2012.08.15

▽安田佳生『私、社長ではなくなりました。』――ワイキューブとの7435日

安田佳生『私、社長ではなくなりました。 ― ワイキューブとの7435日』(プレジデント社)

まだ東日本大震災と福島原発事故による不安が渦巻いていたさなかの2011年3月30日に、民事再生法の適用申請を行った会社があった。

《「期待してフォローしていただいた方、申し訳ありません。できる社長とは言えませんでした。」
 翌三十一日朝の私のツイートである。》(p.186)

倒産のニュースがツィッターで広まり、さらに、それに対する社長のお詫びのツイートがネットニュースで広まったのは、いかにも、このワイキューブらしい事態だったといえるかもしれない。

1990年に創業されたワイキューブは、就職情報誌、就職情報サイト、採用コンサルティング、企業のブランディング支援とビジネスの軸足を少しずつかえながら成長してきた。

就職情報誌に「就ナビ」とつけて、いまはやりの「~ナビ」の先駆けとなったり、いちはやく就職情報サイト「就職コンパス」を開設するなど、先見の明はあったといえる。

また、従来型の電話営業が苦手のために、DMやメルマガを活用。さらに、タクシー広告、雑誌のタイアップ記事、採用に関する書籍、ワイキューブ自体を人気企業ランキング上位に食い込ませる、オフィスにバーやワインセラーをつくるなど、あの手この手で、ワイキューブの名前を売り込んでいく。

社員の給料も実績よりも期待を重視してあげたり、さまざまな福利厚生を提供したり、端から見たら放漫と言わざるをえない経営は、2007年頃には行き詰まる。銀行との交渉によって、債務の見直しを行い、再建の目処がたったところに、2008年秋のリーマンショックが襲いかかる。

結局そこから立ち直れずに、2011年の倒産に至る。

マスコミの注目を集めるような立ち回りのうまさはあったものの、本業の部分で、やっぱりどこか歯車が回っていなかったことはうかがえる。敗軍の将が、率直に語った本書から、学べることも多いと思う。

[目次]
まえがき

1章 満員電車からの脱出
 はじめての疑問
 勉強のできない子だった
 吊り革戦争
 アメリカへ
 シャンパンとイチゴ

2章 営業カバンからの脱出
 リクルート
 あめんぼ、赤いな、アイウエオ
 ワイキューブ
 東京進出
 グアム、そしてラスベガス

3章 劣等感からの脱出
 あせり
 新宿アイランドタワー
 就ナビ創刊
 坂道
 デジタル媒体への賭け

4章 アポ取りからの脱出
 アルバイト部隊の解散
 採用コンサルティング事業
 タクシー広告
 人気企業ランキングへのこだわり
 常識への反抗

5章 資金繰りからの脱出
 借り入れ
 ブランド戦略
 ワインセラー
 徹底した空中戦
 利益が先か、給料が先か

6章 引け目からの脱出
 頭打ち
 銀行回り
 ケチケチ大作戦
 はじめてのリストラへ
 誤算

7章 社長からの脱落
 リーマン・ショック
 再び銀行回り
 民事再生
 ある役員からのひと言
 私、社長ではなくなりました。

あとがき


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