« 2010年12月 | トップページ | 2011年2月 »

2011年1月

2011.01.31

▽逆転の世界史

フェリペ・フェルナンデス‐アルメスト『1492 コロンブス 逆転の世界史』(関口篤、青土社)


《思うに、筆者が専門とする研究分野での私の生涯で起きた最大の変化は、私たち歴史家が出来事の起源を長い期間にわたって探るという営為を、多かれ少なかれ放棄したという事実である》(p.383)

最近、スペインが経済危機に陥り、失業率も20%を超えるなど、大変な状況に陥っていることが報じられています。

しかし、本書を見かけて、「そういえばスペインは世界に覇を唱えていた時期もあったよなあ」と思い、手にとってみました。

著者によると、紙と印刷による情報の伝達、火薬を使った兵器、石炭を使った溶鉱炉、紙幣、科学的経験主義などは(つまり、情報通信、軍事、工業、金融、科学など)は、すべて中国に起源があるとされています。

しかし、これらの要素を結びつけて世界的なイニシアチブをとったのは、キリスト教ヨーロッパであり、その転換点は1492年のコロンブスによる、アメリカ大陸の発見だった、としています。

本書は、1492年の世界はどのような状態にあったのかを、地域別に見ていくという画期的な歴史書です。当時の日本はといえば、室町時代の末期、戦国時代の幕開けの時期で、北条早雲が小田原攻略をした段階です。

世界的には取り残されていた感はありますが、むしろ、この時期に、「発見」されなかったことは幸いだったのかもしれません。

ところで、ちょっと雑学読み物風で、ややまとまりにかける嫌いのある本書から、あえて何かの教訓を学び取るとしたら、さまざまな要素を効率よく結びつけることができたならば勝ち残れる、ということかもしれません。

|

2011.01.28

▽ケネディを殺した副大統領

バー・マクラレン『ケネディを殺した副大統領』(赤根洋子訳、文藝春秋)

歴史ミステリーといえば、1963年にアメリカで起きたケネディ大統領の暗殺も、大きな謎を残しています。

ミステリー小説を読む上でのセオリーの一つに、誰が得をしたかを考えれば、おのずと犯人はわかる、というものがあります。そして、ケネディ大統領の暗殺で得をしたのは誰かと言えば、選挙を経ずして大統領となった、ジョンソン副大統領の名前が挙がります。

本書は、ジョンソン副大統領がケネディ大統領暗殺の黒幕であった、との立場にたって、それを論証していきます。

訳者あとがきによると、アメリカ国内においては、ジョンソン関与説自体は珍しいものではないそうですが、それは「事前に知っていた」程度のこととされていました。

しかし、本書の著者バー・マクラレンは、ジョンソン副大統領の顧問弁護士の一人であり、政治家としてのジョンソンの悪辣な相貌とともに、ケネディ暗殺の真実を明らかにしていきます。

ジョンソン黒幕説の真偽はさておいても、ジョンソン副大統領という地味な存在が体現するアメリカ政治の裏側は興味深いものがあります。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.01.27

▽『東洲斎写楽はもういない』

明石散人『東洲斎写楽はもういない』(講談社)

本書は、歴史上のミステリーの一つ、浮世絵師の写楽の正体は誰か? に迫っている。

本書は、1990年に出版され、文庫化されたものに、図表などを増補して、2010年末に再刊行されたものである。

『写楽殺人事件』で知られる作家の高橋克彦が、本書の解説を書いているが、写楽の正体については、三つの解答群があるという。一つ目は、写楽別人説。写楽は、別の絵師のペンネームであり、高橋の秋田蘭画説もこの範疇に入る。二つ目は、写楽工房説で、複数の絵師が共同で写楽として浮世絵を描いていたという説。

そして三つ目が、写楽イコール写楽説。これは、写楽は写楽以外の何者でもない、という立場で、写楽の人となりにはあまり関心を払わない。

以上の三つの説は、いずれも写楽は、基礎資料には残されていない誰かであろう、という前提に立っている。 しかし、本書の著者である明石散人は、これらとは異なる立場をとっている。

《明石さんは写楽を他のだれかであるとは書いていない。もちろん、何人かが集まったプロダクションでもない。基礎資料に書かれてあるままの斎藤十郎兵衛が写楽だったと主張している。》(p.387)

