2015.04.06

▽『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』

柴那典『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)

本書は、「初音ミク」を音楽史の中に位置づけようとする試みである。

本書によると、音楽の歴史には、「サマー・オブ・ラブ」と呼ばれる時期が存在するという。

一度目は1967年の米西海岸、二度目は1980年代後半のイギリス。そして、初音ミクの登場した2007年は、三度目の「サマー・オブ・ラブ」という……。

ま、そんなことはさておき(笑)、本書を読むと、初音ミクを中心とした現象の流れを追うことができます。しかし、本書では、「初音ミク」にのみ焦点をあわせているために、初音ミク以外のボーカロイドについてはフォローされていません……。

初音ミクについては2007年の登場以来、ずっと関心を持ってきましたので、本書に書かれていることもだいたいは思い出すことができます。

にもかかわらず、ある時点から、初音ミクに関する記憶が抜け落ちてしまっていることに気がつきます。それはどの時点だろうか、と考えながら読み進めると、やはり2011年3月11日に発生した東日本大震災と福島原発事故以来だと言うことがわかります。

初音ミクのクロニクルにおいて、2011年はどんな年だったか?

2011年9月にニコニコ動画に投稿された二つの曲「千本桜」と「カゲロウ・デイズ」が、その後にメディア・ミックス的なムーブメントへと拡大していきます。このあたりで、ちょっとついていけなくなった感はあります。

初音ミクの生みの親とも言えるクリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之社長に、本書の著者がなげかけた言葉――。

《――今回の単行本の取材では、いろんな関係者の方にお話を伺ってきましたが、皆さん、声をそろえて「奇跡的なタイミングだった」「運命的なタイミングだった」と仰っていました。当時は気づかなくても、後から振り返れば本当にそうだった、と。》(p.261)

ほんこれ(笑)。

[目次]
序章 僕らはサード・サマー・オブ・ラブの時代を生きていた
・新しい「幕開け」がそこにあった
・「誰が音楽を殺したのか?」の犯人探しが行われていた二〇〇七年
・新しい「遊び場」が生まれた年
・二十年おきに訪れる「サマー・オブ・ラブ」

第一章 初音ミクが生まれるまで
・二〇年前からずっと繋がっている
・それは三行広告から始まった
・MIDIとDTM文化の登場
・初音ミクに受け継がれた名機「DX7」
・ベッドルーム・ミュージシャンたちの静かな楽園

第二章 ヒッピーたちの見果てぬ夢
・六〇年代に生まれた音楽家の「遊び場」
・「帰って来たヨッパライ」が日本のロックを変えた
・「サマー・オブ・ラブ」とは何だったのか
・ヒッピーカルチャーとコンピュータ文化を繋いだ男
・セカンド・サマー・オブ・ラブとレイヴの時代

第三章 デイジー・ベルからボーカロイドへ
・歌声だけが取り残されていた
・最初に歌った言葉「あさ」
・『二〇〇一年宇宙の旅』、死にゆくコンピュータの歌
・モーグ博士と「パプペポ親父」

第四章 初音ミク誕生前夜
・無風だった最初のボーカロイド
・声優・藤田咲を起用した理由
・アンダーグラウンドシーンから開発者の道へ
・初音ミク誕生の裏側にあった、竹村延和の一言
・「同人音楽」という土壌
・ニコニコ動画とMAD文化

第五章 「現象」は何故生まれたか
・二〇〇七年の「運命的なタイミング」
・仕掛け人は誰もいなかった
・「このビッグバンが、次の時代へのリファレンスになる」

第六章 電子の歌姫に「自我」が芽生えたとき
・キャラクターからクリエイターへ
・「メルト」が変えた風景
・ルーツにあった「強度」
・「歌ってみた」とエレックレコード

第七章 拡大する「遊び」が音楽産業を変えた
・ヒットチャートを侵食する新たな波
・カラオケと著作権の新しい関係
・三次元に舞い降りた歌姫

第八章 インターネットアンセムの誕生
・「世の中が動くかもしれない」
・初音ミクがウェブの「日本代表」に
・「ヘイル・トゥ・インターネット」
・二〇一二年の「ホテル・カリフォルニア」

第九章 浮世絵化するJポップとボーカロイド
・「千本桜」は何故ヒットしたのか
・「カゲロウプロジェクト」が受け継いだ一〇代の魂
・Jポップの「物語音楽」化
・「高密度ポップ」の誕生
・ボーカロイド「高速化」の理由

第一〇章 初音ミクと「死」の境界線
・揺らぐ「いる」と「いない」の感覚
・創造をもって死を乗り越える、ということ
・パリ・シャトレ座に響いた「終わり」のアリア

終章 未来へのリファレンス
・最初は消えそうなくらい小さな炎だった
・初音ミクと「情報革命」
・消耗品になってほしくなかった
・ブームは去っても、カルチャーは死なない
・新しい音楽文化の可能性
・音楽の未来、クリエイティブの未来


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