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2011年7月

2011.07.21

▽消されたテンノウ――『牛頭天王と蘇民将来伝説』

川村湊『牛頭天王と蘇民将来伝説――消された異神たち』(作品社)

いま「テンノウ」という言葉を聞けば、ほとんどの人は「天皇」を思い浮かべるでしょう。しかし、実際に地名として残っている「テンノウ」は、「天王洲」や「天王山」などの「天王」です。

そして、江戸時代までは、天皇のことは「内裏様」、「禁裏様」などと読んでいました。つまり、江戸時代までは、テンノウと言えば「天王」だったわけです。

では、そもそも、この天王は何を意味するのか、そして、この天王は、いつ、どのように、そして、なぜ消えていったのか? という謎に迫ったのが、本書『牛頭天王と蘇民将来伝説』です。

まず、「牛頭天王」の「牛頭」は「こず」と読みますが、文字通り、牛の頭をした神様で、これはチベット仏教の「大威徳明王」(ヴァジュラヴァイヴァラ)に由来する神様と言われています。つまり、外来の神様ということになります。

この「牛頭天王」は、いわゆる「記紀神話」、日本書紀や古事記など、日本の正統な歴史書とされているものには、まったく現れてこない神様です。

しかし、先ほどあげたように、「天王」を含んだ地名は、日本中の至る所にあり、この牛頭天王が日本各地で祭られてきたことは間違いありません。

しかし、明治の維新政府は、「王政復古」を宣言し、それまで、「禁裏様」や「内裏様」と呼ばれてきた「天皇」を、そのまま「テンノウ」と呼ばせることにしました。

《この時に「天王」は「天皇」の前に立ち塞がる目障りで、紛らわしい邪教・邪心の頭目のように、彼ら、神道家たちの目には映ったはずだ。》(p.129)

この時、「牛頭天王」を祭ってきた天王神社の多くは、「牛頭天王」は「スサノオノミコト」の化身であるという説を採用したため、日本中の天王神社から「牛頭天王」は消えてしまったそうです。

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2011.07.19

▽菅直人という男――山本譲司『獄窓記』より

山本譲治『獄窓記』(ぽぷら社)

《後部座席から、追い越しや車線変更など、いちいち細かい指示を出し始めたのだ。都心で車を走らせた経験のない私の運転は、危なっかしく映ったに違いない。そのうち、菅さんは、私の隣に移ってきた。しばらくは、助手席から、私への運転アドバイスを続けていたが、とうとう、自分がハンドルを握ると言い出してしまった。私は、すんなりと運転を代わった。……
 後日、同乗していた支援団体の幹部は、その時のことを振り返って言った。
「山本さんの運転よりも、菅さんの運転の方がよっぽど怖かったよ」》(p.21)

元衆議院議員の山本譲司は、2000年に政策秘書給与の流用事件が発覚して逮捕・起訴された。本書は、その事件の顛末を中心に、自身の政治家としての過去を振り返ったものである。

山本の政治との関わりは、社民連時代の菅直人の秘書としてスタートした。その後、都議会議員を経て、小選挙区に変更後の東京二十一区に民主党から出馬し当選。2000年6月には、二期目の当選を果たし、順風満帆のように思われた。しかし、過去に山本の秘書を務めていた人物から、マスコミや検察に告発がなされ、翌年、執行猶予のつかない実刑判決がくだされる。

山本によると、当時、政策秘書給料の流用は常態化していたというが、そのことについて、山本は口をつぐんだまま、獄につながれることになった。

そして、同じ件で、告発されたのが、当時、社民党の辻本清美であった。学生自体に山本と同じゼミに所属していた辻本は、山本の事件の悪質さを強調することで、自分の罪悪を弱める戦術をとったが、これが山本にとっては、虚偽の内容ばかりであったため、辻本に謝罪を求めることになる。

出所後の山本は、政治家を引退し、福祉関係の仕事をするとともに、本書や『累犯障害者』などを上梓し、ジャーナリストとしても活動している。

一方、現在、運転の荒い菅直人は総理大臣、また、辻本清美は、その補佐官をつとめている。

[参考]『累犯障害者』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/01/post-98fb.html

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2011.07.18

▽『市町村合併で「地名」を殺すな』――「さいたま市」は最低の地名だそうです

片岡正人『市町村合併で「地名」を殺すな』(洋泉社)

《「平成の大合併」によって誕生している新しい自治体名は、まさに現代日本の「知的レベル」をそのまま反映している。このままでは、日本は子供だましのテーマパークのような国になってしまう。》(p.2)

なんとも過激なタイトルの本書ですが、平成の大合併によってつくられた新地名の多くはおかしい、と指摘した上で、どう命名すべきだったか、の代替案まで提示するという念の入りようが素晴らしい。

この手の、何かに苦言を呈すタイプの本は、主張そのものには共感できても、読んでいくうちに、辟易してしまうことが多いのですが、本書の爆走ぶりは最後まで徹底していて、ある種の爽快感すらあります。

私自身も、平成の大合併という政策自体には賛成していますが、その過程で伝統のある地名が失われるのはどうなんだろう? と感じていました。同様のことを、イギリスから日本の自治体に派遣された女性が、投書というかたちで意見表明して、話題になったこともあったかと思います。

さて、本書の著者は、読売新聞の記者で、同紙の夕刊文化面に連載されたものがベースとなっています。著者は、つけてはいけない地名として、具体的な例をあげていきます。

・「さくら市」などの「カナ地名」。
・縁起の良いもの、イメージの良いものにあやかった「瑞祥地名」。たとえば「大和」や「瑞穂」。
・かつての「飛騨国」の一部が「飛騨市」を名乗るというように、ごく一部の地域に大きな地名を使う「僭称」。
・企業名や商品名のようなインパクトを狙った「CI地名」。「ゆとり」という言葉に引っかけた「湯陶里市」を候補に入れた自治体があった。
・著名人にあやかった「人名地名」。大リーグで活躍する松井にあやかって「松井市」や「ゴジラ市」が候補に挙がった。
・合併した自治体の名称の一部を組み合わせた「合成地名」。これは明治以来推奨されてきたこともあり、「国分寺」と「立川」の間だから「国立」、「大森」と「蒲田」を足した「大田区」など枚挙にいとまがない。

そして、著者によると、最低の新地名は、「さいたま市」だそうです。まず「カナ地名」であること、また、埼玉県という大きな地名をごく一部の地域に使っている「僭称」が該当します。さらに、

《もともと「埼玉」は「さきたま」と読み、現在の行田市に今も地名が残る「埼玉」が地名の発祥の地である。従って、市町村で「埼玉」「さいたま」「さきたま」を名乗れるのは、行田市しかないのだ。これは地名の盗用であり、断じて許されることではない。》(p.65)

というわけで、「さいたま市」は三つの誤りを犯した最低の新地名なのだそうです。

また、古い地名には、過去に地震などの災害があったことを示唆するものも多く、そうした実用的な面からも、安易な新地名の創出は避けるべき、とのことです。

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2011.07.17

▽『ユニコード戦記』

小林龍生『ユニコード戦記―文字符号の国際標準化バトル』(東京電機大学出版局)

