書評2012年

2012.12.31

▽2012年に当ブログで売れた本

2012年も、もうすぐ終わります。2012年に当ブログで売れた本十傑を紹介します。

まあ、ランキングをつけるほどは売れていないので、あくまでも十傑ということで・・・・・・。

今回は、過去に何度も十傑に登場してきた「定番の十傑」と、それ以外の今年紹介した本の十傑にわけて紹介したいと思います。

まずは、「定番の十傑」から(当ブログでの紹介順)。

▽インテル・インサイドとアップル・アウトサイド――技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-feeb.html

▽シビックプライド――ヨーロッパにおけるケーススタディ
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/12/post-d65f.html

クックパッドのビジネス・モデル
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/news/2011/05/post-b35e.html

▽『フェリカの真実』――ソニーが技術開発に成功し、ビジネスで失敗した理由
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-9895.html

▽隠れた名著『すぐれた意思決定』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/08/post-a53d.html

▽ユニクロの本質とは?――『ユニクロ帝国の光と影』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-fdd6.html

▽PhrasalVerb Organizer
英語力強化法Vol.11 英会話で難しいのは簡単な単語
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2010/08/vol11-5eb1.html

▽『働かないって、ワクワクしない?』――職場が嫌いな二十五の理由
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/07/post-b1d7.html

▽『市町村合併で「地名」を殺すな』――「さいたま市」は最低の地名だそうです
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/07/post-dc43.html

▽落合監督ご苦労様でした――『采配』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/11/post-ddf4.html

続いて、2012年に紹介した本で売れた十傑(当ブログでの紹介順)。

▽年金倒産――企業を脅かす「もう一つの年金問題」
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/01/post-d7ee.html

▽大鹿靖明『メルトダウン』――福島第一原発事故ドキュメントの決定版
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/02/post-b55c.html

▽日本の地方財閥
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/03/post-1c2a.html

▽コンビニだけが、なぜ強い?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/04/post-9c53.html

▽ウエストミンスター・モデルとは何か?――『イギリス矛盾の力』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/04/post-9c53.html

▽派遣会社もツライよ――『仕事がない!』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/07/post-f8da.html

▽『約束の日』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/10/post-b2a3.html

▽『戦後史の正体』――通説に挑戦した意欲作
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/10/post-fa67.html

▽放射能雲の下で何が起きたか――『原発難民』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/10/post-f466.html

▽64――警察が隠し続けた失態とは?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/11/64-e32e.html

当ブログで取り上げる本のコンセプトは、基本的には「クロス・カルチュラルなノンフィクション」です。もちろん例外もありますが、ノンフィクションで異文化がクロスするような内容のもの、あるいは、時代の転換点(古い文化と新しい文化が衝突、交錯する時代)を分析するようなもの、が中心です。

献本もお待ちしていますので(笑)、ここをご覧になられている出版社の方がいらっしゃったら、右カラム上の「メール送信」のところをクリックしてご連絡いただければ幸いです。

では、これからもいっそうの内容充実をめざして精進しますので、今後ともご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

[参考]
▽当ブログで売れた本――2009年
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/12/2009-dd61.html
▽当ブログで売れた本――2010年上半期
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/08/2010-0d88.html
▽当ブログで売れた本――2010年下半期
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/12/2010-9982.html
▽当ブログで売れた本――2011年原発関連
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/05/2011-fe88.html
▽当ブログで売れた本――2011年上半期
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/2011-fe42.html
▽2011年に当ブログで売れた本
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/11/2011-b0d5.html
▽当ブログで紹介した本――東日本大震災・福島原発事故から一年
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/03/post-05d4.html
▽当ブログで売れた本――2012年上半期
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/06/2012-a743.html

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2012.12.30

▽『勝てないアメリカ』――「対テロ戦争」の日常

大治朋子『勝てないアメリカ――「対テロ戦争」の日常』(岩波新書)

《「持たざる者」が、「持てる者」を振り回す。小さな蜂の群れが、巨像を襲う。それがこの戦争の日常だ。これが非対象の戦争なのだ。》(p.176)

本書は、アメリカの対テロ戦争がなぜ勝利できないか、という問いについて、あまり報道されてこなかった影の部分を地道に掘り起こすことによって、探っていく。

アフガニスタンに駐留する米軍に同行取材する過程では、乗っていた装甲車が、IED(Improvised Explosive Device=即席爆破装置)と呼ばれる簡易地雷を踏み大破する。シートベルトのおかげで命拾いした著者は、アメリカの対テロ戦争の本質を味あわせられることになる。

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2012.12.29

▽「アラブの春」の正体――欧米とメディアに踊らされた民主化革命

重信メイ『「アラブの春」の正体 欧米とメディアに踊らされた民主化革命』(角川oneテーマ21)

《民主化を求めて起きた革命が成功し、いざ公正な選挙を行うと、保守的なイスラム主義の政党が勝ってしまう。》(p.37-38)

2010年12月、北アフリカのチュニジアで始まった民主化革命は、翌年には、エジプト、リビアへと伝播し、さらに、中東のバーレーン、イエメン、シリアへと広がった。

「アラブの春」と呼ばれた一連の民主化革命は、実は、欧米各国の思惑や、メディアによってつくり出された偽りの民主化だった――という視点から、革命の流れを検証した労作。

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▽『赦す人』――団鬼六の生涯

大崎善生『赦す人』(新潮社)

《小説にもノンフィクションにも共通していえることだが、題材と文体が調和したときにこそ書かれたものは最大の効果を発揮するのである。そういう意味で鬼六がSM断筆宣言以降の題材を将棋に求めたのは、やはり作家としての天性の資質としか言いようがない。》(p.314)

SM小説の大家として知られた団鬼六の生涯を、小説家であり、棋士の伝記などでも知られる大崎善生が描いたもの。

想像通りの波瀾万丈な人生なのですが、意外と、団鬼六について知っている自分に驚いています(笑)。

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2012.12.22

▽『検証 東電テレビ会議』

朝日新聞社『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版)

《その場にいる社員のポケットマネーを集めて、原子炉制御に必要なバッテリーの買い出しに量販店に走る――。そんなことはもちろん、マニュアルには書かれていない。「臨機の工夫と判断で事態を打開するための努力がなされた例」の一つといえるかもしれない。が、裏返して考えれば、それは、組織としての東京電力が震災発生3日目の3月13日朝までそんな簡単なことさえ実行しなかったという事実をも浮かび上がらせている。》(p.109)

本書は、東電が部分的に公開したビデオ会議の内容を、朝日新聞の取材チームが検証したものである。

原発事故の初期段階では、原子炉内に水を供給するために必要な消防車を調達することができずに混乱している様子や、機器類を動かすために必要なバッテリーを調達するために試行錯誤されている様子が描き出されている。

事故当時に報道されていなかった舞台裏では、喜劇のようなドタバタが繰り広げていたことがよくわかる。

公開されたビデオは、「プライバシー保護」を名目として、映像にぼかしや、音声にピー音が、加えられている。東電の原発事故への対処の実態を明らかにするためには、ぼかしやピー音のない、すべてのビデオの公開が待たれるのは言うまでもない。

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2012.12.01

▽『ウェブで政治を動かす!』

津田大介『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)

《筆者はニコニコ生放送やユーストリームなどの動画サービスの番組で司会を行うことも多いが、それに出演する政治家たちを見ていると、誰もが初めはこうした動画メディアに出ることを怖がっていることがわかる。……ところが、放送が終わってみれば、みなさん「これ面白いね。また呼んでよ」と言ってにこやかに帰っていく人がほとんどだ。これは、どういうことなのだろう。》(p.183)

11月29日夜、ニコニコ生放送において、来るべき総選挙に向けての党首討論が行われた。総来場者数が140万3551人、書き込まれたコメント数は、55万2017だったという。

依然として、選挙期間中のインターネットの利用は法律で禁止されているものの、明らかに政治家はインターネットの持つ自由さに気づき、活用し始めている。

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2012.11.30

▽『東電国有化の罠』

町田徹『東電国有化の罠』(ちくま新書)

《「あの時、金融庁が(主力銀行)に『貸してやれ』って言ってしまったんだ」》(p.15)

なぜ東電は国有化されたのか?

この謎を、核心をつく関係者の証言をもとに、解き明かしていく。

福島原発事故の舞台裏を、経済の面から解き明かした迫真のレポートである。

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2012.11.18

▽ナインティナインの上京物語

黒澤裕美『ナインティナインの上京物語』(大和書房)

タイトルに惹かれて、本書を手に取りました。

「上・京・物・語」(1994年)と言えば、「シングルベッド」がヒットする前のシャ乱Qの曲で、フジテレビの深夜番組「殿様のフェロモン」のオープニングのテーマ曲にも採用されていました。

その「殿様のフェロモン」に出演していたのが、当時売り出し中のお笑いコンビ「ナインティナイン」でした。

本書の著者は、奇妙な縁から一年間だけナインティナインのマネージャーを務めていたイラストレーターで、本書は著者自身とナインティナインの上京物語を綴ったものです。

もともとナインティナインが所属していたユニット「天然素材」では、吉本興行がイチ押ししていたのは「雨上がり決死隊」だったのが、たまたまナインティナインが東京キー局のディレクターの目に止まり、大阪で人気が出るより先に、東京での仕事が増えていったのだそうです。

二人のお笑い芸人と一人の女性の不思議なかたちの青春物語です。

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2012.11.04

▽64――警察が隠し続けた失態とは?

横山秀夫『64(ロクヨン)』(文藝春秋)

警察小説の第一人者である横山秀夫の七年ぶりの新刊。原稿用紙なんと1400枚を超える、647ページの大著。

本書の主人公三上は、D県警の広報を担当する元刑事。

タイトルの64(ロクヨン)とは、昭和と平成のはざまに、わずか7日間だけ存在した昭和64年に発生した誘拐事件を意味する符丁である。

そして、いくつものストーリーが複走する中で、64(ロクヨン)にまつわる、警察のある“失態”が浮かび上がってくる――。

最近マスコミを賑わしているあの事件にも、警察の失態があったのではないか、と囁かれています。そうした現実とのシンクロもあって、いっそうおもしろく読むことができました。

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2012.10.28

▽官邸の100時間――検証 福島原発事故

木村英昭『検証 福島原発事故 官邸の一〇〇時間』(岩波書店)

著者は、東日本大震災が発生した当時、朝日新聞の地域報道部に所属していた。その日、たまたま東電の記者会見への出席を命じられたところから、福島原発事故の取材に関わることになった。

福島原発事故の官邸の対応を検証したドキュメントとしては、同じ朝日新聞記者による

▽大鹿靖明『メルトダウン』――福島第一原発事故ドキュメントの決定版
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/02/post-b55c.html

があるが、本書では、さまざまな検証委員会による「事故報告書」の結論をも踏まえた上で、改めて検証を行っている。

特に、紙幅を割いているのが、東電は福島原発から撤退しようとしたかどうか、という点。

《この問題は、全員撤退問題ではない。原発放棄事件だ。
東電は原発のコントロールを諦め、放棄しようとしていた――。これが取材を通じて浮かび上がる真実だ。》(p.254)

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2012.10.21

▽『小沢一郎vs.特捜検察』――20年戦争の総ざらい

村山治『小沢一郎vs.特捜検察、20年戦争』(朝日新聞出版)

最近の陸山会については、第一章で触れられているだけで、小沢一郎と特捜検察の20年戦争をおさらいしたような内容。

帯の「全編特ダネ」は、ちと誇大広告か。

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▽『これから20年、三極化する衰退日本人』

中野雅至『これから20年、三極化する衰退日本人~依存する人・搾取される人・脱出する人~』(扶桑社新書)

《政府の大小を巡る具体的な対立軸は何だろうか。それは二つだ。一つ目は「税・社会保障を中心とした受益と負担の関係」であり、もう一つは「経済面での自由競争か政府介入か」というものである。
 1990年代後半以降の日本社会は、この二つの対立軸を巡って、大きな政府か小さな政府かを決められない状態が続いている。》(p.98)

失われた20年は、今後の20年も続くのではないか? という前提の下で、日本社会の進路を占っている。

やや悲観的な未来予測だが、安易な楽観論よりは、はるかに有益だろう。

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2012.10.20

▽『戦後史の正体』――通説に挑戦した意欲作

孫崎享『戦後史の正体』(「戦後再発見」双書)

「日本の戦後史は、アメリカの影響下にあった」という視点の下に、これまでの通説に挑戦した意欲作。

著者の見方に賛同できるかどうかは置いておくが、さまざまな政治家の証言が紹介されており、日米関係の通史としては、興味深く読める。

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▽放射能雲の下で何が起きたか――『原発難民』

烏賀陽弘道『原発難民 放射能雲の下で何が起きたのか』(PHP新書)

《政府や全国紙、キーテレビ局といった東京にいるマスメディア関係者、学者たちは、被曝した住民の心理を読み違えている。サイエンスとしていくら正しいことをいっても、それは親たちの行動基準にはならないのだ。》(p.178)

福島で起きた原発事故は、科学者やマスコミに対して大きな不信を残した。

原発事故が発生してからの住民の避難状況はどのようなものだったのか? そして避難後の生活は? なぜ政府は住民の避難をすみやかに行うことができなかったのか? などについて、現地を何度も訪問して描き出した秀逸なルポ。

[目次]
プロローグ すべては放射能雲の予測ミスから始まった
第1章 福島第一原発が見える町
第2章 絆を引き裂かれた避難者たち
第3章 そのとき南相馬市・飯舘村では
第4章 被曝者も避難者も出さない方法は、確実にあった
おわりに

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2012.10.09

▽『約束の日』――第一次安倍政権を読む五冊

小川榮太郎『約束の日 安倍晋三試論』(幻冬舎)

自民党総裁に返り咲き、次期首相の座をほぼ手中に収めたと思われる安倍晋三。

音楽ライターである小川榮太郎が、安倍政権に襲いかかったマスコミ報道の圧力を、実証的なデータを基に分析する。

本書と補完関係にあるのが、上杉隆『官邸崩壊』(幻冬舎文庫)。

安倍政権における官邸内の人間模様を緻密に描いた労作で、政権運営の未熟さが暴かれている。

以下の三冊は、公務員制度改革をめぐる官僚との暗闘を描いたもの。あわせて読まれたい。

▽『官僚との死闘七〇〇日』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/10/post-c558.html
▽官僚のレトリック
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/02/post-1f9e.html
▽『日本中枢の崩壊』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-0342.html

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2012.09.30

▽ゼロから始める都市型狩猟採集生活

坂口恭平『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(太田出版)

路上生活者のフィールドワークで知られる坂口恭平が、路上で暮らす人々の「都市型狩猟採集生活」のノウハウを紹介したもの。

こういう境遇でもたくましく生きていけるんだな、と実感させられます。

pha(ファ)さんの『ニートの歩き方』と同じような楽しさがあります。

▽ニートの歩き方――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/09/post-5b3f.html

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▽『政治家やめます。』――ある自民党代議士の十年間

小林照幸『政治家やめます。』(毎日新聞社)

本書の舞台は、愛知県の知多半島。

そして、本書の主人公は、ここを選挙区として、1990年から1999年まで、三期十年代議士をつとめた久野統一郎。

サラリーマンだった統一郎は、父親の地盤を引き継ぐかたちで、いやいや代議士になり、結局、十年で引退してしまう。

本書は、中央政界から遠く離れた、地方の陣笠議員の日常と心理を、淡々と率直に綴ったものである。切った張ったの世界とはまた別の政界のリアリティがかいま見えて面白い。

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2012.09.23

▽アメリカにおける調査報道の行方――『官報複合体』という書名は不釣り合い

牧野洋『官報複合体』(講談社)

『官報複合体』という書名から、日本の記者クラブの問題点をえぐった内容を想像するが、そうした内容は、前半の数章に限られていて、ちと不釣り合い。

本書の主要な内容は、日本と同じように新聞社の経営危機が叫ばれているアメリカの調査報道の現状のレポートと、その行方について考察したもの。総悲観というほどではなく、多少は、将来に希望がもてる内容となっている。

著者は違うものの、本書は、

▽小林弘人『新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/04/post-45da.html

のアンサーソングとして読むことができるかもしれない。

[目次]
序章 東日本大震災「発表報道」の大問題
第1章 内部告発は犯罪で権力は正義
第2章 リーク依存症の大新聞
第3章 権力側は匿名の不思議
第4章 官報複合体を支える記者クラブ
第5章 市民目線の報道と記者クラブの報道
第6章 消費者の守護神
第7章 調査報道vs.日本型特ダネ
第8章 調査報道の雄
第9章 新聞の救世主
第10章 ニュースの正確性
第11章 一面トップ記事の条件
第12章 ピュリツァーへの回帰

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2012.09.17

▽坂口恭平という生き方――『独立国家のつくりかた』

坂口恭平『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)

《先日、とある銀行からトークショーに呼ばれた。僕は銀行が関わっている住宅の35年ローンを徹底的に批判している人間である。しかし、そんな僕にトークの依頼が来たのだ。……もう銀行や住宅メーカーも実は気付いている。そんな家の売り方、国民の借金によって成立している経済の在り方が間違っていることを。》(p.207)

坂口恭平とは何者か?

2011年5月10日、新政府の樹立を宣言し、初代内閣総理大臣に就任した男。

大学の建築学科を卒業し、路上生活者のフィールドワークをもとにした写真集や著作を出版し、歌や踊りも披露するパフォーマーでもある。

そんな坂口恭平の考え方と、なぜ新政府をつくったのか、そして何をめざしているのかを述べたのが本書である。

もちろん坂口の活動は、ウェブでもフォローすることができる。
http://www.0yenhouse.com/movie/

[目次]
プロローグ ドブ川の冒険
第1章 そこにはすでに無限のレイヤーがある
第2章 プライベートとパブリックのあいだ
第3章 態度を示せ、交易せよ
第4章 創造の方法論、あるいは人間機械論
終 章 そして0円戦争へ
エピローグ 僕たちは一人ではない

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2012.09.16

▽3月11日の記憶――堀井憲一郎『いつだって大変な時代』より

堀井憲一郎『いつだって大変な時代』(講談社現代新書)

《3月11日の夜、東京に流れていた空気は、いまから想像できるものとはずいぶん違っていた。
 「想像できるもの」よりもずっとのんびりしていた、と言えるだろう。……
 変が来たのは、翌12日原子力発電所が爆発してからである。他人事ではなくなった。私の記憶によると、それを契機としていきなり災害が身近になり、ふつうの生活を送ろうとしていた自分たちを恥じて、東北の人に遠慮して、東京の人は自分たちの被害のことをまったく何も言わなくなった。》(pp.209-210)

本書は、コラムニストの堀井憲一郎が2010年9月より、メールマガジンに連載していたコラムをまとめたものである。この連載は、2011年月まで続いたため、第7章と第8章は、ほぼリアルタイムで東日本大震災の記憶が記されている。

上記の引用部は、新書にまとめられる際に書き加えられた部分だが、はっきりと3月11日の東京の記憶を再現した文を見るのは、これが初めてである。

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▽ニートの歩き方――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法

pha『ニートの歩き方』(技術評論社)

著者のpha(ファ)さんは、いわゆる「ニート」である。

京都大学を卒業後、いったんは就職したものの、毎日仕事をする生活に嫌気がさして退職し、そのまま上京。それ以来、シェアハウスに、仲間のニートともに暮らしている。

主な収入は、ブログのアフィリエイト、せどり、友人の仕事の手伝い、雑誌などの原稿、メディアの取材の出演料など。さらに、ネットを通じてのカンパや支援物資をもらったりすることもあるという。

こうしたニートの生活に共感するかどうかは、さておいても、インターネットの普及がこうした生活を可能にしているのは言うまでもない。もちろん、昔から仕事もしないでぶらぶらしている大人はいたかもしれないが、しかしphaさんのライフスタイルは、明らかにインターネットによって支えられている。

つまり、ようやくインターネットは、メディアの代替物としてだけでなく、社会インフラとしても機能し始めたということを、本書は示しているのだと思う。

[目次]
はじめに

第1章 ニートのネットワーク―僕がニートになった理由
「ニート=暇」「ニート=孤独」じゃない
僕が仕事を辞めるまで
ネットで得られる三つのもの
ソーシャルネットとゆるいつながり
インターネットの恵みで生きる
ネットでお金をもらった話
ネットで物をもらった話

第2章 ニートの日常風景―コミュニティとゆるい生活
集まってると死ににくい
シェアハウスとニート
猫とニート
世間のルールに背を向けろ
寝たいときは寝たいだけ寝ればいい
だるい
ニートの才能

第3章 ニートの暮らしかた―ネット時代の節約生活法
インターネット
住居について
食生活について
お金の支払い
証明書・保険・年金
仕事について
どうしても困ったら
小銭稼ぎ
ニートのためのブックガイド

第4章 ニートのこれから―社会・人間・インターネット
ニートは自己責任か?
働かざる者食うべからずって言葉が嫌いだ
もし世界が働きアリばかりだったら
ネットワークとオープンソース
ニートの一生

あとがき

Special Thanks to Internet

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▽そんなんじゃクチコミしないよ

河野武『そんなんじゃクチコミしないよ。 <ネットだけでブームは作れない!新ネットマーケティング読本>』(技術評論社)

《ぼくたちがまず認めるべきは、「ネットで少々話題になったところで、世間の大多数の人は知らない」ということです。ブログが炎上してもウォークマンは売れているし、広告賞を受賞したナイキのネットキャンペーンでさえ、ほとんどの人は知りません。》(p.21)

本書の著者である河野武は、ネット企業でマーケティングを担当していた、その道の専門家で、ブログも開設している。

▽smashmedia
http://smashmedia.jp/blog/

本書は河野のブログのエントリーの中から、ネット・マーケティングに関する部分をまとめたもので、2008年に出版されている。2009年春に話題となった中川淳一郎の『ウェブはバカと暇人のもの』においても紹介されている。

▽アメーバニュース編集者が語るネットのバカたち
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/04/post-13ba.html

企業がブロガーなどを使ったネット・マーケティングには、あまり期待するなというのが、本書の主張である。また、2012年になって、急に注目を浴びるようになったステマ(ステルス・マーケティング)に対しても批判的であり、そのスタンスは揺らいではいない点は注目に値する。

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2012.09.08

▽東電撤退の真実――『原発危機 官邸からの証言』

福山哲郎『原発危機 官邸からの証言』(ちくま新書)

本書は、菅内閣で官房副長官をつとめた福山哲郎が、東日本大震災と福島原発事故に対応した際に記録した「福山ノート」をもとに構成されている。

官房副長官は、政府の危機対応に際しては、総理大臣、官房長官に次ぐナンバースリーの地位にあり、官邸サイドの証言として貴重なものである。

この「福山ノート」の内容については、すでにさまざまなかたちで伝えられているが、

▽大鹿靖明『メルトダウン』――福島第一原発事故ドキュメントの決定版
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/02/post-b55c.html

やはり焦点となるのは、福島原発事故における東電撤退の真実につきるだろう。

3月12日の一号基爆発、13日の3号基爆発と続き、14日夕方には、1~4号基すべてが危機的な状況に陥っていた。

この頃には、東電の清水正孝社長から、複数の官邸メンバーや海江田経産大臣に、「撤退したい」との電話がかかってくるようになる。

この要請については、後に、さまざまな事故調査委員会で取り上げられるが、東電の言い分は、「全面撤退ではなく、一部撤退だった」というもの。

しかし、福山によると、官邸は「全面撤退」と受け留めたという。15日の午前3時に、菅首相に伝え「撤退はありえない」ことを確認。午前4時に、官邸を訪れた清水社長にそれを伝え、午前5時半には、今度は、菅首相が東電に乗り込んでいく。ちょうどこの頃、2号基のサプレッションチェンバーと、4号基の建屋が爆発した――。

この時、菅首相ではなかったら、歴史はどうなっていたのだろうか? 菅首相だったからこそ、東電撤退を阻止できたのではないか?

政治家には、それぞれの天命があると信じている私としては、支持率低下と、献金問題で退陣寸前まで追い込まれていた菅首相が、3月11日の大震災発生でかろうじて延命し、そして、与えられた役割を果たしたのだろう――と思いたいところである。

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2012.09.01

▽全日本ゆるキャラ公式ガイドブック

みうらじゅん『全日本ゆるキャラ公式ガイドブック』(扶桑社)

「ゆるキャラ」とは、地方自治体などが町おこしのためにつくった、ゆるゆるのキャラクターのことで、みうらじゅんが命名したものである。

彦根のひこにゃんの登場で一気にブームとなった。本書は、2009年の刊行のため、あの「せんとくん」も収録されている。

しかし、まあ、日本中、「ゆるキャラ」だらけ……。あまり野暮なことは言いたくありませんが、しかし、ちょっと税金の無駄遣いなものものなくはないですね……。

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▽一次産業×デザイン=風景――『ニッポンの風景をつくりなおせ』

梅原真『ニッポンの風景をつくりなおせ―一次産業×デザイン=風景』(羽鳥書店)

『ニッポンの風景をつくりなおせ』というタイトルから、大震災や原発事故に被災した日本の再興といった連想をしてしまいますが、本書の刊行は2010年のため、もちろんそうした視点はありません。

本書は、デザイナーの梅原真が、次のような考え方にもとづいて活動してきた、その記録である。

一次産業にDsigneをかけあわせる
▼新しい価値が生まれる
▼新しい価値は経済となる
▼経済がうまくいけばその一次産業は生きのびる
▼そして風景が残る。

梅原がこう考えるようになったきっかけは、1987年に土佐の漁師を助けるために、産地直送の「土佐 一本釣り 藁焼きたたき」のデザインを行ったことによる。廃業寸前だった漁師は、8年で年商20億円にまで急成長する。

本書には、梅原が手がけた「一次産業×デザイン」が数多く収録されている。

興味深いのは、105ページに掲載されているラフスケッチ。柏崎市の依頼でつくったものの、結局ボツになったポスターには、「げんぱつにげんこつ」と書かれていた――。

やはり、『ニッポンの風景をつくりなおせ』のアフター3.11版が求められているのだと思います。

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2012.08.28

▽種が絶滅する時――『捕食者なき世界』

ウィリアム・ソウルゼンバーグ『捕食者なき世界』(野中香方子、高槻成紀訳、文藝春秋)

28日に環境省が発表したところによると、ニホンカワウソとツキノワグマが、絶滅種に指定されました。三十年間以上、生息が確認されていないからという。

ニホンカワウソとツキノワグマ「絶滅」: The Voice of Russia

日本の環境省は火曜、公式に、国内に棲んでいる哺乳類のリストから2種目を削除した。「絶滅の危機に瀕している動物のレッド・リスト」から、ニホンカワウソ、九州南部の山林に生息していたツキノワグマが削除された。

28日に環境省が発表したところによると、ニホンカワウソとツキノワグマが、絶滅種に指定されました。三十年間以上、生息が確認されていないからという。1905年にニホンオオカミが絶滅指定されて以来の、絶滅種指定という。

こうした「捕食動物」の絶滅が、生態系のバランスを崩し、生物の多様性を失わせる原因となっている、と主張しているのがウィリアム・ソウルゼンバーグ『捕食者なき世界』である。

食物連鎖の最上位にいる大型捕食動物(トッププレデター)が絶滅すると、それらに捕食されていた「被捕食動物」が無制限に繁殖し、植物などを食い尽くし生態系を破壊すると、やがて、その種も絶滅に向かうという。

こうした現象を防ぐには、トッププレデターを放すことが役に立つだろうとの考えから、アメリカのイエローストン国立公園にオオカミが放たれた。同公園では、その結果、増えすぎたアカシカの個体数の抑制と森林被害の抑制に成功したという。

では、トッププレデターを絶滅に追い込んだものは何かと言えば、それは人間であることは言うまでもないだろう。

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2012.08.19

▽老化物質AGEの正体――『老けたくなければファーストフードを食べるな』

山岸昌一『老けたくなければファーストフードを食べるな』(PHP新書)

糖とタンパク質を加熱すると褐色の物質ができる現象を、その発見者にちなんで「メイラード反応」と呼ぶ。そして、そのメイラード反応と同じような化学反応は、人体の内部でもおこっているという。

人間の体の中にあるタンパク質と糖が結びつくことによってつくられる物質を「終末糖化産物」=AGE(Advanced Glycation End Products)と呼ぶが、これが老化の原因物質ではないか、というのが本書の指摘である。

このAGEが老化の原因物質であるとの主張の当否は、専門家の研究が待たれるところではあるが、糖分やタンパク質の多いファーストフードをあまり食べ過ぎるのはよくない、というのは至極もっともな話です。

特に、清涼飲料水に含まれている果糖(フルクトース)は、AGEをつくりやすく、また、常習性が強いため、健康にもよくないのだそうです。

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▽押井守のゾンビ日記

押井守『ゾンビ日記』(角川春樹事務所)

ある日突然、死んだ人がゾンビ化して徘徊するようになった世界で、主人公の「俺」は銃器を使ってゾンビの頭部を破壊する遊びにとりつかれる。

ストーリーといったのはなく、ただ人間の死や銃器にまつわる蘊蓄が綴られているだけ。作品そのものよりも、なぜ、こんなものが書かれたのか、そこが気になって読み続けてしまう。

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2012.08.18

▽ユリイカ総特集『平成仮面ライダー』

ユリイカ2012年9月臨時増刊号『総特集=平成仮面ライダー 『仮面ライダークウガ』から『仮面ライダーフォーゼ』、そして『仮面ライダーウィザード』へ・・・ヒーローの超克という挑戦』(青土社)

サブカルチャー評論誌ユリイカが「平成仮面ライダー」をフィーチャーした臨時増刊を出して話題になっています。

平成ライダーとは、クウガ、アギト、龍騎、555、剣、響鬼、カブト、電王、キバ、ディケイド、W、オーズ、そして、現在放送中のフォーゼ、来月から放送開始予定のウィザードの十四作。

特に、ディケイドは、それ以前の仮面ライダーに変身できるという能力から、平成ライダー全体への関心を高めることに成功し、ガンバライドという対戦式ゲームのブームに貢献してきました。

そして、《「ライダー批評」という分野をほとんど一人で作り上げた》(p.12)宇野常寛が、脚本家の井上敏樹との対談が、この十四作の世界観の違いを大きく区分しています。

《宇野 等身大の世界に立ち返ってもう一度ヒーローを成り立たせるために試行錯誤するのか、ヒーローなんていない世の中について徹底的に考えるのか、今出ているのはその2パターンなんですよね。高寺さんや塚田さんは前者で、白倉さんや井上さんは後者の方向性だと思うんです。
井上 なかなかいいことを言ってる。たぶんそうだよ。》(p.61)

白倉とは、井上とコンビを組んで、アギトや555、響鬼(30話以降)などを担当した白倉伸一郎プロデューサーであり、高寺はクウガや響鬼(29話まで)のプロデューサーだった高寺成紀(現・高寺重徳)、塚田はW、フォーゼのプロデューサー塚田秀明である。

平成ライダーは、高寺の路線と、白倉の路線のせめぎ合いの中から生まれたものであり、特に、響鬼のシリーズ途中での高寺から白倉へのプロデューサー交代は、そのことを象徴的にあらわしている。

この二人のプロデューサーの双方と仕事をした井上伸一郎角川書店社長の両者の人物評も興味深い。

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▽財政破綻は回避できるか

深尾光洋『財政破綻は回避できるか』(日本経済新聞出版社)

日本の財政問題について、一般向けにわかりやすく書かれている。結論は、消費税の増税を行う一方で、歳出削減、特に社会保障費の削減を進める必要がある、という至極まっとうなもの。

「補論」として、いわゆる「リフレ政策」がゼロ金利下では有効でない理由があげられており、これもまたまっとうな内容である。

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2012.08.17

▽なんだかなァ人生

柳沢 きみお 『なんだかなァ人生』(新潮社)

「翔んだカップル」などのヒット作で知られる漫画家の柳沢きみおが「週刊新潮」でエッセイを連載していた(2010年5月から2011年4月まで)とは知りませんでした。

生い立ちから新人漫画家時代、バブル期に購入したログハウスやマンションのローン返済に苦しむ話など、赤裸々に語られています。ちなみに、この借金の返済は、「特命係長 只野仁」のテレビドラマがヒットした2009年までかかったそうです。

ちょっと興味深いのは、数年前に漫画のケータイ配信が始まった頃のくだり。出版社を通さずに、直接読者に新作を届けられ、さらに新たな収入源になるかも、と期待をよせたのですが、その夢はアッサリと打ち砕かれたそうです。

《まさに悪貨は良貨を駆逐する。変態的な漫画が読まれるだけのダークな世界になってしまい、新作の発表の場として、出版社の代わりにはなれませんでした。ひどくガックリきたものです。》(p.129)

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▽「本当のこと」を伝えない日本の新聞

マーティン・ファクラー『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』(双葉新書)

著者のマーティン・ファクラーは、ニューヨーク・タイムズの東京支局長。1996年からブルームバーグやAP通信などの東京支局で記者として活躍してきた。

そのファクラーが、自身の体験を踏まえて、日本の新聞がいかに「本当のこと」を伝えないかを綴っていく。

本書で批判されているのは、3.11をめぐる大手紙記者の取材や報道、記者クラブの閉鎖性、新聞社と取材対象との距離の取り方や誤報や捏造への対処の日米の違いなど。

ジャーナリストの上杉隆が、これまで主張してきたことと似通っていますが、まあ、同じニューヨーク・タイムズで働いていたからなのでしょう(笑)。

あと、著者は、ルパート・マードックが買収したことでウォールストリートジャーナルの経営が救われたと紹介していますが、マードック買収後の同紙は、ずっとピュリッツァー賞を逃し続けるなど、記事の質の劣化が激しいのですけどね……。

[参考]マードック帝国の落日
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2011/07/post-f736.html

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2012.08.16

▽ニッポン《南の島》大図鑑

加藤庸二『原色 ニッポン《南の島》大図鑑』(阪急コミュニケーションズ)

ニッポンの周辺にある114の島について、豊富な写真をもとに、それぞれの島の魅力を紹介している。

日本の自然や文化の多様性に驚かされます。

いま話題の尖閣諸島については、歴史的な経緯について1ページ割いていますが、竹島は、鹿児島県にある別の竹島(竹の宝庫)が紹介されています(笑)。

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▽わっ! へんな虫――探検昆虫学者の珍虫ファイル

西田賢司『わっ! へんな虫~探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)

探検昆虫学者としてマスコミでも紹介されることのある著者が、コスタリカやその他の地域で見つけられるユニークな昆虫を紹介する一冊。

写真も豊富で、文章も子供でも読めるようにわかりやすく書いてあります。もちろん大人でも楽しめます。

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2012.08.15

▽安田佳生『私、社長ではなくなりました。』――ワイキューブとの7435日

安田佳生『私、社長ではなくなりました。 ― ワイキューブとの7435日』(プレジデント社)

まだ東日本大震災と福島原発事故による不安が渦巻いていたさなかの2011年3月30日に、民事再生法の適用申請を行った会社があった。

《「期待してフォローしていただいた方、申し訳ありません。できる社長とは言えませんでした。」
 翌三十一日朝の私のツイートである。》(p.186)

