2011.06.19

▽『「失敗学」事件簿』――あの失敗から何を学ぶか

畑村洋太郎『「失敗学」事件簿――あの失敗から何を学ぶか』(小学館)

福島第一原発の事故調査・検証委員会の委員長に就任した畑村洋太郎氏は、「失敗学」の提唱者としても知られています。畑村氏の「失敗学」の本をいくつか読んでみたのですが、「失敗学」の考え方についてではなく、具体的な事例が数多く紹介されていたのが、本書『「失敗学」事件簿』です。

本書は2006年に刊行されたものですから、それ以前に起きた事件しか紹介されていません。しかし、本書を読み進めるうちに、最近起きた災害や事故の多くは、起こるべくして起きたのかもしれない、と思ってしまいます。

いくつかを具体的にあげると、

震災直後にシステム・トラブルを起こしたみずほ銀行については、第2章「みずほはなぜ同じ愚を繰り返すのか」で、畑村氏は「この銀行はまた同じトラブルを起こす」(p.50)という感想を漏らしています。

また、第5章「東北の地震に学ぶ教訓」では、畑村氏が大学三年の時に釜石に海水浴に行った時の体験を記しています。

《海岸よりはるか高い所にある碑には、「ここまで津波が来て皆死んだ。ここより下に家を建てるな」と書かれていた。……このような大惨事の言い伝えや警告にもかかわらず、あちこちの入り江で海岸近くまで人家が下がってきている。》(p.140)

さらに、第2章「東京電力の原子力トラブル隠蔽事件」では、2002年に発覚した、東電の原子力トラブル隠蔽事件の対応について、次のように苦言を呈しています。

《私は東電首脳の総取り替えではなく、社会がその真面目な働きを預託している東電をリバイバルさせることの方が大事だと思う。犯人探しばかりで、現場の技術はいかにあるべきかの議論がほとんど聞かれないのは残念である。このままでは、原発事故の失敗が生かされることはないだろう。》(pp.76-77)

東日本大震災では、比較的揺れの小さかった千葉県の精油所で火災が発生しました。2003年頃にもコンビナートや工場で火災が続発しており(第4章「続発する火災・爆発事故の恐怖」)、その中には地震が原因の火災もありましたが、その教訓は活かされなかったようです。

一方、あれほどの揺れにもかかわらず、東北地方では走行中の27の新幹線が一つも脱線することなく停車しました。本書でも、2004年10月の新潟県中越沖地震で上越新幹線が脱線した事故に触れています。

この事故に対し、畑村氏は、JR東日本が「おこるべき事故」として万全な対策を取った上での脱線であり、「大成功だった」(p.17)と評価しています。畑村氏は、JR東日本は過去の失敗に学んできた、と指摘していますが、それが今回の脱線ゼロにつながった、と言えるでしょう。

[目次]
第1章 JRの脱線事故はなぜ起きたか
第2章 企業の組織構造が起こす「許されない失敗」
第3章 一度は通らねばならない「許される失敗」
第4章 大規模火災事故にみる教訓
第5章 災害・病気から学ぶ失敗学
第6章 失敗のメカニズム
第7章 事故を未然に防ぐために「動態保存」のすすめ


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