そういえば、あれ、どうなったんだっけ? というような疑問はいくつもありますが、そのうちの一つが、ユニコードにおける漢字の処理の問題。

十年以上前ですが、次のような文章を書いたことがあります。

▽「ワープロと日本語」――日本語と漢字をめぐる悪戦苦闘
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/1994/10/post-f6a4.html
《中国、台湾、日本の漢字は同じ字でも微妙に形が異なるため、別々のコードをふらざるをえない。また、これまで使用してきた日本独自の漢字コードが使えなくなり、過去の文書データを使用するのに莫大なコストがかかってしまう。》

最近になって発行された、本書『ユニコード戦記』によると、ヴァリエーションセレクター(Variation Selector=VS)という「文字符号の後ろに字形を特定するための枝番号」を付け加えることで、この問題は解決されたそうです。

ただし、この提案がユニコード・コンソーシアムになされたのが1998年頃で、実際に採用されたのが実に2010年末のこと。

本書の著者は、小学館の編集者を経てジャストシステムに入社し、ユニコード・コンソーシアムのメンバーとして奮闘してきました。本書の内容は専門的過ぎて、読むのには少々骨が折れますが、著者と、著者とともにユニコード問題に携わってきた方々の努力には、心の底から敬意を表したいと思います。

[目次]
第1幕 序章
 第1章 参戦
  1 召集令状
  2 緒戦
  3 初戦果
  4 パックス・アメリカーナ
  5 出張の嵐
  6 ルビタグ縁起
  7 情報帝国主義
 第2章 戦友
  1 去りゆく古参兵
  2 バディ参戦
  3 最初の提案
  4 ルビ戦争勃発
  5 先任軍曹
  6 共同議長
 第3章 一九九五年ごろの文字コード
  1 コンピューターの発展と文字コード規格の変貌
  2 日本語情報処理の発展と国際符号化文字集合への蠕動
  3 そして、ぼくの前史

第2幕 国内戦線
 第4章 JIS X 0213と国際整合性
  1 重大ニュース
  2 やっかいな問題
  3 数々のすれちがい
  4 グローバル化への高い代償
 第5章 表外漢字字体表
  1 ユニコード批判の嵐
  2 白熱する議論
  3 深まる議論
  4 答申が残した課題
 第6章 JIS X 0213:2004
  1 表外漢字字体表とJIS漢字規格の整合
  2 残された課題
 第7章 カンバセーション
  1 ピックポケット
  2 ヒデキの激怒
  3 ヨーロッパ縦断一七時間の旅
  4 英会話は女子大で
  5 絶頂期のトレーニング

第3幕 国内戦線
 第8章 CICC活動
  1 ミャンマー文字 —希有な成功例—
  2 クメール問題 —外人部隊の跋扈—
  3 クメール問題 —前言撤回—
  4 CICCによる実証実験
 第9章 SC2議長
  1 SC2議長就任
  2 議長の息抜き
  3 ISO/IEC 14651 —英語とフランス語版の整合性—
  4 ミスターインビジブル
  5 SEIとマイノリティスクリプト
  5 SC2議長にできること
 第10章 ヒデキとぼくは何と戦ってきたか
  1 文字コードと自然言語との関係
  2 ユニコード批判の中心に位置するもの
  3 人名漢字のアポリア

第4幕 終章
 第11章 最後の戦い
  1 封印されたヴァリエーションセレクター
  2 ヴァリエーションセレクター、漢字適用への道
  3 汎用電子情報交換環境整備プログラムとIVS
  4 戦いの行方

あとがき
付録

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▽『アマゾン・コムの野望』――虚飾を剥いだ真の姿

脇英世『アマゾン・コムの野望―ジェフ・ベゾスの経営哲学』(東京電機大学出版局)

《ふとしたきっかけでアマゾン・コムについて書きはじめて驚いたことは、虚飾や伝説が非常に多いということである。ジェフ・ベゾス自身、意識的に誇張して伝説や神話をつくりあげようとしていたようである。》(p.302)

アマゾンの電子書籍端末キンドルや、電子書籍のダウンロード数に関する発表をみると、いつも「何か誇張されているのではないか?」と感じていたのですが、この東京電機大学の脇英世教授の指摘をみると、「やはり」と思わざるをえません。

本書は、株式目論見書や年次報告書、裁判や特許の資料など、出典が確実な資料をもとにして、ジェフ・ベゾスの生い立ちや、アマゾンの変遷を時系列に追跡しています。

『アマゾン・コムの野望』というタイトルの割には、たんたんと事実が綴られているだけなので、読み物としての迫力には、やや欠けるかもしれませんが、本書で描かれているのが、虚飾を剥いだアマゾンとジェフ・ベゾスの真の姿と言うことができると思います。

[参考]
▽『潜入ルポ アマゾン・ドットコム』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/12/post-41be.html
▽『Amazonランキングの謎を解く』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/amazon-4253.html

[目次]
第1章 ジェフ・ベゾスの神話
 1 アイゼンハワーとキューバ
 2 ケネディの失策
 3 鷹は飛び立った
 4 カソリック神父のペドロ・パン作戦
 5 ジェフ・ベゾスの家系
 6 ジェフ・ベゾスの誕生
 7 大好きなおじいさん、ローレンス・プレストン・ガイス
 8 先進研究計画局ARPA
 9 原子力委員会と核兵器製造
 10 ジェフ・ベゾスの幼年時代
 11 モンテッソーリ・プレスクール
 12 科学少年と宇宙への憧れ
 13 牧場レイジーGと宇宙旅行基地
 14 レイジーGとロングフェローランチ
 15 インフィニティキューブ
 16 フロリダのペンサコーラへ
 17 宇宙からコンピュータへの転進
 18 金融通信会社ファイテル
 19 バンカーズトラスト社への転進とハルゼイ・マイナーとの出会い
 20 D・E・ショウとの出会い
 21 アメリア島コンビニ襲撃事件

第2章 インターネット時代の幕開け
 1 革命児マーク・アンドリーセンの登場
 2 打ち上げ花火のようなネットスケープ
 3 ヤフーと二人の創業者
 4 ヤフーの設立から上場へ
 5 マイクロソフトのヤフー買収提案

第3章 シアトルへ一路爆走する男と女
 1 インターネットラッシュとデビッド・ショウの調査命令
 2 後悔を最小にするフレームワーク
 3 出発、西へ
 4 ガレージからの出発
 5 社員第一号、シェルダン・カファン
 6 社員第二号、さすらいのポール・デイビス
 7 開発のはじまり
 8 アマゾン・コムのビジネス哲学
 9 アマゾン・コムの経営戦略
 10 アマゾン・コムの本屋の特徴