倒産のニュースがツィッターで広まり、さらに、それに対する社長のお詫びのツイートがネットニュースで広まったのは、いかにも、このワイキューブらしい事態だったといえるかもしれない。

1990年に創業されたワイキューブは、就職情報誌、就職情報サイト、採用コンサルティング、企業のブランディング支援とビジネスの軸足を少しずつかえながら成長してきた。

就職情報誌に「就ナビ」とつけて、いまはやりの「~ナビ」の先駆けとなったり、いちはやく就職情報サイト「就職コンパス」を開設するなど、先見の明はあったといえる。

また、従来型の電話営業が苦手のために、DMやメルマガを活用。さらに、タクシー広告、雑誌のタイアップ記事、採用に関する書籍、ワイキューブ自体を人気企業ランキング上位に食い込ませる、オフィスにバーやワインセラーをつくるなど、あの手この手で、ワイキューブの名前を売り込んでいく。

社員の給料も実績よりも期待を重視してあげたり、さまざまな福利厚生を提供したり、端から見たら放漫と言わざるをえない経営は、2007年頃には行き詰まる。銀行との交渉によって、債務の見直しを行い、再建の目処がたったところに、2008年秋のリーマンショックが襲いかかる。

結局そこから立ち直れずに、2011年の倒産に至る。

マスコミの注目を集めるような立ち回りのうまさはあったものの、本業の部分で、やっぱりどこか歯車が回っていなかったことはうかがえる。敗軍の将が、率直に語った本書から、学べることも多いと思う。

[目次]
まえがき

1章 満員電車からの脱出
 はじめての疑問
 勉強のできない子だった
 吊り革戦争
 アメリカへ
 シャンパンとイチゴ

2章 営業カバンからの脱出
 リクルート
 あめんぼ、赤いな、アイウエオ
 ワイキューブ
 東京進出
 グアム、そしてラスベガス

3章 劣等感からの脱出
 あせり
 新宿アイランドタワー
 就ナビ創刊
 坂道
 デジタル媒体への賭け

4章 アポ取りからの脱出
 アルバイト部隊の解散
 採用コンサルティング事業
 タクシー広告
 人気企業ランキングへのこだわり
 常識への反抗

5章 資金繰りからの脱出
 借り入れ
 ブランド戦略
 ワインセラー
 徹底した空中戦
 利益が先か、給料が先か

6章 引け目からの脱出
 頭打ち
 銀行回り
 ケチケチ大作戦
 はじめてのリストラへ
 誤算

7章 社長からの脱落
 リーマン・ショック
 再び銀行回り
 民事再生
 ある役員からのひと言
 私、社長ではなくなりました。

あとがき

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2012.08.13

▽素顔を見せた「中の人」たち

古田雄介『中の人 ネット界のトップスター26人の素顔』(アスキー・メディアワークス)

本書は、ネット・ニュース・サイトに2007年6月から2011年11月にかけて100回に渡って連載されたものがベースになっている。

古田雄介の“顔の見えるインターネット”
http://ascii.jp/elem/000/000/046/46114/

これに再取材を加えてまとめたもので、出版は2012年7月。個々の「中の人」については、本書やサイトの記事を読んでもらうとして、私が気になったのは、最近、問題となっている「2ちゃんねるまとめサイト」の管理人が、ほとんど登場していない、という点。

2ちゃんねるまとめサイトの中の人が目指す「透明な管理人」
http://ascii.jp/elem/000/000/414/414426/
《個人サイトで膨大なアクセス数が狙えると言われるジャンルに「2ちゃんねるまとめ」サイトがある。
 膨大な情報の中から面白い書き込みやスレッドを抽出する眼力と継続力が必要だが、その見返りは1日数万から数10万とも噂される多数の閲覧者だ。そうした2ちゃんねるまとめ系で、定番の人気があるサイトのひとつが「ぁゃιぃ(*゚ー゚)NEWS 2nd」だ。》

唯一取り上げられているのが、「ぁゃιぃ(*゚ー゚)NEWS 2nd」だが、同サイトは有名ではあっても、大手とは言い難い。

2ちゃんねるのまとめサイトが転載禁止に
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/news/2012/06/post-9e57.html

上記で指摘されてる5サイトは、月間ページビューが1億にも達したことがあるほどの影響力も存在感も大きかったはず。しかし、同業とも言えるネット・ニュースでさえも、その実態を取材する糸口すら掴めなかったということなのだろう。

[2012年8月15日追記]
上記のエントリーアップした後に、大手まとめサイトの管理人が、別のサイトのインタビューを受けていました。
http://getnews.jp/archives/242477

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2012.08.08

▽世にも奇妙な人体実験の歴史

トレヴァー・ノートン『世にも奇妙な人体実験の歴史』(赤根洋子訳、文藝春秋)

「世にも奇妙な人体実験」ときくと、なにやら恐ろしい本のような気もしますが、内容はいたってまじめ。でも、ちょっとユーモラス。

本書で紹介されている「人体実験」は、自分の体を使って行った「自己実験」。そう、本書に登場する科学者たちは、愛すべきマッドサイエンティストたちなのです。

では、なぜ彼らは自己実験にのめり込んでいったのかというと、それは「自説の正しさを証明するため」なのだそうです(笑)。

[目次]
第1章   淋病と梅毒の両方にかかってしまった医師 ― 性病
第2章   実験だけのつもりが中毒者に ― 麻酔
第3章   インチキ薬から夢の新薬まで ― 薬
第4章   メインディッシュは野獣の死骸 ― 食物
第5章   サナダムシを飲まされた死刑囚 ― 寄生虫
第6章   伝染病患者の黒ゲロを飲んでみたら ― 病原菌
第7章   炭疽菌をばら撒いた研究者 ― 未知の病気
第8章   人生は短く、放射能は長い ― 電磁波とX線
第9章   偏食は命取り ― ビタミン
第10章   ヒルの吸血量は戦争で流れた血よりも多い ― 血液
第11章   自分の心臓にカテーテルを通した医師 ― 心臓
第12章   爆発に身をさらし続けた博士 ― 爆弾と疥癬
第13章   ナチスドイツと闘った科学者たち ― 毒ガスと潜水艦
第14章   プランクトンで命をつないだ漂流者 ― 漂流
第15章   ジョーズに魅せられた男たち ― サメ
第16章   超高圧挑戦し続けた潜水夫 ― 深海
第17章   鳥よりも高く、早く飛べ ― 成層圏と超音速
あとがき  究極の自己犠牲精神をもった科学者たちに感謝
特別集中講義 『人体実験学特論』へようこそ  仲野 徹(大阪大学大学院教授)

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2012.08.05

▽『それでもボクはやってない』――日本の刑事裁判、まだまだ疑問あり!

周防正行『それでもボクはやってない―日本の刑事裁判、まだまだ疑問あり! 』(幻冬舎)

周防正行監督の映画『それでもボクはやってない』のシナリオ、自作解説、そして、元裁判官との日本の刑事裁判についての徹底対談の三部構成。

映画自体は、さまざまな事件をもとにして構成されていますが、自作解説の「なぜこのシーンをカットしたのか」はシーンごとの意図を解説し、また、元裁判官との対談もさまざまなシーンをふまえたものとなっていて、刑事裁判のあり方について考える上で、非常に読み応えのある内容となっています。

[参考]▽それでもボクはやってない
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/02/post-d18e.html

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2012.08.04

▽映像の著作権

二瓶和紀x宮田ただし『映像の著作権』(太田出版)

インターネットの普及によって、ますます扱いが難しくなってきているのが、著作権。本書は、動画投稿から映像製作まで、さまざま映像に関する著作権をQ&A形式で解説していきます。

具体的な事例をあげて丁寧にわかりやすく、かつ、網羅的に書かれているので、一般の人の入門書としても使えます。

[目次]
序文
Ⅰ 映像と映画
 「映像」と著作権法でいう「映画」はどう違うのか/著作権法には「映像」という言葉はあるのか

Ⅱ 著作権の基礎知識 【映像の著作権を知るための第一歩】
 保護される“著作物”とは/共同著作物とはどういうものか/著作物はいつまで保護されるのか/保護の対象にならない著作物や、自由に使える著作物/著作物の保護に登録は必要か/「著作者」と「著作権者」の違い/著作物は自由に改変できるのか/“著作者の名誉又は声望”を害してはならないとは/映像プロダクションの社員は、著作者になりうるか/“引用”とは/少人数で他人の著作物を自由に使える範囲とは/テレビ番組の録画の学校内での利用/営利を目的としない映画やテレビ番組の上映/「著作隣接権」とはどのような権利か/ネット上では著作権の規制は緩いのか

Ⅲ 映画の著作権の基本のQ&A
[映画の著作物]
 映画の著作物とは/ビデオゲーム(ゲームソフト)は映画の著作物か
[映画の著作者]
 映画の著作者は誰か/映画の著作者はどのように定められたのか/脚本家は映画の著作者になれるのか/企画者と発注者と製作者の関係/クラシカルオーサー、モダンオーサーとは何をいうか
[映画の著作権]
 映画の著作権者は誰か/フリーディレクターには権利はあるのか/フリーカメラマンには権利はあるのか/テレビの「制作・著作」「製作・著作」は何を表わしているのか
[映画の著作権の保護期間]
 旧法と現行法の保護期間はどう違うのか/映画の保護期間の「53年問題」とは何か/映画の保護期間が終了後の原作や脚本の権利は
[映画の著作者人格権]
 著作者人格権不行使の契約では改変に異議申し立てはできないのか/映画化の改変はどこまで許されるのか/「原作」としながら関係ないストーリー展開は許されるのか/公開されない映画に監督の公表権は働かないのか/リメイク権という権利はあるのか
[著作隣接権]
 俳優は映画の著作者ではないのか/ワンチャンス主義とは
[映画の頒布権]
 頒布権とはどのような権利か/ビデオゲーム(ゲームソフト)にも映画の頒布権の規定が適用されるのか

Ⅳ 映像製作と利用のための著作権Q&A
[著作物と著作権関連]
 “新事実”は著作権法で保護されるのか/アイデアは著作権法で保護されるのか/ゲームソフトの連続する静止画は映画か/映像のDVD化の注意点は/タイトルの書は/絵画の写り込みは/旧法時代の写真の保護期間は/ダンスシーンの振り付けは著作物か/舞台セットや照明は著作物か/テレビ・映画のキャラクターは著作物か/SE(サウンドエフェクト/音響効果)は著作物か/番宣・プロモーション目的での公開は可能か/シナリオと原作者の関係は/動画をネット上で公開する場合の注意点/未使用の映像素材の著作権者は誰か/モニターテレビや監視カメラの映像は著作物か/ぬいぐるみや人形、プラモデルの著作権は/著作権消滅の放送映像は許諾が必要か/インターネット掲示板の情報は著作物か/海外の民謡の著作権は/著作権者不明の場合はどうしたらよいか/映画の原作・脚本の表示はどうすべきか/映像におけるコピーライト表記は必要か
[著作者人格権]
 ドラマ化、映画化での原作者の人格権は/映画やテレビ番組の部分利用は問題ないのか/要約した“字幕テロップ”は改変か/デジタル処理による被写体の加工は改変か/完成後(納品後)の作品の改変は可能か/商品名等のモザイク化は許されるのか/外国作品の翻訳での同一性は/差別用語(不適切用語)の処理は/放送コードの法的根拠は
[著作権の制限(引用と使用)]
 映像を引用する場合の「正当な範囲」は/報道における適法引用の可否/他局の政治ニュース番組を引用できるか/映像とテーマ音楽、BGMの同時引用は/音声、音楽を引用する場合の「正当な範囲」/新聞紙面・雑誌誌面のインサートは自由に行なえるか/朗読による引用は可能か/昔の観光用映像の利用は/市販されている地図の利用は/番組宛ての手紙・メールの無断公開は
[著作隣接権]
 コンサート撮影の制限/スポーツパブでのテレビ中継はよいのか/歌番組でのCMやアーカーブのインサート利用/実演家の人格権と著作者の人格権の違いは/歌舞伎の「型」は保護の対象か
[肖像権・パブリシティ権]
 故人の有名人の写真の利用は/有名人の名前の利用は/個人が撮ったニュース映像のブログ掲載/保護期間満了の映像の肖像権は/建築物や電車にパブリシティ権があるか/被取材者の意図に反した編集は許されるのか/公開放送の観覧者、素人参加番組の出演者の肖像権は/写り込んだ「個人情報」は/写り込んだ「プライバシー」は/過去のニュース映像での肖像権処理は/報道目的とはいえ個人の無断撮影は許されるのか
[商標権 商品化されたキャラクター等]
 タレントグッズ、キャラクター文具の撮影に許諾は必要か/モチーフ、テーマとしての商品名の利用は可能か
巻末資料

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▽愛しのボルチモア――『シーズン・チケット』

ロジャー・エンジェル『シーズン・チケット』(玉木正之訳、東京書籍)

《しかし、「みなさん、ほんとうに、ありがとう……」と話しはじめた彼の声は、そこで途切れ、彼は、マイクの前を離れてダイヤモンドのほうに向かって少し歩き出し、そこで俯いたまま片手を顔の前で動かせた。彼は、泣いていたのである。》(p.102)

いかにもアメリカンな感じのコラムですが、本書は、アメリカの野球コラムニストとして著名なロジャー・エンジェルが書いた野球コラムを集めたもの。

これらのコラムが書かれた時期は、1983年から87年にかけてであり、よほどの大リーグ通でないと、誰の何について書かれた話なのか、さっぱりわかりません。しかし、フィクションを読むくらいの覚悟で読んでみると、いかにもな文体も含めて、楽しめること請け合いです。

本書は1988年に刊行された"Season Ticket"の前半部分であり、後半も、同じシリーズで邦訳が出されています。ちなみに、シーズン・チケットとは、一シーズンを通して使える入場券のことです。

ロジャー・エンジェル『球場へいこう』(棚橋志行訳、東京書籍)

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2012.08.03

▽贋作に隠された自殺の真相――『ゴッホの遺言』ドンデン返しつき

小林英樹『ゴッホの遺言―贋作に隠された自殺の真相』(情報センター出版局)

本書の著者は、画家ですが、ゴッホが書いたとされる一枚のスケッチを、一目で贋作と見抜きます。本書の前半は、そのスケッチが贋作であることの論証に費やされます。

そして、後半は、それを踏まえた上で、ゴッホの自殺の真相にまで、切り込んでいきます。ゴッホのことは詳しく知らないのですが、なるほど、と思わせるような説得力はありましたが……。

2009年に出版された完全版と銘打たれた文庫版では、著者の論拠とするある部分が、科学的な検証で否定されてしまった、というドンデン返しがつけ加えられていました。残念。

小林英樹『完全版 - ゴッホの遺言』(中公文庫)

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2012.07.22

▽ぼくはお金を使わずに生きることにした

マーク・ボイル『ぼくはお金を使わずに生きることにした』(紀伊國屋書店)

ぼくはお金を使わずに生きることにした――。

本書は、イギリス人のマーク・ボイルという男性が、一年間、お金を使わずに生活することにチャレンジした記録である――。

と、聞けば、ロビンソン・クルーソーのような野生的な生活をイメージするかもしれないが、あにはからんや――。

生活に必要なものは、インターネットのサイトなどを通じて集めているため、思ったよりも文明的な生活をしています。自給自足の部分もありますが、文明社会に寄生している部分もあって、この点が本書の著者に対する賛否がわかれるポイントになっています。

まず、住むところは、不要になったトレーラー・ハウスを譲り受けます。そして、農場のボランティアとして働く代わりに、そこで生活させてもらう許可をえます。電話は、プリペイド式の携帯電話や農場の電話を使用(いずれも着信のみ)。パソコンも、譲り受けた部品で自作し(OSはLinux)、農場の無線LANを使わせてもらい、電気は、ソーラーパネル式の充電器を使ったとのこと。

食事は、もっぱら農場で栽培した野菜を食べています。また、生活に必要なものは、無料でもらったり、交換したりで、この際には、インターネットの交換サイトが活躍しています。

この実験は、2008年に行われたものですが(日本語版の出版は2011年11月)、福島原発事故後の言論状況をかさねあわせてみると、なかなか興味深い手記となっています。

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2012.07.17

▽鈴木宗男の『政治の修羅場』

鈴木宗男『政治の修羅場』(文春新書)

鈴木宗男が、中川一郎の秘書時代から経験してきた「政治の修羅場」を綴ったもの。鈴木宗男が見たありのままを率直に語っていると思う。

いまなお謎として残されているのが、鈴木宗男が深く関わっていたとされる「北方領土の返還」問題。本書によると、二島返還の方向でロシア側と話はまとまりつつあったという。

《小渕さんがあのとき倒れなければ、間違いなく解決できたはずだ。森政権がもう一年続いていても、やはり解決できた思う。
解決を一気に遠ざけてしまったのは、小泉政権の誕生だった。》(p.199)

真相が明らかになるのは、いつだろうか。

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2012.07.15

▽『ブラック・ジャック創作秘話』――手塚治虫の仕事場から

『ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~』(漫画:吉本浩二、原作:宮崎克、秋田書店)

漫画の神様といわれた手塚治虫でさえ、「終わったな」と言われた時期があったという。そのスランプを打ち破るきっかけとなったのが、1973年から連載された『ブラック・ジャック』である。

本書は、その『ブラック・ジャック』の創作にまつわるエピソードを紹介するとともに、改めて手塚治虫の人となり描いた「漫画」である。

手塚治虫というと、トキワ荘というアパートに若手の漫画家をアシスタントとして集め、後には、藤子不二雄、石森章太郎、赤塚不二夫などを輩出したことで知られている。

そして、本書で描かれている第二次黄金期にも、ブラック・ジャックのページ掲載された求人広告をみて、多くの漫画家の玉子が集まってきた。

彼らの多くも後に漫画家として大成した。たとえば、『コブラ』の寺沢武一、『テニスボーイ』小谷憲一、『Theかぼちゃワイン』の三浦みつる、などのほか、石坂啓、高見まこ、わたべ淳なども手塚のアシスタントとして働いていた。

自分の周りに集まってきた人材を食い潰すことなく、漫画家として育てたという点は、手塚の功績の一つと言えるかもしれない。

このほか、海外で漫画を書いたエピソードや地獄のアニメ進行、ギリギリまで漫画を面白くすることを考えていたことや新人漫画家ですらライバル視していたことなど、よく知られた話も出てくる。漫画として誇張されている点は多々あろうが、それでも読み物として楽しく読める。

▽神様・手塚治虫の伴走者たち
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/12/post-7cdb.html
▽アニメ作家としての手塚治虫
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/05/post-fbfb.html

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2012.07.14

▽『五輪ボイコット』――幻のモスクワ、28年目の証言

松瀬学『五輪ボイコット―幻のモスクワ、28年目の証言』(新潮社)

《モスクワ五輪は転機だった。
 五輪ビジネスが頭をもたげる。モスクワの不完全燃焼が、スポーツ・ビジネス大国・米国の一九八四年ロサンゼルス五輪で花開く。》(p.191)

1980年にモスクワで開催されたオリンピックに、日本代表団は不参加を決めた。

その前年、当時のソ連が行ったアフガニスタンへの侵攻に対し、西側諸国は抗議の意味をこめて、「五輪ボイコット」をしたからだ。

 当時の日本では、国威発揚の場としてのオリンピックと政治との関係が大きく議論された。

 ……という説明をきいても、まさに「歴史は遠くなりにけり」(笑)。

 ただ、ソ連は、1989年にアフガニスタンから撤退後まもなくして崩壊、また、その後のオリンピックは、より商業化が進み、むしろ政治からの独立をはたした、といえます。

 その意味でも、モスクワ五輪は大きな転機だったということができますね。

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2012.07.13

▽『世紀の誤審』――オリンピックからW杯まで

生島淳『世紀の誤審 オリンピックからW杯まで』(光文社新書)

まもなくロンドン・オリンピックが開幕しますが、オリンピックなどのスポーツで避けて通れないのが、「誤審」の問題。

本書『世紀の誤審』は、2004年に書かれたもので、ちょっと内容は古いのですが、日本人なら忘れられない日韓共催W杯やシドニー五輪の日本柔道における誤審などがレポートされています。

著者は、誤審の生まれやすい傾向の一つに「オリンピック」を上げています。その理由は、オリンピックでは世界中から審判が集められるために、審判のレベルにバラつきがある。準決勝や決勝のなどの肝心な試合を能力の低い審判が担当することも起こりえる。特に、国際大会の少ない競技は要注意という。

まあ、誤審も含めてスポーツだ、とはなかなか割り切れないようですね。

[目次]
第1章 末続慎吾はなぜスタートで注意されたのか?
第2章 シドニーで篠原信一が銀に終わった本当の理由
第3章 日韓共催W杯が遺したもの
第4章 ソルトレイクの密約
第5章 ヤンキース王朝は誤審から始まった
第6章 ミュンヘン、男子バスケットボール大逆転の謎
第7章 マイノリティの悲哀―ラグビーにおける誤審
第8章 日本の誤審は偏見から生まれるのか?
第9章 誤審の傾向と対策

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▽『偽薬のミステリー』――プラシーボの歴史をひもとく

パトリック・ルモワンヌ『偽薬のミステリー』(小野克彦、山田浩之、紀伊國屋書店)

プラセボ、あるいはプラシーボ(偽薬)とは、実際には薬としての効き目はないものでも、薬として摂取することで、効能があるように感じられるものを言います。

本書は、フランス人医師が、偽薬に関する歴史を解き明かすもので原書1996年に発表され、邦訳は2005年に刊行されました。

本書の白眉となるのは、現代の医療における「偽薬」の問題。

《処方数の三五~四〇%を占めるこれらの偽物とも本物ともつかぬ医薬品は、科学者としての医師を窮地から救い、やぶ医者をまねるような行為うまく免れさせるとともに、治療手段が種切れにならぬようにさせてくれる。手ぶらでは帰りたくない患者はそれで満足し、自分たちの望みがかなえられた上に明らかに科学的な方法で治療をうけたので、たちまち治るにちがいないとの思いを次第に強くするのである。どうやら契約は守られ、商取引はうまくいったわけである。》(p.169)

この部分は、大いに検証される必要があると思います。

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2012.07.12

▽欧州のエネルギーシフト

脇阪紀行『欧州のエネルギーシフト』(岩波新書)

福島原発の事故以来、日本では、原発の是非をめぐって、先鋭的な議論が戦わされています。

本書では、ヨーロッパ各国の原発と政治のかかわりを、その国の歴史的文脈を踏まえながら解説しています。

ドイツやイタリアのように、過去に一度、脱原発をめざしながらも軌道修正したものの、福島後にふたたび脱原発に舵をきるなど、一筋縄ではいかない難しい問題であることがあらためてわかります。

20120712europe

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▽「お手本の国」のウソ――ドイツ、フランス、フィンランド、イギリス、アメリカ、ニュージーランド

『「お手本の国」のウソ』(新潮新書)

明治維新以来、日本は欧米先進国を「お手本」としてキャッチアップを最優先課題として発展してきました。成長期を終えた国家になったいまでも、日本は、あいかわらず、「お手本」とする国を探し求めているような状態です。

本書は、そんな「お手本の国」について、実態はどうなのかをその国に滞在した経験のある(あった)書き手によるレポートです。日本人が思いこんでいるほど、すばらしいわけでもないんだよ、ということがわかります。

中島さおり 「少子化対策」という蜃気楼----フランス
靴家さちこ "世界の教育大国"に「フィンランド・メソッド」はありません----フィンランド
伊藤雅雄 「第三極」にふり回された二大政党制お家元----イギリス
伊万里穂子 私なら絶対に選ばない陪審裁判----アメリカ
内田泉 自然保護大国の「破壊と絶滅」の過去----ニュージーランド
田口理穂 「ヒトラー展」に27万人、ドイツ人と戦争責任----ドイツ
有馬めぐむ 財政危機、それでも食べていける観光立国----ギリシャ

最後のギリシャだけは、本書の趣旨とは反対に、「お手本にしたくない国のウソ」について書かれています。

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2012.07.11

▽『深海と深海生物』――美しき神秘の世界

『オールカラー 深海と深海生物 美しき神秘の世界』(独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)監修、ナツメ社)

海洋研究開発機構(JAMSTEC)という独立行政法人が監修した割には(失礼!)、面白くつくられた深海本。図表や深海魚の写真も豊富で、見所も多い。

[目次]
【巻頭特集】深海への挑戦
・深海探査の世界
・人はなぜ、深海に惹かれるのか
・有人潜水調査船「しんかい6500」
・深海探査をリードしてきた「しんかい6500」
・海中ロボット(ROV・AUV)
・夢の深海探査機を目指して

【第1部】海のなりたちと役割
第1章 海とはなにか?
・海の姿
・世界の海
・水の循環
・海の成分と色
・世界の海流
・海流
・波と潮
・海の誕生

第2章 海と地球環境
・海の役割
・海と気候
・二酸化炭素と海
・地球温暖化

【第2部】深海と深海底
第1章 深海の科学
・深海とは
・水深と水圧
・深海と光
・水温と塩分
・深海の音
・海水の密度

第2章 深海底の姿
・海底の地形
・音響測深
・世界の海底地形
・海底とプレート
・海嶺
・海底火山
・熱水噴出孔
・海溝
・日本周辺の海底
・地震
・深海微生物
・海底資源
・世界の海底資源分布

【第3部】深海生物の世界
第1章 海洋の生態系
・海洋生物の分類
・海の食物連鎖
・化学合成生態系
・深海生物の適応戦略

第2章 深海生物ギャラリー
・水深1000mまでの生物
・水深1000m以深の生物
・化学合成環境で暮らす生物

【巻末付録】海洋調査研究とJAMSTEC
・海洋調査研究の歴史
・地球深部探査船「ちきゅう」
・無人探査機「ハイパードルフィン」
・深海生物追跡調査ロボットシステム「PICASSO」
・深海曳航調査システム「ディープ・トゥ」
・大深度小型探査機「ABISMO」
・海洋観測ブイシステム「トライトンブイ」「m-TRITONブイ」
・自動観測フロート「アルゴフロート」
・スーパーコンピュータ「地球シュミレータ」

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2012.07.10

▽『中国スパイ秘録』――米中情報戦の真実

デイヴィッド・ワイズ『中国スパイ秘録: 米中情報戦の真実』(石川京子、早川麻百合訳、原書房)

アメリカのスパイ戦争といえば、東西冷戦時の社会主義国との戦いが定番でした。

しかし、本書のテーマは米中のスパイ戦争。

たしかに社会主義崩壊後には、国家としての規模が小さくなったロシアに比べると、高度経済成長を続ける中国は、アメリカにとって新たな脅威とみることができます。

[目標]
序章
第1章 千の砂粒
第2章 パーラーメイド
第3章 リクルート
第4章 二重のゲーム
第5章 読み終えたら完全に隠滅せよ
第6章 『ミスター・グローブ、大変だ!』
第7章 虎に乗って――中国と中性子爆弾
第8章 飛び込み
第9章 キンドレッド・スピリット
第10章 セゴパーム
第11章 トラブルパラダイス
第12章 イーサリアル・スローン ~スパイになったことがないスパイ
第13章 暗雲
第14章 逆スパイ
第15章 ロイヤル・ツーリスト
第16章 ニクソンと香港ホステス
第17章 アヌビス
第18章 ゲームの終わり
第19章 イーグル・クロウ
第20章 レッドフラワー
第21章 サイバースパイ
第22章 終章
あとがき
訳者あとがき
出典と注釈

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2012.07.09

▽『チャイナ・ナイン』――中国を動かす9人の男たち

遠藤誉『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』(朝日新聞出版)

中国は「チャイナ・ナイン」と呼ばれる9人の人物の集団指導体制によって支配されている――。

という視点で書かれているのが本書です。amazonの紹介によると、本書の執筆時点(2012年2月)で、先頃、逮捕された薄熙来の更迭を予想していたたそうです。

ところで、日本に流れてくる中国情報というと、いろいろとメディアのバイアスがかかっていることが多いですよね。ところが、英語圏の記事などで情報を得ようとすると、中国人名前の英文表記がわからなかったりします。

ということで、本書で紹介されている「チャイニーズ・ナイン」と、その名前の英語表記を自分用のメモとして、記しておきます。

No.1
胡錦涛(国家主席)
Hu jin-tao

No.2
呉邦国(全人代常務委員会委員長)
Wu Bang-guo

No.3
温家宝(国務院総理=首相)
Wen Jia-bao

No.4
賣慶林(全国政治協商会議主席)
Jia Qing-lin

No.5
李長春(中央精神文明建設指導委員会主任)
Li Chang-chun

No.6
習近平(国家副主席)
Xi Jin-ping

No.7
李克強(国務院副総理=副首相)
Li Ke-qiang

No.8
賀国強(中央規律検査委員会書記)
He Guo-qiang

No.9
周永康(中央政法委員会書記)
Zhou Yong-kang

本書で残念なのは、「~らしい」、「~ようだ」という伝聞調が多いのが気になると言えば気になります。

また、ちょっと驚いたことに、「本書執筆に関しては2011年12月20日頃に2012年1月末の脱稿という形で朝日新聞出版から依頼されたため、十分な推敲ができず、私の勘違いや知識不足が招いたまちがいが多々あるかもしれない。」(p369)とのこと。

それゆえに内容に関して、多少は割り引いて読む必要があるかもしれませんが、それでもとりあえず、中国の人治主義の一端を、かいま見ることができます。

[目次]
序章  権力の構図
第一章 中国を動かす9人の男たち
第二章 次の中国を動かす9人の男たち
第三章 文化体制改革
第四章 政治体制改革
第五章 対日、対外戦略
終章  未完の革命

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2012.07.08

▽現代中国の政治――「開発独裁」とそのゆくえ

唐亮『現代中国の政治――「開発独裁」とそのゆくえ』(岩波新書)

1980年代に始まった中国の改革開放路線――。

30年以上にわたり、年平均9%の成長を続けて、2010年には、GDPで世界二位の経済大国に躍り出た。

政治的には、共産党の一党独裁を維持しつつ、経済成長を続ける中国を、著者は「開発独裁」の一形態と見なしている。本書によると、「開発独裁路線」とは、

《市場志向の経済政策と権威主義体制の結合を特徴とする。具体的には、政府は経済成長を最優先課題として掲げると同時に、求心力の制限を正当化しようとする。》(p.ii)

「開発独裁路線」は、欧米型の近代化路線とも、社会主義型の近代化路線とも異なり、民主化以前の台湾や韓国で採られた路線という。

そして、「開発独裁路線」は、経済発展最優先の段階、社会政策強化の段階、民主化推進の段階という三つのステップを踏むという。現代の中国は、第二段階の社会政策強化の段階を迎えつつある、というのが著者の分析である。

[目次]
はじめに――中国の政治変容をどう見るか

第1章  一党支配と開発独裁路線
  1 一党支配体制と強い国家
  2 改革開放路線の推進
  3 中国の「開発独裁」の特徴

第2章 国家制度の仕組みと変容
  1 疑似民意機関としての人民代表大会
  2 開発国家の行政制度
  3 「法治」途上の司法制度   

第3章 開発政治の展開   
  1 市場経済化と格差の拡大
  2 大衆の経済的な維権活動
  3 調和社会へ向かう社会政策の推進        

第4章 上からの政治改革         
  1 上からの政治改革戦略
  2 「中国式民主主義」の論理と内実
  3 緩やかな自由化              

第5章 下からの民主化要求       
  1 民主化の担い手としての中間層
  2 市民社会の活動
  3 低調期の民主化戦略

おわりに――民主化の展望は開かれるか

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2012.07.07

▽吉越浩一郎「残業ゼロ」の仕事力

吉越浩一郎『新装版 「残業ゼロ」の仕事力』(日本能率協会マネジメントセンター)

本書の著者、吉越浩一郎氏は、下着メーカーのトリンプ日本法人の社長として、残業ゼロを実現したことで知られている。
2006年に、引退した吉越氏は、2007年に『「残業ゼロ」の仕事力』を上梓、本書は、その新装版である。

残業時間の多さが気になっていた吉越氏は、社長になると「ノー残業デー」を導入。終業時間になると、吉越氏自らが部屋の電気を消して回る。違反があったら、翌日に反省会を開かせ議事録を提出させる、という徹底ぶり。

《「残業ゼロ」を推進するにあたって、うまくいくコツは、ただ一つ。例外を作らずに徹底することです。》(p.7)

そして、「残業ゼロ」が定着した後でも、トリンプは毎年、増収増益を続けていたそうです。仕事の仕方に対する考え方など、いろいろと示唆に富む内容です。

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2012.07.06

▽地球一周空の旅――上空から眺める55の絶景

『地球一周空の旅―上空から眺める55の絶景』(パイインターナショナル)

なんか似たような企画があったような気もしますが(笑)、意外な絶景も掲載されていて、それなりに楽しめます。

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2012.07.05

▽派遣会社もツライよ――『仕事がない!』

増田明利『仕事がない!-求職中36人の叫び』(平凡社)

著者は、雇用問題を専門とするジャーナリスト。

これまでにも、『今日、ホームレスになった』シリーズや、『今日から日雇い労働者になった』、『今日、派遣をクビになった』などを発表している。

本書は、なんらかの理由で失業し、求職活動を続けるものの、いい仕事が見つけられない36人のルポである。

内容は、著者の前作や、マス・メディアなどで報じけられてきたものとさほどかわらないが、派遣会社に勤務していた男性の証言は興味深い。

《「わたしは〇五年の六月に転職して派遣業界に入ったわけですが、四半期ごとに売上が伸びていきました。会社としても積極的な営業展開をしたけど、それだけ需要があったということだと思う」》(p.86)

忙しさのピークは、2006年の下期から、2008年の初めの頃で、小売業や飲食業での人手不足感が強くなり、時給も短期間で上がっていったという。大手のコンビニが、「一日一時間でもOK」というチラシを入れることもあったという。

こうした好景気が暗転したのが2008年9月のリーマン・ショックで、派遣会社の顧客だった企業は離れていった。中には、派遣会社に給料を払わずに倒産した企業もあったという。

不況による就職難で、企業は派遣会社を介さなくても人を雇えるようになり、派遣会社の多くが契約を打ち切られ、倒産や廃業も続いている。

この証言者が勤めていた派遣会社も倒産したため、転職活動をしているが、派遣業界自体が不況におそわれている。また、元派遣会社勤務というキャリアでは、事業会社の人事部には採用されないという――。

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▽ナチ戦争犯罪人を追え

ガイ・ウォルターズ『ナチ戦争犯罪人を追え』(高儀進訳、白水社)

イギリス人の小説家であり、ジャーナリストでもあるガイ・ウォルターズが、いわゆるナチ・ハンターの活動を検証したノンフィクション。

1945年にドイツが連合軍に対して降伏すると、ナチ将校の多くは、イタリアやアルゼンチンなどに逃亡した。本書では、アイヒマンなどの有名なナチ逃亡者を追い詰めるさまが、小説さながらにスリリングな筆致で描かれている。

