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2012年2月

2012.02.29

▽『勾留百二十日』――特捜部長はなぜ逮捕されたか

大坪弘道『勾留百二十日 特捜部長はなぜ逮捕されたか』(文藝春秋)

厚生労働省の女性官僚の冤罪事件では、取り調べに当たった検事が証拠として押収したフロッピーのデータ改竄を行ったことが発覚し、その上司にあたる検察官二人が「犯人隠避」の罪で逮捕・起訴されるという自体に至りました。

本書の著者は、その二人の検察官のうちの一人です。

本書を読んでも「特捜部長はなぜ逮捕されたか」というサブタイトルで掲げられた問いに対する答えははっきりとは得られません。

しかし、「組織の持つ非常さ」によって人生を暗転させられたエリート検察官の心情は察するにあまりあるものですね。

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2012.02.28

▽『「噂の真相」25年戦記』

岡留安則『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)

2004年に休刊した『噂の眞相』の編集長が、創刊から休刊までの25年間の裏舞台を綴ったもの。見出しや文章の煽り口調は、あいかわらずですが(笑)。

ちょっと驚いたのは、『週刊文春』で三浦和義の疑惑を報じたデスクが、スキャンダルを抱えていて『噂の眞相』でバッサリとやられていたということ。

メディア批判の役割も担っていたのですが、その機能はインターネットに移りつつあるので、休刊もやむを得ないことなのかもしれませんね。

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2012.02.27

▽ネットワークでつくる放射能汚染地図

NHK ETV特集取材班『ホットスポット ネットワークでつくる放射能汚染地図』(講談社)

NHKの内部では、おそらくマイナーな部署であるETV特集の取材チームは、福島原発事故後の比較的早い段階で、避難地域内の放射線量の測定を行った。これは、NHKの内規に違反した行為だったが、さまざまな障害を乗り越えて、番組の放送にまでこぎつけた。

原発事故直後の避難地域の人々の生の声も多くつづられていて興味深い。また、NHKという巨大組織自体が、福島原発事故に対し、どういうスタンスをとるべきかで揺れ動いていることも、明らかにされており、その点も評価したい。

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2012.02.26

▽『罪と罰』――死刑をめぐる鼎談

本村洋x宮崎哲弥x藤井誠二『罪と罰』(イースト・プレス)

《宮崎 ……外務官僚や法務官僚、あるいは上層の司法官たちの視点は少し違うのです。もっとも簡単な部分で言えば、そんな僅かな死刑執行によって、先進国のお仲間から人権状況に問題のある国と看做されるのはかなわんと。……左翼的廃止論者なんかよりも、こいつらのほうがずっと手強いってことです。》(p.124)

EUに加盟する条件の一つに死刑廃止があり、このためトルコは2002年に死刑廃止に踏み切った。また、アメリカでは州ごとに死刑制度の存廃を規定しているが、もしアメリカが国として死刑廃止に踏み切ると、死刑存置している大国は日本と中国だけになるという。

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2012.02.25

▽黒澤明――封印された十年

西村雄一郎『黒澤明 封印された十年』(新潮社)

黒澤明の封印された十年とは?

1965年の『赤ひげ』から、『トラ、トラ、トラ』の降板劇や自殺未遂事件を経て、ソ連で撮影した『デルス・ウザーラ』が完成した1975までの十年間。

この十年は、日本映画界全体が停滞に向かいつつある一方、また、ヌーヴェルバーグに代表される新興勢力の台頭もあって、黒澤明の苦悩は日本映画界の苦悩でもあった。

[目次]
プロローグ

第一部 アメリカへ
第一章 一九六五年まで――『赤ひげ』
第二章 一九六六年――『暴走機関車』
第三章 一九六七年――『トラ・トラ・トラ!』
第四章 一九六八年――解任
第五章 一九六九年――『どら平太』

第二部 死の淵へ
第一章 一九七〇年――『どですかでん』
第二章 一九七一年――自殺未遂
第三章 一九七二年――邂逅

第三部 ソ連へ
第一章 一九七三年――不死鳥のごとく
第二章 一九七四年――シベリア・ロケ
第三章 一九七五年――『デルス・ウザーラ』

エピローグ
あとがき
主要参考文献

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2012.02.24

▽「死刑」のロードムービー

森達也『死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う』(朝日出版社)

