でホワイトカラーの通勤客向けの小型で読みやすい「袋装書」を発行した出版社として知られている。春樹作品についても、テレビや週刊誌で広告を打ち、「袋装書」として出版した。ストーリーの省略は、読者の読みやすさを優先したため、とみられている。(『知識生産の領域と村上春樹の香港における普及』)

・中国
中国においても、計画経済から市場経済への移行という大変動期のさ中に、村上春樹の「作品中のそういった喪失、孤独と失意といった感情が、主に学生や青年である読者層の読書欲求を満たしており、これが村上作品が中国の青年読者の間で広く受け入れられていることの重要な原因の一つ」である。(『中国において村上春樹と大江健三郎を考察する』p.194)

・アメリカ
《しかし、この日に日に上昇する春樹人気にもかかわらず、日本で村上に関する研究書がおびただしい数で刊行されているのとはまったく正反対に、アメリカでは村上についてまともな学術研究書は、ジェイ・ルービンの『ハルキ・ムラカミと言葉の音楽』とマイケル・シーツの『村上春樹・・現代日本文化における模擬性』およびリベカ・サターの『日本化するモダニティー 日本とアメリカの狭間にいる村上春樹』以外ほとんど見当たらないというのも事実だ。
 もっとも、学術的な研究が少ないかわりに新聞・雑誌での書評としてよく取り上げられる。》(『アメリカの村上・村上のアメリカ―文学翻訳と文化翻訳』pp.288-289)

[目次]
韓国における村上春樹の受容とそのコンテクスト
台湾人の村上春樹―「文化翻訳」としての村上春樹現象
知識生産の領域と村上春樹の香港における普及
文学翻訳と翻訳文学―中国大陸における村上文学の翻訳と受容をめぐって
中国版『ダンス・ダンス・ダンス』の版本研究―村上春樹の翻訳における受容と変容
中国において村上春樹と大江健三郎を考察する
繰言あるいは逆写―シンガポールの村上春樹現象に関して
マレーシアにおける村上文学の受容―中国語メディアを中心とする考察
アメリカの村上・村上のアメリカ―文学翻訳と文化翻訳
『海辺のカフカ』は日本でどう読まれたか―カフカ少年と『少年カフカ』
100%の村上春樹に出会う
闘士としての村上春樹―東アジアで充分に重要視されていない村上文学の東アジア的視点

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2010.04.20

▽ヤフー・トピックスの作り方

奥村倫弘『ヤフー・トピックスの作り方』(光文社新書)


一ヶ月の閲覧数が45億ページ、ユニークユーザー数が6970万人にのぼるヤフー・ニュース。その中でも注目度の高いヤフー・トピックスの編集を担当してきた著者による体験記。著者は、ヤフーに転職する前は、読売新聞で記者をしていた。

《確かにトピックスの編集に携わっていると、現場の記者では感じなかったような感覚に気づくことがあります。それは、自分の作ったトピックスが爆発的に読まれたときの快感と自分の作ったトピックスが何千万人の目に留まるかもしれないという不安です。なかにはこの不安に駆られて、トップページへの反映ボタンを押す指が震えたという編集者もいるくらいです。》(p.66)

また、アクセス状況を監視するツールも使用しているものの、必ずしも、それに依存しているわけではないという。

《自分のなかにある価値観に基づいて判断することを私たちは「内在的な価値判断」と呼んでいます。
 「内在的な価値判断」があればこそ、国民として知っておくべきニュースやこれまでに誰も触れたことのないテクノロジー、これから起こりそうなムーブメントなどを読者に提示することができるのです。》(p.110)

また記事8本の並べ方として採用されているのは、

《原則として上から順に、国内、地域、海外、経済、コンピュータ、サイエンス、スポーツ、エンターテイメントのジャンル順で、硬軟のバランスが取れるように並べていく方法です。……ニュース価値をいったん忘れて、国内、地域、海外、経済……と話題の硬軟にグラデーションをかけるようにして8本のトピックスの見出しを並べてみると、堅い話題から柔らかい方へと緩やかに変移していきます。》(pp.100-101)

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2010.04.18

▽大島渚と日本のホモソーシャリティ

四方田犬彦『大島渚と日本』(筑摩書房)


本書は、四方田犬彦による大島渚の作品を俯瞰的に解説している。もともとはPR誌「ちくま」に連載されていたもの。

《……大島を頂点として動いている創造社が本質的に強いホモソーシャリティを帯びているからである。これは隠喩的に了解していただきたいが、彼らは毎回新作に取りかかるたびに、一人の素人女性を媒介することで全体の結束をより深く固めてゆくのだ。ひとたび共有された後に排除される女性たち。大島渚のフィルモグラフィーを構成しているのは、実は彼女たちの点鬼簿である。》(p.68)

ホモソーシャリティとは、ジェンダー研究の場で使われているタームです。ホモセクシュアルとは異なる概念で、男性中心の同質的社会のことを言います。日本の企業も、このホモソーシャリティが強く、要するに、男性正社員が優位な組織であることが特徴であるといえます。最近、日本の年功序列型組織の崩壊が予見されていますが、人類学的な観点からすると、日本の企業社会のホモソーシャリティは、そう簡単には崩れないような気もしています。

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2010.04.06

▽『スペースシャトルの落日』

松浦晋也『スペースシャトルの落日』(エクスナレッジ)


《スペースシャトルの事故確率については一九八九年に、アメリカ政府の技術評価局(OTA)という部署が五〇分の一という数字を出した。五〇回飛行すれば一回致命的な事故が起きる可能性があるというのだ。……現在までのスペースシャトルの実績を見るならば、一一三回飛行して二回の致命的事故を起こしている。OTAとNASA、どちらが正しかったかは明らかである。OTAである。》(pp.233-234)

