2011.12.01

▽〈起業〉という幻想――アメリカン・ドリームの現実

スコット・A・シェーン『〈起業〉という幻想――アメリカン・ドリームの現実』(白水社)

経営学者スコット・A・シェーンによる、アメリカにおける起業にまつわるいくつかの幻想を、信頼できるデータに基づいて打ち砕いていく。三人の翻訳者(谷口功一、中野剛志、柴山桂太)に、『TPP亡国論』で知られる中野剛志が含まれています。

本書のイントロダクション(pp.24-25)では、本書の内容の要約として、次のような指摘がされています。

●アメリカは、以前に比べるなら起業家的ではなくなって来ている。一九一〇年と比べるなら、全人口に占めるビジネスの創業者の割合は低下している。

●アメリカが、格別に起業家的な国というわけでもない。ペルーは、アメリカよりも三・五倍の割合で新たにビジネスを始める人がいる。

●起業家は、魅力的で目を惹くハイテク産業などではなく、建設業や小売業などのどちらかというと魅力の薄い、ありきたりの業種でビジネスを始める場合のほうが多い。

●新しくビジネスを始める動機のほとんどは、他人の下で働きたくないということに尽きる。

●仕事を頻繁に変える人や、失業している人、あるいは稼ぎの少ない人のほうが、新しいビジネスを始める傾向にある。

●典型的なスタートアップ企業は、革新的ではなく、何らの成長プランも持たず、従業員も一人(起業家その人)で、一〇万ドル以下の収入しかもたらさない。

●七年以上、新たなビジネスを継続させられる人は、全体の三分の一しかいない。

●典型的なスタートアップ企業は、二万五〇〇〇ドルの資本しか持たず、それはほとんどの場合、本人の貯金である。

●典型的な起業家は、ほかの人よりも長い時間労働し、誰かの下で雇われて働いていた時よりも低い額しか稼いでいない。

●スタートアップ企業は、考えるよりは少ない仕事(雇用)しか産み出さない。創業以来二年未満の会社で働く人が全人口の一%であるのに対して、十年以上の会社で働く人は六〇%を占める。

とまあ、まさに起業の幻想を打ち砕くような事実のオンパレードなんですが、私が、本書でなるほど、と思わされたのが次のような指摘。

《マイケル・デルがテキサス大学の寮で数十億ドル規模の会社を創設したというような話は、多くの人に、若者の方が起業家として成功しやすいような印象を与える。……しかし、データによれば、成功した起業家になる、このような若者の話は、極端な事例にすぎない。平均的には、四十五歳から五十四歳の間で始めたビジネスは、三十五歳以下よりも業績がいいのである。》(p.166)

説得力のある調査で、問題の設定自体が面白い。また、アメリカの事例ですが、リアリティのある話は、むしろこれから起業しようとする人にも役に立つのではないかと思います。

[目次]
  謝辞
  イントロダクション
   起業とは何か
   起業に関するイメージ
   神話を信じ込んでいるとどうなってしまうのか
   本書を読むべきなのは誰か
   本書ではどのような問題を取り扱うのか/たとえば

 第一章 アメリカ──起業ブームの起業家大陸
   起業家の数は増えていない
   アメリカでの起業は低調である
   国によってスタートアップの数が多くなるのはなぜか
   国内でスタートアップが占める割合の相違
   地域間の起業の違いを説明するのは何か
   結論

 第二章 今日における起業家的な産業とは何か?
   どのような産業分野で起業家はビジネスを始めるのか
   なぜ特定の産業が起業家の間で人気なのか
   結論

 第三章 誰が起業家となるのか?
   起業家のマインド
   なぜビジネスを始めるのか
   起業家は“優れた”人間なのか
   起業家になることは若者の専売特許なのか
   実社会で痛い目に遭うことがビジネスを始める導きなのか
   専攻が重要なのか
   経験の重要さ
   生粋の地元育ちよりも移民のほうが起業家になりやすいのか
   コネより知識
   結論

 第四章 典型的なスタートアップ企業とは、どのようなものなのか?
   新たなビジネスのほとんどはとても平凡である
   たいていのスタートアップは革新的ではない
   たいていのスタートアップはごく小規模である
   成長を目指すビジネスはわずかである
   新たなビジネスの多くは競争優位を欠いている
   半数は在宅ビジネスである
   起業家はどのようにしてビジネスアイデアを思いつくのか
   起業家はどのようにビジネスアイデアを評価しているか
   ビジネスを立ち上げる
   会社立ち上げは成功例よりも失敗例のほうが多い
   チームで起業?
   結論

 第五章 新たなビジネスは、どのように資金調達をしているのか?
   ビジネスを立ち上げるのにどれくらいのお金が必要なのか
   主な資金源は創業者の貯金
   お金持ちのほうが起業しやすいのだろうか
   個人的な負債
   どんな企業が外部資金を獲得するのか
   負債か株式か
   スタートアップは銀行から借り入れできるのか
   外部からの株式資本による資金調達
   ベンチャー資本はあなたが考えるほど重要ではない
   ビジネスエンジェルの実像
   結論

 第六章 典型的な起業家は、どのくらいうまくやっているのか?
   典型的な新たなビジネスは失敗する
   ビジネスから撤退する
   起業家はそれほど儲からない
   起業によるリターンは不確実である
   起業家は投資資金に対する追加的なリターンを得られない
   起業家はベンチャーの展望について過剰に楽観的か
   ごく少数の起業家が大成功を収める
   創業者の満足
   結論

 第七章 成功する起業家とそうでない起業家の違いは何か?
   時間とともに容易になる
   どの産業で、ということが非常に重要
   ほとんどの起業家は愚か者なのか
   ほかにやるべきことは何か
   よりよい起業家になるための準備は可能だ
   正しい創業の動機を持て
   結論

 第八章 なぜ、女性は起業しないのか?
   女性はあまり起業家にならない
   なぜ女性起業家の割合は低いか
   女性のスタートアップの業績は
   なぜ女性が創業したビジネスの業績は貧弱なのか
   結論

 第九章 なぜ、黒人起業家は少ないのか?
   なぜ黒人起業家の割合はかくも低いのか
   黒人によるスタートアップの業績はどうだろうか
   なぜ黒人が保有するスタートアップの業績はよくないのか
   結論

 第十章 平均的なスタートアップ企業には、どの程度の価値があるのか?
   経済成長
   雇用拡大
   雇用の質
   結論

  結論
   起業の現実
   われわれは何をなすべきか 

  訳者あとがき
  註
  神話と現実


|

書評2011年」カテゴリの記事