第4章 アマゾン・コム、いよいよ営業開始
 1 足りない資金
 2 地元の個人投資家からの資金調達
 3 アン・ウィンブラッド
 4 ジョン・ドーア
 5 スコット・クックも役員に
 6 卓越したマーケティング戦略
 7 巨人マイクロソフトの接近
 8 司法省の独占禁止法訴訟
 9 株式市場による資金調達へ
 10 アマゾンの上場

第5章 アマゾン・コムの源流
 1 運用経験が浅い
 2 累積赤字の問題
 3 将来の歳入が予測できない
 4 四半期ごとの運用実績の潜在的な変動と季節性
 5 通信トラフィック容量の制限
 6 社内で開発したシステムに依存していること、システム開発のリスク
 7 システムの故障のリスク、単一のサイトと注文のインターフェイス
 8 潜在的な成長可能性、新しい管理チーム、経験豊富な上級管理者が限られている
 9 ジェフ・ベゾス個人への過剰な依存性
 10 オンライン・マーケットでの競争
 11 特定の卸業者への依存性

第6章 バーンズ&ノーブル・コムの栄光と悲惨
 1 バーンズ家と書店業
 2 ノーブル家と書店業
 3 バーンズ&ノーブルの成功
 4 レオナルド・リッジオ
 5 ショッピングモールへの展開
 6 スティーブ・リッジオが脚光を浴びる
 7 ベルテスマンAGのトーマス・ミドルホフ
 8 バーンズアンドノーブル・コムの衰退
 9 バーンズ&ノーブル・コムの敗北

第7章 ワンクリック特許 奇妙なビジネスモデル特許
 1 インターネットで注文するシステム
 2 26個のクレーム
 3 そもそも特許とは何だろう
 4 特許の底流となる基本的な考え方
 5 数字や物理の公式は特許にならない:GV訴訟
 6 数式だけでは特許にならない:PV訴訟
 7 コンピュータに関連していても特許になる:DD訴訟
 8 投資信託に関する特許:ステートストリート訴訟
 9 連邦巡回控訴裁判所の判決

第8章 か細きダビデ、ゴリアテに変身
 1 アマゾン・コム、バーンズアンドノーブル・コムを告訴
 2 連邦巡回控訴裁判所の判決
 3 リチャード・ストールマン
 4 教祖と聖イグナチウス
 5 リチャード・ストールマンの檄文
 6 ティム・オライリーの公開書簡
 7 ジェフ・ベゾスの返事
 8 ミッチー・ケイパーとEFF
 9 ジェリー・カプラン
 10 電子フロンティア財団EFF
 11 ブルーリボンはためく
 12 アマゾン・コムの裁判はどこまでも続く
 13 突如現れたピーター・カルバリーの一撃
 14 SNSの特許も獲得してしまったアマゾン・コム

第9章 勢いを増すアマゾン・コム 連続する企業買収
 1 欧州進出と本以外の分野への進出の始まり
 2 ネットバブルの到来と転換社債による資金調達
 3 アマゾン・コムの戦線拡大と打ち続く買収・投資
 4 食料品、スポーツ用品、工具、宝飾品までも
 5 ネットバブル崩壊
 6 イーベイの創立者ピエール・オミディア
 7 PEZに関する伝説とイーベイの立ち上げ
 8 偶然の帝国、運も実力である
 9 女帝メグ・ウィットマンの社長就任
 10 アマゾン・コム、オークション市場で敗退
 11 アマゾン・コム無敗の神話のほころび
 12 買収と投資の再開
 13 アマゾン・コムのアマゾン・コムの買収戦略の総括
 14 第三の進出方向は大規模小売店
 15 J・C・ペニーに勤務する
 16 バラエティストアの経営にたずさわる
 17 ベントンビルに店を開く
 18 他の店を覗いてまわる
 19 ウォルマートの誕生
 20 ロジスティックスの整備
 21 株式の上場
 22 ウォルマートの功罪
 23 アマゾン・コム対ウォルマート
 24 高級品市場

第10章 アマゾンのコンピュータ化されたビジネスのしくみ
 1 アマゾン・アソシエイトプログラム
 2 プロダクト・アドバタイジングAPI
 3 アマゾンの市場に集まる登場人物
 4 プロダクト・アドバタイジングAPIでどんなことができるか
 5 アマゾン・コムの商品はどう組織化されているか
 6 検索インデックス
 7 商品の集まりのさまざまな形態
 8 少しむずかしい話、RESTとSOAP
 9 セキュリティとアクセスキー
 10 買いたい商品を検索する
 11 カスタマーが購入したくなる工夫

第11章 電子ブック端末キンドル
 1 キンドル発売
 2 キンドル2の発売
 3 キンドルDXの発売
 4 70%のロイヤルティ
 5 ビッグブラザー
 6 キンドルの課題
 7 本は悠久の歴史を持つ
 8 本はなくならないだろう
 9 携帯型読み出し機が必要な場合もある
 10『もうする絶滅するという紙の書物について』

第12章 アマゾン・ウェブサービスAWS
 1 アマゾン・ウェブサービスAWSとは
 2 AWSの利点
 3 AWSの提供するサービス
 4 アマゾンEC2を使うには

終章 アマゾン・コムの将来
 1 独特の美学に裏打ちされたカルチャー
 2 厳しい選別
 3 インベントリー物流
 4 創業以来の株高

あとがき
事項索引
人名索引

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2011.07.16

▽うわさとデマを科学する

ニコラス・ディフォンツォ『うわさとデマ 口コミの科学』(江口泰子訳、講談社)

前回のエントリーでは、東日本大震災の流言やデマを具体的に検証する『検証 東日本大震災の流言・デマ』を紹介しましたが、

▽東日本大震災の流言・デマを検証する
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/07/post-3022.html

本書は、うわさやデマの発生するメカニズムを、アメリカの心理学者が科学的に分析したものです。原著は、2008年に発行されたものですが、東日本大震災後の状況に沿うように、翻訳の際に若干の手直しがされています。

まあ、内容的には、感覚的にはわかっていることを、心理学の用語を使って解説するとこうなるんだな、という感じなんですが、第8章では、有害な噂から身を守る方法や、悪意ある噂に反論する方法なども紹介されています。特に「効果的な六つの反論方法」(pp.277-284)は、有益な情報かもしれませんね。

①事実に基づく
②信頼されている人物が行う
③噂が出た直後に行う
④否定するだけではなく反論の理由も明確にする
⑤証拠を提出する
⑥協力を求める

[目次]
第1章 噂をするのは人の常
第2章 噂の海が泳ぐ
第3章 不明瞭であることは明瞭だ―不確実な世界を噂で理解する
第4章 噂、ゴシップ、都市伝説―似たものどうしを考察する
第5章 井戸のまわりの小さな世界―どんな噂がどこで、なぜ、広まるのか?
第6章 信じる噂、信じない噂―なぜ信じたり、信じなかったりするのか?
第7章 事実は曲げられないもの―街の噂を検証する
第8章 噂の製造工場を管理する

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▽東日本大震災の流言・デマを検証する

荻上チキ『検証 東日本大震災の流言・デマ』(光文社新書)

