2011.03.09

▽あの名画はどうなった――『消えた名画を探して』

糸井恵『消えた名画を探して』(時事通信社)

以前、『バブルの肖像』という本を紹介しましたが、

▽バブルの肖像
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/02/post-c9a1.html

その中で、参考文献として紹介されていたのが本書です。

昭和の時代、日本経済の興隆とともに、海外の美術マーケットにもジャパン・マネーが流れ込むようになり、世界的にも注目を集めるようになりました。しかし、日本人や日本企業が買い集めた美術品は、バブルの崩壊とともに、人目につかなくなってしまいます。

たとえば、1990年に日本人が8250万ドルの史上最高値で落札した『医師ガシェの肖像』は、2000年にアメリカの複数の美術館で開催されたゴッホ展では展示されませんでした。

《いわくのついてしまった高価な美術品については、売り手も書い手も取引を秘密裏に運ぼうとする。晴れて手に入れた新しい所有者も、いつまでも「〇〇年に〇〇ドルを記録した作品」と言われるのを嫌って表に出したがらない。》(p.6)

本書は、そんな消えた名画がいまどこにあるかを探し求めるルポですが、日本経済の消長を絵画を切り口にして描いた優れた経済史となっています。

[目次]
はじめに
 ゴッホ「肖像画」展になかった絵
 アートの「失われた十年間」
第l章 歴史は繰り返す
 日本人コレクターの原点
 「松方コレクション」の成り立ち
 「松方コレクション」その後
第二章 日本の美術マーケット、「ひまわり」前後
 「ひまわり」が日本人を変えた
 「ひまわり」以前、日本のマーケットのしくみ
 美術マーケットの民主化始まる
 不動産に投資するように絵に投資する
第三章 ロンドン、そしてニューヨーク――オークションの世界
 美術品のオークションとは何か
 近代的なオークションヘ
 日本人と欧米のオークション
 「ひまわり」落札のかげで
第四章 日本人は美女を奪った醜い金持ちの老人か
 悲しみの花嫁
 史上初、日本とパリを結ぶ衛星中継オークション
 「ピエレットの婚礼」日本へ
 その値段
 新しい持ち主
 各地を巡る
 日本オートポリス、暗転
 「ピエレットの婚礼」はどこへ?
 「レイク」
 「千代田生命保険」によるオートポリス・コレクション処理
第五章 ガシェ医師の冒険
 憂鬱な顔の男
 ガシェ医師とはだれか
 「医師ガシェの肖像」
 世界一・史上最高の値段
 「医師ガシェの肖像」を買ったのはだれだ
 斉藤「棺桶発言」の波紋
 消えたガシェ医師
 ゴッホとガシェ医師の人気、衰えず
 「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」
第六章 バブルがはじけ、スキャンダルが残った――史上最大の美術犯罪
 バブルはじける
 イトマン事件とは何か
 イトマン絵画取引の背後にあったもの
 「絵画取引」の犯罪性
 「イトマン絵画」の行方
 一九九二年冬、ニューヨーク
 二〇〇〇年春、再びニューヨーク
第七章 ワイエス・コレクションはどこへ
 ワイエスの「レヴィン・コレクション」
 オークション以前
 「レヴィン・コレクション」、ニューヨークに帰る
第八章 会社が消え、銀行が消えて、絵も消えた
 あの画廊はどうなった?
 名古屋の名門ディーラーシップ
 ミロを「カローラ」になぞらえた男
 一兆円の男
 イ・アイ・イの失速と「高橋コレクション」
 長銀の終わり
 「名画まとめ買い」のアイチ
第九章 日本の「焼け残り品」バーゲンセール、大繁盛
 二〇〇一年春、見覚えのある絵が……
 「焼け残り品」バーゲンセール
 「塩漬け絵画」とは何か
 「もう待てない」、美術品が日本を出ていく
 還流、始まる
 ピカソの名品がまたひとつ……
 コンテンポラリーアートも、印象派も
 一九九七年に起きていたこと
 福岡からサンフランシスコへ
 日本を去る伝統美術
 「処分」できるもの、できないもの
第十章 アルバカーキの素朴な疑問
 ニューメキシコ州、アルバカーキ美術館
 「氷漬け」絵画で展覧会を
 「絶対に不可能だ」
 素朴な疑問
 来歴(画歴)の問題
第十一章 消えた名画を探して
 名画は蒸発したのか
 秋葉原のダリ、磐梯に現る
 オートポリス・コレクションから県立美術館へ
 お得意様は公立美術館
 意外なところに、意外な絵が
 政府、対策を講じる
 落ち着き先は国立博物館
 二十一世紀、東京都の実験始まる?
 買ったけれども家がない
 青森県の「アレコ」
 大阪の百五十億円コレクション
 公立美術館、予算なし
 私立美術館がつぶれ始めた
 アートをレンタル、名古屋ボストン美術館に行く
 美術館へ行こう
第十二章 インターネットで世界が変わる
 アート・マーケットのネット革命
 マーケットの「民主化」再び
第十三章 美術マーケットの新世紀
 世界の二大オークション会社、スキャンダルに揺れる
 オークション会社、手数料談合スキャンダルの意味
するもの
 一方、東京では
 日本と欧米、世代交代の波
おわりに
 みんな美術館が欲しかった
 「ひまわり」は日本に永住するか
 美術品流出は必然の「トレンド」
 アートの新しい態度
 これからの美術マーケット


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