2005年に発行された本書は、航空・宇宙ジャーナリストの松浦晋也が、NASAが推進してきたスペースシャトルは、そもそも、そのコンセプトからして間違いであり、無駄なに複雑な構造を採用したことから、コストも安全性も犠牲にされてしまった。そのことにより、世界の宇宙開発は停滞し、二〇年以上にわたり失われてしまった、と主張する。

アポロ計画を引き継いだかたちで、始まったスペースシャトル計画は、より高度な技術ならば、予算も多く取れるだろうという打算から、再利用型シャトルというスタイルを採用したものの、これが裏目に出てしまったという。技術的な論証は、本書をご覧いただくとして、日本のIT産業のガラパゴス化、あるいは、止められない公共工事にも似た状況がアメリカの航空宇宙産業においても起きていたようだ。

[目次]
序章 二度と間違えないために
第1章 スペースシャトルはこんなもの
第2章 スペースシャトルが起こした事故
第3章 そもそも間違っていた設計コンセプト
第4章 世界中が迷惑し、だまされた
第5章 スペースシャトルの次に来るものは

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2010.04.03

▽スーパーマンの日常を追体験する

佐々木俊尚『ネットがあれば履歴書はいらない-ウェブ時代のセルフブランディング術』(宝島社新書)



佐々木俊尚『仕事するのにオフィスはいらない-ノマドワーキングのすすめ』(光文社新書)


あるブログで紹介されていたので、つい、つられて読んでしまいました。あるブログって、これなんですけどね(爆)。

たぬきちの「リストラなう」日記
http://d.hatena.ne.jp/tanu_ki/20100401/1270133223

まー、実際に書かれていることを真似できるかどうかは別にして、なんだかスーパーマンの日常生活を追体験しているような気分になって、ちょっと元気が出てくるのは間違いありません。

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2010.03.29

▽『ウェブを炎上させるイタい人たち』

中川淳一郎 『ウェブを炎上させるイタい人たち』(宝島社新書)

ウェブに対する悲観的な現実を提起して一部で話題となった『ウェブはバカと暇人のもの』ですが、

▽アメーバニュース編集者が語るネットのバカたち
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/04/post-13ba.html

本書は、シリーズ第三弾にあたるのだそうです。まあ、内容的には、『ウェブはバカと暇人のもの』とほとんど同じなのですが、後日談風に書かれている部分が面白い。

著者は、『ウェブはバカと暇人のもの』出版後、その過激な内容のおかげで、ネット上でさんざん批判されました。しかし、著書の人生はまったくかわらなかったどころか、本が売れ、仕事が殺到し、女性にもてだしたというのです。

《この段階で私は、『ウェブはバカと暇人のもの』の副題「現場からのネット敗北宣言」を実感し、寂しい気持ちになった。なぜなら、自分の30代前半の相当な時間をつぎ込み、もっとも大事なものを犠牲にしてまで取り組んできたインターネットが、通信手段としての役割以外に、リアル世界に対してほとんど意味を持たないことを実感したのだから。これは、自分の人生の一部を痛烈に否定されたような感覚だった。
 そして、そんな感覚を覚えるのと同時に、猛烈に悲しくなった。……ネットにかなりの時間を使ってきた我が同世代の仲間達のことを思ったからだ。
 ごめん。ネットには、夢も希望も実利もほとんどないんだ……と。》(p.201)

[目次]
第一章 炎上させる人間はやっぱりバカか暇人
 無闇矢鱈(むやみやたら)に人間関係を増やしてどうする
 ネットの「祭り」は“いじめという名の娯楽”
 勝間和代が「目立つ」のは「経済評論家の中では美人」だから
 …ほか
第二章 ウェブは「集合痴」の世界 ―― 誠実に対応するだけ時間と金がムダになる
 プロに対して誰でも簡単に噛み付けるリスペクトなき時代
 バカな客、バカ過ぎるクレームなど、何の役にも立たない
 広瀬香美がツイッター(笑)界最強のスター これってどうなの?
 …ほか
第三章 ウェブ炎上への対処法
 炎上を逆手に取って企業イメージを向上させる
 「かまってちゃん」に振り回されたKDDIの“ハッシュタグ”事件
 炎上のタイプは6種類。いずれも無意味な暇つぶし
 …ほか
第四章 ネットは成熟した。ネットのオプティミズムから卒業しろ
 近所の人を警戒し、ネットの人に安心する矛盾
 うっかりつぶやいて明るみになった蓮舫議員の「マジコン“援助”事件」
 カジュアルな発言をすることのメリットが見いだせない
 …ほか
第五章 20~30代のネット世代は、全能感を持った「ただの負け組」
 実感として「ウェブはリアル世界に対してほとんど意味を持たない」
 ネットの普及とともに日本人の生産性が低下している
 無邪気すぎる信者たち
 …ほか

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2010.03.28

▽『スキャンダルを追え! 『噂の真相』トップ屋稼業』

西岡研介『スキャンダルを追え!『噂の真相』トップ屋稼業』(講談社)


ジャーナリストの持つべき資質の一つに「引きが強い」というものがあるはずだ。そんな引きの強いジャーナリストの一人が西岡研介である。

神戸新聞社の記者としてスタートし、噂の真相、週刊文春、週刊現代と渡り歩いている西岡の『噂の真相』までの体験記が本書である。実に、神戸新聞社時代には、阪神大震災や酒鬼薔薇事件と遭遇し、『噂の真相』に移ってからは、「東京高検検事長の女性スキャンダル」や「首相の買春検挙報道」などのスクープを連発する。

神戸新聞社時代については、酒鬼薔薇聖斗から送りつけられた犯行声明にまつわる舞台裏を明かしている。神戸新聞社は、犯行声明の文章だけを紙面に載せ、コピーは少年逮捕まで、公にはしていなかった。