3月11日から、すでに4ヶ月が経過していますが、大震災と原発事故発生当時の様子は、まだまだ生々しい記憶として残っています。

本書は、3.11直後に、主にネットなどで流布された流言やデマを検証したものです。そういえばこんなデマ流れたなあ、と改めて思い起こされます。そして、一つ一つ検証してあって、なかなかの労作と言えそうです。

私自身は、デマに対する警戒心を持ちつつそうした情報に接してきたという自負はあったのですが、正直に言いますと、「放射性物質にヒマワリが効く」(p.120)は、ホントだと思っていました(恥)。

[目次]
序章――なぜ、今、流言研究か
 災害時における「情報」の重要さ
 流言・デマは人を殺す
 流言・デマに応答するということ
 流言とデマの違い
 個人のリテラシーだけに頼らない
 流言ワクチン

1章 注意喚起として広まる流言・デマ
 東日本大震災の流言・デマの特徴
 三時間後に最大の揺れが来る?
 有害物質の雨が降る?
 コスモ石油流言の分析より見えてくるもの
 インサイダーからの密告
 デマの中和の重要さ
 流言中和ラグと流言中和ギャップ
 また出てしまった、外国人犯罪流言
 外国人という「災害弱者」
 「石巻の友人からのSOS」
 強姦が激増?
 埼玉県の水を飲むな?
 東京電力を装った男?
 放射性物質にはうがい薬が効く?
 避難所で子どもが餓死?
 関係者から「東京から家族を逃がせ」と言われた

2章 救援を促すための流言・デマ
 情報ボランティアたちの「災害カーニバル」
 有名人の行動
 ニセのSOS情報
 通報したら怒られた
 関西電力の節電よびかけチェーンメール
 防衛省・自衛隊が救援物資を募集というチェーンメール
 みんなで献血をするべき?
 放射性物質にはヒマワリが効く?
 寄付をよびかけるチェーンメール
 善意(のつもり)の行動に要注意

3章 救援を誇張する流言・デマ
 「ソースロンダリング」の危険性
 オバマの演説?
 「天皇陛下が京都に避難した?」「天皇陛下が立派にも避難要諦を拒んだ?」
 消火に当たった消防隊総括隊長のコメント?
 海外のニュースサイトを経由する流言
 政敵を攻撃するためのデマ
 蓮紡がコンビニ規制を提案?
 辻元清美が自衛隊や米軍に抗議?
 ピースボートが物資横流し?
 日本では物資の空中投下が認められていない?
 「行方不明」の東電職員は、逃亡して酒を飲んでいた?
 節電したのに先月と同額請求?
 被災地から避難した子どもには教科書を配布してはいけない?

4章 流言・デマの悪影響を最小化するために
 海外での日本の著名人死亡説
 海外での原発流言
 日本が地震兵器で攻撃された可能性? ほか
 見えない敵との闘い
 内在的チェックと外在的チェック
 「うわさ屋」と「検証屋」
 検証屋の憂鬱?
 流言拡散を認めない人
 NGワードに注意する
 止める・調べる・注意する
 技術的にうわさを抑制

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2011.07.15

▽『下町ロケット』――中小企業の戦い

池井戸潤『下町ロケット』(小学館)

第145回の直木賞受賞作。

エンジン部品の開発・製造を行っている大田区の町工場、佃製作所のもとに、ある日一通の訴状が届いた。容赦の無い法廷戦略を駆使して、ライバル企業を叩き潰すことで知られるナカシマ工業からだ。佃製作所の特許申請の穴をついて、特許侵害を主張し、多額の賠償金を要求してきた。佃製作所を追い詰めて、特許ごと乗っ取るのが真の狙いだ。

この裁判の成り行きを見つめるもう一つの大企業があった。ロケット開発を進めている帝国重工も、佃製作所の持つ別の特許を奪い取る必要があった。佃製作所の弱みにつけ込んで、特許を買い叩こうとする帝国重工。

さて、この二つの戦いはどうなるのか――。

まあ、この先は、小説なんで、読んでお楽しみにというところですが、この二つのエピソードは、日本の企業社会の負の側面が現れています。それは、中小企業が、いくらユニークな技術を開発して特許を取得しても、それを大企業があの手この手を使って奪い取ろうとすることです。中小企業であろうと、対等なパートナーと認めて、業務提携するなり、適正な使用料を払うなりすればいいのに、弱みを探して追い込んで、奪い取ろうとする。

日本のベンチャーは、イグジット(出口)戦略が立てられない、とよく言われるのは、こういうことも背景にあると思います。

[参考]
▽奥田英朗の『最悪』は、ホリエモンの『成金』と比べてみると面白い
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-741b.html

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2011.07.13

▽『福島原発の真実』

佐藤栄佐久『福島原発の真実』(平凡社新書)

元福島県知事の佐藤栄佐久は、原発事故以前に、『知事抹殺』を発表していたが、

▽『知事抹殺』――福島が焦点だったと改めて思い起こさせる
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/07/post-18be.html

本書『福島原発の真実』では、福島第一原発の事故を受けて、福島の原発問題に焦点を絞って叙述している。内容的には、『知事抹殺』と重複する点も多いが、本書で、新たに浮上した疑惑もある。

2002年8月29日に、福島県庁あてに1枚のFAXが送られてきた。差出人は、経産省資源エネルギー庁原子力安全・保安院。内容は、福島第一・第二原発で1980年代後半から1990年代にかけて、点検データの改竄が行われていた、というもの。2000年7月に、当時の通産省になされた内部告発にもとづいた調査結果という。

調査に2年もかかった理由について、保安院は、内部告発を行ったスガオカ氏は、告発した2000年の時点では、原発の点検作業を行うGEの関連会社GEIIという会社の社員であったが、2001年後半に退職したため、身分を守る必要がなくなり、GEとGEIIへの調査を開始した、と説明した。

しかし、最近になってYoutubeに投稿された『筑紫哲也のNEW23』(2003年放送)
http://www.youtube.com/watch?v=fBjiLaVOsI4

では、スガオカ氏がGEIIを解雇されたのは、1998年。また、保安院は、内部告発した2000年から1年ほどスガオカ氏に聞き取り調査をしただけだったという。

《つまり、原子力安全・保安院は八月二九日の発覚当時、内部告発者の退社時期も、調査の期間についても大嘘をついていた。われわれはまんまとだまされていたのである。》(p.238)

佐藤栄佐久は、もう一つの疑問を提起している。

《なぜあの日、突如として点検データ改竄の問題が明るみになったのかも謎である。……あの告発の表面化は、スガオカ氏とは別の「ホイッスルブロワー」(内部告発者)が、経産省のどこかにいたということではないか。》(p.238-239)

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2011.07.10

▽『敗戦処理首脳列伝』

麓直浩『敗戦処理首脳列伝―祖国滅亡の危機に立ち向かった真の英雄たち』(社会評論社)

