2011.01.06

▽『逸脱する医療ビジネス』

NHK取材班『NHK追跡!AtoZ "逸脱する病院ビジネス" 』(宝島社)

本書で描かれているのは、日本の医療ビジネスの闇の部分。NHKの「追跡!AtoZ」や「クローズアップ現代」などの報道番組のために、主に大阪と奈良で取材された内容がベースとなっている。

生活保護を受けているホームレスを入院させて必要のない手術を行い診療報酬をせしめる病院、ホームレスを病院間でやりとりする「行路病院ネットワーク」、ドヤ街や公園からホームレスを連れてくる「乞取りバス」、病院の乗っ取りに暗躍する闇の組織、診療報酬の拡大解釈の仕方を指南する医療コンサルタント、要介護の老人を集めた「寝たきり高齢者専用アパート」など、日本の医療ビジネスの暗部を浮かび上がらせている。取材時の苦労や苦悩も綴られており、迫真のドキュメンタリーに仕上がっている。

ところで、なぜ、多くの病院が、本書で描かれているような闇のビジネスに手を染めるようになったのか? それは、小泉政権下で行われた診療報酬の引き下げにあったという。

《診療報酬は、高度成長期以後引き上げが続いていたが、国の財政事情が厳しさを増し、2002年以来、2年に一度の改定のたびに、診療報酬の切り下げが続いた。……単純に足し合わせても8%近く、診療報酬が削減されたことになる。
 これは01年から06年までの、小泉首相の任期と重なる。自民党内の政治力学ではなく、国民の圧倒的人気を背景に首班指名され、構造改革を訴えて「痛み」を国民に求めた結果だ。》(p.235-236)

こうした事情をみると、小泉構造改革が諸悪の根源のようにも思えてくる。しかし、その一方で、国民医療費の総額は、1998年に29兆円だったのが、2008年には34兆円と18%も増えている。むしろ、適当に経営していても儲かった時代を忘れられずにいる病院の経営者にも問題があるのではないかと思われる。

[目次]
まえがき
第1章 闇の病院 医者が手を染めた貧困ビジネス
第2章 行路病院ネットワーク 病院間でトレードされる生活保護患者
第3章 コトリバス 反社会的勢力の餌食になる病院と“患者”
第4章 乗っ取られる病院 経営を裏で支配する闇のM&A人脈
第5章 病院ビジネスのグレーゾーン 儲けの手口を指南する医療コンサルタントの暗躍
第6章 食い物にされる老人介護 医療の外にも広がるグレーゾーンの“錬金術”
第7章 医療崩壊に処方箋はあるか? 不正な診療、不適切な診療報酬請求を防ぐにはあとがき


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