《実際、容疑者が逮捕され、14歳の少年だと判明した途端、著名なジャーナリストや、評論家のセンセイ方は「あの犯行声明の字は、明らかに子供のものだ。あの時、神戸新聞が犯行声明をそのまま写真で公開すれば、犯人逮捕はもっと早まっていたはずだ」などと口々に批判した。が、はたしてそうだろうか。
 ……このコピーを見て、子供の可能性に言及した捜査関係者は皆無だった。またその後も、複数の記者が、犯人像を探るため、このコピーを手に複数の犯罪学者や精神科医らに密かに取材をかけたのだが、その際にもこれが少年のものであると指摘した人間は誰一人としていなかったのだ。》(p.65)

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2010.03.25

▽『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』

西田 宗千佳『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』(エンターブレイン)

本書の内容は、タイトルの初めの部分『iPad VS. キンドル』よりも、その後の『日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』の方が正確でしょう。iPadとキンドルだけではなくて、ソニーリーダーも含まれています。三社それぞれの立ち位置や戦略の違いがよくわかります。

また、過去に行われた電子書籍の試みについて、失敗も含めて、当事者に幅広く聞き取りを行っていて、資料としても価値は高いと思います。

ただ、本書を読んでも、いままで電子書籍がうまくいかなかった理由はわかりますが、これから電子書籍市場がどう拡大していくか、そして誰が勝者になるかは、わかりませんね。数年後には、アップデート版が書かれることでしょう。

[参考]▽iPodは何を変えたのか? を振り返る
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/02/ipod-7562.html

西田 宗千佳『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』(エンターブレイン)
[目次]
序 章 はじめに~eBookはコンピュータの夢だった~

第1章 キンドル・インパクト!
 あのジョブズ氏も「ライバル礼賛」
 巨大通販会社が「家電メーカー」になる
 見やすくて電気を食わない「電子ペーパー」
 「通信モジュール」~キンドルの持つ本当の革新~
 「ウィスパーネット」がキンドルの秘密
 「MVNO(仮想移動体通信事業者)」の常識を疑え
 キンドルの祖先は「ソニー」にあった
 キンドル・ブーム:2009年空港待合室にて
 eBookなければeBookリーダーも売れず
 ギフトと口コミで「食わず嫌い」を超えろ
 「キンドル」ビジネスの本質は「本を売ること」だ!

第2章 キンドルのライバル、ソニーとアップル
 アメリカで「再起動」したソニー
 発案したのは「ストリンガーCEO」だった
 秘密は「出版契約」にあった
 サンディエゴに本拠を移してビジネスを開始
 「ハードの強み」でまず攻める
 「アマゾンの敵」を味方につけろ
 アップルの狙いは「eBook」ではない?!
 アップルの狙いは「リビング」だった
 iPadの価値は「アプリ」にあり
 「単機能」対「汎用」
 「文庫本」的なキンドル、「雑誌」的なiPad

第3章 eBookへの長い道
 ダイナブックとエキスパンドブック
 インターネットが「マルチメディア」を殺す
 メーカーが団結して臨んだ「電子辞書」
 ソフトから「電子辞書」という機械へ
 「青空文庫」と「自炊」する人々
 「読めない本」に価値はない
 様々な機器の登場がeBookを促す

第4章  eBookのビジネスモデルとは~アメリカの場合~
 eBookは「お金になった」から成立した
 「早く読めて安い」で読書家の心をつかめ
 カギは「お金を払って買う」システムの存在
 「売れば売るほど赤字」は本当か
 ビジネスモデルの「自由度」の重要性とは
 「価格」「特典」を巡りストアと出版社が綱引き
 広がる「個人出版」の可能性~「アマゾンDTP」~
 通信コストまで「ビジネスモデル」の範疇
 「無料」を最大限に活用せよ
 EPUBをしかけたソニー
 フォーマット戦争は存在しない?!
 eBookは「プラットフォーム」が支配する

第5章  日本はどう「eBook」の波に乗るのか
 消費者調査から知る「eBook」
 「アメリカ化」と「国際化」
 水面下で進む「eBook日本上陸」
 新聞社は「デジタル配信」に前向き?!
 すでに「携帯向け出版」はあるけれど
 ゲーム機にコミックが配信される理由
 マンガの現場は「危機」にある!
 eBookがはらむ巨大な「危険」
 「雑誌配信実験」の狙いとは
 日本における権利処理問題のハードル
 グーグルブックスの「本当の問題点」
 著作権は「銭金の問題」だ
 eBookと「再販制度」
 eBookから「ミリオン」は生まれるか

巻末付録 HOW TO KINDLE(キンドル 購入から利用までの手引き)
 応用編…………巻末x
 基本編…………巻末ii

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▽マックかマクドか?――『新聞社も知りたい日本語の謎』

読売新聞新日本語取材班 『新聞社も知りたい日本語の謎』(橋本五郎監修、ベスト新書)


本書は、言葉にまつわる雑学本です。読売新聞の連載記事「新日本語の現場」をまとめたものですが、第一章にある『「マック」か「マクド」か』が気になって手を取りました。

読売新聞の全国の支局を使って調査した結果、やはり「マクド」は近畿の6府県と徳島県、その他の地域は「マック」となりました(マックとマクドを両方使うのは、新潟、兵庫、広島、宮崎の4県)。(p.14)

また、吉本興業に所属するお笑い芸人の話す言葉は「吉本弁」ともいうべきもので、「共通語に「やねん」「やろ」などの言葉を添えただけ」(p.134)なのだそうです。

関西弁にまつわる話だけでなく、さまざまな言葉の語源や、マニュアルを作る話など、読み物として楽しめます。

[目次]
1章 方言の今-日本全国、こんなに異なる物の言い方
2章 方言の戦い-東京vs関西、言葉をめぐるバトル
3章 まだまだ方言の戦い-日本語の奥深さを実感する
4章 マニュアル作り-伝えることの難しさ
5章 続・マニュアル作り-「わかりやすさ」って何だろう