タイトルに釣られて(笑)。

「敗戦処理首脳」とは、本書の定義では、敗色濃厚になってから首脳(君主、宰相)となり、敗北必至を自覚して戦争終結を視野に入れて活動した首脳ということです。

古代から戦後まで、80人ほどの「敗戦処理首脳」が紹介されているのですが、ちょっとした歴史マニアくらいでは、知らない名前だらけです。

著者の言うように、国家や民族の存亡をかけて敗戦処理をやった「真の英雄」のはずなんですが、歴史にはほとんど名前の残らない「貧乏くじ」だったことがわかります。

日本の「あの戦争」の項目を見てみると、小磯国昭、鈴木貫太郎、東久邇宮稔彦の三人の名が。実際に終戦への道筋をつけたのは鈴木貫太郎ですが、まあ、多少は歴史に名前が残っているほうでしょうか。

[目次]
ペロポネソス戦争 アテナイ テラメネス
ギリシアの反マケドニア戦争 アテナイ フォキオン、デマデス
秦末の動乱 秦 子嬰
晋の呉攻略 呉 張悌
靖康の変 北宋 欽宗
モンゴルの南宋攻略 南宋  文天祥、【参考】恭帝、端宗、帝?
カイドゥの乱 カイドゥ・ウルス ドゥア
コソボの戦い セルビア ミリカ公妃、ステファン・ラザレヴィッチ
南北朝動乱 南朝 後亀山天皇
タンネンベルクの戦い ドイツ騎士団 ハインリヒ・フォン・プラウエン
土木の変 明 景帝、于謙
コンスタンティノープル陥落 ビザンツ帝国 コンスタンティノス一一世
ブルゴーニュ戦争 ブルゴーニュ公国 マリー・ド・ブルゴーニュ
スウェーデン独立戦争 スウェーデン クリスティーナ・ユレンシェルナ
アルカセル・キビールの戦い ポルトガル エンリケ一世
沖田畷の戦い 竜造寺氏 竜造寺政家、鍋島直茂
デカン戦争 ムガル帝国 フサイン・アリー・ハーン・サイイド
大北方戦争 スウェーデン ウルリカ・エレオノーラ、フレデリック一世
ナポレオン戦争 フランス シャルル・モーリス・ド・タレイラン・ペリゴール、ジョゼフ・フーシェ、【参考】ナポレオン二世
第二次エジプト・トルコ戦争 オスマン帝国 アブデュルメジト
米墨戦争 メキシコ ペドロ・マリア・アナーヤ、マヌエル・デ・ラ・ペーニャ
クリミア戦争 ロシア帝国 アレクサンドル二世
ウィリアム・ウォーカー戦争 ニカラグア マキシモ・ヘレス、トマス・マルティネス
パラグアイ戦争 パラグアイ シリロ・アントニオ・リバロラ、【参考】ファクンド・マチャイン
第二次長州出兵 徳川幕府 徳川慶喜
普仏戦争 フランス アドルフ・ティエール
第二次アフガン戦争 アフガニスタン ヤークーブ・ハーン
太平洋戦争( 南米) ペルー ニコラス・デ・ピエロラ、フランシスコ・ガルシア・カルデロン、リサルド・モンテーロ、アンドレ・アヴェリーノ・カセレス、ミゲル・デ・イグレシアス
太平洋戦争( 南米) ボリビア ナルシソ・カンペーロ
フランス・マダガスカル戦争 メリナ王国 ラナバロナ三世
ボーア戦争 トランスバール共和国 シャーク・ウィレム・バーガー
ボーア戦争 オレンジ自由国 クリスチャン・ルドルフ・デ・ウェット
第二次バルカン戦争 ブルガリア ヴァシル・ラドスラヴォフ
第一次世界大戦 ソビエト連邦 ウラジミール・レーニン
第一次世界大戦 ブルガリア アレクサンドル・マリノフ
第一次世界大戦 墺洪二重帝国 カール一世、オットカール・ツェルニン伯爵、イストファン・ブリアン伯爵、アンドラーシ・ギューラ伯爵
第一次世界大戦 オスマン帝国 メフメト六世、メフメト・タラート・パシャ、アフメト・イズト・パシャ、アフメト・テウフィク・パシャ、ケマル・アタチュルク(トルコ共和国)
第一次世界大戦 ドイツ帝国 マクリミリアン・フォン・バーデン、フリードリヒ・エーベルト(ワイマール共和国)
チャコ戦争 ボリビア ホセ・ルイス・テハダ・ソラノ
第二次世界大戦 フランス フィリップ・ペタン
第二次世界大戦 イタリア ピエトロ・バドリオ
第二次世界大戦 フィンランド カール・グスタフ・マンネルヘイム
第二次世界大戦 ドイツ第三帝国 カール・デーニッツ
第二次世界大戦 大日本帝国 小磯国昭、鈴木貫太郎、東久邇宮稔彦
スエズ動乱 イギリス ハロルド・マクミラン
アルジェリア戦争 フランス シャルル・ド・ゴール
ベトナム戦争 アメリカ合衆国 リチャード・ニクソン
ベトナム戦争 ベトナム共和国 チャン・ヴァン・フォン、ズオン・ヴァン・ミン、グエン・バ・ガン、ブ・バン・マウ
ビアフラ戦争 ビアフラ共和国 フィリップ・エフィオング
エリトリア独立戦争 エチオピア メレス・ゼナウィ

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2011.07.09

▽今度はイタ公抜きでやろう

ニコラス・ファレル『ムッソリーニ(上)』(柴野均訳、白水社)

ニコラス・ファレル『ムッソリーニ(下)』(柴野均訳、白水社)

今度はイタ公抜きでやろう――。

というのは、ドイツ人が日本人に向かっていうジョークの一つと言われています。その意味するところは、ドイツが「あの戦争」に負けたのはイタリアと組んだからだ。今度やる時は、イタリア抜きでやれば勝てるはず――。

ま、あくまでも、ジョークなんですが……。

以前のエントリーで、日本とドイツの「あの戦争」について考察しました。

▽『あの戦争と日本人』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-6b6d.html
▽『わが闘争』がたどった数奇な運命
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-38ca.html

ついでにというわけではないのですが、日独伊枢軸と言われた三ヶ国の最後の一つ、イタリアについても知ろうと思い、ムッソリーニの伝記を読んでみました。

しかし、ざっと読んでみた限りでは、日本のことはほとんど出てきません。本書に登場する日本人は、日高信六郎という外交官だけ。

ムッソリーニも、なにか明確な目標があって戦争をしてたわけでも無いような。

そもそも日本人ってイタリアやムッソリーニのことをよく知らずに同盟を結んじゃったんだろうなあ、と思ったりしました。

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▽『誰も知らない「名画」の見方』

高階秀爾『誰も知らない「名画」の見方』(小学館101ビジュアル新書)

《ハイライトとして白い点をひとつ、瞳に描き加えることだけで、生命感にあふれた人間の顔を描くことができるということを、フェルメールは発見したのだ。》(p.14)

