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2012年9月

2012.09.30

▽ゼロから始める都市型狩猟採集生活

坂口恭平『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(太田出版)

路上生活者のフィールドワークで知られる坂口恭平が、路上で暮らす人々の「都市型狩猟採集生活」のノウハウを紹介したもの。

こういう境遇でもたくましく生きていけるんだな、と実感させられます。

pha(ファ)さんの『ニートの歩き方』と同じような楽しさがあります。

▽ニートの歩き方――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/09/post-5b3f.html

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▽『政治家やめます。』――ある自民党代議士の十年間

小林照幸『政治家やめます。』(毎日新聞社)

本書の舞台は、愛知県の知多半島。

そして、本書の主人公は、ここを選挙区として、1990年から1999年まで、三期十年代議士をつとめた久野統一郎。

サラリーマンだった統一郎は、父親の地盤を引き継ぐかたちで、いやいや代議士になり、結局、十年で引退してしまう。

本書は、中央政界から遠く離れた、地方の陣笠議員の日常と心理を、淡々と率直に綴ったものである。切った張ったの世界とはまた別の政界のリアリティがかいま見えて面白い。

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2012.09.23

▽アメリカにおける調査報道の行方――『官報複合体』という書名は不釣り合い

牧野洋『官報複合体』(講談社)

『官報複合体』という書名から、日本の記者クラブの問題点をえぐった内容を想像するが、そうした内容は、前半の数章に限られていて、ちと不釣り合い。

本書の主要な内容は、日本と同じように新聞社の経営危機が叫ばれているアメリカの調査報道の現状のレポートと、その行方について考察したもの。総悲観というほどではなく、多少は、将来に希望がもてる内容となっている。

著者は違うものの、本書は、

▽小林弘人『新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/04/post-45da.html

のアンサーソングとして読むことができるかもしれない。

[目次]
序章 東日本大震災「発表報道」の大問題
第1章 内部告発は犯罪で権力は正義
第2章 リーク依存症の大新聞
第3章 権力側は匿名の不思議
第4章 官報複合体を支える記者クラブ
第5章 市民目線の報道と記者クラブの報道
第6章 消費者の守護神
第7章 調査報道vs.日本型特ダネ
第8章 調査報道の雄
第9章 新聞の救世主
第10章 ニュースの正確性
第11章 一面トップ記事の条件
第12章 ピュリツァーへの回帰

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2012.09.17

▽坂口恭平という生き方――『独立国家のつくりかた』

坂口恭平『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)

《先日、とある銀行からトークショーに呼ばれた。僕は銀行が関わっている住宅の35年ローンを徹底的に批判している人間である。しかし、そんな僕にトークの依頼が来たのだ。……もう銀行や住宅メーカーも実は気付いている。そんな家の売り方、国民の借金によって成立している経済の在り方が間違っていることを。》(p.207)

坂口恭平とは何者か?

2011年5月10日、新政府の樹立を宣言し、初代内閣総理大臣に就任した男。

大学の建築学科を卒業し、路上生活者のフィールドワークをもとにした写真集や著作を出版し、歌や踊りも披露するパフォーマーでもある。

そんな坂口恭平の考え方と、なぜ新政府をつくったのか、そして何をめざしているのかを述べたのが本書である。

もちろん坂口の活動は、ウェブでもフォローすることができる。
http://www.0yenhouse.com/movie/

[目次]
プロローグ ドブ川の冒険
第1章 そこにはすでに無限のレイヤーがある
第2章 プライベートとパブリックのあいだ
第3章 態度を示せ、交易せよ
第4章 創造の方法論、あるいは人間機械論
終 章 そして0円戦争へ
エピローグ 僕たちは一人ではない

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2012.09.16

▽3月11日の記憶――堀井憲一郎『いつだって大変な時代』より

堀井憲一郎『いつだって大変な時代』(講談社現代新書)