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2010.03.22

▽『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』

北尾トロ『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』(風塵社)

以前書いた下記のエントリーがよく読まれているようなので、

▽『インターネットで古本屋さんやろうよ!』の行方

http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/01/post-36d0.html

同じようにインターネットで古本屋を始めた方の体験記を紹介します。タイトルはそのものずばり『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』。著者は、最近では裁判の傍聴記などでも知られているライターの北尾トロさん。

本書が刊行されたのは2000年9月ですが、北尾さんは、その前年の1999年10月5日にインターネット古本屋『杉並北尾堂』をオープンしました。

杉並北尾堂
http://www.vinet.or.jp/~toro/

北尾さんはライターという職業柄か、「ちょいとヘンなノンフィクション」が本棚にたまっていく。処分に困ったこれらの本を、愛想の悪い古本屋に買いたたかれるくらいなら、という想いから自分で古本屋になってインターネットで販売しよう、と思い立つ。

本書では、サイトの作り方から、特集やメール・マガジンの作り方、古物商の免許の取得方法、せどりや買い取りの仕方、即売会体験談、さらに月別の収支のついた日記など、内容も盛りだくさんです。すべて北尾さんの体験にもとづいたものなので、読み物としても楽しめます。続編も刊行されています。

北尾トロ『ヘンな本あります―ぼくはオンライン古本屋のおやじさん2』(風塵社)

ところが、この杉並北尾堂も、すでに休業中。その理由は、下記の記事で北尾さん自身が語っています。

僕は古本屋のオヤジ~長野県伊那市・高遠町を本の町に…
http://shumiyuyu.kaiteki-jinsei.jp/21/03.html
《アマゾンのおかげで(アマゾンは悪くないです)、古本業者が目先の小銭を欲しがり、結果ネット古書店の楽しさが減っちゃったんだよ。だから俺のなかではネット古書店については、役割は終わったかな、と思ってる。》

現在は、長野県伊那市高遠町にカフェ&古本屋「本の家」を開業して奮闘中のようです……。

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▽『俺たち訴えられました!---SLAPP裁判との闘い』

烏賀陽弘道x西岡研介『俺たち訴えられました!---SLAPP裁判との闘い』(河出書房新社)


SLAPPという言葉がある。Strategic Legal Against Public Participation の略で、企業や団体や、批判的な意見を封殺するために高額の損害賠償を求める民事裁判を起こすことをさす。

本書は「オリコン裁判」で実質勝訴した烏賀陽弘道と、JR東日本の「マングローブ裁判」で係争中の西岡研介の二人によるSLAPP訴訟に関する体験に基づいた対談である。

アメリカでは28の州・地域で禁止されているSLAPP訴訟だが、日本では、企業や団体がし放題の状況にあり、言論の自由とのうまい具合のかねあいがとれていない、というのが問題と言えよう。

本書の最後には、雑誌メディアに対する名誉毀損裁判を手がける矢田次男弁護士との対談も収録されており、訴える側の考えも紹介されている。そして、ネットでの名誉毀損について矢田弁護士は、次のように語っている。

《ネットで問題なのは、人を誹謗中傷する書き込みとかブログのほとんどが匿名であること。もちろん匿名で人を誹謗中傷しても名誉毀損は成立するんだけど、そもそも匿名の書き込みの情報を人が信用するのか、という問題がある。匿名というのは、要するに怪文書みたいなものだから。ネットでの書き込みの相談について僕らは「無視したらどうですか」と勧めている。対処しても、次から次へと同様の書き込みが生まれ、イタチごっこだから。》(p.254)

《矢田――警視庁は刑事の名誉毀損罪でも捜査しますよ。
 烏賀陽――ですね。
 西岡――では、ネット上での誹謗中傷の場合は、民事訴訟を起こすより刑事告訴・告発を行うほうが手っ取り早いということなんですか?
 矢田――警視庁や各都道府県警に「サイバー隊」がいるから、そこに告訴すればいいんです。こんな名誉毀損受けました、と。そうすると警察は捜査しますよ。》(p.255)

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2010.03.16

▽『ネットの炎上力』――どこからくるのか?

蜷川真夫『ネットの炎上力』(文春新書)

本書は、ネットの炎上を煽る「炎上メディア」と呼ばれるJ-CASTニュースの発行人によるもの。J-CASTニュースが創刊されたのは2006年7月で、その前後の状況から、最近の動向までを詳しく述べている。PVの推移や、よく読まれた記事が紹介されるなど、ウェブ媒体の正確なデータが乏しい現状では、資料としての価値も大きい。

《J-CASTニュースのスタートに向けて06年4月ごろからテストを始めた。編集部では、いつ100万PVいくかな、と情けないことを言っていた。すぐに1000万いけるよ、と言ったのは私だが、別に根拠があるわけではなかった。誰も信じてくれなかった。
 正式スタートした7月、月間67万4931PV。翌8月、225万5578PV、9月272万1763PV、10月には442万5867PV。
 おやおや、いけそうじゃないか。そして1年たった07年07月には1223万8991PV。なんと1年で月間1000万PVが達成できた。》(pp.105-106)

また、よく読まれた記事は以下の通り(p.137)。

1位 リア・ディゾン「局部?写真」疑惑で大騒動
http://www.j-cast.com/2007/07/10009188.html

2位 元「モー娘。」飯田のファン 「できちゃった婚」にショック画像
http://www.j-cast.com/2007/07/09009133.html

3位 激論「太田総理」で騒動 民主議員が「お詫び」
http://www.j-cast.com/2007/07/03008937.html

では、これらの記事の読者は、どこからやってきたのか?