オウム真理教の信者を撮ったドキュメンタリー『A』などの制作者として知られる森達也が「死刑」というテーマに取り組んだ「ロードムービー」のような著作。

オウム真理教の幹部のほとんどが死刑判決を受けていることから、必然的に「死刑」について考えざるをえなくなったという。

しかし、「ロードムービー」という割には、死刑制度の周りをグルグルと回っているだけで、死刑の本質にはたどり着けないまま終わる。

その理由の一つは、日本の法務省は「死刑」に関する情報公開を渋っていることがあげられる。

また、世界的には死刑廃止に踏み切った国が多い中、日本では、死刑廃止の声は必ずしも大きくなっていない。死刑廃止を唱える政治家も多くなく、その理由は票につながらないからだという。

[目次]
プロローグ
第一章 迷宮への入り口
第二章 隠される理由
第三章 軋むシステム
第四章 元死刑囚が訴えること
第五章 最期に触れる
第六章 償えない罪
エピローグ

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2012.02.23

▽『殺人者はいかに誕生したか』

長谷川博一『殺人者はいかに誕生したか―「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く』(新潮社)

《明らかになっていないのは、犯行時の心理(ストーリー)の全容です。……被告人である元少年の権利が尊重され、中立的に調べることが叶えば、疑惑に満ちた犯行ストーリーと被告人の心理分析をする時間は十分にありました。……それは永遠の謎として闇に葬られることになります。》(p.124)

臨床心理士である著者が十の凶悪事件の犯人との対話を通じて、犯人が犯行に至った心理(ストーリー)を分析する。

[目次]
第1章 なりたくてこんな人間になったんやない―大阪教育大学附属池田小学校事件・宅間守
第2章 私は優しい人間だと、伝えてください―関東連続幼女誘拐殺人事件・宮崎勤
第3章 ボクを徹底的に調べてください―大阪自殺サイト連続殺人事件・前上博
第4章 私のような者のために、ありがとうございます―光市母子殺害事件・元少年
第5章 自分が自分でないような感覚だった―同居女性殺人死体遺棄事件・匿名
第6章 一番分からなくてはいけない人間が何も分からないのです―秋田連続児童殺害事件・畠山鈴香
第7章 常識に洗脳された人間に、俺のことが理解できるかな!!―土浦無差別殺傷事件・金川真大
第8章 私は小さな頃から「いい子」を演じてきました―秋葉原無差別殺傷事件・加藤智大
第9章 命日の十一月十七日までに刑を執行してほしい―奈良小一女児殺害事件・小林薫
第10章 これって私の裁判なんですね。はじめて裁判官の顔が見えました―母親による男児せっかん死事件・匿名

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2012.02.22

▽このデザインには理由がある

『このデザインには理由がある』(KAWADE夢文庫)

いろいろなもののデザインが、なぜ、そうなったか、についてまとめられた雑学風読み物。スマホからペンタゴンまで、ちょっと、まとまりに欠けるきらいはありますが、まあまあ楽しく読むことができます。

そんな中で、ちょっと驚いたのが横断歩道に関するエピソード。横断歩道のデザインといえば、横棒の両脇に縦棒があるはしご型だと思っていたのですが、いつの間にか、横棒だけで縦棒のないデザインに変更されていたそうです。その理由は、はしご型ではペンキの盛り上がりによって水はけが悪くなるので、それを防止するためなのだそうです。

というような、ちょっとした発見があります。

[目次]
1 必勝デザインの秘密―スマホの角が、どれも“丸っこい”理由とは
2 「色づかい」に隠されたデザインの秘密―カゼ薬のパッケージはなぜ“赤系”が多いのか?
3 「カタチ」に隠されたデザインの秘密―クリームパンがグローブ型になった“事情”とは
4 「配置」に隠されたデザインの秘密―横断歩道の縦ラインがいつのまにか消えた謎!
5 「足し引き」に隠されたデザインの秘密―Macのマークのリンゴが欠けているのはなぜ?
6 「文字表現」に隠されたデザインの秘密―郵便マークは、そもそもなぜ、「〒」なのか?
7 「モチーフ」に隠されたデザインの秘密―一円玉に描かれた木は、いったい何の木?
8 「そういえば不思議」なデザインの秘密―3D映画が以前より飛び出なくなったワケは?