《3月11日の夜、東京に流れていた空気は、いまから想像できるものとはずいぶん違っていた。
 「想像できるもの」よりもずっとのんびりしていた、と言えるだろう。……
 変が来たのは、翌12日原子力発電所が爆発してからである。他人事ではなくなった。私の記憶によると、それを契機としていきなり災害が身近になり、ふつうの生活を送ろうとしていた自分たちを恥じて、東北の人に遠慮して、東京の人は自分たちの被害のことをまったく何も言わなくなった。》(pp.209-210)

本書は、コラムニストの堀井憲一郎が2010年9月より、メールマガジンに連載していたコラムをまとめたものである。この連載は、2011年月まで続いたため、第7章と第8章は、ほぼリアルタイムで東日本大震災の記憶が記されている。

上記の引用部は、新書にまとめられる際に書き加えられた部分だが、はっきりと3月11日の東京の記憶を再現した文を見るのは、これが初めてである。

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▽ニートの歩き方――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法

pha『ニートの歩き方』(技術評論社)

著者のpha(ファ)さんは、いわゆる「ニート」である。

京都大学を卒業後、いったんは就職したものの、毎日仕事をする生活に嫌気がさして退職し、そのまま上京。それ以来、シェアハウスに、仲間のニートともに暮らしている。

主な収入は、ブログのアフィリエイト、せどり、友人の仕事の手伝い、雑誌などの原稿、メディアの取材の出演料など。さらに、ネットを通じてのカンパや支援物資をもらったりすることもあるという。

こうしたニートの生活に共感するかどうかは、さておいても、インターネットの普及がこうした生活を可能にしているのは言うまでもない。もちろん、昔から仕事もしないでぶらぶらしている大人はいたかもしれないが、しかしphaさんのライフスタイルは、明らかにインターネットによって支えられている。

つまり、ようやくインターネットは、メディアの代替物としてだけでなく、社会インフラとしても機能し始めたということを、本書は示しているのだと思う。

[目次]
はじめに

第1章 ニートのネットワーク―僕がニートになった理由
「ニート=暇」「ニート=孤独」じゃない
僕が仕事を辞めるまで
ネットで得られる三つのもの
ソーシャルネットとゆるいつながり
インターネットの恵みで生きる
ネットでお金をもらった話
ネットで物をもらった話

第2章 ニートの日常風景―コミュニティとゆるい生活
集まってると死ににくい
シェアハウスとニート
猫とニート
世間のルールに背を向けろ
寝たいときは寝たいだけ寝ればいい
だるい
ニートの才能

第3章 ニートの暮らしかた―ネット時代の節約生活法
インターネット
住居について
食生活について
お金の支払い
証明書・保険・年金
仕事について
どうしても困ったら
小銭稼ぎ
ニートのためのブックガイド

第4章 ニートのこれから―社会・人間・インターネット
ニートは自己責任か?
働かざる者食うべからずって言葉が嫌いだ
もし世界が働きアリばかりだったら
ネットワークとオープンソース
ニートの一生

あとがき

Special Thanks to Internet

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▽そんなんじゃクチコミしないよ

河野武『そんなんじゃクチコミしないよ。 <ネットだけでブームは作れない!新ネットマーケティング読本>』(技術評論社)

《ぼくたちがまず認めるべきは、「ネットで少々話題になったところで、世間の大多数の人は知らない」ということです。ブログが炎上してもウォークマンは売れているし、広告賞を受賞したナイキのネットキャンペーンでさえ、ほとんどの人は知りません。》(p.21)

本書の著者である河野武は、ネット企業でマーケティングを担当していた、その道の専門家で、ブログも開設している。

▽smashmedia
http://smashmedia.jp/blog/

本書は河野のブログのエントリーの中から、ネット・マーケティングに関する部分をまとめたもので、2008年に出版されている。2009年春に話題となった中川淳一郎の『ウェブはバカと暇人のもの』においても紹介されている。

▽アメーバニュース編集者が語るネットのバカたち
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/04/post-13ba.html

企業がブロガーなどを使ったネット・マーケティングには、あまり期待するなというのが、本書の主張である。また、2012年になって、急に注目を浴びるようになったステマ(ステルス・マーケティング)に対しても批判的であり、そのスタンスは揺らいではいない点は注目に値する。