《小さなサイトにリンクが張られ、そこから数人、数十人の単位で読者がやって来る。それがねずみ算のように広がっていく。口コミでの広がりと似ていて、サイトからサイト、ブログからブログへと広がっていった。》(p.142)

[参考]
『ネットの炎上力』の「読みどころ」を無料ダウンロード
http://www.j-cast.com/kaisha/2010/03/15062195.html

ダウンロード
http://www.j-cast.com/kaisha/images/2010/jcast_bunshun739.pdf

[目次]
1.J-CASTニュースの誕生
 インターネットメディアの影響
 新聞とインターネット
 テレビとインターネット
 ホリエモンと三木谷氏
 ブロードバンド化の流れ
 J-CASTニュースのスタート
 インターネット広告の仕組み
 連動型広告
 J-CASTニュースのコンテンツ
 技術特許の機能/プッシュ型とプル型

2.毎日新聞「変態記事事件」の衝撃
 武豊騎手のコメント誤報事件
 「小さな世論」の形成過程
 記事の賞味期限
 投稿先によるコメントの違い
 情報リーダー
 佳子様のプライベート写真
 毎日新聞「変態記事」事件
 草の根の広がり方
 ネットを基盤とした「世論」

3.ヤフーvs.グーグル 日本決戦
 「ヤフーニュース」のビジネスモデル
 「グーグルニュース」の編集方針
 それぞれの差異
 男の子牧場と変態記事
 ネット世論

4.1000万クリックでビジネス成立
 J-CASTニュースの経営
 SEO対策
 増殖の経緯
 「くまぇり」と「きっこ」
 何かのニュース

5.「炎上メディア」の汚名と名誉 ※PDFデータ公開中
 1.5次情報のコンセプト
 炎上メディア
 読者急増の仕組み
 リア・ディゾンの局部?
 サイトからサイト、ブログからブログへ
 デジタルコンテンツ
 オナニーマラソン
 匿名性
 ミドルメディアの役割
 ミニコミとブログ

6.市民記者「オーマイニュース」の失敗
 オリジナルコンテンツ
 ネット右翼
 市民記者

7.政権交代とネットニュース
 記者会見のオープン化
 自民党の会見
 記者クラブの存在
 新聞記者時代
 雑誌編集者時代
 ネットの世界へ

8.ネットvs.新聞 最終戦争
 新聞とテレビの現在
 百貨店と専門店街
 読者との距離
 新聞の未来
 米国の現状
 新しいメディアのモデル
 ネットメディアの未来

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2010.02.19

▽ネット上で情報を集める極意とは?――『ブログがジャーナリズムを変える』

湯川鶴章『ブログがジャーナリズムを変える』(NTT出版)


《ネット上で情報を集める極意を教えていただいた。それは「ギブ・アンド・ギブ・アンド・ギブ・アンド・ギブン」というものだ。ネット上では、情報は出して、出して、出し続けることが重要。そうすれば、自然と情報が集まってくる、というのだ。……ブログを始めて三カ月ほどしてからだろうか。アクセス数も増え、わたしが知らなかったような情報がポツリポツリと寄せられるようになった。半年もすれば、新しい情報が次々と寄せられるようになり、わたしの役回りは情報収集者ではなく、情報の交通整理係のようなものになっていた。》(pp.276-277)

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2010.02.05

▽iPodは何を変えたのか? を振り返る

スティーブン・レヴィ『iPodは何を変えたのか?』(上浦倫人訳、ソフトバンク クリエイティブ)


iPadの発表で、ふたたびアップルのデジタル・コンテンツ戦略に注目が集まっています。というわけで、iPodの開発からヒットまでが、どのようなものだったかを振り返るという意味で再読してみました。iPodのヒット後に書かれた記事などは、ジョブズCEOの戦略を持ち上げ過ぎのきらいがありますが、2006年に上梓された本書(日本版は2007年)では、そのあたりを過大評価することなく正確に記録されています。以下、ポイントを箇条書きすると

・アップルより前、1998年にDECがHDD搭載の「パーソナル・ジュークボックス」を開発していた
・DECの開発スタッフは、それを韓国メーカーに製造委託して「PJB-100」として発売していた
・1999年に「オーディオン」と「サウンドジャム」という2つのMac用の音楽ソフトがサードパーティーによって開発されていた
・2000年にサウンドジャムが開発者ごとアップルに買収され、iTunesの開発が始まる
・先にiTunesが開発され、後からiPodの構想が浮かんでくる
・iPodという名称は社内のマーケティング担当者や広告代理店との長いディスカッションを経て決定された
・2001年にiPodが発売された当初は、その機能を説明するようなTVCMが流されていた
・iPodの開発を進めていた時点では、アップルが音楽ストアを運営するという構想はまったく存在しなかった
・音楽ストアを開設するにあたって追求されたのは、「知的財産を守りたいと考える音楽レーベルと、金を払って欠陥ファイルをつかまされたくない顧客の両方を満足させる、理想的な落としどころだ。だが、そんな落としどころが本当に存在するのか、当時は誰にもわからなかった」(p.188)
・2002年にWindows向けのiPod用ソフトがミュージックマッチ社によって開発されたが、2003年4月にオープンしたiTunesミュージック・ストアは利用できなかった
・2003年10月にWindows版iTunesが公開され、WindowsユーザーもiTunesミュージック・ストアを利用できるようになった。ここからiPodの売上は急増した

とまあ、こうして振り返ってみると、節目節目で打つべき手を打ってきたのがiPodのヒットの要因であり、必ずしも、初めから壮大な戦略があったわけではないことがわかります。ある役員の、以下のような言葉が印象的です。