世界的に有名な画家24人のなにが凄いのか、をコンパクトにまとめたガイドブックです。一人の画家について数ページしか割かれてませんが、なるほどと膝をたたくことしばしば。ビジュアルも豊富で、絵画の知識に乏しい人でも楽しめます。

[目次]
はじめに

第一章 「もっともらしさの秘訣」
 白い点ひとつで生命感を表現したフェルメール
 見る者を引き込むファン・エイクの「仕掛け」
 影だけで奥行きを表したベラスケス

第二章 時代の流れと向き合う
 激動の時代を生き抜いた宮廷画家ゴヤ
 時代に抗った「革新的な農民画家」ミレー
 時代を代弁する告発者ボス

第三章 「代表作」の舞台裏
 いくつもの「代表作」を描いたピカソ
 タヒチでなければ描けなかったゴーガンの「代表作」
 二種類の「代表作」をもつボッティチェリ

第四章 見えないものを描く
 科学者の目で美を見出したレオナルド・ダ・ヴィンチ作
 人を物のように描いたセザンヌの革新的な絵画
 音楽を表現したクリムトの装飾的な絵画

第五章 名演出家としての画家
 依頼主を喜ばせたルーベンスの脚色
 演出した「一瞬」を描いたドガ
 絵画の職人ルノワールの計算

第六章 枠を越えた美の探求者
 女性の「優美な曲線」に魅せられたアングル
 見えない不安を象徴したムンクの「魔性の女性像」
 イギリス絵画の伝統を受け継いだミレイ

第七章 受け継がれるイメージ
 カラヴァッジョのドラマチックな絵画
 働く人々を描いた色彩画家ゴッホ
 西洋絵画の歴史を塗り替えたマネ

第八章 新しい時代を描き出す
 人間味あふれる農民生活を描いたブリューゲル
 新しい女性像を描いたモリゾ
 20世紀絵画の予言者モロー

あとがき
西洋絵画略年表

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2011.07.08

▽人類が消えた世界

アラン・ワイズマン『人類が消えた世界』(鬼澤忍訳、早川書房)

どういう本かというと、『人類が消えた世界』というタイトルの通り、もし地球上から人類が消滅したら、その後の世界はどうなるのか? について書かれたものです。

口絵には、人類消滅から数日後、2~3年後、500年後、50億年後などの様子がSFちっくなイラストで描かれています。

なんか、近未来のシミュレーションのようなんですが、これが、米タイム誌の選ぶ2007年ベストノンフィクションや、米アマゾンのBest Book of 2007をノンフィクション部門で受賞しています。で、読んでみると確かにノンフィクションなんですね。

どういうことかというと、本書には二つのテーマが設定されていて、それらが交互に描かれていきます。

一つは、もし人類が消滅するとしたら、どういう理由が考えられるか? というもので、過去に、動物などの種が絶滅した理由を科学的に解明していきます。

もう一つのテーマは、実際に人が消えた都市はどうなるのか? というもので、なんらかの理由で人が住めなくなった都市がどうなっていくかをリアルに探求していきます。

突拍子も無い近未来の予言のように見えて、ちゃんとノンフィクションとして成立しているのが、本書が高く評価された理由なのでしょう。

では、人間のいなくなった都市ではまず何が起きるのでしょうか?

《マンハッンタから人が消えて最初に巡ってくる三月に、あらゆるものが崩壊し始めるという。毎年三月、気温は摂氏零度前後を四〇回くらい行ったり来たりするのが普通だ……すると凍結と融解が繰り返され、アスファルトやコンクリートにひびが入る。雪が解けると、できたばかりの割れ目に水が染み込む。その水が凍って膨張すると、割れ目が広がる。》(p.50)

その後には、アスファルトやコンクリートの割れ目に沿って植物が繁茂し、さらに割れ目が大きくなるそうです。通常は、この段階で道路の保全係が現れて、草を引き抜いて亀裂を埋める作業を行うのでしょうが、人類が絶滅した世界では、それを行う人はもちろんいません――。

おそらく、今年3月11日に発生した東日本大震災の被災地のアスファルトやコンクリートには、すでに相当な亀裂が生じてるのではないかと思います。それが植物によって、さらに拡大されていきます。そして復旧が遅れれば遅れるほど、亀裂は大きくなり、より多くの復旧コストがかかることになると思います。

また、本書には、原子炉の爆発事故のあったチェルノブイリ原発周辺の様子も描かれています。一見、草木の生い茂る豊かな自然が取り戻せたように見えますが、コンクリートの建造物は朽ち果て、そこに生息するツバメやハタネズミは通常の種よりも短命だそうです。

福島第一原発周辺も同じような廃墟になってしまうのは、もはや時間の問題なのかもしれません。

[目次]
はじめに サルの公案
第1部
1、エデンの園の残り香
2、自然に侵略される家
3、人類が消えた街
4、人類誕生直前の世界
5、消えた珍獣たち
6、アフリカのパラドクス
第2部
7、崩れゆくもの
8、持ちこたえるもの
9、プラスチックは永遠なり
10、世界最大級の石油化学工業地帯
11、二つのイングランドに見る農地
第3部
12、古代と現代の世界七不思議がたどる運命
13、戦争のない世界
14、摩天楼が消えた空を渡る鳥
15、放射能を帯びた遺産
16、大地に刻まれた歴史
第4部
17、ホモ・サピエンスは絶滅するのか?
18、時を超える芸術
19、海のゆりかご
おわりに 私たちの地球、私たちの魂

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2011.07.07

▽『働かないって、ワクワクしない?』――職場が嫌いな二十五の理由

アーニー・J・ゼリンスキー『働かないって、ワクワクしない?』(三橋由希子訳、ヴォイス)

『働かないって、ワクワクしない?』という本を、古本屋で見かけたのですが、その中に「職場が嫌いな二十五の理由」というのがあったので紹介します。

◆リストラの結果、仕事量が多くなりすぎている
◆日がさんさんと照っているのに、一日中オフィスに縛りつけられる
◆上にいるベビーブーム世代がやめないので、少なくともあと十五年は昇進の機会がない
◆十年前にクビを切られているべき世間知らずや役立たずと一緒に働かなければならない
◆激しい競争、裏切り、作り笑いを伴うオフィス内の権力闘争
◆生産性は低いのに、長く勤めているというだけで、自分より多くの給与を得ている人がいる
◆毎日、交通渋滞の中を片道一、二時間かけて通勤する
◆一日中机に向かっている――体に悪い
◆日常業務が忙しすぎて、考える時間がない
◆不必要なペーパーワーク――何の意味もないメモと誰も読まない報告書
◆他の部署からの協力がない
◆上司が部下に言うことと役員に言うことが全然違う
◆通常で二時間以上の会議――それでも何も決まらない
◆休暇を取れと言われてもそれを拒否する、胸が悪くなるような仕事中毒者と一緒に働かなければならない
◆一年で一番いいシーズン(私の場合は夏)に休暇を取れない、融通のきかない休暇スケジュール
◆仕事が多すぎるので、従業員に休暇の権利を全部行使しないよう求める組織
◆他者の努力やアイデアを自分のものにする上司
◆従業員のために十分な駐車場がない(たっぷり給料をもらっている役員の駐車場はあるのに)
◆ほかの人の二倍効率よく働き、予定より早く自分の仕事を終えても、勤務時間が終わるまで会社にいなくてはならない
◆官僚主義、形式主義、ばかげた規則、非論理的な手続き、何もしないことが専門の無気力な人々
◆人種、性別、身体的特徴、独身でいることによる差別
◆自分たちは革新的だと宣伝しているのに、革新的な人々をサポートしない組織
◆冬にしか正常に作動しないエアコン
◆仕事ができる人々を認め、表彰しない
◆昇給と昇進のために身を売る、胸が悪くなるようなイエスマンやイエスウーマンと一緒に働かなければならない

