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2012年7月

2012.07.22

▽ぼくはお金を使わずに生きることにした

マーク・ボイル『ぼくはお金を使わずに生きることにした』(紀伊國屋書店)

ぼくはお金を使わずに生きることにした――。

本書は、イギリス人のマーク・ボイルという男性が、一年間、お金を使わずに生活することにチャレンジした記録である――。

と、聞けば、ロビンソン・クルーソーのような野生的な生活をイメージするかもしれないが、あにはからんや――。

生活に必要なものは、インターネットのサイトなどを通じて集めているため、思ったよりも文明的な生活をしています。自給自足の部分もありますが、文明社会に寄生している部分もあって、この点が本書の著者に対する賛否がわかれるポイントになっています。

まず、住むところは、不要になったトレーラー・ハウスを譲り受けます。そして、農場のボランティアとして働く代わりに、そこで生活させてもらう許可をえます。電話は、プリペイド式の携帯電話や農場の電話を使用(いずれも着信のみ)。パソコンも、譲り受けた部品で自作し(OSはLinux)、農場の無線LANを使わせてもらい、電気は、ソーラーパネル式の充電器を使ったとのこと。

食事は、もっぱら農場で栽培した野菜を食べています。また、生活に必要なものは、無料でもらったり、交換したりで、この際には、インターネットの交換サイトが活躍しています。

この実験は、2008年に行われたものですが(日本語版の出版は2011年11月)、福島原発事故後の言論状況をかさねあわせてみると、なかなか興味深い手記となっています。

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2012.07.17

▽鈴木宗男の『政治の修羅場』

鈴木宗男『政治の修羅場』(文春新書)

鈴木宗男が、中川一郎の秘書時代から経験してきた「政治の修羅場」を綴ったもの。鈴木宗男が見たありのままを率直に語っていると思う。

いまなお謎として残されているのが、鈴木宗男が深く関わっていたとされる「北方領土の返還」問題。本書によると、二島返還の方向でロシア側と話はまとまりつつあったという。

《小渕さんがあのとき倒れなければ、間違いなく解決できたはずだ。森政権がもう一年続いていても、やはり解決できた思う。
解決を一気に遠ざけてしまったのは、小泉政権の誕生だった。》(p.199)

真相が明らかになるのは、いつだろうか。

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2012.07.15

▽『ブラック・ジャック創作秘話』――手塚治虫の仕事場から

『ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~』(漫画:吉本浩二、原作:宮崎克、秋田書店)

漫画の神様といわれた手塚治虫でさえ、「終わったな」と言われた時期があったという。そのスランプを打ち破るきっかけとなったのが、1973年から連載された『ブラック・ジャック』である。

本書は、その『ブラック・ジャック』の創作にまつわるエピソードを紹介するとともに、改めて手塚治虫の人となり描いた「漫画」である。

手塚治虫というと、トキワ荘というアパートに若手の漫画家をアシスタントとして集め、後には、藤子不二雄、石森章太郎、赤塚不二夫などを輩出したことで知られている。

そして、本書で描かれている第二次黄金期にも、ブラック・ジャックのページ掲載された求人広告をみて、多くの漫画家の玉子が集まってきた。

彼らの多くも後に漫画家として大成した。たとえば、『コブラ』の寺沢武一、『テニスボーイ』小谷憲一、『Theかぼちゃワイン』の三浦みつる、などのほか、石坂啓、高見まこ、わたべ淳なども手塚のアシスタントとして働いていた。

自分の周りに集まってきた人材を食い潰すことなく、漫画家として育てたという点は、手塚の功績の一つと言えるかもしれない。

このほか、海外で漫画を書いたエピソードや地獄のアニメ進行、ギリギリまで漫画を面白くすることを考えていたことや新人漫画家ですらライバル視していたことなど、よく知られた話も出てくる。漫画として誇張されている点は多々あろうが、それでも読み物として楽しく読める。