また、本書において、いささか衝撃的なのは、ナチ・ハンターとして世界的に有名なサイモン・ウィーゼンタールの証言の多くは、虚言や誇張されたものだったということが実証されている点。

また、ウィーゼンタールの証言に基づいて、フレデリック・フォーサイスが書いた小説「オデッサ・ファイル」に登場するナチ逃亡支援組織「オデッサ」も、ほぼフィクションであったことが明らかにされている。

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2012.07.04

▽『絵が語る知らなかった幕末明治のくらし事典』

本田豊『絵が語る知らなかった幕末明治のくらし事典』(遊子館・歴史図像シリーズ)

本書はタイトルどおり、幕末と明治の庶民のくらしぶりを、現存している絵で紹介するもの。思った以上に、描かれた「幕末明治」が多いことに驚かされます。

紹介されているのは、歴史上の有名人から、庶民の衣食住まで多岐にわたります。

かならずしも本書のメイン・テーマではないのでしょうが、印象に残った記述を一つだけ紹介しておきますね。

《江戸時代には、全国どこの藩でも大名は権力があるようでいてなかった。それは実際の政務は家老という官僚が支配していたからである。だから大名が、志村けんが演じるような「バカ殿」であっても政治が動いていったのは、家老とその下の官僚機構がしっかりしていたからである。それは将軍も同じであって。》(p.78)

[目次]
第1章 幕末から明治への探訪
第2章 文明開化の探訪
第3章 新風俗の探訪
第4章 明治政府の施策と社会探訪
第5章 事件・災害の探訪
第6章 都市生活の探訪
第7章 地域・農村の探訪
第8章 教育の探訪
第9章 庶民運動・マス・メディアの探訪
第10章 軍隊と戦争の探訪

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2012.07.01

▽震災に強い家とは

日経ホームビルダー『震災に強い家 (東日本大震災の教訓[住宅編])』(日経BP社)

東日本大震災の直後に、被災地に入り、地震や津波に耐えた住宅と、そうでない住宅の比較を行ったもの。

同じ住宅メーカーでも、被害にあったりあわなかったりと、さまざま要因が明暗を分けています。

ただ、本書は、東日本大震災の資料はさほど多くなく、過去に起きた他の震災の資料で補完されているのがちょっと残念。

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2012.06.29

▽大人気のフェルメール

朽木ゆり子『フェルメール全点踏破の旅』(集英社新書ヴィジュアル版)

「真珠の耳飾りの少女」公開 100万人集客するか : J-CASTニュース

フェルメールの名作「真珠の耳飾りの少女」が公開されることで話題になっている「マウリッツハイス美術館展」の開会式が2012年6月29日、東京・上野の東京都美術館で開かれた。午前中のプレスプレビューには400人以上のマスコミ関係者が集まり、前評判通りの盛り上がりを見せた。

『フェルメール全点踏破の旅』の旅は、美術ジャーナリストの著者が、世界に37枚あるとされるフェルメールの絵のうち33枚を観賞した記録である。

フェルメールの絵についての解説とともに、それを自分の目で見たい願う著者の思いが伝わってきて面白い。

世界的に人気の高いフェルメールですが、裏の社会でもなかなか人気が高いようです。同じ著者のデビュー作が、『盗まれたフェルメール』。盗難後の絵の行方も気になりますね。

朽木ゆり子『盗まれたフェルメール』(新潮選書)

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2012.06.26

▽幸せになる百通りの方法

荻原浩『幸せになる百通りの方法』(文藝春秋)

荻原浩の短編集。

節電を強いられた生活を描く「原発がともす灯の下で」
オレオレ詐欺の「俺だよ、俺。」
ブログと出版をめぐるあれこれを描いた「今日もみんなつながっている。」
お見合いパーティーの「出逢いのジャングル」
リストラを言い出せない男の話「ベンチマン」
歴女に振り回される「歴史がいっぱい」
自己啓発を描いた表題作の「幸せになる百通りの方法」

どれも現実を切り取ろうと試みているものの、そもそも、その現実自体がふわふわとしたとらえどころのないものであるために、ふわふわとした不思議なあじわいを醸し出した短編集になっています。

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2012.06.24

▽『テイクダウン』――若き天才日本人学者vs超大物ハッカー

下村努xジョン・マーコフ高島俊男『テイクダウン―若き天才日本人学者vs超大物ハッカー〈上〉』(近藤純夫訳、徳間書店)

下村努xジョン・マーコフ高島俊男『テイクダウン―若き天才日本人学者vs超大物ハッカー〈下〉』(近藤純夫訳、徳間書店)

いわゆる「ハッカーもの」のノンフィクションとしては、古典の部類に入る傑作。

1995年のこと、ケビン・ミトニックという伝説の「ハッカー」――厳密に言えば「クラッカー」――が、コンピューター・セキュリティの専門家のコンピューターに侵入を繰り返した。

この専門家は、下村努という在米日本人で、2008年にノーベル化学賞を受賞した下村脩の息子である。

1995年というと、Windows95が発売され、ようやく一般の人がパソコンに触れるようになった頃で、本書で描かれている世界は、やや古めの「コンピューター・ネットワークの世界」ですが、それでも、見えない敵を追い詰めていく、手に汗握るスリリングな展開が楽しめます。

本書は、ケビン・ミトニックを追い詰めていく下村の視点で描かれていますが、ミトニックの視点で描かれた映画『ザ・ハッカー』も公開されています。

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2012.06.23

▽小池和男『高品質日本の起源』――発言する職場はこうして生まれた

小池和男『高品質日本の起源―発言する職場はこうして生まれた』(日本経済新聞出版社)

《ふつう一国の国際競争力はすぐれたリーダーやエリート、また革新的な研究開発による、と考えられている。もちろんそれに誤りははない。だが、それに勝るともおとらぬ他の枢要な要素が、職場の中堅層の働きではないだろうか。どれほどすぐれた開発・設計でもそれを故障のすくない、高い品質の製品に仕上げ、また周到なサービスとして提供するのは、職場の中堅層である。》(p.i)

著者のこの意見自体に異論があるわけではない。しかし、本書の論証は戦前の日本の企業や労働組合の実態に費やされている。

最近の日本の家電メーカーの失速ぶりを見るにつけ、やはり中堅層よりも、「すぐれたリーダーやエリート、また革新的な研究開発」が、重要ではないか、と思わざるをえない。

[目次]
はしがき
 序 章 職場からの発言は競争力の根幹

第I部 品質への職場の発言
 第1章 なぜ品質に注目するか
 第2章 綿紡績業研究にみる興亡の歴史
 第3章 ふたつの統計観察
 第4章 職場の問題と変化
 第5章 鐘紡は例外か――内部文章から読み解く

第II部 定期昇給制の出現――生産労働者に
 第6章 知られざる定期昇給の重要性
 第7章 戦前日本の大企業にみる定期昇給

第III部 知られざる貢献――戦前昭和期の労働組合
 第8章 過小評価されつづけてきた戦前の労働組合
 第9章 つよい組合とはなにか――団体交渉と解雇
 第10章 生産の工夫の軌跡を追う
 第11章 目配りのきいた共済活動
 第12章 争議のメカニズム解剖
 第13章 戦争と労働組合
 終 章 国際競争力の源泉


文献

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▽福島原発の真実――最高幹部の独白

今西憲之+週刊朝日取材班『福島原発の真実 最高幹部の独白』(朝日新聞出版)

《2号機の内視鏡の映像を見たゼネコンの人は、「錆などの状況から、燃料棒を取り出す10年後まで建屋は大丈夫なのか疑問だ」と言ってました。》(p.200)

「フクイチ」こと、福島第一原子力発電所――。

そのフクイチの「最高幹部」に、週刊朝日とジャーナリストの今西憲之が迫ったのが本書である。もちろん「最高幹部」の素性はまったく明らかにされていない。

しかし、今西が「最高幹部」の手引きでフクイチに潜入して撮った写真は、週刊朝日に掲載され、原発事故のすさまじさを印象づけた。それは、東電が大手メディア向けに組んだ撮影ツアーで撮らされた写真とは、まったく違うものであった。

本書には、東電が隠そうとした「真実」を伝えようとする「最高幹部」の言葉であふれている――。

《本店の記者会見を見ていると、よくこんな尊大な態度ができるものだと思うこともあります。同じ東京電力の一員として、情けなく、腹立たしく、悲しい。》(p.206)

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2012.06.21

▽中国の大盗賊・完全版

高島俊男『中国の大盗賊・完全版』(講談社現代新書)

著者によると、中国における王朝の交代には、さまざまなパターンがあるという。

まず、前王朝から譲りを受けて新王朝が建てられることを、「禅譲」という(漢の献帝に譲られた魏など)。また、暴力によって奪われることを、「放伐」といい、王朝の有力な武将によるもの(唐や宋)、異民族によるもの(元や清)、そして、盗賊によるもの、に区別される。

本書によると、「盗賊」の定義は、

《 一、官以外の、
 二、武装した、
 三、実力で要求を通そうとする、
 四、集団》(p.21)

という。そして、中国の王朝の多くは、この盗賊によって、奪われたものだという。

つまり、本書は、漢の劉邦、明の朱元璋、明を倒し「順」を建てたものの長続きしなかった李自成、清代に「太平天国」を建てた洪秀全、そして、中華人民共和国を建国した毛沢東の五人の「大盗賊」を描いたものである。

「完全版」とは、1989年に刊行された初版では、縮小されていた毛沢東の項の分量を、当初予定に復元したという意味らしい。

なるほど、こういう見方もできるのか、と中国に対する新しい視点も与えてくれます。

[目次]
序章 「盗賊」とはどういうものか
第1章 元祖盗賊皇帝―陳勝・劉邦
第2章 玉座に登った乞食坊主―朱元璋
第3章 人気は抜群われらの闖王―李自成
第4章 十字架かついだ落第書生―洪秀全
第5章 これぞキワメツケ最後の盗賊皇帝―毛沢東

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2012.06.20

▽麻生幾『極秘捜査』――政府・警察・自衛隊の「対オウム事件ファイル」

麻生幾『極秘捜査―政府・警察・自衛隊の「対オウム事件ファイル」』(文春文庫)

本書は、スパイ小説の第一人者である麻生幾が、1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件と、それに対する警察側の対応を描いたノンフィクション。

当時のことを知っている者としては、特に、驚くような新事実があるわけでもなく、また、ディティールが細かすぎるきらいはあるものの、それでもあの時の騒然とした雰囲気はまざまざと思い起こされます。

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2012.06.19

▽宇野常寛『ゼロ年代の想像力』

宇野常寛『ゼロ年代の想像力』(ハヤカワ文庫)

気鋭の評論家、宇野常寛が2008年に上梓した、日本のサブ・カルチャー総まくり本の文庫版。

1995年に起きた、阪神大震災、オウム真理教による地下鉄サリン事件から、新世紀エヴァンゲリオンを経て、池袋ウエストゲートパークや平成仮面ライダーまでのほぼ十年の文化状況を俯瞰する。

サブカルチャーのまとめとしてはよくできていると思う。しかし、平成ライダー各作品の人気の高低を、その作品のメッセージのみと結びつけるのは、やや牽強付会の嫌いがある。また、考察において、好不況といった経済的な側面が、あまり意識されていないのも気にかかる。

[目次]
第 一 章 問題設定――九〇年代からゼロ年代へ/「失われた十年」の向こう側
第 二 章 データベースの生む排除型社会――「動物化」の時代とコミュニケーションの回復可能性
第 三 章 「引きこもり/心理主義」の九〇年代――喪失と絶望の想像力
第 四 章 「九五年の思想」をめぐって――否定神学的モラルのあとさき
第 五 章 戦わなければ、生き残れない――サヴァイヴ系の系譜
第 六 章 私たちは今、どこにいるのか――決断主義のゼロ年代の現実認知
第 七 章 宮藤官九郎はなぜ「地名」にこだわるのか――(郊外型)中間共同体の再構成
第 八 章 ふたつの『野ブタ。』のあいだで――木皿泉と動員ゲームの離脱可能性
第 九 章 解体者としてのよしながふみ――二十四年組から遠く離れて
第 十 章 肥大する母性のディストピア――空転するマチズモと高橋留美子の「重力」
第十一章 「成熟」をめぐって――新教養主義の可能性と限界
第十二章 仮面ライダーにとって「変身」とは何か――「正義」と「成熟」の問題系
第十三章 昭和ノスタルジアとレイプ・ファンタジー――物語への態度をめぐって
第十四章 「青春」はどこに存在するか――「ブルーハーツ」から「パーランマウム」へ
第十五章 脱「キャラクター」論――ケータイ小説と「物語」の逆襲
第十六章 時代を祝福/葬送するために――「決断主義のゼロ年代」を超えて
特別ロング・インタビュー ゼロ年代の想像力、その後
固有名索引

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▽佐木隆三『わたしが出会った殺人者たち』

佐木隆三『わたしが出会った殺人者たち』(新潮社)

すごいタイトルの本ですが……。

これはジャーナリストの佐木隆三が、取材を通して、まさに「出会った殺人者たち」十八人についての印象記をまとめたものです。

いま話題のオウム真理教の麻原彰晃こと松本智津夫については、四女の本『私はなぜ麻原彰晃の娘に生まれてしまったのか』に記された、三人の娘たちとの接見時に起きた衝撃の事件が紹介されています。

《「父はスエットパンツの中から自分の性器を取り出し、マスターベーションを始めたのです」》(p.173)

この四女や著者の印象では、麻原死刑囚は、「偽痴呆症」の状態とのことです。

[目次]
まえがき
第一章 『復讐するは我にあり』の西口彰
第二章 『曠野へ 死刑囚の手記から』の川辺敏幸
第三章 『千葉大女医殺人事件』の藤田正
第四章 『悪女の涙 逃亡十五年』の福田和子
第五章 『連続幼女誘拐殺人事件』の宮崎勤
第六章 『別府三億円保険金殺人事件』の荒木虎美
第七章 『身分帳』の山川一こと田村明義
第八章 『一〇八号――連続射殺事件』の永山則夫
第九章 『和歌山毒カレー事件』の林真須美
第十章 『オウム真理教事件』の麻原彰晃こと松本智津夫
第十一章 『トビ職仲間と五人殺し』の木村繁治
第十二章 『黒い満月の前夜に』の尊・卑属
第十三章 『中洲美人ママ連続夫殺し』の高橋裕子
第十四章 『奈良女児誘拐殺人事件』の小林薫
第十五章 『深川通り魔殺人事件』の川俣軍司
第十六章 『大阪池田小大量殺人事件』の宅間守
第十七章 『下関駅通り魔殺人事件』の上部康明
第十八章 『偉大なる祖国アメリカ』の安田幸行
あとがき

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2012.06.15

▽グーグル――追われる立場から追う立場へ

スティーブン・レヴィ『グーグル ネット覇者の真実 追われる立場から追う立場へ』(仲達志、池村千秋訳、阪急コミュニケーションズ)

追われる立場から、追う立場へ――。

十年一昔とはいうものの、その十年の間にネット企業の頂点に躍り出て、さらに、後進のフェースブックを追う立場へと転落したグーグル。

そのグーグルの内部に潜り込んで、グーグルの秘密を描いたのが本書である。

グーグルといえば、検索しようとする単語に関連すると思われる単語を自動的に表示する機能があるが、これが個人のプライバシーに関わる大きな問題を引き起こしている。

《こうした不満やクレームの処理を任されたのは、2000年にグーグルに入社し、小さなマーケティング部門に所属するデニーズ・グリフィンだ。グーグルに掘り起こされた情報がどのように人々の感情を傷つけ、ときには実害を及ぼしているかに関する話を聞いて、彼女はしばしば胸が張り裂けるような思いをした。》(p.269)

一見、鉄面皮のようなグーグルだが、その向こう側には、こうした生の感情を持つ人間が存在することが伺える。

本書を読むと、グーグルのイメージが少しかわることは間違いない。

[目次]
プロローグ Googleを「検索」する
01章 グーグルが定義する世界―ある検索エンジンの半生
02章 グーグル経済学―莫大な収益を生み出す「方程式」とは
03章 邪悪になるな―グーグルはどのように企業文化を築いたのか
04章 グーグルのクラウドビジネス―全世界に存在するあらゆる文書を保存する
05章 未知の世界への挑戦―グーグルフォンとグーグルTV
06章 谷歌―中国でぶつかった道徳上のジレンマ
07章 グーグルの政治学―グーグルにとっていいことは、人々にとっていいことか
エピローグ 追われる立場から追う立場へ

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▽いまだ下山せず!

泉康子『いまだ下山せず!』(宝島SUGOI文庫)

本書は、1986年12月に、槍ヶ岳で起きた「のらくろ岳友会」のメンバーの遭難を描いたノンフィクションです。

著者は、「のらくろ岳友会」を創設したOGとして、遭難事故に関わることになります。その顛末を、当事者としての感情に流されることなく、できる限り事実や証言を積み重ねて、遭難事故の真相に迫っていった労作です。

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2012.06.10

▽バイエルの謎

安田寛『バイエルの謎: 日本文化になったピアノ教則本』(音楽之友社)

「バイエル」といえば、音楽に疎い私でも知ってる、有名なピアノの教則本です。「バイエル」という言葉は、ピアノの世界だけでなく、他の分野でも「入門書」という意味で使われる、ある種の代名詞となっています。

しかし――。

1980年代後半になると、この「バイエル」が、「日本でしか使われていない」、「本国ドイツでは忘れられた存在」、「バイエルは三流の作曲家」というバッシングにさらされます。

しかも、音楽家バイエルに関する記述はほとんど残されておらず、バイエルは実在したのか? という疑問すら浮かんできます。

そんなバイエルの、日本、ヨーロッパ、そしてアメリカにおける歴史をたどったのが本書です。ちょっとした歴史ミステリーの趣に加えて、明治以来の日本の音楽史が綴られた読み応えのある一冊です。

[目次]
プロローグ バイエル文化の謎

第一の封印

第一章 バイエルをめぐる日本人の愛憎
 バイエル不在説
 長く使われた理由
 懐かしい風景
 バッシング
 偽の伝記

第二章 バイエルを日本に持ってきたのは誰だ?
 定説
 ハイエル・メトデ貳拾冊
 エメリース弐拾冊
 メーソンに宛てた書簡
 音楽院・ピアノ・メソッド
 音楽院の便覧
 編集したのは誰か

第三章 初版はいつ出版されたのか?
 ムジカノーヴァ
 ホフマイスター音楽図書月刊目録
 初版の値段

第四章 バイエル偽名説
 万国音楽家列伝
 酷評
 写真の出現

第五章 チェルニー・バイエル同一人物説
 推薦状
 推薦は本物か
 原著で裏を取る
 したたかな広告

第二の封印

第六章 バイエル初版
 ウィーンでは人気があったバイエル
 万霊節
 ニュルンベルクのマイスタージンガー
 王室音楽御用達出版者

第七章 驚異の多作家
 ショット社
 門外不出
 ショット社出版目録
 重複した作品番号
 バイエル併用曲集

第八章 最古のバイエル
 ニューオーリンズの初版
 教会と市役所と城のある小さな都市
 マニュアル
 イェール大学

第九章 エディション研究
 初版復元
 姿を現した初版
 本物

第三の封印

第十章 静かにした手
 バイエル受容史
 異常な拡張
 模倣
 天才ピアノ教育家
 レーライン・ピアノ教則本
 音楽新報
 クララ・シューマン
 和音聴音
 いろおんぷ
 体系

第十一章 シュークリーム
 合本
 番外曲
 歴史的経緯
 お楽しみ曲
 整理
 解答

第四の封印

第十二章 改築申請書
 終焉
 宣託
 死亡証明書
 住所録
 聖ランペルティ教会
 洗礼記録
 旅は終わらない

第十三章 最後の秘密
 新しい情報
 先祖の地
 プロテスタント教会音楽
 断絶
 家族の歴史
 受け継がれるもの
 母と子と
 讃美歌集とオルガン
 教会歴

エピローグ 百四十八年後の弔辞
本文注
資料写真
あとがき

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2012.06.09

▽巨大津波は生態系をどう変えたか――生きものたちの東日本大震災

永幡嘉之『巨大津波は生態系をどう変えたか―生きものたちの東日本大震災』(ブルーバックス)

2011年3月11日に東北地方をおそった津波。

この津波によって、東北地方沿岸の生態系は大きな影響を受けた。

たとえば、天敵が消えたためにアブラムシが大量発生する。しかし、後を追うように、このアブラムシを捕食するテントウムシが大量発生する。増えすぎたテントウムシは、アブラムシを食い尽くすと、今度は、羽化途中にトンボに襲いかかる――。

しかしその後、アブラムシもテントウムシも、個体数は均衡し目立たなくなったという。

津波というインパクトによってバランスの崩れた生態系の姿を写真によって切り取った貴重な記録である。

[目次]
第1章 東北地方の生態系
第2章 変容した地形
第3章 蝕まれた水辺
第4章 蝕まれた大地
第5章 津波がもたらした異観
第6章 湿地の生きものたちのその後
第7章 砂浜の生きものたちのその後
第8章 巨大津波は生態系をどう変えたか

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2012.06.08

▽昆虫顔面図鑑[日本編]

海野和男『昆虫顔面図鑑 日本編』(実業之日本社)

昆虫の顔をドアップに撮影した昆虫顔面写真集。

何という企画でもないのですが、昆虫の顔が、イメージどおりだったり、そうではなかったり、見ていて楽しくなる写真集です。

著者による解説や補足的に掲載されている写真も、昆虫のリアルな生態を教えてくれます。

姉妹編として[海外編]もあります。

海野和男『昆虫顔面図鑑 海外編』(実業之日本社)

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2012.06.07

▽図表と地図で知るヒトラー政権下のドイツ

クリス・マクナブ『図表と地図で知る ヒトラー政権下のドイツ』(松尾恭子訳、原書房)

ヒトラー時代のドイツを、地図や図表を使って、わかりやすく解説したもの。著者のクリス・マクナブは、イギリスの軍事史などを専門とする作家である。

特に新しい事実が盛り込まれているわけではありませんが、第三章の経済の項目をみると、ヒトラーは、疲弊したドイツ経済の救世主として登場したことが改めてわかります。

もちろんそれは軍事的な拡張政策とセットになった軍需産業の伸長によるもので、いずれ破綻することはわかりきっていたはずのことなのですが。

[目次]
第1章 第三帝国の歴史
 新しい国際秩序 1918-1933年
 権力掌握 1933-1939年
 領土拡張 1939-1942年
 敗北と崩壊 1942-1944年
 終焉 1945年とその後

第2章 領土
 併合
 ポーランドの占領体制
 西ヨーロッパの占領 1940-1944年
 ソ連侵攻
 中央集権国家
 占領と搾取 1939-1945年

第3章 経済
 経済と雇用 1933-1939年
 商業と工業 1933-1945年
 兵器生産
 労働条件と食糧事情

第4章 政権と指導者
 党と国家
 組織と政策決定
 指導者としてのヒトラー

第5章 警察と司法
 警察権力
 裁判
 警察の任務

第6章 国防軍
 軍の復活 1919-1939年
 陸軍
 陸軍の戦力 1939-1945年
 海軍
 空軍
 敗北の理由と犠牲

第7章 民族政策
 迫害
 ホロコースト

第8章 社会政策
 青少年政策
 教育政策
 女性政策
 歓喜力行団

第9章 スポーツ・芸術文化・宗教
 スポーツ
 党大会
 芸術文化
 ラジオと新聞
 宗教
 古代信仰とシンボルマーク

索引

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2012.06.05

▽オウム真理教に惹かれた人々――村上春樹『雑文集』より

村上春樹『雑文集』(新潮社)

《オウム真理教に帰依した何人かの人々にインタビューしたとき、僕は彼ら全員にひとつ共通の質問をした。「あなたは思春期に小説を熱心に読みましたか?」。答えはだいたい決まっていた。ノーだ。》(p.204)

村上春樹は、地下鉄サリン事件の被害者やその遺族にインタビューした『アンダーグラウンド』と、オウム真理教の元信者たちにインタビューした『約束された場所で』の二つを発表している。

こうしたインタビューを通じて、オウム真理教の信者の多くは、小説というフィクションに対する免疫がなかったことに気がつく。フィクション馴れしていない彼らは、麻原彰晃の提示する虚構を、事実といっしょくたにして受け入れてしまったのではないか――。

と、村上春樹は分析している。

[目次]
序文・解説など
あいさつ・メッセージなど
音楽について
『アンダーグラウンド』をめぐって
翻訳すること、翻訳されること
人物について
目にしたこと、心に思ったこと
質問とその回答
短いフィクション―『夜のくもざる』アウトテイク
小説を書くということ

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2012.06.01

▽当ブログで売れた本――2012年上半期

当ブログで、2012年初からいままでに売れた本十傑を紹介します。

まあ、ランキングをつけるほどは売れていないので、あくまでも十傑ということで・・・・・・。

まずは、最近また注目を集めているのがレシピサイトの「クックパッド」。

▽日本最大のレシピサイト「クックパッド」の作り方
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/05/post-65fd.html

この「クックパッド」については、ビジネス・モデルを解説する記事もよく読まれています。

[参考]クックパッドのビジネス・モデル
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/news/2011/05/post-b35e.html

続いて、当ブログでは定番中の定番としてコンスタントに売れてるのが、「シビックプライド」。

▽シビックプライド――ヨーロッパにおけるケーススタディ
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/12/post-d65f.html

本書で取り上げられている10のケーススタディのうち6つがイギリスなのですが、エリザベス女王の即位60周年記念やロンドン五輪などによって、イギリスへの注目が高まっていることの現れかもしれません。

そして、これまた定番なのが、「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」。

▽インテル・インサイドとアップル・アウトサイド――技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-feeb.html

相次いで報道されている日本の家電メーカー敗戦の原因を論理的に分析した不朽の名著と言ってよいでしょう。

▽『日本の地方財閥30家 知られざる経済名門』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/03/post-1c2a.html

がんばれニッポンというわけではないのでしょうが、「日本の地方財閥」を紹介した本書も売れています。

▽大鹿靖明『メルトダウン』――福島第一原発事故ドキュメントの決定版
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/02/post-b55c.html

原発関連では、本書が注目を集めています。あまたある福島第一原発の事故調査委員会を上回る取材力が、本書を原発事故に関するドキュメントの決定版というにふさわしいものにしています。

▽飛田――さいごの色街
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/02/post-0c72.html

橋下大阪市長率いる大阪維新ブームの影響というわけではないのでしょうが、大阪の色街を描いた本書も話題になりましたね。

▽年金倒産――企業を脅かす「もう一つの年金問題」
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/01/post-d7ee.html

「税と社会保障の一体改革」やAIJ投資顧問の巨額損失事件に絡んで年金問題がかまびすしいのですが、企業の厚生年金基金にフォーカスを当てた本書は、わかりやすく問題点を解説した良書です。

▽サムライと愚か者――『暗闘オリンパス事件』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/04/post-1b16.html

オリンパス事件の顛末と、日本企業の暗部を描いた本書も読み応えありました。

▽『働かないって、ワクワクしない?』――職場が嫌いな二十五の理由
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/07/post-b1d7.html

この書評もアクセスの多いエントリーの一つです(笑)。

▽ユニクロの本質とは?――『ユニクロ帝国の光と影』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-fdd6.html

ユニクロの本質を暴いた本書もコンスタントに売れています。

ところで番外なのですが、当ブログでは紹介していないのに売れたものとしては、『POSSE vol.14 間違いだらけ?職場うつ対策の罠』があります。ユニクロの労働環境を紹介した記事が、話題を呼んだとのことです。

[参考]
▽当ブログで売れた本――2009年
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/12/2009-dd61.html
▽当ブログで売れた本――2010年上半期
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/08/2010-0d88.html
▽当ブログで売れた本――2010年下半期
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/12/2010-9982.html
▽当ブログで売れた本――2011年原発関連
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/05/2011-fe88.html
▽当ブログで売れた本――2011年上半期
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/2011-fe42.html
▽2011年に当ブログで売れた本
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/11/2011-b0d5.html
▽当ブログで紹介した本――東日本大震災・福島原発事故から一年
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/03/post-05d4.html

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▽江戸の性愛術とは?

渡辺信一郎『江戸の性愛術』(新潮選書)

江戸の郭には「おさめかまいじょう」という女郎向けの性の手引き書が残されていたそうです。本書は、その原文と現代語訳を並べて紹介したものです。

現代語訳を読まないと意味はわからないのですが、原文のねっちょりとした言い回しは、なかなか味わいがあるものです(笑)。

内容については、ここでは紹介しませんが、まあ、人間のあくなき性への探求心のどん欲ぶりには驚かされること請け合いです。

また、本書とは関係はないようですが、「おさめかまいじょう」のDVDも発売されているようです。現代人もどん欲やなあ(笑)。

『江戸の性愛術 おさめかまいじょう 技法編』

『江戸の性愛術 おさめかまいじょう 三十六種編』

渡辺信一郎『江戸の性愛術』(新潮選書)
[目次]
第一章 遊女の性技指南書に見る秘技
 一、『おさめかまいじょう』について
 二、新入りの女の女陰検分と水揚げ
 三、男経験のある新入りの女の女陰検分
 四、強靱のまらを堪能させる技法
 五、まら巧者の処理技法
 六、ようたんぼの半立まらに応じる法
 七、いきり過ぎて、萎えたまらの扱い方
 八、すぼけまら(包茎)の扱い方
 九、女は精液を吸い取って滋養とする
 一〇、絶大な馬まらには口と舌を使う
 一一、女郎の「気を遣る」のを止める技法
 一二、馴染みまらに応じる技法
 一三、刺身や道具を使う男への対処法
 一四、乳房間の交合の技法
 一五、口にほおばる技法
 一六、けつ取りの場合の対処技法
 一七、手技で男に気を遣らせる秘法
 一八、交合以外の女陰の曲技
 一九、干瓢を用いる秘法
 二〇、魚の腸管を使う秘法
 二一、凍りこんにゃくや高野豆腐を使う秘法
 二二、「かんぶ紙」を巻いて行う秘法
 二三、枠を嵌めて行う技法
 二四、芋の皮を巻いて行う秘法
 二五、「ぬか六」に対応する秘法
 二六、様々な交合体位、三十六種
 二七、女二人と男一人の技法 その一
 二八、女二人と男一人の技法 その二
 二九、女二人と男一人の技法 その三

第二章 女への大悦
 一、女との肛交
 二、外国の場合

第三章 「張形」の御利益
 一、女の新たなる自己顕示
 二、文献に現れた「張形」
 三、どんな女たちが使用したか
 四、新鉢を割る
 五、月水でも
 六、瞠目すべき秘録によれば
 七、独楽でアクメに至るには
 八、張形を使用する際には
 九、使い方の実際
 一〇、宿下がりとお役御免
 一一、下女などは代用のものを

第四章 江戸のバイアグラ
 一、提灯で餅を搗く
 二、常々の補腎薬の色々
 三、女が取り乱す「蝋丸」
 四、女が叫春する「女悦丸」
 五、世界に冠たる勃起薬「長命丸」
 六、バイアグラと同等「危檣丸」

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▽石川九楊の一日一書

石川九楊『一日一書』(二弦社)

書家の石川九楊は2001年から京都新聞の一面に「一日一書」という連載コラムを担当していた。紙に書かれたり、木や石などに彫られたりした文字の写真とともに、解説風のコラムがつくという体裁で、たいへんな労作である。

なんと、2001年版に続いて、2002年版、2003年版、さらに選り抜き版も上梓されている。

石川九楊『一日一書〈02〉』(二弦社)

石川九楊『一日一書〈03〉』(二弦社)

石川九楊『選りぬき一日一書』(新潮文庫)

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2012.05.30

▽天才 勝新太郎

春日太一『天才 勝新太郎』(文春新書)

俳優そして映画監督としての勝新太郎の天才っぷりをフィーチャーした快作。

黒澤明の『影武者』の主役に起用されたものの降板したエピソードも、これまでは黒澤サイドからの情報が多かったが、本作では勝サイドの視点で描かれていて興味深い。

また紆余曲折を経て復活した『座頭市』で起きたあの事件と、その後の運命も勝の波乱万丈な人生そのものと言っていい。

勝のたどった大映→東宝→テレビ時代劇という軌跡は、勝の人生だでなく、日本の映画界、テレビ界の歴史の一面も浮かび上がらせている。

[参考]▽『仁義なき日本沈没』――東宝VS.東映の戦後サバイバル
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/04/post-1c5f.html

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2012.05.28

▽DNAでたどる日本人10万年の旅――多様なヒト・言語・文化はどこから来たのか?

崎谷満『DNAでたどる日本人10万年の旅―多様なヒト・言語・文化はどこから来たのか?』(昭和堂)

日本人はどこから来たのか? という謎にDNAを手がかりに解き明かそうとしてのが本書である。

本書によると、日本にはアフリカ起源のうち、三つのDNAタイプをもつ人類が、ユーラシア大陸をわたって、辿り着いたという。

このうち中国ではO3という系統のDNAを持つ漢民族が他を圧倒していったのに対して、日本では三つの系統が共存し、中国よりも多様性を維持しているという。

ちょっと専門的過ぎて、難解な部分もありますが、多様な日本人のルーツがわかります。

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▽犬から見た世界――その目で耳で鼻で感じていること

アレクサンドラ・ホロウィッツ『犬から見た世界―その目で耳で鼻で感じていること』(竹内和世訳、白揚社)

犬というは、目が悪いのですが、そのかわりに鼻で世界を感じ取っています。そんな犬にとって、世界はどう“見える”のかを、犬に寄り添いながら綴ったもの。

著者によると、においで感じる世界とは、過去と現在と未来(遠くのにおいが流れてくる)が混在している世界なのだそうです。「なるほど犬はそう感じているのか」と、なかなか楽しく読むことができます。

ま、私は猫派なんですけどね(笑)。

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2012.05.27

▽再起動せよと雑誌はいう

仲俣暁生『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神Lマガジン)

フリー編集者であり、「本と出版の未来」を考えるためウェブサイト『マガジン航』( http://www.dotbook.jp/magazine-k/ )の編集人でもある著者が、2009年から2011年にかけて雑誌について考察した連載をまとめたもの。

本書は2011年11月に出版されたが、とりあげられた雑誌の趨勢もうつりかわっており、雑誌界の浮き沈みの激しさを物語っている。

ちょっと自家撞着ぎみながら面白いなと感じたのは、25ページにある『「本の特集」は危険サイン?』というコラム。

《あくまで個人的な見解だが、イマイチ元気がない雑誌が「本の特集」をやったら、危険サインだと思うようにしている。》(p.25)

著者の経験によると、「これらの特集をしたあとで雑誌が休刊してしまうことが多い」のだそうである。

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2012.05.22

▽裸はいつから恥ずかしくなったか――日本人の羞恥心

中野明『裸はいつから恥ずかしくなったか―日本人の羞恥心』(新潮選書)

♪シューチシーン、シューチシーン……

というわけで、本書のテーマは、日本人の裸に対する羞恥心がいつ生まれたのか?