これ、日本の職場の不満なのかと思ったら、実は、カナダの職場の話なんですね。カナダ人でも、日本人が感じているような不満を抱いているんだなあ、と、ちょっと意外な印象を受けました。

本書の原著"The Joy of Not Working"は、2001年にカナダで出版されました。まあ、失業や定年退職で、職を失ったとしても、自由時間を楽しむ方法を見つけよう、というのが本書の趣旨のようです。邦訳は2003年の発行ですが、奥付を見ると、ぽつぽつ増刷されているようですね。

[目次]
第一章 あなたも、のんきで気楽な生活ができる
第二章 ものの見方が生き方を変える
第三章 仕事人間は奴隷と同じ
第四章 あまり働かないことは健康にいい
第五章 失業―自分がどんな人間かを知る真のテスト
第六章 私を退屈させているのはこの私
第七章 誰かがおこした火で温まるのではなく、自分で火をおこそう
第八章 受身の活動だけでは何も得られない
第九章 禅の教え―今この瞬間に生きよ
第十章 くだらない仲間といるよりひとりになれ
第十一章 優雅な生活に大金はいらない
第十二章 終わりは、今、始まったばかり

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▽大新聞と停電と共産主義と

魚住昭『渡邉恒雄 メディアと権力』(講談社)

《「電源が爆破されれば、向こう五年間、日本は暗黒になる。そうなれば人民が飢える。人民は飢えたとき初めて利口になる。人民が利口になれば、革命ができる」》(p.50)

読売新聞の渡邉恒雄主筆が、学生時代は、東京大学の共産党細胞に所属した活動家だったことはよく知られている。

昭和二十二年(1947年)元旦に、吉田茂首相は、争議を頻発させる活動家を「不逞の輩」と呼んだ。この吉田政権を打倒するためのゼネストが2月1日決行されることになったが、その前日、渡邉は共産党の幹部から、「変電所のスイッチを切って電源を爆破せよ」と命ぜられた。

さすがにこの戦術に疑念を抱いた渡邉は、共産党と距離を置き始める。その後、東大細胞内の権力闘争に敗れたこともあり、渡邉は、激烈な反共主義者となっていく――。

[目次]
▽大震災と原発と新聞と
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-8445.html
▽『原発・正力・CIA』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/cia-d1f5.html

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2011.07.06

▽『カムイ伝講義』

田中優子『カムイ伝講義』(小学館)

本書は、白土三平の『カムイ伝』に描かれていることを、史実に基づいて検証したもので、歴史や民俗学に関心のある方は、『カムイ伝』とともに一読をお薦めします。

興味深かったのは、江戸時代の農業についてで、当時の農業の生産性を決めるのは「肥料」だったそうです。肥料には、植物由来のもの、動物や魚由来のもの、糞尿由来のものとさまざまなタイプがあり、また、農地の状態を見極めながら適切な肥料をほどこす必要があったそうです。

そのため、農村でも、肥料や農地に関する研究は進んでおり、また、全国各地で生産された肥料の流通網も発達していったそうです。農民自身が、肥料の生産や流通に乗り出したケースもあったようで、土地に縛り付けられた無知な農民といった固定観念とは異なる現実が存在していたようです。

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▽『白土三平伝』

毛利甚八『白土三平伝――カムイ伝の真実』(小学館)

白土三平というと、もちろんリアル・タイムでは知りませんでしたが、子供の頃に、『忍者武芸帳』の復刻版を読んだ記憶があります。

忍者ものの劇画と思って読んでいたのですが、エピソードの一つに、農村で孤児となった子供たちが自分たちの城を創って生活を始めるくだりがありました。初めはうまく運営できていたのですが、ちょっとしたいさかいから内部崩壊してしまうという展開で、子供心に「シビアな現実を描くなあ」と思ったものです。

それからだいぶたって、『カムイ伝』の第一部を全集で読んだのですが、最終巻では、一揆の首謀者として捕らえられた主人公が舌を抜かれて反論できない状態にされた上で釈放され、村の仲間から「裏切り者」と誹られる、というシーンがありました。これまた、「権力の恐ろしさ、為政者の狡猾さ」を感じざるを得ませんでした。

本書は、白土三平の伝記で、それぞれの作品の当時の反響や貸本マンガと大手出版社で求められるものの違い、そして、『カムイ伝』を描くために漫画誌『ガロ』を創刊した話、『カムイ伝』第一部の執筆を終えた後に、しばらく宗教的なマンガの方に行ってしまったことなど、いろいろと興味深いエピソードが綴られています。

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2011.07.05

▽最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか

ジェームズ R・チャイルズ『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』(高橋健次訳、草思社)

以前のエントリーで、事件や事故を前に立ちすくむ人々の行動を分析した『生き残る判断 生き残れない行動』を紹介しました。

▽生き残る判断 生き残れない行動
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/post-4e18.html

今回取り上げる本書も、そのタイトルは『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』というもので、そこから私は、最悪の事故に直面した人々の行動について分析した本かと思ったのですが、違いました。

どちらかというと「失敗学」に分類される内容の本です。

▽『「失敗学」事件簿』――あの失敗から何を学ぶか
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-c197.html

しかし、世界中で起きた「最悪の事故」を取り上げているため、畑村先生の本よりも、ずっとスケールの大きい内容となっています。

もちろんスリーマイル島やチェルノブイリの原発事故は含まれていますし、スペースシャトルの爆発事故、アポロ十三号のトラブル、洋上石油掘削基地の沈没や爆発……などなどパニック映画が作れそうな事故ばかりです。そして、その多くは、「最悪の事故」に至る前に現れていた危険な兆候を見おとしたことが原因となっているようです。

