書評2011年

2011.12.25

▽筑摩書房――それからの四十年

永江朗『筑摩書房 それからの四十年 1970-2010』(筑摩書房)

本書は、筑摩書房の社史です。

筑摩書房というと1978年に一度倒産しているため、1970年までが書かれた「三十年史」が唯一の社史となっていました。しかし、2000年代に入ってベストセラーを出すなど、少し余裕ができたのか、フリーライターの永江朗に委託して、その後の四十年史を書かせたのが本書です。

1978年の倒産当時、大学生として筑摩書房にあこがれを持っていた著者は、本書を書き終えた後、「あとがき」で次のように指摘します。

《倒産直前の筑摩書房は腐りきっていました。なかでも許しがたいのは「紙型再販」です。つまり、同じコンテンツの使い回し。紙型=印刷するときの元版を再利用して、あたかも新しい本であるかのように見せかけ、読者に売りつけようとしました。》(p.348)

では、著者は、現在の出版界をどうみているか。

《筑摩書房と同じようなことを、業界全体でやっているように思えてなりません。……同じコンテンツやオリジナルの劣化コピーとしか思えないような本ばかりが、ざくざく出ています。……このままでは、日本の出版界の一九七八年七月一二日が来るのではないか……。》(p.349)

筑摩書房といえば、メインストリームの出版社とは言えない独特の存在ではあるものの、本書は、出版界を写したネガ・フィルムとして読むことができます。

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2011.12.24

▽『古本道入門』――ブックオフの意外な使い方

岡崎武志『古本道入門 買うたのしみ、売るよろこび 』(中公新書ラクレ)

なんか知らないうちに「古本」に関する本が増えたような気がします。ブックオフによって古本に接する機会が増えたせいなのか、あるいは、単に出版業界のネタ切れだからなのか?

本書『古本道入門』の著者である岡崎武志の『気まぐれ古書店紀行』は、以前のエントリーで紹介しました。

▽気まぐれ古書店紀行
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/12/post-c27b.html

『気まぐれ古書店紀行』では、昔ながらの古書店が紹介されています。しかし本書では、著者の本音が吐露されています。

《町の古本屋さんに入って空振りの場合、私は店を出るとき、やっぱり心理的圧迫を感じる。知り合いの店主の店なら、隠れるようにこそこそと店を出ることもある。》(p.167)

しかし、ブックオフならば、そうした心理的圧迫はなく、著者は、毎日どこかのブックオフに足を運んでいるそうです。

著者は、「ブックオフが新旧の文庫を大量に流通させたことは、あえて言えば革命であった。」(p.166)とも指摘しています。

そして、消費者からの買い取りによって仕入れるブックオフには、かつてのベストセラーなど、同じ本がたくさん並ぶことがあります。このことによって、「自分が精通していないジャンルの本の売り上げ動向がひと目でわかる。」(p.176)と、ブックオフの著者なりの使い方を教えてくれます。

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2011.12.21

▽『鉄槌!』――弁護士の実態がおもしろい

いしかわじゅん『鉄槌!』(角川書店)

そういえば、あれ、どうなったんだっけ? の割と個人的な疑問が解けた、という話。

1990年代半ばに『創』という月刊誌で、漫画家のいしかわじゅんが『鉄槌!!』という連載をしているのを読んだ記憶があります。それは、スキー旅行の帰りに乗ったバスに雪の中置き去りにされた、という話をマンガで書いたところ、バスツアーの会社に訴えられ、その顛末を綴ったものですが、結末を知らないままになっていました。

そもそもの置き去り事件があったのが1989年1月で、訴えられたのが同年6月。和解したのが1992年10月。『創』での連載が1994年10月号からで、本書が刊行されたのが2000年9月、それを読んだのが2011年(笑)。

裁判が和解に至った経緯については、まあ、こんなところだろうな、という感じなのですが、話の本筋ではないものの本書が思っていた以上に面白く読めたのは、弁護士の実態について、ため息まじりに(笑)書いているところ。意外な結末まであって、とても面白い。なにかの機会があったら是非、読んでみてください。

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2011.12.20

▽ヤクザと原発

鈴木智彦『ヤクザと原発 福島第一潜入記』(文藝春秋)

本書は、『潜入ルポ ヤクザの修羅場』などのヤクザもので知られる鈴木智彦による正真正銘の福島原発の潜入ルポです。

▽『ヤクザの修羅場』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-c327.html

『ヤクザと原発』というタイトルの通り、いかに日本のヤクザが原発や、それに絡む利権に食い込んでいるか、を明らかにしていきます。

また、潜入ルポだけあって、実際に福島原発の事故処理に関わる人達の本音が引き出されていて、非常に興味深い記録となっています。

著者は、本書の出版にあわせて、外国特派員協会で記者会見を開いており、その一部は、インターネットで読むことができます。

▼冷温停止宣言の裏に潜む「ずさん工事」の現状
http://blogos.com/article/27119/
《原子力発電の是非はともかく、福島第一原発の現状は、はっきり言ってアウトの状態です。アメリカ軍が当初避難区域を80キロに設定しましたが、それが正しかったと思っています。数値を実測すると福島の中通りあたりは線量も高く、汚染もひどく、完全に管理区域です。一般人の立ち入りを禁止すべき場所です。にも関わらず、日本の基準はいわき市、福島市、郡山市の大都市を避難させないという前提の下で20キロに引かれたものであろうと思います。僕の取材した、全ての原子力関係の技術者は、「本来は住んではいけない場所に住んでいる」「原発の中で生活しているのと同じ」と言っています。》

また、本書の最後の方に十数行記載されているだけですが、どうも福島第二原発も、原子炉建屋が破壊されない程度の水素爆発があり原子炉(圧力容器)の底が抜けているのではないか、との疑惑も指摘されています。

原発事故の全貌が明らかになるのは、おそらく、ずっと先のことになるのではないかと思われます……。

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2011.12.19

▽金正日の正体

重村智計『金正日の正体』(講談社新書)

本日、「17日に金正日が死去した」ことが明らかになりました。しかし、2008年8月に上梓された本書では、2003年までに金正日は死去しており、影武者が代行している、という説を示しています。

つまり、2002年9月に、当時の小泉首相が訪朝した時には、金正日は生きていたが、2004年5月の再訪朝時には、影武者だった、ということになる。

そして、《「“今の将軍様”が死ぬまで後継者は決めない」》(p.218)という暗黙の了解が、北朝鮮の内部にあるという、2007年時点での証言も紹介されている。ここで言う、“今の将軍様”とは、もちろんその時点の影武者のことであり、集団指導体制のパワーバランスを崩さないためという。

にわかには信じがたい話であり、「金正日死亡・影武者説」は、本書の出版当時にも物議を醸したようです。ただ、北朝鮮については、わからないことも多く、これから事の真相が明らかになるのだろう、と思います。

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2011.12.18

▽放送禁止歌

森達也『放送禁止歌』(解放出版社)

1999年、フジテレビの深夜番組『NONFIX』で、

『「放送禁止歌」~歌っているのは誰?規制しているのは誰?~』http://www.fujitv.co.jp/nonfix/library/1999/368.html

というドキュメンタリーが放送されました。この番組は、Youtubeにもアップされています。

本書は、その番組の製作過程の舞台裏を綴りながら、あらためて、なぜ「放送禁止歌」が生まれてしまうのか、について考察したものです。

本書でも語られているように、「放送禁止歌」とは、民放連(日本民間放送連盟)が放送禁止と指定した楽曲である、とある種の通念のように信じられてきました。

民放連は、1959年から「要注意歌謡曲指定制度」を発足させました。民放連は「要注意歌謡曲」を指定し、放送にあたっては、各放送局が判断しておこなうとされたものでしたが、これが一人歩きしてしまいます。さらに、この制度自体は1983年に廃止され、それ以来、「要注意歌謡曲一覧」は更新されていません。何より驚かされるのは、多くの放送関係者が、「放送禁止歌」とみなしている曲のほとんどは、この「要注意歌謡曲一覧」には含まれていないことが、本書で、あきらかにされます。

つまり、「放送禁止歌」のほとんどは、放送局が過剰な自主規制をしてしまったことから生まれてきたということができます。

では、なぜ、このような事態が起きてしまうのか? 本書では、この問題に関わっている人達が同じようなことを繰り返し語っています(以下の引用では、個人名は省略しました)。

・民放連
「最終的な判断をするのは、放送主体である放送局なのです。しかしどうもこの部分が誤解というか一人歩きしてしまい、いまだに民放連が規制の主体であると思いこんでいる人は多い」(p.50)

・フジテレビ番組考査室部長
「この問題はね、実はシステムの問題じゃない。結局、制作者一人一人の問題なんです。……規制に対して異議があるのなら、議論を挑んでくればいい。規制はマニュアルではありません。……」(p.59)

・解放同盟
「……皆が、自分の頭で、考えようとしていない。……だからでしょう」
「自分の言葉と言い替えてもいい。要するにマニュアルや他人の判断を鵜呑みにしないで、自分自身で考えるという当たり前のことがなされていない。特にマスメディアの方々に対して、私はその思いを強く持っています」(p.65)

・フジテレビ編成局長
「ひと昔前に比べればテレビのタブーは確実に増殖しているという実感を僕は持ってます。量だけじゃない。質も悪くなっている。
 抑えつけたタブーがタブーを再生産している。表現とは本来甘いものじゃない。血だらけになってもやるものだと思うし、特にジャーナリズムの現場にいる人間は、タブーに対してもっと闘う姿勢を見せるべきだと思う」(pp.98-99)

・音楽評論家
「レコード会社の若い社員なんか、歌詞の何が問題なのか知らず、言われるがままに機械的にやっている人がほとんどですよ。表現行為にかかわる以上、異論や反論を浴びることは当然覚悟しなくてはならないはずなのに、でも彼らにはそんな意識や覚悟はみじんもない」(p.145)

「自分の頭で、考えようとしていない」というのは、放送禁止歌だけではなくて、最近のマスコミやジャーナリズム、あるいは日本社会のいろいろなところで感じられる事態であると思います。

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2011.12.16

▽気まぐれ古書店紀行

岡崎武志『気まぐれ古書店紀行』(工作舎)

『彷書月刊』という古書と古書店をテーマにした情報誌がありました。1985年9月に創刊されたのですが、残念ながら2010年10月号に休刊となったそうです。

本書は、岡崎武志が『彷書月刊』に連載した古書店めぐりのコラムをまとめたものです(2006年2月刊行)。

古書店というのは、出版社→取次→書店→読者という流通ルートの終着点にたどりついた本を、ふたたび読者に届ける役割を担っています。最近は、ブックオフなんかの古本チェーン店が幅をきかしていますが。

本書には、さまざまな個性を持つ古書店が多数紹介されています。知ってる古書店も登場したりしていて、なかなか面白く読めますね。

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2011.12.15

▽どすこい出版流通

田中達治『どすこい出版流通』(ポット出版)

ISBNというものをご存知でしょうか?

本の奥付やカバーに記された識別番号のようなもので、出版物の発行された国や出版社などを指し示します。

これは、一つ一つのタイトルに固有に割り振られた番号だと思っていたのですが、『どすこい出版流通』によると、国と出版社を意味する部分以外は、それぞれの出版社が勝手に割り振っており、タイトルと番号を結びつけるデータベースは存在しないそうです。

《現実には同じコードで複数の本があったり、あるいは同じ本なのにいくつものコードを持っていたり、ないはずの会社のコードのついた本があったりで、そうとうにヤバイ状態らしいのである。》(p.114)

さらに、大量に返品された本に新しいISBNを割り振って新刊として再出荷したり、最終桁の自動的に決められるチェックデジットを社内用の分類番号として勝手に使用している出版社もあるそうです。

本書は、筑摩書房の「営業通信」をまとめたもので、著者は2007年10月に亡くなられている。本書には、出版流通の問題点が率直に記されています。

ISBNの問題にしても、流通の管理に不可欠な識別番号に欠陥があっては、どうにもなりませんよね。こうした出版流通の改善に着手すれば、まだまだ出版業にも効率化の余地は残されているのではないかと思います。

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2011.12.14

▽グッドセラーを生み出す力とは……『書店ポップ術』

梅原潤一『書店ポップ術―グッドセラーはこうして生まれる』(試論社)

梅原潤一『書店ポップ術 グッドセラー死闘篇』(試論社)

前回のエントリーでは、《紙の出版事業は、返本リスクを「広告宣伝費」とみなしうる、出版物の広告宣伝事業》と定義してみました。

▽誰でも電子書籍は作れるが……
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/12/post-9176.html

そして、紙の本には、売ろうとする力も働きます。それは、出版社の負担する広告宣伝費とは別の力……、そう、小売業者、つまり書店員の本を売りたいという気持ちが、さらに、本を売れゆきを後押しすることになります。これが、電子書籍にはまだまだ欠けているもの、ということが言えます。

『書店ポップ術』の二冊は、有隣堂のマネージャーが「面白い」と感じた本につけてきた手書きの店頭広告「ポップ」――「購買時点広告」と呼ぶそうです――を集めたもの。

《自分が「面白い」と思う作品をポップで仕掛けて、書店のお客様に「面白そう」と手にとってもらい、その結果、それが売れてくれればすごく嬉しい。》(p.186)

こういう売り手の力を――もちろん、「嬉しい」だけではなく、営業上の利益も含めて――電子書籍は取り込むことができるかどうかが重要な課題になってくると思います。

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▽誰でも電子書籍は作れるが……

米光一成x小沢高広x電子書籍部『誰でも作れる電子書籍』(インプレス)

2010年に起きた、何度目かの「電子書籍元年ブーム」のさなかに出版されたのが本書。

著者らは、口先だけの煽り屋ではなく、電子書籍を対面販売する「電書フリマ」なども開催している実行派。巻末には、電子書籍に関する書籍の紹介や、電子書籍作成ソフトの紹介もある。

なるほど電子書籍の可能性はよくわかります。

しかし……。

最近、以下のようなツイートをみかけました。これは、いまだに人気のある漫画「キン肉マン」の原作者が、ウェブ版の連載を始めたものの、期待通りには読まれていないので、読んでね、と呼びかけているものです( http://togetter.com/li/199730 )。

《「キン肉マン・ザ・マシンガスンズ空白の三日間」大傑作なんですがWebなんでなかなか読んでくれる方少ないんで応援よろしくお願いします。》

これに対して、ある読者が次のような返事を寄せています。

《ぶっちゃけますが、週プレに連載されていたキン肉マン2世含め、紙の雑誌だと買ってでも毎週読んでた漫画が、Web連載に変わってから「無料なのに、前より全然読まなくなった」のは事実でした。毎週読むつもりなんだけど、本屋やコンビニで目に付かないから忘れちゃうんですよね・・・》

さらに

《電子書籍とかが「紙と同じ値段だと割高感がある」とか、「携帯からの課金が面倒」とか色々問題があるのは事実として、ただそういう表面的な問題よりも、「そもそも無料でも読まない」って自分の実体験を通して難しい部分があると思った》

要するに、「目に付かないから忘れちゃう」ことが電子書籍の致命的な欠点といえるかも知れません。

これをどう考えるか?

紙の出版物は、目に触れる機会が多いので、買ってくれる人がいる。だからといって、無限に印刷して配本できるわけではない。なぜなら、返本された場合には利益が減るからである。

つまり、紙の出版事業とは、返本リスクを「広告宣伝費」とみなしうる、出版物の広告宣伝事業ではないか、と。

だから、いくら優れた電子書籍を作っても、広告宣伝には、それなりの費用をかけなければ売れないのであり、また、そのコストを上回る利益を上げないと事業としてはなりたたないのではないか。

要するに、電子書籍は誰でも作れますが、それを採算にあう事業として運営していくのは、まだまだ難しいのではないかと思います。

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2011.12.13

▽ベストセラーだって面白い……はず

岡崎武志『ベストセラーだって面白い』(中央公論新社)

《書店では、有名人の書いた本、テレビ関連本、そしてすでに売れているベストセラーを選ぶ。それならリスクはない。つまり「安心」を買う、わけだ。やれやれ。》(p.14)

書籍に関する著作の多い岡崎武志が、新聞や雑誌に連載したベストセラーに関する考察を一冊にまとめたものが本書である。本書には2001年から2007年10月までのベストセラーが紹介されているが、編集の都合なのか、掲載時期が前後している章がある。

本書は、著者が、書評というよりも、「現代社会の時評コラムという性格が強く」(p.2)と言うのであるから、ここはやはり時系列に沿って並べるべきではなかったか。気になる方は、巻末の初出一覧を見て、読む順番を考えた方がよいかもしれない。

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2011.12.12

▽落合博満 変人の研究

ねじめ正一『落合博満 変人の研究』(新潮社)

本書は、詩人のねじめ正一が、愛すべき変人である落合博満について、2007年にドラゴンズが日本一になった後に行ったインタビューや、落合語録の考察などをまとめたものです。

ああ、こういう見方もあるのか、と落合マニアには、なかなか楽しめますが、特に、私が気になったのは、漫画家・高橋春男の次のような発言。

《高橋 岩瀬の使い方をみていても、落合は兵隊を指揮しているのと同じじゃないの。もう、命令には有無を言わさず、お前だ、と。……だから、落合中日だけが、戦争しているわけ。》(p.119)

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    .ノヽ_゙ミ/ `、-'"_ノ     `:、
    /、_"__ .i ク '~~____`ニ-    ゙、
    | i __.`ヽ-" ̄___ 'ヾ     i
    |ノ <__,>.へ、 <_> |l    | 
    /`--";  ゙ヽ-----l|    .i
   ノ'!、  .,〟.,,,,、      ノ、、   i.
   /,,;:i   ' `゛  `      ヽ   `、
  ノ,,;:;:ヽ _,.=ニニニ=__,、     ゙゙ヽ   .>
  `'ヽ;:;:i   `¬―'´     ノ  |;;:゙゙シ"
    '゙ヽi,        ,/   |;:ツ''
       )`ー---― '"

落合が、ガンダム好きな理由がわかったような気がしますね……。

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2011.12.05

▽『神と悪魔の薬サリドマイド』

トレント・ステフェンxロック・ブリンナー『神と悪魔の薬サリドマイド』(本間徳子訳、日経BP社)

1950年代に睡眠薬として発売されたサリドマイドは、世界的な薬禍をもたらした「悪魔の薬」だった。本書の前半は、薬害を引き起こした製薬会社と、その責任を認めさせようとする被害者の家族や医者やジャーナリズムとの闘いに紙幅が費やされている。

サリドマイドは、いったんは薬害の歴史の中に押し込まれたかのように思われた。しかし、この「悪魔の薬」は、ハンセン症やエイズに関わる病気をはじめ、多くの病気に効く「神の薬」として甦ったという。

サリドマイドの薬禍のメカニズムをつきとめた医師トレント・ステフェンと、歴史家ロック・ブリンナーによる迫真のドキュメントである。

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▽亡国の宰相

読売新聞政治部『亡国の宰相――官邸機能停止の180日』(新潮社)

「亡国の宰相」とは、ひどい言われようですが……、まあ、そう言われても仕方ないかな……(笑)。菅直人が総理大臣になった時には、

『菅直人 市民運動から政治闘争へ 90年代の証言』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-5424.html

が売れていたので、それなりに期待はあったのでしょうが、なにが間違いだったのでしょうか? 読売新聞政治部が記した本書は、東日本大震災と福島原発事故以来の政治のゴタゴタの記録としてはよくできているとは思いますが、この重大な疑問点についての解答は得られていないようにも感じられます。

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2011.12.02

▽ベルリン 地下都市の歴史

ディートマール&イングマール・アルノルト、フリーデル・ザルム『ベルリン 地下都市の歴史』(中村康之訳、東洋書林)

以前、『ニューヨーク地下都市の歴史』という本を紹介したことがあります。

▽モグラびとのその後――『ニューヨーク地下都市の歴史』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/08/post-9199.html

この本の原題は、"Der Undergrund Von New York"というものでしたが、今回紹介する『ベルリン 地下都市の歴史』の原題は"Der Undergrund Von Berlin"です。

ベルリンの地下には、鉄道、郵便、上下水道、醸造所などからなる壮大な地下空間が作り上げられていました。さらに、第二次大戦中にはヒトラーが最期の時を過ごした地下室、冷戦期に東西の諜報員や、東から西への亡命者が使ったトンネル、そして、闇社会の人々が文字通り暗躍する空間が作り上げられてきました。

そんなベルリンの18世紀からの地下の歴史を豊富な写真とともに紹介する、地下マニア(笑)にはたまらない一冊です。

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▽日本人をやめる方法

杉本良夫『日本人をやめる方法』(ほんの木)

世界的にも著名な文化人類学者である杉本良夫(豪ラ・トローブ大学名誉教授)が、1989年に書いたエッセイなどをまとめたのが本書で、発行は1990年。

《「日本人をやめる」とは、日本国籍を放棄するということを直接意味しているのではない。むしろ、日本社会を息苦しくさせている構造、日本文化のなかで自由や自発性を奪いがちな仕組み、日本人の習慣のなかの望ましくない要素などをゴメンだとする行為全般を指している。これには、「闘争」と「逃走」のふたつのあり方があると思う。もちろん、日本国内に住んで、日常生活のレベルで抵抗するという「闘争」の道が、本筋である。私は日本から「逃走」するという亜流の道の方を選んだが、そちらの方がよろしいなどという気は毛頭ない。》(p.20)

そして、著者の体験してきた、「亜流の「逃走」型の方に焦点をすえて書いてみた」(同)のが本書である。

しかし、もとになったエッセイが書かれた1989年というと日本経済が絶頂期にあった頃で、世界中が日本礼賛論に包まれていた頃。そして、「失われた20年」を経て、日本礼賛論は消え去ったものの、本書で指摘されているような「日本社会を息苦しくさせている構造」は、かわっていないどころか、より強固になっている気もします……。

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2011.12.01

▽〈起業〉という幻想――アメリカン・ドリームの現実

スコット・A・シェーン『〈起業〉という幻想――アメリカン・ドリームの現実』(白水社)

経営学者スコット・A・シェーンによる、アメリカにおける起業にまつわるいくつかの幻想を、信頼できるデータに基づいて打ち砕いていく。三人の翻訳者(谷口功一、中野剛志、柴山桂太)に、『TPP亡国論』で知られる中野剛志が含まれています。

本書のイントロダクション(pp.24-25)では、本書の内容の要約として、次のような指摘がされています。

●アメリカは、以前に比べるなら起業家的ではなくなって来ている。一九一〇年と比べるなら、全人口に占めるビジネスの創業者の割合は低下している。

●アメリカが、格別に起業家的な国というわけでもない。ペルーは、アメリカよりも三・五倍の割合で新たにビジネスを始める人がいる。

●起業家は、魅力的で目を惹くハイテク産業などではなく、建設業や小売業などのどちらかというと魅力の薄い、ありきたりの業種でビジネスを始める場合のほうが多い。

●新しくビジネスを始める動機のほとんどは、他人の下で働きたくないということに尽きる。

●仕事を頻繁に変える人や、失業している人、あるいは稼ぎの少ない人のほうが、新しいビジネスを始める傾向にある。

●典型的なスタートアップ企業は、革新的ではなく、何らの成長プランも持たず、従業員も一人(起業家その人)で、一〇万ドル以下の収入しかもたらさない。

●七年以上、新たなビジネスを継続させられる人は、全体の三分の一しかいない。

●典型的なスタートアップ企業は、二万五〇〇〇ドルの資本しか持たず、それはほとんどの場合、本人の貯金である。

●典型的な起業家は、ほかの人よりも長い時間労働し、誰かの下で雇われて働いていた時よりも低い額しか稼いでいない。

●スタートアップ企業は、考えるよりは少ない仕事(雇用)しか産み出さない。創業以来二年未満の会社で働く人が全人口の一%であるのに対して、十年以上の会社で働く人は六〇%を占める。

とまあ、まさに起業の幻想を打ち砕くような事実のオンパレードなんですが、私が、本書でなるほど、と思わされたのが次のような指摘。

《マイケル・デルがテキサス大学の寮で数十億ドル規模の会社を創設したというような話は、多くの人に、若者の方が起業家として成功しやすいような印象を与える。……しかし、データによれば、成功した起業家になる、このような若者の話は、極端な事例にすぎない。平均的には、四十五歳から五十四歳の間で始めたビジネスは、三十五歳以下よりも業績がいいのである。》(p.166)

説得力のある調査で、問題の設定自体が面白い。また、アメリカの事例ですが、リアリティのある話は、むしろこれから起業しようとする人にも役に立つのではないかと思います。

[目次]
  謝辞
  イントロダクション
   起業とは何か
   起業に関するイメージ
   神話を信じ込んでいるとどうなってしまうのか
   本書を読むべきなのは誰か
   本書ではどのような問題を取り扱うのか/たとえば

 第一章 アメリカ──起業ブームの起業家大陸
   起業家の数は増えていない
   アメリカでの起業は低調である
   国によってスタートアップの数が多くなるのはなぜか
   国内でスタートアップが占める割合の相違
   地域間の起業の違いを説明するのは何か
   結論

 第二章 今日における起業家的な産業とは何か?
   どのような産業分野で起業家はビジネスを始めるのか
   なぜ特定の産業が起業家の間で人気なのか
   結論

 第三章 誰が起業家となるのか?
   起業家のマインド
   なぜビジネスを始めるのか
   起業家は“優れた”人間なのか
   起業家になることは若者の専売特許なのか
   実社会で痛い目に遭うことがビジネスを始める導きなのか
   専攻が重要なのか
   経験の重要さ
   生粋の地元育ちよりも移民のほうが起業家になりやすいのか
   コネより知識
   結論

 第四章 典型的なスタートアップ企業とは、どのようなものなのか?
   新たなビジネスのほとんどはとても平凡である
   たいていのスタートアップは革新的ではない
   たいていのスタートアップはごく小規模である
   成長を目指すビジネスはわずかである
   新たなビジネスの多くは競争優位を欠いている
   半数は在宅ビジネスである
   起業家はどのようにしてビジネスアイデアを思いつくのか
   起業家はどのようにビジネスアイデアを評価しているか
   ビジネスを立ち上げる
   会社立ち上げは成功例よりも失敗例のほうが多い
   チームで起業?
   結論

 第五章 新たなビジネスは、どのように資金調達をしているのか?
   ビジネスを立ち上げるのにどれくらいのお金が必要なのか
   主な資金源は創業者の貯金
   お金持ちのほうが起業しやすいのだろうか
   個人的な負債
   どんな企業が外部資金を獲得するのか
   負債か株式か
   スタートアップは銀行から借り入れできるのか
   外部からの株式資本による資金調達
   ベンチャー資本はあなたが考えるほど重要ではない
   ビジネスエンジェルの実像
   結論

 第六章 典型的な起業家は、どのくらいうまくやっているのか?
   典型的な新たなビジネスは失敗する
   ビジネスから撤退する
   起業家はそれほど儲からない
   起業によるリターンは不確実である
   起業家は投資資金に対する追加的なリターンを得られない
   起業家はベンチャーの展望について過剰に楽観的か
   ごく少数の起業家が大成功を収める
   創業者の満足
   結論

 第七章 成功する起業家とそうでない起業家の違いは何か?
   時間とともに容易になる
   どの産業で、ということが非常に重要
   ほとんどの起業家は愚か者なのか
   ほかにやるべきことは何か
   よりよい起業家になるための準備は可能だ
   正しい創業の動機を持て
   結論

 第八章 なぜ、女性は起業しないのか?
   女性はあまり起業家にならない
   なぜ女性起業家の割合は低いか
   女性のスタートアップの業績は
   なぜ女性が創業したビジネスの業績は貧弱なのか
   結論

 第九章 なぜ、黒人起業家は少ないのか?
   なぜ黒人起業家の割合はかくも低いのか
   黒人によるスタートアップの業績はどうだろうか
   なぜ黒人が保有するスタートアップの業績はよくないのか
   結論

 第十章 平均的なスタートアップ企業には、どの程度の価値があるのか?
   経済成長
   雇用拡大
   雇用の質
   結論

  結論
   起業の現実
   われわれは何をなすべきか 

  訳者あとがき
  註
  神話と現実

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▽ノーベル賞はこうして決まる

アーリング・ノルビ『ノーベル賞はこうして決まる』(千葉喜久枝訳、創元社)

ノーベル賞の暴露本かと思ったら、いたって真面目な本でした。タイトル通り、ノーベル賞選考のプロセスを詳述したものです。

著者の専門がウイルス学ということもあって、本書の記述の中心は、自然科学賞三賞のうち生理学医学賞と化学賞で、門外漢にはちょっと難しいですね。また、物理学賞や文学賞、平和賞、経済学賞については簡単に触れられているだけです。

ところで、ノーベル賞の選考過程は厳密に秘密が守られていて、授賞から五十年たたないと選考に関する文書は公開されないそうです。そうした選考関連の文書はスウェーデン語で書かれている上に、閲覧できるのは学術研究者に限られているとのこと。

文学賞、平和賞、経済学賞などの物議を醸しそうな賞の選考過程が公になることはこれからもなさそうな気もしますね。

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2011.11.29

▽2011年に当ブログで売れた本

2011年も、残すところ、あと一ヶ月となりました。ちょっと早いのですが、2011年に当ブログで売れた本十傑を紹介します。

まあ、ランキングをつけるほどは売れていないので、あくまでも十傑ということで・・・・・・。

2011年は、原発、日本中枢の崩壊、落合、の三つのキーワードで象徴されうる年だったと思います。

▽当ブログで売れた本――2011年原発関連
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/05/2011-fe88.html

▽『日本中枢の崩壊』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-0342.html

▽落合監督ご苦労様でした
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/11/post-ddf4.html

企業ものでは、あいかわらずアップルとソニー、そして、版元に対して暴挙とも言える2億2000万円ものスラップ訴訟を起こした恥知らずなユニクロの関心が高いですね。

▽iPhoneができるまで――『スティーブ・ジョブズ II』より
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/11/iphone-ii-0c71.html

▽ストリンガー戦記――『さよなら! 僕らのソニー』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/11/post-defe.html

▽ユニクロの本質とは?――『ユニクロ帝国の光と影』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-fdd6.html

また、医療関係の本は、当ブログではあまり紹介していないのですが、下記の本や、医療関連の書籍を購入される方も多くいらっしゃいます。

▽『逸脱する医療ビジネス』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/01/post-9b58.html

以下の三つは、当ブログでも定番と言えるもので、コンスタントに売れ続けています。

▽インテル・インサイドとアップル・アウトサイド――技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-feeb.html

▽シビックプライド――ヨーロッパにおけるケーススタディ
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/12/post-d65f.html

クックパッドのビジネス・モデル
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/news/2011/05/post-b35e.html

当ブログで取り上げる本のコンセプトは、基本的には「クロス・カルチュラルなノンフィクション」です。もちろん例外もありますが、ノンフィクションで異文化がクロスするような内容のもの、あるいは、時代の転換点(古い文化と新しい文化が衝突、交錯する時代)を分析するようなもの、が中心です。

献本もお待ちしていますので(笑)、ここをご覧になられている出版社の方がいらっしゃったら、右カラム上の「メール送信」のところをクリックしてご連絡いただければ幸いです。

では、これからもいっそうの内容充実をめざして精進しますので、今後ともご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

[参考]
▽当ブログで売れた本――2009年
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/12/2009-dd61.html
▽当ブログで売れた本――2010年上半期
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/08/2010-0d88.html
▽当ブログで売れた本――2010年下半期
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/12/2010-9982.html
▽当ブログで売れた本――2011年原発関連
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/05/2011-fe88.html
▽当ブログで売れた本――2011年上半期
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/2011-fe42.html

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▽TV局所在地と視聴率の意外な相関――『代官山 オトナTSUTAYA計画』

増田宗昭『代官山 オトナTSUTAYA計画』(復刊ドットコム)

前回のエントリーでは、TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の増田宗昭の創業からディレクTVの挫折までを紹介しましたが、

▽TSUTAYAの創業とディレクTVの失敗から学んだこと――『情報楽園会社』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/11/tsutayatv-9c96.html

本書は、その続編とも言えるもので、現在、CCCが代官山で進行中のプロジェクト“オトナTSUTAYA計画”( http://www.ccc.co.jp/daikanyama/ )のコンセプトについて語っているものです。

“オトナTSUTAYA計画”は、代官山の旧水戸徳川家の屋敷があった広大な土地に、TSUTAYAの店舗を核とした文化的なショッピング・モールと公園をつくるというもの。オープンは、当初計画の2011年夏よりも、遅れているようですが……。

本書で興味深かったのは、文化的発信力と立地の関係を考察した第十六章「TV局所在地と視聴率の意外な相関」。

たとえばフジテレビ。1982年から12年連続で「視聴率三冠王」を獲得してきたが、1997年のお台場移転前後から視聴率低下。1994年から2003年までは日本テレビに三冠王の座を奪われた。しかし、その日本テレビも、2003年の汐留移転以降は、視聴率の低迷が続いている。

この2社と対照的なのが、2003年に本社を六本木ヒルズに移転したテレビ朝日。万年4位だった視聴率が急上昇し、2005年にはプライムタイムの視聴率で、初めて2位につけたという。

《見方はさまざまだろうが、私には、本社が位置する場所が番組の質に影響を与えているとしか思えない。……企画とは、すなわち情報の組み合わせだ。だから企画に携わる会社は、情報が流れる場所のできるだけ近くにオフィスを置く必要がある。》(p.132)

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2011.11.28

▽TSUTAYAの創業とディレクTVの失敗から学んだこと――『情報楽園会社』

増田宗昭『情報楽園会社』(復刊ドットコム)

《個人で二百億の負債を背負い、責任を持って会社を運営しようとしても、理解されず、説得できないと悟った時、この戦いは負けるかもしれないと思った。負けるということは、二百億円の借金が残り、CCCを失うということだった。そう思った瞬間から、目で見る風景から立体感がなくなり、写真のように見えるようになった。さらに、においを感じないし、自分で話している声がずっと遠くのほうで聞こえてくる。すべての五感が狂いだし、その当時はたぶん精神的におかしくなっていたんだと思う。
 人生終わったな。そう思った。》(pp.265-266)

本書は、1996年に刊行された『情報楽園会社』に、加筆修正したもので、「TSUTAYAの創業とディレクTVの失敗から学んだこと」というサブタイトルがつけられている。

1996年版では、TSUTAYAの創業から全国展開までの体験談と、これから始まるディレクTVの夢を語ったところで終わっている。しかし、1996年に放送を開始したディレクTVは2000年には終了してしまい、わずか4年の命だった。

成功譚と失敗譚、いずれも示唆に富む一冊である。

[目次]
第1章私の企業事始め
誰もがすぐ理解できるキーワードを探せ
ビデオは本である
「売上げゼロ」からの発想

第2章 カルチュアコンビニエンスの時代
 レンタルビジネスは金融業である
 消費とは選択である
 情報ショップのCD-ROM化

第3章 知的情報革命を見切る
 知的モノ不足の時代
 何を、どう「見切る」か
 これからの市場をリードする世代

第4章 起業家・二つの宇宙
 「内なる宇宙」の声を聴け
 企業を立ち上げていく原則
 サラリーマン時代の十年間

第5章 企画会社だけが生き残る
 企業に組織は必要か
 企画とは何か
 企画会社の条件とは何か
 組織より個人重視の時代

第6章 起業のプログラム
 私の創業精神
 蔦屋書店の出店企画書
 信用をつくる
 「四つの得」と「セオリーC」

第7章 フランチャイズビジネスの考え方
 フランチャイズはなぜ失敗するか
 資本金百万円の会社に一億円のコンピュータ
 フランチャイズ三つのパワー

第8章 ネットワークヴァリューの威力
 情報を共有する仕組み
 文化を売るためのノウハウを売る
 情報をデータベース化する

第9章 経営者の立場、社員の立場
 仮説を立てて失敗しろ
 「やる」といった人間にまかせる
 大事なのは人間としてのハートの奥深さ

第10章 デジタル情報革命と心の時代
 大企業信仰と心の喪失
 精神的なひもじさがいちばんつらい
 私が戦う土俵

第11章 TSUTAYAがつくるネットワーク社会
 マルチメディア化の流れをどう取り込むか
 パッケージからノンパッケージへ
 理解するにはまず体験せよ

第12章 ディレクTVへの進出
 世界最大のビデオレンタルシステム
 レントラックの窮地を救う
 ディレクTVとの衝撃の出会い

第13章 テレビの意味を変えるディレクTV
 二百チャンネルのデジタルテレビ
 マルチメディア時代のビジネスチャンス
 デジタル衛星放送は何が違うか

第14章 私が考える「楽園」づくり
 ゴードン・ムーアが予言した世界
 個人を幸福にする「楽園」づくり
 私自身のための「楽園」

あとがきにかえて

第15章 ディレクTVの失敗から学んだこと
 「楽園」の崩壊
 「楽園」の裏側
 「拒否権」の恐ろしさ
 ディレクTVの失敗で失ったもの
 経営とは失敗の許容である
 ディレクTVの失敗で得られた人脈、そしてナレッジ

本書復刊によせてのあとがき

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▽『弱い日本の強い円』と『日本の破綻を防ぐ2つのプラン』

佐々木融『弱い日本の強い円』(日経プレミアシリーズ)

小黒一正x小林慶一郎『日本の破綻を防ぐ2つのプラン』(日経プレミアシリーズ)

話題の経済書二冊より。

一つ目は、佐々木融『弱い日本の強い円』。為替のわかりにくい部分を、わかりやすく書いてあるものの、やっぱり、どうにもわかりにくい(笑)。というか、そもそも為替を決定づける単一の要因などはないことに、そのわかりにくさは起因するのですが……。

ところで本書の中で気になったのは、103ページの《これを「デフレ」と呼ぶべきか?》のグラフ。

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《ここで指摘したいのは、過去約20数年の間、日本はデフレスパイラルどころか「長期間デフレで悩まされている」と言えるかどうかも微妙な状態にあったということである。実は、単純に「物価が安定していた」だけと言えなくもないのである。》(p.104)

ねぇ……。

もう一点、興味深かったのは、日銀が2001年3月から2006年3月まで実施した量的緩和と円安の関係。

《円キャリー・トレードを背景とした「円安バブル」が本格的に進展していたのは、日銀が量的緩和政策を解除した後だったのである。……日銀の量的緩和政策終了前後で円安が加速していった理由は、日本と他国の金利差が拡大していったからなのである。》(pp.191-193)

なるほど!