▽神様・手塚治虫の伴走者たち
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/12/post-7cdb.html
▽アニメ作家としての手塚治虫
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/05/post-fbfb.html

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2012.07.14

▽『五輪ボイコット』――幻のモスクワ、28年目の証言

松瀬学『五輪ボイコット―幻のモスクワ、28年目の証言』(新潮社)

《モスクワ五輪は転機だった。
 五輪ビジネスが頭をもたげる。モスクワの不完全燃焼が、スポーツ・ビジネス大国・米国の一九八四年ロサンゼルス五輪で花開く。》(p.191)

1980年にモスクワで開催されたオリンピックに、日本代表団は不参加を決めた。

その前年、当時のソ連が行ったアフガニスタンへの侵攻に対し、西側諸国は抗議の意味をこめて、「五輪ボイコット」をしたからだ。

 当時の日本では、国威発揚の場としてのオリンピックと政治との関係が大きく議論された。

 ……という説明をきいても、まさに「歴史は遠くなりにけり」(笑)。

 ただ、ソ連は、1989年にアフガニスタンから撤退後まもなくして崩壊、また、その後のオリンピックは、より商業化が進み、むしろ政治からの独立をはたした、といえます。

 その意味でも、モスクワ五輪は大きな転機だったということができますね。

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2012.07.13

▽『世紀の誤審』――オリンピックからW杯まで

生島淳『世紀の誤審 オリンピックからW杯まで』(光文社新書)

まもなくロンドン・オリンピックが開幕しますが、オリンピックなどのスポーツで避けて通れないのが、「誤審」の問題。

本書『世紀の誤審』は、2004年に書かれたもので、ちょっと内容は古いのですが、日本人なら忘れられない日韓共催W杯やシドニー五輪の日本柔道における誤審などがレポートされています。

著者は、誤審の生まれやすい傾向の一つに「オリンピック」を上げています。その理由は、オリンピックでは世界中から審判が集められるために、審判のレベルにバラつきがある。準決勝や決勝のなどの肝心な試合を能力の低い審判が担当することも起こりえる。特に、国際大会の少ない競技は要注意という。

まあ、誤審も含めてスポーツだ、とはなかなか割り切れないようですね。

[目次]
第1章 末続慎吾はなぜスタートで注意されたのか?
第2章 シドニーで篠原信一が銀に終わった本当の理由
第3章 日韓共催W杯が遺したもの
第4章 ソルトレイクの密約
第5章 ヤンキース王朝は誤審から始まった
第6章 ミュンヘン、男子バスケットボール大逆転の謎
第7章 マイノリティの悲哀―ラグビーにおける誤審
第8章 日本の誤審は偏見から生まれるのか?
第9章 誤審の傾向と対策

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▽『偽薬のミステリー』――プラシーボの歴史をひもとく

パトリック・ルモワンヌ『偽薬のミステリー』(小野克彦、山田浩之、紀伊國屋書店)

プラセボ、あるいはプラシーボ(偽薬)とは、実際には薬としての効き目はないものでも、薬として摂取することで、効能があるように感じられるものを言います。

本書は、フランス人医師が、偽薬に関する歴史を解き明かすもので原書1996年に発表され、邦訳は2005年に刊行されました。

本書の白眉となるのは、現代の医療における「偽薬」の問題。

《処方数の三五~四〇%を占めるこれらの偽物とも本物ともつかぬ医薬品は、科学者としての医師を窮地から救い、やぶ医者をまねるような行為うまく免れさせるとともに、治療手段が種切れにならぬようにさせてくれる。手ぶらでは帰りたくない患者はそれで満足し、自分たちの望みがかなえられた上に明らかに科学的な方法で治療をうけたので、たちまち治るにちがいないとの思いを次第に強くするのである。どうやら契約は守られ、商取引はうまくいったわけである。》(p.169)