《「iPodを発売したときは、ソニーあたりに一年分の差をつけたかな、と思ってたんだ。まさかそれが五年のリードになるなんて、想像もしてなかった。実際僕らは『今年のクリスマスはもらったけど、来年は他の企業も追いついてくるぞ』って言い続けてて、常にそのつもりで開発を進めてきた。でも何年か経ったら『今年もクリスマスが楽しみだね』みたいな感じになっちゃったんだよ」。》(pp.352-353)

[目次]
第1章 パーフェクト
第2章 パーソナル
第3章 オリジン(起源)
第4章 クール
第5章 ダウンロード
第6章 アイデンティティ
第7章 ポッドキャスト
第8章 シャッフル
第9章 アップル
終 章 コーダ

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2010.01.18

▽『インターネットで古本屋さんやろうよ!』の行方

芳賀健治『インターネットで古本屋さんやろうよ!』(大和書房)

著者は、2001年7月15日より、インターネットの古本屋「古本うさぎ書林」を経営している。本書が出版されたのは2003年で、インターネットで古本屋を運営していくことの苦労や楽しみを綴っている。

著者は、ブックオフなどの古本リサイクル書店で、100円で売られている本を買い集め、それをインターネットで高値で売る「せどり」という手法を紹介している。著者は、主に映画の本を中心に仕入れており、しかも、どういう本が高く売れるのかについてまで、懇切丁寧に解説している。映画好きの私としても、なかなか楽しく読むことができた。

この趣味と実益をかねたインターネットの古本屋はどうなったか? 著者のブログ「古本うさぎ書林の日日平安」の2008年6月1日のエントリーには、次のようなショッキングなことが書かれていた。

ネットでの古本販売休止のお知らせ
http://usagi-hibi.jugem.jp/?eid=201
《ネット販売の利点は十分承知の上ですが、従来から古書業界にある古本市や即売会の方が自分にあっていて楽しいというのが大きな理由です。24時間営業にならざるをえないネット販売の忙しさよりも生活のメリハリを選んだと言えるかもしれません。》

結局の所、インターネットのビジネスとは、見ず知らずの顧客のために24時間追いまくられるような結果になってしまう、それならば、馴染みの同業者や顧客と顔をあわせることのできる古本市や即売会の方が楽しい、ということなのだろう。

もう一つ、気になったことは、本書において、「安く仕入れて高値で売れた」ものとして紹介された本の多くが、現在のアマゾン・マーケット・プレイスでは、1円で売られていたという事実。「せどり」というビジネスは、本書で描かれていたような牧歌的な時代はとっくに終わり、すでに相当な過当競争に陥っているようだ。

[目次]
第1章――百円で買った本が三千円で売れた!
百円で買った本が三千円で売れた! 
はじめに何が必要か 
古本うさぎ書林スタート 
せどりってなんだ!? 
一冊からはじめよう 
どんな本を売ろうか 
値段をつけよう 
リサイクル書店は問屋だ 
アガサ・クリスティーって誰? 
チェックが甘いリサイクル書店 
閉店した古本屋の話 
本棚はどうする
大きな本は家賃を食う 
インターネットの古本屋は儲かるか 
古本うさぎ書林の仕入れと売上 

第2章――こんな本が売れている~古本うさぎ書林のベストセラー
こんな本が売れている~古本うさぎ書林のベストセラー 
こんな文庫が高く売れた 
まだまだ売れる角川映画の文庫本

第3章――掘り出し物はあるか
知らないジャンルには手を出すな 
新刊書店へ行こう 
オープニング特集は「黒澤明とその周辺」 
八十年代ノスタルジー 
十七年ぶりの古本屋 
シナリオにこだわる理由 
テレビドラマの本 
サイン本はおいしい 
落語家はサイン好き? 
笑芸の本は根強い人気がある 
未知との遭遇 
ちくま文庫はなんとかならないか 
手塚治虫の三十九冊 
はさまっているもの 
現代教養文庫の行く末 
ビデオはじめました 
コツコツと全巻そろえる楽しみ

第4章――せどりに行こう!
せどりに行こう! 
お気に入りせどりマップ 
1 駒沢大学~三軒茶屋~池尻コース 
2 山手線半周コース 
3 中央線コース 
ある日のせどり日記 
古本まつりへ行こう 
気がついたら都心はリサイクル書店だらけ

第5章――古本屋開業のノウハウ  
古物商の許可を取る 
ホームページをつくらないでお店を持つ 
ホームページをつくる 
知っておきたい本の名称 
キーワード検索に強くなる 
郵便局に口座を作る 
梱包材を仕入れる 
代金回収のこと 
注文から発送まで 
これが必需品 
本をピカピカにする 
インターネットの古本屋のためのブックガイド 

あとがき

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2010.01.06

▽エコノミストのつぶやき――『日本はなぜ貧しい人が多いのか』

原田泰『日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学』(日本経済新聞出版社)


本書は、ここ数年にわたって、主にジャーナリズムの世界で騒がれてきた数々の経済・社会に関わるトピックを、エコノミストの立場から、入念なデータの分析を基に検証していく。意外な事実に気づかされる読者も多いと思う。

表題になっている「日本はなぜ貧しい人が多いのか」については、

《日本にはジニ係数に比べて相対的貧困率が高いという問題がある。相対的貧困率とは、所得が低い人から高い人を並べてちょうど真ん中にある人の所得(中位所得)の半分以下の所得しかない人の比率である。》(p.99)

と指摘する。著者は、日本の相対的貧困率が高い理由として、「個人への所得再配分が少ない」(p.101)ことをあげる。日本は、児童手当、失業給付、生活保護などの社会保障給付が他の先進国に比べて少ないため、最終的な可処分所得で不平等が大きくなり、相対的貧困率も高くなるという。

もちろん本書の読みどころは、統計データの分析によって、さまざまなトピックを検証していく点だが、それに加えて面白いのは、著者がそれぞれのコラムでぼそっとつぶやくように指摘するところだろう。