もう一冊は、小黒一正x小林慶一郎『日本の破綻を防ぐ2つのプラン』。すでに日本の公的債務は危機的な水準にまできている。本書は、この公的債務の削減を図る2つのプランを提案している。

一つは、世代間の不公平を是正し持続可能な財政・社会保障を構築させるためのもっとも適切な正攻法(プランA)であり、もう一つは、マクロ経済政策による財政破綻の回避とダメージ緩和策(プランB)である。

具体的なプランについては、本書を参照していただきたいが、そもそも、この公的債務が積み上がった根本原因は何だろうか? 本書では、1980年代のバブルが崩壊したことによって発生した数百兆円にものぼる不良債権にあった、と指摘する。

《つまり、日本の90年代の景気対策も、民間のバランスシートの穴を政府部門に移転するプロセスだったと理解することができる。政府負債(国と地方の長期債務残高)は、90年代初めの約250兆円から現在の約850兆円までこの20年で増えている。そのかなりの部分は、バブル崩壊で民間のバランスシートにあいた穴(過剰債務)を政府がかき集めて肩代わりしたものだとみなすことができよう》(pp.165-166)

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2011.11.27

▽『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』

『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』(山と渓谷社)

2009年7月、北海道大雪山系のトムラウシ山で、18人の登山パーティーが暴風雨に遭遇し、ガイドも含め8人が低体温症で凍死するという夏山登山史上最悪の遭難事故が起きた。旅行会社の企画した登山ツアーということもあり、凍死したツアー客はウインドブレーカーなどの軽装だった、と報じられた。

しかし、実際にパーティー参加者に取材した本書によると、参加者の多くは、山登りの経験も豊富で、「参加者の装備にこれといった手落ちは見られなかった」(p.65)という。つまり、この事故は登山初心者の遭難という単純な事故ではなく、その原因は、もっと深いところにあったのではないか。本書が書かれた意図はその点を明らかにすることにある。

犠牲者のご冥福をお祈りするとともに、本書が、同じような事故を繰り返さないための教訓になることを願ってやみません。

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2011.11.23

▽だんしがしんだ――『落語評論はなぜ役に立たないか』

広瀬和生『落語評論はなぜ役に立たないか』(光文社新書)

立川談志の訃報とともに、以前、読んだもののそれっきりになっていた本書を思い出しました。

『落語評論はなぜ役に立たないか』というと、1983年に落語協会を脱退した立川談志が旗揚げした「立川流」は、落語のインナーサークルからははみ出した存在であり、落語評論家は、立川流の落語家を取り上げようとしないからだ、というのが本書の主張です。

立川流ができてから30年以上たっているにもかかわらず、いまだにそういう因習にとらわれているのかと思った次第。

というわけで、偉大な落語家の死に、合掌

[参考]
▽談春が見た志らく
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/01/post-8359.html
▽志らくが語る談志と談春
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/06/post-cb65.html

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2011.11.20

▽落合監督ご苦労様でした――『采配』

落合博満『采配』(ダイヤモンド社)

落合博満監督率いる中日ドラゴンズは、惜しくも日本一は逃してしまいましたが……。

それでも、史上まれに見る低打率の貧打線ながら、それを投手力でしのいで、ペナント・レース、クライマックス・シリーズ、日本シリーズを闘った采配の妙。

8年間で、連続してAクラス、リーグ優勝四回、球団史上初の連覇、日本シリーズ出場五回、日本一一回を記録した落合博満の指揮官としての考え方が凝縮された一冊です。

落合監督は、野手出身の監督ということもあり、ピッチャーに関しては投手コーチの森繁和に全権を委任していたことはよく知られています。試合当日になるまで、誰が先発になるか知らなかったというほどのお任せぶりだったそうです。

しかも、本書によると、森繁和コーチとの接点は、社会人時代の全日本チームで一緒にプレーしたことがある、というだけで、お互いに、それほどよく知った間柄ではなかったそうです。それでも、ピッチャーに関しては任せきってしまったのは、すごいといえばすごい話ですね。

また、2010年の日本シリーズの時に書いたエントリー

▽落合博満伝説
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/11/post-e860.html

で紹介した今中慎二『中日ドラゴンズ論』には、次期監督の高木守道の人となりも触れられています。

後任の高木さんも、いい人なんですけどね……。

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▽ストリンガー戦記――『さよなら! 僕らのソニー』

立石泰則『さよなら! 僕らのソニー』(文春新書)

ジャーナリストの立石泰則は1994年からソニーについての取材を継続して行っている。本書は、出井時代のソニーに期待しながらも、その後を継いだストリンガー時代に失望させられた著者の、ソニーに対する決別の書である。

まあ、まだソニーは復活する可能性も残ってるわけですから、「さよなら!」などと簡単に見捨てちゃあ可哀相だとは思いますが……。

私が、興味深く読んだのは、第六章以降のストリンガー時代の内幕について。

2005年3月、当時の出井社長は、対立する久夛良木副社長と刺し違えるかたちで退任し、ストリンガーを会長兼CEOに任命した。

その頃、ストリンガーはソニーを辞めて家族の住むイギリスでリタイアしようと考えていた。つまり、おおかたの見方はストリンガーは、あくまでもワンポイント・リリーフであった。

《ストリンガー氏をのぞく出井氏を始めソニーの幹部のほぼ全員が、ストリンガー氏のCEO任期を二年ないし三年、長くても数年と見なしていた》(p.214)

しかし、その後、ストリンガーは、着々と自分の腹心の部下を配置するとともに、発言力のあったOBを排除し、ついに2009年に会長と社長を兼務するCEOとして君臨するようになった。本書では、社外取締役を籠絡した、とも指摘されている。

ストリンガーは、ソニーの中核事業だったエレクトロニクスよりも、コンテンツをネットワークで結びつけるビジネスを重視しているが、そのビジネス・モデルは、まだ構築できていないようだ。

さて、ソニーの復活はなるかどうか。

[目次]
第1章 僕らのソニー
第2章 ソニー神話の崩壊
第3章 「ソニーらしい」商品
第4章 「技術のソニー」とテレビ凋落
第5章 ホワッツ・ソニー
第6章 黒船来襲
第7章 ストリンガー独裁
最終章 さよなら! 僕のソニー

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2011.11.15

▽カロリーベース自給率というまやかし

浅川芳裕『日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 』(講談社プラスアルファ新書)

少し前に、『日本の農業が必ず復活する45の理由』を紹介しましたが、

▽小沢一郎と農協との戦いとは?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/11/post-cfee.html

本書『日本は世界5位の農業大国』も、同じ著者によるもので、出版時期は2010年2月で、昨年話題になった本です。

日本の農業は自給率も低く弱々しい……というイメージをデータで覆していきます。特に、「カロリーベースの自給率」という指標を採用しているのは日本だけであり、農業予算を獲得するためだけに農水省がでっち上げた「ヒット商品」だった……。

しかし、本書のように、データと国際比較をもとにしながら、「カロリーベース自給率」なる虚妄を批判しても、それがあいかわらずメディアを賑わせているのは、いったいどういうことなのでしょうか? その理由についても興味がありますね。

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2011.11.14

▽どうする? 日本漁業――『日本の魚は大丈夫か』

勝川俊雄『日本の魚は大丈夫か―漁業は三陸から生まれ変わる 』(NHK出版新書)

大震災で被害をうけた三陸の漁業地帯を、これを機に日本の漁業再生へのきっかけにしようというのが本書の趣旨です。

そして、日本漁業復活の参考にしよう! と紹介しているのがノルウェーの漁業です。ノルウェーでは乱獲を防止するために、漁獲量の制限が加えられています。その結果、稚魚はとらずに、高く売れる成魚だけを獲るようになり、漁獲高も増え、漁業資源も復活したとのこと。

これに対して、日本の漁業では漁獲制限がないために、獲れるだけ獲るしかない状態で、稚魚もとってしまうために、漁獲高も増えずに、漁業資源も枯渇しつつあるとのこと。

ノルウェー方式は大いに参考になるところが、そうした漁業改革を阻む存在となっているのが、漁協なんだそうです。

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▽どうする? 日本企業

三品和広『どうする? 日本企業』(東洋経済新報社)

日本企業がだめだめな理由を語る場合には、自動車やエレクトロニクス、IT産業が引き合いに出されることが多いのですが、本書では、時計メーカー、ピアノ・メーカー、鉄鋼業と比較的地味めな企業がケーススタディとして取り上げられます。 
注目の高い花形産業以外では、地味にこつこつと利益を上げているかと思ったら、実は……と、ちょっとガッカリさせられます。

まず、時計メーカーとしてはセイコーのケースが取り上げられます。こまかい話は省力しますが、セイコーは、クォーツ時計でスイスの時計産業を壊滅状態に追い込んだのですが、その後の戦略がまずく、低価格品では中国製品に、ブランド品では複数ブランドを擁するスイスのスウォッチに負けてしまいます。

次にピアノ・メーカーとしてヤマハが取り上げられます。ヤマハは大量生産で廉価なピアノで、高級ブランドのピアノを制しますが、やはり中国のような新興国に追い上げられ、しかも、高級ピアノの音質やブランド力では欧州勢にはかなわない、というジレンマを味わわされています。

最後に鉄鋼業。1989年には鉄の生産量で世界一にたったものの、そのわずか4年後には中国に抜かれてしまいます。その後の鉄鋼メーカーは、雇用を守るためにさまざな多角化事業に手を染めますが、どれもうまくいきません。さらに、半導体製造にも大きな期待をかけましたが、これも世界的に競争の激しい世界で失敗。

あらためて指摘されてみると、なるほどと思わざるをえませんし、日本経済が停滞している理由もよくわかりますね。

[目次]
第1章 本当に成長戦略ですか? 日本が歩んだ衰退の道
第2章 本当にイノベーションですか? 腕時計が刻んだ逆転劇
第3章 本当に品質ですか? ピアノが奏でた狂想曲
第4章 本当に滲み出しですか? 鉄が踏んだ多角化の轍
第5章 本当に新興国ですか? 日本が教えた開国攘夷策
第6章 本当に集団経営ですか?

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2011.11.13

▽建築家ムッソリーニ

パオロ・ニコローゾ『建築家ムッソリーニ―独裁者が夢見たファシズムの都市』(桑木野幸司訳、白水社)

イタリアのベルルスコーニ首相が引退したのを記念して……というわけではありませんが(笑)。

イタリアの独裁者ムッソリーニは、公共建築に莫大な投資を行ったそうです。1920年代、1930年代には、おびただしい量の公共建築や都市計画が実行に移されていったそうですが、それは、ヒトラー時代のドイツをしのぐものであり、他に類例のない規模の投資だったとのこと。

では、その狙いはなんだったか? といえば、イタリアの大衆をファシズムへと強化していくための道具として建築を使ったのだそうです。

《明らかに、当時のイタリアでは、建築と政治のあいだに、強固な同盟関係が結ばれていた。建築は政治の道具となったのだ。建築を通じて、権力は、国民の同意を取りつけてゆく。》(p.10)

独裁者ムッソリーニを通じて、政治と建築の結びつきを解き明かすユニークな一冊です。

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▽小沢一郎と農協との戦いとは?

浅川芳裕 『日本の農業が必ず復活する45の理由』(文藝春秋)

さて、TPP参加騒動も一段落ついたところで、日本の農業と政治との関わりを。

『日本の農業が必ず復活する45の理由』の著者は、農業専門誌の副編集長。本書は、日本の農業の実態をデータをもとに詳述しており、日本の農業は、われわれがもっているイメージよりもずっと力強いものだということがわかります。

さて、私の関心は、政治と農業。もっと言えば、小沢一郎と農協との戦い。では、農協とは何かと言えば、ずばり「自民党の集票マシーン」でした。

《自民党は農協に補助金を流す。その見返りに、農協は農家と職員の票を集めてきます。職員総数約25万人、農家票正組合員数480万人、准組合員数460万人。親類縁者を含めれば、1000万票を超えるような大票田になります。》(pp.186-187)

さらに、一票の格差によって地方の票は2倍、3倍になるため農協票は、政治的にも大きな勢力となります。これを潰すために、2007年の参院選の際に民主党の小沢一郎が編み出した戦略が、日米FTAを締結する一方で、農家への個別所得補償をバラ巻いて農協を骨抜きにするという作戦だった、と著者は指摘します。

そして、2009年の衆院選で勝利した民主党は、さらに、農協を経由して分配される農業土木予算を削減することで、ぎりぎりと農協を締め上げていきます。

さて、この死闘の真の勝者はだれだったか? それは、本書で確認してくださいね。

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2011.11.12

▽iPhoneができるまで――『スティーブ・ジョブズ II』より

ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ I』(井口耕二訳、講談社)

ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ II』(井口耕二訳、講談社)

『スティーブ・ジョブズ』 は、そんなに急いで読みたいわけではないので、いずれ落ち着いた時にでもと思いつつ、IIのiPhoneとiPadに関するところだけを拾い読み。

▽iPodは何を変えたのか? を振り返る
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/02/ipod-7562.html
の続きとなります。

・2005年にiPodの販売が急増すると、音楽プレイヤー機能を搭載した携帯電話に「徹底的にやられる可能性がある」とジョブズは判断した
・まずモトローラのRAZRにiPodを組み込んでROKRをつくったが不満があり、アップル自ら携帯電話をつくることに
・当時タブレット型コンピューター(後のiPad)の開発が進められていたが、これを一時停止し携帯電話の開発に合流
・P1というコードネームでiPodのホイールを使った携帯電話、P2というコードネームでマルチタッチスクリーンを使った携帯電話を製作する
・マルチタッチのトラックパッドを開発していたフィンガワークス社を買収し創業者二人を雇い入れていた(2005年はじめごろ)
・ホイール型のP1とマルチタッチ型のP2の開発を6ヶ月おこなった後、P2に決定した
・さらに9ヶ月間かかって開発したプロトタイプのデザインに不満でやり直し
・2007年1月10日に発表、同年6月に発売
・2007年にふたたびタブレット型コンピューターの開発に着手
・2010年1月27日に発表、同年4月に発売

ソニー・エリクソンが音楽プレイヤー機能を搭載した携帯電話(ウォークマン携帯電話)を発売・ヒットしたのが2005年なので、やはりiPodにとっても脅威だったのですね。

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▽テレビ局衰退の記録――『だからテレビに嫌われる』

堀江貴文x上杉隆『だからテレビに嫌われる』(大和書房)

ライブドア元社長の堀江貴文が、収監前に、ジャーナリストの上杉隆と対談したもので、もっぱら日本のテレビの裏側について語っている。

もうテレビはダメなんじゃない? 的な話がズラズラと続きますが、内容的には、両者のこれまでの発言の集大成のようなもの。

ただ、第6章の「テレビに明日はない?」では、具体的なデータをともなう衝撃的な発言が……。

《堀江 ……弁当なんかも、どんどんダメになってる。
上杉 それは確かに実感する。
堀江 僕は最近よくテレビ局で出る弁当を写メで撮ってるんですけど、テレビ局衰退の記録ですよ。》(p.222)

《堀江 ……収録も3本撮りとか5本撮りとかやっちゃうし。……
上杉 ……僕がレギュラー持ってた最初の頃、10年前はやっぱり8万8888円の8並びとか11万1111円の1並びとかだった。でも、最後の方はテレ朝で一律1万5000円。フジも3万円。今や半減以下だね。》(pp.222-223)

ビックリ(笑)。

[目次]
第1章 僕たちがテレビに嫌われた理由
第2章 実は「言論の自由」がないテレビ局
第3章 3・11以降、テレビは何を伝えなかったか?
第4章 世にもおいしい放送利権
第5章 視聴者とは、誰か?
第6章 テレビに明日はない?

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2011.11.07

▽少年ジャンプと資本主義

三ツ谷誠 『「少年ジャンプ」資本主義』(NTT出版)

前回のエントリーでは、少年サンデーと少年マガジンの創刊時について書かれたものを紹介しました。

▽『サンデーとマガジン』――出版界のたそがれ
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/11/post-b448.html

『サンデーとマガジン』の第8章「しのびよる黒い影」では、先行する二誌を追い上げる『少年ジャンプ』にも触れられています。

本書『「少年ジャンプ」資本主義』は、少年ジャンプの人気漫画の変遷を、日本の資本主義の発展段階を結びつけて解き明かす、というやや無理のある(笑)テーマに挑戦しています。

本書で紹介されている漫画は、本宮ひろ志の『男一匹ガキ大将』に始まり、『アストロ球団』、『リングにかけろ』、『キン肉マン』、『ドラゴンボール』、『ONE PIECE』などなど。

ある作品が人気を博した事実を、その時々の世相と結びつけ過ぎるのもどうかと思いますが、人気漫画の移り変わりと時代背景をおおざっぱに押さえられるという点では、そこそこ面白く読めますね。

[目次]
巻頭カラー(序文にかえて)「ギャラクテカマグナム」

第1章 『男一匹ガキ大将』の残したもの
 初期の『男一匹ガキ大将』――西海編と水戸のおばばが意味するもの
 高度経済成長がもたらしたものと霊峰富士の決闘
 その後の『男一匹ガキ大将』と万吉が教えてくれたもの

第2章 『アストロ球団』 宿命で結ばれた仲間たち
 永井豪と七〇年代前半、輝く名作群
 『アストロ球団』――宿命の仲間たち
 七〇年代の『少年ジャンプ』

第3章 バブルとその崩壊 八〇年代・九〇年代と『少年ジャンプ』
 『リングにかけろ』と『キン肉マン』――バトルマンガ構造の完成
 『キャプテン翼』――スポーツと資本主義の関係
 『北斗の拳』――求められる神話、求められる王の世界
 『ドラゴンボール』――ジャンプ最高傑作の誕生
 『ドラゴンボール』の世界――神龍と株式会社、無邪気さと資本
 鳥山明と本宮ひろ志

第4章 ゼロ年代のジャンプ 『ONE PIECE』新しい連帯のカタチ
 『ジョジョの奇妙な冒険』――ディオとプッチ神父までの距離(資本主義の成熟)
 『ONE PIECE』――自由な連帯と資本主義の希望 アラバスタ編を中心に
 『ONE PIECE』その二――〈帝国〉と対峙するための連帯 エニエス・ロビー編を中心に
 「少年ジャンプ」資本主義――自由であるための闘争

次号予告(あとがきとして)

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2011.11.06

▽『サンデーとマガジン』――出版界のたそがれ

大野茂 『サンデーとマガジン 創刊と死闘の15年』(光文社新書)

本書は、週刊少年誌の『週刊サンデー』と『週刊マガジン』の創刊から15年くらいまでの期間を、サンデーとマガジンの両編集部間の死闘という視点から描いたものです。

創刊時の裏話も多く、いろいろとなかなか興味深いのですが……、この雰囲気はどこかで味わったことがあるなあ……、と考えると……そうです、あの『プロジェクトX』によく似ています。

NHKで2000年から2005年まで放映されたプロジェクトXは、日本が坂の上の雲をめざして駆け上がっていた昭和の頃の、主に製造業の現場で働いていた名も無き人々にフォーカスを当てた懐古趣味の強い番組でした。そして、それは、日本の製造業の低迷と裏腹の関係にあったといえます。

そして――。

日本の出版界を支えてきた少年漫画誌の裏舞台が、本書のように、ある種のノスタルジーとともに語られるようになったのは、出版界のたそがれと軌を一にしているのではないでしょうか、と思ってしまいます……。

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▽有名建築のその後

日経アーキテクチュア 『有名建築その後』(日経BP社)

またまた日経アーキテクチュアの渋いムックを発見(2009年発売)。これは、日経アーキテクチュアに掲載された、日本を代表する有名建築に関する20の記事の採録がメインコンテンツです。

また、冒頭には、ここ数年の間に話題となった4つの建築物の記事も掲載されています。最近の話題に絡めていうと、大阪府知事と大阪市長のダブル選挙の勝者が支配することになる、大阪府庁舎の歴史的経緯も興味深い。

1926年に竣工した府庁舎は、老朽化のため建て替えを決定。バブルさなかに行われた1989年のコンペでは、黒川紀章の建て替え案が採用されました。

しかし、新別館の南館と北館が完成したところで、大阪府の財政悪化により、建て替えが凍結。2008年になって、「耐震改修」、「建て替え」、「大阪WTC移転」の三案が検討された。橋下知事は、「大阪WTC移転」案を推したものの、WTCの耐震性能に疑問が投げかけられたこともあって、移転案は否決され、現在はふたたび「耐震改修」が検討されている……。

一方、1991年に完成した東京都庁舎は、丹下健三の設計によるもの。完成後二十年近くたち、漏水や空調設備の故障などが多発しているとのこと。

西も東もいろいろと大変なようです。

[参考]
▽『危ないデザイン』――あの事件の原因を探る
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/07/post-3676.html
▽『甦る11棟のマンション―阪神大震災・再生への苦闘の記録』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/11-8373.html

[目次]
【第1部】巻頭インタビュー
-------建築は人々の「記憶の器」
藤森 照信 東京大学 生産技術研究所 教授

【第2部】「今」を切り取る有名建築
-------丸の内の保存活劇と東西庁舎の改修騒動
東京駅丸の内駅舎/東京中央郵便局/東京都庁舎/大阪府庁舎本館

【第3部】「有名建築その後」復刻20選
-------現状の姿とともに建物が刻んだ時を振り返る
<文化・会議施設>
国立西洋美術館本館
神奈川県立近代美術館
アートプラザ(旧・大分県立大分図書館)
国立国会図書館
神奈川県立音楽堂
国立京都国際会館

<スポーツ施設>
国立代々木競技場
東京ドーム

<庁舎・事務所>
名護市庁舎
目黒区総合庁舎(旧・千代田生命本社ビル)
新宿三井ビルディング

<商業施設>
読売会館
ソニービル
キリンプラザ大阪

<住宅>
中銀カプセルタワービル
スカイハウス

<学校・教育施設>
甲子園会館(旧・甲子園ホテル)
名古屋大学豊田講堂

<そのほか>
世界平和記念聖堂
東京タワー

【コラム】あの有名建築の「生みの親」は?
前川 国男/磯崎 新/丹下 健三/村野 藤吾/黒川 紀章/菊竹 清訓

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2011.10.27

▽成功する人は缶コーヒーを飲まないらしい

姫野友美『成功する人は缶コーヒーを飲まない 「すべてがうまく回りだす」黄金の食習慣』(講談社プラスアルファ新書)

書評というか、自分用のメモとして――。

缶コーヒーなど砂糖が多く含まれているものを飲食する→血糖値が一気に上がる→膵臓からインスリンが分泌される→一気に血糖値が下がる(低血糖症)→脳にブドウ糖が供給されなくなる→眠気を誘う。

対策としては、缶コーヒーを飲む時は砂糖の入っていないものにする。砂糖の多く含まれる食品や、精製された糖質の含まれる白米、うどん、ラーメンなどは食べ過ぎない。

低血糖症になると、アドレナリンやノルアドレナリンが分泌される。アドレナリンは攻撃的に、逆に、ノルアドレナリンは不安な状態に陥らせる。うつ症状を訴える人の中には、糖分のとりすぎによる低血糖症が原因と思われるケースも増えているという。

砂糖を摂取すると、脳内に快感物質のドーパミンやセロトニンが放出されるため、この快感を求めて砂糖をまた摂取したくなるという「依存症」になりやすい。また、糖質を摂取するとインスリンが分泌されるが、インスリンは脂肪をたくわえるためにメタボリックになりやすい、などなど……。

でまあ、砂糖依存症にならないようにするには、糖質の含まれる白米などの摂取を減らして、蛋白質を多くとりなさい、と。これはあれですね、いわゆる「糖質制限ダイエット」に近いコンセプトの食生活改善の提案ですね。

本書で薦められているのは、それほど極端な「糖質制限」ではないのですが、まあ、糖分のとりすぎには気をつけましょう、ということで。

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2011.10.17

▽公安もツライよ――『公安は誰をマークしているか』

大島真生『公安は誰をマークしているか』(新潮新書)

著者は、警視庁の公安部や警備部を担当した経験のある新聞記者で、本書は、いわゆる「公安」が、どのような活動を行っているかについて書いたものです。

とはいうものの、公安をテーマにした本でよく取り上げられるトピックがまたかという感じででてきます。ネタの出所は同じなので、やむをえないことかもしれませんが、ま、なかなか秘密のベールをめくるのは難しいようですね。

[目次]
はじめに
序章  公安とは何か
第1章 警視庁公安部 公安総務課vs共産党
第2章 公安一課vs過激派
第3章 公安二課vs革マル
第4章 公安三課vs右翼
第5章 外事一課vsロシアスパイ
第6章 外事二課vs北朝鮮工作員
第7章 外事三課vsアルカーイダ
第8章 事件現場に臨む公安機動捜査隊
第9章 公安調査庁の実力は
おわりに

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2011.10.12

▽暴力団もツライよ――『暴力団』

溝口敦『暴力団』(新潮新書)

本書の発売が9月20日。吉本興業の島田紳介が引退を表明したのは8月23日だったので、それ以前から企画されていたのでしょうが、とてもタイムリーな一冊となりました。若干ですが、芸能界と暴力団との関係の部分で、島田紳介についても触れています。著者は、2005年の時点で、暴力団との関係を指摘していたとのこと。

さて、本書に書かれている内容自体は、あまり目新しいものはありませんが、山口組の弘道会の最近の動向については、さすがに、この分野の第一人者といえる詳しさです。

弘道会とは、山口組の六代目組長を輩出している中核団体ですが、最近は、警察官の個人情報を集めて捜査妨害をしたり、「十仁会」というヒットマンを集めた秘密組織を作ったり、大阪府警の取り調べ時の暴行に対して損害賠償を勝ち取ったり、と、警察との敵対的な態度を強めているようです。

これは暴力団の実態が、存在を容認されたヤクザというよりも、過激派のような非公然組織に近づいてることの現れなのだそうです。こうした「マフィア化」をもたらしている最大の要因は、1991年に暴対法が施行されて以来、暴力団に対する締め付けが厳しくなったことにあるのだそうです。

各自治体で相次いで施行されている「暴力団排除条例」もこうした傾向に拍車をかけることになりそうです。

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2011.10.10

▽公務員もツライよ――『公務員だけの秘密のサバイバル術』

中野雅至『公務員だけの秘密のサバイバル術』(中公新書ラクレ)

地方公務員、国家公務員、公立大学教員という異色のキャリアを持ち、政府審議会委員やTVのコメンテーターとしても活躍する著者が、最近の公務員事情とそれにいかに対処すべきかについて率直に語っている。

第一部は、最近の公務員を取り巻く状況についてで、公務員が嫌われている理由、公務員制度改革のもたらすもの、赤字財政による賃下げや分限免職の恐怖など、公務員であることも楽では無いことが示される。

第二部は、そうした状況において、公務員はいかに生き残りを図るべきか、その5つのサバイバル術を著者の経験も交えて伝授している。特に、第六章の「ゴマすり力」を磨くべし! は上司の性格ごとに異なるゴマすり法を紹介しており、著者の人間観察力の鋭さを伺わせる。

一時流行した、勢いだけの自己啓発本の類に比べると、はるかに日本の組織の実情に即したリアリティがあり、公務員だけでなく、普通のサラリーマンにとっても多くの示唆に富んでいるようだ。

[目次]
第1部 「リストラ・賃金カット」の潮流
 公務員はなぜここまで嫌われ者になったのか?
 制度改革は公務員をどこまで追い詰めるか?
 四つの怖い落とし穴

第2部 五つのマル秘サバイバル術
 役所を辞めてはいけない!
 公務員こそ出世をめざせ
 「ゴマすり力」を磨くべし!
 「外部」と頻繁に接触しよう
 公務員から大学教授になるとっておきの方法
 独立するなら50歳

さいごに 今こそ「公務員力」を世間に示す時

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▽『国債・非常事態宣言 「3年以内の暴落」へのカウントダウン』

松田千恵子『国債・非常事態宣言 「3年以内の暴落」へのカウントダウン』(朝日新書)

非常に刺激的なタイトルの本書ですが、内容はしごくまっとうなものです。当たり前のこと過ぎて、読んでいるうちに、眠くなってしまうほどです……。

むしろ、このような常識が国民の間で共有されていない(ように見えるのは)のはなぜだろうか? という方に関心が向いてしまいます。

著者は、日本と同じように財政問題を抱えているイギリスのキャメロン首相の政策を引き合いに出します。キャメロン首相は2015年までの財政改革のプランを作り、さまざまな反対を押し切って実行にうつし、英国債の格付け引き下げ回避に成功します。

《日本で気になるのは、こうした事業再生(国家再生)のプロセスが、「鎮火」「実行」「成長」といった一連のストーリーとして語られず、「鎮火派=財政再建派」、「成長派=上げ潮派」、といったような二者択一のものとして扱われ、どちらかをとれば他方は二度とできないに等しい扱いがなされたり、すべての施策が同時に行えるような幻想をふりまくようなものだったりすることです。》(pp.139-140)

こうした状況が生じる原因として著者は、「時間軸と優先順位の概念がない」(p.140)こと、「将来の日本の姿という大きな展望が欠けている」(同)ことを指摘しています。

財政問題をわかりやすく、かみ砕いて解説してくれる良書です。

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2011.10.02

▽『孫正義が語らない ソフトバンクの深層』

菊池雅志『孫正義が語らない ソフトバンクの深層』(光文社)

本書はジャーナリストの菊池雅志が、ソフトバンクのブロードバンド事業と携帯電話事業の舞台裏を描いたものである。

ソフトバンクを描いたビジネス書となれば、普通は、孫正義が中心となるところだが、菊池は、孫の周辺でソフトバンクを支えてきた面々にフォーカスを当てていて、これまで明らかにされていなかった事実も掘り起こされており興味深い。

たとえばイギリスのボーダフォンが日本法人を売りたがっている、という噂は日本国内では、ずっと流れていたものの、英ボーダフォンがソフトバンクに明確な意思表示をしたのは2005年12月末のことであった。また買収価格をつり上げるために、ボーダフォン側からリークがあったこと、明らかに「数千億円高い」(p.59)価格で買収させられたこと、などが率直に語られている。

本書が発行されたのが、2010年12月と、ほぼ一年前であり、ソフトバンクが独占販売権を獲得したiPhoneの爆発ヒットにより絶好調ともいえる時期であった。しかし、最近の報道によると、iPhoneをライバルのauが発売される可能性も浮上しており、ソフトバンクの独走状態がいつまで続くのかわからない。そんな時期だからこそ、あえて読んでみることをお薦めします。

[目次]
第1章 尾張の桃太郎
第2章 Yahoo!BB
第3章 ボーダフォン買収
第4章 大物招聘
第5章 スーパーボーナス
第6章 迷走するソフトバンク
第7章 営業の軍団
第8章 iPhone
第9章 営業の裏の顔「光通信」
第10章 iPadは「革命」か
第11章 孫正義は勝ったのか

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2011.09.25

▽『電子書籍奮戦記』――喧噪の影で

荻野正昭『電子書籍奮戦記』(新潮社)

電子書籍に関する話題になると、かならず登場するのがボイジャーの荻野正昭である。日本における電子書籍の草分け的存在であり、これまでにも何度も繰り広げられてきた「今年こそ電子書籍元年」という喧噪の中、じっと、「その時」が来るのを待ち続けてきた。

荻野は電子書籍を5つに分類している。
1.1980年代後半に登場したFDやCD-ROMなどのパッケージ版で辞書や百科事典などが多かった。
2.インターネットを介してKindleやiPadなどに届けられるデータ。現在は、これを「電子書籍」と呼んでいる。
3.紙の本を印刷する前に作られる電子化されたデータ。
4.インターネットに公開される無数の「リソース=資源」群。研究論文や著作権のない古典文学などで、青空文庫もここに含まれる。
5.さまざまな情報を組み合わせて自分なりに作ったものも「電子書籍」と呼びたい。

本書は、荻野の自伝であるとともに、ボイジャーというベンチャー企業の悪戦苦闘と、日本の電子書籍の変遷の記録である。当初期待ほどには電子書籍の市場は立ち上がらず、中小企業であるボイジャーは、何度も立ち往生する。しかし、思いがけない伏兵がボイジャーに利益をもたらした。携帯電話向け電子ブックビューワー「BookSurfing」によって、ボイジャーの経営はようやく安定することになったのだ。

《かつてはデスクトップパソコンやノートパソコンのモニターで「本」を読むことにすら嫌悪感を示す人が大半でした。……しかし、パソコンのモニターよりもはるかに小さく、画質も劣る携帯電話の画面で、若者はマンガや小説を読むようになったのです。》(p.174)

何度も繰り返される「電子書籍元年ブーム」の喧噪の影で、浮かんでは消えていったハード、フォーマット、コンテンツ・サービスの数々……。本書を読みながら、「ああ、こんなのあったなあ」と思い返す。

いったい誰が勝者になるのだろうか? その答えは、まだ、出ていない――。

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2011.09.22

▽『日本の地名』――地名の謎を探る

筒井功『日本の地名---60の謎の地名を追って』(河出書房新社)

日本の地名は意味不明のものだらけ――。

この理由として、著者は、地名が誕生した時期の古さを指摘する。つまり、文字が誕生する前に生まれた地名が口伝えで継承され、後に文字が当てられた地名が多いからだという。

また、著者は、地名に関して研究者が少ないことも地名の意味がわからないことの原因の一つと指摘する。その結果、こじつけや言葉遊びのような解釈が横行することになった。とりわけ、珍しい地名は外国語、特にアイヌ語や朝鮮語由来のものだ、とされる傾向にあるという。

著者がよって立つ民族学的な認識は
・縄文人は日本列島の先住民でありアイヌもこれに含まれる。ただし、アイヌ人と他の縄文人が同じ言葉を話していたかはわからない
・後から日本に渡ってきた弥生人の言葉は、現代日本人と同系の言語である
というもの。

本書には、60に分類された難しい地名、珍しい地名が取り上げられている。そもそも、こんな地名があったのかと驚かされるものが多い。地名研究の分野はまだ緒についたところというが、わからない部分も含めて、民族学的な興味はつきない。

[60の謎の地名]
一口(いもあらい)
間人(たいざ)
由比(ゆい)/手結(てい・たゆ)
一青(ひとと)/神鳥谷(ひととのや)
大歩危(おおばけ)/坂下(ばんげ)
江差・枝幸・江刺(いずれも、えさし)
特牛(こっとい)
幽ノ沢(ゆうのさわ)/夕沢(ゆうさわ)
大滝(おおぜん)/滴水(たるみず)
丁(よろ)/丁子(ようろご)
白拍子(しらびょうし)
鰻(うなぎ)
閖上(ゆりあげ)/小淘綾(こゆるぎ)
点野(しめの)/禁野(きんや)
熊押(くまおす)/猿押(さるおす)
左沢(あてらざわ)
遠敷(おにゅう)
生野(いくの)/千歳(ちとせ)
厳木(きゅうらぎ)/教良石(きょうらいし)
城下(ねごや)
美守(ひだのもり)
泪橋(なみだぼし)/思案橋(しあんばし)
下呂(げろ)/上呂(じょうろ)/中呂(ちゅうろ)
風呂ケ浴(ふろがえき)/桑林(くわぶろ)
蛇穴(さらぎ)/蛇穴(じゃけつ)
及位・莅(ともに、のぞき)
古凍・古氷(ともに、ふるこおり)
大分(おおいた)/潮来(いたこ)
串(くし)/串本(くしもと)
奥武(おう)/青籠(あおぐむい)
軽井沢(かるいざわ)/王余魚沢(かれいざわ)
轆轤(ろくろ)/轆轤師(ろくろし)
倭文(しとり)/設楽(したら)
塔ノ岪(とうのへつり)
一日市(していち)/廿九日(ひづめ)
貝野瀬(かいのせ)/皆葎(かいむくら)/海野(かいの)
私市・私都(ともに、きさいち)/象潟(きさかた)
太秦(うずまさ)/斑鳩(いかるが)
清博士(せいばかせ)
小童(ひち)/小童谷(ひじや)
乙女(おとめ)/八乙女(やおとめ)
廿六木(とどろき)/百笑(どめき)/百々女鬼(どどめき)/土泥(とどろ)/堂々(どうどう)
十六島(うっぶるい)
乞食(ほいと・こじき)/盗人(ぬすっと)
人喰谷(ひとくいだに)/人穴(ひとあな)
百済来(くたらぎ)
連雀(れんじゃく)/旦過(たんが)
奈良(なら)
歌(うた)/善知鳥(うとう)
強羅(ごうら)/五郎(ごろう)
御坊(ごぼう)/談議所(だんぎしょ)
桜(さくら)/桜島(さくらじま)
坊ガツル(ぼうがつる)
姥ケ懐(うばがふところ)
野呂(のろ)/芝(こうげ)
塙(はなわ)/圷(あくつ)
矢作(やはぎ)/筵打(むしろうち)
市ケ谷(いちがや)
沓掛(くつかけ)/鍵掛(かぎかけ)
神庭(かんば)/神代(こうじろ)

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2011.09.21

▽証拠改竄――特捜検事の犯罪

『証拠改竄 特捜検事の犯罪』(朝日新聞出版)

大震災によって埋もれしまった話題はたくさんありますが、これもその一つ。本書は、厚労省をめぐる郵便不正事件におけるフロッピー・ディスク改竄のスクープを放った朝日新聞の取材班によるドキュメント。

一審の過程や判決などについては、魚住昭『冤罪法廷 特捜検察の落日』で描かれているものとほぼ同じだが、

▽『冤罪法廷』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/10/post-c77c.html

裁判前後の状況、「検察リーク」に乗りすぎたとされるメディア批判に対する新聞サイドの考え、そして、スクープをもたらした検察内部の匿名の情報提供者の思いなどが綴られている。

本書の発行は3月下旬で、本来ならば、検察改革がメディアで取り沙汰されていたはずだったが、震災や原発事故で、それどころではなくなっていたのが残念。

[参考]
▽『冤罪法廷』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/10/post-c77c.html
▽司法記者が見た特捜部の崩壊
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/04/post-f59a.html
▽2001年の時点ですでに指摘されていた特捜検察の闇
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/04/2001-1cf4.html
▽リクルート報道の再検証
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-e240.html
▽リクルート事件――いまなお残る疑問
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-0d34.html

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2011.09.18

▽内部被曝の真実

児玉龍彦『内部被曝の真実』(幻冬舎新書)

児玉龍彦教授といえば、国会に参考人として呼ばれた際の動画で注目を集めました。この動画を見て、現状に対して本気で怒っている大人がいることに、「ちょっとほっとした」とだけ言っておきます。

さて本書は、この参考人質疑を文字にしたものを中心に、放射線の人体への影響を、とてもわかりやすく解説しています。

簡単にまとめると、
・遺伝子は二重らせん構造のため安定的である
・しかし、細胞分裂の際には、二重らせんはほどけて一本ずつになり、この時、放射線によって切断されやすくなる
・このことは、細胞分裂のさかんな胎児や子供の方が、より高い危険にさらされていることを意味する
・一つの遺伝子の変異だけではがんは発生しないが、もう一つ別の要因が重なるとがんへの変異が起こる

一般の人にもわかりやすく丁寧に解説されていますので、ご一読を。放射線の除染がうまく進むよう願ってやみません。

[目次]
第1部 7・27衆議院厚生労働委員会・全発言
 私は国に満身の怒りを表明します
 子どもと妊婦を被曝から守れ―質疑応答
第2部 疑問と批判に答える
第3部 チェルノブイリ原発事故から甲状腺がんの発症を学ぶ
 ―エビデンス探索20年の歴史と教訓
第4部 “チェルノブイリ膀胱炎”
 ―長期のセシウム137低線量被曝の危険性
おわりに 私はなぜ国会に行ったか

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2011.09.17

▽運命の人

山崎豊子『運命の人(一)』(文藝春秋)

『運命の人』は、沖縄返還を巡る「外務省機密漏洩事件」をモチーフとした山崎豊子の小説。フィクションとしての誇張はあるものの、ストーリーは概ね、実際の事件と同じような展開をみせていく。

4巻のうちまず1巻は、当時の政治的背景が描かれるとともに、野党議員に渡された機密情報が国会で晒され、主人公の弓成が警察に出頭するまで。

2巻は、弓成が逮捕・起訴されるまで。

3巻は、一審から最高裁までの裁判過程が中心となる。

4巻は、沖縄の歴史が振り返られるとともに、1995年に発生した暴行事件、そして、米国立公文書館で発見された機密文書により、密約の核心部分が明らかになる――。

当時の雰囲気や関係者の機微などは、小説という形式ならではのリアルさが感じられた。

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2011.09.12

▽あきれた「おバカ規制」の数々――『「規制」を変えれば電気も足りる』

原英史『「規制」を変えれば電気も足りる 日本をダメにする役所の「バカなルール」総覧』(小学館101新書)

本書は、日本社会のすみずみにまで貼り巡らされた「おバカ規制」について、最近の時事ネタを交えつつ紹介したものである。

著者は、『官僚のレトリック』をすでに著している元官僚の原英史。

▽官僚のレトリック
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/02/post-1f9e.html

本書は、もともと国際情報誌『SAPIO』に連載されていたもので読みやすい。一つ一つのエピソードは、へぇ~、と驚いたり、あるいは、にやにやしながら読んだりできるものの、本書を読み進めるうちに、だんだんと「おバカ規制」の背後にある、見えない力の巨大さ、堅牢さ、に気がつかされる、という仕掛けになっている。

[目次]
はじめに

第I部 初級編 日常生活に潜む「規制」
第1章 学校のカイダン--なぜ学校の階段には必ず「踊り場」があるのか?
第2章 学校のカイダン2--それでもダメ教師はクビにならない!
第3章 カットできないしがらみ--理髪店がどこも「月曜定休」の理由
第4章 左党のしょっぱい話--なぜ日本のビールをアメリカで買ったほうが安いのか?
第5章 食い物にされる食の安全--「ひやむぎ」と「そうめん」の境目は超厳密だった!
第6章 電気行政の暗闇--なぜ日本の電気料金はアメリカの2倍なのか?