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2012.02.21

▽それでもボクはやってない

矢田部孝治+あつ子『お父さんはやってない』(太田出版)

《私には返事をする暇さえなく、駅員と女だけで、さっさと駅事務所から出て行ってしまった。私は取り残されたようになり、しょうがないので開けっ放しのドアをきっちりと閉めて部屋を出た。今でもここで逃げてしまえば良かったと後悔している。》(p.14)

本書『お父さんはやってない』は、痴漢冤罪の犯人とされた会社員が、無罪を勝ち取るまでを描いたノンフィクション。共著者は、被害者の奥さんであり、家族ぐるみの闘いだったことがわかります。

ハッピーエンドとなることを知っているために、読み過ごせるようなくだりも、本人の立場になってみれば、とてもツライ体験だっであろうことが伺えます。

周防正行監督の映画『それでもボクはやってない』のモデルとなった事件の一つだそうです。

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2012.02.20

▽政治家の殺し方

中田宏『政治家の殺し方』(幻冬舎)

2002年から2009年まで横浜市長をつとめた中田宏が、市長時代に直面した困難の数々を振り返ったもの。

正直なところ、横浜市政についてはあまり関心がなかったのですが、本書で明らかにされた事実は、唖然とするようなことばかり。

事実無根のスキャンダルが週刊誌に掲載され、それが市議会で追及されると、さらに新聞やテレビで報道されるという魔のスパイラルにはめ込まれていく……。

特に、驚いたのが、公務員の堕落ぶり。

職員から実名で「死ね」と書かれたメールが続々と届いたり、市長を脅迫して逮捕される職員がいたり、定期券の購入費削減のために一カ月から半年にかえたら賃金の返還を求める職員が現れたり……。

「ホントかよ」とあきれてしまうようなことばかり。とにかく、唖然とさせられてしまいます。

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2012.02.19

▽東電・政府は何を隠したのか――『検証 福島原発事故・記者会見』

日隅一雄x木野龍逸『検証 福島原発事故・記者会見――東電・政府は何を隠したのか』(岩波書店)

先日、大鹿靖明が政府中枢の原発事故処理の実態に迫ったの『メルトダウン』を紹介しましたが、

▽大鹿靖明『メルトダウン』――福島第一原発事故ドキュメントの決定版
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/02/post-b55c.html

本書『検証 福島原発事故・記者会見』は、事故発生時点において、東京電力や政府が記者会見において何を語ったのかを詳細に記録している。

ここに収録されている記者会見でのやりとりの多くは、ニコニコ動画の「ニコ生」を通じて見たことがあるが、改めて時系列に提示されると、当時の緊迫した気分が呼び起こされてくる。

事態が落ち着いてからの報道や、大鹿の『メルトダウン』などと、重ね合わせてみると、東電や政府が何を隠そうとしていたのかがわかってくる。

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2012.02.18

▽飛田――さいごの色街

井上理津子『さいごの色街 飛田』(筑摩書房)

「飛田」(とびた)というのは、大阪にある色街。

「飛田」という色街がつくられたのは、難波の遊郭が消失した1916年(大正5年)と、江戸時代につくられた「吉原」比べると、ずっと新しい。

本書は、その「飛田」と、そこで働く人たちに焦点を当てた十年越しのルポルタージュ。

こういうジャンルの取材をする時のもどかしさもよく伝わってきますね。

ただ、飛田の遊女たちの菩提寺だったはずの高野山の寺が、「うちは関係ありません」と主張するくだりなんかは、もう少しねばって、真相を突き止めて欲しかった、と思ったりしました。

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2012.02.17

▽大鹿靖明『メルトダウン』――福島第一原発事故ドキュメントの決定版

大鹿靖明『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(講談社)

福島第一原発事故のドキュメントとしては決定版と言って差し支えないだろう。

東京電力の会長や社長は事故発生時どこでなにをしていたのか? 全電源喪失した際に、電源車をかき集めたものの、それがなぜ使えなかったのか? 東電の撤退発言の真相は? などなど、原発事故発生当時、断片的に報道されてきたことが、綿密に検証された上で、時系列に記述されている。