そして、高橋は「もはや写楽探しゲームは終了した」(p.389)と宣言する。

なるほど、これは凄い本に違いないと読み進めていたのですが、どうも、著者である「明石散人」と名乗るY氏とは別に、文章の書き手としての「私」が登場するなど、本書も、ミステリー仕立てになっていて、実は、解説も含めて、読者を、煙に巻くお遊びなんじゃないかとすら思えてきます……。

ま、日本史ミステリーは奥が深すぎて、私には、本書の説の真偽ははかりかねるというのが正直なところです。

|

2011.01.26

▽『モグラびと ニューヨーク地下生活者たち』

ジェニファー・トス『モグラびと ニューヨーク地下生活者たち』(渡辺葉訳、集英社)

「モグラびと」とは、ニューヨークの地下にある、使われなくなった地下鉄の駅やトンネルなどに住む人たちのことです。ニューヨークの地下には5000人もの「モグラびと」がいると推計されています。

本書は、ジェニファー・トスという女性ジャーナリストが1993年に発表したもので、日本では、1997年に邦訳が出版されました。

どうもニューヨークでは1980年代から「モグラびと」が増えつつあったようで、本書は、その事実を白日のもとにさらしました。情報は、ちょっと古いですが、「モグラびと」の驚愕の生態が明らかになり、いろいろと考えさせられます。

実は最近アマゾンのノンフィクション・ランキングを見ていたら、どういう訳か本書がランキング上位に入ってるのに気がついたので紹介しておきます。お薦め。

|

2011.01.25

▽ビートルズ都市論

福屋利信『ビートルズ都市論―リヴァプール、ハンブルグ、ロンドン、東京』(幻冬舎新書)

リヴァプールで生まれ、ハンブルグでバンドとしての経験を積み、ロンドンでレコード・デビューしたビートルズの、それぞれの都市との関係をメンバーの証言などをもとに考察したもの。

なかでも、もっとも興味深かったのは、第三章で考察されているロンドンとの関わり。ジョン・レノンは、「僕たち北部人は南部、すなわちロンドンの人たちからはアニマルと見下されていたんだ。」(p.143)と、また、ジョージ・ハリスンは「駆け出しの頃、ロンドンのバンドからさんざん言われたよ。ウォトフォードから10キロ北はすべてクズだって。」(p.144)と語っている。

ロンドンでのビートルズは、プライベートにおいても、音楽というビジネスにおいても大きな変化を経験した。

《ロンドンで、グループとしてのビートルズは、階層の壁を越えてとてつもない社会的成功を手にしたが、個人生活では階層の壁に跳ね返され、かけがえのない大切な部分を失いもした》(p.197)

第四章は、日本の読者を意識してか「ビートルズと東京」となっているものの、「ビートルズとアメリカの都市」が無いのはやはりおかしい。

[参考]
▽シビックプライド――ヨーロッパにおけるケーススタディ
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/12/post-d65f.html

|

2011.01.24

▽エンパイア――横井秀樹のその後

ミッチェル・パーセル『エンパイア』(実川元子訳、文藝春秋)

エンパイア・ステート・ビルと言えば、1933年の映画『キング・コング』にも登場するアメリカを象徴する摩天楼の一つ。

そして、そのエンパイア・ステート・ビルを買収したのが、日本人の横井秀樹だったということはあまり知られていない。

横井秀樹といえば、1982年に発生したホテル・ニュージャパンの火災で、33人の死者を出したことで、ホテルのオーナーとしての責任を国会で追及された。

その後、横井は、業務上過失致死傷罪で逮捕・起訴された。一審で有罪判決が下された後、横井は自分の資産を海外に移すことを考え始めていた。そして、エンパイア・ステート・ビルが売りに出されていたことを知ると、密かにそれを購入した。1991年のことである。

艶福家としても知られる横井には、「十七人かそれ以上」の子供がいた。そして、1993年に最高裁で実刑判決が確定し、1994年に収監されると、エンパイア・ステート・ビルの所有権を巡って、その子供たちの間で、骨肉の争いが繰り広げられた。

本書は、その顛末をアメリカ人ジャーナリストのミッチェル・パーセルが取材したものでエンパイア・ステート・ビルの歴史書、横井秀樹の伝記としても読める。原著は2001年に、邦訳は2002年に出版されている。

意外なところで意外な日本人が活躍(?)していたことを知ることのできる貴重な一冊である。

[参考]▽『9・11の標的をつくった男』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/10/911-fa72.html

|

2011.01.23

▽リーマン・ショックへと至る道――世紀の空売り

マイケル・ルイス『世紀の空売り』(東江一紀訳、文藝春秋)