第II部 中級編 ビジネスの邪魔をする「規制」
第7章 アナログな決まり--なぜケイン・コスギはピンチの後にリポビタンDを飲むのか?
第8章 道路の落とし穴--なぜ運転免許は5年で更新しなければならないのか?
第9章 値下げにブレーキ--格安タクシーがデフレなのに値上げを強制されている
第10章 トマる新ビジネス--ラブホテルとビジネスホテルの境界線はどこにある?
第11章 クスリのリスク--なぜ風邪薬はコンビニで買えないのか?
第12章 仕分け会議を仕分けする--結論の半分が「検討する」……蓮舫サン、やる気あったんですか?

第III部 上級編 世の中を支配する「規制」
第13章 選挙に受かって罠に落ちる--投票日前に有名政治家とのツーショットポスターが増える理由
第14章 反古にされる保護--なぜ派遣社員が「電話に出るな」と指示されているのか?
第15章 金利規制が縁の切れ目--借金の上限金利は明治時代から変わっていない
第16章 NOと言えない農家--なぜスーパーの売り場のきゅうりは「真っすぐ」なのか?
最終章 おバカ規制はなぜ作られるのか?--「規制の作り手たち」にまつわる規制

おわりに

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▽『椅子がこわい 私の腰痛放浪記』

夏木静子『椅子がこわい 私の腰痛放浪記』(文藝春秋)

「この記録はもしかしたら私の遺書になるかもしれない」

というショッキングな書き出しで始まる本書は、女流作家の夏木静子が体験した「腰痛」の記録である。1993年1月に原因不明の腰痛に襲われた夏木は、さまざまな医者にかかるものの、どの医者も腰に異常はみつけられない……。

と、くると、ああ、これは心因性の腰痛で、その原因は、作家という仕事からくるストレスなんだろう……と想像しますよね。実際のところ、そうだったわけで、すでに犯人は割れちゃっているのですが、夏木本人は心因性の腰痛であることを頑として認めません。

本書の後半は、夏木にいかに心因性の腰痛であることを認めさせるか、そして、治癒のために必要なあることを夏木にいかに決断させるか、という医者の努力が中心となります。まあ、ある意味、京極堂による憑き物落としにも似てなくもないですが。

ちょっと古いですが、心と体の関係について改めて考えさせてくれる一冊でした。

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2011.09.07

▽あのケビン・メアが見た『決断できない日本』

ケビン・メア『決断できない日本』(文春新書)

本書は、さまざまな偶然が重なったことによって出版されたといってもいいだろう。

そして、そのおかげで、東日本大震災や福島原発事故に対処した日本政府の舞台裏を、アメリカ側の視点から伺い知ることができるようになった。

著者は、沖縄に関する発言が取りざたされた、元米国務省東アジア・太平洋局日本部長のケビン・メア氏。3月6日に報じられたこの発言について、メア氏は本書において捏造であると反論しているが、この報道をきっかけに米国防省を辞めることを決意した。

しかしその数日後に、大震災と原発事故が発生したため、アメリカによる日本支援の「トモダチ作戦」の国務省タスクフォースのコーディネーターに任命された。

この時の日本政府の対応は、下記のインタビューでも述べられている。

《日本の復興支援にあたるタスクフォースのメンバーは、3月16日未明の時点で、日本政府よりもさきに、原発の炉心が融解していると判断していました。このままでは最悪の場合、メルトダウンして、使用済み核燃料が燃え、放射性物質が広範囲にばらまかれる可能性がある。》
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/18122

アメリカの政府高官は、東京にいるアメリカ人9万人を避難させることも検討したが、混乱を懸念したメア氏の説得で50マイル圏待避にとどめておいたという。

また、東京電力は、3月11日の時点で、在日米軍のヘリで水を運べないかと問い合わせをしてきたというが、このことから冷却装置が破壊されていること、東電は廃炉にしないでしのごうとしていること、東電は日本政府には情報を伝えていないことなどがわかったという。

さらに、日本に貸与できる備品のリストを渡したところ、逆に「質問」が帰ってきたという。

《彼らはもし問題が起きたとき、自分たちがその責任を取ることをおそれて、何も決めようとしなかったのです。まさに決断ができないのです。》
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/18122?page=3

そして、ヘリによる放水作業……。

《この光景を見たときの、アメリカ政府のショックは大変大きかったのです。仮にも大国である日本ができることが、ヘリ1機を飛ばして放水するだけだったのか・・・と。しかもこの放水は、原子炉冷却にはまったく効果がなかったわけですから。》
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/18122?page=3

本書では、原発処理の舞台裏だけでなく、沖縄に関する発言へのメア氏の反論、メア氏の日本との関わりや沖縄基地問題の舞台裏、さらに、歴代首相や有力政治家に対するメア氏の見解が述べられていて興味深い。

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2011.09.04

▽『サイボーグとして生きる』

マイケル・コロスト『サイボーグとして生きる』 (椿正晴訳、ソフトバンククリエイティブ)

『サイボーグとして生きる』――。

えー、なんか大げさなタイトルなんですが、どういう内容の本かというと、著者のマイケル・コロストは、生まれつき耳が悪くて補聴器をつけて育てられたのですが、36歳になって完全に聴力を失ってしまいます。そこで、コンピューター制御の人工内耳システムを搭載した「インプラント」を頭蓋骨に埋め込んで、ふたたび聴力を獲得します。本書は、その顛末を綴ったものです。

人工内耳システムを「サイボーグ」と呼ぶには、やや大げさかもしれませんが、それまで使用していた補聴器よりも、ずっとはっきりと聴くことができるようになったそうです。

《それまで刺激されたことのなかった聴神経が電気刺激を受けるようになったため、聴覚皮質で神経細胞が四方八方に樹状突起を伸ばし、新たなシナプス結合が次々と形成された。その結果、失聴してから三年後の二〇〇四年には、ぼくの脳内に以前とはまったく異なる神経回路ネットワークが構築されていたのだ。》(p.275)

著者のマイケル・コロストは、文学好きのコンピュータおたくでして、本書でも、自身の恋愛についても包み隠さず綴っています。失われた青春を取り戻そうとする中年男性の姿がユーモラスに描かれていて、青春SFのような趣で、なかなか楽しく読むことができます。

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2011.08.31

▽アップルの「プランB」とはなんだったのか?

ジョン・マリンズ、ランディ・コミサー『プランB 破壊的イノベーションの戦略』 (山形浩生訳、文藝春秋)

本書のタイトルは『プランB』――。

当初たてたビジネス・プラン「A」に対して、これがうまくいかなかったために、途中で乗り換えたプラン「B」の方が、結果的にうまくいったケースが多いし、革新的であった、というのが本書の趣旨である。

たとえば、先頃ジョブスCEOの引退を発表したアップルは、コンピュータのハードとソフトというプランAを捨てて、iPodというプランBに乗り換えたために大成功を収めた、という。

なるほど、この説明は理にかなっているようにも思えるが……。でも、ちょっと違う気もします。

以前、ITジャーナリストのスティーブン・レヴィがiPod開発の舞台裏を追った『iPodは何を変えたのか?』を紹介したことがあります。

▽iPodは何を変えたのか? を振り返る
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/02/ipod-7562.html

『iPodは何を変えたのか?』によると、iPodとiTunesを開発する前の段階で、ジョブズは、ファイアーワイアー(iLink)によってデジタル・ビデオカメラとiMacを接続する「デジタルハブ戦略」を構想していたそうです。そして、《このデジタルハブ構想の最初の製品となったのが、ビデオカメラの映像を簡単に編集してホーム・ムービーを作成できるアプリケーション、「iMovie」だ。》(p.80)

どちらかというと、この「iMovie」がプランAであり、アップルは途中で、MP3プレイヤーと音楽再生ソフトの方がビジネス・チャンスも大きく、「デジタルハブ戦略」にとっても有望であることに気がついてiPodとiTunesという「プランB」に乗り換えた、とみた方がストーリーとしては面白いといえるでしょう。

この『プランB』には、グーグル、アマゾン、ライアン・エアーなどのケースも紹介されていますが、ちょっとまとめ方が乱暴かな、という気もしますね。

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2011.08.29

▽デンマークのにぎやかな公共図書館

吉田右子『デンマークのにぎやかな公共図書館-平等・共有・セルフヘルプを実現する場所』 (新評論)

外国の公共図書館に憧れを抱く人は多いようで、本書も、そんな一冊。デンマークにあるいくつかの公共図書館と、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドの図書館事情が紹介されています。

まあ、昔に比べれば、日本の公共図書館も使いやすくなっているとは思いますが……。

本書によるとデンマークなど29ヶ国では、「公共貸与権」という制度があるそうです。図書館で作品が無料で読まれてしまうことによる損失を、国が税金で補償する制度で、デンマークでは2009年には8112人の著作者に対して、合計1億5797万クローナ(約23億7000万円)が支払われているそうです。ただし、対象となるのはデンマーク語で作品を発表した作家、イラストレーター、写真家、作曲家などに限られるとのこと。

登録している著作者2万1000人のうち、補償金を受け取れるのは半数に満たず、受け取れた人でも、その金額は約3万円から1000万円超まで幅があるそうです。

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2011.08.28

▽モグラびとのその後――『ニューヨーク地下都市の歴史』

ジュリア・ソリス『ニューヨーク地下都市の歴史』 (綿倉実香訳、東洋書林)

以前、ニューヨークの地下で生活する「モグラびと」を描いたノンフィクションを紹介したことがあります。

▽『モグラびと ニューヨーク地下生活者たち』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/01/post-bb38.html

この『モグラびと』は、原著が1993年、邦訳が1997年に出版されましたが、最近邦訳が出版された『ニューヨーク地下都市の歴史』では、モグラびとのその後について書かれています。

《かつてリヴァーサイド・パーク地下に存在していた共同体はもはやない。一九九五年までは数百人のホームレスが無人となった整備室や線路脇の自作の小屋に住んでいたらしい。一九九五年四月の消防署からの命令で、一九九七年までにこれらの小屋は計画的に壊され、ホームレスは追い出された。》(p.144)

ということです。とはいえ、「モグラびと」が全滅したかというとそういうわけでもなく、まだまだ彼らが生息している痕跡はニューヨークの地下に行けばいくらでも見つけることができるそうです。

本書の著者、ジュリア・ソリスはニューヨーク在住のドイツ人で、2001年の9.11テロの際は地下鉄に乗っていて、勤務先のテレビで倒壊するWTCビルを見ていたそうです。本書は2002年に"Der Undergrund Von New York"というタイトルで出版されたものの邦訳です。ニューヨークの地下の写真が豊富で、通史的な読み物としても楽しめます。

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2011.08.25

▽吉本興業の正体

西岡研介『襲撃 中田カウスの1000日戦争』 (朝日新聞出版)

《むしろ今回の取材で浮かび上がってきたのは、ヤクザといわれる人たちと、絶妙な"距離感"を持って接しているカウスの姿だった。
 そして、この取材の過程で、逆に、彼がヤクザとの間に保っている距離感に比べれば、彼らとの距離が近すぎるのではないか……と思われる芸人や、芸能人が複数浮上したことも事実だ。》(p.307)

本書は、トップ屋として知られる西岡研介が、"怪芸人"中田カウスと吉本興業創業者の娘との確執を追ったルポルタージュ。2007年には週刊誌を大いに騒がせたスキャンダルで、2009年に本書が上梓された際に読んだのですが、人間関係が複雑に入り組んでいるために、途中で放り出してしまいました。

今回、改めて読み直してみたのですが……やっぱり複雑怪奇な世界……でした。本書でも、参考文献として紹介されていたのが、作家の増田晶文による『吉本興業の正体』。吉本興業を多角的な視点で描いた通史で読みやすい。

増田晶文『吉本興業の正体』 (草思社)

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2011.08.24

▽小泉構造改革の問題点とは?――『新自由主義の復権』

八代尚宏『新自由主義の復権 - 日本経済はなぜ停滞しているのか』 (中公新書)

《小泉構造改革の真の問題点は、目指した方向が間違っていたことではなく、それが不十分・不徹底なことにあった。》(p.250)

これに尽きる――。

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2011.08.23

▽『報道災害【原発編】』

上杉隆x烏賀陽弘道『報道災害【原発編】 事実を伝えないメディアの大罪』 (幻冬舎新書)

福島原発の事故に関する政府や東電の情報公開は、いわゆる「大本営発表」であり、新聞やテレビは、それに加担してきたのではないか? という疑念を拭いされない人も多いだろう。

本書は、いわゆる「記者クラブ・メディア」とは立ち位置を異にする二人のジャーナリストが、報道されなかった事実について語り合う。

[目次]
第1章 繰り返された悪夢―70年目の大本営
第2章 日本に民主主義はなかった
第3章 アメリカジャーナリズム報告2011
第4章 死に至る病 記者クラブシンドローム
第5章 報道災害からいかにして身を守る

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2011.08.11

▽『皇族誕生』――皇族たちの群像劇

浅見雅男『皇族誕生』(角川グループパブリッシング)

幕末史の主要人物といえば、江戸幕府や、明治維新を担った下級武士が中心です。

▽『幕末史』――攘夷から開国への転換点は?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-7fe7.html

一方、天皇は、せいぜい孝明天皇と明治天皇を中心に歴史が書かれる程度です。本書は、明治維新期に誕生した「皇族」にスポットをあてたものです。

江戸時代末期、4つしかなかった皇族の「宮家」は、王政復古を経て十に増えました。しかし、財政問題を抱えていた明治政府は、「臣籍降下」という制度を作り、増え続ける皇族を減らすことに成功したそうです。

興味深いのは第二部の「皇族と軍隊」。江戸時代までは、皇族の多くは出家しましたが、明治期の神仏分離により、出家できなくなり、かわりに軍人となりました。軍隊では、特別扱いしないで一般の兵隊と同じように扱って欲しい、と要望を出した皇族が多かったそうです。

皇族たちの群像劇としてみると、本書はなかなか面白いですね。

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2011.08.09

▽『職業としての大学教授』

潮木守一『職業としての大学教授』 (中公叢書)

本書は、日本と、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツの大学教授の取り巻く状況を比較することで、日本の大学教育のあり方を問うものである。

本書に先行する研究として、1965年に新堀通也によって発表された『日本の大学教授市場―学閥の研究』(教育の時代叢書)がある。

この『日本の大学教授市場』において、欧米の大学では、助手、助教授、教授と上に行くほど人数が減る「ピラミッド型」なのに対して、日本では人数が同じ「煙突型」であると指摘している。

《新堀は大学教員の人的構造が煙突型になっており、エスカレーター式に教授まで昇進できる点に、日本の学界のぬるま湯性の原因があると告発した。》(p.191)

その後の変遷を、改めて研究したのが本書である。そして、驚くべきことに、欧米ではピラミッド型が維持されているのに対して、日本では、煙突型どころか教授の方が人数の多い「逆ピラミッド型」にすらなっていると指摘する。この原因について著者は、

《ひとえにすべての昇進人事、採用人事が共通な基準を欠いたまま、外部の目に晒されることなく、仲間うちの評価で行われてきたからである。》(p.191)

終身雇用と年功序列いう日本的な雇用制度の弊害が、大学にまで及んできている例といえよう。

本書は、各国の大学制度や教授の選抜制度についてコンパクトにまとめられており、特に欧米の大学の事例は、日本の大学改革を進める際に参考になる点も多いと思う。

[目次]
第1章 欧米のピラミッド型は変化したのか
 イギリスではどう変化したのか
 フランスの場合
 ドイツの場合
 アメリカの場合
 日本の場合
第2章 日本型大学社会の形成
第3章 大学教師の値段はどうやって決まるのか
 ドイツの教授資格試験
 ジュニア教授制度
 フランスのコンクール方式
 内部昇進禁止の原則 
 消滅した助手ポスト
 アメリカの方式
 イギリスでの昇進制度
 揺れる内部昇進禁止の原則 
第4章 博士になるための茨の道
 博士号をとるには
 日本のケース
 ドイツのケース
 博士課程の生活費調達
 フランスのケース
 フランスでの博士号の経済的価値
 アメリカのケース
 博士課程修了の見返り
 イギリスのケース
第5章 変化を続ける大学
終 章
あとがき

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2011.08.08

▽マネー・ボールのその後

マイケル・ルイス『マネー・ボール』 (中山宥訳、ランダムハウス講談社)

えー、いま話題の「ランダムハウス」が、まだ、健全だった頃の一冊を。というか、あまりにも話題になった本なので、いまさら取り上げるのもどうかと思いつつも……。

本書の著者は、主に金融分野での著作を発表してきたジャーナリストのマイケル・ルイス。最近では、サブプライム・ショック、リーマン・ショックの勝者たちを描いた『世紀の空売り』が、世界的なベストセラーとなりました。

▽リーマン・ショックへと至る道――世紀の空売り
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/01/post-f6dd.html

さて、本書のタイトルは『マネー・ボール』。主役は、貧乏球団として知られるオークランド・アスレチックスのGMビリー・ビーン。

2002年のシーズン開幕時点でみると、年俸の総額がニューヨーク・ヤンキースなどの金持ち球団の三分の一以下にもかかわらず、アスレチックスは、三年連続でプレーオフ出場を果たしていた。アスレチックスの投資効率が良い理由は何か? というのが本書のメインテーマである。

結論から言うと、野球選手を評価するさまざまなデータの中でも、出塁率をもっとも評価し、選球眼の良い選手、特に、他チームが手放すような傷のある選手を、安い年俸で獲得してきたというのがアスレチックス快進撃の秘密であった。

しかし――。

本書の原著は2003年に出版され、アメリカでも大いに話題になったことから、アスレチックス以外の球団でも、出塁率重視の戦略がとられるようになった。その結果、選球眼の良い選手を格安の年俸でかき集める、という戦略がなりたたなくなり、アスレチックスは2007年には9年ぶりの負け越し、2009年には11年ぶりの地区最下位を記録するなど低迷が続いている。

ねぇ……。

でも、他人と違う視点でデータを読むことの重要性を教えてくれる貴重な一冊です。

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2011.08.07

▽『「イギリス社会」入門』

コリン・ジョイス『「イギリス社会」入門―日本人に伝えたい本当の英国』 (森田浩之訳、NHK出版新書)

コリン・ジョイスは、イギリス人ジャーナリストで、日本とアメリカに長期間生活しています。同じ著者の著作を紹介したことがあります。

▽英国人が見たニッポンとアメリカ
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/06/post-8ed9.html

前二作は、それぞれイギリス人が見たニッポン、イギリス人が見たアメリカで、なかなか面白く読めました。シリーズ三作目となる本書は、イギリス人が日本人に伝えたい本当の英国……なんですが、あまり面白くない……。

なんででしょうね?

個人的な体験によりかかりすぎていて、客観的な視点が欠けている、ということでしょうか。

なぜか、BBCの「偉大なイギリス人一〇〇人」に入らなかったジョージ・オーウェルを紹介したところは、興味深かったですけどね。

日本で有名なイギリス人の本国における評価、みたいな切り口の方が面白かったかもしれませんね。

[目次]
1 階級   みすぼらしい上流、目立ちたがる労働者
2 天気   今日も「くもり時々雨、時々晴れ」
3 国旗   ユニオン・ジャックは優れた輸出品だ
4 住宅   イギリス人がいちばん好きな話題
5 料理   フランス人にはわからない独創性
6 王室   昔、英語を話せない国王がいた
7 結婚   ロイヤル・ウェディングの新常識
8 表現   スズメバチをかんでいるブルドック
9 薀蓄   てっとり早くイギリス通になる方法
10 英雄   「偉大」なイギリス人
11 私淑   敬愛するジョージ・オーウェル
12 紅茶   お茶は世界を生き返らせる
13 飲酒   酔っぱらいはこうして生まれる
14 酒場   パブは歴史、文化、伝統の宝庫だ
15 歴史   ぼくのお気に入り英国史
16 留学   イギリスにやって来る友人への手紙
17 風物   好事家向けスポーツカレンダー
18 伝統   ニュー&オールド・ブリテン
19 品格   これぞ、イギリス!

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2011.08.03

▽『読みにくい名前はなぜ増えたか』

佐藤稔 『読みにくい名前はなぜ増えたか』(吉川弘文館)

読みにくい名前はなぜ増えたか?

ねぇ……。

これは本当に、知りたいテーマなんですが、本書は、残念ながら、「読みにくい名前はなぜ増えたか?」という問いそのものには、必ずしも明確な答えは出せていません。

しかし、それでも、著者は、読みにくい名前がつけられる要因については、「親の教養、ないしは彼らが属している階層・環境による」(p.184)と結論づけています。

《伝統的な文化にさして違和を覚えず、従来通りの文化を享受することのできる、保守的富裕層と、自分の居場所を模索し、価値観に「個性的」というマークを刻印せずにおれない新興勢力の層とは、分極化が著しい。》(p.184)

しかし、この二つの階層の違いは、都会に限られており、地方では、「富裕な教養層の拒否反応のような意識が観察できない」(p.184)のだそうです。

本書には、たくさんの読みにくい名前が掲載されていますが、この問いは、またまだ研究の余地がありそうです。

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2011.08.02

▽『「TPP開国論」のウソ』

東谷暁x三橋貴明x中野剛志 『「TPP開国論」のウソ 平成の黒船は泥舟だった』(飛鳥新社)


私自身は、日本がTPPに参加することは賛成なんですが、TPPに反対する立場の本書を読んだ方が、より多くの情報を得られると思います。

特に、ジャーナリストの東谷暁の担当した第二章“「TPP=農業問題」には騙されない”には、「TPPの二四作業部会」(p.117)が示されています。

1.首席交渉協議
2.市場アクセス(工業)
3.市場アクセス(繊維・衣料品)
4.市場アクセス(農業)
5.原産地規則
6.貿易円滑化
7.SPS(検疫、及びそれに付随する措置)
8.TBT(貿易上の技術的障害)
9.貿易保護
10.政府調達
11.知的財産権
12.競争政策
13.サービス(クロスボーダー)
14.サービス(電気通信)
15.サービス(一時入国)
16.サービス(金融)
17.サービス(ネット販売)
18.投資
19.環境
20.労働
21.制度的事項
22.紛争解決
23.協力
24.横断的事項特別部会(中小企業、競争、開発、規制関連協力)

東谷の指摘するTPPにおけるアメリカの本当の狙いは、「金融」と「投資」で稼ぐこと、なのだそうですが……。それは、TPPに反対する理由ではなく、むしろ賛成する理由になるんじゃないかと、私は思います。

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▽『エリーザベト・ニーチェ―ニーチェをナチに売り渡した女』

ベン・マッキンタイアー『エリーザベト・ニーチェ―ニーチェをナチに売り渡した女』(藤川芳朗訳、白水社)

なんで、こんな本を買ったのかよく覚えていないのですが(たぶん『皇妃エリザベート』ブームの時についでに買ったんだと思う)、読み返してみたら面白かったので、ご紹介。

エリーザベト・ニーチェとは、「超人哲学」でおなじみのフリードリヒ・ニーチェの妹。反ユダヤ主義のリーダーと結婚して、南米のパラグアイに入植して「新ゲルマニア」というドイツ人コミュニティを作ります。

しかし、事業としては失敗したため夫は自殺。ドイツに戻ったエリザーベトは、すでに発狂していたニーチェの思想を、反ユダヤ主義と混ぜてナチスの思想として宣伝する、という愚行を行った人物です。

著者によると、エリザーベトの書いたニーチェの伝記は、
《この本によって、彼女自身のゆがんだフィルターを通してでなければ、実質上ニーチェの生涯に、そればかりかその著作にも、近づくことが不可能になってしまった》(p.252)
ほどのでっち上げだったそうです。

本書は、最近同じ出版社から復刻版が出されたようです。

[目次]
序文
第一章 パラグアイ アスンシオンの船着場 一八八六年三月十五日
第二章 未知の国
第三章 川をさかのぼって
第四章 白い貴婦人と新ゲルマーニア
第五章 騎士たちと悪魔たち
第六章 ラマの国のエリーザベト
第七章 権力への意志
第八章 祖国の母
第九章 新ゲルマーニア 一九九一年三月

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2011.07.21

▽消されたテンノウ――『牛頭天王と蘇民将来伝説』

川村湊『牛頭天王と蘇民将来伝説――消された異神たち』(作品社)

いま「テンノウ」という言葉を聞けば、ほとんどの人は「天皇」を思い浮かべるでしょう。しかし、実際に地名として残っている「テンノウ」は、「天王洲」や「天王山」などの「天王」です。

そして、江戸時代までは、天皇のことは「内裏様」、「禁裏様」などと読んでいました。つまり、江戸時代までは、テンノウと言えば「天王」だったわけです。

では、そもそも、この天王は何を意味するのか、そして、この天王は、いつ、どのように、そして、なぜ消えていったのか? という謎に迫ったのが、本書『牛頭天王と蘇民将来伝説』です。

まず、「牛頭天王」の「牛頭」は「こず」と読みますが、文字通り、牛の頭をした神様で、これはチベット仏教の「大威徳明王」(ヴァジュラヴァイヴァラ)に由来する神様と言われています。つまり、外来の神様ということになります。

この「牛頭天王」は、いわゆる「記紀神話」、日本書紀や古事記など、日本の正統な歴史書とされているものには、まったく現れてこない神様です。

しかし、先ほどあげたように、「天王」を含んだ地名は、日本中の至る所にあり、この牛頭天王が日本各地で祭られてきたことは間違いありません。

しかし、明治の維新政府は、「王政復古」を宣言し、それまで、「禁裏様」や「内裏様」と呼ばれてきた「天皇」を、そのまま「テンノウ」と呼ばせることにしました。

《この時に「天王」は「天皇」の前に立ち塞がる目障りで、紛らわしい邪教・邪心の頭目のように、彼ら、神道家たちの目には映ったはずだ。》(p.129)

この時、「牛頭天王」を祭ってきた天王神社の多くは、「牛頭天王」は「スサノオノミコト」の化身であるという説を採用したため、日本中の天王神社から「牛頭天王」は消えてしまったそうです。

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2011.07.19

▽菅直人という男――山本譲司『獄窓記』より

山本譲治『獄窓記』(ぽぷら社)

《後部座席から、追い越しや車線変更など、いちいち細かい指示を出し始めたのだ。都心で車を走らせた経験のない私の運転は、危なっかしく映ったに違いない。そのうち、菅さんは、私の隣に移ってきた。しばらくは、助手席から、私への運転アドバイスを続けていたが、とうとう、自分がハンドルを握ると言い出してしまった。私は、すんなりと運転を代わった。……
 後日、同乗していた支援団体の幹部は、その時のことを振り返って言った。
「山本さんの運転よりも、菅さんの運転の方がよっぽど怖かったよ」》(p.21)

元衆議院議員の山本譲司は、2000年に政策秘書給与の流用事件が発覚して逮捕・起訴された。本書は、その事件の顛末を中心に、自身の政治家としての過去を振り返ったものである。

山本の政治との関わりは、社民連時代の菅直人の秘書としてスタートした。その後、都議会議員を経て、小選挙区に変更後の東京二十一区に民主党から出馬し当選。2000年6月には、二期目の当選を果たし、順風満帆のように思われた。しかし、過去に山本の秘書を務めていた人物から、マスコミや検察に告発がなされ、翌年、執行猶予のつかない実刑判決がくだされる。

山本によると、当時、政策秘書給料の流用は常態化していたというが、そのことについて、山本は口をつぐんだまま、獄につながれることになった。

そして、同じ件で、告発されたのが、当時、社民党の辻本清美であった。学生自体に山本と同じゼミに所属していた辻本は、山本の事件の悪質さを強調することで、自分の罪悪を弱める戦術をとったが、これが山本にとっては、虚偽の内容ばかりであったため、辻本に謝罪を求めることになる。

出所後の山本は、政治家を引退し、福祉関係の仕事をするとともに、本書や『累犯障害者』などを上梓し、ジャーナリストとしても活動している。

一方、現在、運転の荒い菅直人は総理大臣、また、辻本清美は、その補佐官をつとめている。

[参考]『累犯障害者』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/01/post-98fb.html

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2011.07.18

▽『市町村合併で「地名」を殺すな』――「さいたま市」は最低の地名だそうです

片岡正人『市町村合併で「地名」を殺すな』(洋泉社)

《「平成の大合併」によって誕生している新しい自治体名は、まさに現代日本の「知的レベル」をそのまま反映している。このままでは、日本は子供だましのテーマパークのような国になってしまう。》(p.2)

なんとも過激なタイトルの本書ですが、平成の大合併によってつくられた新地名の多くはおかしい、と指摘した上で、どう命名すべきだったか、の代替案まで提示するという念の入りようが素晴らしい。

この手の、何かに苦言を呈すタイプの本は、主張そのものには共感できても、読んでいくうちに、辟易してしまうことが多いのですが、本書の爆走ぶりは最後まで徹底していて、ある種の爽快感すらあります。

私自身も、平成の大合併という政策自体には賛成していますが、その過程で伝統のある地名が失われるのはどうなんだろう? と感じていました。同様のことを、イギリスから日本の自治体に派遣された女性が、投書というかたちで意見表明して、話題になったこともあったかと思います。

さて、本書の著者は、読売新聞の記者で、同紙の夕刊文化面に連載されたものがベースとなっています。著者は、つけてはいけない地名として、具体的な例をあげていきます。

・「さくら市」などの「カナ地名」。
・縁起の良いもの、イメージの良いものにあやかった「瑞祥地名」。たとえば「大和」や「瑞穂」。
・かつての「飛騨国」の一部が「飛騨市」を名乗るというように、ごく一部の地域に大きな地名を使う「僭称」。
・企業名や商品名のようなインパクトを狙った「CI地名」。「ゆとり」という言葉に引っかけた「湯陶里市」を候補に入れた自治体があった。
・著名人にあやかった「人名地名」。大リーグで活躍する松井にあやかって「松井市」や「ゴジラ市」が候補に挙がった。
・合併した自治体の名称の一部を組み合わせた「合成地名」。これは明治以来推奨されてきたこともあり、「国分寺」と「立川」の間だから「国立」、「大森」と「蒲田」を足した「大田区」など枚挙にいとまがない。

そして、著者によると、最低の新地名は、「さいたま市」だそうです。まず「カナ地名」であること、また、埼玉県という大きな地名をごく一部の地域に使っている「僭称」が該当します。さらに、

《もともと「埼玉」は「さきたま」と読み、現在の行田市に今も地名が残る「埼玉」が地名の発祥の地である。従って、市町村で「埼玉」「さいたま」「さきたま」を名乗れるのは、行田市しかないのだ。これは地名の盗用であり、断じて許されることではない。》(p.65)

というわけで、「さいたま市」は三つの誤りを犯した最低の新地名なのだそうです。

また、古い地名には、過去に地震などの災害があったことを示唆するものも多く、そうした実用的な面からも、安易な新地名の創出は避けるべき、とのことです。

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2011.07.17

▽『ユニコード戦記』

小林龍生『ユニコード戦記―文字符号の国際標準化バトル』(東京電機大学出版局)

そういえば、あれ、どうなったんだっけ? というような疑問はいくつもありますが、そのうちの一つが、ユニコードにおける漢字の処理の問題。

十年以上前ですが、次のような文章を書いたことがあります。

▽「ワープロと日本語」――日本語と漢字をめぐる悪戦苦闘
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/1994/10/post-f6a4.html
《中国、台湾、日本の漢字は同じ字でも微妙に形が異なるため、別々のコードをふらざるをえない。また、これまで使用してきた日本独自の漢字コードが使えなくなり、過去の文書データを使用するのに莫大なコストがかかってしまう。》

最近になって発行された、本書『ユニコード戦記』によると、ヴァリエーションセレクター(Variation Selector=VS)という「文字符号の後ろに字形を特定するための枝番号」を付け加えることで、この問題は解決されたそうです。

ただし、この提案がユニコード・コンソーシアムになされたのが1998年頃で、実際に採用されたのが実に2010年末のこと。

本書の著者は、小学館の編集者を経てジャストシステムに入社し、ユニコード・コンソーシアムのメンバーとして奮闘してきました。本書の内容は専門的過ぎて、読むのには少々骨が折れますが、著者と、著者とともにユニコード問題に携わってきた方々の努力には、心の底から敬意を表したいと思います。

[目次]
第1幕 序章
 第1章 参戦
  1 召集令状
  2 緒戦
  3 初戦果
  4 パックス・アメリカーナ
  5 出張の嵐
  6 ルビタグ縁起
  7 情報帝国主義
 第2章 戦友
  1 去りゆく古参兵
  2 バディ参戦
  3 最初の提案
  4 ルビ戦争勃発
  5 先任軍曹
  6 共同議長
 第3章 一九九五年ごろの文字コード
  1 コンピューターの発展と文字コード規格の変貌
  2 日本語情報処理の発展と国際符号化文字集合への蠕動
  3 そして、ぼくの前史

第2幕 国内戦線
 第4章 JIS X 0213と国際整合性
  1 重大ニュース
  2 やっかいな問題
  3 数々のすれちがい
  4 グローバル化への高い代償
 第5章 表外漢字字体表
  1 ユニコード批判の嵐
  2 白熱する議論
  3 深まる議論
  4 答申が残した課題
 第6章 JIS X 0213:2004
  1 表外漢字字体表とJIS漢字規格の整合
  2 残された課題
 第7章 カンバセーション
  1 ピックポケット
  2 ヒデキの激怒
  3 ヨーロッパ縦断一七時間の旅
  4 英会話は女子大で
  5 絶頂期のトレーニング