前半は事故処理の内幕を描いているが、途中からは、脱原発を推進した菅首相をめぐる暗闘へとテーマが移っている。

主要な情報源となったのが、当時の政権中枢にいた人物たちということもあり、やや菅首相より、反東電、反経産省のきらいはあるものの、その点を割り引いても、福島原発事故ドキュメントの決定版と言っても過言ではないだろう。

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2012.02.16

▽ブーメラン――欧州から恐慌がかえってくる

マイケル・ルイス『ブーメラン 欧州から恐慌が返ってくる』(東江一紀訳、文藝春秋)

マイケル・ルイスといえば、サブフライム・ローン・バブルの破綻を見通して賭けにかった人達を描いた『世紀の空売り』が有名ですが、

▽リーマン・ショックへと至る道――世紀の空売り
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/01/post-f6dd.html

本書は、その続編。

なぜ、アメリカのバブルが、欧州にも飛び火したのか、「どーしてこーなった?」の背景を、アイスランド、ギリシャ、アイルランドと国別に描いていきます。また、その対比として、バブルにまみれなかったドイツにもフォーカスをあてています。

前作ほどには、金融商品に関する知識は必要でなく、さらっと読むことができますが、これまで知られていなかった事実もあって面白い。

序章 欧州危機を見通していた男
第1章 漁師たちは投資銀行家になった
第2章 公務員が民間企業の三倍の給料をとる国
第3章 アイルランド人は耐え忍ぶ
第4章 ドイツ人の秘密の本性
第5章 あなたの中の内なるギリシャ

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2012.02.15

▽『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』

上杉隆『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』(PHP新書)

上杉隆(肩書き不明)が、大手メディアの記者の間で共有されていた、いわゆる「懇談メモ」の公開を始めた。

本書『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』においても、その一部が公開されている。

記者クラブに所属する記者達が、互いにメモを融通し合ったりすることがある、という話は聞いた事があるが、本書では、そのメモが官僚や政治家にも渡っていた、という事実も明らかにされている。

さらに、そのメモの謝礼として官房機密費がメディア関係者に支払われていたのではないか? という疑惑も指摘されている。

2011年9月に、「放射能をつけちゃうぞ」と発言したと報道され、辞任に追い込まれた鉢呂経産大臣をめぐる騒動の真相も記されている。

日本のジャーナリズムの暗部を暴露した驚愕の書である。

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2012.02.14

▽限界集落の真実

山下祐介『限界集落の真実: 過疎の村は消えるか?』(ちくま新書)

「限界集落」とは、「六五歳以上の高齢者が集落の半数を超え、独居老人世帯が増加したために、社会的共同生活の維持が困難な状態に置かれている集落のことを指す。」(p.9)。

2007年には、参院選挙において、地域格差の問題に絡んでこの「限界集落」の問題が取り上げられ、政府は、191もの集落が過去7年間で消えた、とのデータを発表した。

しかし、本書の著者は、さまざまな集落へのフィールド・ワークにより、191の集落は、ダム移転、災害移転、集落再編などの人為的な要因によって消滅したものであることを突き止める。

《国発表の消えた集落の数値には、[高齢化→限界→消滅]の事例はまず含まれていないと考えるべきだろう。》(p.100)

つまり、人間の生活力は高齢化で衰えるようなものではなく、集落が簡単に消えることはない、ということになる。

ただし、高齢化した集落は増え続けており、かならずしも楽観できる状態ではないものの、従来の限界集落のイメージを塗り替えたところから議論はスタートすべきだろう。

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2012.02.13

▽消費増税では財政再建できない

野口悠紀雄『消費増税では財政再建できない 「国債破綻」回避へのシナリオ』(ダイヤモンド社)

税と社会保障の一体改革がかまびすしいのですが……。

消費税率を5%引き上げたとしても、財政への改善効果が続くのは、わずか2年しかありません。そして、財政健全化のためには、消費税の税率は30%にまで引き上げる必要がある、など、本書では、しごくまっとうな、そして、残酷な現実が白日のもとに晒し出されます。

  どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!
   三           三三
        /;:"ゝ  三三  f;:二iュ  三三三
  三   _ゞ::.ニ!    ,..'´ ̄`ヽノン
      /.;: .:}^(     <;:::::i:::::::.::: :}:}  三三
    〈::::.´ .:;.へに)二/.::i :::::::,.イ ト ヽ__
    ,へ;:ヾ-、ll__/.:::::、:::::f=ー'==、`ー-="⌒ヽ
  . 〈::ミ/;;;iー゙ii====|:::::::.` Y ̄ ̄ ̄,.シ'=llー一'";;;ド'
    };;;};;;;;! ̄ll ̄ ̄|:::::::::.ヽ\-‐'"´ ̄ ̄ll

[目次]
はじめに

第1章 消費税を増税しても財政再建できない
1.消費税率を5%引き上げても、改善効果わずか2年!
2.財政健全化のためには税率30%が必要
3.消費税の目的税化は、増税のためのトリック
4.財政への信頼崩壊は財政危機を加速する
5.税率引き上げ前にインボイスがどうしても必要
補論 収支シミュレーションの前提と計算方法

第2章 国債消化はいつ行き詰まるか
1.国債消化構造の危うさ
2.日本国債のDoomsdayはいつ来るか?
3.国債消化のマクロ的メカニズム
4.財政支出が財政収入に還流すれば問題はない
5.金利が上昇しても、利払い費はすぐには増加しない
6.国債は負担を将来に転嫁しない
補論 金利上昇が国債利払いに与える影響

第3章 対外資産を売却して復興財源をまかなうべきだった
1.結局は恒久増税になった復興財源
2.対外資産の取り崩しで復興資金を調達できる
3.外貨準備の取り崩しで復興資金を調達できる
4.必要なのは財政論でなく経済論

第4章 歳出の見直しをどう進めるか
1.増税分を呑み込む歳出増
2.マニフェスト関連経費はまだ残っている
3.財政支出の大部分が移転支出であることの意味

第5章 社会保障の見直しこそ最重要
1.人口高齢化で社会保障給付は自動的に増える
2.公的施策はどこまでカバーすべきか
3.内需を増加させたいなら、なぜ医療費を抑制する?

第6章 経済停滞の原因は人口減少ではない
1.人口構造で未来が予測できるか?
2.40~59歳人口の減少は、日本経済に大きな影響

第7章 高齢化がマクロ経済に与えた影響
1.高齢化で貯蓄率は低下したか?
2.貯蓄減少のメカニズム
3.人口構造の変化は、資産保有に影響を与えたか?
4.貯蓄が減少したのに、貯蓄投資差額は拡大
5.財政赤字拡大の原因は、公共事業ではない
6.金融緩和は、経済活性化でなく企業の資金過剰をもたらした
7.国内の貯蓄超過は経常収支の黒字に対応する
8.高齢化社会では、インフレに備えた資産運用が必要

第8章 介護は日本を支える産業になり得るか?
1.曲がり角に立つ介護産業と日本の雇用
2.急増する老人ホームに供給過剰が生じないか?
3.製造業の雇用は減少するが、労働力人口はもっと減少
4.将来の政策課題は、量の確保でなく質の向上
5.新しい介護産業の確立に向けて

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2012.02.12

▽黒澤明と『用心棒』

都築政昭『黒澤明と『用心棒』―ドキュメント・風と椿と三十郎』(朝日ソノラマ)

黒澤明がつくった娯楽チャンバラ映画『用心棒』(1961年公開)と、その続編『椿三十郎』(1962年公開)の製作の舞台裏を描いたドキュメント。

黒澤神話を肯定的にとらえた黒澤ファン向けの内容が中心ですが、カメラマンをめぐるくだりは、ちょっと興味を引きます。

『用心棒』の撮影に際して、黒澤明は出世作『羅生門』でコンビを組んだカメラマン宮川一夫を招聘します。宮川は、溝口健二、市川昆、小津安二郎などの名監督の撮影をしてきたカメラマンの巨匠です。

しかし『用心棒』を撮影に入っていた頃の黒澤は、望遠レンズを備えた二台のカメラで同時に撮影する方式を採用するようになっていました。

そのため、宮川の絵作りのこだわりは反映されず、二番手カメラマンだった斉藤孝雄が望遠レンズを使って自由奔放に撮影した絵を黒澤は好むようになったそうです。

その結果、宮川がカメラマンとしての人生を回顧した本の中では、『用心棒』については一言も触れてなく、また、『椿三十郎』の撮影にも参加しなかったそうです。

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2012.02.11

▽天才伝説 横山やすし

小林信彦『天才伝説 横山やすし』(文藝春秋)