本書で描かれているのは、2007年8月のサブプライム・ショック、2008年9月に起きたリーマン・ショックを予見して、大金をせしめた人たちのストーリーである。

タイトルの「世紀の空売り」は、原題の"The Big Short"を訳したものだが、なんだか株の空売りをイメージさせてしまい、適切ではないのかもしれない。彼らが、ショート、つまり売りポジションを持ったのは、アメリカの金融システムそのものだったのだから。

本書に登場する人物を紹介しよう。

まず著者のマイケル・ルイスは、1980年代後半に投資銀行に働き、その後、ジャーナリストに転進した。銀行員の時の体験を書いた『ライアーズ・ポーカー』は、世界的なベストセラーになった。そして、ライアーズ・ポーカーにおいては、その頃始まった住宅ローンの証券化が描かれており、これが本書の主役でもあるサブプライム・ローン債への伏線にもなっている。

次に、スティーヴ・アイズマン。証券会社のアナリストとして1997年にサブプライム・ローン会社に批判的なレポートを公開した。その後、独立して投資ファンドを設立したアイズマンは、2005年に大手の投資銀行がサブプライム・ローンの泥沼にはまり込んでいることに気づき、これを「ショート(空売り)」することを思いつく。

続いて、投資家のマイケル・バーリ。サブプライム・ローンの証券化商品の投資目録を読み込んでいくうちに、2005年に融資されたサブプライム・ローンは、2007年に破綻する可能性が高いことを予見する。そして、バーリは、サブプライム・ローンが破綻した場合の損失を補償してくれるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を買い始める。

そして、グレッグ・リップマン。ドイツ銀行でCDSの販売をしていたリップマンは、2005年11月に、サブプライム・モーゲージ債のCDSを所有するギャンブルに賭けたい、という気持ちが浮かんできた。

そして――。

彼らが予見してきた通りのことが2008年9月に起きた。

『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』の序章として読むと非常に面白いでしょう。

[参考]
サブプライムローン問題は、今のところ、それほど大騒ぎする必要はないんじゃないか、と私が考える理由
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2007/09/post-eca6.html
▽『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/10/post-a65f.html
「大恐慌」を覚悟したほうがいい……のかも
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2009/09/post-d5fe.html
▽アメリカ人はいかにして嘘つきになりしか?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/01/post-d711.html
▽オバマ・ショックとは何か?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/10/post-a9ac.html

|

2011.01.21

▽ワシントンハイツ――アメリカ人と日本人が遭った時

秋尾沙戸子『ワシントンハイツ―GHQが東京に刻んだ戦後』(新潮社)

ワシントンハイツ( Wshington Hights )とは、第二次大戦後に日本を占領した米軍兵士たちのために、GHQの命令によって東京・代々木に作られた住宅群のことである。

ちょうど渋谷、原宿、代々木公園、参宮橋の4つの駅で囲まれる菱形の広大な土地で、明治神宮に隣接している。ワシントンハイツができる前は、日本軍の「代々木練兵場」であったが、終戦後は、そのまま米軍のための居住地に転用された。

そして、昭和三十九年に開催された東京オリンピックの選手村が建設されるのを機に、ワシントンハイツは日本に全面返還されて、現在は、代々木公園、国立代々木競技場、NHKとなっている。

本書は、第二次大戦末期から、ワシントンハイツ返還までの代々木周辺の人々の生活を中心に叙述したもので、日米の文化比較論としても読める。

一つ一つのエピソードは、とても興味深く、意外な事実も掘り起こされていて面白いのだが、ちょっと残念なのは、大枠のストーリー、つまりテーマに当たるものが浮かび上がってこない点かもしれない。

[目次]
帝国アメリカの残像
青山表参道の地獄絵図
ある建築家の功罪と苦悩
「ミズーリ」の屈辱
乗っ取られた代々木原宿
オキュパイド・ジャパン
かくて女性たちの視線を
GHQデザインブランチ
まずは娯楽ありき
有閑マダムの退屈な日々
尋問か協力か
GHQのクリスマス
立ち上がる市民たち
諜報部員「ニセイ・リンギスト」
アイドルの誕生
瓦解したアメリカ帝国
そして軍用ヘリは舞い降りる
視界から消えた「占領」
あとがき

|

2011.01.19

▽フェイスブックの本質とは

デビッド・カークパトリック『フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)』(日経BP社)