第3幕 国内戦線
 第8章 CICC活動
  1 ミャンマー文字 —希有な成功例—
  2 クメール問題 —外人部隊の跋扈—
  3 クメール問題 —前言撤回—
  4 CICCによる実証実験
 第9章 SC2議長
  1 SC2議長就任
  2 議長の息抜き
  3 ISO/IEC 14651 —英語とフランス語版の整合性—
  4 ミスターインビジブル
  5 SEIとマイノリティスクリプト
  5 SC2議長にできること
 第10章 ヒデキとぼくは何と戦ってきたか
  1 文字コードと自然言語との関係
  2 ユニコード批判の中心に位置するもの
  3 人名漢字のアポリア

第4幕 終章
 第11章 最後の戦い
  1 封印されたヴァリエーションセレクター
  2 ヴァリエーションセレクター、漢字適用への道
  3 汎用電子情報交換環境整備プログラムとIVS
  4 戦いの行方

あとがき
付録

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▽『アマゾン・コムの野望』――虚飾を剥いだ真の姿

脇英世『アマゾン・コムの野望―ジェフ・ベゾスの経営哲学』(東京電機大学出版局)

《ふとしたきっかけでアマゾン・コムについて書きはじめて驚いたことは、虚飾や伝説が非常に多いということである。ジェフ・ベゾス自身、意識的に誇張して伝説や神話をつくりあげようとしていたようである。》(p.302)

アマゾンの電子書籍端末キンドルや、電子書籍のダウンロード数に関する発表をみると、いつも「何か誇張されているのではないか?」と感じていたのですが、この東京電機大学の脇英世教授の指摘をみると、「やはり」と思わざるをえません。

本書は、株式目論見書や年次報告書、裁判や特許の資料など、出典が確実な資料をもとにして、ジェフ・ベゾスの生い立ちや、アマゾンの変遷を時系列に追跡しています。

『アマゾン・コムの野望』というタイトルの割には、たんたんと事実が綴られているだけなので、読み物としての迫力には、やや欠けるかもしれませんが、本書で描かれているのが、虚飾を剥いだアマゾンとジェフ・ベゾスの真の姿と言うことができると思います。

[参考]
▽『潜入ルポ アマゾン・ドットコム』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/12/post-41be.html
▽『Amazonランキングの謎を解く』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/amazon-4253.html

[目次]
第1章 ジェフ・ベゾスの神話
 1 アイゼンハワーとキューバ
 2 ケネディの失策
 3 鷹は飛び立った
 4 カソリック神父のペドロ・パン作戦
 5 ジェフ・ベゾスの家系
 6 ジェフ・ベゾスの誕生
 7 大好きなおじいさん、ローレンス・プレストン・ガイス
 8 先進研究計画局ARPA
 9 原子力委員会と核兵器製造
 10 ジェフ・ベゾスの幼年時代
 11 モンテッソーリ・プレスクール
 12 科学少年と宇宙への憧れ
 13 牧場レイジーGと宇宙旅行基地
 14 レイジーGとロングフェローランチ
 15 インフィニティキューブ
 16 フロリダのペンサコーラへ
 17 宇宙からコンピュータへの転進
 18 金融通信会社ファイテル
 19 バンカーズトラスト社への転進とハルゼイ・マイナーとの出会い
 20 D・E・ショウとの出会い
 21 アメリア島コンビニ襲撃事件

第2章 インターネット時代の幕開け
 1 革命児マーク・アンドリーセンの登場
 2 打ち上げ花火のようなネットスケープ
 3 ヤフーと二人の創業者
 4 ヤフーの設立から上場へ
 5 マイクロソフトのヤフー買収提案

第3章 シアトルへ一路爆走する男と女
 1 インターネットラッシュとデビッド・ショウの調査命令
 2 後悔を最小にするフレームワーク
 3 出発、西へ
 4 ガレージからの出発
 5 社員第一号、シェルダン・カファン
 6 社員第二号、さすらいのポール・デイビス
 7 開発のはじまり
 8 アマゾン・コムのビジネス哲学
 9 アマゾン・コムの経営戦略
 10 アマゾン・コムの本屋の特徴

第4章 アマゾン・コム、いよいよ営業開始
 1 足りない資金
 2 地元の個人投資家からの資金調達
 3 アン・ウィンブラッド
 4 ジョン・ドーア
 5 スコット・クックも役員に
 6 卓越したマーケティング戦略
 7 巨人マイクロソフトの接近
 8 司法省の独占禁止法訴訟
 9 株式市場による資金調達へ
 10 アマゾンの上場

第5章 アマゾン・コムの源流
 1 運用経験が浅い
 2 累積赤字の問題
 3 将来の歳入が予測できない
 4 四半期ごとの運用実績の潜在的な変動と季節性
 5 通信トラフィック容量の制限
 6 社内で開発したシステムに依存していること、システム開発のリスク
 7 システムの故障のリスク、単一のサイトと注文のインターフェイス
 8 潜在的な成長可能性、新しい管理チーム、経験豊富な上級管理者が限られている
 9 ジェフ・ベゾス個人への過剰な依存性
 10 オンライン・マーケットでの競争
 11 特定の卸業者への依存性

第6章 バーンズ&ノーブル・コムの栄光と悲惨
 1 バーンズ家と書店業
 2 ノーブル家と書店業
 3 バーンズ&ノーブルの成功
 4 レオナルド・リッジオ
 5 ショッピングモールへの展開
 6 スティーブ・リッジオが脚光を浴びる
 7 ベルテスマンAGのトーマス・ミドルホフ
 8 バーンズアンドノーブル・コムの衰退
 9 バーンズ&ノーブル・コムの敗北

第7章 ワンクリック特許 奇妙なビジネスモデル特許
 1 インターネットで注文するシステム
 2 26個のクレーム
 3 そもそも特許とは何だろう
 4 特許の底流となる基本的な考え方
 5 数字や物理の公式は特許にならない:GV訴訟
 6 数式だけでは特許にならない:PV訴訟
 7 コンピュータに関連していても特許になる:DD訴訟
 8 投資信託に関する特許:ステートストリート訴訟
 9 連邦巡回控訴裁判所の判決

第8章 か細きダビデ、ゴリアテに変身
 1 アマゾン・コム、バーンズアンドノーブル・コムを告訴
 2 連邦巡回控訴裁判所の判決
 3 リチャード・ストールマン
 4 教祖と聖イグナチウス
 5 リチャード・ストールマンの檄文
 6 ティム・オライリーの公開書簡
 7 ジェフ・ベゾスの返事
 8 ミッチー・ケイパーとEFF
 9 ジェリー・カプラン
 10 電子フロンティア財団EFF
 11 ブルーリボンはためく
 12 アマゾン・コムの裁判はどこまでも続く
 13 突如現れたピーター・カルバリーの一撃
 14 SNSの特許も獲得してしまったアマゾン・コム

第9章 勢いを増すアマゾン・コム 連続する企業買収
 1 欧州進出と本以外の分野への進出の始まり
 2 ネットバブルの到来と転換社債による資金調達
 3 アマゾン・コムの戦線拡大と打ち続く買収・投資
 4 食料品、スポーツ用品、工具、宝飾品までも
 5 ネットバブル崩壊
 6 イーベイの創立者ピエール・オミディア
 7 PEZに関する伝説とイーベイの立ち上げ
 8 偶然の帝国、運も実力である
 9 女帝メグ・ウィットマンの社長就任
 10 アマゾン・コム、オークション市場で敗退
 11 アマゾン・コム無敗の神話のほころび
 12 買収と投資の再開
 13 アマゾン・コムのアマゾン・コムの買収戦略の総括
 14 第三の進出方向は大規模小売店
 15 J・C・ペニーに勤務する
 16 バラエティストアの経営にたずさわる
 17 ベントンビルに店を開く
 18 他の店を覗いてまわる
 19 ウォルマートの誕生
 20 ロジスティックスの整備
 21 株式の上場
 22 ウォルマートの功罪
 23 アマゾン・コム対ウォルマート
 24 高級品市場

第10章 アマゾンのコンピュータ化されたビジネスのしくみ
 1 アマゾン・アソシエイトプログラム
 2 プロダクト・アドバタイジングAPI
 3 アマゾンの市場に集まる登場人物
 4 プロダクト・アドバタイジングAPIでどんなことができるか
 5 アマゾン・コムの商品はどう組織化されているか
 6 検索インデックス
 7 商品の集まりのさまざまな形態
 8 少しむずかしい話、RESTとSOAP
 9 セキュリティとアクセスキー
 10 買いたい商品を検索する
 11 カスタマーが購入したくなる工夫

第11章 電子ブック端末キンドル
 1 キンドル発売
 2 キンドル2の発売
 3 キンドルDXの発売
 4 70%のロイヤルティ
 5 ビッグブラザー
 6 キンドルの課題
 7 本は悠久の歴史を持つ
 8 本はなくならないだろう
 9 携帯型読み出し機が必要な場合もある
 10『もうする絶滅するという紙の書物について』

第12章 アマゾン・ウェブサービスAWS
 1 アマゾン・ウェブサービスAWSとは
 2 AWSの利点
 3 AWSの提供するサービス
 4 アマゾンEC2を使うには

終章 アマゾン・コムの将来
 1 独特の美学に裏打ちされたカルチャー
 2 厳しい選別
 3 インベントリー物流
 4 創業以来の株高

あとがき
事項索引
人名索引

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2011.07.16

▽うわさとデマを科学する

ニコラス・ディフォンツォ『うわさとデマ 口コミの科学』(江口泰子訳、講談社)

前回のエントリーでは、東日本大震災の流言やデマを具体的に検証する『検証 東日本大震災の流言・デマ』を紹介しましたが、

▽東日本大震災の流言・デマを検証する
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/07/post-3022.html

本書は、うわさやデマの発生するメカニズムを、アメリカの心理学者が科学的に分析したものです。原著は、2008年に発行されたものですが、東日本大震災後の状況に沿うように、翻訳の際に若干の手直しがされています。

まあ、内容的には、感覚的にはわかっていることを、心理学の用語を使って解説するとこうなるんだな、という感じなんですが、第8章では、有害な噂から身を守る方法や、悪意ある噂に反論する方法なども紹介されています。特に「効果的な六つの反論方法」(pp.277-284)は、有益な情報かもしれませんね。

①事実に基づく
②信頼されている人物が行う
③噂が出た直後に行う
④否定するだけではなく反論の理由も明確にする
⑤証拠を提出する
⑥協力を求める

[目次]
第1章 噂をするのは人の常
第2章 噂の海が泳ぐ
第3章 不明瞭であることは明瞭だ―不確実な世界を噂で理解する
第4章 噂、ゴシップ、都市伝説―似たものどうしを考察する
第5章 井戸のまわりの小さな世界―どんな噂がどこで、なぜ、広まるのか?
第6章 信じる噂、信じない噂―なぜ信じたり、信じなかったりするのか?
第7章 事実は曲げられないもの―街の噂を検証する
第8章 噂の製造工場を管理する

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▽東日本大震災の流言・デマを検証する

荻上チキ『検証 東日本大震災の流言・デマ』(光文社新書)

3月11日から、すでに4ヶ月が経過していますが、大震災と原発事故発生当時の様子は、まだまだ生々しい記憶として残っています。

本書は、3.11直後に、主にネットなどで流布された流言やデマを検証したものです。そういえばこんなデマ流れたなあ、と改めて思い起こされます。そして、一つ一つ検証してあって、なかなかの労作と言えそうです。

私自身は、デマに対する警戒心を持ちつつそうした情報に接してきたという自負はあったのですが、正直に言いますと、「放射性物質にヒマワリが効く」(p.120)は、ホントだと思っていました(恥)。

[目次]
序章――なぜ、今、流言研究か
 災害時における「情報」の重要さ
 流言・デマは人を殺す
 流言・デマに応答するということ
 流言とデマの違い
 個人のリテラシーだけに頼らない
 流言ワクチン

1章 注意喚起として広まる流言・デマ
 東日本大震災の流言・デマの特徴
 三時間後に最大の揺れが来る?
 有害物質の雨が降る?
 コスモ石油流言の分析より見えてくるもの
 インサイダーからの密告
 デマの中和の重要さ
 流言中和ラグと流言中和ギャップ
 また出てしまった、外国人犯罪流言
 外国人という「災害弱者」
 「石巻の友人からのSOS」
 強姦が激増?
 埼玉県の水を飲むな?
 東京電力を装った男?
 放射性物質にはうがい薬が効く?
 避難所で子どもが餓死?
 関係者から「東京から家族を逃がせ」と言われた

2章 救援を促すための流言・デマ
 情報ボランティアたちの「災害カーニバル」
 有名人の行動
 ニセのSOS情報
 通報したら怒られた
 関西電力の節電よびかけチェーンメール
 防衛省・自衛隊が救援物資を募集というチェーンメール
 みんなで献血をするべき?
 放射性物質にはヒマワリが効く?
 寄付をよびかけるチェーンメール
 善意(のつもり)の行動に要注意

3章 救援を誇張する流言・デマ
 「ソースロンダリング」の危険性
 オバマの演説?
 「天皇陛下が京都に避難した?」「天皇陛下が立派にも避難要諦を拒んだ?」
 消火に当たった消防隊総括隊長のコメント?
 海外のニュースサイトを経由する流言
 政敵を攻撃するためのデマ
 蓮紡がコンビニ規制を提案?
 辻元清美が自衛隊や米軍に抗議?
 ピースボートが物資横流し?
 日本では物資の空中投下が認められていない?
 「行方不明」の東電職員は、逃亡して酒を飲んでいた?
 節電したのに先月と同額請求?
 被災地から避難した子どもには教科書を配布してはいけない?

4章 流言・デマの悪影響を最小化するために
 海外での日本の著名人死亡説
 海外での原発流言
 日本が地震兵器で攻撃された可能性? ほか
 見えない敵との闘い
 内在的チェックと外在的チェック
 「うわさ屋」と「検証屋」
 検証屋の憂鬱?
 流言拡散を認めない人
 NGワードに注意する
 止める・調べる・注意する
 技術的にうわさを抑制

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2011.07.15

▽『下町ロケット』――中小企業の戦い

池井戸潤『下町ロケット』(小学館)

第145回の直木賞受賞作。

エンジン部品の開発・製造を行っている大田区の町工場、佃製作所のもとに、ある日一通の訴状が届いた。容赦の無い法廷戦略を駆使して、ライバル企業を叩き潰すことで知られるナカシマ工業からだ。佃製作所の特許申請の穴をついて、特許侵害を主張し、多額の賠償金を要求してきた。佃製作所を追い詰めて、特許ごと乗っ取るのが真の狙いだ。

この裁判の成り行きを見つめるもう一つの大企業があった。ロケット開発を進めている帝国重工も、佃製作所の持つ別の特許を奪い取る必要があった。佃製作所の弱みにつけ込んで、特許を買い叩こうとする帝国重工。

さて、この二つの戦いはどうなるのか――。

まあ、この先は、小説なんで、読んでお楽しみにというところですが、この二つのエピソードは、日本の企業社会の負の側面が現れています。それは、中小企業が、いくらユニークな技術を開発して特許を取得しても、それを大企業があの手この手を使って奪い取ろうとすることです。中小企業であろうと、対等なパートナーと認めて、業務提携するなり、適正な使用料を払うなりすればいいのに、弱みを探して追い込んで、奪い取ろうとする。

日本のベンチャーは、イグジット(出口)戦略が立てられない、とよく言われるのは、こういうことも背景にあると思います。

[参考]
▽奥田英朗の『最悪』は、ホリエモンの『成金』と比べてみると面白い
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-741b.html

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2011.07.13

▽『福島原発の真実』

佐藤栄佐久『福島原発の真実』(平凡社新書)

元福島県知事の佐藤栄佐久は、原発事故以前に、『知事抹殺』を発表していたが、

▽『知事抹殺』――福島が焦点だったと改めて思い起こさせる
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/07/post-18be.html

本書『福島原発の真実』では、福島第一原発の事故を受けて、福島の原発問題に焦点を絞って叙述している。内容的には、『知事抹殺』と重複する点も多いが、本書で、新たに浮上した疑惑もある。

2002年8月29日に、福島県庁あてに1枚のFAXが送られてきた。差出人は、経産省資源エネルギー庁原子力安全・保安院。内容は、福島第一・第二原発で1980年代後半から1990年代にかけて、点検データの改竄が行われていた、というもの。2000年7月に、当時の通産省になされた内部告発にもとづいた調査結果という。

調査に2年もかかった理由について、保安院は、内部告発を行ったスガオカ氏は、告発した2000年の時点では、原発の点検作業を行うGEの関連会社GEIIという会社の社員であったが、2001年後半に退職したため、身分を守る必要がなくなり、GEとGEIIへの調査を開始した、と説明した。

しかし、最近になってYoutubeに投稿された『筑紫哲也のNEW23』(2003年放送)
http://www.youtube.com/watch?v=fBjiLaVOsI4

では、スガオカ氏がGEIIを解雇されたのは、1998年。また、保安院は、内部告発した2000年から1年ほどスガオカ氏に聞き取り調査をしただけだったという。

《つまり、原子力安全・保安院は八月二九日の発覚当時、内部告発者の退社時期も、調査の期間についても大嘘をついていた。われわれはまんまとだまされていたのである。》(p.238)

佐藤栄佐久は、もう一つの疑問を提起している。

《なぜあの日、突如として点検データ改竄の問題が明るみになったのかも謎である。……あの告発の表面化は、スガオカ氏とは別の「ホイッスルブロワー」(内部告発者)が、経産省のどこかにいたということではないか。》(p.238-239)

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2011.07.10

▽『敗戦処理首脳列伝』

麓直浩『敗戦処理首脳列伝―祖国滅亡の危機に立ち向かった真の英雄たち』(社会評論社)

タイトルに釣られて(笑)。

「敗戦処理首脳」とは、本書の定義では、敗色濃厚になってから首脳(君主、宰相)となり、敗北必至を自覚して戦争終結を視野に入れて活動した首脳ということです。

古代から戦後まで、80人ほどの「敗戦処理首脳」が紹介されているのですが、ちょっとした歴史マニアくらいでは、知らない名前だらけです。

著者の言うように、国家や民族の存亡をかけて敗戦処理をやった「真の英雄」のはずなんですが、歴史にはほとんど名前の残らない「貧乏くじ」だったことがわかります。

日本の「あの戦争」の項目を見てみると、小磯国昭、鈴木貫太郎、東久邇宮稔彦の三人の名が。実際に終戦への道筋をつけたのは鈴木貫太郎ですが、まあ、多少は歴史に名前が残っているほうでしょうか。

[目次]
ペロポネソス戦争 アテナイ テラメネス
ギリシアの反マケドニア戦争 アテナイ フォキオン、デマデス
秦末の動乱 秦 子嬰
晋の呉攻略 呉 張悌
靖康の変 北宋 欽宗
モンゴルの南宋攻略 南宋  文天祥、【参考】恭帝、端宗、帝?
カイドゥの乱 カイドゥ・ウルス ドゥア
コソボの戦い セルビア ミリカ公妃、ステファン・ラザレヴィッチ
南北朝動乱 南朝 後亀山天皇
タンネンベルクの戦い ドイツ騎士団 ハインリヒ・フォン・プラウエン
土木の変 明 景帝、于謙
コンスタンティノープル陥落 ビザンツ帝国 コンスタンティノス一一世
ブルゴーニュ戦争 ブルゴーニュ公国 マリー・ド・ブルゴーニュ
スウェーデン独立戦争 スウェーデン クリスティーナ・ユレンシェルナ
アルカセル・キビールの戦い ポルトガル エンリケ一世
沖田畷の戦い 竜造寺氏 竜造寺政家、鍋島直茂
デカン戦争 ムガル帝国 フサイン・アリー・ハーン・サイイド
大北方戦争 スウェーデン ウルリカ・エレオノーラ、フレデリック一世
ナポレオン戦争 フランス シャルル・モーリス・ド・タレイラン・ペリゴール、ジョゼフ・フーシェ、【参考】ナポレオン二世
第二次エジプト・トルコ戦争 オスマン帝国 アブデュルメジト
米墨戦争 メキシコ ペドロ・マリア・アナーヤ、マヌエル・デ・ラ・ペーニャ
クリミア戦争 ロシア帝国 アレクサンドル二世
ウィリアム・ウォーカー戦争 ニカラグア マキシモ・ヘレス、トマス・マルティネス
パラグアイ戦争 パラグアイ シリロ・アントニオ・リバロラ、【参考】ファクンド・マチャイン
第二次長州出兵 徳川幕府 徳川慶喜
普仏戦争 フランス アドルフ・ティエール
第二次アフガン戦争 アフガニスタン ヤークーブ・ハーン
太平洋戦争( 南米) ペルー ニコラス・デ・ピエロラ、フランシスコ・ガルシア・カルデロン、リサルド・モンテーロ、アンドレ・アヴェリーノ・カセレス、ミゲル・デ・イグレシアス
太平洋戦争( 南米) ボリビア ナルシソ・カンペーロ
フランス・マダガスカル戦争 メリナ王国 ラナバロナ三世
ボーア戦争 トランスバール共和国 シャーク・ウィレム・バーガー
ボーア戦争 オレンジ自由国 クリスチャン・ルドルフ・デ・ウェット
第二次バルカン戦争 ブルガリア ヴァシル・ラドスラヴォフ
第一次世界大戦 ソビエト連邦 ウラジミール・レーニン
第一次世界大戦 ブルガリア アレクサンドル・マリノフ
第一次世界大戦 墺洪二重帝国 カール一世、オットカール・ツェルニン伯爵、イストファン・ブリアン伯爵、アンドラーシ・ギューラ伯爵
第一次世界大戦 オスマン帝国 メフメト六世、メフメト・タラート・パシャ、アフメト・イズト・パシャ、アフメト・テウフィク・パシャ、ケマル・アタチュルク(トルコ共和国)
第一次世界大戦 ドイツ帝国 マクリミリアン・フォン・バーデン、フリードリヒ・エーベルト(ワイマール共和国)
チャコ戦争 ボリビア ホセ・ルイス・テハダ・ソラノ
第二次世界大戦 フランス フィリップ・ペタン
第二次世界大戦 イタリア ピエトロ・バドリオ
第二次世界大戦 フィンランド カール・グスタフ・マンネルヘイム
第二次世界大戦 ドイツ第三帝国 カール・デーニッツ
第二次世界大戦 大日本帝国 小磯国昭、鈴木貫太郎、東久邇宮稔彦
スエズ動乱 イギリス ハロルド・マクミラン
アルジェリア戦争 フランス シャルル・ド・ゴール
ベトナム戦争 アメリカ合衆国 リチャード・ニクソン
ベトナム戦争 ベトナム共和国 チャン・ヴァン・フォン、ズオン・ヴァン・ミン、グエン・バ・ガン、ブ・バン・マウ
ビアフラ戦争 ビアフラ共和国 フィリップ・エフィオング
エリトリア独立戦争 エチオピア メレス・ゼナウィ

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2011.07.09

▽今度はイタ公抜きでやろう

ニコラス・ファレル『ムッソリーニ(上)』(柴野均訳、白水社)

ニコラス・ファレル『ムッソリーニ(下)』(柴野均訳、白水社)

今度はイタ公抜きでやろう――。

というのは、ドイツ人が日本人に向かっていうジョークの一つと言われています。その意味するところは、ドイツが「あの戦争」に負けたのはイタリアと組んだからだ。今度やる時は、イタリア抜きでやれば勝てるはず――。

ま、あくまでも、ジョークなんですが……。

以前のエントリーで、日本とドイツの「あの戦争」について考察しました。

▽『あの戦争と日本人』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-6b6d.html
▽『わが闘争』がたどった数奇な運命
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-38ca.html

ついでにというわけではないのですが、日独伊枢軸と言われた三ヶ国の最後の一つ、イタリアについても知ろうと思い、ムッソリーニの伝記を読んでみました。

しかし、ざっと読んでみた限りでは、日本のことはほとんど出てきません。本書に登場する日本人は、日高信六郎という外交官だけ。

ムッソリーニも、なにか明確な目標があって戦争をしてたわけでも無いような。

そもそも日本人ってイタリアやムッソリーニのことをよく知らずに同盟を結んじゃったんだろうなあ、と思ったりしました。

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▽『誰も知らない「名画」の見方』

高階秀爾『誰も知らない「名画」の見方』(小学館101ビジュアル新書)

《ハイライトとして白い点をひとつ、瞳に描き加えることだけで、生命感にあふれた人間の顔を描くことができるということを、フェルメールは発見したのだ。》(p.14)

世界的に有名な画家24人のなにが凄いのか、をコンパクトにまとめたガイドブックです。一人の画家について数ページしか割かれてませんが、なるほどと膝をたたくことしばしば。ビジュアルも豊富で、絵画の知識に乏しい人でも楽しめます。

[目次]
はじめに

第一章 「もっともらしさの秘訣」
 白い点ひとつで生命感を表現したフェルメール
 見る者を引き込むファン・エイクの「仕掛け」
 影だけで奥行きを表したベラスケス

第二章 時代の流れと向き合う
 激動の時代を生き抜いた宮廷画家ゴヤ
 時代に抗った「革新的な農民画家」ミレー
 時代を代弁する告発者ボス

第三章 「代表作」の舞台裏
 いくつもの「代表作」を描いたピカソ
 タヒチでなければ描けなかったゴーガンの「代表作」
 二種類の「代表作」をもつボッティチェリ

第四章 見えないものを描く
 科学者の目で美を見出したレオナルド・ダ・ヴィンチ作
 人を物のように描いたセザンヌの革新的な絵画
 音楽を表現したクリムトの装飾的な絵画

第五章 名演出家としての画家
 依頼主を喜ばせたルーベンスの脚色
 演出した「一瞬」を描いたドガ
 絵画の職人ルノワールの計算

第六章 枠を越えた美の探求者
 女性の「優美な曲線」に魅せられたアングル
 見えない不安を象徴したムンクの「魔性の女性像」
 イギリス絵画の伝統を受け継いだミレイ

第七章 受け継がれるイメージ
 カラヴァッジョのドラマチックな絵画
 働く人々を描いた色彩画家ゴッホ
 西洋絵画の歴史を塗り替えたマネ

第八章 新しい時代を描き出す
 人間味あふれる農民生活を描いたブリューゲル
 新しい女性像を描いたモリゾ
 20世紀絵画の予言者モロー

あとがき
西洋絵画略年表

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2011.07.08

▽人類が消えた世界

アラン・ワイズマン『人類が消えた世界』(鬼澤忍訳、早川書房)

どういう本かというと、『人類が消えた世界』というタイトルの通り、もし地球上から人類が消滅したら、その後の世界はどうなるのか? について書かれたものです。

口絵には、人類消滅から数日後、2~3年後、500年後、50億年後などの様子がSFちっくなイラストで描かれています。

なんか、近未来のシミュレーションのようなんですが、これが、米タイム誌の選ぶ2007年ベストノンフィクションや、米アマゾンのBest Book of 2007をノンフィクション部門で受賞しています。で、読んでみると確かにノンフィクションなんですね。

どういうことかというと、本書には二つのテーマが設定されていて、それらが交互に描かれていきます。

一つは、もし人類が消滅するとしたら、どういう理由が考えられるか? というもので、過去に、動物などの種が絶滅した理由を科学的に解明していきます。

もう一つのテーマは、実際に人が消えた都市はどうなるのか? というもので、なんらかの理由で人が住めなくなった都市がどうなっていくかをリアルに探求していきます。

突拍子も無い近未来の予言のように見えて、ちゃんとノンフィクションとして成立しているのが、本書が高く評価された理由なのでしょう。

では、人間のいなくなった都市ではまず何が起きるのでしょうか?

《マンハッンタから人が消えて最初に巡ってくる三月に、あらゆるものが崩壊し始めるという。毎年三月、気温は摂氏零度前後を四〇回くらい行ったり来たりするのが普通だ……すると凍結と融解が繰り返され、アスファルトやコンクリートにひびが入る。雪が解けると、できたばかりの割れ目に水が染み込む。その水が凍って膨張すると、割れ目が広がる。》(p.50)

その後には、アスファルトやコンクリートの割れ目に沿って植物が繁茂し、さらに割れ目が大きくなるそうです。通常は、この段階で道路の保全係が現れて、草を引き抜いて亀裂を埋める作業を行うのでしょうが、人類が絶滅した世界では、それを行う人はもちろんいません――。

おそらく、今年3月11日に発生した東日本大震災の被災地のアスファルトやコンクリートには、すでに相当な亀裂が生じてるのではないかと思います。それが植物によって、さらに拡大されていきます。そして復旧が遅れれば遅れるほど、亀裂は大きくなり、より多くの復旧コストがかかることになると思います。

また、本書には、原子炉の爆発事故のあったチェルノブイリ原発周辺の様子も描かれています。一見、草木の生い茂る豊かな自然が取り戻せたように見えますが、コンクリートの建造物は朽ち果て、そこに生息するツバメやハタネズミは通常の種よりも短命だそうです。

福島第一原発周辺も同じような廃墟になってしまうのは、もはや時間の問題なのかもしれません。

[目次]
はじめに サルの公案
第1部
1、エデンの園の残り香
2、自然に侵略される家
3、人類が消えた街
4、人類誕生直前の世界
5、消えた珍獣たち
6、アフリカのパラドクス
第2部
7、崩れゆくもの
8、持ちこたえるもの
9、プラスチックは永遠なり
10、世界最大級の石油化学工業地帯
11、二つのイングランドに見る農地
第3部
12、古代と現代の世界七不思議がたどる運命
13、戦争のない世界
14、摩天楼が消えた空を渡る鳥
15、放射能を帯びた遺産
16、大地に刻まれた歴史
第4部
17、ホモ・サピエンスは絶滅するのか?
18、時を超える芸術
19、海のゆりかご
おわりに 私たちの地球、私たちの魂

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2011.07.07

▽『働かないって、ワクワクしない?』――職場が嫌いな二十五の理由

アーニー・J・ゼリンスキー『働かないって、ワクワクしない?』(三橋由希子訳、ヴォイス)

『働かないって、ワクワクしない?』という本を、古本屋で見かけたのですが、その中に「職場が嫌いな二十五の理由」というのがあったので紹介します。

◆リストラの結果、仕事量が多くなりすぎている
◆日がさんさんと照っているのに、一日中オフィスに縛りつけられる
◆上にいるベビーブーム世代がやめないので、少なくともあと十五年は昇進の機会がない
◆十年前にクビを切られているべき世間知らずや役立たずと一緒に働かなければならない
◆激しい競争、裏切り、作り笑いを伴うオフィス内の権力闘争
◆生産性は低いのに、長く勤めているというだけで、自分より多くの給与を得ている人がいる
◆毎日、交通渋滞の中を片道一、二時間かけて通勤する
◆一日中机に向かっている――体に悪い
◆日常業務が忙しすぎて、考える時間がない
◆不必要なペーパーワーク――何の意味もないメモと誰も読まない報告書
◆他の部署からの協力がない
◆上司が部下に言うことと役員に言うことが全然違う
◆通常で二時間以上の会議――それでも何も決まらない
◆休暇を取れと言われてもそれを拒否する、胸が悪くなるような仕事中毒者と一緒に働かなければならない
◆一年で一番いいシーズン(私の場合は夏)に休暇を取れない、融通のきかない休暇スケジュール
◆仕事が多すぎるので、従業員に休暇の権利を全部行使しないよう求める組織
◆他者の努力やアイデアを自分のものにする上司
◆従業員のために十分な駐車場がない(たっぷり給料をもらっている役員の駐車場はあるのに)
◆ほかの人の二倍効率よく働き、予定より早く自分の仕事を終えても、勤務時間が終わるまで会社にいなくてはならない
◆官僚主義、形式主義、ばかげた規則、非論理的な手続き、何もしないことが専門の無気力な人々
◆人種、性別、身体的特徴、独身でいることによる差別
◆自分たちは革新的だと宣伝しているのに、革新的な人々をサポートしない組織
◆冬にしか正常に作動しないエアコン
◆仕事ができる人々を認め、表彰しない
◆昇給と昇進のために身を売る、胸が悪くなるようなイエスマンやイエスウーマンと一緒に働かなければならない

これ、日本の職場の不満なのかと思ったら、実は、カナダの職場の話なんですね。カナダ人でも、日本人が感じているような不満を抱いているんだなあ、と、ちょっと意外な印象を受けました。

本書の原著"The Joy of Not Working"は、2001年にカナダで出版されました。まあ、失業や定年退職で、職を失ったとしても、自由時間を楽しむ方法を見つけよう、というのが本書の趣旨のようです。邦訳は2003年の発行ですが、奥付を見ると、ぽつぽつ増刷されているようですね。

[目次]
第一章 あなたも、のんきで気楽な生活ができる
第二章 ものの見方が生き方を変える
第三章 仕事人間は奴隷と同じ
第四章 あまり働かないことは健康にいい
第五章 失業―自分がどんな人間かを知る真のテスト
第六章 私を退屈させているのはこの私
第七章 誰かがおこした火で温まるのではなく、自分で火をおこそう
第八章 受身の活動だけでは何も得られない
第九章 禅の教え―今この瞬間に生きよ
第十章 くだらない仲間といるよりひとりになれ
第十一章 優雅な生活に大金はいらない
第十二章 終わりは、今、始まったばかり

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▽大新聞と停電と共産主義と

魚住昭『渡邉恒雄 メディアと権力』(講談社)

《「電源が爆破されれば、向こう五年間、日本は暗黒になる。そうなれば人民が飢える。人民は飢えたとき初めて利口になる。人民が利口になれば、革命ができる」》(p.50)

読売新聞の渡邉恒雄主筆が、学生時代は、東京大学の共産党細胞に所属した活動家だったことはよく知られている。

昭和二十二年(1947年)元旦に、吉田茂首相は、争議を頻発させる活動家を「不逞の輩」と呼んだ。この吉田政権を打倒するためのゼネストが2月1日決行されることになったが、その前日、渡邉は共産党の幹部から、「変電所のスイッチを切って電源を爆破せよ」と命ぜられた。

さすがにこの戦術に疑念を抱いた渡邉は、共産党と距離を置き始める。その後、東大細胞内の権力闘争に敗れたこともあり、渡邉は、激烈な反共主義者となっていく――。

[目次]
▽大震災と原発と新聞と
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-8445.html
▽『原発・正力・CIA』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/cia-d1f5.html

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2011.07.06

▽『カムイ伝講義』

田中優子『カムイ伝講義』(小学館)

本書は、白土三平の『カムイ伝』に描かれていることを、史実に基づいて検証したもので、歴史や民俗学に関心のある方は、『カムイ伝』とともに一読をお薦めします。

興味深かったのは、江戸時代の農業についてで、当時の農業の生産性を決めるのは「肥料」だったそうです。肥料には、植物由来のもの、動物や魚由来のもの、糞尿由来のものとさまざまなタイプがあり、また、農地の状態を見極めながら適切な肥料をほどこす必要があったそうです。

そのため、農村でも、肥料や農地に関する研究は進んでおり、また、全国各地で生産された肥料の流通網も発達していったそうです。農民自身が、肥料の生産や流通に乗り出したケースもあったようで、土地に縛り付けられた無知な農民といった固定観念とは異なる現実が存在していたようです。

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▽『白土三平伝』

毛利甚八『白土三平伝――カムイ伝の真実』(小学館)

白土三平というと、もちろんリアル・タイムでは知りませんでしたが、子供の頃に、『忍者武芸帳』の復刻版を読んだ記憶があります。

忍者ものの劇画と思って読んでいたのですが、エピソードの一つに、農村で孤児となった子供たちが自分たちの城を創って生活を始めるくだりがありました。初めはうまく運営できていたのですが、ちょっとしたいさかいから内部崩壊してしまうという展開で、子供心に「シビアな現実を描くなあ」と思ったものです。

それからだいぶたって、『カムイ伝』の第一部を全集で読んだのですが、最終巻では、一揆の首謀者として捕らえられた主人公が舌を抜かれて反論できない状態にされた上で釈放され、村の仲間から「裏切り者」と誹られる、というシーンがありました。これまた、「権力の恐ろしさ、為政者の狡猾さ」を感じざるを得ませんでした。

本書は、白土三平の伝記で、それぞれの作品の当時の反響や貸本マンガと大手出版社で求められるものの違い、そして、『カムイ伝』を描くために漫画誌『ガロ』を創刊した話、『カムイ伝』第一部の執筆を終えた後に、しばらく宗教的なマンガの方に行ってしまったことなど、いろいろと興味深いエピソードが綴られています。

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2011.07.05

▽最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか

ジェームズ R・チャイルズ『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』(高橋健次訳、草思社)

以前のエントリーで、事件や事故を前に立ちすくむ人々の行動を分析した『生き残る判断 生き残れない行動』を紹介しました。

▽生き残る判断 生き残れない行動
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/post-4e18.html

今回取り上げる本書も、そのタイトルは『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』というもので、そこから私は、最悪の事故に直面した人々の行動について分析した本かと思ったのですが、違いました。

どちらかというと「失敗学」に分類される内容の本です。

▽『「失敗学」事件簿』――あの失敗から何を学ぶか
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-c197.html

しかし、世界中で起きた「最悪の事故」を取り上げているため、畑村先生の本よりも、ずっとスケールの大きい内容となっています。

もちろんスリーマイル島やチェルノブイリの原発事故は含まれていますし、スペースシャトルの爆発事故、アポロ十三号のトラブル、洋上石油掘削基地の沈没や爆発……などなどパニック映画が作れそうな事故ばかりです。そして、その多くは、「最悪の事故」に至る前に現れていた危険な兆候を見おとしたことが原因となっているようです。

失敗に学べとは言うものの、なかなか学べないのは、世界的に共通したことなのかもしれません。

[本書で扱われるケース]
エールフランスのコンコルド墜落事故(2000年)
海洋石油掘削装置オーシャンレンジャー沈没事故(1982年)
スリーマイルアイランド原発事故(1979年)
スペースシャトル・チャレンジャー爆発墜落事故(1986年)
英国巨大飛行船R101墜落事故(1930年)
米国海軍の近接信管搭載魚雷マーク14の失敗(第二次大戦中)
ハッブル宇宙望遠鏡の主鏡研磨失敗(1990年)
アメリカン航空DC-10の操縦系故障とそこからの生還(1972年)
アポロ1号の火災事故(1967年)
バリュージェットDC--9の酸素漏れによる炎上墜落事故(1996年)
チェルノブイリ原発事故(1986年)
英国航空機の操縦席窓ガラス脱落事故(1990年)
英国海軍潜水艦セティスの沈没事故(1939年)
アポロ13号の危機の原因となった酸素タンクの異常(1970年)
バーミングハム市のフットボール競技場二階席崩壊を防ぐ(1960年)
ニューヨーク市シティコープビルの強度不足に気づき補修(1978年)
IBMブラジル・スマレ工場の屋根崩落を未然に防ぐ(1971年)
テキサスシティ港湾での硝安肥料の大規模爆発事故(1947年)
ミネアポリスでのオートマチック車暴走事故(1998年)
北海油田掘削プラットフォーム、ハイパーアルファの爆発事故(1988年)
イースタン航空機の計器電球切れがきっかけで起きた墜落事故(1972年)
インド・ボパール殺虫剤工場の毒ガス漏出事故(1984年)
北軍兵士が満載されていた蒸気船爆発沈没事故(1864年)
...ほか

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▽『危ないデザイン』――あの事件の原因を探る

日経アーキテクチュア『危ないデザイン』(日経BP社)

日経グループの専門誌といえば、時々、すごく渋いけれど、重要な特集をまとめたムックを出すことがあるのですが、

▽『甦る11棟のマンション―阪神大震災・再生への苦闘の記録』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/11-8373.html

本書『危ないデザイン』も、なかなか読みどころの多い一冊です。事件や事故の発生した建築物を紹介しつつ、どういうデザイン、つまり設計が、それらの原因であったのか、そして、どう改善すべきかを図解入りで解説していきます。

2001年に新宿歌舞伎町で起きたビル火災は、避難路であるはずの階段からの出火が原因でしたが、ビルの「設計者は法律をクリアすることで安全が守られたと思い込み、その先に起こるかもしれない危険に対処することを怠った」(p.160)と、本書では指摘しています。本書が発行されたのは2月で、東日本大震災の前でしたが、この指摘は、津波対策や非常用電源の備えを怠った福島第一原発事故にも通じるものといえます。

また本書には、多くの人の記憶に残っている事件・事故に関する建築物も数多く掲載されています。

たとえば、十一人の死者を出した明石市の歩道橋は幅6mでしたが、階段の幅は3mしかなく人が滞留しやすい構造だったそうです。また、六本木ヒルズの回転扉は男児の死亡事故が起きるまでに十二件の事故が発生していたようですし、シンドラー社のエレベーターも死亡事故が起きるまでに不具合が何度も報告されていたそうです。これらの事故は、早く対策を講じていれば、回避できたのかもしれません。

この他にも、落下や衝突の多発する建築物や、外壁などが剥落する事故などの実例が多数紹介されていて、現代の建造物にも、意外と危険なデザインが多いのだということに改めて気づかされます。本書のせいで、ビルの近くを歩くのが、ちょっと怖くなるかもしれませんね。

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2011.07.03

▽明治維新における唯一にして最大の謎とは?