本書は、横山やすしの伝記というよりも、作家の小林信彦が間近で見た横山やすしが綴られている(1998年刊行)。

小林とやすしの接点は、小林の小説『唐獅子株式会社』を、1984年に映画化した際に、主演にやすしが抜擢されたことにある。斜陽化しつつあった映画界の裏側もかいま見える。

なにげに読み始めたら、ページを繰る手がとめられないほどおもしろかった。おすすめ。

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2012.02.10

▽震災死――生き証人たちの真実の告白

吉田典史『震災死 生き証人たちの真実の告白』(ダイヤモンド社)

《被災地を回って痛感するのは、この国は外国などからの攻撃ではなく、内部から崩壊していくのではないかということ。人と人とが支え合う意識が、想像できない速さで壊れている。》(p.221)

ジャーナリストの吉田典史は、東日本大震災の直後から被災地に二十数回も足を運び、生き残った人々、そして、死と直面した人々の生の証言を記録した。それらは、ダイヤモンド・オンラインの連載企画として発表された。

「生き証人」が語る真実の記録と教訓~大震災で「生と死」を見つめて
http://diamond.jp/category/s-livingwitness

本書は、それらにさらに大幅に加筆修正して発表されたもので、取材の対象は、死体を検死した医師たちから、生き残った遺族、捜索に携わった人々、そして、報道機関と多岐にわたる。

東日本大震災は、地震や津波の被害よりも、原発事故により大きな関心が集まってしまったが、本書は、風化させてはならない重い事実の記録である。

[主な目次]
第1章 医師がみた「大震災の爪痕」
第2章 遺族は「家族の死」をどうとらえたか
第3章 捜索者が「津波の現場」で感じたこと
第4章 メディアは「死」をいかに報じたか
第5章 なぜ、ここまで死者が増えたのか

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2012.02.09

▽『封印された電車男』――「2ちゃんねる」と「まとめサイト」の微妙な関係

安藤健二『封印された電車男』(太田出版)

2004年3月から、巨大匿名掲示板2ちゃんねるの「独身男性板」、通称「毒男板」に書き込まれた、ハンドルネーム「電車男」の恋愛話は、中の人によるまとめサイトを経て、中野独人なる著者名で出版されベストセラーとなった。

テレビドラマや映画にもなったこの電車男の実態について、『封印作品の謎』シリーズで知られる安藤健二が膨大なログをもとに検証したのが本書である。

著者の検証によると、2ちゃんねるの電車男スレッドに書き込まれた3万件を超える投稿のうち、単行本に収録された書き込みはわずか6.4%に過ぎなかった。実に、93.6%は捨てられたことになる。

《投稿の9割が削られたことで、『電車男』は、ネット上でのコミュニケーションの実態をまったく反映しない人畜無害な物語になってしまった。モニター上に現れた複雑怪奇でドロドロとした人間の欲望を封印して、口当たりのいいパッケージングを施すことで大ヒット商品となったわけだ。》(p.119)

『電車男』のケースでは、「まとめ」の際に、「口当たりのいいパッケージングを施すこと」に成功しました。しかし、この「まとめ」の手法は、さまざまな方向性を恣意的に持たせることができるのだろうと思います。

[参考]「2ちゃんねる」まとめサイトのビジネス・モデル
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/news/2011/04/post-b0f7.html

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2012.02.08

▽「新都」建設――これしかない日本の未来

堺屋太一『「新都」建設―これしかない日本の未来』(文春文庫)

《日本における重大な改革は、政治行政機構の地理的な移転か、外国との戦争による敗戦かによってしか起こっていない。二十一世紀の日本が、平和な社会を保ちつつ新しい時代にふさわしい改革を実現するには、新しい政治行政の中心都市「新都」を建設することであろう。》(p.47)

橋下徹大阪市長のブレーンである堺屋太一が1990年に上梓した『「新都」建設―これしかない日本の未来』(文庫版は1992年)。

1980年代後半の地価高騰を招いたバブル経済を引き起こした原因が東京一極集中にあるとされ、それに対する処方箋として書かれたのが本書である。しかし、その後のバブル崩壊によって東京の地下は下がり、「新都」への期待はしぼんでいった。