この部分は、大いに検証される必要があると思います。

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2012.07.12

▽欧州のエネルギーシフト

脇阪紀行『欧州のエネルギーシフト』(岩波新書)

福島原発の事故以来、日本では、原発の是非をめぐって、先鋭的な議論が戦わされています。

本書では、ヨーロッパ各国の原発と政治のかかわりを、その国の歴史的文脈を踏まえながら解説しています。

ドイツやイタリアのように、過去に一度、脱原発をめざしながらも軌道修正したものの、福島後にふたたび脱原発に舵をきるなど、一筋縄ではいかない難しい問題であることがあらためてわかります。

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▽「お手本の国」のウソ――ドイツ、フランス、フィンランド、イギリス、アメリカ、ニュージーランド

『「お手本の国」のウソ』(新潮新書)

明治維新以来、日本は欧米先進国を「お手本」としてキャッチアップを最優先課題として発展してきました。成長期を終えた国家になったいまでも、日本は、あいかわらず、「お手本」とする国を探し求めているような状態です。

本書は、そんな「お手本の国」について、実態はどうなのかをその国に滞在した経験のある(あった)書き手によるレポートです。日本人が思いこんでいるほど、すばらしいわけでもないんだよ、ということがわかります。

中島さおり 「少子化対策」という蜃気楼----フランス
靴家さちこ "世界の教育大国"に「フィンランド・メソッド」はありません----フィンランド
伊藤雅雄 「第三極」にふり回された二大政党制お家元----イギリス
伊万里穂子 私なら絶対に選ばない陪審裁判----アメリカ
内田泉 自然保護大国の「破壊と絶滅」の過去----ニュージーランド
田口理穂 「ヒトラー展」に27万人、ドイツ人と戦争責任----ドイツ
有馬めぐむ 財政危機、それでも食べていける観光立国----ギリシャ

最後のギリシャだけは、本書の趣旨とは反対に、「お手本にしたくない国のウソ」について書かれています。

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2012.07.11

▽『深海と深海生物』――美しき神秘の世界

『オールカラー 深海と深海生物 美しき神秘の世界』(独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)監修、ナツメ社)

海洋研究開発機構(JAMSTEC)という独立行政法人が監修した割には(失礼!)、面白くつくられた深海本。図表や深海魚の写真も豊富で、見所も多い。

[目次]
【巻頭特集】深海への挑戦
・深海探査の世界
・人はなぜ、深海に惹かれるのか
・有人潜水調査船「しんかい6500」
・深海探査をリードしてきた「しんかい6500」
・海中ロボット(ROV・AUV)
・夢の深海探査機を目指して

【第1部】海のなりたちと役割
第1章 海とはなにか?
・海の姿
・世界の海
・水の循環
・海の成分と色
・世界の海流
・海流
・波と潮
・海の誕生

第2章 海と地球環境
・海の役割
・海と気候
・二酸化炭素と海
・地球温暖化

【第2部】深海と深海底
第1章 深海の科学
・深海とは
・水深と水圧
・深海と光
・水温と塩分
・深海の音
・海水の密度

第2章 深海底の姿
・海底の地形
・音響測深
・世界の海底地形
・海底とプレート
・海嶺
・海底火山
・熱水噴出孔
・海溝
・日本周辺の海底
・地震
・深海微生物
・海底資源
・世界の海底資源分布

【第3部】深海生物の世界
第1章 海洋の生態系
・海洋生物の分類
・海の食物連鎖
・化学合成生態系
・深海生物の適応戦略

第2章 深海生物ギャラリー
・水深1000mまでの生物
・水深1000m以深の生物
・化学合成環境で暮らす生物

【巻末付録】海洋調査研究とJAMSTEC
・海洋調査研究の歴史
・地球深部探査船「ちきゅう」
・無人探査機「ハイパードルフィン」
・深海生物追跡調査ロボットシステム「PICASSO」
・深海曳航調査システム「ディープ・トゥ」
・大深度小型探査機「ABISMO」
・海洋観測ブイシステム「トライトンブイ」「m-TRITONブイ」
・自動観測フロート「アルゴフロート」
・スーパーコンピュータ「地球シュミレータ」