最近いろいろなところでフェイスブックが話題になっています。いまいちどういうものかわからないので、本書を読んでみました。

まあ、本書については、すでに、いろいろなところで話題になっていますが、フェイスブックの立ち上げから拡大・発展の節目節目の出来事や、それにどう考え、対処していったかが詳述されています。フェイスブックというサービスや、フェイスブックという会社、そして、創立者のザッカーバーグに関心のある方は読んでみて損は無いと思います。

ところで、フェイスブックとはなんぞやという問いに、ヒントを与えてくれた部分があります。2006年9月に、「ニュースフィード」というサービスがフェイスブックに加わりました。

《今まで自分に関する情報を誰かに伝えたい時には、自らプロセスを始める、すなわち電話をかけたり、手紙やメールを送ったり、あるいはインスタントメッセージを使って会話するなど、相手に何かを「送る」必要があった。
 ところがニュースフィードはこのプロセスを逆転させた。誰かに自分に関する通知を送る代わりに、フェイスブックで自分について何かを書くだけで、その情報に興味を持ちそうな友だち宛にフェイスブックが送ってくれる。誰に送るかは、過去に相手が何に興味を持ったかに基づいてフェイスブックが計算する。》(p.281)

この「ニュースフィード」というサービスは、勝手に友達に自分の情報が拡散されてしまうこともあって、スタート当初は、ユーザーからの反発にあってしまいます。しかし、「ニュースフィード」のスタート前とスタート後を比べると、開始後にはフェイスブックへのアクセス時間が急増したこともあって、多少の微調整を行いましたが、「ニュースフィード」はそのまま継続され、いまでは人気のサービスとなっています。

メディア論的には、何かを「送る」から、「フェイスブックが送ってくれる」への変化がポイントとなるのでしょうが、私はむしろ、引用部の最後の「誰に送るかは、過去に相手が何に興味を持ったかに基づいてフェイスブックが計算する。」が引っかかります。

要するに、誰かのニュースフィードが自分の所に届いても、それがその人の情報のすべてではないかもしれない、という飢餓感や、情報の不完全性が、逆に、誰かに対する関心をより大きくかき立てる結果につながっているのではないか、と思います。

これはフェイスブックというよりも、インターネットが持ってる本質的なものなのかもしれませんね。

[参考]▽『小説家という職業』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/07/post-b8f1.html

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.01.15

▽パチンコとアニメの微妙な関係――パチンコがアニメだらけになった理由

安藤健二『パチンコがアニメだらけになった理由(わけ)』 (洋泉社)

著者の安藤健二は、封印された漫画やアニメの謎に迫った「封印作品の謎」シリーズで、その名を知られる、サブカル問題の第一人者。今回は、パチンコとアニメの微妙な関係に切り込んだ。

そもそも、パチンコにアニメが使われるようになったのは、2004年に「新世紀エヴァンゲリオン」を使用したパチンコ台が大ヒットしたことが、きっかけという。

普通に考えれば、アニメの起用によって、アニメ・ファンをパチンコに呼び込もうとしたマーケティング戦略の勝利と結論づけられるところだが、実際にエヴァンゲリオンのファンが、新たなパチンカーになった比率はきわめて低いという。

パチンコ台メーカーにしても、突然確変という新機軸を表現する上で、エヴァンゲリオンというアニメが使いやすかっただけという。しかし、このエヴァンゲリオン台のヒットが、パチンコ業界、アニメ業界の双方に、新たな化学変化を引き起こす。

秘密の壁に囲まれたパチンコ業界の高い壁の向こう側をかいま見せてくれる、優れたルポである。

[参考]
▽『なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/01/post-ee98.html
▽タイのウルトラマンの憂鬱
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/01/post-f92c.html

[目次]
第零章 読者の皆様へ
第一章 『エヴァ』の意外なヒット理由
第二章 『アクエリオン』の謎
第三章 タイアップのミステリー
第四章 閉鎖的なパチンコ業界
第五章 タイヨーエレックとサンセイR&Dに聞く
第六章 パチンコ業界がアニメを欲しがる理由
第七章 タイアップ全盛時代を生んだCR機
第八章 高騰するタイアップ物の弊害
第九章 アニメ製作会社「ジーベック」に聞く
第十章 アニメを救うパチンコマネー
第十一章 タブー視されるパチンコ化
第十二章 最終回答~オタク向けアニメがパチンコになる本当の理由

|

2011.01.07

▽『累犯障害者』

山本譲司『累犯障害者』 (新潮文庫)