つづいて、小泉政権時代になると、ふたたび「遷都」が議題にあげられ、候補地も選定された。その際には、堺屋の主張もふたたび脚光を浴びたが、これもまた、支持を失い、道州制へと議論の焦点が移っていった。

そして――。

東日本大震災を踏まえて、政治、経済、文化の三つが東京に集中することへの懸念から、みたび、首都機能の移転や分散が関心を集めている。これには、大阪都構想を掲げる橋下徹というトリック・スターの存在も大きい。

また、堺屋は、放送、新聞、出版の大手マスコミが東京に集中させられたことが、文化的な閉塞感を生み出している、とも指摘している。

《戦後の新業種新業態の発生や流行したファッションの発生源はほとんどが地方であり、東京は人口比率よりも少ない。ただそれが、「流行」と認められるためには、東京のマスコミに取り上げられた場合に限られる。そしてそのためには、東京の中心部、千代田、中央、港、新宿、渋谷の五区で話題になることが条件になっている。》(p.72)

本書は、二十年以上も前に書かれたものではあるが、いまでも十分通用する知見が得られる。

[参考]
「首都機能移転」論議の終焉――日本のポストモダン Scene4
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2011/03/scene4-d343.html
平成維新とは?――日本のポストモダン Scene8
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2012/02/scene8-e107.html
▽『団塊の世代』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/1994/07/post-26c5.html

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2012.02.06

▽七十歳死亡法案、可決!?

垣谷美雨『七十歳死亡法案、可決』(幻冬舎)

えー、本書は、『七十歳死亡法案、可決』というタイトルの近未来小説です(笑)。いつか、こういうタイトルの本が出るとは思っていましたが……。

2020年に可決された「七十歳死亡法案」により、皇族以外の日本人は七十歳の誕生日から30日以内に死ななければならなくなった。高齢化による国家財政の行き詰まりを解消するためで、施行初年度の死亡予定者数は、すでに七十歳を超えている者も含めるために約2200万人に達し、次年度以降も毎年150万人前後で推移するという。

同法施行二年前のある日、ごくありふれた家庭である「宝田家」にもじょじょに変化が起こり始めていた。寝たきりのおばあちゃん、その世話をする嫁の家出、早期退職して旅に出てしまう夫、家を出たきりの娘、そして、引きこもりの息子が織りなす悲喜劇は、ホームドラマ的な味わいもあって、エンターテイメントとしてもそれなりに楽しめます。

こんな本けしからん! と怒る前に、ある種のブラックユーモアとして、思考実験的に読まれるべきだと思います。

[目次]
第一章 早く死んでほしい
第二章 家族ってなんなの?
第三童 出口なし
第四章 能天気な男ども
第五章 生きててどうもすみません
第六章 立ち向かう明日

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2012.02.05

▽ビブリア古書堂の事件手帖

三上延『ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち』(メディアワークス文庫)

三上延『ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常』(メディアワークス文庫)

鎌倉にある古書店“ビブリア古書堂”を舞台にしたライトノベルベです。古書店の店主には似つかわしくない若い女性の篠川栞子が、持ち込まれる古書とその背後にある謎を解いていくというミステリー仕立てのラノベです。本にまつわる蘊蓄も楽しめるという趣向でベストセラーになっているそうです。

まあ、語り手である主人公、五浦大輔の「本を拒絶するという体質」という設定がちょっとアレなんですが、その点が気にならなければ、なかなか楽しめます。

というか、ラノベも「ライト」と呼ばれるものの、設定や人間関係が割と複雑だったりして、頭に入れるのがなかなかたいへんだったりしますね。軽く読める読み物として、おすすめ。

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2012.02.04

▽雪崩遭難

阿部幹雄『ドキュメント 雪崩遭難』(山と渓谷社)

ちょっと古く、2003年に出版された本ですが、雪崩に遭遇したものの救出された方々へのインタビューをまとめたものです。

《雪崩に流された人、雪崩に埋まった人、雪崩で仲間を失った人、さまざまな雪崩遭難体験者をインタビューして気がついたことがいくつかある。
「雪崩が起きるとは思わなかった」
「そこで雪崩が起きたことがない」
 この言葉のいずれかを口にする。》(p.276)