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2012.07.10

▽『中国スパイ秘録』――米中情報戦の真実

デイヴィッド・ワイズ『中国スパイ秘録: 米中情報戦の真実』(石川京子、早川麻百合訳、原書房)

アメリカのスパイ戦争といえば、東西冷戦時の社会主義国との戦いが定番でした。

しかし、本書のテーマは米中のスパイ戦争。

たしかに社会主義崩壊後には、国家としての規模が小さくなったロシアに比べると、高度経済成長を続ける中国は、アメリカにとって新たな脅威とみることができます。

[目標]
序章
第1章 千の砂粒
第2章 パーラーメイド
第3章 リクルート
第4章 二重のゲーム
第5章 読み終えたら完全に隠滅せよ
第6章 『ミスター・グローブ、大変だ!』
第7章 虎に乗って――中国と中性子爆弾
第8章 飛び込み
第9章 キンドレッド・スピリット
第10章 セゴパーム
第11章 トラブルパラダイス
第12章 イーサリアル・スローン ~スパイになったことがないスパイ
第13章 暗雲
第14章 逆スパイ
第15章 ロイヤル・ツーリスト
第16章 ニクソンと香港ホステス
第17章 アヌビス
第18章 ゲームの終わり
第19章 イーグル・クロウ
第20章 レッドフラワー
第21章 サイバースパイ
第22章 終章
あとがき
訳者あとがき
出典と注釈

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2012.07.09

▽『チャイナ・ナイン』――中国を動かす9人の男たち

遠藤誉『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』(朝日新聞出版)

中国は「チャイナ・ナイン」と呼ばれる9人の人物の集団指導体制によって支配されている――。

という視点で書かれているのが本書です。amazonの紹介によると、本書の執筆時点(2012年2月)で、先頃、逮捕された薄熙来の更迭を予想していたたそうです。

ところで、日本に流れてくる中国情報というと、いろいろとメディアのバイアスがかかっていることが多いですよね。ところが、英語圏の記事などで情報を得ようとすると、中国人名前の英文表記がわからなかったりします。

ということで、本書で紹介されている「チャイニーズ・ナイン」と、その名前の英語表記を自分用のメモとして、記しておきます。

No.1
胡錦涛(国家主席)
Hu jin-tao

No.2
呉邦国(全人代常務委員会委員長)
Wu Bang-guo

No.3
温家宝(国務院総理=首相)
Wen Jia-bao

No.4
賣慶林(全国政治協商会議主席)
Jia Qing-lin

No.5
李長春(中央精神文明建設指導委員会主任)
Li Chang-chun

No.6
習近平(国家副主席)
Xi Jin-ping

No.7
李克強(国務院副総理=副首相)
Li Ke-qiang

No.8
賀国強(中央規律検査委員会書記)
He Guo-qiang

No.9
周永康(中央政法委員会書記)
Zhou Yong-kang

本書で残念なのは、「~らしい」、「~ようだ」という伝聞調が多いのが気になると言えば気になります。

また、ちょっと驚いたことに、「本書執筆に関しては2011年12月20日頃に2012年1月末の脱稿という形で朝日新聞出版から依頼されたため、十分な推敲ができず、私の勘違いや知識不足が招いたまちがいが多々あるかもしれない。」(p369)とのこと。

それゆえに内容に関して、多少は割り引いて読む必要があるかもしれませんが、それでもとりあえず、中国の人治主義の一端を、かいま見ることができます。

[目次]
序章  権力の構図
第一章 中国を動かす9人の男たち
第二章 次の中国を動かす9人の男たち
第三章 文化体制改革
第四章 政治体制改革
第五章 対日、対外戦略
終章  未完の革命