幕末期の日本を訪れた西洋人は、日本人の趣致心のなさに驚き、多くの記録を残しています。

当時の公衆浴場は混浴が当たり前、男女ともに裸のまま湯屋から帰ってくる、屋外で行水する人も多かったそうです。

「日本人には羞恥心はない」と。

こうした西洋人からの批判に耐えられず、明治政府は、混浴の禁止や路上での裸体の禁止などを打ち出していきます。明治二年には混浴禁止令が出されたそうですから、明治政府は、西洋人からの批判をかなり気にしていたと見ることができます。

そして、裸が禁止されるにつれて、その副作用として、裸に対する羞恥心が生まれてくるのですが、しかし文化的な習慣はなかなかかえられるものではなく、それはだいぶ時間がたってからのことのようです。

たとえば女性が下着のパンツ(ズロース)を履くように奨励されるようになったのは、大正12年(1923年)に発生した関東大震災の際に、和服の女性が逃げる時に不便な上、恥ずかしい格好をしなければならなかったことから、洋装化が求められたことがきっかけだそうです。

この後も、有名な白木屋事件などもあったのですが、実際に下着を着用する洋装が定着したのは昭和十年代に入ってからだったそうです。

[目次]
序章 下田公衆浴場
第1章 この国に羞恥心はないのか!?―ペリー一行らが見た混浴ニッポン
第2章 混浴は日本全国で行われていたのか―幕末維新の入浴事情
第3章 日本人にとってのはだか―現代とは異なるはだかへの接し方
第4章 弾圧されるはだか―西洋文明の複眼による裸体観の変容
第5章 複雑化する裸体観―隠すべき裸体と隠さなくてもよい裸体
第6章 五重に隠されるはだか―隠され続ける先にあるもの
終章 裸体隠蔽の限界

[参考]▽『逝きし世の面影』――外国人が見た幕末のニッポン
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/01/post-e17d.html

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2012.05.15

▽『報道の脳死』

烏賀陽弘道『報道の脳死』(新潮新書)

元朝日新聞記者で、現在はフリージャーナリストの著者が、日本のジャーナリズムの行く末を考察する。

1990年代から続いている大手メディアの「脳死状態」は、インターネットの普及と、3.11後の硬直した報道によって、一般の読者にも明らかになりつつあるようだ。

特に、「コンテンツ」(中身)、「コンテナ」(入れ物)、「コンベア」(流通)の三つのCを独占していた既存メディアは、インターネットによって、「コンテナ」と「コンベア」を独占できなくなった。その結果、コンテンツのすばらしさで見られていたわけではないことがバレてしまった。

今後は既存メディアとインターネット・メディアの共存時代が続くと思われるが、だからといってインターネット・メディアの未来が明るいものとは限らない。

インターネット・メディアには、既存メディアが担ってきた新人記者の育成機能もないし、安定した経営を維持するために有効なマネタイズの手法もみつかっていない、という。

[目次]
はじめに

第1章 新聞の記事はなぜ陳腐なのか
 パクリ記事の連発
 粗悪記事のタイプ別分類
 悪気がないゆえの罪
 セレモニー記事とは何か
 悲劇よりも「イベント」を報道
 不自然さが漂う放射線量測定の様子
 事態の深刻さが伝わらない
 松本龍暴言事件
 パチカメ取材とは何か
 カレンダー記事の安易さ
 「えくぼ記事」の罠
 記者は賤業である
 観光客記事の空虚
 多様性の欠如
 平時の発想から変われない
 記者の配置問題
 膨大な記者による通り一遍の報道

第2章 「断片化」が脳死状態を生んだ
 疑問を持つ能力
 「ニュースピーク」を広めるばかり
 「計画停電」というごまかし
 計画的避難区域のごまかし
 死の灰が消えた?
 分析の欠如
 組織の断片化=記事の断片化
 専門記者はどこに消えた
 封じられた専門性
 断片化は防止できるか
 セクショナリズムの構造
 夕刊は廃止せよ

第3章 記者会見は誰のためのものか
 記者クラブは問題の根源ではない
 記者会見開放の意味
 開放は当たり前
 議論のすれ違い
 希少性の利得
 三つのCという特権
 記者クラブの本当の問題
 世間とのずれ
 記者の定義が変わった

第4章 これからの報道の話をしよう
 アメリカのメディアはどうなっているか
 「ポスト記者クラブ」の報道を考える
 メディアはどこに立っているか

第5章 蘇生の可能性とは
 ベテラン記者は疑う
 新聞の黄金時代とは
 ポスト3.11の報道を考える
 ジャーナリズムは常に必要である
 初等ジョブスキルの必要性
 社員教育の限界
 マネタイズ機能の問題
 理想は外部教育
 「投げ銭」の可能性

あとがき

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2012.05.14

▽『音楽の正体』

渡邊健一『音楽の正体』(ヤマハミュージックメディア)

本書は、フジテレビが1993年10月から1994年3月まで放送していた『音楽の正体』という番組をまとめたものです。

『音楽の正体』とは、すぐれた楽曲のもつ構造を、みんながよく知ってる曲をつかって解説してしまおう、という試みの番組でした。

番組も面白かったのですが、本書もとてもよくまとまっていて、あまり音楽の知識の無い人でも楽しめます。

[目次]
はじめに
第1章 レット・イット・ビーは終わらない 変終止のつくるクサレ縁
第2章 ブルースも終わらない 禁則進行へのレジスタンス
第3章 ユーミンのおこした革命(1) 導音省略のドミナント
第4章 ユーミンのおこした革命(2) 保続音のエクスタシー
第5章 加山雄三に学ぶ感動の黄金律 旋律の頂点とは何か
第6章 風と共に去りぬの秘密 跳躍的旋律のインパクト
第7章 モンキーズの見た白日夢―デイドリーム・ビリーバー ドッペルドミナントの魔法 
第8章 赤いスイートピーはどこへ行ったのか 副5度によるシーン展開
第9章 津軽海峡イオン景色 音楽の「泣き」とは何か
第10章 クラプトンのギターが優しく泣く間に 非和声音の麻薬的常用
第11章 坂本九・オサリバン・ミスチルの旅したパラレルワールド 胸キュン準固有和音の構造学
第12章 シカゴのブラス音が雑踏に消える時 音画的手法とは何か
第13章 フランス革命なんて勝手にシンドバッド 絶対音楽とは何か
第14章 結婚しようよは最後に言って 黄金のカデンツ
第15章 プリンセスプリンセスの見つけたダイアモンド 転回形と半音階的進行
第16章 竹内まりやの「告白」に鼓動を聞く 内声と外声
第17章 パリの空の下、シャンソンは流れる 複合拍子の構造学
第18章 坂本龍一の中の寅さん 日本音楽の彷徨
第19章 ヘップバーンとユーミン 楽曲形式論
第20章 なぜ年の瀬には第九が聴きたくなるのか 変奏曲形式とジャズ 
終章 セーラー服でたどる音楽史 平均律という遺伝子
索引
あとがき

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2012.05.10

▽『いのちの代償』――山岳史上最大級の遭難事故の全貌

川嶋康男『いのちの代償』(ポプラ文庫)

1962年12月、北海道学芸大学函館分校山岳部のパーティー11名は、冬山合宿に入った大雪山で遭難した。

部員10名全員死亡。生還したのはリーダーだけだった。かたくなに沈黙を通すリーダーに非難が浴びせられた。

本書は、45年の沈黙を破ったリーダーが語る、遭難事故の経緯と、生還後のリーダーの半生を、綴った壮絶な記録である。

[参考]
▽『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/11/post-63b0.html
▽雪崩遭難
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/02/post-9a42.html
▽最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/main/2011/07/post-f09e.html

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2012.05.09

▽内定とれない東大生

東大就職研究所『内定とれない東大生 「新」学歴社会の就活ぶっちゃけ話』(扶桑社新書)

本書は、就活で2勝58敗という惨憺たる結果の後に、出版社に就職した東大卒の女性編集者と、4人の就活勝ち組の東大生によって結成された「東大就職研究所」なるチームが、東大生の就活の実態を東大生に聞き取り調査したものである。

就活を終えた東大生を、「ない内定」、「内定長者」、「日系企業離れ」、「東大女子」の四つの角度から分析している。

特に、興味を引くのは、就活に満足している「満足組」と、結果に満足していない「不満組」の比較をしたところ。会社選びに際して、「不満組」が「満足組」と比べてより重視している点として、「知名度」と「給料」があげられている。

《就活に失敗している学生ほど、会社の名前や給料などの表面的なものを求めていると言えるのではないか。》(p.83)

また、「不満組」は「満足組」に比べてエントリー数が多いという。「就活不満組はミーハーで給料重視」という、割と当たり前な結論が出されている。

また、優秀な東大生ほど「日系企業離れ」が進んでいるようで、いろいろと示唆に富む内容になっている。

[目次]
はじめに 「就活戦線2勝58敗」東大卒の女性担当編集者(26歳)より
第1章 東大最強「新」学歴社会の真実
第2章 東大卒「ない内定」その理由
第3章 大手人気企業「内定長者」の素顔
第4章 東大トップ層「日系企業離れ」の本音
第5章 最強「東大女子」の時代はまだか
終章 提言「就活」を再定義する
おわりに 再び「就活戦線2勝58敗」東大卒の女性担当編集者(26歳)より

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2012.05.08

▽年収100万円の豊かな節約生活術

山崎寿人『年収100万円の豊かな節約生活術』(文藝春秋)

年間百万円ほどの不労所得(賃貸マンションからの収入)を得ていた著者が、住居費や社会保険料などの固定費を除いた変動費を月平均3万円以内に抑える、という生活を続けたことから得られた情報を綴ったもの。

家計簿や料理のレシピ、そして、二十年にわたるプータロー生活によって到達した「哲学」が綴られている。月3万円でも、けっこう贅沢な暮らしができることにも驚かされる。

著者のユーモラスな語り口とあいまって、とても面白い読み物になっているし、生きていく上での新しい視点も提供してくれるユニークな良書。

[目次]
「失礼ながらどうやって暮らしておられるのですか?」
プータローは毎日何をしているのか?
豊かに節約することができるのか?
僕の五十一年間を振り返ると
我が家はいつも千客万来!
ネットでどれだけ稼ぐことができるのか?
天職はプータロー

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2012.05.07

▽財務省支配の裏側

中野雅至『財務省支配の裏側 政官20年戦争と消費増税』(朝日新書)

日本の政治は財務省によって支配されている――。

こうした通説の真偽について、元厚労省官僚の著者は、次のように結論づける。

《つまり、財務省は当初、自分だけ民主党政権の中で生き残りに成功する一方で、時間とともに霞が関全体の復活にも手を貸すようになり、やがては民主党政権そのものを支配するようになったということだ。》(p.82)

著者自体の体験談や、他の著者が書いた政治家と官僚の関係にまつわる資料をひきながら、1980年代以降の政治状況を概観した興味深い論考である。

[目次]
第1章 財務省支配論の今昔
第2章 自民党末期の政官関係
第3章 民主党政権でなぜ財務省は復活できたのか?
第4章 野田政権下で進む財務省支配の実態
第5章 「主導」から「支配」、そして「亡国の財務省」の時代へ
第6章 政官共倒れの後にくる政治カオスと国家破産

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2012.05.06

▽ロボットの天才

高橋智隆『ロボットの天才』(メディアファクトリー)

ロボット・クリエイターとして知られる著者の半世紀のようなもの。出版は、2006年で、ポルトガルで開かれたロボ・カップ世界大会(Team OSAKAとして出場)と、その後のロボット・ブームのあたりまで書かれている。

ロボカップ世界大会がポルトガルで開催
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/news/2004/07/post-f0c1.html
面白いのは著者の経歴。

エスカレーター式に立命館大学に進学し、釣り具メーカーへの就職を望んだものの、第一志望の会社には振られてしまう。

そこで、一年間予備校に通って、京都大学工学部に進学。そこで、ロボットの二足歩行に関する特許をとって、おもちゃメーカーに売り込んだり、ベンチャー・コンテンスとに応募したり。

そうこうするうち、起業することを決意して、「京大インキュベーション」の第一号に認定される。その後の、活躍ぶりは、メディアなどでもよく知られている。

ユニークなロボットは、ユニークな生き方から生まれるのかもしれない。

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2012.05.05

▽歪んだ正義――特捜検察の語られざる真相

宮本雅史『歪んだ正義―特捜検察の語られざる真相』(角川文庫)

著者は、産経新聞でながらく司法担当記者をしていた。1993年には、ゼネコン汚職のスクープで新聞協会賞を受賞するほどの敏腕記者だった。

しかし、その記者が、東京地検特捜部の捜査の「不自然さ」に気がつく。著者は、造船疑獄事件、ロッキード事件、東京佐川急便事件の三つの転換期を経て、特捜検察の正義は歪められてきたと結論づけた。本書は、特捜検察の「歪んだ正義」を、膨大な裁判資料や当事者のインタビューで検証したものである。

本書が書かれたのは、2003年であるが、ここで提起された問題は、いまなお重要な問いを特捜検察に投げかけていることは言うまでもない。

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2012.05.04

▽フリーエージェント社会の到来――「雇われない生き方」は何を変えるか

ダニエル・ピンク『フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか』(池村千秋訳、ダイヤモンド社)

最近、「ノマドワーカー」という言葉で、ふたたび注目を集めつつあるのが、ダニエル・ピンクが提唱した「フリーエージェント」。

ブロードバンド黎明期の2001年に書かれた本書ですが、決して内容は古くさく感じられません。ようやく社会インフラや、働く人々の意識が、本書に追いついてきたということでしょうか。

ところで、フリーエージェントの労働倫理について、次のようにまとめられています。

《遠い将来のご褒美のために一生働くのは、基本的には立派なことである。けれど仕事そのものもご褒美であっていいはずだ。いまやどの仕事も永遠に続くものではないし、大恐慌が訪れる可能性も大きくない。それなら、仕事を楽しんだ方がいい。自分らしくて、質の高い仕事をする。自分の仕事に責任をもつ。なにをもって成功と考えるかは自分で決める。そして、仕事が楽しくないと感じることがあれば、いまの仕事が間違っていると考えるのだ。》(p.95)

[目次]
第I部 フリーエージェント時代の幕開け
 第1章 組織人間の時代の終わり
 第2章 3300万人のフリーエージェントたち
 第3章 デジタルマルクス主義の登場
第II部 働き方の新たな常識
 第4章 新しい労働倫理
 第5章 仕事のポートフォリオと分散投資
 第6章 仕事と時間の曖昧な関係
第III部 組織に縛られない生き方
 第7章 人と人の新しい結びつき
 第8章 互恵的な利他主義
 第9章 オフィスに代わる「第三の場所」
 第10章 仲介業者、エージェント、コーチ
 第11章 「自分サイズ」のライフスタイル
第IV部 フリーエージェントを妨げるもの
 第12章 古い制度と現実のギャップ
 第13章 万年臨時社員と新しい労働運動
第V部 未来の社会はこう変わる
 第14章 リタイヤからeリタイヤへ
 第15章 テイラーメード主義の教育
 第16章 生活空間と仕事場の緩やかな融合
 第17章 個人が株式を発行する
 第18章 ジャストインタイム政治
 第19章 ビジネス、キャリア、コミュニティーの未来像

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2012.05.02

▽勝間和代の“勝つために戦え!”――『「有名人になる」ということ』

勝間和代『「有名人になる」ということ』(ディスカヴァー携書)

勝間和代さんの本をきちんと読むのは、初めてなんですが……。

本書は、戦略的に「有名人になる」ことを選択し、その戦いに勝利し、賞味期限が過ぎて「終わコン」と呼ばれるようになった著者が、その顛末を率直に綴ったもの。

おそらく、著者の「有名人になる」というプロジェクトは、始めから、ここまで予定されていたのだろうと思う。

まあ、いいように持ち上げて、使い捨てていったメディアの関係者に対する「しっぺ返し」の狙いもあったとは思いますが……。

でもまあ、すでに著者自身がメディアと化しているわけで、コアなファンを相手に細く長くやっていけるだけの態勢は整っていると思いますけどね。

自分を「終わコン」などと、わざわざ卑下してるのは、そういう戦略なんだろうな……というのは勘ぐり過ぎですか、そうですか(笑)。

[目次]
はじめに

第1章 有名人になるということ そのメリットとデメリット
1.有名人になることの直接的な金銭メリットは思ったほどは大きくない。プライバシーの侵害にちょうど見合うか、見合わないか程度
2.なんといっても大きいのは、人脈の広がりによるチャンスの広がり。これを生かせないと、有名人になったメリットはほとんどない
3.大きなデメリットのひとつは、「衆人環視の中」で生きるということ
4.最大のデメリットは、見知らぬ人たちから批判され攻撃されることを「日常」と考えなければいけないこと
5.発言力がつき、やろうと思ったこと、考えたこと、目指すことができやすくなる。それは有名人であることが信用につながっているからである

第2章 有名人になる方法
有名人になる5つのステップ
ステップ1 自分の商品性を把握し、顧客やパートナー、競争相手を特定する
ステップ2 自分がターゲットとする市場について、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングを行う
ステップ3 自分を売り込むためのサービスを開発し、そのサービスの提供プロセスを管理する
ステップ4 自分がつくったサービスを普及させるための適切なチャネルを見つける
ステップ5 自分のサービスに適切な価格をつけ、品質を保証する
◯有名になるために、メンタル面で必要な3つのポイント
1.羞恥心を捨てて、有名になることを決意すること
2.有名になるにしたがって起きてくるネガティブな事象にくじけないこと
3.有名人の仲間を見つけて、互いに支え合うこと

第3章 有名人をつくる人たち
1.「有名人」はビジネスになる
2.有名人ビジネスのヒット率は決して高くないが、当たると大きい
3.「有名人であること」は「ビッグな自分という勘違い」と「『有名な自分』依存症」を招く
4.有名人を応援するファンとの関係
5.アンチファンという人たち
6.有名人は利用するのか、利用されるのか

第4章「終わコン」 有名人としてのブームが終わるとき
「有名になる」ことの本質を知らなかったわたしの過信と勘違い
ブームは、せいぜい1~2年しか続かない
「終わコン」と言われはじめたときにどうするのか?
連載やレギュラー仕事の効用と危険性
「終わコン」と言われないための工夫
妬みを買う有名人と買わない有名人
有名人は「ふつうの女の子」に戻れるのか?
ある時期に「有名人」だったという過去は二度と消せない

おわりに
それでも有名人になりたいですか?

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2012.05.01

▽漫画家による漫画オンライン販売の挑戦――『漫画貧乏』

佐藤秀峰『漫画貧乏』(PHP研究所)

『海猿』や『ブラックジャックによろしく』で知られる漫画家の佐藤秀峰が、出版社との軋轢や、自ら漫画のオンライン販売に乗り出した経緯を綴っている。

漫画 on Web
http://mangaonweb.com/welcome.do

本書の内容は、すでに“漫画 on Web”で公開されたものと、ほぼ同じである。

2009年にウェブ上で「漫画貧乏」が公開された時点で、すでに大きな話題になった記憶もあるが、ふたたび紙の書籍で販売されたのはなぜだろうか?

おそらくウェブの読者と、紙の読者とは、異なるセグメントにある、という判断が、出版社にはあったのではないのだろうか?

いずれにせよ、出版不況に苦しむ出版社も、自ら漫画のオンライン販売を試みる漫画家も、ともに楽な時代ではないことは明らかだ。本書は、漫画に限らず、すべてのコンテンツ産業に共通する悩みもあぶり出しているように思える。

[目次]
プロローグ
プロフィール
10年後、漫画はあるのでしょうか?
原稿料とは、一体何なのでしょうか?
印税生活って、どんな生活でしょうか?
100万部ヒット、年商2億2000万円、さて、年収は?
100万部刷ったほうが、1億円儲かるということです。
もうね、紙と一緒に心中しようかと、思い詰めました。
ホームページを作り、そこで自分の漫画を発表して、読者の皆さんに買ってもらう。
ここ数年、僕は編集者と打ち合わせを行っていません。
出版社を介さない漫画家と読者の関係。
オンラインコミック、はっきり言って厳しいでしょう。
本は出版社の商品であって、あなたの本ではありません。
じゃあ、実際いくらかかるんだろう?
「佐藤秀峰 on Web」オープン、果たしてそれで儲かるの?
笑ってくれて構わないのですが、僕は世界を変えようと思っています。
そして「漫画 on Web」へ
エピローグ
漫画 on Webの歩き方

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2012.04.24

▽『前へ!』――東日本大震災と戦った無名戦士たちの記録

麻生幾『『前へ!――東日本大震災と戦った無名戦士たちの記録』(新潮社)

本書は、東日本大震災や福島原発事故に立ち向かった自衛隊員、機動隊隊員、消防隊隊員、そして、寸断された道路の復旧や人名救助に携わった公務員たちにフォーカスを当てたものである。

著者は、スパイもの小説の第一人者である麻生幾で綿密な取材に基づいたものであろう。描かれた方々の無私の努力には頭が下がる思いである。

ただ、本書を読み進めても、専門用語が多くて、登場人物の活躍ぶりが今ひとつイメージしにくい部分も多いので、いずれ映像化されるだろうことを期待したい。

[目次]
第一章 福島第一原発、戦士たちの知られざる戦争
 放射能という、目に見えない敵が最大の脅威だった――。
 空前の原子力災害に立ち向かった陸上自衛隊中央即応集団(CRF)、中央特殊武器防護隊(中特防)、第1ヘリコプター団はじめ、航空基地消防隊――原発に突っ込んだ戦士たちの壮絶なドラマ。

第二章 道路を啓け! 未曾有の津波被害と戦った猛者たち
 人命救助部隊を被災地に送り込むためには、迅速に道路を“啓く”ことが命綱となる。被災地を管轄する国土交通省東北地方整備局と、管内にある国道事務所や維持出張所では、大津波災害の惨状を目の当たりにしながらも、現場への前進を続けた「啓開チーム」の存在があった。知られざるプロフェッショナルたちの全貌。

第三章 省庁の壁を越え、命を救った勇者たち
 国家の中枢――内閣危機管理センターは矢継ぎ早に入る情報を吟味し、ダイナミックに動き出した。
 史上最大のオペレーションを決断した自衛隊。
 原発への決死の“一番槍”を果たした警視庁機動隊。
 阪神淡路大震災の教訓から生まれた、災害派遣医療チーム「DMAT」も始動する。一人でも多くの命を助けるために彼らは被災地に向かった!

哀悼と謝辞

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2012.04.22

▽A3

森達也『A3』(集英社インターナショナル)

ドキュメンタリー映画の監督である森達也は、オウム真理教の信者を中心に撮った『A』、『A2』という二つの映画を公開している。

本書は、その二作品を踏まえつつ、オウムの教祖である麻原彰晃被告の裁判などを交えながら、信者の動向や日本社会のオウムへの反応を描いたものである。

『月刊PLAYBOY』に2005年から2007年まで連載されたものをベースに、2010年の記述もあったりして、やや混沌とした印象は拭えないが、それでも一連の事件には、残された謎も多く、まだ完全に終わったものではないことはわかる。

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2012.04.21

▽『サイエンス・インポッシブル』――SF世界は実現可能か

ミチオ・カク『サイエンス・インポッシブル―SF世界は実現可能か』(斉藤隆央訳、日本放送出版協会)

物理学における「超ひも理論」の権威であるミチオ・カク教授が、サイエンス・フィクションに出てくる事物が実現可能かどうかを、いたってまじめに検証したのが本書である。

すべて実現不可能という結論が下されるのかと思ったら、意外にも、将来の技術革新も考慮すれば実現可能なものが多いという。

たとえば、タイムマシン。アインシュタインの方程式では、時間と空間が絡み合っているので、ブラックホールを通り抜けて過去へと旅することも理論的には可能という。ただし、ブラックホールを通り抜けて、生きて戻ってくることは不可能なようだが……。

SF好きな人も、そうでない人も楽しめるまじめな科学の本である。

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2012.04.20

▽復讐するは我にあり

今村昌平 (監督)『復讐するは我にあり』

前回のエントリーでは、自主制作映画としてつくられた『竜二』と、その主演・脚本の金子正次の生き様を描いたノンフィクション『竜二』を紹介しましたが、

▽竜二
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/04/post-8a8f.html

その中で、昔の映画制作にかかわるエピソードがあったので紹介します。

佐木隆三が実在の連続殺人犯をモデルとして描いた実録犯罪小説『復讐するは我にあり』は、1975年下期の直木賞をとりました。

話題性も高かったために、四人の映画監督から映画化の依頼があり、佐木隆三は、そのいずれにも承諾をにおわせる返事をしたとのこと。これがスキャンダルとして芸能誌に取り上げられたそうです。

四人の監督のうち一人は深作欣二で、その友人の劇作家、内田栄一が金子の知人であったことから、金子は劇団の仲間とともに、佐木隆三を捕まえて殴ってやろうと捜し回ったそうで、石垣島まで追いかけていったそうです。

『竜二』における内田栄一の証言によると、佐木が四人の監督に承諾を与えた理由として、「原作の版元である講談社が調整してくれるであろうという考えが佐木本人にあったのではないか」(p.85)とのこと。

二次利用、三次利用の権利も出版社が押さえる現代の感覚からすると、いかにも牧歌的な時代だったなと思いますね。

佐木隆三『復讐するは我にあり』(講談社)

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2012.04.19

▽竜二

生江有二『竜二』(幻冬舎アウトロー文庫)

前回のエントリーで、斜陽産業としての東宝と東映の苦闘を描いたノンフィクション『仁義なき日本沈没』を紹介しましたが、

▽『仁義なき日本沈没』――東宝VS.東映の戦後サバイバル
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/04/post-1c5f.html

さらに、その苦境の下で自主制作映画として1983年に作られたヤクザ映画『竜二』と、それを作った人々に焦点を当てたものが本書『竜二』です。

『竜二』は、完成後に東映系列の東映セントラル(86年7月活動停止)で配給され、暴力のないひと味違うヤクザ映画としてヒットしました。しかし、主演であり脚本を書いた金子正次は、映画公開中にガンが原因で死亡し、まさに伝説の映画となってしまいました。

この映画によって川島透という映画監督も誕生しました。元の本は1987年刊行と少し古いのですが、竜二の制作を取り巻く状況や金子正次の生き様はビビッドに伝わってきます。

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2012.04.18

▽『仁義なき日本沈没』――東宝VS.東映の戦後サバイバル

春日太一『仁義なき日本沈没: 東宝VS.東映の戦後サバイバル』(新潮新書)

1973年1月に公開された映画『仁義なき戦い』。そして、同じ年の12月に公開された『日本沈没』。

この二本のヒット作は、それぞれ東映と東宝という二つの映画会社に大きな転機をもたらした。

『仁義なき戦い』以降の東映は、撮影所を維持するためにテレビの時代劇制作を請け負うようになる。一方の東宝は、それまでの二本立て興行に、自社制作の映画を上映するブロック・ブッキングから、外部プロダクションを起用した大作一本立てのフリー・ブッキングへとシフトした。

本書は、終戦直後の東宝争議と、東映の前身である東横映画の苦闘から始まり、1973年を画期としつつ、日本の映画産業が斜陽の時期をいかに対応していったかを綴った記録である。

[目次]
はじめに

第一章 二つの戦後 東宝争議と東横映画
I 東宝争議
終戦/自由主義の牙城/東宝争議のはじまり/理想郷の建設/クーデター/労使対立/第三次東宝争議/兵糧攻め/米軍vs.撮影所

II 東映の誕生
東横映画/大日本映画党/独立への道/撮影所から夜逃げ/東映の誕生/大川の「改革」/東映はらわんと/東映と東宝の提携、そして決裂

第二章 時代劇戦争
日本映画の活況/二本立て興行の確立/『笛吹童子』の大ヒット/徹底した娯楽主義/美しきスターたち/東宝の製作再開/『七人の侍』/黒澤プロの誕生/東映時代劇の否定/リアルな殺陣/驕る東映/『椿三十郎』の一騎打ち/黒澤ショック

第三章 岡田茂と藤本真澄の斜陽期サバイバル
鬼の岡田/岡田茂の改革/任侠映画のスタート/藤本真澄の善良性/エロと暴力/岡田の若手抜擢/若手を拒む藤本/時代を見失う藤本/組合の復活/大作の復活/三船プロ陥落/止まらない不振/孤塁を守る「八・一五」シリーズ『軍閥』/頭は空っぽだ!/藤本奪権運動/力尽きる八・一五『沖縄決戦』/東映のお家騒動/岡田茂、社長になる/砧の問題/藤本真澄、社長になる/行きづまる任侠映画/藤純子の引退/お蔵と不入り/勝プロの快進撃/八・一五の終焉/黄昏のゴジラ

第四章 戦後日本の総決算 『仁義なき戦い』から『日本沈没』へ
『仁義なき戦い』のスタート/脚本のバイタリティ/深作欣二、京都へ/衝撃の深作演出/『日本沈没』のスタート/最高のチーム/リアルを作る/木村大作の台頭/戦後社会の生きにくさ/現代日本への警鐘/虚しい死

最終章 幸福な関係の終焉
二本立て興行の終わり/フリーブッキングの時代へ/東宝映画の合理化/プロダクションの苦悩/東映の手詰まり/映画村のスタート/テレビへの進出/藤本真澄の最期/「昔はよかった」

おわりに

主な参考文献

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2012.04.17

▽釜ケ崎有情

神田誠司『釜ケ崎有情』(講談社)

大阪市西成区には、新聞やテレビなどで「あいりん」と呼ばれている地域がある。「あいりん」は「愛隣」からきているが、これは行政が定めた官製地名という。

もともとの「釜ケ崎」という地名は、大正時代に消滅したというが、いまでも「釜ケ崎」の方が「あいりん」よりも通りがいいようだ。

本書は、朝日新聞編集委員である著者が、「釜ケ崎」のドヤ街で暮らす人々の暮らしと人生をつづったルポルタージュである。

いま大阪市政の焦点の一つである「釜ケ崎」の実態がよくわかる。

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2012.04.16

▽階級都市

橋本健二『階級都市』(ちくま新書)

「階級」というと、一時期は。古めかしい言葉になってしまったが、「格差社会」という言葉の普及とともに、また注目を集める言葉になってしまった。

一億層中流の幻想が崩れた後に浮かんできた格差社会の行き着く先は階級社会ではないか? そして、それは、東京という街のあり方をかえるのではないか? というのが本書の考察の中心に据えられている。

《グローバル・シティが形成される過程で、これらの地域は変容を迫られる。製造業の衰退により、都心近くの工場は廃業したり、移転したりする。失業や家賃の高騰により、住民は転居を余儀なくされる。そうでなくても、再開発を目的としたさまざまな圧力によって追い出しをかけられる。跡地には高所得者を対象とした住宅や商業施設が建てられ、ここにグローバル・シティのエリート層が移り住む。》(p.38)

これらの地域とは、大都市の中心から離れた自営業者や低所得者がすむ「下町」と呼ばれる地域のことであり、ここにグローバル化した経済のエリートが再開発の名の下に移り住んでくることである。こうした下町内部に格差が生じることを「ジェントリフィケーション」と呼ぶ。

著者はジェントリフィケーション自体が「悪いこと」であるという前提で論を進めているようだが、はたしてそうだろうか。ジェントリフィケーションが、上り坂の経済で起きているならば、それは再開発であり土地の有効活用と言えるのではないか。

本質的な問題は、日本経済が坂を下っていることではないだろうか。

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2012.04.15

▽『できることをしよう。』――ほぼ日刊イトイ新聞が震災後に考えたこと

糸井重里&ほぼ日刊イトイ新聞『できることをしよう。―ぼくらが震災後に考えたこと』(新潮社)

糸井重里とほぼ日刊イトイ新聞が、東日本大震災後に行った活動の記録である。

ほぼ日刊イトイ新聞の独特な切り口や、糸井重里のコピーライターとしての視点が、従来の「報道」とは異なる震災のとらえ方を示してくれていて、とても深いものがある。

特に、twitterの使い方については、「そこまで計算していたのか!」と驚かされます。

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2012.04.14

▽3・11 複合被災

外岡秀俊『3・11 複合被災』(岩波新書)

本書の著者、外岡秀俊は、朝日新聞社のAERAの記者として阪神大震災の長期取材を行った。

▽『地震と社会』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/post-3c76.html

外岡は、2011年3月末に朝日新聞社を退職し、故郷の札幌で暮らすことにしていたが、リタイア目前に東日本大震災が発生した。

震災の一週間後に小型ジェット機で被災地を上空から見て、さらに、車と自転車で被災地を回った外岡は、フリーのジャーナリストとして被災地と被災者に向き合うことにした。

本書は、期せずして大震災がライフワークとなったプロのジャーナリストの手による東日本大震災と福島原発事故による「複合被災」の記録である。

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2012.04.13

▽サイバー戦争の真実

西本逸郎x三好尊信『国・企業・メディアが決して語らないサイバー戦争の真実』(中経出版)

ちょっとおどろおどろしいタイトルで、内容もおどろおどろしいんですが(笑)、日本の企業や政府、世界各国で実際に発生したサイバー戦争に関する部分はコンパクトにまとめられていて、興味深い内容です。

まあ、サイバー戦争といっても、機密情報の入手から、原発制御システムへの進入まで、幅広いうえに、その実態は、まだまだわからないことが多いんですけどね。

[目次]
Chapter 1 現状を知るためのサイバー事件簿
Chapter 2 地球を呑み込むサイバー空間
Chapter 3 サイバー空間に潜む脅威
Chapter 4 サイバー戦争
Chapter 5 奪われる日本の未来
Chapter 6 私たちは何をするべきか?

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2012.04.12

▽ウエストミンスター・モデルとは何か?――『イギリス矛盾の力』

岐部秀光『イギリス 矛盾の力―進化し続ける政治経済システム』(日本経済新聞出版社)

日本の民主党政権が、発足直後に、イギリスの統治システムを参考にしようとしていたことはよく知られている。

日本の民主党政権は、もはや末期症状を呈しつつあるが、その失敗を無駄にしないためにも、イギリスの「ウエストミンスター・モデル」を改めて紹介しよう、というのが本書の試みである。

記述が散漫で、やや雑ぱくな印象を受ける本書だが、読まれるべきは、「政治主導を支える官僚」という項目だろう。

ウエストミンスターとは、イギリス議会のある場所の地名で、「ウエストミンスター・モデル」では、政治家と官僚の関係が明確に規定されている。

・官僚は担当大臣以外の政治家との接触が禁じられている。これは政治的な中立性を保つため。

・ただし、任期満了が近づくと野党議員はマニフェストをもとに官僚と議論することが認められる。

・官僚が選挙前に各政党のマニフェストを仔細に研究し、政権交代に伴う混乱を最小限に抑えようとする工夫がある。

・官僚には、採用や昇進における実力主義、政治的中立性、終身雇用が守られている。

・また、官僚の中立性を維持するために、競争原理が導入されている。競争と能力にもとづく昇進、転勤。地方自治体から中央省庁への抜擢、地域間の移動も多い。特定の政治家とべったりでは、政権交代でキャリアを失いかねない。

以上は、49-52ページから抜粋、引用である。また、官僚機構とは別に、民間のシンクタンクが野党のマニフェスト策定に大きく関わってきたという。

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2012.04.11

▽木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか?