《アメリカではお坊ちゃま同士の競争があるが、日本の地方ではそれがない。二世政治家の実家を見ると、豪邸の場合にはその周りに家来のような家が並んでいる。それが、日本の政治家のレベルを引き下げているのではないだろうか。》 (第1章 1.日本の地方にはなぜ豪邸街がないのか)

《ストライカー産業をどう育てたら良いかは、実は分からない。分からないことに予算を使うべきではない。むしろ、ストライカー産業のコストである投入産業(運輸、通信、電力、金融、工業団地、工場用水などを提供する産業)の効率を高め、そのコストを引き下げてはどうだろうか。》 (第1章 2.日本にはストライカーがいないのか)

《ヨーロッパの福祉国家は、まだ理性を失っていない。少なくとも、イギリスとオランダは分かっている。働いている人々から税金と年金保険料を取り立てれば、老後が安心になるわけではないことを分かっている。》 (第3章 11.増税分はどこに使うべきか)

《なぜ日本経済は大停滞に陥ってしまったのだろうか。……労働生産性の低下ではなくて、労働投入が減少したことが停滞の理由である……デフレで実質賃金が高止まってしまったことが労働投入減少の大きな理由である》 (第5章 4.「大停滞」の犯人は見つかったのか)

《北海道の場合、拓銀破綻前には全国よりひどい不況で、破綻後に全国並みの不況に「回復した」という事実から判断すると、破綻によって貸しはがしがなくなって、むしろ良かったということになる。》 (第6章 6.金融機関の破綻は負の乗数効果を持つのか)

[目次]
はじめに

第1章 日本は大丈夫なのか
1.日本の地方にはなぜ豪邸街がないのか
2.日本にはストライカーがいないのか
3.人口減少でサッカーも弱くなるのか
4.日本は投資しすぎなのか
5.日本の労働生産性は低下したのか
6.少年犯罪は増加しているのか
7.給食費を払わないほど日本人のモラルは低下しているのか
8.なぜ「新しい世代」ほど貯蓄率が高いのか
9.若年失業は構造問題なのか
10.日本の教育論議は、なぜ「信念の吐露」にすり替わるのか
11.なぜ教育が必要なのかを語らないのか
12.学力格差をどう克服するか

第2章 格差の何が問題なのか
1.世界はいつ不平等になったのか
2.格差問題の本質は何か
3.グローバリゼーションは格差をもたらすのか
4.「均等法格差」は生まれたのか
5.地域間の1人当たりの所得格差は拡大したのか
6.地域間の所得格差は拡大したのか
7.外車販売台数で地域格差を見ることができるか
8.日本の生活保護制度はどこが変なのか
9.日本はなぜ貧しい人が多いのか

第3章 人口減少は恐いのか
1.人口が減少したら1人当たりの豊かさは維持できないのか
2.成長のために人口増と就業者増のどちらが重要か
3.就業率の低下をくい止めたのは誰か
4.子供の方程式で何が分かるか
5.若年層の所得低下が出生率を低下させたのか
6.第1次大戦前、人口が増加する国ほど豊かになったのはなぜか
7.低成長、人口減少時代の年金はどうあるべきか
8.高齢者はいつ豊かになったのか
9.「高齢化で医療費増」は本当か
10.高齢者ほど負担する意志があるのはなぜか
11.増税分はどこに使うべきか

第4章 世界に開かれることは厄介なのか
1.中国のGDPは、本当はいくらなのか
2.なぜ中国は急速な成長ができるのか
3.中国は脅威なのか、お得意様なのか
4.中国の雇用はなぜ伸びないのか
5.円は安すぎるのか
6.経常黒字をため込むことは必ず損なのか
7.経常収支の黒字はどれだけ円高をもたらすのか
8.人口減少に輸入拡大で対応できるか
9.「国際競争力」はどれだけ生活レベルを高めるのか

第5章 経済の現状をどう見れば良いのか
1.世界金融危機の影響はなぜ日本で大きいのか
2.なぜ資本市場と銀行の両方が破壊されたのか
3.企業の利益は、なぜ2007年まで復活していたのか
4.「大停滞」の犯人は見つかったのか
5.1970年代に成長率はなぜ低下したのか
6.アメリカはニューエコノミーになっていたのか
7.19世紀の世界経済はなぜデフレになったのか
8.昭和恐慌の教訓は何か
9.アメリカの大恐慌を終わらせるのに世界大戦が必要だったか

第6章 政府と中央銀行は何をしたら良いのか
1.日銀総裁のパフォーマンスはその出身によるのか
2.日本銀行は何を目標としているのか
3.なぜ低金利が続いているのか
4.日本の物価はなぜ上がらないのか
5.資本注入は経済を救えるか
6.金融機関の破綻は負の乗数効果を持つのか
7.最後の日本人にとって国債とは何か
8.どの都知事が財政家だったのか
9.大阪府はなぜ財政再建できたのか
10.日本は本当に省エネ大国なのか
11.官民賃金格差は地域に何をもたらしたのか
12.離婚と地方の自立はどこが似ているのか

おわりに

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2010.01.04

▽日本産業社会の「神話」を反証していく

小池和男『日本産業社会の「神話」――経済自虐史観をただす』(日本経済新聞出版社)


「経済自虐史観をただす」というサブタイトルは、やや大仰で、内容を正確には表していないように感じられるが、本書の主眼は、日本経済に対する通念を、信頼性の高いデータに基づいて反証していくことにある。

本書で取り上げられている通念とは、日本は集団主義である、日本人は会社が好き、年功賃金は日本的な制度である、日本人は長時間労働である、日本は企業別組合である、日本の経済発展は政府のおかげである、というもの。

それぞれの反証については、各章で読んでもらうとして、私が興味深かったのは、明治から昭和にかけて世界的に発展した日本の紡績業のくだりで、日本経済が発展できたのは政府のおかげという通念に反論している。

