2012.04.08

▽アイデンティティ経済学とは?

ジョージ・A・アカロフxレイチェル・E・クラントン『アイデンティティ経済学』(山形浩生x守岡桜訳、東洋経済新報社)

アイデンティティ経済学を簡単に言うと、標準的な経済学が想定するモデルに、「社会的カテゴリー」、「規範と理想」、「アイデンティティ効用の損益」の三つの社会学的な要素を加味した上で考察するもの。

まず、「社会的カテゴリー」とは、男/女、白人/黒人、ある組織のインサイダー/アウトサイダーなどの、個人の属性(アイデンティティ)を意味する。

そして、「規範と理想」は、この属性(アイデンティティ)と仕事にまつわる、社会的な規範や理想のことである。ある仕事について存在する、「これは男のやる仕事である」、「女のやる仕事ではない」といった社会的な規範や理想のことである。

そして、「アイデンティティ効用の損益」とは、この「規範や理想」を守った場合と、逸脱した場合のメリット/デメリットを考慮することである。

本書は、まず、標準的な経済学のモデルを「プロセス1」として提示した上で、「プロセス2」として、三つのアイデンティティに関する要素を加味しながら順をおって説明していくというスタイルをとっており、「アイデンティ経済学」の入門書としてはわかりやすい。

ただし、「プロセス2」で加味されるアイデンティティや社会的規範などはアメリカのそれでしかないので、日本や他の社会に当てはめる際には、注意が必要。

[目次]
【第Ⅰ部 経済学とアイデンティティ】
【第1章 はじめに】
1・1アイデンティティ経済学の起源
1・2アイデアは波及効果を持つ

【第2章 アイデンティティ経済学】
2・1アイデンティティ、規範、効用関数
2・2社会的カテゴリー、理想、洞察
2・3すべてまとめると
2・4アイデンティティ経済学と需要/供給
2・5本書の構成

【第3章 効用におけるアイデンティティと規範】
3・1基本的な手法
3・2短期と長期の選択
3・3喫煙

【第3章 追記 ロゼッタストーン】
個人の選択と、効用関数の最大化
社会化の役割
厚生と効用の関係
構造と「アイデンティティの選択」
モデルとアイデンティティの定義
「べき」を定義する
個人主義的なアイデンティティと相互作用主義的なアイデンティティ

【第4章 今日の経済学での位置づけ】
4・1実験とアイデンティティ経済学
4・2アイデンティティ経済学、ゲーリー、ベッカー、嗜好
4・3経済学における規範
4・4規範はどこからくるのか
4・5まとめ

【第Ⅱ部 仕事と学校】
【第5章 アイデンティティと組織の経済学】
5・1労働インセンティブのアイデンティティモデル
5・2軍隊と一般市民のちがい
5・3モデルにおける動機
5・4軍隊
5・5民間の職場
5・6企業の下層部
5・7アイデンティティ経済と作業集団
5・8緩やかな監督:シカゴの機械工場
5・9厳しい監督:バンク配線作業観察室
5・10統計的証拠:アメリカ中西部の製造工場
5・11リンカーン・エレクトリック社:例証か反例か?
5・12軍隊の作業集団
5・13経済学と集団規範
5・14目的の共有と方針をめぐる結論
5・15まとめ:アイデンティティ経済学の応用と、導き出された新しい結論

【第6章 アイデンティティと教育経済学】
6・1生徒と学校のアイデンティティモデル
6・2モデルと証拠:ハミルトン高校からショッピングモール高校まで
6・3奇跡の学校と学校改革
6・4私立校 対 公立校
6・5人種と学校教育
6・6アイデンティティ経済学と教育の需給
6・7アイデンティティ、学校の目標、学校選び

【第Ⅲ部 性別と人種】
【第7章 性別と仕事】
7・1労働市場のアイデンティティモデル
7・2理論と証拠
7・3アイデンティティ経済学と新しい結論
7・4性差別禁止法
7・5性別と労働供給と家庭
7・6結論

【第8章 人種とマイノリティの貧困】
8・1従来の差別の経済学
8・2アイデンティティ理論の基盤
8・3貧困と社会的排除のアイデンティティモデル
8・4理論と証拠
8・5救済策の可能性
8・6政策:アファーマティブ・アクションと職業プログラム
8・7結論

【第Ⅳ部 今後の展望】
【第9章 アイデンティティ経済学と経済学の方法論】
9・1理論と証拠
9・2細かなことの観察
9・3因果関係
9・4実験
9・5「紳士的」な距離という問題

【第10章 結論、そしてアイデンティティが経済学を変える五つのやり方】
10・1個人の行動
10・2外部性
10・3カテゴリーと規範をつくる
10・4アイデンティティと後悔
10・5アイデンティティの選択
10・6結論


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