増田俊也『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)

本書は、日本のプロレス界に君臨した力道山と、柔道出身のレスラー木村政彦のリアル・ファイトの真相を探るノンフィクション。今年の大宅壮一ノンフィクション賞受賞作でもある。

二段組み700ページにものぼる大著だが、そもそも、主題となった試合について知らない人も多いだろうから、プロローグ、第一章、そして、第二十七章以降を読んでしまった方が話は早い。

そして、この試合はYoutubeでも見ることができるので、本書を読みながら、試合内容を確認できる。

試合の途中から、力道山はリアル・ファイトに転じたことが明らかにわかるが、なぜ、そんな事態に至ったのか? という疑問を軸に、柔道家として木村の人生、日本柔道界の草創期の歴史、そして、力道山時代のプロレスが描かれている。

タイトルの「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」は、試合後しばらくの間、力道山を殺そうと刃物を持って、力道山の跡をつけ回そうとしていた木村が、なぜ思いとどまったか、という問いで本書のもう一つの主題である。

木村の死後に日本でも一世を風靡したグレイシー柔術に、木村は大きな遺産を残していたことも記されている。木村の得意技だった「腕緘み」は、グレイシー柔術では、キムラロック、あるいは、単にキムラと呼ばれている。

《私はあえて断言する。
 あのとき、もし木村政彦がはじめから真剣勝負のつもりでリングに上がっていれば、間違いなく力道山に勝っていたと。決め技は、もちろん得意のキムラロックである。》(p.29)

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2012.04.10

▽E=mc2――世界一有名な方程式の「伝記」

ディヴィッド・ボダニス『E=mc2 世界一有名な方程式の「伝記」』(伊藤文英、高橋知子、吉田三知世訳、早川書房)

《マンハッタン計画に関与したわけではないが、E=mc2によって広島と長崎が広大な死の荒野に変わったのは事実だ。「ドイツには原爆がつくれないとわかっていたら……」と、アインシュタインは長年の秘書に語ったことがある。「けっしてあんなことには手を貸さなかった。指一本さえも貸さなかったのに」》(p.240)

本書は、「世界一有名な方程式」であるE=mc2の誕生から、それがもたらしたものまでを追った、方程式の「伝記」である。

E(エネルギー)は、m(質量)とc(速度)の二乗をかけた値に等しいことを示すこの方程式は、アインシュタインによって1905年に発表された。

そして、この方程式の意味するところは、核分裂を利用して膨大なエネルギーを取り出すことができること、であった――。

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2012.04.09

▽コンビニだけが、なぜ強い?

吉岡秀子『コンビニだけが、なぜ強い?』(朝日新書)

コンビニというと、かつては大店法(2000年に廃止)による大規模小売店の出店規制のゆがみによって繁栄している存在と言われたものでした。しかし、大店法の廃止以降もコンビニの拡大は続いています。

東日本大震災の際には、重要なライフラインとしての機能を果たし、高齢者からの支持も高まっているそうです。

本書は、大手コンビニ・チェーンであるセブン-イレブン、ファミリー・マート、ローソンの経営戦略にフォーカスをあてたものです。

コンビニにまつわるネガティブな話題は避けられていますが、最近のコンビニ事情についてはコンパクトにまとめられています。

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2012.04.08

▽アイデンティティ経済学とは?

ジョージ・A・アカロフxレイチェル・E・クラントン『アイデンティティ経済学』(山形浩生x守岡桜訳、東洋経済新報社)

アイデンティティ経済学を簡単に言うと、標準的な経済学が想定するモデルに、「社会的カテゴリー」、「規範と理想」、「アイデンティティ効用の損益」の三つの社会学的な要素を加味した上で考察するもの。

まず、「社会的カテゴリー」とは、男/女、白人/黒人、ある組織のインサイダー/アウトサイダーなどの、個人の属性(アイデンティティ)を意味する。

そして、「規範と理想」は、この属性(アイデンティティ)と仕事にまつわる、社会的な規範や理想のことである。ある仕事について存在する、「これは男のやる仕事である」、「女のやる仕事ではない」といった社会的な規範や理想のことである。

そして、「アイデンティティ効用の損益」とは、この「規範や理想」を守った場合と、逸脱した場合のメリット/デメリットを考慮することである。

本書は、まず、標準的な経済学のモデルを「プロセス1」として提示した上で、「プロセス2」として、三つのアイデンティティに関する要素を加味しながら順をおって説明していくというスタイルをとっており、「アイデンティ経済学」の入門書としてはわかりやすい。

ただし、「プロセス2」で加味されるアイデンティティや社会的規範などはアメリカのそれでしかないので、日本や他の社会に当てはめる際には、注意が必要。

[目次]
【第Ⅰ部 経済学とアイデンティティ】
【第1章 はじめに】
1・1アイデンティティ経済学の起源
1・2アイデアは波及効果を持つ

【第2章 アイデンティティ経済学】
2・1アイデンティティ、規範、効用関数
2・2社会的カテゴリー、理想、洞察
2・3すべてまとめると
2・4アイデンティティ経済学と需要/供給
2・5本書の構成

【第3章 効用におけるアイデンティティと規範】
3・1基本的な手法
3・2短期と長期の選択
3・3喫煙

【第3章 追記 ロゼッタストーン】
個人の選択と、効用関数の最大化
社会化の役割
厚生と効用の関係
構造と「アイデンティティの選択」
モデルとアイデンティティの定義
「べき」を定義する
個人主義的なアイデンティティと相互作用主義的なアイデンティティ

【第4章 今日の経済学での位置づけ】
4・1実験とアイデンティティ経済学
4・2アイデンティティ経済学、ゲーリー、ベッカー、嗜好
4・3経済学における規範
4・4規範はどこからくるのか
4・5まとめ

【第Ⅱ部 仕事と学校】
【第5章 アイデンティティと組織の経済学】
5・1労働インセンティブのアイデンティティモデル
5・2軍隊と一般市民のちがい
5・3モデルにおける動機
5・4軍隊
5・5民間の職場
5・6企業の下層部
5・7アイデンティティ経済と作業集団
5・8緩やかな監督:シカゴの機械工場
5・9厳しい監督:バンク配線作業観察室
5・10統計的証拠:アメリカ中西部の製造工場
5・11リンカーン・エレクトリック社:例証か反例か?
5・12軍隊の作業集団
5・13経済学と集団規範
5・14目的の共有と方針をめぐる結論
5・15まとめ:アイデンティティ経済学の応用と、導き出された新しい結論

【第6章 アイデンティティと教育経済学】
6・1生徒と学校のアイデンティティモデル
6・2モデルと証拠:ハミルトン高校からショッピングモール高校まで
6・3奇跡の学校と学校改革
6・4私立校 対 公立校
6・5人種と学校教育
6・6アイデンティティ経済学と教育の需給
6・7アイデンティティ、学校の目標、学校選び

【第Ⅲ部 性別と人種】
【第7章 性別と仕事】
7・1労働市場のアイデンティティモデル
7・2理論と証拠
7・3アイデンティティ経済学と新しい結論
7・4性差別禁止法
7・5性別と労働供給と家庭
7・6結論

【第8章 人種とマイノリティの貧困】
8・1従来の差別の経済学
8・2アイデンティティ理論の基盤
8・3貧困と社会的排除のアイデンティティモデル
8・4理論と証拠
8・5救済策の可能性
8・6政策:アファーマティブ・アクションと職業プログラム
8・7結論

【第Ⅳ部 今後の展望】
【第9章 アイデンティティ経済学と経済学の方法論】
9・1理論と証拠
9・2細かなことの観察
9・3因果関係
9・4実験
9・5「紳士的」な距離という問題

【第10章 結論、そしてアイデンティティが経済学を変える五つのやり方】
10・1個人の行動
10・2外部性
10・3カテゴリーと規範をつくる
10・4アイデンティティと後悔
10・5アイデンティティの選択
10・6結論

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2012.04.07

▽もし、仮設住宅で暮らすことになったら――『仮設のトリセツ』

岩佐明彦『仮設のトリセツ―もし、仮設住宅で暮らすことになったら』(主婦の友社)

もし、仮設住宅で暮らすことになったら?

東日本震災以降、地震や津波に関する予測がさまざまなかたちで発表されています。もし被災したら、仮設住宅で暮らすことになるだろう。その時、どうしたらよいのだろうか?

そんなニーズ応えるべく作られたのが本書です。本書は、新潟大学工学部の岩佐明彦研究室が開設した同名のブログ()( http://kasetsukaizou.jimdo.com/ )の内容がベースになっています。

さまざまな仮設住宅の紹介や、実際に仮設住宅で暮らしている方々の生活を快適にするための工夫なども盛り込まれていて、なかなか興味深い「仮設のトリセツ」になっています。

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2012.04.06

▽なぜメルケルは「転向」したのか

熊谷徹『なぜメルケルは「転向」したのか――ドイツ原子力四〇年戦争の真実』(日経BP社)

《メルケルが政府として原発全廃の方針を確定し、法制化するうえで技術者だけではなく、原子力技術についてのずぶの素人たちからも意見を聴いたことである。それどころか、メルケルは原子力の専門家ではない人々の意見のほうを重視した。》(p.147)

ドイツの女性首相メルケルは、原子力擁護派であり、2010年秋に打ち出した長期エネルギー戦略において、再生可能エネルギーに移行するまでの過渡期のエネルギーとして、原子力発電を容認し、原発の稼働年数の延長を認めた。

しかし、福島原発事故を踏まえて、この方針を覆し、2022年末までの原発廃止を打ち出した。

本書は、ドイツの政党政治と反原発運動の歴史を踏まえつつ、メルケルが脱原発へと「転向」した経緯を解説する。

メルケルの決断は、いまだに大飯原発の再稼働問題の対応が揺れ動いている日本の政治家と対照的だ。

[目次]
まえがき
第1章 甦るチェルノブイリの記憶
第2章 ドイツ原子力四〇年戦争
第3章 フクシマ後のリスク分析
第4章 はじめにリスクありきーー日独のリスク意識と人生観あとがき

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2012.04.05

▽サムライと愚か者――『暗闘オリンパス事件』

山口義正『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(講談社)

2011年秋、国際的なスキャンダルとして、世界中のメディアから注目を集めたのが、オリンパスをめぐる巨額不正取引事件。

その導火線となったのが、月刊誌FACTAに掲載された著者によるスクープ記事だった。しかし、海外のメディアが、解任されたウッドフォード前社長のインタビューを掲載するまでは、日本のメディアは、この事件を黙殺していた。

ウッドフォード前社長は著者に次のような言葉を投げかけている。

《「日本人はなぜサムライとイディオット(愚か者)がこうも極端にわかれてしまうのか」》(p.203)

本書では、オリンパス事件の構図や背景、そしてスクープ記事の舞台裏を描くと同時に、日本社会に走る大きな裂け目も浮かび上がらせている。

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2012.04.04

▽リトル・ピープルの時代

宇野常寛『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)

平成仮面ライダーの分析のところは面白かった、ですね。村上春樹、仮面ライダー、ウルトラマンと分析の対象を広げ過ぎたような気もします。

せめて、春樹、ライダー、ウルトラマンで、それぞれ新書一冊ずつくらいでもよかったのかもしれません。昨今の出版事情が許さないのかもしれませんが。

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2012.04.03

▽「本屋」は死なない

石橋毅史『「本屋」は死なない』(新潮社)

本屋の店員にスポットを当てた連作ルポルタージュのようなもの。

第一章に登場する原田真弓は、リブロ渋谷店で、「仕掛ける」棚作りに腕をふるっていた。しかし、ある時期から、本の売れ行きを示すPOSデータが、取次から、他の書店や出版社にまで提供されるようになり、さまざまなブームがじっくり育つこともなく消費されるようになってという。

《原田の記憶では、いわゆる“カフェ本”ブームは三年をかけてゆっくりと育てられた。だがマガジンハウスの雑誌『ku:nel』などの“暮らし系”が三カ月ほどで浸透したときは早すぎると感じた。“森ガール”にいたっては育つこともなく終わった。》(p.36)

このほかにも本書には、元さわや書店の伊藤清彦など、仕掛けて売るタイプのカリスマ書店員が登場する。「本屋」の現実を通じて、斜陽の出版界の苦悩が浮かび上がってくる。

[目次]
序章 彼女を駆り立てたものは何か?
第1章 抗う女―原田真弓がはじめた「ひぐらし文庫」
第2章 論じる男―ジュンク堂書店・福嶋聡と「電子書籍元年」
第3章 読む女―イハラ・ハートショップ、井原万見子を支えるもの
第4章 外れた男―元さわや書店・伊藤清彦の隠遁
第5章 星となる男―元書店員・伊藤清彦の「これから」
第6章 与える男―定有堂書店・奈良敏行と『贈与論』
第7章 さまよう男―“顔の見えない書店”をめぐる
第8章 問題の男―ちくさ正文館・古田一晴の高み
終章 彼女が手渡そうとしているものは何か?

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2012.04.02

▽ワンマン経営者の孤独――『ジブリの哲学』より

鈴木敏夫『ジブリの哲学――変わるものと変わらないもの』(岩波書店)

本書は、スタジオ・ジブリのプロデューサーである鈴木敏夫が、さまざまな媒体に書いたコラムをまとめたもの。正直なところ、一冊の本として読むには、ややまとまりにかける。

ただ、ジブリ作品のパートナーとして、製作にかかわった日本テレビの氏家斉一郞社長(2011年死去)に関する部分は、ワンマン経営者の孤独を感じさせられた。

民俗学者の網野善彦は、氏家と中学時代の同級生だったという。「もののけ姫」の制作を通じて網野と鈴木は知己を得たが、氏家はそのつてを頼って、網野を食事に誘おうとした。しかし、癌を患っていた網野に、「時間が無い」と断られたという。日本を代表するテレビ局の社長にまでのぼりつめながらも、著名な学者にあうことすら叶わなかった――。

徳間書店の徳間康快社長は、ジブリ作品の出資者として、後世に残る映画を生み出してきた。しかし、氏家は、「おれの人生、振り返ると何もやってない」(p.166)と言う。

「読売グループのあらゆるものはすべて正力(松太郎)さんがはじめたもので、それを後輩たちが守ってきた。おれだって、そのひとつをまかされているに過ぎないんだ」(p.166)

高畑勲監督の次回作『かぐや姫』の製作を赤字覚悟で引き受けるが、氏家は、その夢も果たせずに他界してしまった――。

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2012.04.01

▽ブレア時代のイギリスとは?

山口二郎『ブレア時代のイギリス』(岩波新書)

前回のエントリーでは、『政権交代とは何だったのか』を紹介しましたが、

▽政権交代とは何だったのか?
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/03/post-6030.html

同じ著者が2005年に小泉自民党が勝利した郵政選挙の後に上梓したのが、本書『ブレア時代のイギリス』である。

サッチャーの推進した新自由主義の時代に万年与党だったイギリスの労働党は、トニー・ブレアが党首になった際に、党綱領から「生産手段の国有化」を削除し、「第三の道」を掲げ、「ニュー・レイバー」として生まれ変わった。

著者は、ブレア時代のイギリスの光と影を検討しつつ、「あとがきにかえて」で次のように述べていた。

《近い将来、新自由主義の矛盾が深まったときに、必ず本来の社会民主主義的政策を求める国民の声は高まるはずである。……自民党の伝統的な利益配分政治が「第一の道」、小泉流の小さな政府が「第二の道」であるとするならば、今こそ「第三の道」が日本でも必要とされているはずである。》(p.197)

日本においては、小泉流の小さな政府に対して、民主党が「第三の道」を実現してくれるだろう、という期待を込めていたのですが、結果として、この期待は大きく裏切られてしまったことになります。

これは、どうしてだろうかと考えると、日本の民主党には、社会主義を信奉しているようなグループがかなり含まれていたのではないかと思います。

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2012.03.31

▽政権交代とは何だったのか?

山口二郎『政権交代とは何だったのか』(岩波新書)

政権交代とは何だったのか?

えーと(笑)。

民主党による政権交代を支持してきた著者による民主党政権への総括の書。

著者は、2010年12月に放送されたのNHKの番組で「リフォーム詐欺の片棒を担いだ詐欺師みたいで大変肩身が狭いをしている」と発言したことで物議を醸しました。

また、最近では、改革を掲げる橋下徹大阪市長に討論番組でボコボコにたたかれたことでも知られています。

さて、本書において、著者は民主党が政権をとってからのダメな点をいろいろとあげていきます。しかし、やはり、民主党という党のなりたちに問題があったと言わざるを得ません。

《民主党自身も一九九八年に現在の形になって以来、政権交代を最大の統合原理として持続してきた。……しかし、自民党政権を終わらせることが唯一の目的であるならば、民主党は総選挙で勝利し、自民党を下野させた瞬間に自らも存在理由を失うことになる。》(p.47-48)

次の総選挙では、民主党が下野するのはほとんど自明のことにようにも思われるのですが、はたして自民党が批判票の受け皿になるのか? それとも新しい政治勢力が登場するのか? おそらく後者になるんだろうと思います。

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2012.03.30

▽プロメテウスの罠

朝日新聞特別報道部『プロメテウスの罠: 明かされなかった福島原発事故の真実』(学研パブリッシング)

朝日新聞に連載されていた時から、なにかと物議を醸していたのが、この『プロメテウスの罠』。ドキュメントとしてのクオリティは、大鹿靖明の『メルトダウン』よりも落ちますが、

▽大鹿靖明『メルトダウン』――福島第一原発事故ドキュメントの決定版
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/02/post-b55c.html

しかし、実名報道に徹した連載小説風のストーリーは、まだ解き明かされていない多くの「謎」を浮かびあがらせることに成功しています。

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2012.03.29

▽コラプティオ

真山仁『コラプティオ』(文藝春秋)

『ハゲタカ』シリーズなどで知られる真山仁は、本書の元になる小説を『別冊文藝春秋』に連載していたが、その最終回の締め切りは、東日本大震災の三日後の2011年3月14日だったという。そのため本書は、震災と福島原発事故を踏まえて大幅に加筆されたようだ。

カリスマ的政治家である宮藤隼人は、国益のために「原発産業を通じた経済復興策」を推進する。著者は、現実の政治家がふがいないことへのイラ立ちからか、リーダーシップを発揮する指導者を登場させるが、ちと現実との乖離が大き過ぎて絵空事のように感じられてしまうのが残念。

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2012.03.28

▽『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?』

ひろゆき『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?』(扶桑社新書)

本書は、巨大匿名掲示板「2ちゃんねる」の管理人だった「ひろゆき」こと西村博之が2007年上梓した本で、タイトルは、そのものずばり「2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?」。

本書では、2ちゃんねるが潰れない(潰されない)理由として次のように語っている。

《つまり、2ちゃんねるが消滅したとしても、なにか似たようなサービスが必ず出てくるのです。そして、そのWebサイトにユーザーが集まるという状況になるのではないでしょうか。2ちゃんねる的なサービスは、名前や形を変えつつも残り続ける。》(p.17)

最近、2ちゃんねるを取り巻く状況が大きく動いていますが、仮に、2ちゃんねるが潰れたとしても、似たようなサービスはまた生まれてくるのかもしれません。

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2012.03.27

▽無料ビジネスの時代

吉本佳生『無料ビジネスの時代: 消費不況に立ち向かう価格戦略』(ちくま新書)

本書は、無料ビジネス、いわゆる「フリーミアム」のビジネスについて、さまざまな分野で成功している事例を集めて分類したり、競合関係にある他のビジネス・モデルとの比較も行われており、入門書としてはきわめてよくできたものである。

本書で取り上げられている無料ビジネスは、無料コーヒー・サービス、テーマ・パークの無料アトラクション、携帯電話の無料ゲームなどである。

本書が秀逸なところは、今ひとつ盛り上がっていない分野も取り上げている点であり、それは何かというと、「出版」である。電子書籍では、クリス・アンダーセンの「FREE」が紙の本の出版前に電子版の無料公開を行い話題を集めました。しかし、話題になる本自体少なく電子書籍はあまり盛り上がっていません。

著者は、電子書籍の無料ビジネスがあまりうまくいかない理由として、次のように明快に述べています。

《日本の出版ビジネスは、すでに大規模な無料ビジネスをおこなっている。全国にある書店そのものが、まさに無料ビジネスだからです。》(p.219)

そしてまた著者は、無料で本を貸し出す図書館についても言及しています。もし仮に図書館でどのような本が人気があるか、というデータがTUTAYAのように活用できたら、それは出版業界にとって大きな武器になるのではないか、と。もちろん、個人情報の保護という法律の壁がありますが、しかし、無料ビジネスをテコにすれば、出版業界にも生き残りのみちがありそうです。

[目次]
第1章 無料ビジネスとは?―2タイプのコーヒー無料から考える
第2章 共同購入型クーポンvs.無料ビジネス―生き残るのは?
第3章 TDLとUSJのアトラクション無料―入場料金値上げとの関係
第4章 予算制約vs.時間制約―消費者のどこをまず狙うか?
第5章 ケータイと無料ビジネス―本質は個人向けファイナンス
第6章 消費不況と無料―無料ビジネスが日本経済を救う?
第7章 電子書籍と無料ビジネス―期待はずれに終わりやすい理由

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2012.03.26

▽伝説の「どりこの」

宮島英紀『伝説の「どりこの」 一本の飲み物が日本人を熱狂させた』(角川書店)

ひょんなことから、かつて日本で、「どりこの」という飲み物が一世を風靡したことがあった、と知りました。

そして、インターネットで、「どりこの」について検索してみると、なんと、「どりこの」について調べた本が、割と最近、出版されていたことを知りました。世の中は、不思議な力で動いているもんだ。

さて、この「どりこの」は、果糖やぶどう糖を主要成分とする滋養強壮ドリンクとして、戦前に大ヒットしたそうです。

そして、この「どりこの」を積極的に売っていたのが、大日本雄弁会講談社。そう、いまの講談社です。

出版社がなぜドリンクを? とも疑問に思うのですが、当時の講談社の野間清治社長が非常に強い思い入れをもって売っていたそうです。雑誌との連携によって、また、手軽な栄養分を補給するドリンクとして、爆発的な売れ行きを記録したそうです。

さて、その「どりこの」は、どうなったか? 戦争による物資不足から、原料となるサトウキビが入手できなくなって、生産は中止。

戦後になってから生産を再開したものの、「どりこの」の生みの親である髙橋孝太郎博士は、一切のレシピを残さなかったことから、まさに伝説の飲み物になってしまったそうです。

本書は、現存する「どりこの」を試飲したりと、「どりこの」にまつわる執念のルポになっています。

[参考]どりこの探偵局
http://blog.goo.ne.jp/gendai_premier/c/20f82de8d74bdffce9dac50be28a351b

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2012.03.25

▽銀座と資生堂

戸矢理衣奈『銀座と資生堂 日本を「モダーン」にした会社』(新潮選書)

最近、また「銀座」が注目を集めています。

「銀座」の持つモダンなイメージを、もっともうまくマーケティングに活用してきた企業と言えば、「東京銀座資生堂」のキャッチコピーで知られる「資生堂」をおいて他にないだろう。

本書は、そんな「資生堂」と「銀座」の関わりにフォーカスをあてた研究所。もともとは新橋で創業された資生堂が銀座に移転し、いかに銀座のイメージとともに成長してきたかが明らかにされる。

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2012.03.24

▽アフター・ザ・レッド

朝山実『アフター・ザ・レッド 連合赤軍 兵士たちの40年』(角川書店)

今年は、連合赤軍による「浅間山荘事件」から40年となるため、ふたたび、あの時代の振り返るような書籍も多く出版されるようです。

ただ、本書は、必ずしもそういう流れの中から出てきたわけではないようです。まず、著者は、連合赤軍を描いたマンガ『レッド』の作者である山本直樹に取材をします。

それが、連合赤軍に関わるきっかけであり、連合赤軍兵士たちの「その後」に興味を持つようになった、とのこと。山本直樹のマンガがきっかけだったものの、兵士たちはマンガには親しんでこなかったという。

《取材をしていて気になったのは、彼らの多くがほとんどマンガ文化とは遠いところにいたことだ。……彼らは、意外なほどマンガに親しんではこなかった。サブカルチャーに時間を割いてはいられないほど、「革命」に夢中になっていたということか。その真摯さが、逆に働いたのかもしれない。》(p7)

本書は、「総括」という悲劇を生んだ、あの事件を、改めて「総括」しようという試みなのだろうけども、それは、いまだ果たせていないようにも感じられます。

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2012.03.23

▽メディアの罠

青木理x神保哲生x高田昌幸『メディアの罠』(産学社)

ジャーナリスト三者による鼎談。三人とも、大手メディアで仕事をしたこともあるし、フリーランスとして活動した時期もあることから、両方の立場からジャーナリズムを語ることができる。

三人の共通認識は、インターネットの登場によって、大手メディアも史上初めて市場原理にさらされるようになった。そのため、調査報道などの良質なジャーナリズムは隅に追いやられつつある、という。

悩ましいのは、だからといって、フリーランスのジャーナリズムが活性化しているかというと、そうでもないという点。

[目次]

まえがき 3

第一部 崩壊する大メディア

それぞれの問題意識

神保哲生
ジャーナリズムのノウハウは公共財
大メディアの没落で切らしてはいけない

青木 理
感情的で表層的な批判は無意味
「大メディア後」に残すものを考えよう

高田昌幸
組織の保守化がメディア危機の本質
カギは「取材力をどう回復するか」にある

㈠ 大メディアの保守化と官僚主義
「おれは偉いんだ」 自分と会社を一体化 49
特権一六社 その言論支配は続く 53
新規参入に高い障壁 平然と妨害工作も 57
ちゃんと取材していないことがバレてきた 64
かつては「従軍記者」 今も「従軍記者」 69
思考も記事のスタイルもパターン化 76

㈡ 記者クラブの若い記者vsエリート官僚
エリート官僚は日々記者を「洗脳」する 86
権力に寄り添うクソのような御用記者たち 95
省庁担当の若い記者が官僚に対抗できるか 103
「持ち込みネタ」で当局と一体化する報道 108
記者「室」は死守せよ そして開放せよ 120

㈢ 報道危機の根源は事件報道
記者クラブが変われば報道は変わるか 127
世界的にも超異常な日本の警察報道 130
警察記者クラブが日本の報道をダメにする 139
「リーク」は悪くない 問題は「リーク後」 145

㈣ 取材力の劣化と蔓延する事なかれ主義
批判や提訴を怖れ、自己規制からタブーへ 149
「北朝鮮タブー」と共同通信平壌支局 156
崩れゆく既存メディア 生き残りの道はあるのか 164
ネットは記事のバラ売り 人気上位は「三面記事」 171
「一〇〇部なら怪文書 一〇〇万部なら世論」の本当の意味 176
市場原理の深化と取材力向上 両立は可能か 181

第二部 福島原発事故と報道

それぞれの問題意識

青木 理
今の大メディアは安全運転と自己規制の塊
その病理が原発事故報道で一気に露呈した

高田昌幸
「自由に書けと言われても困る」と戦前の記者
権力に従順な姿勢は何十年も変わっていない

神保哲生
予防原則を全く理解していない大メディア
「上から目線」では再生の道はない

㈠ 事故現場に近づかない本当の理由
「放射能で危険だが現場で取材を」と職務命令できるか 212
現場に近づくのは「非主流」の報道記者 223
当局の指示に従うだけの組織メディア 228
コンプライアンス・ジャーナリズムの病理 235

㈡ 原発タブーと大メディアの官僚化
経済部記者が原発担当の大メディア 242
「原発という既成事実」に切り込めない理由 248
東京発・当局発の報道が日本を覆い尽くす 253
「発表報道」は当局側に立った「偏向報道」 256
「分からないこと」を書けない大メディア 261
電力会社に媚びる新聞社は何を守っているのか 265

㈢ 事故報道で見えた大メディアの限界と今後
黎明期 原発の導入過程を報道できていたか 270
矛盾を突かず「見解一本化」を要望する大メディア 279
「内部文書」のすっぱ抜きがない事情 284
東電会見が溜飲を下げる場に? 会見開放の落とし穴 290
鬼畜米英から一夜で民主主義へ あのときと同じ危険も 301
大メディアの大敗北 教訓を今後に生かせるのか 311

【資 料】
第一部関連
記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解 320
記者会見の全面開放宣言〜記者クラブ改革へ踏み出そう〜 328
記者会見・記者室の完全開放を求めるアピール 331
記者会見・記者室の開放に関する申し入れ 333
【会館開放を求める会 5/18資料】当会申し入れに対する各報道機関からの回答 335

第二部関連
全記録/フクシマのすべて 342
福島原子力発電所事故対策統合本部の共同記者会見の実施について 353
【共同アピール】福島第一原発敷地内と「警戒地域」内での定期的な取材機会の要請 354 
細野豪志原発担当相の現地同行取材に関する申し入れ(11月2日分) 356
細野豪志原発担当相の現地同行取材に関する申し入れ(11月4日分) 357
「官制」極まった福島原発報道=白垣詔男 358

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2012.03.22

▽ドラゴン・タトゥーの女

スティーグ・ラーソン『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上)』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

スティーグ・ラーソン『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(下)』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

まずは、あらすじの紹介を。

《月刊誌『ミレニアム』の発行責任者ミカエルは、大物実業家の違法行為を暴く記事を発表した。だが名誉毀損で有罪になり、彼は『ミレニアム』から離れた。そんな折り、大企業グループの前会長ヘンリックから依頼を受ける。およそ40年前、彼の一族が住む孤島で兄の孫娘ハリエットが失踪した事件を調査してほしいというのだ。解決すれば、大物実業家を破滅させる証拠を渡すという。ミカエルは受諾し、困難な調査を開始する。》

なんだか、ヨーロッパの実業界を舞台とした経済サスペンスもののような導入なんですが、下巻からは、過去に発生した、猟奇的な連続殺人事件をめぐるミステリーへと急展開。

一粒で二度おいしい長編ミステリーです。

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2012.03.21

▽あぶない地名

小川豊『あぶない地名 (災害地名ハンドブック)』(三一書房)

東日本大震災以降、地名から、過去に災害あったかどうかを判断する、という類の本が数多く出版され、また、注目を集めてきました。

本書は、地名にまつわる蘊蓄のような部分は少なく、辞書のようにできるだけ多くの地名を収録したハンドブックです。

こういう書を読んでいると、地名を人為的にかえてしまうのは、あまりよくないことなんだな、と思います。

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2012.03.20

▽日本の地方財閥

菊池浩之『日本の地方財閥30家 知られざる経済名門』(平凡社新書)

本書の著者はソフトウェア会社に勤務しつつ、企業集団の研究を発表する在野の研究家。これまでにも、『日本の15大財閥』、『日本の15大同族企業』などを上梓しており、本書は、その第三弾となる。

サラリーマンである著者は、「他社への直接取材を行わないことに決めている」(p.255)ことから、その叙述は、もっぱら膨大に集めた資料に立脚したものとなっている。

章立ては、「地域編」と「事業編」にわけられているが、地方財閥といえども麻生家のように総理大臣を排出したり、「キッコーマン」や「ミツカン」などの全国的に有名な商品を生み出したりとバラエティに富んでいることがわかる。

[目次]
第1部 地域編
甲州財閥(若尾家、根津家)
江州財閥(伊藤忠兵衛家、飯田家)
中京財閥(岡谷家、瀧家、神野家、森村家)
九州財閥(貝島家、麻生家、安川家)
阪神財閥(岩井家、嘉納家、辰馬家、岡崎家、川西家)

第2部 事業編
醤油(茂木家、浜口家、正田家)・酢の部(中埜家)
農林水産の部(田部家、諸戸家、本間家、中部家)
紡績・製糸の部(大原家、片倉家、坂口家)
機械工業の部(島津家、中島家、服部家)

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2012.03.19

▽震災復興 欺瞞の構図

原田泰『震災復興 欺瞞の構図』(新潮新書)

《私は、東日本大震災で毀損された物的資産は、公的資産と民間資産を合わせて、せいぜい6兆円なのだから、山を削って高台を造ったり、割高な自然エネルギーを使うエコタウンを造ったりなどしなければ、復興増税は必要ないと、非力ながら、一人でキャンペーンを行ってきた。キャンペーンの最中に、私の6兆円しか壊れていないという指摘に賛同して下さる方は多かったが、反論される方はいなかった。》(p.8)

著者によると、政府が震災によって毀損された物的資産を16.9兆円と過大に見積もったのは、これに便乗して増税をしたい、という震災復興とは別の魂胆があった、と指摘する。

実際、野田政権は、消費税増税路線を突き進んでおり、この指摘はうなずける。

奥尻や阪神大震災などの、過去の震災復興の再検証や、なぜ政府は税金を使いたがるのか? など、震災復興の陰に潜む欺瞞を露わにしている。

[目次]
序論・人を助ける復興策とは?