鯨統一郎『邪馬台国はどこですか?』(創元推理文庫)

えー、最近は、ちょっと明治維新に凝ってるんですが、

▽『幕末史』――攘夷から開国への転換点は?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-7fe7.html

そこで面白い小説を見つけたので紹介します。

本書は、歴史ミステリー……というよりも、バカミス(おバカなミステリー)に分類される、荒唐無稽さを楽しむミステリーです。

邪馬台国東北説を唱える表題作の『邪馬台国はどこですか?』も面白いのですが、『維新が起きたのはなぜですか?』では、「明治維新における唯一にして最大の謎」が提示されます。それは、

《明治維新があってもなくても、日本の政策には何の変化もないんだよ。》(p.227)

というもの。これには、私も同意します。薩長が、つい尊皇攘夷で騒いでしまったので、そのまま勢いで幕府を倒しちゃっただけのようにも感じられます。この謎に対する著者の答えは、本書で確認してください(笑)。

また、半藤一利の「あの戦争と日本人」も紹介していますが、

▽『あの戦争と日本人』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-6b6d.html

その第一章で、著者の半藤一利は、小説家の坂口安吾から

《藤原鎌足と中大兄皇子がやったのは「大化の改新」ではなくて、あれは政権奪取のクーデタであったんだ。》(p.18)

という説を聞かされた、という話をしているのですが、本書の『聖徳太子はだれですか?』でも、それに近い(?)説を提示していて、なかなか興味深いです。

歴史ミステリーに関心を持つには、本書くらいぶっとんでいた方がとっつき安いのかもしれませんね。

[目次]
悟りを開いたのはいつですか?
邪馬台国はどこですか?
聖徳太子はだれですか?
謀反の動機はなんですか?
維新が起きたのはなぜですか?
奇跡はどのようになされたのですか?

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▽『知事抹殺』――福島が焦点だったと改めて思い起こさせる

佐藤栄佐久『知事抹殺 つくられた福島県汚職事件』(平凡社)

著者の佐藤栄佐久は元福島県知事。在職時は「闘う県知事」として名を馳せたものの、談合事件に関わったという疑惑が取り沙汰され、2006年9月に知事を辞職した。

しかし、この談合疑惑は、当初より「国策捜査ではないか?」との疑念が示されていた。そして、その後の相次ぐ検察不祥事が明らかになり、「国策捜査」との疑いはいっそう強まっている。ただし、地裁、高裁判決とも執行猶予付きの有罪であり、現在、最高裁に上告中である。

国策捜査の引き金を引いたのは何であろうか? この問いに対しての手がかりは、本書には二つ記されている。一つは、2002年に発覚した福島第一原発のデータ改竄事件やプルサーマル計画に関して、東京電力や経産省などとやりあったこと。

そして、もう一つは、小泉政権が2003年6月に発表した道州制導入をめざす「三位一体改革」において、まず県レベルへの権限委譲を進めるべきだと主張したこと。

談合事件の推移を付記しておくと、まず2003年1月に弟の経営する会社の土地取引に関してブラック・ジャーナリズムが動き始めていることが知らされる。さらに、2004年1月にアエラに記事が載る。続いて、2005年4月東京地検特捜部による任意の捜査があり、アエラと同趣旨の記事が読売新聞に掲載。そして、2006年7月になると、弟の会社に家宅捜索が入り、ここから急速に事件化され、知事辞職、逮捕、起訴へと進んでいく。

2005年4月から2006年7月の間に、なんらかの政治的意志の路線変更があったことが伺える。

[参考]
▽当ブログで売れた本――2011年原発関連
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/05/2011-fe88.html
▽墜ちたヤメ検たち
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/12/post-efb3.html

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2011.06.30

▽『原発・正力・CIA』

有馬哲夫『原発・正力・CIA―機密文書で読む昭和裏面史』(新潮新書)

「原子力の父」正力松太郎については、佐野眞一の『巨怪伝』を紹介したことがあります。

▽大震災と原発と新聞と
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-8445.html

『巨怪伝』が書かれた頃は、まだCIAの秘密文書が公開されていなかったのですが、本書『原発・正力・CIA』の著者、有馬哲夫氏は、それらを入手して、正力が「ポダム」、「ポジャクポット」というコードネームで呼ばれたCIAのスパイだったことを明らかにします。

読売新聞の社主であり、反共産主義者だった正力は、日本中にマイクロ波通信網を張り巡らせて、テレビやラジオだけでなく、さまざまな通信を行う構想を実現しようとしていた。その一環として1953年に日本初の民放テレビ局として「日本テレビ放送網」が設立された。しかし、このマイクロ構想は、当時の政局や電電公社の反対などにより実現しなかった。

1954年に第五福竜丸の乗組員が被爆する事故が起きると、日本国内の反米・反原発感情が高まった。政治家としての野心に燃える正力は、原子力の平和利用、つまり原子力発電に飛びついた――。

以前、『財政危機と社会保障』という本を紹介しましたが、

▽日本経済の正体(3)――『財政危機と社会保障』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/10/post-048d.html

その時、公共工事のばら巻きだけでなく、社会保障のばら巻きにも田中角栄が関与していたことを知って少々驚きました。つまり、現在問題となっている日本のお金の使い方を規定したのが田中角栄だったわけですが、新聞やテレビ、あるいは原子力発電という戦後の日本の社会インフラを規定したのが正力だった、と言うことができるわけです。

正力は、結局、総理大臣になるという野望は達成できませんでしたが、田中角栄なみの政治力はあったと言えるのかもしれません。

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2011.06.28

▽『東京考現学図鑑』――関東大震災から復興していく東京の記録

今和次郎、吉田謙吉『東京考現学図鑑』(泉麻人編著、学習研究社)

「考現学」という言葉があります。考古学に対して作られた言葉で、「いま」を研究する学問なのですが、そもそも考現学は、柳田國男に師事して民俗学の研究をしていた今和次郎(こん・わじろう)らによって、1925年に始められました。

1925年というと、1923年に関東大震災が起きた二年後にあたります。

《一昨年の大震災のあった夏、震災以前、しきりに華美に傾いた東京人の風俗を、是非記録にとっておきたく私は考えた。》(p.8)

今は、大震災以前から、東京の風俗を記録したいと考えていたようですが、実際に、活動を始めた理由は、やはり関東大震災によって、いろいろなものが失われたことが大きかったのだと思います。

そして、今年3月に発生した東日本大震災の直前に出版された本書は、今らの仕事に、コラムニストの泉麻人が解説や現在の東京の調査を加えたものなのですが、本書自体は、東日本大震災の起きる前に企画されていたわけで、そのシンクロニシティに驚いてしまいます。

本書によると、震災前の東京でもっとも栄えていた街は銀座だったのですが、震災以後は、新宿へと東京の中心は移っていったそうです。そして、1927年に新宿の紀伊國屋が、書店業に進出した際の記念行事として、今らの仕事を展示する際に「考現学」という言葉を創り出したのだそうです。

本書には、銀座、浅草、新宿、学生街などの街並みや、そこを行き交う普通の人々の服装や生態がスケッチされています。また、浅草の乞食や風俗街の記録などもあって、多角的に、震災後の東京を浮かび上がらせています。

一般的なフィールドワークの手法だけでなく、カフェーへの潜入調査のようなものがあったり、新宿三越で買い物をしているマダムを尾行したりと、調査の手法そのものも楽しく読むことができます。

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▽核兵器と原発と

山田克也『核兵器のしくみ』(講談社新書)

2004年に出版された本書のタイトルは、『核兵器のしくみ』というものですが、内容の半分は、原子力発電について割かれています。つまり、核兵器と原発は不可分の関係にある、と。

もちろん、日本において、原子力発電から、原子爆弾を開発することは、技術的にも政治的にも容易ではないことがわかりますが、では、まったく作れないかというと、そうでも無いような気もします。

たとえば、このまま少子高齢化が進むと、いずれ国防上の問題が生じてきます。老人ばかりの国をどうやって防衛するのかと。その時、抑止力として、費用対効果の高い核兵器を持ちたいという意志が浮上してくるやもしれません。

福島の原発事故以来、「脱原発」が一つのムーブメントとなっていますが、「脱原発」を経済上の問題ととらえる人は、すぐに脱原発は難しいが、数十年後には自然エネルギー(再生可能エネルギー)に置き換わっているんじゃないか、と考えるでしょう。

しかし、「脱原発」を政治上の問題と考える人は、「脱原発」イコール「脱原爆」とみなしているんじゃないかと思ったりもします。

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2011.06.27

▽『わが闘争』がたどった数奇な運命

アントワーヌ・ヴィトキーヌ『ヒトラー『わが闘争』がたどった数奇な運命』(永田千奈訳、 河出書房新社)

前回のエントリーで、日本の「あの戦争」が明確な目標をもたない戦争だったと書きましたが、

▽『あの戦争と日本人』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-6b6d.html

では、明確な意志と目標を持って「あの戦争」を始めたドイツは、どうだったのでしょうか?

本書は、タイトル通り、ヒトラーの『わが闘争』がどのような運命をたどったのかについて調査したものです。

『わが闘争』は、1923年のミュンヘン一揆によって服役中のヒトラーが、自らの思想について書き綴ったものである。仲間によって推敲され、タイトルも仲間の進めた『わが闘争』にかえられて、1925年に出版された。1926年に第二巻を出版し、さらに1930年に第一巻と第二巻をあわせた改訂版を出すと、これが「ナチスのバイブル」と呼ばれるようになった。

『わが闘争』は、反ユダヤ主義、反マルクス主義、民族主義、武力主義、領土拡張主義などの思想で貫かれていた。著者によると、「こうした傾向は時代の空気としてドイツのみならず、当時にあっては程度の差こそあれ欧州のどの国でも、存在していたのである」(p.43)。

1929年の大恐慌以来、ナチスの党勢は拡大し、それにつれて『わが闘争』の部数は急伸していった。ヒトラーは、法に従って、着実に権力をものにしていった。1933年には、ドイツ共和国の首相に任命される。後にヒトラーは、「一九二四年の時点で、将来首相になれることがわかっていたら、私は『わが闘争』を書かなかっただろう」(p.56)と漏らしたという。

しかし当時のドイツ国内では、『わが闘争』の内容は実行に移されることはないだろう、と受け止められていた。また翻訳版も次々と出版されたが、ヒトラーは、欧州における領土拡大政策が妨害されることをおそれたために、翻訳版からは外交政策に関する章がまるごと削除されたという。しかし、チャーチル、ルーズベルト、ド・ゴール、スターリンは、独自に完全版の翻訳を読んでおり、ヒトラーを警戒していたという。特にチャーチルは、1930年代の早い段階から、ヒトラーを危険視していたという。

本書の第2部は、第二次大戦後もなお日本を含めた世界中で出版され続けている『わが闘争』がどのように受容されているかについて調査している。

本書は、世界で初めて『わが闘争』の軌跡を追った研究書とのことで、ドイツの「あの戦争」に新しい光を当てた傑作と言えそうです。

[目次]
第1部 戦前篇―ナチスのバイブル『わが闘争』
刊行のいきさつ
アドルフ・ヒトラーの思惑
『わが闘争』が総統をつくった
第三帝国の頂点へ
翻訳版の登場
隣国フランスの不安
ドイツの偽装工作、フランスの混乱
第二次世界大戦

第2部 戦後篇―終わりなき『わが闘争』
戦争責任の所在―ドイツ人と『わが闘争』
発禁措置の限界
ドイツの亡霊
アジアからイスラムへ
トルコのベストセラー

おわりに――『わが闘争』が残した七つの教訓

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▽『あの戦争と日本人』

半藤一利『あの戦争と日本人』(文藝春秋)

前回のエントリーで、『幕末史』を紹介しましたが、

▽『幕末史』――攘夷から開国への転換点は?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-7fe7.html

今回は、同じ著者の『あの戦争と日本人』。本書の主題は、「太平洋戦争」とか、「大東亜戦争」とか言われている「あの戦争」です。

前著と共通している著者の歴史認識は、「あの戦争」を引き起こした「統帥権」、つまり、「政府から独立した軍隊指揮権」(p.23)は、実は、西南戦争直後の明治11年には確立されていたというもの。明治22年に制定された憲法では、それを追認したのだそうです。

もちろん「統帥権」だけが問題ではなく、それを使う軍人の側、あるいは、日中戦争初期において、弱気な軍人を無視して、大衆に迎合して強攻策をとった政治家の側も悪いんですけどね。

いずれにせよ、明確な目標もなく始まり、ゆきあたりばったりで進んだ「あの戦争」は、負けるべくして負けたといえるかもしれません。

[目次]
第一章 幕末史と日本人
第二章 日露戦争と日本人
第三章 日露戦争後と日本人
第四章 統帥権と日本人
第五章 八紘一宇と日本人
第六章 鬼畜米英と日本人
第七章 戦艦大和と日本人
第八章 特攻隊と日本人
第九章 原子爆弾と日本人
第十章 八月十五日と日本人
第十一章 昭和天皇と日本人
新聞と日本人――長い「あとがき」として

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2011.06.26

▽『幕末史』――攘夷から開国への転換点は?

半藤一利『幕末史』(新潮社)

最近の日本の状況は「幕末」になぞらえられることも多いのですが、私は、日本史は疎いので、勉強がてら読んでみました。著者は、祖母の影響からか、いわゆる「薩長史観」には疑念を表明しています。

さて、私の関心は、1853年にペリーが来航して「開国」を飲まされた江戸幕府に対して、「尊皇攘夷」の声がわき上がり、それが「尊皇開国」へと切り替わった転換点はどこだったのか? ということですが……。

割と簡単にわかりました(笑)。

1858年に五ヶ国と調印した修好通称条約で、幕府は五年後、つまり1863年の神戸開港=全面開国を約束します。一方、開国政策に異を唱えたのが、孝明天皇だったのですが、理由は単なる外国人嫌い。さらに薩長などの幕府に不満を持つ勢力が孝明天皇をかついで「尊皇攘夷」は大いに盛り上がります。ここからすったもんだが始まりますが、五年たっても神戸開港を認めなかったために、1865年に外国の軍艦が大阪港に現れ、孝明天皇に神戸開港=「開国」をせまると、あっさり認めてしまいます。当時の世界情勢を考えるとやむを得ない選択だったかと。

ここで「攘夷」は消えて「開国」へと転換し、残ったのが、佐幕か尊皇かという対立だけで、最終的に1868年の戊辰戦争によって幕府は倒れましたが、ほとんど無駄な十五年間だったことがわかります。

さらに、明治維新から、薩長政府の仲間割れであった西南戦争(明治十年)までは、明治政府をどのような体制にするかについて、具体的な案は無かったと著者は指摘していますね。まあ、ゆきあたりばったりだった、と(笑)。

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2011.06.23

▽『完全版 放送禁止作品』――大震災で封印されたものは何か?

『完全版 放送禁止作品』(三才ムック)

起きたことの記録は残りやすいのですが、起きなかったことの記録は、あまり残らない。

東日本大震災が起きた3月11日以降、さまざまな「自粛」によって封印されたテレビ番組、映画、ゲームなどに関する情報を集めたのが『完全版 放送禁止作品』です。

封印ネタ自体は、震災前からある種のブームになっていたのですが、本書の三分の一は、震災や原発事故に配慮した自粛情報を集めており、記録としても読みごたえがあります。

[目次]
■第1章:震災と放送禁止編
・超兵器を生んだ人災のリアリティ『ウルトラセブン』
・封印作品大量発生
・自粛ムードを煽った上映中止映画たち
・お蔵入り 反原発ソング
・モラリストが激怒した『テガミバチ』
・アニメは過剰自粛がお約束
・震災で消えたゲームの行方
・東日本大震災と死、そしてタブーの構造

■第2章:アニメ&特撮編
・『宇宙戦艦ヤマト』新作製作の噂
・大人の漫画に大人の事情あり
・仮面ライダーVSウルトラマン
・人気アニメのスキャンダル『名探偵コナン』
・『美味しんぼ』の封印エピソード

■第3章:ドラマ&バラエティ編
・クレームに屈した弱腰外交官ドラマ
・現実と『相棒』の複雑な関係
・幻の2時間サスペンス!
・禁忌を描いた『禁断の果実』
・『深イイ話』と大量食中毒事件
・BPOも呆れた安易すぎる『イチハチ』

■第4章:映画編
・ハリウッド発 恐怖のリメイク計画
・漫画原作 壮絶レイプ映画アーカイブ
・中国映画タブーと抗日映画

■第5章:ゲーム編
・不謹慎すぎた戦う人間発電所『チェルノブ』
・レベルの高い同人ゲーム『ザ・スーパー忍』
・驚愕の悪趣味作品『香港 '97』
・封印されたあまりに残酷な奥義
・幻に終わったDSのエロゲー
・異常すぎるキャラクターの対戦格闘
・世界13カ国で発禁処分の問題ゲーム

■第6章:放送禁止の構図
・死者を「加工」した冷酷バラエティ番組
・モラル不要の芸能界ビジネス
・民放と広告主の不毛な歴史
・JAROってなんじゃろ?
・歴史的転換点ではなかった『あきそら』
・ラノベで一山当てたい人々
・現実を歌ったアーティストたち

■第7章:アダルト編
・鬼才監督が挑んだAVドキュメンタリー
・見えない圧力に屈した反原発AV
・それは暴行輪姦の一部始終だった…
・消えるAV嬢の真実
・溶融するアダルトメディア

■巻末付録:画像でみる放送禁止CM

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2011.06.22

▽『原子力戦争』

田原総一朗『原子力戦争』(ちくま文庫)

『原子力戦争』は、田原総一朗が1976年に雑誌に連載した小説をベースに、1976年に単行本として出版(1981年に文庫化)されたものの、ながらく絶版になっていたが、福島原発の事故を機に、ちくま文庫から新たに刊行されたものである。

小説のため、主人公である語り手は「関東テレビ」のドキュメンタリー番組のディレクターである「大槻」という人物に設定されているが、これはもちろん田原本人であるのは言うまでもない。「文庫版あとがき」には次のように記されている。

《私は、推進派も反対派も出来得るかぎり取材した。当時、私のような取材の仕方をしたルポルタージュや本は少なかった。推進派か反対派のいずれか一方を取材し、いずれかの立場に立って書かれた例が多かったのである。》(p.341)

そういう意味では本書においては、原発推進派と反対派双方の主張の正しい点やおかしい点、双方の活動の良いところやまずい部分もあまさず公平に描いている。

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2011.06.20

▽『東電帝国』――その失敗の本質

志村嘉一郎『東電帝国その失敗の本質』(文春新書)

本書のあとがきによると、4月1日に執筆が決まり、原稿の締切が4月20日の突貫工事だったという。それでも、内容が、類書の引けをとらないのは、著者が、朝日新聞でながらく電力担当記者をしていたおかげである。

しかも、朝日新聞退社後しばらくして、いわゆる「原子力村」からはじき出されてしまい、研究者としての道を歩んでいたことが、歯に衣着せぬ本書が生まれた伏線となっている。

特に、第二章の「朝日が原発賛成に転向した日」は、原子力村がどのようにマスコミを味方につけていったかが、マスコミの内部からの証言として綴られており、とても興味深い。

また、これまで公に出来なかった事実も本書には盛り込まれている。その中でもとりわけ驚いたのが、中部電力が浜岡原子力発電所の原子炉設計の技術者を採用しようとした時のエピソード。東京大学大学院の原子力工学で博士号を取得した院生を、中部電力は、なんと「三年間の契約社員で」(p.198)採用しようとしたという。

浮き世離れした電力業界の実態を描いた労作である。

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2011.06.19

▽『「失敗学」事件簿』――あの失敗から何を学ぶか

畑村洋太郎『「失敗学」事件簿――あの失敗から何を学ぶか』(小学館)

福島第一原発の事故調査・検証委員会の委員長に就任した畑村洋太郎氏は、「失敗学」の提唱者としても知られています。畑村氏の「失敗学」の本をいくつか読んでみたのですが、「失敗学」の考え方についてではなく、具体的な事例が数多く紹介されていたのが、本書『「失敗学」事件簿』です。

本書は2006年に刊行されたものですから、それ以前に起きた事件しか紹介されていません。しかし、本書を読み進めるうちに、最近起きた災害や事故の多くは、起こるべくして起きたのかもしれない、と思ってしまいます。

いくつかを具体的にあげると、

震災直後にシステム・トラブルを起こしたみずほ銀行については、第2章「みずほはなぜ同じ愚を繰り返すのか」で、畑村氏は「この銀行はまた同じトラブルを起こす」(p.50)という感想を漏らしています。

また、第5章「東北の地震に学ぶ教訓」では、畑村氏が大学三年の時に釜石に海水浴に行った時の体験を記しています。

《海岸よりはるか高い所にある碑には、「ここまで津波が来て皆死んだ。ここより下に家を建てるな」と書かれていた。……このような大惨事の言い伝えや警告にもかかわらず、あちこちの入り江で海岸近くまで人家が下がってきている。》(p.140)

さらに、第2章「東京電力の原子力トラブル隠蔽事件」では、2002年に発覚した、東電の原子力トラブル隠蔽事件の対応について、次のように苦言を呈しています。

《私は東電首脳の総取り替えではなく、社会がその真面目な働きを預託している東電をリバイバルさせることの方が大事だと思う。犯人探しばかりで、現場の技術はいかにあるべきかの議論がほとんど聞かれないのは残念である。このままでは、原発事故の失敗が生かされることはないだろう。》(pp.76-77)

東日本大震災では、比較的揺れの小さかった千葉県の精油所で火災が発生しました。2003年頃にもコンビナートや工場で火災が続発しており(第4章「続発する火災・爆発事故の恐怖」)、その中には地震が原因の火災もありましたが、その教訓は活かされなかったようです。

一方、あれほどの揺れにもかかわらず、東北地方では走行中の27の新幹線が一つも脱線することなく停車しました。本書でも、2004年10月の新潟県中越沖地震で上越新幹線が脱線した事故に触れています。

この事故に対し、畑村氏は、JR東日本が「おこるべき事故」として万全な対策を取った上での脱線であり、「大成功だった」(p.17)と評価しています。畑村氏は、JR東日本は過去の失敗に学んできた、と指摘していますが、それが今回の脱線ゼロにつながった、と言えるでしょう。

[目次]
第1章 JRの脱線事故はなぜ起きたか
第2章 企業の組織構造が起こす「許されない失敗」
第3章 一度は通らねばならない「許される失敗」
第4章 大規模火災事故にみる教訓
第5章 災害・病気から学ぶ失敗学
第6章 失敗のメカニズム
第7章 事故を未然に防ぐために「動態保存」のすすめ

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2011.06.18

▽『Amazonランキングの謎を解く』

服部哲弥『Amazonランキングの謎を解く―確率的な順位付けが教える売上の構造』(DOJIN選書)

Amazonのランキングには関心が高いものの、実際のところ、どのように決められているのだろう? そして、それは、どれくらい正確なものなのだろう? と感じている人も多いでしょう。

本書は、そうした疑問に、数学者としての観察と考察を加えています。Amazonの内部情報を暴露したとか、ランキング・プログラムを解析したとかいうわけではなく、あくまでもランキングを観察した上での考察です。念のため。

まず、本書では、Amazonランキングの原則を推測しています。

・1時間に1回更新される
・順位は100万ないし300万位まである
・誰かがAmazonで注文すると、直後のその次の更新で上位へとランキングされる
・注文されない本はランキングが下がる
・累積ではなく、最新の売れ行きを考慮しているらしい
・同時刻に1つの順位の本は1点限りで、同順位や順位の欠番はないようだ

また、ランキングと本の売れる速度の関係は、

・10位が5秒に一冊
・100位が1.5分に一冊
・1000位が30分に一冊
・1万位が7.5時間に一冊
・10万位が36時間に一冊
・50万位が26日に一冊

さらに、著者は、Amazonでは本当にロングテールのビジネスモデルが成立しているか? という問いにも考察を加えています。

《ある時刻のランキングの、たとえば下位9割を切り捨てて、上位1割の本だけを残して書店規模を大幅に縮小したとき、売上の何割を失うか》(p.135)

という問いに対するする答えは、「全体の売上に占める機会損失の割合はゼロに近い」というもの。つまり、Amazonはロングテール・モデルではないそうです。

本書には、難しい数式も多く出てきますが、それらが理解できなくても、読み進めることができます。

また、2ちゃんねるを観察の対象に加えてあったり、考察の参考となるブログなども随所に紹介してあったりして、久しぶりにネットとの良いコラボレーションが実践されている書物を読んだような気がしました。

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▽『フェリカの真実』――ソニーが技術開発に成功し、ビジネスで失敗した理由

立石泰則『フェリカの真実 ソニーが技術開発に成功し、ビジネスで失敗した理由』(草思社)

本書は、ページ数も少な目で、活字も大きいので、ちょっと外れかなと思って読み始めたのですが、意外と当たりでした。

ただし取り上げているのが非接触型ICカード「フェリカ」という目立たない製品であり、しかも、ソニーがビジネス構築に失敗したという内容で、今ひとつ本書にスポットは当たらなかったようです。

ホントは、こういう失敗の研究の方が有意義なんですけどね。

さて、本書によると、フェリカ開発の端緒は1987年の暮れにまで遡る。宅配業者の小包の仕分けを容易にするための無線タグの開発から始まった。

続いて、鉄道用のICカード乗車券とビル用の入退室管理システムの開発にシフトしたのが1988年。

1992年には入退室管理システムの開発は断念するとともに、香港の地下鉄の入改札システムの開発に力を入れるようになり、1995年に受注を獲得する(生産開始は1997年)。

さらに1999年にシンガポールでもフェリカが採用され、インド、タイ、中国でも受注を勝ち取っている。

続いてソニーは、JR東日本の受注をとろうとしたが誤算が生じた。ICカードの分野では、フェリカは国際規格として、認められなかったのだ。欧州勢の横やりがあったと言われているが、いずれにせよ東日本の入札に応じるには国際規格として認められる必要があった。

そこでソニーは、フェリカのICチップの部分ではなく、通信技術の部分で国際規格として認定された。それがNFC(Near Field Communictions)であり、国際規格取得の問題は解消された。

ここからソニーは、単なるICカードの製造・販売から、フェリカを軸にしたコンテンツのライツ販売のビジネスへと舵を切ろうとします。

フェリカの開発者で本書の主役の一人でもある日下部進は次のように語っています。

《デジタル時代のコンテンツ・ビジネスは、音楽にしろ映画など動画にしろ、視聴を許可するライツ(権利)を売るというまったく新しい売り方をすべきだと考えたのです》(p.122)

以上が、長い前振りで、本書の半分くらいまでが費やされています。そして、後半は、ソニーの新しいコンテンツ・ビジネスの話になるかと思いきや、ソニーのフェリカ事業における迷走ぶりが描かれています。日本の電子マネー事情に通じていないと、読むのに骨が折れるかもしれませんが、よくまとまっているドキュメントだと思います。

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2011.06.10

▽『日本中枢の崩壊』

古賀茂明『日本中枢の崩壊』(講談社)

またしても脱藩官僚(?)の警世の書。

経産省官僚の古賀茂明(現在は大臣官房付)は、安倍、福田政権において公務員制度改革を担当した渡辺喜美(現みんなの党党首)のもとで、2008年7月より公務員制度改革推進本部の審議官となった。

公務員制度改革、つまり公務員の天下り規制は、小泉政権ではあまり進められておらず、安倍政権でも乗り気ではなかったという。しかし、安倍首相が進めていた「美しい国」路線における「戦後レジームからの脱却」の障害となったのが、「戦後レジーム」そのものの官僚システムであり、また、渡辺大臣のがんばりにメディアの注目が集まったことから、安倍首相もこれを後押しするようになった。

安倍首相が最後に手がけた国家公務員法改正は、公務員による天下りの斡旋を禁止するというもので、

《霞が関から見ればとんでもない禁じ手を実現したもの。当然、これに対する霞が関の反発は尋常ではなく、それが官僚のサボタージュを呼び、政権崩壊の一因となったといわれている。》(p.48)

その跡を継いだ福田政権では、公務員改革の気運は後退するが、それでも渡辺大臣の執念により、2008年6月に「国家公務員制度改革基本法」が成立する。著者は、この後、公務員制度改革推進本部の審議官となったが、この直後の内閣改造で、渡辺大臣は退任させられてしまう。

ここから、公務員制度改革は、骨抜きにされていき、民主党政権では、現役官僚の民間派遣といった、さらにたちの悪い天下りも付け加えられていった。

本書を読むと、小泉政権から始まった構造改革路線が、公務員の天下り問題に触れた途端に方向転換させられていった過程がよくわかる。

[参考]
▽小泉純一郎が本当にぶっ壊したものとは?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2008/10/post-fb1b.html
▽日本国の正体とは?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/10/post-c558.html
▽なぜ自民党は大敗したのか?――曲解された世論を読み解く
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/01/post-d9ca.html
▽官僚のレトリック
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/02/post-1f9e.html

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2011.06.01

▽当ブログで売れた本――2011年上半期

当ブログで、2011年初からいままでに売れた本十傑を紹介します。原発関係は下記のエントリーで紹介していますので、

▽当ブログで売れた本――2011年原発関連
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/05/2011-fe88.html

それ以外ということで。まあ、ランキングをつけるほどは売れていないので、あくまでも十傑ということで・・・・・・。

まず2011年に紹介した本では、

▽『誰が小沢一郎を殺すのか?』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/post-cff7.html
▽ユニクロの本質とは?――『ユニクロ帝国の光と影』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-fdd6.html
▽『突然、僕は殺人犯にされた~ネット中傷被害を受けた10年間』http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/10-4c20.html
▽『東洲斎写楽はもういない』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/01/post-79ef.html
▽『マイ・バック・ページ - ある60年代の物語』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/--60-2936.html

『東洲斎写楽はもういない』が売れたのは、NHKスペシャルで写楽を取り上げたのが大きかったようです。また、『マイ・バック・ページ』は、映画が公開されましたね。

次に、2010年までに紹介した本では、村上春樹、三島由紀夫、手塚治虫、落合博満がコンスタントに売れています。

▽東アジアが読む村上春樹
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/04/post-48d6.html
▽昭和45年11月25日―三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/11/451125-359d.html
▽神様・手塚治虫の伴走者たち
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/12/post-7cdb.html
▽落合博満伝説
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/11/post-e860.html

最後に、定番とも言える売れ行きを示しているのが、妹尾堅一郎『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』です。

▽インテル・インサイドとアップル・アウトサイド――技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-feeb.html

今回紹介したのは、原発や大震災関連は除外していますので、念のため。

当ブログで取り上げる本のコンセプトは、基本的には「クロス・カルチュラルなノンフィクション」です。もちろん例外もありますが、ノンフィクションで異文化がクロスするような内容のもの、あるいは、時代の転換点を分析するようなもの、が中心です。

献本もお待ちしていますので(笑)、ここをご覧になられている出版社の方がいらっしゃったら、右カラム上の「メール送信」のところをクリックしてご連絡いただければ幸いです。

では、これからもいっそうの内容充実をめざして精進しますので、今後ともご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

[参考]
▽当ブログで売れた本――2009年
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/12/2009-dd61.html
▽当ブログで売れた本――2010年上半期
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/08/2010-0d88.html
▽当ブログで売れた本――2010年下半期
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/12/2010-9982.html
▽当ブログで売れた本――2011年原発関連
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/05/2011-fe88.html

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2011.05.31

▽『セックスメディア30年史』

萩上チキ『セックスメディア30年史 欲望の革命児たち』(ちくま新書)

本書の著者は1981年生まれの30歳。それがセックスメディアの30年史についてものすとは(笑)。それに「メディア」というタイトルの割には、出会い系サイトという「コミュニケーション」に関する考察があったり、性具や性風俗に章が割かれていたりして、やや羊頭狗肉な感は否めない。

狭義のセックスメディアに関しては、《第3章 何がエロ本を「殺した」か?》と、《第4章 「エロは無料」の衝撃》が興味深い。もともとエロに関しては、アングラな分野でもあることからデータや証言が乏しいので、本書のインタビューは貴重な資料といえよう。

第3章では、エロビデオを紹介する情報誌『オレンジ通信』の編集者がエロ本の盛衰を、また、エロ本を専門に扱う芳賀書店の社長がエロ本を売る側の事情を語っている。

また、第4章では、アダルト動画のサンプルを配布するサイトの紹介するサイト『動画ファイルナビゲーター(動ナビ)』の管理人、そして、アダルト・コンテンツを販売する『DMM.R18』というサイト運営者の証言がある。

これらは、エロビデオ情報誌→アダルト動画サイトを紹介するサイト、エロ本専門店→アダルト・コンテンツ販売サイト、という変遷ととらえ直すこともできる。本書は、このあたりをもっと深掘りしても良かったのではないだろうか。

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2011.05.30

▽『ニッポンの書評』

豊崎由美『ニッポンの書評』(光文社新書)

書評講座の講師もつとめている著者が、PR誌に連載した書評に関する考察をまとめたもの。15のテーマと対談で、著者の書評に対する心構えが書かれている。

また、書評ブログやAmazonのカスタマーレビューに対する考察は、活字サイドからのネット社会への批判と読めるし、書評をめぐる国際比較も詳しく、まさに「ニッポンの書評」をあるがままに浮かび上がらせていて面白い。

[目次]
第1講 大八車(小説)を押すことが書評家の役目
第2講 粗筋紹介も立派な書評
第3講 書評の「読み物」としての面白さ
第4講 書評の文字数
第5講 日本と海外、書評の違い
第6講 「ネタばらし」はどこまで許されるのか
第7講 「ネタばらし」問題日本篇
第8講 書評の読み比べ―その人にしか書けない書評とは
第9講 「援用」は両刃の剣―『聖家族』評読み比べ
第10講 プロの書評と感想文の違い
第11講 Amazonのカスタマーレビュー
第12講 新聞書評を採点してみる
第13講 『IQ84』一・二巻の書評読み比べ
第14講 引き続き、『IQ84』の書評をめぐって
第15講 トヨザキ流書評の書き方
対談 ガラパゴス的ニッポンの書評―その来歴と行方

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2011.05.14

▽『原発労働記』(『原発ジプシー』改題)

堀江邦夫『原発労働記』(講談社文庫)

講談社文庫版の『原発ジプシー』は、ながらく絶版だったのですが、加筆修正が施された上で『原発労働記』として再刊されました。

1978年から79年にかけて、美浜、福島第一、敦賀の三つの原発で働いた潜入ルポです。もちろん記述されている作業の内容自体は古いものなのですが、電力会社の社員と、協力会社と呼ばれる外部企業や、その下請けの社員という構造自体は、まったく、かわっていません。