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2012.09.08

▽東電撤退の真実――『原発危機 官邸からの証言』

福山哲郎『原発危機 官邸からの証言』(ちくま新書)

本書は、菅内閣で官房副長官をつとめた福山哲郎が、東日本大震災と福島原発事故に対応した際に記録した「福山ノート」をもとに構成されている。

官房副長官は、政府の危機対応に際しては、総理大臣、官房長官に次ぐナンバースリーの地位にあり、官邸サイドの証言として貴重なものである。

この「福山ノート」の内容については、すでにさまざまなかたちで伝えられているが、

▽大鹿靖明『メルトダウン』――福島第一原発事故ドキュメントの決定版
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/02/post-b55c.html

やはり焦点となるのは、福島原発事故における東電撤退の真実につきるだろう。

3月12日の一号基爆発、13日の3号基爆発と続き、14日夕方には、1~4号基すべてが危機的な状況に陥っていた。

この頃には、東電の清水正孝社長から、複数の官邸メンバーや海江田経産大臣に、「撤退したい」との電話がかかってくるようになる。

この要請については、後に、さまざまな事故調査委員会で取り上げられるが、東電の言い分は、「全面撤退ではなく、一部撤退だった」というもの。

しかし、福山によると、官邸は「全面撤退」と受け留めたという。15日の午前3時に、菅首相に伝え「撤退はありえない」ことを確認。午前4時に、官邸を訪れた清水社長にそれを伝え、午前5時半には、今度は、菅首相が東電に乗り込んでいく。ちょうどこの頃、2号基のサプレッションチェンバーと、4号基の建屋が爆発した――。

この時、菅首相ではなかったら、歴史はどうなっていたのだろうか? 菅首相だったからこそ、東電撤退を阻止できたのではないか?

政治家には、それぞれの天命があると信じている私としては、支持率低下と、献金問題で退陣寸前まで追い込まれていた菅首相が、3月11日の大震災発生でかろうじて延命し、そして、与えられた役割を果たしたのだろう――と思いたいところである。

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2012.09.01

▽全日本ゆるキャラ公式ガイドブック

みうらじゅん『全日本ゆるキャラ公式ガイドブック』(扶桑社)

「ゆるキャラ」とは、地方自治体などが町おこしのためにつくった、ゆるゆるのキャラクターのことで、みうらじゅんが命名したものである。

彦根のひこにゃんの登場で一気にブームとなった。本書は、2009年の刊行のため、あの「せんとくん」も収録されている。

しかし、まあ、日本中、「ゆるキャラ」だらけ……。あまり野暮なことは言いたくありませんが、しかし、ちょっと税金の無駄遣いなものものなくはないですね……。

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▽一次産業×デザイン=風景――『ニッポンの風景をつくりなおせ』

梅原真『ニッポンの風景をつくりなおせ―一次産業×デザイン=風景』(羽鳥書店)

『ニッポンの風景をつくりなおせ』というタイトルから、大震災や原発事故に被災した日本の再興といった連想をしてしまいますが、本書の刊行は2010年のため、もちろんそうした視点はありません。

本書は、デザイナーの梅原真が、次のような考え方にもとづいて活動してきた、その記録である。

一次産業にDsigneをかけあわせる
▼新しい価値が生まれる
▼新しい価値は経済となる
▼経済がうまくいけばその一次産業は生きのびる
▼そして風景が残る。

梅原がこう考えるようになったきっかけは、1987年に土佐の漁師を助けるために、産地直送の「土佐 一本釣り 藁焼きたたき」のデザインを行ったことによる。廃業寸前だった漁師は、8年で年商20億円にまで急成長する。

本書には、梅原が手がけた「一次産業×デザイン」が数多く収録されている。

興味深いのは、105ページに掲載されているラフスケッチ。柏崎市の依頼でつくったものの、結局ボツになったポスターには、「げんぱつにげんこつ」と書かれていた――。

やはり、『ニッポンの風景をつくりなおせ』のアフター3.11版が求められているのだと思います。

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