第1章 大増税の口実に使われる大震災
物的資産毀損額16.9兆円説の誤り/結局、いくら壊れたのか/日本人一人当たりの物的資産は966万円/考慮すべき減価償却/自治体の推計から想定される被害額/負債金額からの推計/結語
付論 政府の数字に気をつけろ――物的資産の毀損額 内閣府の推計16.9兆円の誤り/日本政策投資銀行の被害推計の見方/新品で補償するのは不公平/過大な被害推計/民間企業資本ストック額の謎

第2章 過去の震災復旧対策の浪費ぶり
奥尻島では島民一人当たり1620万円使った/阪神淡路大震災は被災者一人当たり4000万円/ゴーストタウンの建設に使われた復興費/浪費だった神戸市のプロジェクト/中越地震はリーズナブルな復興/仮設住宅という高コスト支援策/コスト感覚が欠如した復興計画/戦争中もコストカットを主張したトルーマン/結語

第3章 政府や県が無駄遣いに積極的な理由
国は何に使おうとしているのか/羅列された無関係な対策/2012年度予算案での復興経費/狙い撃ちされた富裕層/復興庁と復興特区/自治体の望む「復興」/費用はどうなるのか/高台移転は高コスト/復興予算は関係ないことに使われる/復興を遅らすだけの議論/農業と漁業の相違点/漁業権とアメリカ占領軍の気遣い/愚かな「創造的復興」/インフラ建設に時間がかかる理由/工事の遅延が最大の目的/意図的に遅らされる震災復興/結語

第4章 最も安上がりで効果的な復興策
組織やビジョンは必要か/東日本復興のツボ/復興と個人財産の復旧/国民一人一人の力を信じよ/進む人口減少/安上がりな復興計画/被害が大きかったのは新興市街地/個人財産復活とモラルハザード/個人への公的援助は問題か/復興資金の調達法/ゴーストタウン効果と円高効果/復興増税長期化の奇妙さ/これまでの赤字はどうする/税と社会保障の一体改革の議論はずれている/デフレ脱却に役立つか/結語

第5章 過去の大震災に学ぶ
震災復興についての6つの論点/デフレが続いた関東大震災後/デフレにしながら個別企業を助けていた/デフレの害悪/成功したインフラ再建/帝都復興院/石橋湛山の帝都復興院論/地盤低下が収まらなかった兵庫県/天変地異の後はデフレが起こる/阪神淡路大震災の被害と復興政策/円高への対処法/結語

第6章 原発事故の教訓
原発依存のルーツ/国家戦略としての原発/植民地との類似性/取り込まれる規制者/情報は規制される側にある/ウソをついているうちに真実が分からなくなってくる/安くなかった原発/効率重視が理由か/本当の発電コスト/原発推進国ほど安いのか/原発を使うほど安くなるか/電力料金低下の理由/CO2問題への対応/利己主義という気概/他人の願望と自らの犠牲/牛肉よりも稲藁が安い/企業と政府の責任/結語

終わりに

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2012.03.18

▽知的財産権侵害を防ぐのが狙い――『TPP 知財戦争の始まり』

渡辺惣樹『TPP 知財戦争の始まり』(草思社)

TPPにおけるアメリカの真の狙いは何か? について解き明かしたのが本書『TPP 知財戦争の始まり』である。

いま、オバマ大統領が米国民から期待されていることは、雇用を創出することと、アメリカの将来を託す産業を育成すること、の二つである。そして、この二つの目的を達成するために、オバマ大統領がTPPにおいて狙っていることは、巷間いわれているような、農業を含む自由貿易体制の構築ではない、と著者は指摘する。

現在のアメリカの稼ぎ頭は、サービス部門であり、それは金融サービスによる収入と、特許料や著作権料などの知的財産権からの収入である。

そして、TPPには、ブルネイとベトナムという二つの小国が参加しているが、実は、この二国は、知的財産権の侵害においては大国であるという。つまり、TPPを通じて、この二国の著作権侵害をコントロールできるメカニズムを構築するのが、TPPの真の狙いである、と著者は指摘する。

さらに、このメカニズムがうまく機能するようになったら、その次のターゲットは、知的財産権侵害の超大国である中国になる、というのが著者の見立てである。

ある試算によると、中国における、著作権の侵害、特許の悪用、商標の悪用などによって、アメリカは482億ドル(約四兆円)の損害を被っている。この損失を取り返すことができれば、それはアメリカにとっては大きな成長分野になるのである。

そして、このメカニズムにうまく乗ることができるのならば、日本にとっても大きなメリットがあるようだ。

[目次]
1章 影のプランナーを探せ
2章 コメの自由化は“目くらまし”
3章 知的財産権の輸出こそが本命
4章 ルール無視の大国、中国
5章 アメリカの宣戦布告
6章 アメリカの生存をかけた通商戦争
7章 アメリカ型法システムの実際
8章 企業vs.国家の紛争解決システム(ISD条項)の構築
9章 中国の横暴を抑え込むルールづくり
10章 TPP参加で日本の将来はどうなる

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2012.03.17

▽中国化する日本とは?

與那覇潤『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』(文藝春秋)

本書を、すご~くおおざっぱに要約すると、中国は宋代に「科挙」という制度を導入して、身分制社会から実力性の社会に移行した。「科挙」を支えていたのは、印刷・出版技術であり、当時の中国にしか存在しなかった。

翻って、当時の日本は、宋の後を追うことはなく、身分制社会に閉じこもったままだった。著者はこれを「江戸時代化」と呼ぶ。それ以来、日本社会は、グローバルなスタンダードにあわせることなくきた。

しかし、インターネットをはじめとする情報拡散ツールの普及によって、ついに日本も、身分制社会から実力性の社会に移行するのではないか?

これが著者の言う「中国化する日本」の真意である。たぶん。

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2012.03.16

▽「チーム久夛良木」の美学とは?

西田宗千佳『美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史』(講談社BIZ)

プレイステーション( PlayStation )、プレイステーション2の成功から、PSX、プレイステーション3の失敗までの「チーム久夛良木」の十五年を描いたもの。

いい意味でも悪い意味でも歴史に名を残した久夛良木健がいかにプレイステーションやソニーの経営にコミットしたかを、特に神格化するわけでもなく、貶める意図もなく、過不足なく描いている。

ただ、プレイステーション3を巡る過剰スペックと過大な投資、そして、その失敗の責任を、単に「美学」だけで片付けてよいものかどうか、疑問は残る。

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2012.03.15

▽ボーカロイド現象

『ボーカロイド現象』(PHP研究所)

東日本大震災は、さまざまな領域に「空白」を生み出してしまったような気がします。最近になって、「あれ、こんな本が出ていたのか?」と気がつくこともしばしば。

そんな一冊が、この『ボーカロイド現象』。2007年8月の『初音ミク』登場以来、とどまるところを知らぬボカロ・ブームを概観するために、キーパーソンにインタビューを刊行。

ボカロ・ブームの一つの区切りとして、満を持して上梓されたのですが……。発売が、東日本大震災と福島原発事故の動揺もさめやらぬ2011年4月1日ということもあって、残念ながら、ちょっと埋もれてしまった感はぬぐえません……。

一年遅れですが読んでみると、ボカロに関わってきた主要な人物は、ほぼ網羅されていて決定版と言ってもよい内容です。後から振り返っても、2011年時点の記録としてはよくできていると思います。

[目次]
ボーカロイド紹介
イベント/フィギュア/ゲーム
まえがき

序章 ボーカロイド前史 音楽ビジネス基盤背景
 コンテンツ産業は真の国家戦略になりうるのか?

第一章 ボーカロイドとは
 ボーカロイドが生み出すもの
 "歌声を創る"システム 歌声合成エンジン「VOCALOID」開発秘話 剣持秀紀

第二章 現象の波及とその舞台
 ボーカロイド現象の波及
 ユーザーが主役の新時代テレビ ボーカロイド文化発祥の地「ニコニコ動画」 齋藤光二

第三章 ユーザー同士の「バトンワーク」
 ネットでセッションするバトンワーク
 "歌ってみた"アーティストのメジャー進出 舞台は"インターネット"から"お茶の間"へ 八代富士夫

第四章 立体化するキャラクター
 立体化する仮想アイドル CGデビュー
 「MikuMikuDance」作者の考えるボーカロイド文化への想いとは 樋口優
 「MikuMikuDance」による3DCG作品の祭典「MMD杯」 かんなP
 立体化する仮想アイドル フィギュア表現
 仮想アイドルを手の中に ボーカロイド立体化商品の登場 田中聡

第五章 ゲーム&ライブ
 持って歩ける初音ミク ProjectDIVA
 歌って踊るバーチャルアイドル リズムゲーム「Project DIVA」 内海洋
 会いに行ける初音ミク ミクFES'09(夏)
 セカイに降臨した電子の歌姫 軌跡のステージングの舞台裏 内海洋

第六章 音楽業界への影響
 音楽産業はボーカロイドをどう見たのか?
 ボーカロイド、夢のオリコンチャート1位獲得! 池田俊貴
 ユーザー発信のニコニコ文化 CD商品化に込められた想いは 竹内彰廣
 続く音楽不況 今だからこそレーベルに必要なこととは 村田裕作
 若者はなぜボーカロイドに惹かれるのか?
 ランキング席巻! 高まるボーカロイドカラオケ人気 小林拓人
 カラオケDAMのボーカロイド本格参入 ボカロが「カラオケ」にもたらすモノとは 松下智

終章 海外展開と今後の展望
 海外ではボーカロイドをどう見たのか?
 "キャラクターボーカル"という可能性 「初音ミク」の開発に至った意図とは クリ☆ケン
 「がくっぽいど」「Megpoid」 生みの親が語るボーカロイドの今と未来 村上昇
 VOCALOID、VOICEROID 技術の進化によって変わるセカイ 尾形友秀

VOCALOID年表
用語集
あとがき

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2012.03.14

▽ヤクザもツライよ――『ヤクザ300人とメシを食いました! 』

鈴木智彦『ヤクザ300人とメシを食いました! 』(宝島社)

『ヤクザと原発』で一躍その名を知られるようになったルポライターの鈴木智彦が、ヤクザの素の表情を明らかにする。本書は、2007年に発行された『極道のウラ情報』(宝島社)に加筆・修正を加えたもの。

ルポというよりもトリビア的な内容が多いのですが、ふかしや誇張のないヤクザのありのままの姿が描かれていると思います。

[目次]
まえがき

第1章 突撃! ヤクザの晩御飯
 ヤクザ300人、いや本当は500人とメシを食いました!
  いまや大人数での食事は暴排条例違反に
  今年だけでも200人とメシを食った計算に!?
  見栄っ張りだから「高いものが美味しいもの」
  意外に質素な事務所での食事
  刑務所メシ、それぞれの思い出
  ヤクザはなぜ焼き肉好きなのか?
  若手組長がファミレスを好むわけ
  老舗高級店はヤクザがいなければ潰れてしまう
  一緒にメシを食うのが人たらしの基本
 突撃! ヤクザの晩御飯
 ヤクザの経営する飲食店のヒミツ
 暴力団お断りの店はどこまで本当か?
 極道メシのトリビア――賭場から生まれた「鉄火巻き」

第2章 公開! 極道の私生活
 健康オタクのヤクザが増えてるってホント?
 ヤクザに人気の美容整形外科
 親分たちのユニークなストレス解消法
 ヤクザとオカルトの奇妙な関係
 ヤクザに休暇はあるのか?
 ヤクザは生命保険に入れるのか?
 ヤクザが絶対買わないカーナビ
 ヤクザが入れた「刺青の絵柄」ランキング!
 刑務所の差し入れで大人気の雑誌
 ヤクザのスーパースターが白いスーツを好む理由
 ヤクザのあまりにも過剰な性欲
 増加するヤクザの自殺
 ヤクザの葬式を断るお寺が増えている

 特別漫画――本当にあった極道の話
  (1) 実録! 勝ち組ヤクザの金銭哲学
  (2) ヤクザ組織の福利厚生を拝見!
  (3) 体験! これがヤクザの部屋住みだ

第3章 シノギのトリビア
 こんなにあるヤクザ直営サイト
 ドラッグ相場のリアル経済学
 組事務所の運営費はいくらか?
 ソープランドとヤクザの親密な関係
 ヤクザがいなければカニを食べられない!?
 オタクの聖地「秋葉原」とヤクザの意外な関係
 ヤクザに寄生するカタギたち
 ミカジメ料の時代は終わったか?
 同和利権から宗教にシフトするシノギ
 ヤクザが国際空港を作ったってホント?
 総会屋は絶滅したか?
 フロント企業の賢い見分け方
 東京でフロント企業が一番多い区はどこ?

第4章 暴力のトリビア
 暴力団の防弾グッズ大公開
 ヤクザ恫喝マニュアル
 科学捜査対策に力を入れる現代ヤクザ
 ヤクザの天敵大解剖
 逃亡するヤクザの「潜伏先」ランキング!
 ヤクザが裁判で無罪を主張しないワケ
 マスコミの「抗争報道」はピンボケばかり
 暴力団追放センターは税金ドロボウ
 不良少年の“ケツ持ち”になるヤクザたち

 特別漫画――あなたの知らない極道の世界
  (1) 親分のボディガードに密着!
  (2) これがヤクザの掛け合いだ!
  (3) 刺青を入れてみました!?

第5章 盛り場のオキテ
 六本木「貸し縄張」の真実!
 歌舞伎町が「ヤクザの見本市」になった理由
 名古屋 山口組六代目を生んだ都市の意外な治安事情
 大阪・ミナミとキタ 山口組の寡占化でイビツな勢力争いも
 札幌・ススキノ 観光裏名所「性風俗店」と地元ヤクザの蜜月
 仙台 杜の都はヤミ金の一大拠点だった
 横浜 モダンな港町はフロント企業の巣窟
 福岡 独立組織が群雄割拠する特異な風土

巻末付録――世界遺産にしたい!? ヤクザ史跡ガイド
~聖地「大阪」「広島」のスポット巡り~

あとがき

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2012.03.13

▽『落合戦記』――すべてはここからはじまった

横尾弘一『落合戦記―日本一タフで優しい指揮官の独創的「采配&人心掌握術」』(ダイヤモンド社)

中日ドラゴンズの落合博満前監督といえば、ベンチの中でずっと能面のような顔で戦況を見つめている、というイメージが強いですよね。ニコリともしないで、だまってグラウンドを見ているだけ、という。

ところが、ベースボール・ジャーナリストの横尾弘一が、落合監督一年目(2004年)の全試合に帯同して書いた本書、『落合戦記』では、意外な記述に出くわしました。

《8月27日
 ……シーズン途中から、監督があまりにも笑顔を絶やさないことが注目され、テレビ中継ではベンチにいる監督の表情が映し出されることが多くなった。確かに、選手に話しかけている時はもちろん、戦況を見つめている際にも笑顔がほとんどだ。》(p.255)

あれ……。そう言われてみると、一年目の落合監督は、いつもニコニコしていたような気もします。

仏頂面をするようになったのは、選手が監督の顔色をうかがうようになってることに気がついたから、という発言もどこかで見た記憶もありますね。

とにかく、本書は、就任一年でドラゴンズを優勝に導いた苦労と栄光が詰まったスリリングな一冊です。

なかなか、こういう手間暇をかけた、しかも結果がハッピーエンドなノンフィクションはありませんよね。

[参考]
▽落合監督ご苦労様でした――『采配』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/11/post-ddf4.html
▽落合博満伝説
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/11/post-e860.html
▽落合が語るコーチング術
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/01/post-c1b2.html

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2012.03.12

▽震災復興

日本経済新聞社編『震災復興 日本経済の記録』(日本経済新聞出版社)

震災を記録した別冊というと一般紙が出版することが多いのですが、本書は、日本経済新聞社による企画。「おわりに」には、

《これは日本経済新聞の記者たちが「つくりたい」と訴えて、できあがった本です。》

とあります。3月12日からの紙面の切り抜きと、記者たちが新たに書き下ろした記事で構成されています。

ニュース記事が中心のため、その時その時の事実がたんたんと並べられていますが、大震災からほぼ一年たって、ようやく日本経済も立ち直りの気配が見えてきたような気もします。

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2012.03.11

▽当ブログで紹介した本――東日本大震災・福島原発事故から一年

日本を揺るがした東日本大震災と福島原発事故が起きてから一年がたちました。そこで、当ブログで紹介した本の中から、あらためて重要な知見や視点をあたえてくれるものを紹介したいと思います。

▽最悪の事態が起きた場合は?――『原発事故…その時、あなたは!』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-88e4.html
▽『朽ちていった命』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/post-9d7f.html
▽内部被曝の真実
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/09/post-41f5.html

▽ヤクザと原発
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/12/post-c21a.html
▽『原発労働記』(『原発ジプシー』改題)
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/05/post-fb07.html
▽震災死――生き証人たちの真実の告白
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/02/post-63c1.html

▽大震災と原発と新聞と――『巨怪伝』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/03/post-8445.html
▽『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/02/post-6943.html
▽東日本大震災の流言・デマを検証する
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/07/post-3022.html

▽『原発・正力・CIA』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/cia-d1f5.html
▽大新聞と停電と共産主義と
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/07/post-4def.html
▽菅直人という男――山本譲司『獄窓記』より
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/07/post-2d13.html

▽大鹿靖明『メルトダウン』――福島第一原発事故ドキュメントの決定版
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/02/post-b55c.html
▽あのケビン・メアが見た『決断できない日本』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/09/post-07d9.html
▽『日本中枢の崩壊』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-0342.html

▽『知事抹殺』――福島が焦点だったと改めて思い起こさせる
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/07/post-18be.html
▽『福島原発の真実』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/07/post-fcd4.html
▽『誰が小沢一郎を殺すのか?』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/post-cff7.html

▽『私たちは、原発を止めるには日本を変えなければならないと思っています。』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/01/post-c613.html
▽『原発社会からの離脱』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/01/post-8cc2.html
▽『東電帝国』――その失敗の本質
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-8160.html

▽吉村昭『関東大震災』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/05/post-116a.html
▽『東京考現学図鑑』――関東大震災から復興していく東京の記録
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-02a6.html
▽「新都」建設――これしかない日本の未来
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/02/post-794e.html

▽柏崎刈羽「震度7」の警告
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/7-ac7d.html
▽『地震と社会』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/post-3c76.html
▽『「失敗学」事件簿』――あの失敗から何を学ぶか
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-c197.html

▽グッドモーニング、ゴジラ
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/03/post-9b6c.html
▽ゴジラ音楽と緊急地震速報
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/01/post-ad29.html
▽流離譚――幕末維新を駆け抜けた奥州の安岡家
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/03/post-ce40.html

▽パニックにならないためにも――『放射能で首都圏消滅―誰も知らない震災対策』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/post-9bf4.html
▽生き残る判断 生き残れない行動
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/post-4e18.html
▽人類が消えた世界
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/07/post-c59d.html

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2012.03.10

▽アメリカで日本のアニメは、どう見られてきたか?

草薙聡志『アメリカで日本のアニメは、どう見られてきたか?』(徳間書店)

少し古い本で、2003年の刊行。2001年から2003年まで「朝日総研リポート」に連載された「年代記・米国の和製アニメ」をまとめたもの。発行は、徳間書店のスタジオジブリ事業本部(当時)で、資料としても貴重です。

[目次]
1章  ある文化輸出の期待と現実
2章  動く「小説」とテレビ暴力批判
3章  方法としての「国籍抹消」
4章 「異物」の排除と「異質」の受容
5章  玩具の後見と「外科医」たち
6章 「ジャパネスク」の再発見
7章  ゲーム・アダルト・美少女戦士
8章 「ジャパニメーション」から「ポケモン」へ
9章  繁殖する「ポケモン」の後継者たち
10章 「メディア芸術」の国から

[付録資料]アメリカの和製アニメ年譜

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2012.03.09

▽マリオの履歴書――『ニンテンドー・イン・アメリカ』

ジェフ・ライアン『ニンテンドー・イン・アメリカ: 世界を制した驚異の創造力』(林田陽子訳、早川書房)

本書の原題は、"SUPER MARIO: How Nintendo Conqurerd America"で、任天堂のゲームに登場する、あの「マリオ」の変遷を軸に、任天堂が、どのようにアメリカのゲーム市場で勝ち抜いてきたか、を時系列に紹介していくという趣向。

ただ、キャラクターとしてのマリオの紹介、ハードやソフトの技術の変遷、アメリカのゲーム市場の消長、任天堂の開発者達と、いろいろな分野に光を当てようとした結果、ややフォーカスがぼけてしまった嫌いがあって、アメリカのゲーム業界に関する基本的な知識が無い人にはわかりづらい部分があるかも知れませんね。

[目次]
序章 マリオのインサイド・ストーリー

Part 1
第1章 マリオの産声――ニンテンドー・オブ・アメリカの誕生
第2章 マリオの創造主――宮本茂と「ドンキーコング」
第3章 マリオの喧嘩――対ユニバーサル訴訟
第4章 マリオの旅立ち――1983年のビデオゲーム大恐慌

Part 2
第5章 マリオの島――日本とファミコン
第6章 マリオの陽光――「スーパーマリオブラザーズ」とNES
第7章 マリオの爆弾――「ザ・ロスト・レベルズ」
第8章 マリオのスマッシュヒット――「スーパーマリオブラザーズ3」
第9章 マリオの兄弟――NESとゲームボーイ
第10章 マリオのライバル――セガを救ったハリネズミ

Part 3
第11章 マリオの対決――ソニック VS. マリオ
第12章 マリオの銀河――スピンオフの嵐
第13章 マリオのクレヨン――「マリオペイント」
第14章 マリオのアドバンス――ソニーとの短い蜜月
第15章 マリオのカート(リッジ)――バーチャルボーイと3Dの夜明け

Part 4
第16章 マリオの世界――NINTENDO64
第17章 マリオの通信キット――64DD
第18章 マリオの大乱闘――ゲームキューブ
第19章 マリオのタイムマシン――ゲームボーイアドバンス
第20章 マリオのサーガ――@光と影

Part 5
第21章 マリオの革命――ニンテンドーDS
第22章 マリオのプリンセス――Wii
第23章 マリオのパーティ――3DS、あるいは任天堂の歴史における3日間
第24章 マリオの伝説――任天堂の未来

あとがき
参考文献

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2012.03.08

▽山寨革命とは何か?――『中国モノマネ工場』

阿甘『中国モノマネ工場――世界ブランドを揺さぶる「山寨革命」の衝撃』(日経BP社)

本書は、中国の携帯電話産業について書かれたものなのですが、ざっと読んだだけでは、何が書かれているのか、さっぱりわかりません(笑)。中国人独特の言い回しや比喩などに馴染みがないこともありますが、そもそも中国における携帯電話事業についての知識が乏しいことにも原因があると思います。

まずは、サブタイトルにもある「山寨革命」について解説すべきかもしれませんが、あえて「山寨革命」より前の時代について触れておきます。

本書によると、中国において携帯電話は、まず国外のメーカーによってもたらされました。それは、ノキア、サムスン、ソニー・エリクソン(当時)などで、これらは日本人にも知られているメーカーです。

これらに対抗すべく、1999年頃から中国資本のメーカーが参入しました。これらのメーカーは、半完成品を輸入して自社で組み立て、自社のブランドをつけて販売したことから、中国では「ブランド携帯」と呼ばれているそうです。

この「ブランド携帯」は、2002年、2003年には一世を風靡したのですが、品質が劣ることから2004年に入ると失速、中国メーカーは全社赤字に陥ったそうです。

その二年後に現れたのが、本書の主役である「山寨携帯」です。

さて、ようやく「山寨革命」の話題に入りますが、「山寨」は、日本語では「さんさい」と発音します(中国語ではShan Zhai)。「山寨」の元の意味は、「山の中の要塞」という意味で、さらに「農民による反統制運動」を意味する語として使われるようになり、「北京オリンピックの前後に意味が拡大され、コピー、偽物、ゲリラ、非官製、草の根などを示す言葉として使われ始めた」(p.1)そうです。

「山寨携帯」というのは、特定の携帯電話メーカーをさすのではなく、さまざまな得意分野を持つ個々の企業が有機的に結合して生産する携帯電話群の総称ということになります。

具体的には、メディアテックという台湾の半導体メーカーが作ったチップを採用し、龍旗や聞泰などのデザインハウスが設計を行っています。また、部品の調達、金型の製造、製品の組み立てにも多くの中国企業が関わっていますが、あえてブランドをつけずに販売されています。そういう風に生産された携帯電話群が、「山寨携帯」と呼ばれているわけです。

《山寨携帯のビジネスモデルの主体は一つの会社が一つか二つの工程に集中し、それらの間を市場の紐帯を使ってつなぐというものだ。》(p.54)

「山寨携帯」の生産台数は爆発的に増えている、とのこと。

というようなことを頭に入れてから読むと、本書の内容もすっきりと頭に入ってくると思います。

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2012.03.07

▽2ちゃんねると管理人と削除人と

山田隆司『名誉毀損』(岩波新書)

巨大匿名掲示板と称されることの多い2ちゃんねるですが、違法薬物の密売に関する書き込みに関し、警察からの削除要請を拒み、放置していたことから、違法薬物売買の幇助の疑いがあるとして、警察が捜査に踏み切りました。

▼警視庁が「2ちゃんねる」を捜索 薬物売買書き込みめぐり
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2012030701001297.html
《インターネット掲示板サイト「2ちゃんねる」に書き込まれた覚せい剤売買を持ち掛ける記述を削除せず放置した疑いがあるとして、警視庁が麻薬特例法違反(あおり唆し)のほう助容疑で、同サイトの関連会社など約10カ所を家宅捜索していたことが7日、捜査関係者への取材で分かった。》

2ちゃんねるにおける削除人の問題は、過去にも、「動物病院の名誉毀損問題」で、取り沙汰されました。本書『名誉毀損』でも、触れられています。

動物病院が、2ちゃんねるの書き込みによって名誉が毀損された、と訴えた裁判では、書き込みの削除と、賠償金として管理人ひろゆき(当時、現在は元管理人)に400万円の支払いを求める判決がくだされています(2005年最高裁も支持)。

というわけで、今回の捜査で、掲示板の書き込みを削除しないことに対する責任は、名誉毀損だけでなく、違法行為の幇助にも適用されることになりました。これは、2ちゃんねるだけではなく、他のネット・サービスにも影響を与えることは十分考えられます。

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2012.03.06

▽頑張れ! 清盛

三田誠広『清盛』(集英社)

▼「平清盛」またダウンで2度目の13%台
http://www.daily.co.jp/newsflash/2012/03/05/0004861032.shtml
《4日に放送されたNHK大河ドラマ「平清盛」(第9回)の視聴率が、関東地区で前回より1・6ポイント減の13・4%だったことが5日、ビデオリサーチの調べで分かった。
 昨年放送された「江~姫たちの戦国~」では、視聴率13%台は8月14日放送分の1回(13・1%)だけで、これがワーストだった。「平清盛」では13%台は2月12日に続き早くも2度目。》

大河ドラマ「平清盛」は見たことないのですが、視聴率で苦戦中だそうです。画面がもやっとしている、清盛の顔や衣装が汚すぎるなど、いろいろと問題点は指摘されているようですが、そもそもこの時期の歴史は複雑でわかりにくいことにも原因があるのかもしれません。

三田誠広のこの小説は、大河ドラマの原作ではないのですが、平安末期の政治の変遷をコンパクトにまとめた入門書としてはわかりやすいですね。

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2012.03.05

▽「片づく家」のつくり方

『近藤典子が考えた「片づく家」のつくり方』(1週間MOOK)

《家の中で生かされていない空間があるということ。使わないものをしまいっぱなしにして、もはやそこに何が入っているかわからないブラックホール状態の物入れ。使わないものに占領された結果、「家が狭くて……」ということになります。
 では、どうしてそのようなスペースが生まれてくるのかといえば、出し入れしづらかったり、使いたい場所から離れていたり……。そのため
一度出したらそれっきり。結局、収納スペースには、いつも使われないものだけが収納され、いつも使うものはしまう場所のない“家なき子”になってしまうのです。》(p.8)

というわけで、アメニティアドバイザーの近藤典子が、「ものが片づく家」はどのような家なのかを提案しています。ちょっと高級すぎる家のような気もしますが、さまざまな間取りの家が紹介されていて、なかなか面白い。

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2012.03.04

▽『代行返上』

幸田真音『代行返上』(小学館)

『日本国債』などの経済小説で知られる幸田真音が、2003年に発表したのが、この『代行返上』(単行本は2004年発売)。

テーマは、そのものずばり年金の代行返上で、2002年4月の法改正以来の出来事をリアルタイムで追う、というスタイルのノンフィクションに近い小説に仕上がっている。

ただし、著者にも誤算はあったようで、あとがきにおいて次のように述べている。

《書き進めるうちに、市場はまったく予想外の展開を見せた。
 二〇〇三年四月二十八日に最低価格七千六〇三円七六銭をつけた日経平均株価が、十月二十一日には一万一二三八円六三銭をつけるまでに回復した。そして、株価の下落局面では、あれほど心配され、悪者扱いにもされた代行返上が、もはやなにごともなかったかのように、忘れられつつある。》(p.436)

しかし、著者は続けて、「だが、本当の問題はこれからが本番だ」(同)と2004年の時点で警鐘をならしていたが、いままさに年金問題が火を吹きつつある。

[参考]▽年金倒産――企業を脅かす「もう一つの年金問題」
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/01/post-d7ee.html

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2012.03.03

▽グッドモーニング、ゴジラ

樋口尚文『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代 』(国書刊行会)

《ゴジラと水爆を関係づける設定にしても、それはタイムリーな題材でゴジラを登場させるほんのきっかけであって、もとよりテーマをふりかざして反核の説教をしようなどとは少しも思わなかったと本多自身が筆者に語っている。》(p.188)

本書は、ゴジラの監督として知られる本多猪四郎(1993年没)の映画人としてのキャリアを概観するもので、1992年に刊行されたものを、書き換えなしに復刻したものです。

復刻版初版第1刷の発行日は「2011年6月15日」なのですが、日本人にとってゴジラのイメージとは、崩壊する建物や放射能などに深く結びついていることが、改めて思い起こされます。

[目次]グッドモーニング、ゴジラ
第一部 撮影所の時代
 『ジゴマ』の年に生まれて
 森岩雄ともうひとつの「金曜会」
 P・C・L入社と青春の蹉跌
 P・C・Lから東宝映画へ
 山本嘉次郎の「作家」性
 成瀬巳喜男の静かな抵抗
 山中貞雄と『人情紙風船』余話
 滝沢英輔と渡辺邦男のこだわり
 黒澤明、谷口千吉と助監督群像
 プロデューサー・システムと「東宝カラー」
 戦場で見た『馬』
 映画を忘れた争議の嵐

第二部 監督 本多猪四郎
 映画芸術協会と『野良犬』のころ
 デビュー作と『羅生門』
 プロデューサー・システムの再建
 円谷英二との出会い
 『ゴジラ』前夜の模索
 『ゴジラ』の光と影
 量産時代と幻の企画
 特撮との蜜月が終わる
 斜陽期の「ヒットメーカー」として
 廃墟にて
  復刊によせて──二十年後の長いあとがき
  本多猪四郎フィルモグラフィー

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2012.03.02

▽流離譚――幕末維新を駆け抜けた奥州の安岡家

安岡章太郎『流離譚〈上〉』(新潮文庫)

安岡章太郎『流離譚〈下〉』(新潮文庫)

《そして私は咄嗟の間に憶い出した。この嘉助というのは土佐藩の参政吉田東洋を斬って天誅組に加わり、掴まって京都で打ち首になった人だが、その兄の覚之助はやはり勤王党に入って、戊辰の役の時は板垣退助の下で小軍監というのをつとめ、会津で流れ弾に当たって死んだ。》(p.11)

作家の安岡章太郎は、土佐(高知県)出身ですが、東北弁を話す親戚が一軒だけあったそうです。その家の始祖となった兄弟は、明治維新にさまざまなかたちで関わっていました。

本書は、そんな「奥州の安岡家」の記録であり、幕末維新期の「天誅組の変」や「戊辰戦争」の詳細な記録としても読めます。

来年のNHK大河ドラマは、会津が舞台になるそうですが、本作が採用されれば良かったのに、とも思います。

まあ、2010年に『龍馬伝』をやったばかりで、そんなに幕末維新期ばかりをやるわけにはいかないのはわかりますが……。

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2012.03.01

▽さらば松下――『復讐する神話』

立石泰則『復讐する神話 松下幸之助の昭和史』(文春文庫)

2月28日に、かつての松下電器、現在のパナソニックに二つの大きなニュースがありました。

▼「山下跳び」松下電器元社長・山下俊彦さん死去
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20120229-OYT1T01122.htm
《77年2月、創業者で当時相談役の松下幸之助氏に指名され、57歳で26人いた取締役のうち下から2番目の「ヒラ取締役」から社長に起用された。》

▼パナソニック、55歳津賀専務が社長昇格へ
http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20120229-OYT8T00316.htm
《パナソニックは28日、大坪文雄社長(66)が代表権のある会長となり、後任に津賀一宏専務(55)を昇格させる人事を発表した。
 中村邦夫会長(72)は相談役に退く。》

松下電器(パナソニック)といえば、良くも悪くも日本企業の代表のような存在でした。

1988年に発表された本書『復讐する神話』(文庫版は1992年)の第1章「山下俊彦社長就任劇の謎」では、下から二番目の平の取締役から社長に抜擢された「山下跳び」の舞台裏が描かれています。

そして、第3章「コンピュータ撤退」では、1964年に松下幸之助によってなされたコンピュータ事業からの撤退に疑問が投げかけられています。

当時の日本電気(現NEC)の小林宏治副社長(後に社長に就任)は、「松下さんともあろう人が、この有力な未来部門に見切りをつけるとは、いかにも残念。分からない。コンピュータは今でこそソロバンが合わないが、しかし、これは将来必ず、家庭電器の分野にも不可欠なものになる。松下さんは一体、何を考えていなさるんだろうか」(p.78)と語っている。

まあ、その後のNECの盛衰を見ていると、撤退してもしなくても結果は同じだったと言えなくもないですが(笑)。

ところで、中村邦夫会長の退任は、無謀ともいえるプラズマ・テレビへの投資失敗に対する引責とみられていますが、では、いまのパナソニックには、いったい何が「有力な未来部門」として残されてるのでしょうか? 

実は、ソニーよりももっと危機的な状態に置かれているのではないか? と思います。

[参考]▽ストリンガー戦記――『さよなら! 僕らのソニー』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/11/post-defe.html

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2012.02.29

▽『勾留百二十日』――特捜部長はなぜ逮捕されたか

大坪弘道『勾留百二十日 特捜部長はなぜ逮捕されたか』(文藝春秋)

厚生労働省の女性官僚の冤罪事件では、取り調べに当たった検事が証拠として押収したフロッピーのデータ改竄を行ったことが発覚し、その上司にあたる検察官二人が「犯人隠避」の罪で逮捕・起訴されるという自体に至りました。

本書の著者は、その二人の検察官のうちの一人です。

本書を読んでも「特捜部長はなぜ逮捕されたか」というサブタイトルで掲げられた問いに対する答えははっきりとは得られません。

しかし、「組織の持つ非常さ」によって人生を暗転させられたエリート検察官の心情は察するにあまりあるものですね。

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2012.02.28

▽『「噂の真相」25年戦記』

岡留安則『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)

2004年に休刊した『噂の眞相』の編集長が、創刊から休刊までの25年間の裏舞台を綴ったもの。見出しや文章の煽り口調は、あいかわらずですが(笑)。

ちょっと驚いたのは、『週刊文春』で三浦和義の疑惑を報じたデスクが、スキャンダルを抱えていて『噂の眞相』でバッサリとやられていたということ。

メディア批判の役割も担っていたのですが、その機能はインターネットに移りつつあるので、休刊もやむを得ないことなのかもしれませんね。

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2012.02.27

▽ネットワークでつくる放射能汚染地図

NHK ETV特集取材班『ホットスポット ネットワークでつくる放射能汚染地図』(講談社)

NHKの内部では、おそらくマイナーな部署であるETV特集の取材チームは、福島原発事故後の比較的早い段階で、避難地域内の放射線量の測定を行った。これは、NHKの内規に違反した行為だったが、さまざまな障害を乗り越えて、番組の放送にまでこぎつけた。

原発事故直後の避難地域の人々の生の声も多くつづられていて興味深い。また、NHKという巨大組織自体が、福島原発事故に対し、どういうスタンスをとるべきかで揺れ動いていることも、明らかにされており、その点も評価したい。

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2012.02.26

▽『罪と罰』――死刑をめぐる鼎談

本村洋x宮崎哲弥x藤井誠二『罪と罰』(イースト・プレス)

《宮崎 ……外務官僚や法務官僚、あるいは上層の司法官たちの視点は少し違うのです。もっとも簡単な部分で言えば、そんな僅かな死刑執行によって、先進国のお仲間から人権状況に問題のある国と看做されるのはかなわんと。……左翼的廃止論者なんかよりも、こいつらのほうがずっと手強いってことです。》(p.124)

EUに加盟する条件の一つに死刑廃止があり、このためトルコは2002年に死刑廃止に踏み切った。また、アメリカでは州ごとに死刑制度の存廃を規定しているが、もしアメリカが国として死刑廃止に踏み切ると、死刑存置している大国は日本と中国だけになるという。

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2012.02.25

▽黒澤明――封印された十年

西村雄一郎『黒澤明 封印された十年』(新潮社)

黒澤明の封印された十年とは?