そして、巻末の「跋にかえて」で著者は、電力会社の社員と、外部企業や下請け社員との間には、被ばく量に大きな差があるという事実を示した上で、次のような問題を指摘しています。

《放射線が人体に与える影響のほどについては、現在においてもまだよくわかってはいない》(p.360)

[参考]▽当ブログで売れた本――2011年原発関連
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/05/2011-fe88.html

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2011.05.13

▽吉村昭『関東大震災』

吉村昭『関東大震災』(文春文庫)

1923年(大正12年)に発生した関東大震災――。
その十八年前の明治38年に、今村明常助教授は、地震は百周年を周期として発生すること、明治38年が安政の江戸大地震からちょうど50年にあたること、それゆえに、今後50年以内に東京が大地震に襲われること、そして、その場合には死者数は十万から二十万を超えること、を予想した。この予測は、社会にセンセーションを巻き起こしたものの、地震学者からは非難された。
しかし――。

《萎縮した思いで日々を過ごしてきた今村は、破壊されつくした地震計を見渡しながら、自分の予想が確実に的中したと思った。大地は、依然として激しく揺れ続けている。勝ったという優越感が、かれの胸を熱くした。》(p.45)

本書は吉村昭が関東大震災で何が起きたか? を多角的に描き出した傑作ですが、すでに関東大震災から87年がたっており、また、関東大震災が起きるんじゃないのか、と思ってしまいます……。

[目次]
「大地震は六十年ごとに起る」
 群発地震
 今村説vs大森説
地震発生―二十万の死者
 大正十二年九月一日
 激震地の災害
 東京の家屋倒壊
 本所被服廟跡・三万八千万名の死者
 浅草区吉原公園・娼婦たちの死
 避難場所・上野公園
第二の悲劇―人心の錯乱
 “大津波”“富士山爆発”流言の拡大
 朝鮮人来襲説
 自警団
 列車輸送
 新聞報道
 大杉栄事件
 大杉事件と軍法会議
復興へ
 死体処理
 バラック街
 犯罪の多発
 大森教授の死
あとがき

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2011.05.04

▽15万人の命はなぜ奪われたのか――『イラク崩壊』

吉岡 一『イラク崩壊―米軍占領下、15万人の命はなぜ奪われたのか』(合同出版)

イラク戦争の現地ルポといえば、アメリカやヨーロッパのジャーナリストによるものが多いのですが、本書は、日本人による本格的なイラク戦争のルポです。

著者は、朝日新聞の中東アフリカ総局特派員を務めたこともある吉岡一。

イラク人だけで15万人もの死者を出したイラク戦争――、そして、イスラム過激派だけでなく、イラクの一般大衆や、中東の民衆をテロリストの範疇に押し込めていく米国のイラク支配の異常さを観察するうちに、著者はイラク戦争について次のような感想を持つようになります。

《イラク戦争の真の目的は、我々が普通に考えていたこと以外の何かだったのではないか。「対テロ戦争」も「石油利権」も「中東民主化」も実は脇役、付随的な役回りにすぎず、本当の狙いは実はもっと別のところにあるのではないか、と。》(p.18)

著者は、中東におけるイスラエルの振る舞い、そして、その背後にアメリカの存在があることを指摘した上で、次のような結論を導き出しています。

《実はイラク戦争の陰で、同じ唯一神を巡る複数の宗教イデオロギー同士が衝突し、のたうち回っていたのかもしれない。》(p.390)

そう。

だからアメリカ軍がイラクから撤退しても、ビンラディンを暗殺しても、この争いは収拾がつかないのではないか、と思ってしまいます。

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▽『CIA 失敗の研究』

落合浩太郎『CIA 失敗の研究』(文春新書)

アルカイダの指導者オサマ・ビンラディンの死亡は、当のアルカイダによっても確認されたようです。今回の暗殺計画でもCIAが活躍したことでしょう。

2005年に上梓された本書『CIA 失敗の研究』では、CIAの二つの失敗が指摘されています。一つ目は、冷戦が終わった後に、国家間の戦争よりも、テロとの戦いが重大な脅威となりつつあったのに、それに対応することが遅れたこと。その帰結として、9.11のテロがもたらされます。このテロを、CIAやブッシュ大統領周辺は、事前に知っていてわざとやらせたのではないか? という疑惑がありますが、本書を読む限りでは、むしろ、断片的な情報はつかんでいたのに、組織的な対応ができなかったようです。

そして、この失敗が尾を引いて、「イラクのフセイン大統領はアルカイダとビンラディンを支援している」、「イラクは大量破壊兵器を隠し持っている」というブッシュ政権の見立てに迎合した調査報告をでっち上げてしまいます。これが二つ目の失敗。

アフガニスタン戦争までは、国際世論の支持もあったかと思いますが、さすがに、イラク戦争は無理筋でした。

ちなみに本書によると、現在のCIAは昔のように独自判断で要人の暗殺を行うことは認められておらず、大統領の決定による文書が必要とのこと。ビンラディンに関しては、なんと9.11の三年前に当時のクリントン大統領が署名した暗殺命令書が存在し、ブッシュ、オバマと引き継がれてきたのだそうです。

こうしてみると9.11テロは、自らが暗殺対象としていた相手の力量を過小評価した結果、思いもよらないテロを仕掛けられた、ということができますね。

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2011.05.03

▽『ブッシュの戦争』

ボブ・ウッドワード『ブッシュの戦争』 (伏見威蕃訳、日本経済新聞社)

十年一昔とは言いますが、もうあれから十年もたつのか……と感慨深いものがあります。

本書『ブッシュの戦争』は、2001年9月11日に起きたテロに、当時のブッシュ政権の面々がどう対処したかを記録したドキュメンタリーです。

著者は、ウォーターゲート事件をスクープしたボブ・ウッドワードで、圧倒的な取材力によって、9.11からの百日間を緻密に再現しています。今読んでも、当時のことをまざまざと思い出させます。

9.11からの百日間というと、ニューヨークのツインタワーへのテロ発生から、オサマ・ビンラディンとアルカイダ潜伏しているとされるアフガニスタンに米軍が侵攻し、首都カブールを陥落させるところまで、となります。

ここまでのテロとの戦いは、国際的にも支持されていたと思いますが、ここから先がいけませんでした。アルカイダの背後には、イラクのフセインがいるはずだ、イラクは大量破壊兵器を隠し持っているはずだ、とテロとの戦いを拡大させていくところで本書は終わります。

では、イラク戦争はどうなったのでしょうか?

テロとの戦いを始めた十年後となる今年の末までに、イラクから米軍は完全に撤退しますが、イラクの治安状態は必ずしも安定したものとは言い難い状況にあります。サダム・フセインは捕獲して処刑したものの、イラク戦争は正義の戦争とは言い難いものであり、アメリカの威信は大きく傷ついたままです。また、アフリカから中東にかけてのイスラム世界も大きく揺らいでいます。ビンラディンの殺害が、新たな混乱の火種にならなければよいのですが……。

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2011.05.02

▽『大仏破壊―ビンラディン、9・11へのプレリュード』

高木徹『大仏破壊―ビンラディン、9・11へのプレリュード』 (文春文庫)

国際テロ組織アルカイダの指導者であるオサマ・ビンラディンが殺害されたというニュースが流れています。

ビンラディンに関しては、病死説も流れていたので、私は、すでに死んでいるものだと思っていました。時折流れてくるビンラディンのメッセージは、アルカイダのメンバーの創作だと思っていました。

ですから、今回のニュースを聞いて、ビンラディンはまだ生きていたのか! という驚きとともに、もしかしたら人違いかもしれないのでは? という疑念も拭い去れません。もうしばらく事態の推移を見たいと思います。

さて、本書は、2001年に発生した9.11テロの半年前に、アフガニスタンにあるバーミヤンの大仏がタリバン政権によって破壊されたという事件の背景にせまったものです。

当時のアフガニスタンを支配していたタリバンは、宗教的には真面目な政権で、庶民からもある程度の支持は得ていたようです。イスラム原理主義の抑圧的な政権というイメージは、欧米のメディアによって流されたもののようです。

しかし、そのタリバン政権は、国際的なテロ組織であるアルカイダとオサマ・ビンラディンが寄生するかたちで乗っ取られた、というのが著者の見立てです。

彼らによって破壊されたバーミヤンの大仏は、二つの大仏が並んで立っているもので、それは、9.11のツイン・タワー破壊へのプレリュードではなかったか――など、隠された事実が掘り起こされていて、今でも興味深く読むことができます。

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2011.05.01

▽当ブログで売れた本――2011年原発関連

2011年3月11日の大震災以来、原発関連の本が売れています。まあ、ランキングをつけるほどは売れていないので、あくまでも十傑ということで・・・・・・。

▽最悪の事態が起きた場合は?――『原発事故…その時、あなたは!』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-88e4.html
▽『日本を滅ぼす原発大災害―完全シミュレーション』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-88e4.html
▽パニックにならないためにも――『放射能で首都圏消滅―誰も知らない震災対策』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/post-9bf4.html
▽柏崎刈羽「震度7」の警告
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/7-ac7d.html
▽『原子炉時限爆弾』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-6cdf.html
▽『チェルノブイリ―アメリカ人医師の体験』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/post-3770.html
▽『朽ちていった命』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/post-9d7f.html
▽『地震と社会』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/post-3c76.html
▽『甦る11棟のマンション―阪神大震災・再生への苦闘の記録』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/11-8373.html
▽大震災と原発と新聞と――『巨怪伝』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-8445.html

以上の10冊のうち、『原発事故…その時、あなたは!』、『日本を滅ぼす原発大災害―完全シミュレーション』、『放射能で首都圏消滅―誰も知らない震災対策』の3冊はよく売れていますね。

あと、当ブログでは紹介していないのですが、売れた本を紹介しておきます。ながらく絶版となっていた『原発ジプシー』は、5月に新装改訂版が出版されるとのこと。

▽堀江邦夫『原発ジプシー』(講談社文庫)

▽有馬哲夫『原発・正力・CIA―機密文書で読む昭和裏面史』(新潮新書)

▽『隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ』

▽『これから起こる原発事故~原発問題の専門家から警告』(別冊宝島1469)

▽小林圭二、西尾漠 『プルトニウム発電の恐怖―プルサーマルの危険なウソ』(創史社)

田中三彦『原発はなぜ危険か―元設計技師の証言』(岩波新書)

高木仁三郎『原発事故はなぜくりかえすのか』(岩波新書)

高木仁三郎『プルトニウムの未来―2041年からのメッセージ』 (岩波新書)

▽七沢潔『原発事故を問う―チェルノブイリから、もんじゅへ』 (岩波新書)

広瀬隆『東京に原発を!』(集英社文庫)

広瀬隆『新版 危険な話―チェルノブイリと日本の運命』(新潮文庫)

広瀬隆『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)

日下公人、武田邦彦『つくられた「環境問題」―NHKの環境報道に騙されるな!』(WAC BUNKO)

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2011.04.27

▽『突然、僕は殺人犯にされた~ネット中傷被害を受けた10年間』

スマイリーキクチ『突然、僕は殺人犯にされた~ネット中傷被害を受けた10年間』 (竹書房)

スマイリーキクチというお笑い芸人が、ある有名な殺人事件の犯人である、とネットで誹謗中傷された事件。2009年2月には、書き込みを行った複数の人物が摘発されました。

このニュースを聞いた時は、ネットの風評被害に対して警察も動くようになったんだな、と思ったのですが、スマイリーキクチ自身によって書かれた本書によると、そこに至るまでには、長い長い道のりがあったことがわかります。

では、どうしてこういう風評被害がやまないのか? 私は以前、岡田斗司夫の次のような言葉を紹介しています。

▽岡田斗司夫が語るネット社会の欠陥
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/05/post-7378.html
《「訂正責任は被害者の側にある」ということにされちゃっている。これは人間性が低いからとか、頭が悪いからではなく「ネット社会が持つ本質的な欠陥」なんですよ。》(p.119)

いったんネットに悪い噂がばらまかれると、それを訂正する責任は、被害者の側にあることにされてしまう。スマイリーキクチの件では、元刑事の書いた本が、風評被害に拍車をかけてしまいます。

では、こういう書き込みをする人たちの動機はなんなんでしょうか。私は、以前、初音ミクに代表されるネットのコラボレーションを「満足の交換」という概念で説明したことがあります。

「初音ミク」ムーブメントから考えるCGMの弱点
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2007/11/cgm-4803.html
《CGMは、「効用の交換」、つまり「満足の交換」によって支えられていると考えています。それも、かなり非対称かつ間接的な「満足」の交換の体系によってなりたっていると捉えています。》

上記のエントリーではネットのCGMの良い面に焦点をあてているために触れませんでしたが、現実には、他人にマイナスの効用をぶつけることでプラスの効用を得る、つまり、他人に不満足を与えて歪んだ満足を得るタイプの人間がいる、というのは理解してもらえると思います。

本書は、なかなか重い現実が描かれていて、読むのもつらい部分があるのですが、それでも、著者の毅然とした態度が良い結果をもたらした、希望の見える一冊です。

[目次]
第一章 :突然の誹謗中傷
第二章 :謎の本
第三章 :ひとすじの光明
第四章 :正体判明
第五章 :重圧、そして新たなる敵
第六章 :スゴロク
特別付録:ネット中傷被害に遭った場合の対処マニュアル

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▽「洗脳社会」から「評価経済社会」へと移行できるのか?

岡田斗司夫『評価経済社会 ぼくらは世界の変わり目に立ち会っている』 (ダイヤモンド社)

本書『評価経済社会 ぼくらは世界の変わり目に立ち会っている』は、岡田斗司夫が1995年に上梓した『ぼくたちの洗脳社会』(朝日新聞社)のアップデート版である。

『ぼくたちの洗脳社会』は、ちょうどWindows95ブームのさなかに出版されたこともあって、きたるべきインターネットの時代の心構えの書として、かなり大きなインパクトを日本社会に与えた……と記憶しています。違っていたかもしれませんが(笑)。

『ぼくたちの洗脳社会』157ページの「洗脳社会の勝者」の項では、次のように宣言されています。

《近代を「だれもが豊かになるために競争する社会」と表現するなら、これからは「だれもが他人に影響を与えることに競争する社会」といえるでしょう。近代の自由経済社会が弱肉強食であり、新陳代謝することによってバランスが保たれるのと同様、来るべき自由洗脳社会も弱肉強肉であり、新陳代謝することは避けられない必然です。》

この「洗脳社会」というタームは、『評価経済社会 ぼくらは世界の変わり目に立ち会っている』では、「評価経済社会」に置き換えられています。

それは、なぜか? なぜ「洗脳」を「評価経済」として、「経済」をつけたのか?

ここから先は私の推測ですが、著者は、自由洗脳社会の勝者であったことは疑いのない事実だろうと思いますが、その割には、あまり儲からなかったのではないのでしょうか(あくまでも推測です。念のため)。

どうして、そう思うかというと、自由洗脳社会のリーダーたる著者自身は、儲ける手段を持っておらず、逆に、儲ける手段を持っている既存のメディアが、著者の行動や言動をコピーするだけだったのではないか、と推測するからです。

もちろん企画料や原稿料などの収入はあったとは思いますが、それは全体の利益の中ではわずかなものだったと思いますし、アイデア料などは払わずにパクってくるところはパクってくるからです。

そういう状況に対応するために、つまり、著者自身が儲けるための回路として生み出されたのが、本書でも紹介されている、「オタキングex」ではないかと思うのですが、この見立ては、いかがでしょうか?

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2011.04.25

▽『日本は世界1位の金属資源大国』

平沼光『日本は世界1位の金属資源大国』 (講談社プラスアルファ新書)

意外なタイトルに、思わず手にとってしまいました……。

本書は、3.11の大震災より前に書かれているので、それ以前の政策を前提に書かれています。民主党の戦略では、「グリーンイノベーション」によって、2020年までに、50兆円の環境関連新規市場、140万人の環境分野の新規雇用、13億トン以上の温室効果ガスの削減を目標としています。

この戦略の中では、ハイブリッド車や電気自動車、太陽光発電、蓄電池などの環境に優しい製品が必要となります。そして、これらの製品に使われているのがレアメタルであり……、と話は続きます。いちおう3.11後でも、読める内容になっています。

そしてレアアースの世界最大の産出国は、中国であり、先の尖閣諸島での漁船衝突事故の際には、レアアースの禁輸という非常手段を中国はちらつかせてきました。

つまり、資源小国の日本は、中国にはさからえないと言えそうです。しかし! と著者は指摘します。

日本には「都市鉱山」と呼ばれるものがあって、そこに埋蔵されているレアメタルの量を含めると、日本は世界一の資源大国になるのだそうです。「都市鉱山」とは、要するに、捨てられたパソコンや家電製品、携帯電話のことで、そこからレアメタルを抽出してリサイクル利用すれば良いのだそうです。

また、日本近海の海底も金属資源は豊富だそうです。海水からもレアメタルはとれるそうです。

まあ、「都市鉱山」にしろ、「海底資源」にしろ、「海水」にしろ、今後の技術革新や開発が期待されている段階だそうですが……。ただ、日本の科学技術が、お先真っ暗な状態の中で、ちょっとだけ光明を見させてくれる本ですね。

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2011.04.19

▽『津山三十人殺し 最後の真相』

石川清『津山三十人殺し 最後の真相』 (ミリオン出版)

無数のノンフィクションが書かれ、また、『八墓村』などのフィクションのモチーフとして描かれた「津山三十人殺し」。存命中の関係者へのインタビューを敢行し、その真相に迫るおそらく最後のノンフィクションが本書である。

事件そのものに新事実があるわけではないが、事件の背景にある人間関係が明らかにされており、事件の構図についても、従来とは異なる視点を与えてくれる。

面白いのは、著者が発掘した「津山事件報告書」という資料は、戦後の占領期にアメリカが収集したもので、アメリカに保存されていたという点。また、戦前の山陽の農村の風習もうかがい知れて興味深い。

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2011.04.17

▽『地震と社会』

外岡秀俊『地震と社会〈上〉「阪神大震災」記』(みすず書房)

外岡秀俊『地震と社会〈下〉「阪神大震災」記』(みすず書房)

1995年に阪神大震災が起きた日の夜、AERA編集部に在籍していた外岡秀俊は、その夜に神戸に入り、被災地の状況をレポートした。一年間、AERAに連載を続けた後、『みすず』に場所をかえて、地震と社会を多面的に描き続けた。そして、上下巻あわせて700ページを超える大部となった本書が、1998年に刊行された。

地震予知にはらむ問題、震災のイメージ形成にマスメディアがどのように影響を与えたか、救助の実態はどのようなものだったか、などなど、一つ一つのテーマだけでも一冊の本がかけるほど重厚に、データや証言が積み上げられている。

特に第四章の「崩れた神話」が興味深い。長らく、日本の建築物は耐震性能に優れているためにアメリカやメキシコのように地震で崩落することはないという「安全神話」があったが、それが阪神大震災によって崩壊した。

日本では1923年の関東大震災以来、これを念頭に耐震基準が定められてきた。しかし、ここに落とし穴があったのではないか、と土木学会の河村忠男が指摘している。

《「一つは、『関東大震災級に耐える』という言葉を金科玉条として、予測や評価を怠ったことだ。もう一つは、技術者が傲慢になった過程は、コンピューターが安くなった時代に対応している。解析、設計で最適解を求めることが容易になり、常に自然と対話し、脅威を考えながら計算するという空気が現場から薄れていった」。》(p.223)

[目次]
外岡秀俊『地震と社会〈上〉「阪神大震災」記』(みすず書房)
序章 方法について
第1章 予知の思想
第2章 災害像が形成されるまで
第3章 もう一人、救えなかったか
第4章 崩れた神話
第5章 都市の履歴

外岡秀俊『地震と社会〈下〉「阪神大震災」記』(みすず書房)
第6章 避難と救援
第7章 復興への道
第8章 人の安全保障

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2011.04.14

▽生き残る判断 生き残れない行動

アマンダ・リプリー『生き残る判断 生き残れない行動』 (岡真知子訳、光文社)

大震災の後は、この手の本が気になってしまいます。いまさら、という気もしますが……。

著者のアマンダ・リプリーは、米タイム誌の女性シニア・ライター。2001年に起きた9.11テロの三周年の行事において、WTCビルから生還できた人たちの証言を聞いているうちに、事故や災害から生還できた人と生還できなかった人の思考や行動のどこに違いがあったのだろうか? という疑問を抱いて調査を開始します。

著者によると、生還に向けての三段階のプロセスがあるそうです。まず、起きたことを認めようとしない「否認」。自分だけは助かる、と楽観的に考え、身に迫っている危険を受け入れない人は、かなりいるそうです。

続いて、第二段階が「思考」。起きている事象について、どう対処すべきかについて考える段階で、「否認」の段階を抜けて、早く「思考」の段階へ移れるかが生還へのカギを握っています。そして、第三段階が生還への行動を起こす「決定的瞬間」。

本書は、9.11テロのほか、ハリケーン「カトリーナ」、ポトマック川の旅客機墜落事故、スマトラ沖地震など、さまざまな事故や災害の生還者の証言を集めていて興味深く読めます。

[目次]
序文「人生は融けた金属のごとくなって」
 知ってもらいたいと生存者が望んでいること
 救助犬の問題
 運など当てにならない
 生存への行程

第一部 否認
第一章 立ち遅れ 北タワーでのぐずついた行動
 「心配するな。それはきみの想像だよ!」
 「ビルから出ろ!」
 赤い服の女性
 四・五キロのプランター
第二章 リスク ニューオーリンズにおける賭け
 死角
 野球のバットと十字架
 リスクの科学
 恐怖のヒエラルキー
 自信過剰
 不安を感じない男
 まずあなた自身のマスクをしっかりつけよ

第二部 思考
第三章 恐怖 人質の体と心
 恐怖の生理学
 想像上の航空機墜落
 ウサギの穴へ
 拳銃の名人ができるまで
 生存ゾーン
 視野狭窄
 脳を大きくすること
 戦闘でのラマーズ法
 人質犯人
第四章 非常時の回復力 エルサレムで冷静さを保つ
 生存者のプロフィール
 微妙な差異
 特殊部隊の兵士は常人ではない
 トンプソン家の双子
 むき出しのわたしの脳
第五章 集団思考 ビバリーヒルズ・サパークラブ火災でのそれぞれの役割
 「わたしは生き残りました。あなたも生き残っていることを願っています」
 ビバリーヒルズ火災の社会学
 数が多ければそれだけ安全
 結婚式
 避難の科学
 煙は目に入る
 バスボーイについていく
 従順な群集
 グランド・バイユー方式
 二つの町の物語

第三部 決定的瞬間
第六章 パニック 聖地で殺到した群集
 倒れた女性
 群集の物理学
 パニックの必要条件
 実験室のパニック
 家具販売店イケアでの悲劇
 一人のパニック
第七章 麻痺 フランス語の授業で死んだふりをする
 催眠状態
 災害時の行動停止
 「ぼくは人間ではありませんでした」
 沈みゆく船でタバコを一服
 麻痺状態からの脱出
第八章 英雄的行為 ポトマック川での自殺未遂
 「これは小型飛行機ではない」
 機上の英雄
 電気を帯びたような冷たさ
 英雄を心理分析する
 「彼はどんどん近づいてきたんです」
 英雄のデータベース
 夢想についての問題
結論 新たな直感を生みだす
 「ワーテルローからじかに聞こえてくるような声」
 退化
 「何を実践できるか想像してみてください
 恐怖をものともせずに
 テディベアと車椅子

著者覚え書き
訳者あとがき

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2011.04.13

▽食品の放射能汚染は、どれほど忌避されるものなのか?

真保裕一『連鎖』 (講談社文庫)

真保裕一といえば、『奪取』、『ホワイトアウト』、『奇跡の人』などの綿密な調査と緻密なプロットの小説で知られています。

その真保裕一のデビュー作であり、1991年に江戸川乱歩賞を受賞したのが、この『連鎖』。その内容は、

《チェルノブイリ原発事故による放射能汚染食品がヨーロッパから検査対象外の別の国経由で輸入されていた。厚生省の元食品衛生監視員として、汚染食品の横流しの真相究明に乗りだした羽川にやがて死の脅迫が…。》

ミステリー小説などのフィクションにおいては、悪役は悪ければ悪いほどいい。チェルノブイリの放射能に汚染された食品を密輸する企業は、まさに悪の権化として、小説内でも厳しく批判されています……。

これが、放射能汚染の現実なんですよね……。

小説の方は、ちょっとストーリーが込み入っていてまどろっこしいところもありますが、評判通りの傑作です。

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▽柏崎刈羽「震度7」の警告

新潟日報社特別取材班『原発と地震―柏崎刈羽「震度7」の警告』 (講談社)

2007年7月16日に発生した中越沖地震によって、新潟県にある東京電力の柏崎刈羽原発の稼働中の原子炉のすべてが止まった。

地震による原子炉の破壊や暴走は避けられたものの、三号炉の変電器が火災で焼失する。また、また六号炉の建屋では放射性物質を含んだ水が流出する。

この地震によって、原発設計の前提となる想定震度が甘かったことや、活断層があることが無視されていたことが明らかになる。さらに、新潟日報の取材によって、原発の用地取得に際して、田中角栄にまでさかのぼる政治の闇が存在することもつきとめられる。

風評被害の実態や、原発の運転再開に至るまでの東電の寄付金など、原発の抱える問題が、網羅的かつリアルに描かれている。

[目次]
第1章 止まった原子炉
第2章 過信の代償「7・16」の警告
第3章 封印された活断層
第4章 なぜ未開の砂丘地に
第5章 はがれたベール 検証・設置審査
第6章 絡み合う思惑 検証「東電・三十億円寄付」
第7章 断層からの異議 1号機訴訟三十年
第8章 閉ざされた扉 原子力産業の実相
特集 「揺らぐ安全神話 柏崎刈羽原発」

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2011.04.12

▽パニックにならないためにも――『放射能で首都圏消滅―誰も知らない震災対策』

古長谷稔『放射能で首都圏消滅―誰も知らない震災対策』 (三五館)

なんかすごいタイトルですが、もし万が一放射能汚染に襲われることがあったら、どう対処すべきかや放射能をさけるためのグッズなどについても書かれています。

もちろん、現状は、そこまで深刻な事態には至っていませんが、いざと言う時にパニックにならないように、備えておくのも良いかもしれませんね。

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2011.04.06

▽『中国のマスゴミ』

福島香織『中国のマスゴミ ジャーナリズムの挫折と目覚め』 (扶桑社新書)

大震災前に買って読もうと思っていたのですが……。

しかし、著者の苗字の「福島」はいろんな意味で世界的にも有名になってしまいました。海外で、覚えてもらい安くなったととらえるべきか、それとも、ある種の風評被害ととらえるべきか……。

本書は、元産経新聞の記者で中国総局に勤務した著者が、言論の自由を求める中国のジャーナリストや新聞社と、言論統制を行おうとする当局とのせめぎ合いを綴ってます。

中国が経済的自由を追求すれば、いずれは政治的自由をも国民は求めるようになり、共産党の一党独裁は崩れるはず、というのは政治学の通念ですが、本書で書かれているような出来事は、その過程の一コマに過ぎないのか? それとも、長く続く現象なのか? そのことが気になります。

[目次]
第一章 中国のマスゴミ
第二章 マスコミ腐敗・記者モラル崩壊の背景
第三章 中国ジャーナリズムと外国人記者
第四章 巧みにしなやかに抵抗せよ
第五章 インターネットでジャーナリズムの夜明けは来るか

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2011.04.05

▽『誰が小沢一郎を殺すのか?』

カレル・ヴァン・ウォルフレン『誰が小沢一郎を殺すのか?画策者なき陰謀』 (井上実訳、角川書店)

《大地震や大災害に見舞われると、人間というものははたと現実に気づくのか、あらためてよく注意して周囲を見回すようになるものだ。》

本書のプロローグの書き出しである。実際に本書が出版されたのは、東日本大震災の前であり、大震災について考察されたものではない。

『誰が小沢一郎を殺すのか?』とは仰々しいタイトルだが、内容はいたって真面目で、小沢一郎という政治家が、マスコミによって「人格破壊」というかたちの攻撃をうけているが、その背後にいるのは誰か? についてご存じカレル・ヴァン・ウォルフレンが考察している。

「人格破壊」という政治的な暗殺は、世界各国で見られることだが、小沢一郎に対しては世界に例をみないほどの執拗なものだという。小沢一郎に対するそれは、1993年に自民党を割って、非自民連立政権を創って以来、マスコミと、その背後にいる検察や官僚によって続けられている。

さらに、日本の官僚やマスコミには、アメリカの政治エリートであるジャパン・ハンドラーズとの間に「密約」があり、日本人の政治的独立を妨げる方向へと行動しているとウォルフレンは指摘する。官僚は、権力を維持する非公式のシステムを有しており、それを破壊しようとする小沢一郎を抹殺したがっているのだという。

「官直人のふたつの誤り」についても記されている。ひとつは官僚にのせられて、消費税増税路線に走ったこと。そして、

《菅氏のもうひとつの大きな誤りは、小沢氏が持つ奥深い政治の知識と戦略を無視しようとしていることだ。》(p.106-107)

[目次]
第一章 「人物破壊」にさらされる小沢一郎
第二章 霞ヶ関というシステムの起源
第三章 日本型スキャンダルの残酷と混沌
第四章 “政治的現実”と日本のメディア
第五章 戦後日米関係という病理
終章 国家主権、オザワ、システムの欺瞞

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2011.04.04

▽みんなの党が痛過ぎる件――『体験ルポ 国会議員に立候補する』

若林亜紀『体験ルポ 国会議員に立候補する』 (文春新書)

役人の天下りや公金浪費を告発したジャーナリストの若林亜紀が、2010年夏の参議院選挙に出馬して、落選した顛末の手記。こまかい経費の明細もつけられていて、選挙の舞台裏が詳述されている。

しかし本書のもう一つの関心は、若林に出馬を要請したみんなの党の独善的な体質や党首のわがままぶりが垣間見える点だろう。

[目次]
第1章 出馬の誘い
第2章 みんなの党に群がる人々
第3章 『アジェンダ』の裏側
第4章 候補者の嫉妬と渡辺代表のわがまま
第5章 金と裏切り
第6章 予算は300万円
第7章 街頭演説で出会った人々
第8章 開票

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2011.04.02

▽『チェルノブイリ―アメリカ人医師の体験』

ロバート・ピーター ゲイル、T. ハウザー『チェルノブイリ―アメリカ人医師の体験〈上〉』 (吉本晋一郎訳、岩波新書)

ロバート・ピーター ゲイル、T. ハウザー『チェルノブイリ―アメリカ人医師の体験〈下〉』 (吉本晋一郎訳、岩波新書)

本書は、1986年4月26日に起きたチェルノブイリ原発事故で放射能を浴びた患者を治療するために、その6日後に、アメリカから派遣された医師の記録である。

1988年の出版であるが、いまなお生々しく、チェルノブイリ事故のリアルな悲惨さを伝えている。

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▽『朽ちていった命』

NHK「東海村臨界事故」取材班『朽ちていった命―被曝治療83日間の記録』 (新潮文庫)

1999年9月に茨城県東海村で起きた、核燃料の臨界事故――。

バケツでウラン溶液を移し替える作業をしていた作業員は、ウランが臨海した時に発生する「チェレンコフの光」と呼ばれる青い光を見た。その時、発せられた中性子が体を貫通すると、作業員は嘔吐し、意識を失った――。

被爆した当初は、赤くはれているだけだった右腕の皮膚は、次第に変色していく。中性子が染色体を破壊しつくしてしまったために、組織が再生できないからだという。

本書は、83日間におよぶ被害者と、治療に携わった医師達の記録である。文庫化に際してつけられた「朽ちていった命」というタイトルが、この悲惨な事故の実態を現している。

いまさらながら被害者のご冥福をお祈りするとともに、福島原発の被害が最小限にとどまることを願っています。

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2011.03.30

▽『ヤクザの修羅場』

鈴木智彦『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(文春新書)

とても面白いヤクザ世界の話。

著者は、いわゆる実話誌の記者、編集長として、ヤクザと関わり、独立してからは、歌舞伎町にある入居者の7割が暴力団関係者という通称「ヤクザマンション」で生活するなど、その世界にどっぷりと浸ってきた。

本書を読むと、とにかくヤクザ稼業も楽ではないし、それを取材する側もいかに大変かが、ユーモアも交えつつ描かれている。

ヤクザを飯の種とする実話誌というメディアと、それを利用しようとする暴力団との関係も興味深く、ある種のジャーナリズム論にもなっている。

「潜入ルポ」はちょっと違うと思いますが……。

[目次]
序章 山口組vs.警察
第1章 ヤクザマンション物語
第2章 ヤクザ専門誌の世界
第3章 愚連隊の帝王・加納貢
第4章 西成ディープウエスト
終章 暴力団と暴力団専門ライターの未来

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2011.03.29

▽『出版大崩壊』

山田順『出版大崩壊 電子書籍の罠』(文春新書)

またまた電子書籍本。帯には、

某大手出版社が出版中止した「禁断の書」
電子書籍の不都合な真実

とある。これはどういうことかというと、「はじめに」に次のように書かれている。

《当初、本書は電子化を積極的に進める出版社から出す予定で書いてきた。しかし、内容がその社が進める電子化に反するものだったためか、途中で中止となり、最終的に文藝春秋に救っていただいた。》(p.12)

要するに、「電子書籍もやっぱり駄目っぽい」という内容のために、電子書籍に期待をしていた某大手出版社からは拒絶された、と。そして、いまのところ、あまり電子書籍には力を入れていない(ようにみえる)文藝春秋が拾ってくれたということらしい。

電子書籍が駄目っぽいからといって、紙の出版物もやっぱり大変な状況はかわらず、そのことは、「出版大崩壊」という自虐的なタイトルが示している。

内容的には、これまでにもこの手の本で何度も繰り返されたような話題が多い。目新しいのは、著者自らが試みた電子自費出版の成績くらいだろうが、それはそれで、衝撃的である。

[目次]
第1章「Kindle」「iPadショック」
第2章 異常な電子書籍ブーム
第3章 そもそも電子書籍とはなにか?
第4章 岐路に立つ出版界
第5章 「中抜き」と「価格決定権」
第6章 日本市場の特殊性
第7章 「自炊」と不法コピー
第8章 著作権の呪縛
第9章 ビジネスとしての電子出版
第10章 誰でも自費出版の衆愚
第11章 コンテンツ産業がたどった道

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2011.03.28

▽ユニクロの本質とは?――『ユニクロ帝国の光と影』

横田増生『ユニクロ帝国の光と影』(文藝春秋)

本書は、『アマゾン・ドット・コムの光と影』などで知られるジャーナリストの横田増生が、ユニクロと、その経営者である柳井正の本質にせまったものである。

叙述の多くは、ビジネス誌や大手メディアなどで英雄視されている柳井や、賞賛されているユニクロの経営手法に対して、本当はどうなのかということを明らかにすることに費やされている。

中でも、元社員の次のような証言は、ユニクロという会社を端的に現している。

《「ユニクロにはオリジナルのコンセプトというものがない。言い換えれば、洋服を作る上での本質がない。ユニクロのヒット商品である、フリース、ヒートテック、ブラトップとつなげてみても、どういう洋服を作りたい企業なのかさっぱり見えてこない。ユニクロで働いているときは、いつも“一流のニセモノ”を作っているという気持ちから逃れることができなかった。それでも、ユニクロが日本のアパレル業界で圧倒的な強さを維持しているのは、生産管理や工程などについての細かな決めごとを徹底的に実行しているからだ」》(p.56)

いくら柳井正という経営者の考え方や、ユニクロの経営手法について書かれたものを読んでも、何か面白みに欠けるのは、この「哲学の無さ」にあったのだろうと気づかされた。また、柳井の後継者が決まらない最大の理由も、継承すべき理念が無いことに起因していると思われる。

本書は、ニュージャーナリズム的な叙述の手法や、アパレル業界の慣習の説明などで、やや煩雑な部分はあるけれども、これまでメディアで伝えられてこなかったユニクロの「影」の部分は、よくわかった。

[目次]
序章 独自調査によってメスをいれる
第1章 鉄の統率
第2章 服を作るところから売るところまで
第3章 社長更迭劇の舞台裏
第4章 父親の桎梏
第5章 ユニクロで働くということ 国内篇
第6章 ユニクロで働くということ 中国篇
第7章 ZARAという別解
第8章 柳井正に聞く
終章 柳井を辞めさせられるのは柳井だけだ

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▽『マイ・バック・ページ - ある60年代の物語』

川本三郎『マイ・バック・ページ - ある60年代の物語』(平凡社)

評論家の川本三郎の青春回顧録。

妻夫木聡と松山ケンイチが出演する映画が5月28日に公開される予定。
http://mbp-movie.com/

川本が、週刊朝日、朝日ジャーナルの記者として過ごした1960年代の日々。

そして、「赤衛軍」を自称するテロリストとの出会い、事件、破滅――。

壮絶な青春がそこにあった。

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2011.03.27

▽最悪の事態が起きた場合は?――『原発事故…その時、あなたは!』

瀬尾健『原発事故…その時、あなたは!』(風媒社)

本書は、1994年に死去した原子力学者の瀬尾健が存命中に行ったシミュレーションをまとめたもので、出版は1995年と少し古い。

日本でチェルノブイリ級の原発事故が起きたとしたら、という前提で、どの地域がどれくらいの放射能被害を受けるかについて、16ヶ所の原発基地ごとにシミュレーションしたものを図示している。また、高速増殖炉もんじゅと、核燃料の輸送中の事故のシミュレーションも加えられている。

日本の原発ではチェルノブイリ型の事故は起きないとされているし、騒ぎすぎるのはよくないとは思うが、原因はなんであれ最悪の事態が起きた場合には、どの程度の被害が予測されうるかを確認するという点では、見ておいても損はないと思う。