著者によれば、タイトルの「累犯障害者」とは、「次から次に犯罪に結びついてしまう障害者たち」(p.238)を意味する造語という。

政策秘書の給料の流用事件で実刑判決を受けた元国会議員である著者が、彼らに出会ったのは、刑務所の中である。そして、出所を目前にした受刑者の「俺ね、これまで生きてきたなかで、ここが一番暮らしやすかったと思ってるんだよ」(p.11)という言葉に衝撃を受ける。

出所後の著者は、障害者福祉施設の支援スタッフをするかたわら、累犯障害者の周辺を、訪ね歩いている。それは、あたかも著者自身の贖罪の旅のようでもある。

本書に登場するのは、刑務所に戻りたいからとJR下関駅に火をつけた老人、浅草で女子短大生を刺殺したレッサーパンダ帽の男、障害者を食い物にするヤクザ、売春する女性の障害者たち、不倫殺人事件を起こしたろうあ者、群馬で女性監禁致死事件を起こした知的障害者の一家などである。

《このように、彼らの消息を訪ねるなか、触法障害者を取り巻く世の中の現実が、かなり見えてきた。かろうじて再犯者になることを免れている者も、「路上生活者」、「ヤクザの三下」、「閉鎖病棟への入院」、そして「自殺者」や「変死者」になっていたりと、それは、あまりにも切ない現実の数々だった。
 ――福祉は、一体何をやってるんだ。
 すべての福祉関係者に向かって、そう叫びたくなる。もちろんそれは、私自身に対してもだ。》(p.221)

重い一冊である。

|

2011.01.06

▽『逸脱する医療ビジネス』

NHK取材班『NHK追跡!AtoZ "逸脱する病院ビジネス" 』(宝島社)

本書で描かれているのは、日本の医療ビジネスの闇の部分。NHKの「追跡!AtoZ」や「クローズアップ現代」などの報道番組のために、主に大阪と奈良で取材された内容がベースとなっている。

生活保護を受けているホームレスを入院させて必要のない手術を行い診療報酬をせしめる病院、ホームレスを病院間でやりとりする「行路病院ネットワーク」、ドヤ街や公園からホームレスを連れてくる「乞取りバス」、病院の乗っ取りに暗躍する闇の組織、診療報酬の拡大解釈の仕方を指南する医療コンサルタント、要介護の老人を集めた「寝たきり高齢者専用アパート」など、日本の医療ビジネスの暗部を浮かび上がらせている。取材時の苦労や苦悩も綴られており、迫真のドキュメンタリーに仕上がっている。

ところで、なぜ、多くの病院が、本書で描かれているような闇のビジネスに手を染めるようになったのか? それは、小泉政権下で行われた診療報酬の引き下げにあったという。

《診療報酬は、高度成長期以後引き上げが続いていたが、国の財政事情が厳しさを増し、2002年以来、2年に一度の改定のたびに、診療報酬の切り下げが続いた。……単純に足し合わせても8%近く、診療報酬が削減されたことになる。
 これは01年から06年までの、小泉首相の任期と重なる。自民党内の政治力学ではなく、国民の圧倒的人気を背景に首班指名され、構造改革を訴えて「痛み」を国民に求めた結果だ。》(p.235-236)

こうした事情をみると、小泉構造改革が諸悪の根源のようにも思えてくる。しかし、その一方で、国民医療費の総額は、1998年に29兆円だったのが、2008年には34兆円と18%も増えている。むしろ、適当に経営していても儲かった時代を忘れられずにいる病院の経営者にも問題があるのではないかと思われる。

[目次]
まえがき
第1章 闇の病院 医者が手を染めた貧困ビジネス
第2章 行路病院ネットワーク 病院間でトレードされる生活保護患者
第3章 コトリバス 反社会的勢力の餌食になる病院と“患者”
第4章 乗っ取られる病院 経営を裏で支配する闇のM&A人脈
第5章 病院ビジネスのグレーゾーン 儲けの手口を指南する医療コンサルタントの暗躍
第6章 食い物にされる老人介護 医療の外にも広がるグレーゾーンの“錬金術”
第7章 医療崩壊に処方箋はあるか? 不正な診療、不適切な診療報酬請求を防ぐにはあとがき

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011.01.05

▽中野坂上の雲――『キッドのもと』

浅草キッド『キッドのもと』(Gakken)