1965年の『赤ひげ』から、『トラ、トラ、トラ』の降板劇や自殺未遂事件を経て、ソ連で撮影した『デルス・ウザーラ』が完成した1975までの十年間。

この十年は、日本映画界全体が停滞に向かいつつある一方、また、ヌーヴェルバーグに代表される新興勢力の台頭もあって、黒澤明の苦悩は日本映画界の苦悩でもあった。

[目次]
プロローグ

第一部 アメリカへ
第一章 一九六五年まで――『赤ひげ』
第二章 一九六六年――『暴走機関車』
第三章 一九六七年――『トラ・トラ・トラ!』
第四章 一九六八年――解任
第五章 一九六九年――『どら平太』

第二部 死の淵へ
第一章 一九七〇年――『どですかでん』
第二章 一九七一年――自殺未遂
第三章 一九七二年――邂逅

第三部 ソ連へ
第一章 一九七三年――不死鳥のごとく
第二章 一九七四年――シベリア・ロケ
第三章 一九七五年――『デルス・ウザーラ』

エピローグ
あとがき
主要参考文献

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2012.02.24

▽「死刑」のロードムービー

森達也『死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う』(朝日出版社)

オウム真理教の信者を撮ったドキュメンタリー『A』などの制作者として知られる森達也が「死刑」というテーマに取り組んだ「ロードムービー」のような著作。

オウム真理教の幹部のほとんどが死刑判決を受けていることから、必然的に「死刑」について考えざるをえなくなったという。

しかし、「ロードムービー」という割には、死刑制度の周りをグルグルと回っているだけで、死刑の本質にはたどり着けないまま終わる。

その理由の一つは、日本の法務省は「死刑」に関する情報公開を渋っていることがあげられる。

また、世界的には死刑廃止に踏み切った国が多い中、日本では、死刑廃止の声は必ずしも大きくなっていない。死刑廃止を唱える政治家も多くなく、その理由は票につながらないからだという。

[目次]
プロローグ
第一章 迷宮への入り口
第二章 隠される理由
第三章 軋むシステム
第四章 元死刑囚が訴えること
第五章 最期に触れる
第六章 償えない罪
エピローグ

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2012.02.23

▽『殺人者はいかに誕生したか』

長谷川博一『殺人者はいかに誕生したか―「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く』(新潮社)

《明らかになっていないのは、犯行時の心理(ストーリー)の全容です。……被告人である元少年の権利が尊重され、中立的に調べることが叶えば、疑惑に満ちた犯行ストーリーと被告人の心理分析をする時間は十分にありました。……それは永遠の謎として闇に葬られることになります。》(p.124)

臨床心理士である著者が十の凶悪事件の犯人との対話を通じて、犯人が犯行に至った心理(ストーリー)を分析する。

[目次]
第1章 なりたくてこんな人間になったんやない―大阪教育大学附属池田小学校事件・宅間守
第2章 私は優しい人間だと、伝えてください―関東連続幼女誘拐殺人事件・宮崎勤
第3章 ボクを徹底的に調べてください―大阪自殺サイト連続殺人事件・前上博
第4章 私のような者のために、ありがとうございます―光市母子殺害事件・元少年
第5章 自分が自分でないような感覚だった―同居女性殺人死体遺棄事件・匿名
第6章 一番分からなくてはいけない人間が何も分からないのです―秋田連続児童殺害事件・畠山鈴香
第7章 常識に洗脳された人間に、俺のことが理解できるかな!!―土浦無差別殺傷事件・金川真大
第8章 私は小さな頃から「いい子」を演じてきました―秋葉原無差別殺傷事件・加藤智大
第9章 命日の十一月十七日までに刑を執行してほしい―奈良小一女児殺害事件・小林薫
第10章 これって私の裁判なんですね。はじめて裁判官の顔が見えました―母親による男児せっかん死事件・匿名

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2012.02.22

▽このデザインには理由がある

『このデザインには理由がある』(KAWADE夢文庫)

いろいろなもののデザインが、なぜ、そうなったか、についてまとめられた雑学風読み物。スマホからペンタゴンまで、ちょっと、まとまりに欠けるきらいはありますが、まあまあ楽しく読むことができます。

そんな中で、ちょっと驚いたのが横断歩道に関するエピソード。横断歩道のデザインといえば、横棒の両脇に縦棒があるはしご型だと思っていたのですが、いつの間にか、横棒だけで縦棒のないデザインに変更されていたそうです。その理由は、はしご型ではペンキの盛り上がりによって水はけが悪くなるので、それを防止するためなのだそうです。

というような、ちょっとした発見があります。

[目次]
1 必勝デザインの秘密―スマホの角が、どれも“丸っこい”理由とは
2 「色づかい」に隠されたデザインの秘密―カゼ薬のパッケージはなぜ“赤系”が多いのか?
3 「カタチ」に隠されたデザインの秘密―クリームパンがグローブ型になった“事情”とは
4 「配置」に隠されたデザインの秘密―横断歩道の縦ラインがいつのまにか消えた謎!
5 「足し引き」に隠されたデザインの秘密―Macのマークのリンゴが欠けているのはなぜ?
6 「文字表現」に隠されたデザインの秘密―郵便マークは、そもそもなぜ、「〒」なのか?
7 「モチーフ」に隠されたデザインの秘密―一円玉に描かれた木は、いったい何の木?
8 「そういえば不思議」なデザインの秘密―3D映画が以前より飛び出なくなったワケは?

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2012.02.21

▽それでもボクはやってない

矢田部孝治+あつ子『お父さんはやってない』(太田出版)

《私には返事をする暇さえなく、駅員と女だけで、さっさと駅事務所から出て行ってしまった。私は取り残されたようになり、しょうがないので開けっ放しのドアをきっちりと閉めて部屋を出た。今でもここで逃げてしまえば良かったと後悔している。》(p.14)

本書『お父さんはやってない』は、痴漢冤罪の犯人とされた会社員が、無罪を勝ち取るまでを描いたノンフィクション。共著者は、被害者の奥さんであり、家族ぐるみの闘いだったことがわかります。

ハッピーエンドとなることを知っているために、読み過ごせるようなくだりも、本人の立場になってみれば、とてもツライ体験だっであろうことが伺えます。

周防正行監督の映画『それでもボクはやってない』のモデルとなった事件の一つだそうです。

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2012.02.20

▽政治家の殺し方

中田宏『政治家の殺し方』(幻冬舎)

2002年から2009年まで横浜市長をつとめた中田宏が、市長時代に直面した困難の数々を振り返ったもの。

正直なところ、横浜市政についてはあまり関心がなかったのですが、本書で明らかにされた事実は、唖然とするようなことばかり。

事実無根のスキャンダルが週刊誌に掲載され、それが市議会で追及されると、さらに新聞やテレビで報道されるという魔のスパイラルにはめ込まれていく……。

特に、驚いたのが、公務員の堕落ぶり。

職員から実名で「死ね」と書かれたメールが続々と届いたり、市長を脅迫して逮捕される職員がいたり、定期券の購入費削減のために一カ月から半年にかえたら賃金の返還を求める職員が現れたり……。

「ホントかよ」とあきれてしまうようなことばかり。とにかく、唖然とさせられてしまいます。

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2012.02.19

▽東電・政府は何を隠したのか――『検証 福島原発事故・記者会見』

日隅一雄x木野龍逸『検証 福島原発事故・記者会見――東電・政府は何を隠したのか』(岩波書店)

先日、大鹿靖明が政府中枢の原発事故処理の実態に迫ったの『メルトダウン』を紹介しましたが、

▽大鹿靖明『メルトダウン』――福島第一原発事故ドキュメントの決定版
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/02/post-b55c.html

本書『検証 福島原発事故・記者会見』は、事故発生時点において、東京電力や政府が記者会見において何を語ったのかを詳細に記録している。

ここに収録されている記者会見でのやりとりの多くは、ニコニコ動画の「ニコ生」を通じて見たことがあるが、改めて時系列に提示されると、当時の緊迫した気分が呼び起こされてくる。

事態が落ち着いてからの報道や、大鹿の『メルトダウン』などと、重ね合わせてみると、東電や政府が何を隠そうとしていたのかがわかってくる。

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2012.02.18

▽飛田――さいごの色街

井上理津子『さいごの色街 飛田』(筑摩書房)

「飛田」(とびた)というのは、大阪にある色街。

「飛田」という色街がつくられたのは、難波の遊郭が消失した1916年(大正5年)と、江戸時代につくられた「吉原」比べると、ずっと新しい。

本書は、その「飛田」と、そこで働く人たちに焦点を当てた十年越しのルポルタージュ。

こういうジャンルの取材をする時のもどかしさもよく伝わってきますね。

ただ、飛田の遊女たちの菩提寺だったはずの高野山の寺が、「うちは関係ありません」と主張するくだりなんかは、もう少しねばって、真相を突き止めて欲しかった、と思ったりしました。

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2012.02.17

▽大鹿靖明『メルトダウン』――福島第一原発事故ドキュメントの決定版

大鹿靖明『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(講談社)

福島第一原発事故のドキュメントとしては決定版と言って差し支えないだろう。

東京電力の会長や社長は事故発生時どこでなにをしていたのか? 全電源喪失した際に、電源車をかき集めたものの、それがなぜ使えなかったのか? 東電の撤退発言の真相は? などなど、原発事故発生当時、断片的に報道されてきたことが、綿密に検証された上で、時系列に記述されている。

前半は事故処理の内幕を描いているが、途中からは、脱原発を推進した菅首相をめぐる暗闘へとテーマが移っている。

主要な情報源となったのが、当時の政権中枢にいた人物たちということもあり、やや菅首相より、反東電、反経産省のきらいはあるものの、その点を割り引いても、福島原発事故ドキュメントの決定版と言っても過言ではないだろう。

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2012.02.16

▽ブーメラン――欧州から恐慌がかえってくる

マイケル・ルイス『ブーメラン 欧州から恐慌が返ってくる』(東江一紀訳、文藝春秋)

マイケル・ルイスといえば、サブフライム・ローン・バブルの破綻を見通して賭けにかった人達を描いた『世紀の空売り』が有名ですが、

▽リーマン・ショックへと至る道――世紀の空売り
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/01/post-f6dd.html

本書は、その続編。

なぜ、アメリカのバブルが、欧州にも飛び火したのか、「どーしてこーなった?」の背景を、アイスランド、ギリシャ、アイルランドと国別に描いていきます。また、その対比として、バブルにまみれなかったドイツにもフォーカスをあてています。

前作ほどには、金融商品に関する知識は必要でなく、さらっと読むことができますが、これまで知られていなかった事実もあって面白い。

序章 欧州危機を見通していた男
第1章 漁師たちは投資銀行家になった
第2章 公務員が民間企業の三倍の給料をとる国
第3章 アイルランド人は耐え忍ぶ
第4章 ドイツ人の秘密の本性
第5章 あなたの中の内なるギリシャ

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2012.02.15

▽『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』

上杉隆『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』(PHP新書)

上杉隆(肩書き不明)が、大手メディアの記者の間で共有されていた、いわゆる「懇談メモ」の公開を始めた。

本書『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』においても、その一部が公開されている。

記者クラブに所属する記者達が、互いにメモを融通し合ったりすることがある、という話は聞いた事があるが、本書では、そのメモが官僚や政治家にも渡っていた、という事実も明らかにされている。

さらに、そのメモの謝礼として官房機密費がメディア関係者に支払われていたのではないか? という疑惑も指摘されている。

2011年9月に、「放射能をつけちゃうぞ」と発言したと報道され、辞任に追い込まれた鉢呂経産大臣をめぐる騒動の真相も記されている。

日本のジャーナリズムの暗部を暴露した驚愕の書である。

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2012.02.14

▽限界集落の真実

山下祐介『限界集落の真実: 過疎の村は消えるか?』(ちくま新書)

「限界集落」とは、「六五歳以上の高齢者が集落の半数を超え、独居老人世帯が増加したために、社会的共同生活の維持が困難な状態に置かれている集落のことを指す。」(p.9)。

2007年には、参院選挙において、地域格差の問題に絡んでこの「限界集落」の問題が取り上げられ、政府は、191もの集落が過去7年間で消えた、とのデータを発表した。

しかし、本書の著者は、さまざまな集落へのフィールド・ワークにより、191の集落は、ダム移転、災害移転、集落再編などの人為的な要因によって消滅したものであることを突き止める。

《国発表の消えた集落の数値には、[高齢化→限界→消滅]の事例はまず含まれていないと考えるべきだろう。》(p.100)

つまり、人間の生活力は高齢化で衰えるようなものではなく、集落が簡単に消えることはない、ということになる。

ただし、高齢化した集落は増え続けており、かならずしも楽観できる状態ではないものの、従来の限界集落のイメージを塗り替えたところから議論はスタートすべきだろう。

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2012.02.13

▽消費増税では財政再建できない

野口悠紀雄『消費増税では財政再建できない 「国債破綻」回避へのシナリオ』(ダイヤモンド社)

税と社会保障の一体改革がかまびすしいのですが……。

消費税率を5%引き上げたとしても、財政への改善効果が続くのは、わずか2年しかありません。そして、財政健全化のためには、消費税の税率は30%にまで引き上げる必要がある、など、本書では、しごくまっとうな、そして、残酷な現実が白日のもとに晒し出されます。

  どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!
   三           三三
        /;:"ゝ  三三  f;:二iュ  三三三
  三   _ゞ::.ニ!    ,..'´ ̄`ヽノン
      /.;: .:}^(     <;:::::i:::::::.::: :}:}  三三
    〈::::.´ .:;.へに)二/.::i :::::::,.イ ト ヽ__
    ,へ;:ヾ-、ll__/.:::::、:::::f=ー'==、`ー-="⌒ヽ
  . 〈::ミ/;;;iー゙ii====|:::::::.` Y ̄ ̄ ̄,.シ'=llー一'";;;ド'
    };;;};;;;;! ̄ll ̄ ̄|:::::::::.ヽ\-‐'"´ ̄ ̄ll

[目次]
はじめに

第1章 消費税を増税しても財政再建できない
1.消費税率を5%引き上げても、改善効果わずか2年!
2.財政健全化のためには税率30%が必要
3.消費税の目的税化は、増税のためのトリック
4.財政への信頼崩壊は財政危機を加速する
5.税率引き上げ前にインボイスがどうしても必要
補論 収支シミュレーションの前提と計算方法

第2章 国債消化はいつ行き詰まるか
1.国債消化構造の危うさ
2.日本国債のDoomsdayはいつ来るか?
3.国債消化のマクロ的メカニズム
4.財政支出が財政収入に還流すれば問題はない
5.金利が上昇しても、利払い費はすぐには増加しない
6.国債は負担を将来に転嫁しない
補論 金利上昇が国債利払いに与える影響

第3章 対外資産を売却して復興財源をまかなうべきだった
1.結局は恒久増税になった復興財源
2.対外資産の取り崩しで復興資金を調達できる
3.外貨準備の取り崩しで復興資金を調達できる
4.必要なのは財政論でなく経済論

第4章 歳出の見直しをどう進めるか
1.増税分を呑み込む歳出増
2.マニフェスト関連経費はまだ残っている
3.財政支出の大部分が移転支出であることの意味

第5章 社会保障の見直しこそ最重要
1.人口高齢化で社会保障給付は自動的に増える
2.公的施策はどこまでカバーすべきか
3.内需を増加させたいなら、なぜ医療費を抑制する?

第6章 経済停滞の原因は人口減少ではない
1.人口構造で未来が予測できるか?
2.40~59歳人口の減少は、日本経済に大きな影響

第7章 高齢化がマクロ経済に与えた影響
1.高齢化で貯蓄率は低下したか?
2.貯蓄減少のメカニズム
3.人口構造の変化は、資産保有に影響を与えたか?
4.貯蓄が減少したのに、貯蓄投資差額は拡大
5.財政赤字拡大の原因は、公共事業ではない
6.金融緩和は、経済活性化でなく企業の資金過剰をもたらした
7.国内の貯蓄超過は経常収支の黒字に対応する
8.高齢化社会では、インフレに備えた資産運用が必要

第8章 介護は日本を支える産業になり得るか?
1.曲がり角に立つ介護産業と日本の雇用
2.急増する老人ホームに供給過剰が生じないか?
3.製造業の雇用は減少するが、労働力人口はもっと減少
4.将来の政策課題は、量の確保でなく質の向上
5.新しい介護産業の確立に向けて

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2012.02.12

▽黒澤明と『用心棒』

都築政昭『黒澤明と『用心棒』―ドキュメント・風と椿と三十郎』(朝日ソノラマ)

黒澤明がつくった娯楽チャンバラ映画『用心棒』(1961年公開)と、その続編『椿三十郎』(1962年公開)の製作の舞台裏を描いたドキュメント。

黒澤神話を肯定的にとらえた黒澤ファン向けの内容が中心ですが、カメラマンをめぐるくだりは、ちょっと興味を引きます。

『用心棒』の撮影に際して、黒澤明は出世作『羅生門』でコンビを組んだカメラマン宮川一夫を招聘します。宮川は、溝口健二、市川昆、小津安二郎などの名監督の撮影をしてきたカメラマンの巨匠です。

しかし『用心棒』を撮影に入っていた頃の黒澤は、望遠レンズを備えた二台のカメラで同時に撮影する方式を採用するようになっていました。

そのため、宮川の絵作りのこだわりは反映されず、二番手カメラマンだった斉藤孝雄が望遠レンズを使って自由奔放に撮影した絵を黒澤は好むようになったそうです。

その結果、宮川がカメラマンとしての人生を回顧した本の中では、『用心棒』については一言も触れてなく、また、『椿三十郎』の撮影にも参加しなかったそうです。

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2012.02.11

▽天才伝説 横山やすし

小林信彦『天才伝説 横山やすし』(文藝春秋)

本書は、横山やすしの伝記というよりも、作家の小林信彦が間近で見た横山やすしが綴られている(1998年刊行)。

小林とやすしの接点は、小林の小説『唐獅子株式会社』を、1984年に映画化した際に、主演にやすしが抜擢されたことにある。斜陽化しつつあった映画界の裏側もかいま見える。

なにげに読み始めたら、ページを繰る手がとめられないほどおもしろかった。おすすめ。

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2012.02.10

▽震災死――生き証人たちの真実の告白

吉田典史『震災死 生き証人たちの真実の告白』(ダイヤモンド社)

《被災地を回って痛感するのは、この国は外国などからの攻撃ではなく、内部から崩壊していくのではないかということ。人と人とが支え合う意識が、想像できない速さで壊れている。》(p.221)

ジャーナリストの吉田典史は、東日本大震災の直後から被災地に二十数回も足を運び、生き残った人々、そして、死と直面した人々の生の証言を記録した。それらは、ダイヤモンド・オンラインの連載企画として発表された。

「生き証人」が語る真実の記録と教訓~大震災で「生と死」を見つめて
http://diamond.jp/category/s-livingwitness

本書は、それらにさらに大幅に加筆修正して発表されたもので、取材の対象は、死体を検死した医師たちから、生き残った遺族、捜索に携わった人々、そして、報道機関と多岐にわたる。

東日本大震災は、地震や津波の被害よりも、原発事故により大きな関心が集まってしまったが、本書は、風化させてはならない重い事実の記録である。

[主な目次]
第1章 医師がみた「大震災の爪痕」
第2章 遺族は「家族の死」をどうとらえたか
第3章 捜索者が「津波の現場」で感じたこと
第4章 メディアは「死」をいかに報じたか
第5章 なぜ、ここまで死者が増えたのか

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2012.02.09

▽『封印された電車男』――「2ちゃんねる」と「まとめサイト」の微妙な関係

安藤健二『封印された電車男』(太田出版)

2004年3月から、巨大匿名掲示板2ちゃんねるの「独身男性板」、通称「毒男板」に書き込まれた、ハンドルネーム「電車男」の恋愛話は、中の人によるまとめサイトを経て、中野独人なる著者名で出版されベストセラーとなった。

テレビドラマや映画にもなったこの電車男の実態について、『封印作品の謎』シリーズで知られる安藤健二が膨大なログをもとに検証したのが本書である。

著者の検証によると、2ちゃんねるの電車男スレッドに書き込まれた3万件を超える投稿のうち、単行本に収録された書き込みはわずか6.4%に過ぎなかった。実に、93.6%は捨てられたことになる。

《投稿の9割が削られたことで、『電車男』は、ネット上でのコミュニケーションの実態をまったく反映しない人畜無害な物語になってしまった。モニター上に現れた複雑怪奇でドロドロとした人間の欲望を封印して、口当たりのいいパッケージングを施すことで大ヒット商品となったわけだ。》(p.119)

『電車男』のケースでは、「まとめ」の際に、「口当たりのいいパッケージングを施すこと」に成功しました。しかし、この「まとめ」の手法は、さまざまな方向性を恣意的に持たせることができるのだろうと思います。

[参考]「2ちゃんねる」まとめサイトのビジネス・モデル
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/news/2011/04/post-b0f7.html

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2012.02.08

▽「新都」建設――これしかない日本の未来

堺屋太一『「新都」建設―これしかない日本の未来』(文春文庫)

《日本における重大な改革は、政治行政機構の地理的な移転か、外国との戦争による敗戦かによってしか起こっていない。二十一世紀の日本が、平和な社会を保ちつつ新しい時代にふさわしい改革を実現するには、新しい政治行政の中心都市「新都」を建設することであろう。》(p.47)

橋下徹大阪市長のブレーンである堺屋太一が1990年に上梓した『「新都」建設―これしかない日本の未来』(文庫版は1992年)。

1980年代後半の地価高騰を招いたバブル経済を引き起こした原因が東京一極集中にあるとされ、それに対する処方箋として書かれたのが本書である。しかし、その後のバブル崩壊によって東京の地下は下がり、「新都」への期待はしぼんでいった。

つづいて、小泉政権時代になると、ふたたび「遷都」が議題にあげられ、候補地も選定された。その際には、堺屋の主張もふたたび脚光を浴びたが、これもまた、支持を失い、道州制へと議論の焦点が移っていった。

そして――。

東日本大震災を踏まえて、政治、経済、文化の三つが東京に集中することへの懸念から、みたび、首都機能の移転や分散が関心を集めている。これには、大阪都構想を掲げる橋下徹というトリック・スターの存在も大きい。

また、堺屋は、放送、新聞、出版の大手マスコミが東京に集中させられたことが、文化的な閉塞感を生み出している、とも指摘している。

《戦後の新業種新業態の発生や流行したファッションの発生源はほとんどが地方であり、東京は人口比率よりも少ない。ただそれが、「流行」と認められるためには、東京のマスコミに取り上げられた場合に限られる。そしてそのためには、東京の中心部、千代田、中央、港、新宿、渋谷の五区で話題になることが条件になっている。》(p.72)

本書は、二十年以上も前に書かれたものではあるが、いまでも十分通用する知見が得られる。

[参考]
「首都機能移転」論議の終焉――日本のポストモダン Scene4
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2011/03/scene4-d343.html
平成維新とは?――日本のポストモダン Scene8
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2012/02/scene8-e107.html
▽『団塊の世代』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/1994/07/post-26c5.html

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2012.02.06

▽七十歳死亡法案、可決!?

垣谷美雨『七十歳死亡法案、可決』(幻冬舎)

えー、本書は、『七十歳死亡法案、可決』というタイトルの近未来小説です(笑)。いつか、こういうタイトルの本が出るとは思っていましたが……。

2020年に可決された「七十歳死亡法案」により、皇族以外の日本人は七十歳の誕生日から30日以内に死ななければならなくなった。高齢化による国家財政の行き詰まりを解消するためで、施行初年度の死亡予定者数は、すでに七十歳を超えている者も含めるために約2200万人に達し、次年度以降も毎年150万人前後で推移するという。

同法施行二年前のある日、ごくありふれた家庭である「宝田家」にもじょじょに変化が起こり始めていた。寝たきりのおばあちゃん、その世話をする嫁の家出、早期退職して旅に出てしまう夫、家を出たきりの娘、そして、引きこもりの息子が織りなす悲喜劇は、ホームドラマ的な味わいもあって、エンターテイメントとしてもそれなりに楽しめます。

こんな本けしからん! と怒る前に、ある種のブラックユーモアとして、思考実験的に読まれるべきだと思います。

[目次]
第一章 早く死んでほしい
第二章 家族ってなんなの?
第三童 出口なし
第四章 能天気な男ども
第五章 生きててどうもすみません
第六章 立ち向かう明日

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2012.02.05

▽ビブリア古書堂の事件手帖

三上延『ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち』(メディアワークス文庫)

三上延『ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常』(メディアワークス文庫)

鎌倉にある古書店“ビブリア古書堂”を舞台にしたライトノベルベです。古書店の店主には似つかわしくない若い女性の篠川栞子が、持ち込まれる古書とその背後にある謎を解いていくというミステリー仕立てのラノベです。本にまつわる蘊蓄も楽しめるという趣向でベストセラーになっているそうです。

まあ、語り手である主人公、五浦大輔の「本を拒絶するという体質」という設定がちょっとアレなんですが、その点が気にならなければ、なかなか楽しめます。

というか、ラノベも「ライト」と呼ばれるものの、設定や人間関係が割と複雑だったりして、頭に入れるのがなかなかたいへんだったりしますね。軽く読める読み物として、おすすめ。

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2012.02.04

▽雪崩遭難

阿部幹雄『ドキュメント 雪崩遭難』(山と渓谷社)

ちょっと古く、2003年に出版された本ですが、雪崩に遭遇したものの救出された方々へのインタビューをまとめたものです。

《雪崩に流された人、雪崩に埋まった人、雪崩で仲間を失った人、さまざまな雪崩遭難体験者をインタビューして気がついたことがいくつかある。
「雪崩が起きるとは思わなかった」
「そこで雪崩が起きたことがない」
 この言葉のいずれかを口にする。》(p.276)

著者によると、「雪崩が起きるとは思わなかった」という発言は雪や雪崩について知識の乏しい人から聞かれ、また、自分の経験にのみ固執する人は、「そこで雪崩が起きたことがない」と言う。著者は、この二つの言葉を禁句にすべきだと主張し、もっと雪を科学的に理解することが必要だと主張する。

日本の一部地域では、最近の豪雪により雪崩の危険性も指摘されていますが、くれぐれも注意してください。

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2012.02.03

▽『タブーの正体!』――マスコミが「あのこと」に触れない理由

川端幹人『タブーの正体! マスコミが「あのこと」に触れない理由 』(ちくま新書)

《ある事実の報道を「タブーにふれるから」と封じ込めた当事者が、なぜそれがタブーになっているのかを知らないという事態まで起きている。》(p.25)

著者は2004年に休刊した『噂の眞相』の副編集長をつとめていた。2000年に同編集部が右翼によって襲撃された事件の際には、肋骨を骨折させられ、これがトラウマとなったという。

同誌休刊後に、フリーになった著者は、さまざまなメディアで仕事をするようになったが、

《そこに広がっていたのは、かつて想像していた以上に「書けないこと」だらけの世界だった。》(pp.14-15)

本書は著者の体験から導き出された数々のタブーが紹介されている。それは、皇室から、政治家、原発、そして、芸能まで多岐にわたる。

[目次]
序章 メディアにおけるタブーとは何か

第1章 暴力の恐怖―皇室、宗教タブーの構造と同和タブーへの過剰対応
 私が直面した右翼の暴力
 皇室タブーを生み出す右翼への恐怖
 皇室タブーからナショナリズム・タブーへ
 宗教タブーは「信教の自由」が原因ではない
 同和タブーに隠された過剰恐怖の構造
 同和団体と権力に左右される差別の基準)

第2章 権力の恐怖―今も存在する政治家、官僚タブー
 政治権力がタブーになる時
 メディアが検察の不正を批判しない理由
 愛人報道、裏金問題で検察タブーはどうなったか
 再強化される警察・財務省タブー

第3章 経済の恐怖―特定企業や芸能人がタブーとなるメカニズム
 ユダヤ・タブーを作り出した広告引き上げの恐怖
 タブー企業と非タブー企業を分かつもの
 原発タブーを作り出した電力会社の金
 電通という、もっともアンタッチャブルな存在
 ゴシップを報道される芸能人とされない芸能人
 芸能プロダクションによるメディア支配
 暴力、権力の支配から経済の支配へ

第4章 メディアはなぜ、恐怖に屈するのか

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2012.02.02

▽女子アナが弁護士になるまで

菊間千乃『私がアナウンサー』(文藝春秋)

菊間千乃『私が弁護士になるまで』(文藝春秋)

生放送中の転落事故、未成年タレントとの飲酒事件、そして、弁護士への転身と、波瀾万丈な人生を送っているフジテレビの女子アナだった菊間千乃。事故後の療養中の不安、司法試験受験の期待と不安については、よく描かれていますね。

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2012.02.01

▽日本の病根に決別できるか?

古賀茂明x田原惣一朗『決別! 日本の病根』(オフレコ!BOOKS)

『日本中枢の崩壊』で知られる元経産官僚の古賀茂明と田原総一朗の対談をまとめたもの。原発、経産省の問題、公務員改革について、とこれまでさまざまなところで語られてきたことがまとめられているだけで内容としては、特に目新しいものがあるわけではない。

[参考]▽『日本中枢の崩壊』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/06/post-0342.html

それでも、経産省(旧通産省)が保守化したことに関する部分は興味深い。

《古賀 ……昔は「マクロ三官庁」という言葉があって、景気対策は経済企画庁、大蔵省、通産省の三省でやったものですけど。経産省は2005年くらいから、マクロ経済の話をぱったりしなくなった。……だから経産省は、いまある企業を守ることばかりに集中した。非常に後ろ向きの守りの姿勢になってしまった。》(p.100)

古賀によると、2004年にダイエーを産業再生機構で整理することに猛反対したのが経産省であり、それは、経産省からの天下りがダイエーに送り込まれていたからだったという――。

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2012.01.31

▽「フクシマ」論――原子力ムラはなぜ生まれたのか

開沼博『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)

著者の開沼博は、2006年に六ヶ所村にフィールドワークに行った際に、原発関連施設に関する地元の受け止め方とメディアでの伝えられ方のギャップに気づき、日本でもっとも古い福島原発の調査を始めたという。それは、日本の経済成長を支えてきた「無意識のうちで是としているもの」を解き明かそうとする試みであった。

[参考]▽『私たちは、原発を止めるには日本を変えなければならないと思っています。』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/01/post-c613.html

本書は、その研究成果をまとめたもので、原発事故直後に出版され大きな注目を集めてきた。

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2012.01.30

▽『凶悪』――ある死刑囚の告発

「新潮45」編集部『凶悪』(新潮社)

死刑判決をめぐり最高裁まで争っていた殺人事件の犯人が、獄中から、ある告発を行った。

事件を指揮した主犯は別にいる、という。

「先生」と呼ばれるその人物の周辺では、不可解な事件が続いていた。本書は、この事件の真相を明らかにする、迫真のノンフィクション。

「先生」は逮捕される一方で、告発をした殺人犯の裁判はストップし、実質的に、延命されることになってしまった――。

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2012.01.29

▽大停滞

タイラー・コーエン『大停滞』(池村千秋訳、NTT出版)

本書『大停滞』(原題: The Great Stagnation )は、アメリカの経済学者タイラー・コーエンが、当初、電子版で出版したものの、注目が高かったためにペーパー版も出版されたものです。

《さまざまな分野でイノベーションが期待外れとどまっているとしても、少なくともある一つの分野では、大半の人の予想より多くのイノベーションが成し遂げられている。その分野とはインターネットだ。》(p.74)

著者によると、ここ二十年間で唯一のイノベーションであったとも言える「インターネット」を活用する企業の多くは、かつての製造業などと比べると、あまり雇用を創出しない。

また、流通業などでも「中抜き」が起きるために、雇用を減らす可能性もある。さらに、ITや、それを活用した金融業では、一部の優秀な人材がいれば良いので、そこに富は集中し、結果として、普通の人達の賃金は頭打ちとなっていく。これがアメリカなどの先進国を襲う「大停滞」の実態である――

というような、割と腑に落ちる説を展開しています。

また、解説者である若田部昌澄の「日本の場合はデフレが続いていることが停滞の要因ではないか」との問いに対して、コーエンは、「日銀がよい仕事をしているとは思わないけれども、25年も続く停滞が貨幣的要因によるものとは思われない。」(p.162)と答えています。

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2012.01.28

▽なんでコンテンツにカネを払うのさ?

岡田斗司夫x福井健策『なんでコンテンツにカネを払うのさ?』(阪急コミュニケーションズ)

《福井 著作権は確かに厄介な存在です。しかし、100年以上の期間をかけて構築されてきた、血と汗の結晶でもあります。だから、生半可なことで突き崩せるようなヤワな相手じゃないんですよ。体系としてなかなかうまく組み上がった法律であり、それがデジタル化の中で機能不全を起こしかけているから厄介なんです。これほどきちんと組み上がったものでなければ、5年やそこらでぽーんとモデルチェンジできてしまえたんでしょうけどね。》(p.64)

《岡田 エンターテイナーにせよ他の職業にせよ、その職能さえあれば食べていけるという時代があって、その後一握りのトップしか食べていけなくなる。そういう変化をへるんじゃないでしょうか。
 ……日本中の全クリエイターを合わせて、創作収益だけで食えるのは1000人くらいじゃないでしょうか?》(pp.103-104)

岡田斗司夫と、著作権に問題に詳しい弁護士の福井健策による対談。書籍の自炊問題から、今後のクリエイターのビジネス・モデルまで、思考実験的に語り合う。

本書では、特に結論が得られるわけではないのですが、何について考えれば良いかのポイントは得られると思います。

[目次
Chapter 01:電子書籍の自炊から著作権を考える
電子書籍の自炊はいけないこと?
家族が1万人いたら、自由に「私的複製」してもいい?
バイトを雇って「自炊」するのはOK?
スキャンしたあとの書籍は、処分しないといけないの?
私的複製の範囲をコントロールするDRMの問題
自由にコピーしてよくなったら、売り上げは減る?