著者によると、「雪崩が起きるとは思わなかった」という発言は雪や雪崩について知識の乏しい人から聞かれ、また、自分の経験にのみ固執する人は、「そこで雪崩が起きたことがない」と言う。著者は、この二つの言葉を禁句にすべきだと主張し、もっと雪を科学的に理解することが必要だと主張する。

日本の一部地域では、最近の豪雪により雪崩の危険性も指摘されていますが、くれぐれも注意してください。

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2012.02.03

▽『タブーの正体!』――マスコミが「あのこと」に触れない理由

川端幹人『タブーの正体! マスコミが「あのこと」に触れない理由 』(ちくま新書)

《ある事実の報道を「タブーにふれるから」と封じ込めた当事者が、なぜそれがタブーになっているのかを知らないという事態まで起きている。》(p.25)

著者は2004年に休刊した『噂の眞相』の副編集長をつとめていた。2000年に同編集部が右翼によって襲撃された事件の際には、肋骨を骨折させられ、これがトラウマとなったという。

同誌休刊後に、フリーになった著者は、さまざまなメディアで仕事をするようになったが、

《そこに広がっていたのは、かつて想像していた以上に「書けないこと」だらけの世界だった。》(pp.14-15)

本書は著者の体験から導き出された数々のタブーが紹介されている。それは、皇室から、政治家、原発、そして、芸能まで多岐にわたる。

[目次]
序章 メディアにおけるタブーとは何か

第1章 暴力の恐怖―皇室、宗教タブーの構造と同和タブーへの過剰対応
 私が直面した右翼の暴力
 皇室タブーを生み出す右翼への恐怖
 皇室タブーからナショナリズム・タブーへ
 宗教タブーは「信教の自由」が原因ではない
 同和タブーに隠された過剰恐怖の構造
 同和団体と権力に左右される差別の基準)

第2章 権力の恐怖―今も存在する政治家、官僚タブー
 政治権力がタブーになる時
 メディアが検察の不正を批判しない理由
 愛人報道、裏金問題で検察タブーはどうなったか
 再強化される警察・財務省タブー

第3章 経済の恐怖―特定企業や芸能人がタブーとなるメカニズム
 ユダヤ・タブーを作り出した広告引き上げの恐怖
 タブー企業と非タブー企業を分かつもの
 原発タブーを作り出した電力会社の金
 電通という、もっともアンタッチャブルな存在
 ゴシップを報道される芸能人とされない芸能人
 芸能プロダクションによるメディア支配
 暴力、権力の支配から経済の支配へ

第4章 メディアはなぜ、恐怖に屈するのか

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2012.02.02

▽女子アナが弁護士になるまで

菊間千乃『私がアナウンサー』(文藝春秋)

菊間千乃『私が弁護士になるまで』(文藝春秋)

生放送中の転落事故、未成年タレントとの飲酒事件、そして、弁護士への転身と、波瀾万丈な人生を送っているフジテレビの女子アナだった菊間千乃。事故後の療養中の不安、司法試験受験の期待と不安については、よく描かれていますね。

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2012.02.01

▽日本の病根に決別できるか?

古賀茂明x田原惣一朗『決別! 日本の病根』(オフレコ!BOOKS)

『日本中枢の崩壊』で知られる元経産官僚の古賀茂明と田原総一朗の対談をまとめたもの。原発、経産省の問題、公務員改革について、とこれまでさまざまなところで語られてきたことがまとめられているだけで内容としては、特に目新しいものがあるわけではない。

[参考]▽『日本中枢の崩壊』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-0342.html

それでも、経産省(旧通産省)が保守化したことに関する部分は興味深い。

《古賀 ……昔は「マクロ三官庁」という言葉があって、景気対策は経済企画庁、大蔵省、通産省の三省でやったものですけど。経産省は2005年くらいから、マクロ経済の話をぱったりしなくなった。……だから経産省は、いまある企業を守ることばかりに集中した。非常に後ろ向きの守りの姿勢になってしまった。》(p.100)

古賀によると、2004年にダイエーを産業再生機構で整理することに猛反対したのが経産省であり、それは、経産省からの天下りがダイエーに送り込まれていたからだったという――。

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