本書は、ビートたけしの弟子である漫才コンビ「浅草キッド」の水道橋博士と玉袋筋太郎が、「GetNavi」という雑誌に2007年から2010年にかけて連載していたコラムをまとめたもの。二人が、それぞれに自分の生い立ちから、ビートたけしに弟子入りした経緯、フランス座での修業時代、漫才師として独り立ちしてから、プライベートなどについて語っている。

水道橋博士は、漫才師として独り立ちする前に、ビートたけしの弟子のダンカンの付き人をしていた時期もあった。

《ダンカンさんの家があった中野坂上へと向かう日々、芸人志願の自分が、まだ何者でもないという自覚を持ちながら、道にしがみついてでも、その坂を必死でよじ登ろうとしていた。
 まさに、あの時代は、ボクの「中野坂上の雲」だ。
 青梅街道の先にむくむくと湧き上がる青雲を見つめながら、自分が目指す「芸人」とは何か、その正体が全くわからないまま、ただひたすら、あの雲を追いかけていた。》(p.115-116)

となかなか読ませる記述が随所に出てくる。また、水道橋博士のパートと、玉袋筋太郎のパートが交互に出てきて、同じ話題でも、それぞれの視点から微妙に異なる感想が綴られていて興味深い。

ただ、左ページの下角にコラムのタイトルと筆者名が記載されているだけで、読み進めているうちに、どっちが書いたコラムなのかがわからなくなってしまうので読みづらい。せめて、書き手によって書体をかえるなり、イラストやデザインなどで一見してどっちが書いたコラムなのかわからせるような工夫が欲しかった。

[目次]
●第1章 「少年時代」のもと
水道橋博士 倉敷キッド / 20世紀少年 / ゴキブリホイホイ
玉袋筋太郎 新宿キッド / マスター / あんちゃん

●第2章 「浅草キッド」のもと
水道橋博士 フランス留学 / 名付け親 / 鬼軍曹 / 職業・漫才師
玉袋筋太郎 マイ・ネーム・イズ / フランス座にいた、或る男 / 芸人免許交付 / タッグチーム

●第3章 「芸」のもと
水道橋博士 裸がユニフォーム / ルポライター芸人 / ラジオ・デイズ
玉袋筋太郎 パワースポット / 玉袋筋太郎の「異常な健康」 / つながり

●第4章 「家族」のもと
水道橋博士 同居人 / キッド / 浮気童貞 / 父親
玉袋筋太郎 もうひとつのコンビの物語 / 親子馬鹿 / 空っぽの部屋 / オヤジへのラブレター

|

2011.01.01

▽『なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか』

若宮健『なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか』(祥伝社新書)

本書で、まず気になることは、韓国のパチンコとは、いったいどういうものなのか? ということでしょう。本書の第一章に解説があります。

・韓国のパチンコは「メダルチギ」という
・日本のパチンコ台を輸入して使う
・釘は全部根本から切ってある
・盤面と液晶はそのまま
・玉は使わない
・メダルを中央の皿に流し込む
・液晶は常時回っている
・大当たりすると商品券が出てくる
・これを店外の交換所で換金してもらう(三点方式)

……この説明だけでは、よくわかりません。

ウェブで、いろいろと調べてみると、メダルチギでは、パチンコ台の「スタートチャッカー」と呼ばれる大当たりにつながる入賞口に、ほぼすべてのメダルが入るため、その後の、メインデジタルのフィーバーを狙うスロット・マシーンのようなもののようです。つまり、日本のパチンコよりも、ずっと射幸性が高いということが推測できます。

このメダルチギは、韓国では2000年頃から流行始めて、最盛期には店舗数が1万5000店を超えたそうです。ところが、許認可に絡む不正や借金苦による自殺など社会問題化したため、2006年に違法とされて、パチンコ店は全廃されたそうです。

ところが日本では、このニュースがまったく報じられなかったことに驚いた著者は、韓国のメダルチギと比較しつつ、日本のパチンコ業界と、それを取り巻く環境を考察していきます。

ただ、韓国においてはメダルチギというギャンブルは、6年という浅い歴史しかないのに対して、日本のパチンコは、庶民の生活に根を下ろした長い歴史を持つギャンブルなので、簡単には比較できない部分はあるのかもしれませんね。

ただ、日本のパチンコは全廃はともかくとして、射幸性が高すぎる台は規制した方が良いとは思います。

[目次]
1章 なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか
2章 なぜパチンコは、廃止されねばならないのか
3章 なぜ日本は、パチンコを廃止できないのか

|

« 2010年12月 | トップページ | 2011年2月 »