《日本経済のテイクオフを断然リードした紡績業をみれば、明らかに事態は異なる。なるほど国営工場や大藩の工場からスタートし、お雇い外国人に頼ったことも事実である。だが、そうした工場はすべて失敗し消えさった。成功した企業はいまの東洋紡であり、生粋の民間企業、日本人が技術者トップであった。当時最新鋭の機械を用い、そのうえ他国にみられない職場の工夫を講じて英米に追いつき追い越していったのであった》(p.2)

このほかにも、日本人とイギリス人の働き方について、筆者の海外での生活体験を踏まえた考察もあり(内容はやや古いのが難点だが)、とても面白く読むことができる。

[目次]
第1章 激しい個人間競争
第2章 日本の働く人は会社が好きか―意識調査の国際比較
第3章 「年功賃金」は日本の社会文化の産物か―戦前日本の軍のサラリー
第4章 日本は長く働くことで競争力を保ってきたか
第5章 日本は企業別組合か
第6章 政府のお陰か―綿紡績業の展開
終章 己を知る難しさ―「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」

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2010.01.01

▽カルロス・ゴーンと鈴木修の直感のすごさ

日本経済新聞社編『大収縮 検証・グローバル危機』(日本経済新聞社)


本書は、2009年4月から9月にかけて日本経済新聞に連載された「大収縮~検証・グローバル危機」をまとめたもの。紙面に掲載された記事に加えて、割愛されたインタビューも収録されている。特に目新しい情報や裏話と言えるものは無いのですが、興味深かったのは、日産自動車社長のカルロス・ゴーンと、スズキ会長の鈴木修のインタビュー。

カルロス・ゴーン社長のインタビュー(pp.50-54)によると、「初めにおかしいと思ったのは2008年初めだった」。米国の住宅着工件数の減速や新車販売の鈍化に気づいて、2008年2月に米国で早期退職を実施。2008年6月には欧州で消費者信頼感指数が落ち始めたため、新規採用を凍結し、在庫も減らしたという。その3ヶ月後にリーマンショックは起きた。

一方、鈴木修会長のインタビュー(pp.86-88)によると、「リーマンショックの1年前の2007年秋、『何かおかしい』と感じて、在庫減らしを全社に命じた」。2008年4月からは、輸出用のクルマの船積みに会長決裁が必要とし、在庫の圧縮を図った。その結果、在庫は2008年9月までに3000億円と、1年間で1000億円圧縮できた。

この2人の直感は、やはりすごいと言わざるをえませんね。この二社と対照的なのは、トヨタで、リーマンショックの直前の段階でも北米で新工場の建設をすすめていました。

しかし、経済学者のスティグリッツ教授は、2005年春の時点で、「米国人の借金は貿易赤字でみて1営業日あたり30億ドル(3000億円)。こんな経済が長続きするとは思えない」(p.78)と語っています。まあ、この後も、リーマン・ショックまでの3年半もの間、アメリカの過剰消費バブルは続いてしまったわけですが……。

[目次]
1章 リーマン破綻「9・15」の衝撃
2章 当局の闘い
3章 GEの苦闘
4章 危機はいつから
5章 リーマン破綻から1年

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▽なぜ自民党は大敗したのか?――曲解された世論を読み解く

菅原琢『世論の曲解―なぜ自民党は大敗したのか』(光文社新書)


自民党の小泉政権の跡を継いだ安倍、福田、麻生政権に吹いた逆風を、「小泉構造改革路線」への批判によるものと、マスメディアの多くは説明してきました。しかし、私は、むしろ「安倍首相が構造改革を推し進めなかったことに原因があるのではないか?」と感じていたのですが、それを、本書が実証してくれました。

《郵政選挙をひとつのピークとした小泉政権は、それまで自民党を支持してこなかったような人々、都市部の若年・中年層を取り込むことで、一定の支持を獲得し、これを基盤に政権を維持することに成功した。しかし、これを引き継いだ安倍政権は、郵政造反組の復党に代表されるような「反動的」な姿勢を見せ、イデオロギー路線を追求したために、小泉時代に獲得した改革を支持するこれらの層に見放されることとなった》(pp.115-116)

しかし、2007年参院選で敗北した自民党は、小泉路線からの修正を図ろうとして、返って自滅の道を歩んでしまい、2009年衆院選での大敗・下野へと至ります。

本書では、このほか、麻生人気はメディアによってつくられたものである、2009年衆院選の民主党の圧勝は、自民党の退潮だけでなく、国民党・社民党などとの選挙協力や共産党が候補者を無理して立てなかったことなどによるものである、と指摘しています。マスメディアによって流布される曲解された世論を、重厚なデータの分析を通じて読み解いていきます。

[目次]
はじめに
第1章 寝た子を起こした?―2005年総選挙・郵政解散の意味
 コラム1 新しい投票者と新しい選択肢―30代首長流行の背景にある現職苦戦の選挙構造
第2章 逆小泉効果神話―曲解される2007年参院選の「民意」
第3章 逆コースを辿る自民党―安倍政権はなぜ見限られたのか
第4章 「麻生人気」の謎―2007年総裁選・迷走の構図
 コラム2 年代別選挙区制は若者を救うか?
第5章 作られた人気―「次の首相」調査の意味
 コラム3 内閣改造は内閣支持率を浮揚させるのか?―質問文「改造」効果説
第6章 世論とネット「世論」―曲解が生まれる過程
 コラム4 若者は左傾化しているのか?―憲法意識調査に見る回答の曖昧さと柔軟さ
第7章 「振り子」は戻らない―2009年総選挙・自民党惨敗の表層と底流
終章 自民党大敗の教訓―世論の曲解を繰り返さないために
巻末資料
あとがき

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