2011.03.01

▽奥田英朗の『最悪』は、ホリエモンの『成金』と比べてみると面白い

奥田英朗『最悪』 (講談社文庫)

ずいぶんと前に買ったまま本棚の奥に眠っていた奥田英朗『最悪』をひょんなことから読み始めて、あることに気がついたので、書いてみます。

読んだのは文庫判だったのですが、『最悪』の単行本が上梓されたのが1999年ですから、小説の舞台は、まあ、バブル崩壊後の1990年代後半といったところ。

三人の登場人物が、それぞれ最悪の境遇に追い込まれていくところがストーリーの骨格をなしています。

ネタバレにならない程度に、三人を紹介すると、川谷信二郎は川崎で町工場を経営している40代の男、藤崎みどりは、川谷の住んでいる地区にある銀行の支店で窓口業務をしているOL。そして、無職のチンピラである野村和也。

川谷の経営する町工場は、大手メーカーのひ孫請けくらいの存在で、バブル崩壊後の不況の中で、さまざまな問題を抱えています。そんな中で、川谷は、少しだけ自分の会社を大きくしようという夢を持ったことから、逆に、歯車は悪い方へ悪い方へと回り始めます。

また、銀行につとめる藤崎みどりは、古くさい体質の残る銀行でトラブルを抱え、悩み、そして最悪の事態に巻き込まれてしまいます。

無職のチンピラについてはおいておきますが、上記の二人は、製造業と金融という、かつての日本における花形産業のまっただ中にいた二人なわけです。そして、その二人が、必ずしも本人の責任とはいえないようなトラブルに巻き込まれてしまいます。特に、川谷は、昔だったら町工場の経営者が普通に抱いたはずの夢が、つまづきのきっかけとなってしまいます。

しかも、トラブルの原因を作った人たちに、大きな罰が与えられて終わるというカタルシスもなく、主人公の三人も、最悪の事態は免れたかもしれないが、かといって、ハッピーエンドでもない、という煮え切らない結末を迎えます。

1999年に発売された本書が話題になり、ベストセラーになったことを知ると、これが当時の時代の気分だったのかなあ、と思わざるをえません。要するに、「もう坂の上の雲は無いから夢を見るな、だけど、そう簡単に最悪に陥ることも無いんだよ」といったような……。

ところで先日、当ブログでは、ホリエモンこと堀江貴文の『成金』を紹介しました。

▽『成金』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/02/post-cdea.html

この『成金』を、『最悪』と比較してみると、非常に面白い。

まず、『成金』も、1990年代後半が舞台で、主人公たちは、だまされて、自分たちの作った会社の経営権を失います。しかし、彼らは、そんなことにはへこたれず、自分たちをだました相手に対しては、きっちりと仕返しをしようとします。さらに、『成金』の主人公は、ITビジネスという「坂の上の雲」を見据えたところで終わります。

もちろん『成金』も小説ですが、1990年代後半から2000年頃のIT業界の時代の空気は、かなりうまく再現できていたと思います。『最悪』に漂うドンヨリとした気分と、『成金』に貫かれている爽快感の違いは、おそらくは描かれている業界、つまり製造業+銀行業とIT業界の違いとも言えます。

同じ日本の同じ時代を描いているのに、業界によって、ここまで感じ方が違うのかを味わえる好対照な二冊といえますね。


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