失敗に学べとは言うものの、なかなか学べないのは、世界的に共通したことなのかもしれません。

[本書で扱われるケース]
エールフランスのコンコルド墜落事故(2000年)
海洋石油掘削装置オーシャンレンジャー沈没事故(1982年)
スリーマイルアイランド原発事故(1979年)
スペースシャトル・チャレンジャー爆発墜落事故(1986年)
英国巨大飛行船R101墜落事故(1930年)
米国海軍の近接信管搭載魚雷マーク14の失敗(第二次大戦中)
ハッブル宇宙望遠鏡の主鏡研磨失敗(1990年)
アメリカン航空DC-10の操縦系故障とそこからの生還(1972年)
アポロ1号の火災事故(1967年)
バリュージェットDC--9の酸素漏れによる炎上墜落事故(1996年)
チェルノブイリ原発事故(1986年)
英国航空機の操縦席窓ガラス脱落事故(1990年)
英国海軍潜水艦セティスの沈没事故(1939年)
アポロ13号の危機の原因となった酸素タンクの異常(1970年)
バーミングハム市のフットボール競技場二階席崩壊を防ぐ(1960年)
ニューヨーク市シティコープビルの強度不足に気づき補修(1978年)
IBMブラジル・スマレ工場の屋根崩落を未然に防ぐ(1971年)
テキサスシティ港湾での硝安肥料の大規模爆発事故(1947年)
ミネアポリスでのオートマチック車暴走事故(1998年)
北海油田掘削プラットフォーム、ハイパーアルファの爆発事故(1988年)
イースタン航空機の計器電球切れがきっかけで起きた墜落事故(1972年)
インド・ボパール殺虫剤工場の毒ガス漏出事故(1984年)
北軍兵士が満載されていた蒸気船爆発沈没事故(1864年)
...ほか

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▽『危ないデザイン』――あの事件の原因を探る

日経アーキテクチュア『危ないデザイン』(日経BP社)

日経グループの専門誌といえば、時々、すごく渋いけれど、重要な特集をまとめたムックを出すことがあるのですが、

▽『甦る11棟のマンション―阪神大震災・再生への苦闘の記録』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/11-8373.html

本書『危ないデザイン』も、なかなか読みどころの多い一冊です。事件や事故の発生した建築物を紹介しつつ、どういうデザイン、つまり設計が、それらの原因であったのか、そして、どう改善すべきかを図解入りで解説していきます。

2001年に新宿歌舞伎町で起きたビル火災は、避難路であるはずの階段からの出火が原因でしたが、ビルの「設計者は法律をクリアすることで安全が守られたと思い込み、その先に起こるかもしれない危険に対処することを怠った」(p.160)と、本書では指摘しています。本書が発行されたのは2月で、東日本大震災の前でしたが、この指摘は、津波対策や非常用電源の備えを怠った福島第一原発事故にも通じるものといえます。

また本書には、多くの人の記憶に残っている事件・事故に関する建築物も数多く掲載されています。

たとえば、十一人の死者を出した明石市の歩道橋は幅6mでしたが、階段の幅は3mしかなく人が滞留しやすい構造だったそうです。また、六本木ヒルズの回転扉は男児の死亡事故が起きるまでに十二件の事故が発生していたようですし、シンドラー社のエレベーターも死亡事故が起きるまでに不具合が何度も報告されていたそうです。これらの事故は、早く対策を講じていれば、回避できたのかもしれません。

この他にも、落下や衝突の多発する建築物や、外壁などが剥落する事故などの実例が多数紹介されていて、現代の建造物にも、意外と危険なデザインが多いのだということに改めて気づかされます。本書のせいで、ビルの近くを歩くのが、ちょっと怖くなるかもしれませんね。

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2011.07.03

▽明治維新における唯一にして最大の謎とは?

鯨統一郎『邪馬台国はどこですか?』(創元推理文庫)

えー、最近は、ちょっと明治維新に凝ってるんですが、

▽『幕末史』――攘夷から開国への転換点は?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-7fe7.html

そこで面白い小説を見つけたので紹介します。

本書は、歴史ミステリー……というよりも、バカミス(おバカなミステリー)に分類される、荒唐無稽さを楽しむミステリーです。

邪馬台国東北説を唱える表題作の『邪馬台国はどこですか?』も面白いのですが、『維新が起きたのはなぜですか?』では、「明治維新における唯一にして最大の謎」が提示されます。それは、

《明治維新があってもなくても、日本の政策には何の変化もないんだよ。》(p.227)

というもの。これには、私も同意します。薩長が、つい尊皇攘夷で騒いでしまったので、そのまま勢いで幕府を倒しちゃっただけのようにも感じられます。この謎に対する著者の答えは、本書で確認してください(笑)。

また、半藤一利の「あの戦争と日本人」も紹介していますが、

▽『あの戦争と日本人』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-6b6d.html

その第一章で、著者の半藤一利は、小説家の坂口安吾から

《藤原鎌足と中大兄皇子がやったのは「大化の改新」ではなくて、あれは政権奪取のクーデタであったんだ。》(p.18)

という説を聞かされた、という話をしているのですが、本書の『聖徳太子はだれですか?』でも、それに近い(?)説を提示していて、なかなか興味深いです。

歴史ミステリーに関心を持つには、本書くらいぶっとんでいた方がとっつき安いのかもしれませんね。

[目次]
悟りを開いたのはいつですか?
邪馬台国はどこですか?
聖徳太子はだれですか?
謀反の動機はなんですか?
維新が起きたのはなぜですか?
奇跡はどのようになされたのですか?

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▽『知事抹殺』――福島が焦点だったと改めて思い起こさせる

佐藤栄佐久『知事抹殺 つくられた福島県汚職事件』(平凡社)

著者の佐藤栄佐久は元福島県知事。在職時は「闘う県知事」として名を馳せたものの、談合事件に関わったという疑惑が取り沙汰され、2006年9月に知事を辞職した。

しかし、この談合疑惑は、当初より「国策捜査ではないか?」との疑念が示されていた。そして、その後の相次ぐ検察不祥事が明らかになり、「国策捜査」との疑いはいっそう強まっている。ただし、地裁、高裁判決とも執行猶予付きの有罪であり、現在、最高裁に上告中である。

国策捜査の引き金を引いたのは何であろうか? この問いに対しての手がかりは、本書には二つ記されている。一つは、2002年に発覚した福島第一原発のデータ改竄事件やプルサーマル計画に関して、東京電力や経産省などとやりあったこと。

そして、もう一つは、小泉政権が2003年6月に発表した道州制導入をめざす「三位一体改革」において、まず県レベルへの権限委譲を進めるべきだと主張したこと。

談合事件の推移を付記しておくと、まず2003年1月に弟の経営する会社の土地取引に関してブラック・ジャーナリズムが動き始めていることが知らされる。さらに、2004年1月にアエラに記事が載る。続いて、2005年4月東京地検特捜部による任意の捜査があり、アエラと同趣旨の記事が読売新聞に掲載。そして、2006年7月になると、弟の会社に家宅捜索が入り、ここから急速に事件化され、知事辞職、逮捕、起訴へと進んでいく。

2005年4月から2006年7月の間に、なんらかの政治的意志の路線変更があったことが伺える。

[参考]
▽当ブログで売れた本――2011年原発関連
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/05/2011-fe88.html
▽墜ちたヤメ検たち
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/12/post-efb3.html

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