瀬尾氏のシミュレーションでは、福島で採用されているBWR(沸騰水型原発)については、BWR2というケースを想定している。それは、

《【BWR2】炉心冷却系が故障。炉心が溶融落下する。蒸気爆発は溶融体が格納容器の床に落下したときに起こり、格納容器が破壊する。》(p.177)

というもの。福島第一原発では、すでに部分的な炉心溶融と、格納容器の一部損壊は起きているが、「BWR2」で想定しているような、全面的な炉心溶融および格納容器の破裂という段階には、まだ至っていないものと思われる。

また、放射能の人体に対する影響についても、瀬尾氏の研究では、チェルノブイリ周辺600km圏内の7500万人の放射線の影響によるガン死は、将来も含めて24万6000人と推計しているのに対して、本書に記されているソ連放射線学界の見解では、ガン死は1168人にとどまっている、とされている。(p.86-87, 92)

また、瀬尾氏は全世界のガン死は将来も含めて70万人との推計を示している。この点については、瀬尾氏の推計が過大なのかもしれないし、公式発表が嘘をついているのかもしれない。

以上のようなことを踏まえた上で、下に、瀬尾氏が行った福島第一原発6号基(110万Kw)が「BWR2」レベルの事故を起こした時の影響についての図(P.35)を示しておきます。瀬尾氏の推計では、福島から見て210度(南南西)の方角の地域では、ガン死は314万人に至ると推計しており、うち東京では213万人としています。

20110327simulation
繰り返しになりますが、これはあくまでも最悪の場合の推計であって、実際の事故はこれほどひどい状態にはなく、また、放射能の影響は、ソ連やIAEA(国際原子力機関)の公式見解よりも大きくみていることに留意してください。

[追記]
瀬尾氏のシミュレーションのいくつか(志賀、福島、浜岡、柏崎、女川、敦賀、もんじゅ、伊方、鳥取、玄海、泊)は、『日本を滅ぼす原発大災害―完全シミュレーション』という本に掲載されているそうです。

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2011.03.25

▽大震災と原発と新聞と

佐野眞一『巨怪伝―正力松太郎と影武者たちの一世紀』(文藝春秋)

「大震災」と「原発」という二つの言葉によって、私の記憶の底から浮かび上がってきたのが本書である。

『巨怪伝』とは、ノンフィクション作家の佐野眞一が、読売新聞の社主として君臨した正力松太郎と、その影に埋もれていた人々にスポットを当てた伝記である。

まず「大震災」。1923年に関東大震災が起きたとき、正力は特高を所管する、警視庁官房主事をつとめていた。この時、さまざまなデマが飛び交ったが、その流布に、警察も一役かったのではないかという疑いがもたれている。

《正力は少なくとも、九月一日深夜までは、朝鮮人暴動説を信じていた。いや、信じていたばかりではなく、その情報を新聞記者を通じて意図的に流していた。》(p.73)

こうしたデマを警察や軍隊は治安出動の口実に使おうとしたようだ。また、関東大震災によって、東京の新聞社も大きな打撃を受けた。後に、正力が社主となった読売新聞も復旧には2ヶ月半もかかったという。

《震災前に十三万部あった部数は、大震災を転機として東京朝日、東京日日という大阪系二紙に読者を蚕食され、五万部台にまで落ち込んだ。》(p.117)

東京日日とは、毎日新聞系列の新聞である。一方、正力は、虎ノ門事件という皇太子に対するテロ未遂事件を機に警視庁を懲戒免職となり、読売新聞の社主におさまる。部数拡大を至上命題とし、また、読売を冠したプロ野球球団やレジャー施設を作り出し、メディアと娯楽ビジネスの帝国を作り上げる。

さらに国会議員となった正力は、鳩山一郎の次の首相の座を狙うようになり、原子力の平和利用を主張するようになる。1953年にニューヨーク・ジャイアンツを招聘し、その際に、アイゼンハワー大統領による原子力の平和利用に関するメッセージが公開された。

《読売は、これ以降、すさまじいばかりの原子力平和利用キャンペーンに乗り出していった。そこにはアメリカの国際的核戦略と、ポスト鳩山を目指す正力の政治的野心とが、露骨なまでに重なり合っていた。》(pp.522-523)

「核燃料」を「ガイ燃料」と読み間違えるなど、原子力に関する知識をまったく持たない正力が原子力にこだわったのは、それが「空前絶後」のエネルギー革命であり、実現させれば政治家としての手腕に箔がつくから、という理由にすぎなかったという。

嗚呼――。

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2011.03.20

▽『原子炉時限爆弾』

広瀬隆『原子炉時限爆弾』(ダイヤモンド社)

本書のすごいところは、そのものずばりの『原子炉時限爆弾』というタイトル。「大地震におびえる日本列島」という副題。そして、2010年8月という発売時期。あいかわらず引きの強い著者だということができます(内容については……ですが)。

ただ、本書でもっとも危険視されていたのは、東海大地震と浜岡原発でしたから、まあ、わからないことはわからないとしか言いようがないですね。

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2011.03.19

▽ランドラッシュに出遅れるニッポン

NHK食料危機取材班『ランドラッシュ―激化する世界農地争奪戦』(新潮社)

本書のタイトルである「ランドラッシュ」とは、国際的な農地争奪戦を意味する造語である。ヨーロッパやアメリカに加えて、韓国、中国、インドなどの新興国が、ロシア、ブラジル、アフリカなどの農地を買い漁って開拓し、農地として、

本書は、2007年から2008年にかけて発生した「世界食糧危機」を機に、NHK取材班が世界各地のランドラッシュの実態を調査したものであるが、日本は、明らかにランドラッシュに出遅れているようだ。

《ランドラッシュを進める韓国、中国、インドなどの行動は、経済の常識から見れば必ずしも合理的ではないかもしれない。平常時の経営安定の問題、輸送ルートの問題、関税の問題、輸出禁止のリスク――。様々な課題を置き去りにしたまま、ただ進出を強引に推し進めていた。
 しかし、そこで目にしたのは、変革の時代を迎え、未来を自らの方向に引き寄せようという強い意志だった。その意志の強さは、様々な矛盾を乗り越え、受け身で合理的な選択をする者を打ち負かし、新しい時代の主導権を握るかもしれない。》(p.250)

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2011.03.17

▽『スウェーデン・パラドックス』

湯元健治、佐藤吉宗『スウェーデン・パラドックス』(日本経済新聞出版社)

日本でも福祉や社会保障が問題になっていますが、本書は、福祉先進国として知られるスウェーデンの実態を、つまびらかにしたものです。

かつて、「福祉国家」と言えば、労働者も失業者も老人も、のんびりと暮らせる豊かな国というイメージがありましたが、実態は、企業の新陳代謝を促し、失業者の尻を働け働けとたたき続ける、成長志向の強い競争社会であることがわかります。

《確かに、スウェーデンは、社会保障面では「大きな政府」だが、高水準の福祉や社会保障を維持するためには、常に、産業構造を高度化・転換し、持続的な経済成長を追求していく必要がある。我々は、企業活動を支える産業政策面ではスウェーデンが「小さな政府」であるという事実を銘記すべきだろう。》(p.76)

[目次]
はじめに--本書の問題意識
序 章 スウェーデン・モデルとは何か
第1章 高い国際競争力の源泉は何か
第2章 女性の活用による共働き社会の実現
第3章 厳しい競争社会を支える独自の雇用・賃金システム
第4章 就労インセンティブを重視する福祉・社会保障制度
第5章 明確な受益と負担の関係
終 章 スウェーデンから見た日本の未来への提言
おわりに

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2011.03.16

▽日石・土田爆弾事件40年目の真相

『創』2011年41月号

1971年に起きた爆弾テロ、日石事件と土田事件は、赤軍派系の活動家が逮捕・起訴されたものの、結局、1985年に無罪が決まった。今月号の『創』の記事によると、事件は、ブント戦旗派(日向派)の裏部隊によるものだったという。事件関係者の刑事・民事の時効などが終了したことが確認されており、近々、中島修による事件の手記が刊行される予定という。

[目次]
【特集 新聞社の徹底研究】
◆〈座談会〉新聞産業の危機とジャーナリズムの行方 原壽雄×桂敬一×河内孝×藤森研
◆朝日新聞社が掲げる「紙も、電子も」 篠田博之
◆読売新聞社が無借金で新社屋建設の驚愕 丸山昇
◆毎日新聞社の3度目の紙面「改革」 長岡義幸
◆日経新聞「電子版」とグループ戦略 伊藤隆紹
◆産経新聞社のデジタル化と出版戦略 道田陽一
<辛辣座談会>記者会見開放の新局面と記者クラブ制の崩壊 上杉隆×江川紹子×畠山理仁

◇都条例改定問題のその後も続く攻防戦 長岡義幸
◇『週刊現代』八百長告発執筆者の提言 大相撲八百長騒動仕掛けた警察の真の狙い 武田頼政
◇<布川冤罪事件当事者座談会> 40年以上にわたった布川事件冤罪を晴らす闘い 杉山卓男×桜井昌司×井手洋子
◇警察の捜査は一時肉薄しながらなぜ誤ったのか 日石・土田爆弾事件の40年目の真相 中島修
◇出版後、千葉拘置所のリアクションも 前代未聞の公判前獄中出版 市橋達也逃亡手記の経緯 浅野健一
永六輔×矢崎泰久のぢぢ放談 第21回 大相撲なんて知らない!

<巻頭グラビア>
◇風刺天国 〝相撲ルーレット/マニフェストは”嘘も方便”/他〟 マッド・アマノ
◇東京Street! 〝上野、新宿、渋谷――都会の死角〟 篝一光
◇今月のカラクリ雑誌 〝ターゲットを絞り込む〟 今柊二
◇連赤・永田洋子死刑囚の遺体/布川事件を撮った映画/『くじけないで』の大化け

<連載コラム>
◇タレント文化人 筆刀両断! 〝池上彰〟 佐高信
◇言論の覚悟 〝表現者の覚悟〟 鈴木邦男
◇「こころの時代」解体新書 〝日本人はなぜ謝らなくなったのか〟 香山リカ
◇ナショナリズムという病理 〝日沖関係の分水嶺となる鳩山由紀夫の「方便」発言〟 佐藤優
◇ドキュメント雨宮☆革命 〝「ニート祭り」に参加して……大川豊
◇バカ裁判傍聴記 〝証拠がないと物が言えない〟 阿曽山大噴火

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▽『甦る11棟のマンション―阪神大震災・再生への苦闘の記録』

日経アーキテクチュア『甦る11棟のマンション―阪神大震災・再生への苦闘の記録』(日経BP社)

1995年1月に起きた阪神・淡路大震災では、約180棟の分譲マンションが、全壊または半壊以上の被害を受けた。このうち1996年春までに建て替えまたは大規模補修の決議を行い、夏までに着工できたのは、わずか20棟弱だったという。

本書は、11棟のマンションがどのように復興のプロセスを辿ったのかを紹介している。映画監督の大森一樹は、復旧したマンションの自治会議長をつとめており、「マンションのキャラクター」、つまり、マンションそれぞれの特性、そして「被害の状況」を、できるだけ早く把握することが重要である、と語っている。

1997年1月発行のため、法律などの情報は古いかもしれないが、それでも参考になる部分は多いと思われる。

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2011.03.15

▽『軍事とロジスティクス』

江畑謙介『軍事とロジスティクス』(日経BP社)

軍事評論家の江畑謙介(2009年死去)が、流通業向けの業界誌に連載した軍事活動におけるロジスティクスの情報をまとめたもの(2008年出版)。軍事活動だけではなく、災害時の復興においても、ロジスティクスの確保が、いかに重要かが痛切に思い返されます。

[目次]
はじめに
 戦いにおいて、第一にして最も重要なこと
 ロジスティクスを「後方」と訳す自衛隊
 「鉄の山」を築き、動かした昔のロジスティクス
 情報ネットワークと無線タグの利用
 変わるロジスティクス
 センス・アンド・レスポンド補給と環境への配慮

第1章 イラク戦争とロジスティクス
ロジスティクスと新技術
 「成功」とされたイラク戦争のロジスティクス
 「軍事におくる革命」とロジスティクス
 RFIDタグの実用化
 アセッツ・ヴィジビリティ
湾岸戦争とイラク戦争の教訓
 湾岸戦争の教訓が生きたイラク戦争
 イラク戦争で活用された米軍補給システム
 イラク戦争の反省点
 多くの欠陥を露呈したイギリス軍のロジスティクス
 問題になった装備品の不足
 遅れていたイギリス軍のロジスティクス・システム
 イタリア軍のロジスティクス
威力を発揮した長距離輸送能力
 米軍輸送手段に対する評価
 即応可能な政府保管のRRF船隊
 高い評価を受けた最新型C-17輸送機
イラク戦争第2段階のロジスティクス
 不足した治安維持部隊の兵力
 在欧米陸軍部隊のイラク派遣
 装備の整備と修理
 狙われる補給部隊
 緊急装甲防御対策の実施
 コンボイ防衛訓練とシミュレーター
 手製爆弾(IED)の脅威
 MRAP計画
 航空輸送需要の増大と航空自衛隊の空輸支援
 浄水装置、再生エネルギーの活用
砂漠地帯におくるロジスティクス
 砂漠地帯の特殊性
 砂漠におくる保守・整備作業
    
第2章 アフガニスタンの戦いとロジスティクス
特殊部隊に対するロジスティクス
 非対称型の戦い
 想像力で仕様を決める
ISAF正規軍部隊へのロジスティクス
 ロード・トゥー・アフガニスタン
 フォース・プロバイダー・モジュール
 アフガニスタンにおくる米・英軍のロジスティクス組織
 戦況の悪化とNATO軍装備の変化
NATOのアフガニスタン・ロジスティクス
 NAMSA(NATO整備供給局)
 NATOの戦略空輸能力強化
 海・空輸送手段の統合調整機能
オペレーション・マウンテン・スラスト
 非NATO加盟国軍との共同作戦
 「マウンテン・スラスト」の教訓

第3章 軍事ロジスティクスの民間委託
急増する軍任務の民間委託
 クローズアップされた戦場の民間会社
 冷戦終了後に急増したアウトソーシング
 兵士一人に一人の民間契約社員
 艦隊補給から情報分析まで
 LOGCAP
経費削減と官組織との競争
 経費削減と公務員グループとの競争
 補給廠、工廠の民間委託
急成長するロジスティクスの民間請負企業
 軍人を事務室から戦場に
 噴出したハリバートン社問題
 軍とのロジスティクス契約増大の裏で
 再度問題になったイラクでの民間契約
 現地契約会社実態把握の難しさ
イギリスとカナダの民間委託
 英軍の海外展開支援を請け負ったKBR社
 独立採算制の英空軍航空機整備組織
 カナダ国防省に踏み台にされたTBG社
 海外派遣カナダ軍に対する民間ロジスティクス契約
民間委託の問題と不安要因
 軍業務の民間委託で生じる問題
 企業が契約違反をするとき

第4章 米軍海外展開戦略とロジスティクス
新たな脅威と米軍戦略
 米国に対する新たな脅威
 遠隔の地に米軍を投入する方法
米軍の全世界事前備蓄
 装備の事前陸上備蓄と海上備蓄
 功を奏した中東方面用の事前備蓄
 中東諸国の負担で造られた米軍事前備蓄施設
 事前備蓄の長所と短所
 威力を発揮した海兵隊の海上事前備蓄
 海兵隊の事前集積船部隊
 米陸軍と空軍の事前備蓄船部隊
 国家が保有する戦略海上輸送部隊
シー・ベイシング構想
 外国領の基地に依存しない米軍作戦の実現
 シー・ベース構成部隊
 MPF[F]に求められる機能
 コンテナ船改造型MPF[F]
各国が導入し始めた多目的ロジスティクス艦
 英海軍のロジスティクス艦船計画
 各国が導入を図る多目的艦
洋上補給と近代化上の問題
 グラマラスでなかった洋上補給
 現用洋上補給方式の問題点
 洋上移送量の増加とコンテナ輸送化
 トータルな洋上補給システムの改革
 コンテナ化
 洋上補給のコンテナ化における問題

第5章 軍事輸送システム
軍事輸送のパレット化とコンテナ化
 パレットのスマート化と暗視装置
 軍事ロジスティクスのコンテナ化
 緊急展開用コンテナと輸送システム
戦うトラック
 トラックへの緊急装甲防御対策
 トラックに装甲防御を施す難しさ
 トラックの装甲で先行した欧州
 人員輸送用防御コンテナと民間トラックの装甲防御
次世代の海上輸送システム
 高速輸送艦HSV
 陸海共通型JHSV計画とRSLS
 モジュール型コーズウェイ・システム
新しい航空技術と輸送システム
 限界に達した在来型大型機と新しい航空技術
 ハイブリッド型飛行船とチルトローター輸送機
 欧州の輸送型飛行船計画
 小型輸送機とC-130の後継輸送機
 垂直離着陸型大型輸送機
 無人輸送機
 パラシュート精密投下装置JPADS

第6章 これからの軍事ロジスティクス
ロジスティクス状況のリアルタイム把握
 スニーカー・ネットからの脱却
 ロジスティクス共通運用状況の把握(LCOP)
「感知と対応」型ロジスティクス
 センス・アンド・レスポンド
 能力を基本とする統合型ロジスティクス組織
無線タグの実用化と進歩
 RFIDタグの種類
 事前対策型ロジスティクス
 英軍とNATOにおくるRFIDタグの応用
 次世代アクティブRFIDタグの開発
各国軍隊の次世代ロジスティクス・システム
 米陸軍のロジスティクス近代化計画(LMP)
 英国防ロジスティクス機構の再改編
 イスラエル軍のロジスティクス組織改革

おわりに

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▽『何かのために』

一色正春『何かのために sengoku38の告白』(朝日新聞出版)

sengoku38 というハンドル・ネームの方が本名よりも有名な著者が、あの動画をなぜ、どうやって Youtube に投稿したかを綴ったもので、しごくまっとうな事を主張されています。本書の教訓は、情報は秘匿せずに公開すべし、ということに尽きると思います。

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2011.03.10

▽なぜシリコンバレーは繁栄しているのか――『現代の二都物語』

アナリー・サクセニアン『現代の二都物語 なぜシリコンバレーは復活し、ボストン・ルート128は沈んだか』(山形浩生訳、日経BP社)

本書の副題は、「なぜシリコンバレーは復活し、ボストン・ルート128は沈んだか」というものですが、この「ボストン・ルート128」とは、アメリカ東部のボストンを囲むように走る国道128号線のことで、アメリカ西部のシリコンバレーとともに、エレクトロニクスの技術革新を担ってきました。

タイトルの「現代の二都物語」とは、シリコンバレーとボストン・ルート128の二つの都市のことであり、なぜシリコンバレーが優位に立ち、ボストン・ルート128が没落していったのかを考察したのが本書です。

原著は1994年に上梓され、1995年に大前健一による邦訳が出版されましたが、絶版となったため、2009年にふたたび新訳として出版されました。

シリコンバレーにしろ、ボストン・ルート128にしろ、1970年代に隆盛をほこったものの、1980年代には、どちらも停滞期を迎えます。半導体製造企業の多かったシリコンバレーは、半導体メモリ市場を日本企業に奪われ、ミニコン・メーカーの多かったルート128は、ワークステーションやパソコンなどにユーザーを奪われていました。

しかし、本書の書かれた1990年代前半では、シリコンバレーは復活し、ルート128は沈んだままでした。それはどうしてか? というのが本書の中心テーマです。

著者は、ボストン・ルート128の企業は、一社ですべてを生産する垂直統合型を指向しますが、シリコンバレーの企業は、自社の得意とする製品や技術以外は、他社から調達する水平分業型を指向している、と指摘します。

ボストン・ルート128の企業は、自社技術にこだわるあまりに、技術革新のスピードについていけず、常に、複数の企業による最新技術のコラボレーションによって技術革新を進めていくシリコンバレーに敗れてしまいます。

そして、垂直統合を維持しようとして没落していったボストン・ルート128の企業は、日本のエレクトロニクス企業とも重なります。1990年代半ばに、本書の最初の邦訳判が出版された際には、日本の企業や自治体の関係者に与えたインパクは大きかったようで、日本にもシリコンバレーを創出させようとする試みはいくつもあったようです。しかし、そうした試みが、あまりうまくいっていないようなのが残念ですね。

[参考]
▽よくあるガラパゴス批判とは一線を画す
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2008/12/post-581c.html
▽なぜ負けたのか?――『日本「半導体」敗戦』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/12/post-b1e8.html
▽インテル・インサイドとアップル・アウトサイド――技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-feeb.html
▽iPodは何を変えたのか? を振り返る
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/02/ipod-7562.html
▽『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』が教えてくれたこと
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/12/post-b8b1.html

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2011.03.09

▽あの名画はどうなった――『消えた名画を探して』

糸井恵『消えた名画を探して』(時事通信社)

以前、『バブルの肖像』という本を紹介しましたが、

▽バブルの肖像
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/02/post-c9a1.html

その中で、参考文献として紹介されていたのが本書です。

昭和の時代、日本経済の興隆とともに、海外の美術マーケットにもジャパン・マネーが流れ込むようになり、世界的にも注目を集めるようになりました。しかし、日本人や日本企業が買い集めた美術品は、バブルの崩壊とともに、人目につかなくなってしまいます。

たとえば、1990年に日本人が8250万ドルの史上最高値で落札した『医師ガシェの肖像』は、2000年にアメリカの複数の美術館で開催されたゴッホ展では展示されませんでした。

《いわくのついてしまった高価な美術品については、売り手も書い手も取引を秘密裏に運ぼうとする。晴れて手に入れた新しい所有者も、いつまでも「〇〇年に〇〇ドルを記録した作品」と言われるのを嫌って表に出したがらない。》(p.6)

本書は、そんな消えた名画がいまどこにあるかを探し求めるルポですが、日本経済の消長を絵画を切り口にして描いた優れた経済史となっています。

[目次]
はじめに
 ゴッホ「肖像画」展になかった絵
 アートの「失われた十年間」
第l章 歴史は繰り返す
 日本人コレクターの原点
 「松方コレクション」の成り立ち
 「松方コレクション」その後
第二章 日本の美術マーケット、「ひまわり」前後
 「ひまわり」が日本人を変えた
 「ひまわり」以前、日本のマーケットのしくみ
 美術マーケットの民主化始まる
 不動産に投資するように絵に投資する
第三章 ロンドン、そしてニューヨーク――オークションの世界
 美術品のオークションとは何か
 近代的なオークションヘ
 日本人と欧米のオークション
 「ひまわり」落札のかげで
第四章 日本人は美女を奪った醜い金持ちの老人か
 悲しみの花嫁
 史上初、日本とパリを結ぶ衛星中継オークション
 「ピエレットの婚礼」日本へ
 その値段
 新しい持ち主
 各地を巡る
 日本オートポリス、暗転
 「ピエレットの婚礼」はどこへ?
 「レイク」
 「千代田生命保険」によるオートポリス・コレクション処理
第五章 ガシェ医師の冒険
 憂鬱な顔の男
 ガシェ医師とはだれか
 「医師ガシェの肖像」
 世界一・史上最高の値段
 「医師ガシェの肖像」を買ったのはだれだ
 斉藤「棺桶発言」の波紋
 消えたガシェ医師
 ゴッホとガシェ医師の人気、衰えず
 「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」
第六章 バブルがはじけ、スキャンダルが残った――史上最大の美術犯罪
 バブルはじける
 イトマン事件とは何か
 イトマン絵画取引の背後にあったもの
 「絵画取引」の犯罪性
 「イトマン絵画」の行方
 一九九二年冬、ニューヨーク
 二〇〇〇年春、再びニューヨーク
第七章 ワイエス・コレクションはどこへ
 ワイエスの「レヴィン・コレクション」
 オークション以前
 「レヴィン・コレクション」、ニューヨークに帰る
第八章 会社が消え、銀行が消えて、絵も消えた
 あの画廊はどうなった?
 名古屋の名門ディーラーシップ
 ミロを「カローラ」になぞらえた男
 一兆円の男
 イ・アイ・イの失速と「高橋コレクション」
 長銀の終わり
 「名画まとめ買い」のアイチ
第九章 日本の「焼け残り品」バーゲンセール、大繁盛
 二〇〇一年春、見覚えのある絵が……
 「焼け残り品」バーゲンセール
 「塩漬け絵画」とは何か
 「もう待てない」、美術品が日本を出ていく
 還流、始まる
 ピカソの名品がまたひとつ……
 コンテンポラリーアートも、印象派も
 一九九七年に起きていたこと
 福岡からサンフランシスコへ
 日本を去る伝統美術
 「処分」できるもの、できないもの
第十章 アルバカーキの素朴な疑問
 ニューメキシコ州、アルバカーキ美術館
 「氷漬け」絵画で展覧会を
 「絶対に不可能だ」
 素朴な疑問
 来歴(画歴)の問題
第十一章 消えた名画を探して
 名画は蒸発したのか
 秋葉原のダリ、磐梯に現る
 オートポリス・コレクションから県立美術館へ
 お得意様は公立美術館
 意外なところに、意外な絵が
 政府、対策を講じる
 落ち着き先は国立博物館
 二十一世紀、東京都の実験始まる?
 買ったけれども家がない
 青森県の「アレコ」
 大阪の百五十億円コレクション
 公立美術館、予算なし
 私立美術館がつぶれ始めた
 アートをレンタル、名古屋ボストン美術館に行く
 美術館へ行こう
第十二章 インターネットで世界が変わる
 アート・マーケットのネット革命
 マーケットの「民主化」再び
第十三章 美術マーケットの新世紀
 世界の二大オークション会社、スキャンダルに揺れる
 オークション会社、手数料談合スキャンダルの意味
するもの
 一方、東京では
 日本と欧米、世代交代の波
おわりに
 みんな美術館が欲しかった
 「ひまわり」は日本に永住するか
 美術品流出は必然の「トレンド」
 アートの新しい態度
 これからの美術マーケット

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2011.03.08

▽江青のその後

福島香織『危ない中国 点撃! 福島香織の「北京趣聞博客」』(産経新聞出版)

とりあえず、本書の長いタイトルを説明します。まず、「点撃」には「クリック」とルビが振られています。「福島香織」は、本書の著者であり、産経新聞の中国総局の記者です(2009年に退社)。さらに、「趣聞」は「こねた」で、「博客」は「ブログ」だそうです。

要するに、著者が北京にいた間に書いていたブログ( http://fukushimak.iza.ne.jp/blog/ )を、読者の反響も含めて再構成したのが本書ということになります(2007年発売)。

本書の八割近くもページが割かれているのが、中国における食の安全の問題です。中でも、ミンチ肉に段ボールを混ぜることでボリュームを増した「段ボール肉まん」を巡る騒動は記憶に残る事件です。さらに著者は、北京テレビによる「やらせ」と「謝罪」について、さまざまな推理を加えることで、中国における当局とマスコミの関係をかいま見せてくれます。

さて、本書の最後の方には、短いですが興味深い記事も掲載されています。それは、劉少奇の妻の王光美さんについてのルポで、王さんは、文革時代の1967年に逮捕され、文革が集結した1979年まで投獄されていました。

王さんが逮捕された背景には、毛沢東の妻の江青が、王さんに嫉妬したからではないか、と言われているそうです。王さんは、12年間の獄中生活を耐え抜きました。

一方、文革を主導した「四人組」の一人として裁判にかけられた江青は、1981年に死刑判決を受け、後に無期懲役に減刑されましたが、1991年に自殺したそうです。

[参考]▽紅衛兵とは何だったのか?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-a038.html

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▽紅衛兵とは何だったのか?

陳凱歌『私の紅衛兵時代-ある映画監督の青春』(刈間文俊訳、講談社新書)

唐亜明『ビートルズを知らなかった紅衛兵―中国革命のなかの一家の記録』 (同時代ライブラリー)

以前、レスリー・チャンの伝記を紹介しましたが、

▽レスリー・チャンの生涯が語るもの
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/08/post-c910.html

彼が主演した映画『覇王別姫』(邦題:『さらば、わが愛 覇王別姫』)の監督、陳凱歌が書いたのが『私の紅衛兵時代』です。

『覇王別姫』の中でも、文革時代の紅衛兵の暴れている様子が描かれていましたが、そもそも、どうしてああいった事態にいたってしまったのか? については、よくわからない部分もあります。

大躍進政策の失敗で失脚しかかった毛沢東が、紅衛兵というかたちで大衆を動員して行った権力闘争だった、というのが、まあ、通説といったところなんでしょうか。それでも、政治家の思惑だけで、そんなに大衆を扇動できるものなのか、という疑問も残ります。

唐亜明の『ビートルズを知らなかった紅衛兵』で描かれているのは、辛亥革命以降の唐一家の歴史であって、文革の時代についても、紅衛兵として活動した自分や兄弟、そして両親の受けた体験などを綴っています。

著者が、1989年に、二十年前に下放された村を訪問した際に、ある村人から言われた言葉は、印象に残ります。

《「あの文革では、被害者も加害者も区別できない。悪いこと全部を林彪と四人組のせいにするのはおかしい」》(p.353)

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2011.03.07

▽『ジミーの誕生日』

猪瀬直樹『ジミーの誕生日 アメリカが天皇明仁に刻んだ「死の暗号」』(文藝春秋)

ジミーとは、いまの天皇が皇太子の頃に、英語の授業の時に、先生からつけられた呼び名である。1948年のジミーの誕生日には、巣鴨プリズンにおいて、東条英機ら、いわゆるA級戦犯が、絞首刑に処せられた。

この事実の背後には、将来、天皇誕生日となる日に、死の刻印をするという、マッカーサーの意図があったのではないか、という説を検証しています。

[参考]▽ワシントンハイツ――アメリカ人と日本人が遭った時
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/01/post-4cf9.html

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2011.03.04

▽『ザッポス伝説』

トニー・シェイ『顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか』(本荘修二監訳、ダイヤモンド社)

本書は、ノンフィクションのビジネス書として売れてるようなので読んでみました。

まず、著者のトニー・シェイは、アメリカ生まれアメリカ育ちの台湾系アメリカ人。両親は、台湾からの移民だそうです。

ハーバード大学でコンピュータ・サイエンスを学び、オラクルに入社。オラクルに在職中に、ウェブサイトを連携させるネットワーク広告システム会社のリンクエクスチェンジを設立。このリンクエクスチェンジは、1999年にマイクロソフトに2億6500万ドルで買収されました。この当時、トニー・シェイは、まだ24歳だったそうです。

さらに、同じ年に、本書のタイトルにもなっているオンライン靴屋のザッポス( http://www.zappos.com/ )の創業にかかわります。このザッポスも、年商10億ドルにまで成長させ、2009年に、アマゾンに12億ドルで買収されます。

本書は、トニー・シェイの生い立ち、ザッポスの成長過程について、ザッポスのビジョンの三部からなっています。

もともとトニー・シェイのブログや電子メールなどをまとめたもののため、ちょっとまとまりに欠いている嫌いはあります。また、そもそもザッポス自体が日本ではサービスを行っていないこともあって、本書で初めてザッポスのことを知った人には、わかりにくい点もありますね。

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2011.03.01

▽奥田英朗の『最悪』は、ホリエモンの『成金』と比べてみると面白い

奥田英朗『最悪』 (講談社文庫)

ずいぶんと前に買ったまま本棚の奥に眠っていた奥田英朗『最悪』をひょんなことから読み始めて、あることに気がついたので、書いてみます。

読んだのは文庫判だったのですが、『最悪』の単行本が上梓されたのが1999年ですから、小説の舞台は、まあ、バブル崩壊後の1990年代後半といったところ。

三人の登場人物が、それぞれ最悪の境遇に追い込まれていくところがストーリーの骨格をなしています。

ネタバレにならない程度に、三人を紹介すると、川谷信二郎は川崎で町工場を経営している40代の男、藤崎みどりは、川谷の住んでいる地区にある銀行の支店で窓口業務をしているOL。そして、無職のチンピラである野村和也。

川谷の経営する町工場は、大手メーカーのひ孫請けくらいの存在で、バブル崩壊後の不況の中で、さまざまな問題を抱えています。そんな中で、川谷は、少しだけ自分の会社を大きくしようという夢を持ったことから、逆に、歯車は悪い方へ悪い方へと回り始めます。

また、銀行につとめる藤崎みどりは、古くさい体質の残る銀行でトラブルを抱え、悩み、そして最悪の事態に巻き込まれてしまいます。

無職のチンピラについてはおいておきますが、上記の二人は、製造業と金融という、かつての日本における花形産業のまっただ中にいた二人なわけです。そして、その二人が、必ずしも本人の責任とはいえないようなトラブルに巻き込まれてしまいます。特に、川谷は、昔だったら町工場の経営者が普通に抱いたはずの夢が、つまづきのきっかけとなってしまいます。

しかも、トラブルの原因を作った人たちに、大きな罰が与えられて終わるというカタルシスもなく、主人公の三人も、最悪の事態は免れたかもしれないが、かといって、ハッピーエンドでもない、という煮え切らない結末を迎えます。

1999年に発売された本書が話題になり、ベストセラーになったことを知ると、これが当時の時代の気分だったのかなあ、と思わざるをえません。要するに、「もう坂の上の雲は無いから夢を見るな、だけど、そう簡単に最悪に陥ることも無いんだよ」といったような……。

ところで先日、当ブログでは、ホリエモンこと堀江貴文の『成金』を紹介しました。

▽『成金』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/02/post-cdea.html

この『成金』を、『最悪』と比較してみると、非常に面白い。

まず、『成金』も、1990年代後半が舞台で、主人公たちは、だまされて、自分たちの作った会社の経営権を失います。しかし、彼らは、そんなことにはへこたれず、自分たちをだました相手に対しては、きっちりと仕返しをしようとします。さらに、『成金』の主人公は、ITビジネスという「坂の上の雲」を見据えたところで終わります。

もちろん『成金』も小説ですが、1990年代後半から2000年頃のIT業界の時代の空気は、かなりうまく再現できていたと思います。『最悪』に漂うドンヨリとした気分と、『成金』に貫かれている爽快感の違いは、おそらくは描かれている業界、つまり製造業+銀行業とIT業界の違いとも言えます。

同じ日本の同じ時代を描いているのに、業界によって、ここまで感じ方が違うのかを味わえる好対照な二冊といえますね。

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2011.02.28

▽ユニオンジャックの政治パワーを探る

河合宏一『ユニオンジャックの政治パワー』(日本経済新聞出版社)

本書は、2006年から2009年にかけて、ロンドンの日本大使館に派遣されていた自治官僚が、イギリスの政治状況をまとめたもの。内容的には、アカデミックな研究書ではなく、新聞や雑誌の記事よりもディティールが詳細といった程度の内容。

ちょっと気になったのは、イギリス議会の二つの院 House of Lords と House of Commons を、上院、下院と表記している点。普通は、それぞれ貴族院、庶民院と訳すはずなのですが……。わかりやすさを優先したのかもしれませんが、名は体を表すと言いますからね……。

最近の日本の政治との関連で言うと、第5章の政治制度改革が興味深いですね。ブレア首相による上院(貴族院)改革、スコットランドやウエールズに議会を創設する地域分権、大ロンドン市の創設などなど。

こうやってみると、日本でも参考に出来る部分もあるかな、と思うのですが、その一方で、その国の歴史的な経緯を踏まえずにかたちだけで真似ても、駄目なのかな、とも思ったりします。

[目次]
第1章 頻繁に起こる政権交代―下野するリスクがあるから政治は活性化する
第2章 地盤・カバン・看板不要―誰にでも門戸が開かれている政治家への道
第3章 官僚の出る幕なし―政治主導を可能にする統治機構
第4章 議会前日は閣僚が徹夜で猛勉強―活発に論戦が展開される議会
第5章 やると決めたら誰にも文句は言わせない―スピード感を持った改革の推進
第6章 地域主権の推進―自分たちの地域のことは自分たちの手で
第7章 子供が増える英国社会 ―ワークライフバランスの重視
第8章 英国政治システム・6つの泣き所
第9章 英国政治システムの基礎知識

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2011.02.26

▽『成金』

堀江貴文『成金』(徳間書店)

ホリエモンこと堀江貴文によるITビジネス小説の第二弾。『成金』は、前作の『拝金』の続編というか前日譚で、2000年前後のITバブルの時代を舞台にしています。

小説としてみた場合に、時間が行ったり来たりして、ちょっと読みにくい部分もあります。また、盛り込まれている情報自体も、知ってる人は知ってる話も多かったかな、と思いますが、それでも、中盤からは、なかなか面白く読むことができました。

中でも、興味深かったのは、ハードバンク、LIGHT通信、そして、サメジマ・インベストメント・フィナンシャル(SIF)の三角関係(あえて、どこがモデルとは書きませんが……)。

あ、そういうことだったのか……と、当時、不可解だったことが、なんとなく、あくまでも、なんとなくですが、理解できたような気がします。

[参考]▽『拝金』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/06/post-a29a.html

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2011.02.21

▽バブルの肖像

都築響一『バブルの肖像』(アスペクト)

昭和のバブルの名残を辿る本書は、2006年に刊行されたもので、ちょっと内容は古いのですが、それでも、「ああ、こんなのあったなぁ」と、ちょっとした感慨に浸ってしまいます。

なかでも、「そういえば、あれどうなったっけ?」と興味深く読んだのが、屋内スキー施設のザウス。千葉県の船橋に、バブル崩壊後の1993年というタイミングの悪い時期に開業したザウスは、2002年9月に営業を終了し、2004年には解体されてしまったそうです。

跡地は、スウェーデンの家具販売のIKEAの店舗となったそうです。ま、一度も行ったことはないし、「あんなもんうまくいくばすないだろう」と端から思ってはいましたが、跡形もなく無くなってしまうのも、なんだか淋しい気もしましたね。