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2012.07.08

▽現代中国の政治――「開発独裁」とそのゆくえ

唐亮『現代中国の政治――「開発独裁」とそのゆくえ』(岩波新書)

1980年代に始まった中国の改革開放路線――。

30年以上にわたり、年平均9%の成長を続けて、2010年には、GDPで世界二位の経済大国に躍り出た。

政治的には、共産党の一党独裁を維持しつつ、経済成長を続ける中国を、著者は「開発独裁」の一形態と見なしている。本書によると、「開発独裁路線」とは、

《市場志向の経済政策と権威主義体制の結合を特徴とする。具体的には、政府は経済成長を最優先課題として掲げると同時に、求心力の制限を正当化しようとする。》(p.ii)

「開発独裁路線」は、欧米型の近代化路線とも、社会主義型の近代化路線とも異なり、民主化以前の台湾や韓国で採られた路線という。

そして、「開発独裁路線」は、経済発展最優先の段階、社会政策強化の段階、民主化推進の段階という三つのステップを踏むという。現代の中国は、第二段階の社会政策強化の段階を迎えつつある、というのが著者の分析である。

[目次]
はじめに――中国の政治変容をどう見るか

第1章  一党支配と開発独裁路線
  1 一党支配体制と強い国家
  2 改革開放路線の推進
  3 中国の「開発独裁」の特徴

第2章 国家制度の仕組みと変容
  1 疑似民意機関としての人民代表大会
  2 開発国家の行政制度
  3 「法治」途上の司法制度   

第3章 開発政治の展開   
  1 市場経済化と格差の拡大
  2 大衆の経済的な維権活動
  3 調和社会へ向かう社会政策の推進        

第4章 上からの政治改革         
  1 上からの政治改革戦略
  2 「中国式民主主義」の論理と内実
  3 緩やかな自由化              

第5章 下からの民主化要求       
  1 民主化の担い手としての中間層
  2 市民社会の活動
  3 低調期の民主化戦略

おわりに――民主化の展望は開かれるか

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2012.07.07

▽吉越浩一郎「残業ゼロ」の仕事力

吉越浩一郎『新装版 「残業ゼロ」の仕事力』(日本能率協会マネジメントセンター)

本書の著者、吉越浩一郎氏は、下着メーカーのトリンプ日本法人の社長として、残業ゼロを実現したことで知られている。
2006年に、引退した吉越氏は、2007年に『「残業ゼロ」の仕事力』を上梓、本書は、その新装版である。

残業時間の多さが気になっていた吉越氏は、社長になると「ノー残業デー」を導入。終業時間になると、吉越氏自らが部屋の電気を消して回る。違反があったら、翌日に反省会を開かせ議事録を提出させる、という徹底ぶり。

《「残業ゼロ」を推進するにあたって、うまくいくコツは、ただ一つ。例外を作らずに徹底することです。》(p.7)

そして、「残業ゼロ」が定着した後でも、トリンプは毎年、増収増益を続けていたそうです。仕事の仕方に対する考え方など、いろいろと示唆に富む内容です。

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2012.07.06

▽地球一周空の旅――上空から眺める55の絶景

『地球一周空の旅―上空から眺める55の絶景』(パイインターナショナル)

なんか似たような企画があったような気もしますが(笑)、意外な絶景も掲載されていて、それなりに楽しめます。

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2012.07.05

▽派遣会社もツライよ――『仕事がない!』

増田明利『仕事がない!-求職中36人の叫び』(平凡社)

著者は、雇用問題を専門とするジャーナリスト。

これまでにも、『今日、ホームレスになった』シリーズや、『今日から日雇い労働者になった』、『今日、派遣をクビになった』などを発表している。

本書は、なんらかの理由で失業し、求職活動を続けるものの、いい仕事が見つけられない36人のルポである。

内容は、著者の前作や、マス・メディアなどで報じけられてきたものとさほどかわらないが、派遣会社に勤務していた男性の証言は興味深い。

《「わたしは〇五年の六月に転職して派遣業界に入ったわけですが、四半期ごとに売上が伸びていきました。会社としても積極的な営業展開をしたけど、それだけ需要があったということだと思う」》(p.86)