Chapter 02:著作権法は敵か味方か?
意外に新しい著作権という考え方
プラトンとアリストテレスとダイエット
作品で食っていけるクリエイターなどいなかった
法律で遊ぶのは大人の務め
クリエイターの稼ぎと流通の促進のバランス

Chapter 03:コンテンツホルダーとプラットフォームの戦い
著作権がないと社会はつまらなくなる?
日本はコンテンツ輸入国だ
コンテンツホルダーは強者なのか?
著作権保護は終わりのない撤退戦?
力を持つのはプラットフォームか?
カネはいらないとクリエイターが言い出したらどうなる
広告収入モデルはクリエイターを救うか

Chapter 04:クリエイターという職業
野球でメシは食えない
プロとして食えるのは日本で1000人
創作で食えなくてもいい!
僕たちが欲しいのはコンテンツではない
人はライブの体験にお金を払う
「タニマチ」がクリエイターを救う
つまらないけど豊か、貧乏だけど楽しい、どちらを選ぶ?
あらゆる産業がシュリンクする
人はデジタルというパンドラの箱を開けてしまった
コミケに地域通貨を導入する
救うべきは貧乏なクリエイターではない

Chapter 05:ネットの中に国家を作り上げる
全メディアアーカイブ構想とは?
オプトアウトで大量のコンテンツを集める
コンテンツと一緒に石けんも売ろう
圧倒的な力を持つ米国発プラットフォーム
僕たちは二重に税金を支払っている
マネタイズを諦めれば、奴隷から解放される
総合コンテンツ企業「株式会社日本コンテンツ」
経済のありようが変わる
著作権、そしてコンテンツの未来は私たちにかかっている

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2012.01.27

▽ゴジラ音楽と緊急地震速報

筒井信介『ゴジラ音楽と緊急地震速報』(伊福部達監修、ヤマハミュージックメディア)

チャランチャラン 緊急地震速報です――。

突然、テレビから流れてくる、このチャイムは、東日本大震災の際、「ゴジラのテーマからつくられたらしい」というまことしやかな噂が流れました。

本書によると、この噂は、当たらずとも遠からず、ということのようです。なぜかというと、ゴジラのテーマ曲を作曲した伊福部昭が作曲した交響曲で使われた和音の部分をもとに、昭の甥で福祉工学を専門とする伊福部達東大教授によって作曲されたもの、というのが事実とのこと。

《なぜ伊福部教授に緊急地震速報チャイムの依頼が来たのかというと、この音は健聴者はもちろん、できるだけ多くの聴覚障害者や加齢性難聴者(耳の遠くなった高齢者)の注意も惹くように作る必要があった。そこで、教授の専門が“福祉工学”という聴覚障害や視覚障害に関する学問であることから、白羽の矢がたったのだ。》(p.5)

「緊急地震速報」に秘められた謎が明らかになります。

[目次]
プロローグ 東日本大震災と緊急地震速報チャイム
第1章 ゴジラ音楽と映像音楽四原則
第2章 聴覚の不思議
第3章 音の福祉工学と聴覚の世界
第4章 伊福部達と蝋管再生プロジェクト
第5章 チャイム音の製作―課題と検証
第6章 福祉工学が秘める可能性
エピローグ チャイム音製作の三原則

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2012.01.26

▽電子部品だけがなぜ強い

村田朋博『電子部品だけがなぜ強い』(日本経済新聞出版社)

日本の電機業界は総崩れの状態にありますが、それでも、利益を上げ続けている部品メーカーは少なからずあります。

その部品メーカーの強さにフォーカスを当てて、具体的に企業をあげて分析を行ったのが本書。ちょっとポジティブポジティブし過ぎな気もしますが、有益な知見も得られます。

価格競争から逃れるためには、世界で勝てる事業をめざせ、ブランド価値をつけろ、消費財よりも生産財の方が値下げ圧力は小さい、などなど……。

ちょっと論説のまとまりに欠けるきらいはありますが、本書にはいろいろなヒントが提示されていると思います。

[目次]
はじめに
序 日本が誇る電子部材産業
I 盛者必衰。事業環境は厳しくなる
II 「世界で勝てる企業」だけが生き残る
III 価格競争の呪縛からの脱却――東京から一番遠い町
IV 中核技術の認識とその展開――「滲み出し」「段々畑」「跳躍」
V 事業の大胆な見直し――自らを否定する強さ
VI 事業モデルの検討――競争を「ずらし」、競争せずして勝つ
VII 外部経営資源の活用――英知をつなぐ
VIII 金持ちA様、貧乏B様――経営者の決断が企業の命運を決する
IX 理念と文化が世界1位を育てる
エピローグ ノブレス・オブリージュ――日本に製造業を残すために
最後に。お礼に代えて
本文注

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2012.01.25

▽『日本のソブリンリスク』

土屋剛俊・森田長太郎『日本のソブリンリスク―国債デフォルトリスクと投資戦略』(東洋経済新報社)

消費税の増税問題にからんで、日本の財政に関する懸念は日々強まっています。

本書は、証券会社のアナリストとステラジストによる日本のソブリン・リスク、つまり、日本国債(JGB=Japanese Governemnt Bond)の破綻可能性に関する解説書です。

書かれていることはオーソドックスな内容ですが、十年以上前から破綻する懸念があると言われている日本国債が、それでも、なぜ買い続けられ、相対的に、割高=低金利になっているのか? についての説明は興味深い。

まず、日本の機関投資家にとって資産運用とは融資が本業であり、債券投資は副業である。副業である債券投資には、経営資源を投入したいと考えず、その一方で、リスクをとりたくない。そのために、高い格付けが維持されている日本国債が投資先に選ばれ、割高な状態が続いている、という。

要するに、機関投資家ですら、何も考えずに惰性で日本国債を買い続けている、ということになるわけです……。

[目次]
第1章 ソブリンリスクの論点整理
第2章 未曾有の領域に入ったJGB運用の世界
第3章 日本のソブリンリスクについて考える
第4章 日本のソブリンリスクの将来
第5章 信用リスクと投資運用戦略【基本編】
第6章 信用リスクと投資運用戦略【応用編】

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2012.01.24

▽新聞が消える?

アレックス S. ジョーンズ『新聞が消える ジャーナリズムは生き残れるか』(古賀林幸訳、朝日新聞出版)

以前、アメリカのジャーナリズムにおける盗作と捏造問題を扱った本を紹介したことがあります。

▽『捏造と盗作』――米ジャーナリズムに何を学ぶか
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2012/01/post-9bc5.html

ここでは、2003年にニューヨーク・タイムズ紙で発覚したジェイソン・ブレア記者の捏造についても考察されています。

ジェイソン・ブレア記者が捏造した記事の一つに、イラクで捕虜になった後に救出されたジェシカ・リンチ上等兵の家族に関する記事がありました。

ブレア記者は、家族のもとに取材にも行かず、その家は窪地にあったのに丘の上にあったと書き、ありもしないタバコ畑や牛の放牧地が見渡せた、と捏造した。

しかし、本書『新聞が消える』の著者アレックス・ジョーンズは、もっと別のことに驚きを示しています。

《それと同じくらいひどかった、いや、わたしがそれ以上にひどいと思ったのは、一家がその記事を見たとき、明らかな捏造について「冗談だと思った」と発言したことだった。……家族は、最近のジャーナリズムは――ニューヨーク・タイムズも含めて――そんなものだと思っていたと答えた。》(p.151)

本書は、アメリカの新聞が部数を落とし、記者のリストラが始まっている現状を踏まえた上で、アメリカのジャーナリズムの歴史を概観したものです。ただ、ジャーナリズムの将来どうなるのかについての展望はあまり見えてきません。

あと、「鉄心のニュース」という言葉が出てくるのですが、なんだろう? と考えてみると、どうやら core という単語の訳語のようです。だったら、「コアのニュース」で良かったんじゃないかとも思いますね。

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2012.01.23

▽黒人はなぜ足が速いのか

若原正己『黒人はなぜ足が速いのか―「走る遺伝子」の謎』(新潮選書)

黒人はなぜ足が速いのか、という誰もが抱く素朴な疑問について、遺伝子という観点から明快に解説してくれます。

ただし、このテーマは、人種差別の歴史の長いアメリカではタブーに近い扱いになっていることが「はじめに」で述べられていますが……。

本書によると、短距離はジャマイカ、バハマ、トリニダート・ドバコなどのカリブ海諸国、長距離はエチオピア、ケニア、モロッコなどの北・東アフリカが得意とするところのようです。そして、その傾向は、さまざまな遺伝子によって決定されるそうです。そして、それは人類が移住によって、枝分かれしていく歴史にも符合するとのこと。

遺伝子に関しては、ちょっと専門的な記述が多いのですが、それほど難しくなく読み進めることができます。

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2012.01.22

▽日本の縮図に住んでみる

『ルポ 日本の縮図に住んでみる』(日本経済新聞出版社)

日本経済新聞のシニア記者が、日本の縮図といえる地域に一ヶ月ほど暮らしてみて、その体験をルポしたもの。

与那国島、横浜のドヤ街、若者の自立施設、北海道の田舎、愛知県豊田市のブラジル人の多く住む団地、そして、ハンセン病の療養所。

一時間ほどのインタビューで記事を書いてしまうことの多い新聞記者の仕事への反省から、この企画はたてられたようで、なるほど、その地域で暮らしてみないとわからないこと、住んでいるいるからこそ聞き出せる住人の本音などが、描かれていて、とても興味深く読みました。

ただ……。

こういうルポの仕事って、昔はルポライターの仕事でしたよね……。読者を取り込むために、こういうアプローチの仕事を新聞記者ですら取り組まなければならない時代になったということなんでしょう。

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2012.01.21

▽年金倒産――企業を脅かす「もう一つの年金問題」

宮原英臣『年金倒産 ― 企業を脅かす「もう一つの年金問題」』(プレジデント社)

《役人然とした基金幹部に鼻先であしらわれたり、いかにも業界の重鎮といった風貌の、それだけが存在意義であるかのような高齢の理事長から恫喝まがいの批判を受けたり、あげくの果てには当社の業務妨害にもなりかねない怪文書を発せられたりと、さまざまな苦境に立たされてきた。》(p.219)

本書の著者は、もともとは経営コンサルタントであったが、顧客企業からの相談によって、企業年金にも深く関わるようになった。

企業年金は、国の定めた「厚生年金」と企業独自の「厚生年金基金」にわかれている。厚生年金制度の発足直後は、多くの企業が、「厚生年金」部分の資金運用も代行することで、より多くの運用収入を得ることができた。

しかし、バブル崩壊後には、逆に、この代行部分が損失を抱える「代行割れ」の状態に陥った年金が増えている。

2002年の法改正後は、大企業が単独またはグループで運営していた年金のほとんどは、「代行返上」や「解散」を行った。しかし、中小企業が加盟する「総合型年金基金」では、代行割れのままで「代行返上」や「解散」を行うと、巨額の負担が発生する。

神戸のタクシー会社、三宮自動車交通はこうした負担に耐えきれなかったのが原因で2007年に倒産した。この未払い金は、同じ年金基金に加盟していたタクシー会社が負担しなければならなず、タクシー会社の廃業が相次いだ。

一方、「全日本洋菓子厚生年金基金」は、コスト意識が高く経営体力のあるマクドナルドが加盟していたことや、幸運にも株価が上昇し「代行割れ」を回避できたこともあって、損失を出さずに解散することができた。

年金基金に巣くう天下り官僚の実情についても触れており、企業年金の抱える本当の問題点をわかりやすくかみ砕いて教えてくれる良書である。

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2012.01.20

▽音楽嗜好症(ミュージコフィリア)とは?

オリヴァー・サックス『音楽嗜好症(ミュージコフィリア)―脳神経科医と音楽に憑かれた人々』(大田直子訳、早川書房)

脳神経科医であり、小説家でもある(代表作は『レナードの朝』)のオリバー・サックスが、音楽に取り憑かれたミュージコフィリア(音楽嗜好症)な人々について綴ったもので、502ページにわたる大著。

かつて最相葉月の『絶対音感』という本が話題になった時に、

音楽と人との関係についての興味深い世界がかいま見えたのがですが、本書は、さらに、その世界を広げてくれます。

まあ、しかし、音楽のことはあまりよく知らない私にとっては、ちょっとお腹いっぱいな感じですね(笑)。

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▽タイタニックは沈められた?

ロビン・ガーディナー 、ダン・V・ヴァット『タイタニックは沈められた』(内野儀訳、集英社)

イタリア沖で沈没した豪華船では、真っ先にトンズラした船長に避難が集まっていますが……。なんでも、ちょうど百年前の1912年に沈没したタイタニック号の犠牲者の親族も、この船に乗っていたそうです。この方は無事救出されたそうですが。

さて、本書『タイタニックは沈められた』では、タイタニック号は意図的に沈没させられた、という説を検証しています。その根拠は、ネタばれになりますが、あえて書いてしまうと……

保険金詐欺だったのではないか? という説です。

タイタニック号には同型の姉妹船としてオリンピック号というのがあったのですが、この船は何度も事故を起こして強度が下がっていたそうです。そこで、オリンピック号をタイタニック号に偽装した上で、タイタニック号として沈没させてれば保険金を詐取できる、と当時の船の持ち主が考えたのではないか、というのが著者の見立てです。

本書は、もちろん、この陰謀論めいた「疑惑」についても検証していますが、沈没事故当時の状況も克明に記されていて、ノンフィクションとしても十分鑑賞に堪えると思います。

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2012.01.19

▽『日中映画論』

四方田犬彦x倪震『日中映画論』(作品社)

日中の映画評論家二人(四方田犬彦と倪震)が、日中の映画監督についてクロストークする。いろいろな考察が交錯していてわかりにくいですが、まあ面白いっちゃあ面白い。

[目次]
わたしはいかにして映画マニアとなり、次に映画研究者となったか。(四方田)
映画研究がわが人生の転機となった(倪)

●大島渚論
 性と政治の融合と分離(倪)
 日の丸とペニス(四方田)

●謝飛論 
 生めよ増やせよ(四方田)
 ソフトな東方的情緒の展示(倪)

●北野武論
 天使と悪魔の子(倪)
 道化とその後(四方田)

●張芸謀論
 父殺しに至るまで(四方田)
 仮面の裏側(倪)

●塚本晋也論
 異生物とサイコホラー(倪)
 恐怖という情熱(四方田)

●賈樟柯論
 雑音とアイロニー(四方田)
 田舎町への永遠の思い(倪)

映画批評をめぐる対談(四方田×倪)
倪震から四方田への三つの質問
四方田から倪震への三つの質問
人名・作品名索引
あとがき(四方田)

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2012.01.18

▽『黒船前夜』――ロシア・アイヌ・日本の三国志

渡辺京二『黒船前夜 ロシア・アイヌ・日本の三国志』(洋泉社)

幕末期の北海道(蝦夷地)を、南進するロシアと北上する江戸幕府、そして、先住民族としてのアイヌによる三国志ととらえたユニークな歴史書で、なかなか面白い。

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2012.01.17

▽『日本橋異聞』

荒俣宏『日本橋異聞』(光文社知恵の森文庫)

日本橋界隈にまつわるトリビアを荒俣宏がまとめたのが本書。へぇ~、へぇ~、と楽しく読むことができます。

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2012.01.16

▽『カプセル』――新潟少女監禁事件

松田美智子『カプセル―新潟少女監禁事件 密室の3364日』(主婦と生活社)

《本部長は九年二か月も監禁されていた女性が発見されるという重大事件発生にも関わらず、関東管区警察局長との接待マージャンを優先させ、その日はホテルに宿泊したのだ。》(p.49)

2000年1月に新潟で発覚した少女監禁事件。事件そのものもショッキングだったのですが、その日の夜に、新潟県警の本部長が、お偉いさんと接待マージャンをしていた、という、まるで『躍る大捜査線』のコメディ・シーンのような展開も記憶に残っています。

そういえば、まだ日本人の拉致を認めていなかった北朝鮮が、「失踪した少女は、日本にいたじゃないか」と嘲笑していたことも思い出します。

本書は、新潟少女監禁事件の事件発生から発覚、第一審の判決までをまとめたものです(2003年最高裁で懲役14年が確定)。読み返してみると、事件が起きたのは、新潟県柏崎市で、2007年に火災事故を起こした柏崎刈羽原発のあったところ。

本書の焦点は、事件を起こした犯人の身勝手な心理にせまるところにあるのでしょうが、日本の地方都市が抱える問題が、事件の発生を後押した部分もあるのかな、と思ったりもしました。

[参考]▽柏崎刈羽「震度7」の警告
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/04/7-ac7d.html

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2012.01.13

▽『「朝日」ともあろうものが。』をあらためて読んでみた

だ~いぶ前に読んだ『「朝日」ともあろうものが。』(烏賀陽弘道)をあらためて読みふけってしまいました(本書は2005年10月刊行)。

著者は、朝日新聞の記者だったのですが、2003年に退職。その時に書いた記事( http://ugaya.com/column/taisha_index.html )はネットでも大きな話題になりました。

その後、フリーになった著者は、オリコンによるSLAPP訴訟に巻き込まれたりします。

[参考]▽『俺たち訴えられました!---SLAPP裁判との闘い』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/03/---slapp-a9c7.html

また、本書では、著者がリクルート事件の取材に関わった話も出てくるのですが、その時の著者は、『ドキュメント リクルート報道』でも伺い知ることができます。

[参考]▽リクルート報道の再検証
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/11/post-e240.html

さて、本書が書かれた2003年~2005年頃というと、マスコミにも不況の波が押し寄せてきた時期。それでも、新聞社の無駄遣いの代名詞とも言えるタクシー・ハイヤー代については、

《ぼくが退社する前後に聞いた話では、朝日新聞社全体のハイヤー・タクシー代一日千二百万円だそうである。一ヵ月ではない。一日、である。》(p.189)

これ以降もずっと新聞社の売上は下がっていて、朝日新聞社ですら希望退職が行われるようになっているので、こうした無駄遣いは、ずっと切り詰められているのだろうと思います。
[参考]▽テレビ局衰退の記録――『だからテレビに嫌われる』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/11/post-9f9e.html

さて、本書では、メディアの「アジェンダ・セッティング」( agenda setting )について述べた部分があります。

《「今、何が問題なのか」「何を議論すべきなのか」「何を知るべきなのか」というテーマ(アジェンダ)を見つけて社会に提示すること。ハルバースタムは、それこそがジャーナリストの重要な使命のひとつだと言った。》(p.116)

そう。その通り。

ハルバースタムの言う通りだとは思います。

しかし、このアジェンダ・セッティングの機能ですら、はてなブックマーク、twitterのリツィート、facebookのいいね! などのいわゆるソーシャル・ネットワーク・サービスにとってかわられつつあるのではないか、という気もします。

そこを従来のジャーナリストはどう乗り越えるか? というアジェンダがセッティングされるべきなのかもしれませんね(笑)。

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2012.01.11

▽誉田哲也『感染遊戯』――元官僚連続殺人事件

誉田哲也『感染遊戯』(光文社)

警察を舞台にしたミステリー小説『ストロベリーナイト』などの姫川玲子シリーズのスピンオフ的な作品。雑誌に連載された4つの短編による連作もので、テーマは元官僚を対象にした連続殺人事件。

《「……えれぇ時代がくるぜ、姫川。国民の、お上に対する逆襲だ。下手したら、魔女狩りみてぇになっちまうかもしれねえな……官僚だってだけで、下手すりゃ省庁に勤めてるって分かっただけで、即刻吊るされる……そういう時代が、もうすぐそこまで、きてるのかもしれねえぞ」 》(p.48)

第一話の「感染遊戯/インフェクションゲーム」を読み終えたところで、そう言えば厚労省の元官僚が連続して殺害される事件があったなあ、と思い調べてみました。

現実に事件が起きたのが2008年11月。第一話が掲載された『小説宝石』は、2008年7月号……。第二~四話は、2010年に発表されて、単行本にまとめられて発売されたのが東日本大震災によって引き起こされた福島第一原発事故のさなかの2011年3月25日……。

本当に「えれぇ時代がくる」のかもしれません……。

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2012.01.10

▽『私たちは、原発を止めるには日本を変えなければならないと思っています。』

SIGHT編『私たちは、原発を止めるには日本を変えなければならないと思っています。』(ロッキングオン)

本書は、ロッキング・オンの増刊号である『SIGHT』誌に掲載された原発問題に関するインタビューや対談の拡大採録版である。

登場する14人は、経産省出身の江田憲司と古賀茂明、原子力学者の小出裕章、原発メーカー出身の飯田哲也と田中三彦、原発訴訟の原告側弁護人の和田光弘などなど、3・11以前から、いわゆる「原子力ムラ」と接してきた人達である。そして、彼らの語るムラの実態は、きわめて興味深いものである。

[目次]
坂本龍一
原発問題を抱える今の日本を、世界はどう見ているのか

江田憲司
電力をめぐる「政官業のコングロマリット」を壊すには

保坂展人
スリーマイルからフクシマまで、原発推進行政と戦い続けた30年

古賀茂明
電力会社と政治家・官僚は、どのように手を組んできたのか

小出裕章
この国のアカデミズムと原発はどう結びついているのか

飯田哲也
原発推進政策の中、自然エネルギーはいかに排斥されてきたのか

田中三彦
企業、行政、メディアと戦ってきた「元原子炉圧力容器設計者」の証言

和田光弘
原発訴訟は必ず電力会社が勝つ、その仕組み

上杉隆
3・11以降の「今ここにある、そして加速度的に悪化していく危機」について

丸山重威
日本のメディアによる原発報道の歩みとは

開沼博
明治以降の近代化から追う「フクシマと原発、行政と原発」

藤原帰一
3・11以降、「日本の原発絵図」と「世界の原発絵図」はどう変わりつつあるのか

内田樹x高橋源一郎
ウチダ&タカハシ、福島第一原発事故後の日本が歩む道を考える

内田樹x高橋源一郎
ウチダ&タカハシ、「もう元には戻らない日本」での生き方を考える

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2012.01.09

▽『ザ・ラストバンカー』――時代に翻弄された銀行マン

西川善文『ザ・ラストバンカー 西川善文回顧録』(講談社)

《今まで私を含めて誰も住友銀行関係者は語ってこなかったことがある。この機会にあえて申し上げよう。イトマン事件は磯田さんが長女の園子さんをことのほか可愛がったために泥沼化したのだと私は思う。》(p.120)

本書は、住友銀行(現・三井住友銀行)の頭取、日本郵政の初代社長をつとめた西川善文による回顧録。

著者は、普通の銀行マンとは異なって、営業畑の経験はほとんどなく、安宅産業、イトマン、住専と、もっぱら不良債権の処理に携わってきた。30年以上も不良債権処理にかかわったことから、「不良債権と寝た男」とさえ呼ばれた。

特にイトマン事件については、当時の住友銀行頭取の磯田一郎の責任を厳しく批判している。イトマンが絡んだ不明朗な絵画取引には、磯田の長女が勤務する会社が一枚噛んでおり、このことが磯田の判断を誤らせたのではないか、と指摘している。

また、イトマン事件を引き起こす遠因となった平和相互銀行の買収も、磯田が意図した効果はあまり得られなかったという。

本書には、暴露本的な内容はあまりないが、それでも住友銀行を内側から率直に描いており、住友銀行を通史的に把握する上では役に立つ。

[参考]▽『イトマン・住銀事件』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/1994/11/post-84c4.html

[目次]
第一章 バンカー西川の誕生
第二章 宿命の安宅産業
第三章 磯田一郎の時代
第四章 不良債権と寝た男
第五章 トップダウンとスピード感
第六章 日本郵政社長の苦闘
第七章 裏切りの郵政民営化

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2012.01.07

▽『捏造と盗作』――米ジャーナリズムに何を学ぶか

高浜賛『捏造と盗作―米ジャーナリズムに何を学ぶか』(潮ライブラリー)

アメリカでは、ジャーナリストに求められる規律は、とても厳しいものがある。しかし、それでも多くのメディアで、捏造や盗作が明るみになる。

それは個人的な資質によるものか、あるいは、組織の問題か、それとも産業としてのジャーナリズムが衰退に向かいつつあることの現れなのか?

この問いには容易に答えは出すことはできませんが、アメリカのジャーナリズムが、この問題にどのように取り組んできたのかについては、本書はくわかりやすくまとめています。

また本書に登場する捏造や盗作は下記エントリーにまとめてありますので、ご覧下さい。

[参考]
米ジャーナリズムにおける盗作・捏造事件簿――『捏造と盗作』より
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/blog/2012/01/post-8e91.html

[目次]
第1章 『ニューヨーク・タイムズ』とブレア捏造事件
 捏造事件の経緯
 握りつぶされていた捏造疑惑
 黒人逆差別待遇は受けなかったのかとの疑惑
 ジェイソン・ブレアの素性と生い立ち
 退社後に出した回想録
 新設された「パブリック・エディター」

第2章 もう一つの盗作疑惑事件
 助手のメモを丸写ししたピュリッツァー賞受賞記者
 リック・ブラッグは南部の英雄的存在
 フリーランサーの取材協力をどう扱うべきか

第3章 「ジミーの世界」虚報事件
 『ワシントン・ポスト』を失墜させた美貌の黒人記者
 事件はどうして起こったのか
 その後、彼女はどうしたのか
 黒人ジャーナリストであるということ
 相次ぐ捏造事件で『ワシントン・ポスト』も新たなガイドライン設定

第4章 『USAトゥディ』盗作容疑事件
 特ダネを送りつづけた海外特派員
 『USAトゥディ』、ついに屈辱の謝罪特集
 後を絶たない捏造・盗作記者
 捏造・盗作記者は今も昔も

第5章 アメリカ・メディアNOW
 インターネット・ゴシップ屋「ドゥルージ・リポート」
 「ケリー候補不倫疑惑報道」の顛末
 対立する保守メディアとリベラル・メディア
 消滅したメディア監視雑誌
 『ロサンゼルス・タイムズ』の知事選報道の是非
 映画になった『ニュー・リパブリック』の捏造記者

第6章 戦時下の米メディア
 『ニューヨーク・タイムズ』の大量破壊兵器報道
 「戦時下のメディア」シンポジウム

資料編
 『ワシントン・ポスト』調査報告書抄訳
 参考・引用文献

あとがき―米ジャーナリズムから何を学ぶか

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▽『原発社会からの離脱』

宮台真司x飯田哲也『原発社会からの離脱――自然エネルギーと共同体自治に向けて』(講談社現代新書)

社会学者の宮台真司と自然エネルギー政策研究の第一人者である飯田哲也の対談本。

もともと飯田は原子核工学を専攻し、神戸製鋼で放射性廃棄物処理の研究に携わった。福島第一原発内で使われていた中性子遮蔽材は飯田の開発したものだという。

そして、飯田は神戸製鋼から電力中央研究所に出向するが、

《そこでじっと議論を聞いていると御用学者の名誉教授たちがまるで勉強していないことに気づきました。IAEA(国際原子力機関)のルールを日本に取り入れるという仕事だったのですが、みんな好き勝手なことを言ってるだけで、そもそも誰も原典を読んでいない。》(p.69)

こうした体験を通じて、日本の原子力ムラのありように疑問を抱いた飯田は、自然エネルギーの研究に舵を切る。

両者の主張に賛同しない方でも、日本の電力行政の歴史と、その社会的な背景を理解するには役に立つだろう。

[目次]
1章──それでも日本人は原発を選んだ
2章──変わらない社会、変わる現実
3章──80年代のニッポン「原子力ムラ」探訪
4章──欧州の自然エネルギー事情
5章──2000年と2004年と政権交代後に何が起こったか
6章──自然エネルギーと「共同体自治」
7章──すでにはじまっている「実践」

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2012.01.06

▽シネマセラピー上映中

高橋祥友『「死にたい」気持ちをほぐしてくれるシネマセラピー上映中―精神科医がおススメ 自殺予防のための10本の映画』(晶文社)

なんかすごいタイトルの本ですが、精神科医である著者が、自殺に至る要因を分析した上で、自殺を描いた十本の映画を紹介するという趣向。

「普通の人々」――家族内に起こった問題がさざ波のようにほかの家族にも影響していく
「素晴らしき哉、人生」――どうでもよいと思えるような人生でも、視点を変えればさまざまな達成が
「セント・オブ・ウーマン:夢の香り」――生きる意味をもう一度見直す
「道」――私は何のために生きているのだろうか
「リービング・ラスベガス」――すべてを失ったかに思えた人生で、唯一救いの手を差し延べてくれたのは
「失われた週末」――酒だけが今の苦しみを和らげてくれる
「17歳のカルテ」――私が生きている意味は何なのか:思春期の葛藤
「桜桃の味」――私の最期を見届けてほしい
「いまを生きる」――家族の期待に圧倒される
「シルヴィア」――あり余る才能に潰される

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2012.01.05

▽『逝きし世の面影』――外国人が見た幕末のニッポン

渡辺京二『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリー)

《古き日本を実見した欧米人の数ある驚きのなかで、最大のそれは、日本人民衆が生活にすっかり満足しているという事実の発見だった。》(p.262)

日本近代の研究を専門とする歴史家である渡辺京二が、幕末の日本を訪れた外国人の目に、日本文化や日本人がどのように写ったのか、に関する記録をまとめたもの。

それぞれの記録については、探せば手に入れることはできたであろうが、膨大な記録を、このようなかたちで一冊にまとめた点において労作であることは間違いない。

[目次]
第一章 ある文明の幻影
第二章 陽気な人びと
第三章 簡素とゆたかさ
第四章 親和と礼節
第五章 雑多と充溢
第六章 労働と身体
第七章 自由と身分
第八章 裸体と性
第九章 女の位相
第十章 子どもの楽園
第十一章 風景とコスモス
第十二章 生類とコスモス
第十三章 信仰と祭
第十四章 心の垣根
あとがき

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▽『私は薬に殺される』

福田実『私は薬に殺される』(幻冬舎)

バリバリのビジネスマンとして働いていた著者は、1996年末、高脂血症と診断され、医者の薦めで「ベザトール」と「メバロチン」という二つの高脂血症治療薬を服用するようになった。

しかし、これが「横紋筋融解症」という副作用をもたらし、体全体の筋力が落ちるという症状が現れるようになった。

著者は病院で検査を繰り返すが、どこにいっても「異常なし」の診断で、むしろ「心因性ではないか」と疑われる。

いくつかの病院を転々とした後、やはり「横紋筋融解症である」と診断した医者の協力を得て、病院や製薬会社や国を薬害として訴える……というところで、2003年に発売された本書は終わっている。

専門知識の無いものが読むと、著者が正しいのか、医者が正しいのかが判然としない。現在も裁判は進行中であるが、著者のサイト( http://www.geocities.jp/fukuda_minoru_1963/index.html )によると病院とは和解、国との裁判は、一審、控訴審とも勝訴、製薬会社との訴訟は全面敗訴という。

ただ、著者のいうように、高脂血症のような生活習慣病は、薬にたよらず、生活の改善や運動でなおした方がよいのだろう。

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2012.01.04

▽外務省に告ぐ

佐藤優『外務省に告ぐ』(新潮社)

元外交官でいまは文筆家として活躍する佐藤優が、『新潮45』に連載したコラムをまとめたもの。

収録されたコラムの初出は、同誌の2008年11月号から2011年5月号までで、これを時系列ではなくテーマ別に並べているために、起きた事件が時間的に前後して取り上げられたりしていて、ちょっとわかりにくい。

というか、まあ、この間に起きた事件というと、政権交代、小沢一郎の政治とカネの問題、特捜検事のフロッピー改竄問題、大震災と原発事故などなど、ホントに、いろんな事件が起きたなあとしみじみ思います(笑)。

▽元外交官による人間観察の集大成
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/01/post-62e4.html
▽佐藤優のお薦め『大統領のカウントダウン』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/08/post-2198.html
▽『小沢革命政権で日本を救え』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/09/post-dad9.html

[目次]
まえがき “surprisingly”

第1章 外交敗戦――北方領土はなぜ失われたのか?
 ロシアにもなめられ、北方領土を失う日
 モスクワ空港爆弾テロが及ぼす北方領土交渉への影響
 ロシアが私を攻めてきた!
 池田大作・ゴルバチョフ会談の謎解き
 ウィキリークスが日本に仕掛けたインテリジェンス戦争

第2章 民主党はなぜ官僚に敗れたのか?
 政権交代で生き残りに蠢く外務官僚たち
 小鳩政権崩壊の真実
 なぜ日本はかくも弱くなったのか

第3章 「外務省」という病
 童貞外交官の罪と罰
 外交特権を濫用した蓄財の天才たち
 自殺者、幽霊、伏魔殿
 セクハラ、パワハラ
 空飛ぶ密輸便
 外務官僚の語学力

第4章 「国家の罠」その後
 ムネオ詣でを始めた外務官僚たち
 小沢一郎秘書逮捕と政権交代の恐怖
 あえて特捜検察を擁護する
 特別対談 元特捜部長VS.佐藤優
 特別対談 鈴木宗男VS.佐藤優

第5章 「機密費」をめぐる最終戦争
 機密費
 特別対談 元警視庁捜査2課刑事・萩生田勝VS.佐藤優
 宗男VS.平野官房長官、機密費をめぐる最終戦争

第6章 沖縄への想い
 実は決断の専門家、鳩山研究論文で読み解く総理の実像
 密約問題の全舞台裏
 亡き母にとっての沖縄と日本

あとがき 顕在化した中国の脅威に立ち向かえる「外交力」を再生せよ

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2012.01.03

▽『マンハッタンのKUROSAWA』

平野共余子『マンハッタンのKUROSAWA―英語の字幕版はありますか?』(清流出版)

本書の著者は、1986年から2004年まで、ニューヨークのマンハッタンにある「ジャパン・ソサエティ」という日本文化を紹介するための団体で、日本映画の上映会を行ってきました。上映された英語字幕付きの日本映画は827本にのぼる。本書は、その苦労話を綴ったものです。

タイトルに「KUROSAWA」とあるのですが、黒澤明だけでなく数多くの映画について書かれているので、このタイトルはミスリードというか、内容に誤解を与えているのかもしれません。

あと、それぞれの映画に対する観客の反応について、もっと紹介しかったですね。

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2012.01.02

▽『日本の医療』――バラ色の高齢化社会は崩壊するか……

保阪正康『日本の医療―バラ色の高齢化社会は崩壊するか…』(講談社文庫)

《日本の経済成長が確保されている限りにおいて、福祉、医療は拡充されている。だが、ひとたび恐慌が襲ってきたり、日本の経済成長が停滞期にはいったら、この拡充策は頓挫しかねない。福祉や医療の予算は削減され、受益者負担を導入せざるをえなくなるだろう。……そのとき、国民はいちどにぎった権益を手ばなすことに納得するだろうか。受益者負担など容易に受けいれることはないのではないか。》(p.7)

前から気になっていた本書『日本の医療―バラ色の高齢化社会は崩壊するか…』を読み始めたところ、この文章が目に飛び込んできました。

なんと、これが書かれたのが昭和六十年代の前半のこと。いま問題となっている福祉や医療の財源問題とは、あらかじめ予言されていた問題であったことがわかります。

これと同じような衝撃をうけた本と言えば、堺屋太一の『団塊の世代』くらいのものでしょうか。

[参考]
▽『団塊の世代』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/1994/07/post-26c5.html
▽『財政危機と社会保障』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2010/10/post-048d.html
▽『逸脱する医療ビジネス』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2011/01/post-9b58.html
▽『ネットで暴走する医師たち』
http://thelightoflondon.txt-nifty.com/book/2009/05/post-b843.html

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