[目次]
ジュリアナ東京
ボジョレ・ヌーボー
ティファニーのオープンハート
アッシー
メッシー
ミツグ君
ゴルフ会員権
地上げ
NTT株
1億円ふるさと創生交付金
タクシー券
財テク
チバリーヒルズ
青田買い就職
ボディコン
ワンレン・ソバージュ
私をスキーに連れてって
社用車はフェラーリ
自家用ボーイング
湾岸ウォーターフロント
空間プロデューサー
ミス・ミナコ・サイトウ
アッパー・ロウアー
マル(金)マル(ビ)
企業メセナ
タイユバン・ロブション
宮崎シーガイヤ
ゴッホの「ひまわり」
歌う不動産王
CIブーム
E電
10万円金貨
ギーガー・バー
財界二世学院
ハウステンボス
テーマパーク
ホンダNSX
地方博ブーム
エンパイアステートビル&ロックフェラーセンター買収

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2011.02.18

▽官僚のレトリック

原英史『官僚のレトリック―霞が関改革はなぜ迷走するのか』(新潮社)

本書は、自民党政権時代に、官僚として、公務員制度改革に関わった著者が、「なぜ改革が失敗したのか」について、自民党の安倍、福田、麻生時代を中心に、鳩山民主党政権を含めて概観する。

私が、この手の本を読むと、かならず気になるのが、本格政権だったはずの安倍政権は何を間違えたのか、という点。

本書のタイトルでもある官僚のレトリックについて、著者は次のように喝破している。

《総理や大臣が、官僚の用意した演説原稿に沿って公の場で発言すると、後になって、その中に、深い意味のあるフレーズが埋め込まれていたことが分かる。そのフレーズを前提として進んでいくと、必然的に不本意な方向に向かわざるを得ない。しかし、そのときは既に、公の場で発言してしまっているから、もう引き返せない。》(pp.82-83)

安倍政権ではどうだったか。

政権発足後の2007年1月の施政方針演説では、天下りに関して、「予算や権限を背景とした押し付け的な斡旋による再就職を根絶」すると発言した。安倍首相は、この時点で、すでに罠にはまっていたと著者は指摘する。

この施政方針演説では、根絶するのは天下りの「押し付け的な斡旋」であり、そんなものは始めから存在しない。そして、「押し付けでない斡旋」は、これまでどおり続けることを意味している。これが「官僚のレトリック」である。

この後、渡辺喜美行革担当大臣が巻き返しをはかり、公務員の再就職斡旋を各省斡旋ではなくして、一元化する「官民人材交流センター」と、それを監視する「再就職等監視委員会」の設立にこぎつける。しかし、この二つの組織は、2008年12月の発足を前に、麻生政権下で骨抜きにされ、さらに鳩山民主党政権によって葬りさられる。

この間のプロセスを、著者は、「官僚のレトリック」も含めて詳細に解説しているが、正直なところ、読んでいてうんざりするだけである。官僚がこれだけ抵抗するところをみると、逆に、ここが本丸だったのだな、とも思わざるを得ない。安倍政権は、間違えたわけではなく、まさしく本丸に切り込んだが故に、消えた年金問題や閣僚の事務所費問題を仕掛けられて葬り去られたのではないか、とさえ思えてくる。

さて、公務員改革という理念は、渡辺喜美ひきいる「みんなの党」に引き継がれており、この点に関しては、総選挙も近そうなことだし、大いに期待したいところである。

[参考]
▽小泉純一郎が本当にぶっ壊したものとは?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2008/10/post-fb1b.html
▽なぜ自民党は大敗したのか?――曲解された世論を読み解く
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/01/post-d9ca.html
▽二大政党制批判論
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/05/post-28ff.html
▽参議院とは何か
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/02/post-d002.html

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2011.02.16

▽人口問題を供給面から考える――『人口負荷社会』

小峰隆夫『人口負荷社会』(日経プレミアシリーズ)

2010年に売れた経済書といえば、藻谷浩介『デフレの正体』があげられるだろう。

▽日本経済の正体(1)――『デフレの正体』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/10/post-ae95.html

『デフレの正体』は、2010年6月に発売され、発売当初はほとんど売れなかったが、9月に入ると突然売れ出して、いまや50万部を超えるベストセラーになっている。『デフレの正体』は、ここ二十年ほどの景気の停滞を、人口問題の需要面から考察している。

同じ頃に発売された小峰隆夫『人口負荷社会』は、人口問題を供給面から考察している。『デフレの正体』とあわせて読むことをお薦めする。

ところで『人口負荷社会』において、一般の人には皮膚感覚でわかりにくいところがあるとすれば、人口が減ると市場規模が縮小するという「人口減少=市場規模縮小論」を「錯覚」として反論する部分。

《人口が減ると日本人全体の食事回数は減り、学生の数も減る。すると、確実に食品市場、教育市場規模は縮小するように思われる。しかしこれは量の話である。量が減ったからといって、食品業界、教育業界のマーケットが縮小するとは限らない。質(付加価値)が高くなる可能性があるからだ。》(p.126)

続けて、

《例えば、日本人全体の食事の総回数が減っても、1回当たりの食費が増えれば食品マーケット全体の規模が縮小するとは限らない。》(p.126)

とする。

しかし、「1回当たりの食費が増える」かどうかは、はっきりしないし、増えていない、と感じている人も多いのではないか。この点が、一般の人の「腑に落ちない」部分かもしれない。

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2011.02.15

▽七人の侍と現代

四方田犬彦『『七人の侍』と現代――黒澤明 再考』(岩波新書)


現在では、日本を代表する傑作映画とされている『七人の侍』だが、公開当時の日本では、むしろ批判の方が多かったという。

評論家の多くは、「世界観の暗さと百姓への蔑視」(p.197)を問題視したという。当惑と失望が支配的な論調の中、自衛隊の必要性を説いた映画として、自民党の内部でだけは絶賛されていたという。

『七人の侍』が世界的に評価されるようになったのは、1954年のヴェネツィア国際映画賞で銀獅子賞を受賞してからのことだった。

本書は、日本においては、すでに過去の作品となっていながら、戦乱の傷跡が深いパレスチナやセルビア・モンテネグロでは、いまなお現在進行形の作品として受け止められている『七人の侍』を、もう一度捉えなおそうとする試みである。

『黒澤明「七人の侍」創作ノート』(文藝春秋)もあわせて読まれたい。

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2011.02.11

▽参議院とは何か

竹中治堅『参議院とは何か 1947~2010』(中公叢書)

本書は、最近の日本政治の焦点の一つである「参議院」に焦点を当てたものである。

日本政治史において、参議院は長らく衆議院の「カーボンコピー」とみなされてきたものの、衆参ねじれ国会という事態になると、むしろ「強い参議院」が問題とされる。

これらの「カーボンコピー」論と「強い参議院」論という二つの大きく相反する論を、参議院の成立した1947年から2010年にかけて、通史的に検証したのが本書である。

戦後の憲法で定められている日本の制度では、衆議院の多数派が内閣総理大臣を指名するため、内閣(政府)と衆議院(立法府)が一体的な関係にある。その一方で、参議院は、内閣とは距離を置いた独立した存在となっている。

このため、歴代の内閣総理大臣は、参議院における多数派の確保に腐心させられることになる。ねじれ国会はもとより、ねじれていない場合でも、内閣が参議院に振り回されることもある。

たとえば小泉純一郎の跡を継いだ安倍内閣では、郵政選挙の後に離党させられた造反議員を復党させたが、これは2007年の参議院選挙を控えていた参議院自民党の要請によるものだった。

2006年の時点では、衆参ともに自公で多数派を占めていたにもかかわらず、造反議員の復党を認めた途端、安倍内閣の支持率は下がり始め、年金問題や閣僚の事務所費問題などの追い討ちもあって、参議院選挙では惨敗して、ねじれ現象をもたらし、安倍の辞任にもつながった。

三権分立があいまいな議院内閣制において、実は「強い参議院」が立法府の独立性を保っていたとみることもできるだろう。

ただし、著者も指摘しているように、一票の格差の問題や、何を代表しているかが明確になるように参議院という制度は見直される必要があると思う。

[参考]
▽小泉純一郎が本当にぶっ壊したものとは?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2008/10/post-fb1b.html
▽なぜ自民党は大敗したのか?――曲解された世論を読み解く
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/main/2010/01/post-d9ca.html
▽二大政党制批判論
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/05/post-28ff.html

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2011.02.10

▽コロンブスが発見する前のアメリカ大陸は思ったよりも繁栄していたらしい

チャールズ・C. マン『1491―先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見』(布施由紀子訳、NHK出版)

先日、コロンブスがアメリカ大陸を発見した時の同時代世界史『1492 コロンブス 逆転の世界史』を紹介しました。

▽逆転の世界史
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/01/post-4c9e.html

今回、取り上げる本書のタイトルは『1491』。とある場所で見かけた時、「おや? 見間違えたかな?」と思いましたが、「1491」で見間違いではありませんでした。

一般に流布しているイメージは、コロンブス以前のアメリカ大陸は、狩猟部族が中心の動物の楽園であった、というものです。

しかし、本書の著者によれば、実際には、ヨーロッパよりも多くの人口を持ち、たくさんの都市があり、多様な言語や文化を擁していた、という研究結果が、1990年代に多数発表されたそうです。

そして、多様な文化を持っていったアメリカ大陸の先住民たちが、ヨーロッパからの移民たちによって支配されていった最大の要因は、武力ではなく、ヨーロッパ人によってもたらされた「肝炎」や「天然痘」などの病気だった、という事実を提示します。これらの病気に対する免疫がなかったために、アメリカ大陸の先住民の人口は90%以上も減ってしまった、との推計もあるようです。

目からウロコの落ちるような歴史的事実を突きつけられるとともに、先住民が失ったものは、これまで考えられていたよりも、ずっと大きかったのではないか、という問題を、本書は提起しています。

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2011.02.09

▽逮捕されるまで、どうやって働いたか?

市橋達也『逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録』(幻冬舎)

言わずとしれたアノ人の逃亡記。本書が発売されると聞いて、もっとも関心が沸いたのは、逃亡中に、どうやって働いてお金を貯めたのか? という点。

まず沖縄では、フリーぺーパーの求人誌を手に入れて、ある会社に電話をかけたが、携帯電話が必須であることを理由に断られる。そこで別の働き口を紹介してもらうが、そこでも雇ってもらえず、さらに別の働き口を紹介される。ようやくそこで、リゾートマンションの建設現場で働かせてもらう。「神奈川から来たひきこもり」と自称したが、特に、身元の確認はなかった。

続いて、身元がばれることを恐れ、沖縄から大阪に移り、西成のハローワーク脇に止まっていたバンに乗り込んで、つれられていった神戸の飯場で働いた。ここで80万円貯めたが、テレビで逃亡者に関する番組が放映されたことをきっかけに、また逃亡する。

そして、沖縄と大阪を行ったり来たりする日々が続く。お金を貯めていたのは整形するためだったというが、飯場で働く人は訳ありの人が多く、名前や身元などを詐称しても、特に追求されることはなかったようだ。

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2011.02.08

▽裁判官もツライよ

長嶺超輝『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)

長嶺超輝『裁判官の人情お言葉集』(幻冬舎新書)

裁判官の書く判決文といえば、難しい法律用語の固まりと思いきゃ、スタイルの決まった文章の中に、自分自身の感想を混ぜることもあるという。そうした判決文の中から、笑えるものや、泣けるものを集めたのが、この2作品。面白く読みましたが、まあ、特にコメントはありません。

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2011.02.01

▽KITANO

ミシェル・テマン『Kitano par Kitano 北野武による「たけし」』(松本百合子訳、早川書房)


本書は、北野家の近所に住んでいたフランス人ジャーナリスト、ミシェル・テマンが、「ビートたけし」こと北野武に、2005年から2009年にかけて行った、四十数回のインタビューをまとめたものです。通訳は、あのゾマホンがつとめたそうです。

《日本人にとっては、北野はまずなによりもテレビでおなじみの顔だ。……それに反して海外での北野といえば、すぐさま映画に結びつく。同世代の人々と一線を画す、時として価値観を翻すこともいとわない監督、アジアの映画人のひとりとして成功を手にした比類なきアーティストとして知られている。》(pp.22-23)

ビートたけしの伝記は、自伝や、真偽があいまいなものも含めて多数出版されていますが、相当に長い時間をかけてインタビューをしたものは、本書以外にはないと思います。

知ってる話も多いので、特に論評することもないのですが、残念なのは、原著がフランス語の点でしょうか。英訳されないと、国際的にはアピールしないんですよね、やはり。

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2011.01.31

▽逆転の世界史

フェリペ・フェルナンデス‐アルメスト『1492 コロンブス 逆転の世界史』(関口篤、青土社)


《思うに、筆者が専門とする研究分野での私の生涯で起きた最大の変化は、私たち歴史家が出来事の起源を長い期間にわたって探るという営為を、多かれ少なかれ放棄したという事実である》(p.383)

最近、スペインが経済危機に陥り、失業率も20%を超えるなど、大変な状況に陥っていることが報じられています。

しかし、本書を見かけて、「そういえばスペインは世界に覇を唱えていた時期もあったよなあ」と思い、手にとってみました。

著者によると、紙と印刷による情報の伝達、火薬を使った兵器、石炭を使った溶鉱炉、紙幣、科学的経験主義などは(つまり、情報通信、軍事、工業、金融、科学など)は、すべて中国に起源があるとされています。

しかし、これらの要素を結びつけて世界的なイニシアチブをとったのは、キリスト教ヨーロッパであり、その転換点は1492年のコロンブスによる、アメリカ大陸の発見だった、としています。

本書は、1492年の世界はどのような状態にあったのかを、地域別に見ていくという画期的な歴史書です。当時の日本はといえば、室町時代の末期、戦国時代の幕開けの時期で、北条早雲が小田原攻略をした段階です。

世界的には取り残されていた感はありますが、むしろ、この時期に、「発見」されなかったことは幸いだったのかもしれません。

ところで、ちょっと雑学読み物風で、ややまとまりにかける嫌いのある本書から、あえて何かの教訓を学び取るとしたら、さまざまな要素を効率よく結びつけることができたならば勝ち残れる、ということかもしれません。

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2011.01.28

▽ケネディを殺した副大統領

バー・マクラレン『ケネディを殺した副大統領』(赤根洋子訳、文藝春秋)

歴史ミステリーといえば、1963年にアメリカで起きたケネディ大統領の暗殺も、大きな謎を残しています。

ミステリー小説を読む上でのセオリーの一つに、誰が得をしたかを考えれば、おのずと犯人はわかる、というものがあります。そして、ケネディ大統領の暗殺で得をしたのは誰かと言えば、選挙を経ずして大統領となった、ジョンソン副大統領の名前が挙がります。

本書は、ジョンソン副大統領がケネディ大統領暗殺の黒幕であった、との立場にたって、それを論証していきます。

訳者あとがきによると、アメリカ国内においては、ジョンソン関与説自体は珍しいものではないそうですが、それは「事前に知っていた」程度のこととされていました。

しかし、本書の著者バー・マクラレンは、ジョンソン副大統領の顧問弁護士の一人であり、政治家としてのジョンソンの悪辣な相貌とともに、ケネディ暗殺の真実を明らかにしていきます。

ジョンソン黒幕説の真偽はさておいても、ジョンソン副大統領という地味な存在が体現するアメリカ政治の裏側は興味深いものがあります。

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2011.01.27

▽『東洲斎写楽はもういない』

明石散人『東洲斎写楽はもういない』(講談社)

本書は、歴史上のミステリーの一つ、浮世絵師の写楽の正体は誰か? に迫っている。

本書は、1990年に出版され、文庫化されたものに、図表などを増補して、2010年末に再刊行されたものである。

『写楽殺人事件』で知られる作家の高橋克彦が、本書の解説を書いているが、写楽の正体については、三つの解答群があるという。一つ目は、写楽別人説。写楽は、別の絵師のペンネームであり、高橋の秋田蘭画説もこの範疇に入る。二つ目は、写楽工房説で、複数の絵師が共同で写楽として浮世絵を描いていたという説。

そして三つ目が、写楽イコール写楽説。これは、写楽は写楽以外の何者でもない、という立場で、写楽の人となりにはあまり関心を払わない。

以上の三つの説は、いずれも写楽は、基礎資料には残されていない誰かであろう、という前提に立っている。 しかし、本書の著者である明石散人は、これらとは異なる立場をとっている。

《明石さんは写楽を他のだれかであるとは書いていない。もちろん、何人かが集まったプロダクションでもない。基礎資料に書かれてあるままの斎藤十郎兵衛が写楽だったと主張している。》(p.387)

そして、高橋は「もはや写楽探しゲームは終了した」(p.389)と宣言する。

なるほど、これは凄い本に違いないと読み進めていたのですが、どうも、著者である「明石散人」と名乗るY氏とは別に、文章の書き手としての「私」が登場するなど、本書も、ミステリー仕立てになっていて、実は、解説も含めて、読者を、煙に巻くお遊びなんじゃないかとすら思えてきます……。

ま、日本史ミステリーは奥が深すぎて、私には、本書の説の真偽ははかりかねるというのが正直なところです。

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2011.01.26

▽『モグラびと ニューヨーク地下生活者たち』

ジェニファー・トス『モグラびと ニューヨーク地下生活者たち』(渡辺葉訳、集英社)

「モグラびと」とは、ニューヨークの地下にある、使われなくなった地下鉄の駅やトンネルなどに住む人たちのことです。ニューヨークの地下には5000人もの「モグラびと」がいると推計されています。

本書は、ジェニファー・トスという女性ジャーナリストが1993年に発表したもので、日本では、1997年に邦訳が出版されました。

どうもニューヨークでは1980年代から「モグラびと」が増えつつあったようで、本書は、その事実を白日のもとにさらしました。情報は、ちょっと古いですが、「モグラびと」の驚愕の生態が明らかになり、いろいろと考えさせられます。

実は最近アマゾンのノンフィクション・ランキングを見ていたら、どういう訳か本書がランキング上位に入ってるのに気がついたので紹介しておきます。お薦め。

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2011.01.25

▽ビートルズ都市論

福屋利信『ビートルズ都市論―リヴァプール、ハンブルグ、ロンドン、東京』(幻冬舎新書)

リヴァプールで生まれ、ハンブルグでバンドとしての経験を積み、ロンドンでレコード・デビューしたビートルズの、それぞれの都市との関係をメンバーの証言などをもとに考察したもの。

なかでも、もっとも興味深かったのは、第三章で考察されているロンドンとの関わり。ジョン・レノンは、「僕たち北部人は南部、すなわちロンドンの人たちからはアニマルと見下されていたんだ。」(p.143)と、また、ジョージ・ハリスンは「駆け出しの頃、ロンドンのバンドからさんざん言われたよ。ウォトフォードから10キロ北はすべてクズだって。」(p.144)と語っている。

ロンドンでのビートルズは、プライベートにおいても、音楽というビジネスにおいても大きな変化を経験した。

《ロンドンで、グループとしてのビートルズは、階層の壁を越えてとてつもない社会的成功を手にしたが、個人生活では階層の壁に跳ね返され、かけがえのない大切な部分を失いもした》(p.197)

第四章は、日本の読者を意識してか「ビートルズと東京」となっているものの、「ビートルズとアメリカの都市」が無いのはやはりおかしい。

[参考]
▽シビックプライド――ヨーロッパにおけるケーススタディ
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/12/post-d65f.html

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2011.01.24

▽エンパイア――横井秀樹のその後

ミッチェル・パーセル『エンパイア』(実川元子訳、文藝春秋)

エンパイア・ステート・ビルと言えば、1933年の映画『キング・コング』にも登場するアメリカを象徴する摩天楼の一つ。

そして、そのエンパイア・ステート・ビルを買収したのが、日本人の横井秀樹だったということはあまり知られていない。

横井秀樹といえば、1982年に発生したホテル・ニュージャパンの火災で、33人の死者を出したことで、ホテルのオーナーとしての責任を国会で追及された。

その後、横井は、業務上過失致死傷罪で逮捕・起訴された。一審で有罪判決が下された後、横井は自分の資産を海外に移すことを考え始めていた。そして、エンパイア・ステート・ビルが売りに出されていたことを知ると、密かにそれを購入した。1991年のことである。

艶福家としても知られる横井には、「十七人かそれ以上」の子供がいた。そして、1993年に最高裁で実刑判決が確定し、1994年に収監されると、エンパイア・ステート・ビルの所有権を巡って、その子供たちの間で、骨肉の争いが繰り広げられた。

本書は、その顛末をアメリカ人ジャーナリストのミッチェル・パーセルが取材したものでエンパイア・ステート・ビルの歴史書、横井秀樹の伝記としても読める。原著は2001年に、邦訳は2002年に出版されている。

意外なところで意外な日本人が活躍(?)していたことを知ることのできる貴重な一冊である。

[参考]▽『9・11の標的をつくった男』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/10/911-fa72.html

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2011.01.23

▽リーマン・ショックへと至る道――世紀の空売り

マイケル・ルイス『世紀の空売り』(東江一紀訳、文藝春秋)

本書で描かれているのは、2007年8月のサブプライム・ショック、2008年9月に起きたリーマン・ショックを予見して、大金をせしめた人たちのストーリーである。

タイトルの「世紀の空売り」は、原題の"The Big Short"を訳したものだが、なんだか株の空売りをイメージさせてしまい、適切ではないのかもしれない。彼らが、ショート、つまり売りポジションを持ったのは、アメリカの金融システムそのものだったのだから。

本書に登場する人物を紹介しよう。

まず著者のマイケル・ルイスは、1980年代後半に投資銀行に働き、その後、ジャーナリストに転進した。銀行員の時の体験を書いた『ライアーズ・ポーカー』は、世界的なベストセラーになった。そして、ライアーズ・ポーカーにおいては、その頃始まった住宅ローンの証券化が描かれており、これが本書の主役でもあるサブプライム・ローン債への伏線にもなっている。

次に、スティーヴ・アイズマン。証券会社のアナリストとして1997年にサブプライム・ローン会社に批判的なレポートを公開した。その後、独立して投資ファンドを設立したアイズマンは、2005年に大手の投資銀行がサブプライム・ローンの泥沼にはまり込んでいることに気づき、これを「ショート(空売り)」することを思いつく。

続いて、投資家のマイケル・バーリ。サブプライム・ローンの証券化商品の投資目録を読み込んでいくうちに、2005年に融資されたサブプライム・ローンは、2007年に破綻する可能性が高いことを予見する。そして、バーリは、サブプライム・ローンが破綻した場合の損失を補償してくれるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を買い始める。

そして、グレッグ・リップマン。ドイツ銀行でCDSの販売をしていたリップマンは、2005年11月に、サブプライム・モーゲージ債のCDSを所有するギャンブルに賭けたい、という気持ちが浮かんできた。

そして――。

彼らが予見してきた通りのことが2008年9月に起きた。

『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』の序章として読むと非常に面白いでしょう。

[参考]
サブプライムローン問題は、今のところ、それほど大騒ぎする必要はないんじゃないか、と私が考える理由
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2007/09/post-eca6.html
▽『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/10/post-a65f.html
「大恐慌」を覚悟したほうがいい……のかも
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2009/09/post-d5fe.html
▽アメリカ人はいかにして嘘つきになりしか?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/01/post-d711.html
▽オバマ・ショックとは何か?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/10/post-a9ac.html

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2011.01.21

▽ワシントンハイツ――アメリカ人と日本人が遭った時

秋尾沙戸子『ワシントンハイツ―GHQが東京に刻んだ戦後』(新潮社)

ワシントンハイツ( Wshington Hights )とは、第二次大戦後に日本を占領した米軍兵士たちのために、GHQの命令によって東京・代々木に作られた住宅群のことである。

ちょうど渋谷、原宿、代々木公園、参宮橋の4つの駅で囲まれる菱形の広大な土地で、明治神宮に隣接している。ワシントンハイツができる前は、日本軍の「代々木練兵場」であったが、終戦後は、そのまま米軍のための居住地に転用された。

そして、昭和三十九年に開催された東京オリンピックの選手村が建設されるのを機に、ワシントンハイツは日本に全面返還されて、現在は、代々木公園、国立代々木競技場、NHKとなっている。

本書は、第二次大戦末期から、ワシントンハイツ返還までの代々木周辺の人々の生活を中心に叙述したもので、日米の文化比較論としても読める。

一つ一つのエピソードは、とても興味深く、意外な事実も掘り起こされていて面白いのだが、ちょっと残念なのは、大枠のストーリー、つまりテーマに当たるものが浮かび上がってこない点かもしれない。

[目次]
帝国アメリカの残像
青山表参道の地獄絵図
ある建築家の功罪と苦悩
「ミズーリ」の屈辱
乗っ取られた代々木原宿
オキュパイド・ジャパン
かくて女性たちの視線を
GHQデザインブランチ
まずは娯楽ありき
有閑マダムの退屈な日々
尋問か協力か
GHQのクリスマス
立ち上がる市民たち
諜報部員「ニセイ・リンギスト」
アイドルの誕生
瓦解したアメリカ帝国
そして軍用ヘリは舞い降りる
視界から消えた「占領」
あとがき

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2011.01.19

▽フェイスブックの本質とは

デビッド・カークパトリック『フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)』(日経BP社)

最近いろいろなところでフェイスブックが話題になっています。いまいちどういうものかわからないので、本書を読んでみました。

まあ、本書については、すでに、いろいろなところで話題になっていますが、フェイスブックの立ち上げから拡大・発展の節目節目の出来事や、それにどう考え、対処していったかが詳述されています。フェイスブックというサービスや、フェイスブックという会社、そして、創立者のザッカーバーグに関心のある方は読んでみて損は無いと思います。

ところで、フェイスブックとはなんぞやという問いに、ヒントを与えてくれた部分があります。2006年9月に、「ニュースフィード」というサービスがフェイスブックに加わりました。

《今まで自分に関する情報を誰かに伝えたい時には、自らプロセスを始める、すなわち電話をかけたり、手紙やメールを送ったり、あるいはインスタントメッセージを使って会話するなど、相手に何かを「送る」必要があった。
 ところがニュースフィードはこのプロセスを逆転させた。誰かに自分に関する通知を送る代わりに、フェイスブックで自分について何かを書くだけで、その情報に興味を持ちそうな友だち宛にフェイスブックが送ってくれる。誰に送るかは、過去に相手が何に興味を持ったかに基づいてフェイスブックが計算する。》(p.281)

この「ニュースフィード」というサービスは、勝手に友達に自分の情報が拡散されてしまうこともあって、スタート当初は、ユーザーからの反発にあってしまいます。しかし、「ニュースフィード」のスタート前とスタート後を比べると、開始後にはフェイスブックへのアクセス時間が急増したこともあって、多少の微調整を行いましたが、「ニュースフィード」はそのまま継続され、いまでは人気のサービスとなっています。

メディア論的には、何かを「送る」から、「フェイスブックが送ってくれる」への変化がポイントとなるのでしょうが、私はむしろ、引用部の最後の「誰に送るかは、過去に相手が何に興味を持ったかに基づいてフェイスブックが計算する。」が引っかかります。

要するに、誰かのニュースフィードが自分の所に届いても、それがその人の情報のすべてではないかもしれない、という飢餓感や、情報の不完全性が、逆に、誰かに対する関心をより大きくかき立てる結果につながっているのではないか、と思います。

これはフェイスブックというよりも、インターネットが持ってる本質的なものなのかもしれませんね。

[参考]▽『小説家という職業』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/07/post-b8f1.html

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2011.01.15

▽パチンコとアニメの微妙な関係――パチンコがアニメだらけになった理由

安藤健二『パチンコがアニメだらけになった理由(わけ)』 (洋泉社)

著者の安藤健二は、封印された漫画やアニメの謎に迫った「封印作品の謎」シリーズで、その名を知られる、サブカル問題の第一人者。今回は、パチンコとアニメの微妙な関係に切り込んだ。

そもそも、パチンコにアニメが使われるようになったのは、2004年に「新世紀エヴァンゲリオン」を使用したパチンコ台が大ヒットしたことが、きっかけという。

普通に考えれば、アニメの起用によって、アニメ・ファンをパチンコに呼び込もうとしたマーケティング戦略の勝利と結論づけられるところだが、実際にエヴァンゲリオンのファンが、新たなパチンカーになった比率はきわめて低いという。

パチンコ台メーカーにしても、突然確変という新機軸を表現する上で、エヴァンゲリオンというアニメが使いやすかっただけという。しかし、このエヴァンゲリオン台のヒットが、パチンコ業界、アニメ業界の双方に、新たな化学変化を引き起こす。

秘密の壁に囲まれたパチンコ業界の高い壁の向こう側をかいま見せてくれる、優れたルポである。

[参考]
▽『なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/01/post-ee98.html
▽タイのウルトラマンの憂鬱
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/01/post-f92c.html

[目次]
第零章 読者の皆様へ
第一章 『エヴァ』の意外なヒット理由
第二章 『アクエリオン』の謎
第三章 タイアップのミステリー
第四章 閉鎖的なパチンコ業界
第五章 タイヨーエレックとサンセイR&Dに聞く
第六章 パチンコ業界がアニメを欲しがる理由
第七章 タイアップ全盛時代を生んだCR機
第八章 高騰するタイアップ物の弊害
第九章 アニメ製作会社「ジーベック」に聞く
第十章 アニメを救うパチンコマネー
第十一章 タブー視されるパチンコ化
第十二章 最終回答~オタク向けアニメがパチンコになる本当の理由

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2011.01.07

▽『累犯障害者』

山本譲司『累犯障害者』 (新潮文庫)

著者によれば、タイトルの「累犯障害者」とは、「次から次に犯罪に結びついてしまう障害者たち」(p.238)を意味する造語という。

政策秘書の給料の流用事件で実刑判決を受けた元国会議員である著者が、彼らに出会ったのは、刑務所の中である。そして、出所を目前にした受刑者の「俺ね、これまで生きてきたなかで、ここが一番暮らしやすかったと思ってるんだよ」(p.11)という言葉に衝撃を受ける。

出所後の著者は、障害者福祉施設の支援スタッフをするかたわら、累犯障害者の周辺を、訪ね歩いている。それは、あたかも著者自身の贖罪の旅のようでもある。

本書に登場するのは、刑務所に戻りたいからとJR下関駅に火をつけた老人、浅草で女子短大生を刺殺したレッサーパンダ帽の男、障害者を食い物にするヤクザ、売春する女性の障害者たち、不倫殺人事件を起こしたろうあ者、群馬で女性監禁致死事件を起こした知的障害者の一家などである。

《このように、彼らの消息を訪ねるなか、触法障害者を取り巻く世の中の現実が、かなり見えてきた。かろうじて再犯者になることを免れている者も、「路上生活者」、「ヤクザの三下」、「閉鎖病棟への入院」、そして「自殺者」や「変死者」になっていたりと、それは、あまりにも切ない現実の数々だった。
 ――福祉は、一体何をやってるんだ。
 すべての福祉関係者に向かって、そう叫びたくなる。もちろんそれは、私自身に対してもだ。》(p.221)

重い一冊である。

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2011.01.06

▽『逸脱する医療ビジネス』

NHK取材班『NHK追跡!AtoZ "逸脱する病院ビジネス" 』(宝島社)

本書で描かれているのは、日本の医療ビジネスの闇の部分。NHKの「追跡!AtoZ」や「クローズアップ現代」などの報道番組のために、主に大阪と奈良で取材された内容がベースとなっている。

生活保護を受けているホームレスを入院させて必要のない手術を行い診療報酬をせしめる病院、ホームレスを病院間でやりとりする「行路病院ネットワーク」、ドヤ街や公園からホームレスを連れてくる「乞取りバス」、病院の乗っ取りに暗躍する闇の組織、診療報酬の拡大解釈の仕方を指南する医療コンサルタント、要介護の老人を集めた「寝たきり高齢者専用アパート」など、日本の医療ビジネスの暗部を浮かび上がらせている。取材時の苦労や苦悩も綴られており、迫真のドキュメンタリーに仕上がっている。

ところで、なぜ、多くの病院が、本書で描かれているような闇のビジネスに手を染めるようになったのか? それは、小泉政権下で行われた診療報酬の引き下げにあったという。

《診療報酬は、高度成長期以後引き上げが続いていたが、国の財政事情が厳しさを増し、2002年以来、2年に一度の改定のたびに、診療報酬の切り下げが続いた。……単純に足し合わせても8%近く、診療報酬が削減されたことになる。
 これは01年から06年までの、小泉首相の任期と重なる。自民党内の政治力学ではなく、国民の圧倒的人気を背景に首班指名され、構造改革を訴えて「痛み」を国民に求めた結果だ。》(p.235-236)

こうした事情をみると、小泉構造改革が諸悪の根源のようにも思えてくる。しかし、その一方で、国民医療費の総額は、1998年に29兆円だったのが、2008年には34兆円と18%も増えている。むしろ、適当に経営していても儲かった時代を忘れられずにいる病院の経営者にも問題があるのではないかと思われる。

[目次]
まえがき
第1章 闇の病院 医者が手を染めた貧困ビジネス
第2章 行路病院ネットワーク 病院間でトレードされる生活保護患者
第3章 コトリバス 反社会的勢力の餌食になる病院と“患者”
第4章 乗っ取られる病院 経営を裏で支配する闇のM&A人脈
第5章 病院ビジネスのグレーゾーン 儲けの手口を指南する医療コンサルタントの暗躍
第6章 食い物にされる老人介護 医療の外にも広がるグレーゾーンの“錬金術”
第7章 医療崩壊に処方箋はあるか? 不正な診療、不適切な診療報酬請求を防ぐにはあとがき

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2011.01.05

▽中野坂上の雲――『キッドのもと』

浅草キッド『キッドのもと』(Gakken)

本書は、ビートたけしの弟子である漫才コンビ「浅草キッド」の水道橋博士と玉袋筋太郎が、「GetNavi」という雑誌に2007年から2010年にかけて連載していたコラムをまとめたもの。二人が、それぞれに自分の生い立ちから、ビートたけしに弟子入りした経緯、フランス座での修業時代、漫才師として独り立ちしてから、プライベートなどについて語っている。

水道橋博士は、漫才師として独り立ちする前に、ビートたけしの弟子のダンカンの付き人をしていた時期もあった。

《ダンカンさんの家があった中野坂上へと向かう日々、芸人志願の自分が、まだ何者でもないという自覚を持ちながら、道にしがみついてでも、その坂を必死でよじ登ろうとしていた。
 まさに、あの時代は、ボクの「中野坂上の雲」だ。
 青梅街道の先にむくむくと湧き上がる青雲を見つめながら、自分が目指す「芸人」とは何か、その正体が全くわからないまま、ただひたすら、あの雲を追いかけていた。》(p.115-116)

となかなか読ませる記述が随所に出てくる。また、水道橋博士のパートと、玉袋筋太郎のパートが交互に出てきて、同じ話題でも、それぞれの視点から微妙に異なる感想が綴られていて興味深い。

ただ、左ページの下角にコラムのタイトルと筆者名が記載されているだけで、読み進めているうちに、どっちが書いたコラムなのかがわからなくなってしまうので読みづらい。せめて、書き手によって書体をかえるなり、イラストやデザインなどで一見してどっちが書いたコラムなのかわからせるような工夫が欲しかった。

[目次]
●第1章 「少年時代」のもと
水道橋博士 倉敷キッド / 20世紀少年 / ゴキブリホイホイ
玉袋筋太郎 新宿キッド / マスター / あんちゃん

●第2章 「浅草キッド」のもと
水道橋博士 フランス留学 / 名付け親 / 鬼軍曹 / 職業・漫才師
玉袋筋太郎 マイ・ネーム・イズ / フランス座にいた、或る男 / 芸人免許交付 / タッグチーム

●第3章 「芸」のもと
水道橋博士 裸がユニフォーム / ルポライター芸人 / ラジオ・デイズ
玉袋筋太郎 パワースポット / 玉袋筋太郎の「異常な健康」 / つながり

●第4章 「家族」のもと
水道橋博士 同居人 / キッド / 浮気童貞 / 父親
玉袋筋太郎 もうひとつのコンビの物語 / 親子馬鹿 / 空っぽの部屋 / オヤジへのラブレター

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2011.01.01

▽『なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか』

若宮健『なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか』(祥伝社新書)

本書で、まず気になることは、韓国のパチンコとは、いったいどういうものなのか? ということでしょう。本書の第一章に解説があります。

・韓国のパチンコは「メダルチギ」という
・日本のパチンコ台を輸入して使う
・釘は全部根本から切ってある
・盤面と液晶はそのまま
・玉は使わない
・メダルを中央の皿に流し込む
・液晶は常時回っている
・大当たりすると商品券が出てくる
・これを店外の交換所で換金してもらう(三点方式)

……この説明だけでは、よくわかりません。

ウェブで、いろいろと調べてみると、メダルチギでは、パチンコ台の「スタートチャッカー」と呼ばれる大当たりにつながる入賞口に、ほぼすべてのメダルが入るため、その後の、メインデジタルのフィーバーを狙うスロット・マシーンのようなもののようです。つまり、日本のパチンコよりも、ずっと射幸性が高いということが推測できます。

このメダルチギは、韓国では2000年頃から流行始めて、最盛期には店舗数が1万5000店を超えたそうです。ところが、許認可に絡む不正や借金苦による自殺など社会問題化したため、2006年に違法とされて、パチンコ店は全廃されたそうです。

ところが日本では、このニュースがまったく報じられなかったことに驚いた著者は、韓国のメダルチギと比較しつつ、日本のパチンコ業界と、それを取り巻く環境を考察していきます。

ただ、韓国においてはメダルチギというギャンブルは、6年という浅い歴史しかないのに対して、日本のパチンコは、庶民の生活に根を下ろした長い歴史を持つギャンブルなので、簡単には比較できない部分はあるのかもしれませんね。

ただ、日本のパチンコは全廃はともかくとして、射幸性が高すぎる台は規制した方が良いとは思います。

[目次]
1章 なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか
2章 なぜパチンコは、廃止されねばならないのか
3章 なぜ日本は、パチンコを廃止できないのか

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