2011.07.08

▽人類が消えた世界

アラン・ワイズマン『人類が消えた世界』(鬼澤忍訳、早川書房)

どういう本かというと、『人類が消えた世界』というタイトルの通り、もし地球上から人類が消滅したら、その後の世界はどうなるのか? について書かれたものです。

口絵には、人類消滅から数日後、2~3年後、500年後、50億年後などの様子がSFちっくなイラストで描かれています。

なんか、近未来のシミュレーションのようなんですが、これが、米タイム誌の選ぶ2007年ベストノンフィクションや、米アマゾンのBest Book of 2007をノンフィクション部門で受賞しています。で、読んでみると確かにノンフィクションなんですね。

どういうことかというと、本書には二つのテーマが設定されていて、それらが交互に描かれていきます。

一つは、もし人類が消滅するとしたら、どういう理由が考えられるか? というもので、過去に、動物などの種が絶滅した理由を科学的に解明していきます。

もう一つのテーマは、実際に人が消えた都市はどうなるのか? というもので、なんらかの理由で人が住めなくなった都市がどうなっていくかをリアルに探求していきます。

突拍子も無い近未来の予言のように見えて、ちゃんとノンフィクションとして成立しているのが、本書が高く評価された理由なのでしょう。

では、人間のいなくなった都市ではまず何が起きるのでしょうか?

《マンハッンタから人が消えて最初に巡ってくる三月に、あらゆるものが崩壊し始めるという。毎年三月、気温は摂氏零度前後を四〇回くらい行ったり来たりするのが普通だ……すると凍結と融解が繰り返され、アスファルトやコンクリートにひびが入る。雪が解けると、できたばかりの割れ目に水が染み込む。その水が凍って膨張すると、割れ目が広がる。》(p.50)

その後には、アスファルトやコンクリートの割れ目に沿って植物が繁茂し、さらに割れ目が大きくなるそうです。通常は、この段階で道路の保全係が現れて、草を引き抜いて亀裂を埋める作業を行うのでしょうが、人類が絶滅した世界では、それを行う人はもちろんいません――。

おそらく、今年3月11日に発生した東日本大震災の被災地のアスファルトやコンクリートには、すでに相当な亀裂が生じてるのではないかと思います。それが植物によって、さらに拡大されていきます。そして復旧が遅れれば遅れるほど、亀裂は大きくなり、より多くの復旧コストがかかることになると思います。

また、本書には、原子炉の爆発事故のあったチェルノブイリ原発周辺の様子も描かれています。一見、草木の生い茂る豊かな自然が取り戻せたように見えますが、コンクリートの建造物は朽ち果て、そこに生息するツバメやハタネズミは通常の種よりも短命だそうです。

福島第一原発周辺も同じような廃墟になってしまうのは、もはや時間の問題なのかもしれません。

[目次]
はじめに サルの公案
第1部
1、エデンの園の残り香
2、自然に侵略される家
3、人類が消えた街
4、人類誕生直前の世界
5、消えた珍獣たち
6、アフリカのパラドクス
第2部
7、崩れゆくもの
8、持ちこたえるもの
9、プラスチックは永遠なり
10、世界最大級の石油化学工業地帯
11、二つのイングランドに見る農地
第3部
12、古代と現代の世界七不思議がたどる運命
13、戦争のない世界
14、摩天楼が消えた空を渡る鳥
15、放射能を帯びた遺産
16、大地に刻まれた歴史
第4部
17、ホモ・サピエンスは絶滅するのか?
18、時を超える芸術
19、海のゆりかご
おわりに 私たちの地球、私たちの魂


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