忙しさのピークは、2006年の下期から、2008年の初めの頃で、小売業や飲食業での人手不足感が強くなり、時給も短期間で上がっていったという。大手のコンビニが、「一日一時間でもOK」というチラシを入れることもあったという。

こうした好景気が暗転したのが2008年9月のリーマン・ショックで、派遣会社の顧客だった企業は離れていった。中には、派遣会社に給料を払わずに倒産した企業もあったという。

不況による就職難で、企業は派遣会社を介さなくても人を雇えるようになり、派遣会社の多くが契約を打ち切られ、倒産や廃業も続いている。

この証言者が勤めていた派遣会社も倒産したため、転職活動をしているが、派遣業界自体が不況におそわれている。また、元派遣会社勤務というキャリアでは、事業会社の人事部には採用されないという――。

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▽ナチ戦争犯罪人を追え

ガイ・ウォルターズ『ナチ戦争犯罪人を追え』(高儀進訳、白水社)

イギリス人の小説家であり、ジャーナリストでもあるガイ・ウォルターズが、いわゆるナチ・ハンターの活動を検証したノンフィクション。

1945年にドイツが連合軍に対して降伏すると、ナチ将校の多くは、イタリアやアルゼンチンなどに逃亡した。本書では、アイヒマンなどの有名なナチ逃亡者を追い詰めるさまが、小説さながらにスリリングな筆致で描かれている。

また、本書において、いささか衝撃的なのは、ナチ・ハンターとして世界的に有名なサイモン・ウィーゼンタールの証言の多くは、虚言や誇張されたものだったということが実証されている点。

また、ウィーゼンタールの証言に基づいて、フレデリック・フォーサイスが書いた小説「オデッサ・ファイル」に登場するナチ逃亡支援組織「オデッサ」も、ほぼフィクションであったことが明らかにされている。

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2012.07.04

▽『絵が語る知らなかった幕末明治のくらし事典』

本田豊『絵が語る知らなかった幕末明治のくらし事典』(遊子館・歴史図像シリーズ)

本書はタイトルどおり、幕末と明治の庶民のくらしぶりを、現存している絵で紹介するもの。思った以上に、描かれた「幕末明治」が多いことに驚かされます。

紹介されているのは、歴史上の有名人から、庶民の衣食住まで多岐にわたります。

かならずしも本書のメイン・テーマではないのでしょうが、印象に残った記述を一つだけ紹介しておきますね。

《江戸時代には、全国どこの藩でも大名は権力があるようでいてなかった。それは実際の政務は家老という官僚が支配していたからである。だから大名が、志村けんが演じるような「バカ殿」であっても政治が動いていったのは、家老とその下の官僚機構がしっかりしていたからである。それは将軍も同じであって。》(p.78)

[目次]
第1章 幕末から明治への探訪
第2章 文明開化の探訪
第3章 新風俗の探訪
第4章 明治政府の施策と社会探訪
第5章 事件・災害の探訪
第6章 都市生活の探訪
第7章 地域・農村の探訪
第8章 教育の探訪
第9章 庶民運動・マス・メディアの探訪
第10章 軍隊と戦争の探訪

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2012.07.01

▽震災に強い家とは

日経ホームビルダー『震災に強い家 (東日本大震災の教訓[住宅編])』(日経BP社)

東日本大震災の直後に、被災地に入り、地震や津波に耐えた住宅と、そうでない住宅の比較を行ったもの。

同じ住宅メーカーでも、被害にあったりあわなかったりと、さまざま要因が明暗を分けています。

ただ、本書は、東日本大震災の資料はさほど多くなく、過去に起きた他の震災の資料で補完されているのがちょっと残念。

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